【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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049 実はバニルで大当たり!!

 俺の性癖がみんなに知れ渡ってからはや3日。

 

 俺とカズマはアクアに付き合わされていた(商品開発の息抜きも兼ねている)。バニルの監視である。俺個人としてはアクアが何かやらかさないか心配で監視しているという側面もある。カズマも同じだろう。

 

「見なさいな。あの悪魔、女の人をナンパしてるわよ!! 」

 

 アクアはそんなことを言っているが、相手の方が好意的に話しかけているだけだし第一おばさんだ。それを見てカズマが「ナンパは悪事のうちに入らない」と一言。

 

「なぁいい加減止めないか? あの悪魔は別に何の悪さもせず普通に街に溶け込んでるよ」

 

「バカね神殺し。相手は悪魔よ!! 見知らぬ人にあの手この手で近づいて適当なこと吹き込んで洗脳するのが奴らの手口なのよ」

 

 壁に張り付きバニルを真剣な顔で監視するアクアが言った。

 

「それお前の信者の手口じゃないのか? 」

 

 カズマが悪名高いアクシズ教徒のことを言うと、アクアは。

 

「私の信者たちがそんなわけないじゃない!! 」

 

 とてもいやそうに抗議した。

 

「実際のところどうなんだアクシズ教徒って? 」

 

 俺が気になってアクアに尋ねるとアクアはうれしそうに熱弁を始めた。

 

「うちの信者の子たちはね!! それはそれは―――」

 

 長々と語るアクアだったがろくなことをしていないことが分かった。ゆんゆんが言っていた通りのフリーダムすぎる連中のようだ。

 

「もういいぞアクア。俺エリス教徒になるから」

 

「なんでよぉぉ!! うちの所の子たちのいいところをたくさん教えてあげたじゃない!! アクシズ教に入信なさいよ!! 」

 

「俺、エリス様に3度もお世話になってるからそうはいかない」

 

「あ、おい、バニルが移動したぞ……!! 」

 

 カズマが、アクアが熱くアクシズ教徒その信者たちについて語っていた間におばさんたちと井戸端会議を始めていたバニルが移動を始めたことを報告する。

 

「い、行くわよ、カズマ、神殺し!! 」

 

 俺たちはバニルの後をつけたのだが、バニルが次に始めたのは路上販売だった。あのバニルの人形を一回り小さくした人形でそれには幽霊を寄せ付けない効果があるとかないとか。

 

 それを買う女性が一人現れた。なんでもゴースト化した姑が毎晩枕もとでばたばた暴れているらしい。ちなみにアクア曰く生前いびりすぎたことを反省した姑が嫁に謝りるために創作ダンスを踊っているらしいのだ。俺とカズマはどう考えても嫁いびりを継続してるだけだろと判断した。

 

 それからアクアが対抗してアクア人形を作り出して売ろうかと思索を始めた中、再びバニルが動き出した。どうやらあの人形が完売したようだ。

 

「あとをつけるわよって……ひうっ!! 」

 

「うおっ!? 」

 

「く、首が……回った? 」

 

 アクアとカズマと俺は驚愕させられる。

 

 バニルが突然立ち止まると、首をぐるんと180度回転させるとこちらをまっすぐ見つめてきたからだ。

 

「怖えよ!! あとをつけてたのは悪かったからもうちょっと穏便に声かけろよ!! 」

 

「そうよ、通りすがりの子供が今の見て泣いちゃってるじゃない!! あんた謝りなさいよ!! あと一応私にもね。別にびっくりしてないけど!! 」

 

 バニルに謝罪しつつ文句を言うカズマと、強がるアクア。

 

 俺はというと。

 

「どんな構造になってんだよお前の身体」

 

 ビビると同時に感心させられた。

 

「我輩の身体は土から作られているのでこのようなことは造作もないのである。それよりストーキングするとは何用であるか? 悪名高い水の女神と同じ名のプリーストに臆病な小僧に神殺しの青年よ」

 

 なるほど土でできてんのか。

 

「実はなバニル。アクアがお前が絶対悪行をするって言って聞かないんだよ。それでアクアが何かやらかさないか俺は監視してるところだ」

 

「ちょっとどういうことよ神殺し!? 」

 

「ストレートにばらすなよ!! なにされるか分かんないだろ!? 」

 

「我々悪魔が悪事を働くなとは存在の根幹を揺るがす問題ではあるが……。心配せずともこの街ではやることがあるので何もせんわ。というか神殺しの青年が知っての通り我がバイト先が差し押さえのピンチなのである。先日青年から100万エリス受け取ったがそれでも赤字の方がひどくて、こうして外でバイトせねばならぬのだ」

 

「ちょっ!? 初耳なんですけど!! 何やってるのよ神殺し!! このクソ悪魔とリッチーなんて干上がらせとけばいいじゃない!! 」

 

「仕方ないだろ。でもおかげで錬金術についてよくわかって商品開発が格段にうまく行ってるんだから。なぁカズマ」

 

「ああそうなんだよアクア」

 

「むぅー!! まぁいいわ。やましいことが無いというならこの私が付いて行っても問題ないわよね」

 

「貴様がついてくる時点で嫌な予感しかしないのだが。まぁいい、好きにするがいい。我輩の邪魔をしないというのであればな」

 

 吐き捨てるようにバニルが言った。そして俺たちから遠ざかっていく。

 

「もう俺帰るぞカズマ。アクアの見張りは任せた」

 

 なんだか悪さを特にするはずもなさそうなバニルについていくのも時間がもったいないので帰ろうと思う。アクアの監視はカズマに押し付ける。

 

「えー。あの悪魔をキレさせてアクアと喧嘩になったら手が付けられないだろう。お前がいてくれないと」

 

「その時は放っておけばいい。どちらかが滅ぶまで争えばいいさ」

 

 まぁどうせそんなことにはならないだろう。バニルがここでは悪事を働かないと言っていたのだから。アクアにも大きな危害は加えないだろう。

 

「お前なー……」

 

「じゃあ俺は帰るぞ」

 

 こうして俺は帰路に就いた。ついでにエリス教のペンダントを買って。

 

 その後夕方になってカズマとアクアも帰ってきた。労働に目覚めたアクアがバニルと一緒にバイトをしたらしくバイト料の代わりにジャガイモ男爵をもらってきた。

 

 

 

 

 

「じゃがバターの完成楽しみね!! 」

 

「そうですね。じゃがバター」

 

「早く食べたいです」

 

 翌朝。アクアとゆんゆんとめぐみんが仲良くソファに並んで座り、暖炉の灰の中に突っ込んだじゃがいも男爵が焼けるのを待っている。俺とカズマはそれらの漂ってくるいい匂いから完成が間近なのを悟りバターとしょうゆを取りに行く。

 

「そろそろね。取り出すわよ!! 」

 

 アクアがジャガイモを灰の中からほじくりだし嬉々とする。

 

 俺とカズマはバターとしょうゆを持ってきた後。

 

「なぁアクア。今日も監視に行くのかい? 」

 

 俺はバニルにとっては迷惑極まりない行為を続けるのか質問する。

 

「実は迷ってるのよ。なかなか尻尾を出さないし。それにね。このまま私が退治してしまうと私が悪者みたいになりそうで嫌なのよね。あいつ妙に街に溶け込んでるから」

 

「やめとけやめとけ。どうせあいつは迷惑だけど害はない存在だろうからさ」

 

 カズマも意見する。

 

「バニルさんのことですか? 」

 

「うん」

 

 ゆんゆんがバニルをさん付けで呼んだことに少し驚かされつつも俺は返事をした。丁寧な子だな本当に。

 

「あれは確かにカズマの言うように迷惑なだけかもしれませんが、その迷惑が私たちにとってはなかなか堪える物ばかりですよ……」

 

「言うなめぐみん」

 

 カズマが暗い顔で呟く。

 

「おはようみんな」

 

 ダクネスが階段から降りてきた。

 

「ダクネスさんおはようございます」

 

「おおダクネス遅かったな」

 

「珍しい」

 

 ゆんゆん、カズマ、俺がダクネスのあいさつに反応する。

 

「うむ。実はギルドにとある怪事件の捜査を頼まれてな。それで夜遅くまで寝くれなかったんだ」

 

「じゃがバターいる? 」

 

 アクアがダクネスにじゃがバターを勧める。

 

「うむ。いただこう」

 

「怪事件とは何ですか? 」

 

 めぐみんが不思議そうに質問する。

 

 ダクネスによると、ここ最近宿屋に泊まっている冒険者が悪夢に苛まれるらしい。宿屋の店主が何事かと思って見に行くと、冒険者はみな口をそろえて悪夢を見たんだと言うそうだがその件数があまりにも多いため調査依頼が来たらしい。ただダクネスは結局悪夢を見ることは無かったそうだ。めぐみんがそれを聞いて黒馬の姿をした下級悪魔モンスターであるナイトメアの仕業ではないかという意見を出した。

 

 そしてアクアが。

 

「これよ!! これは私への御褒美だわ!! 」

 

「いきなり何を言ってるんだアクア様」

 

 俺はわけがわからずアクアに問いかける。

 

「人の不幸で飯がうまいってか? 罰当たるぞアクア」

 

「バカねカズマ!! この私に罰を当てることなんかできないわよ。私が言いたいのはあのへんてこ悪魔が人形を売ってたでしょ? それをパクッてアクシズ教のお守りを売りさばいてやろうってことよ!! 私が気合を入れて作ったお守りなら下級悪魔なんて全く近づけなくなるから、うまく行けばお金がもうかって、アクシズ教団の評判も良くなって、悪夢を見る人もいなくなる。みんなが幸せになれる素晴らしい方法でしょう? 」

 

「アクア、ジャガイモ男爵なんて変な名前のジャガイモだもんな。そんなもん食べたならそりゃ、そんないい意見が浮かんできちまうよな……」

 

「カズマ。アンタ本当に罰当てるわよ。私だってたまにはいいこと思いつくんだから!! 」

 

「たまにっていう自覚はあったんだな」

 

 言ってやるなよカズマ。

 

 それはともかく金儲けの話なら積極的にやるべきだ。

 

「なら俺も協力しようアクア」

 

「ありがとう神殺し。あんたの錬金術があればすぐに量産できるわ!! 」

 

「私も手伝いますよ」

 

「リョウタさんとめぐみんがやるなら私も」

 

「同じくだ。アクアのプリーストとしての力だけは信用しているからな」

 

「……仕方ねぇな。金儲けだと思ってやるか」

 

 俺たちは一致団結。アクシズ教のお守りの製造を開始した。

 

 

 

 ギルドに頼み込んで、迷惑がられながらも許可をもらいその一角で販売を開始したお守りだったが、一向に売れないでいた。

 

「やっぱりアクシズ教っていうブランドがいけないんでしょうか」

 

 ゆんゆんが辛辣な一言を放つ。それを聞いてアクアがゆんゆんに「私の宗教を嫌わないで」と縋りついた。

 

「しかし妙だな。悪夢にうなされるのは男性冒険者ばかりだと聞いているのだがなぜ彼らは頑なにお守りを買おうとしないんだ……」

 

「彼らも冒険者でそのうえ男。プライドの関係上買い辛いのかもしれませんねこういうものを」

 

 ダクネスの疑問にめぐみんが答える。

 

 男の冒険者ばかりが被害にあっていて、その被害者は頑なにお守りを買おうとしない……あれ? 

 

「なぁカズマ」

 

 俺は小声でカズマに耳打ちし始める。

 

「なんだリョウタ。お前も気づいたのかこのお守りが売れない理由に」

 

「うん。サキュバスが関係してるよな」

 

「ああ、間違いない」

 

「サキュバス? 」

 

 俺たちの会話が女神ゆえの高スペックな聴覚で聞き取っていたのだろう。アクアがサキュバスのワードを口にする。

 

 やばい。と一瞬思ったが、アクアは俺とカズマが困るような解釈はせずに。

 

「ああ、二人ともサキュバスに襲われかけたトラウマがあるのね。でも安心してこのお守りがあればサキュバスなんて寄ってこれないわ。タダで二人には上げるわよ? 」

 

「「いらない」」

 

 俺とカズマは即答する。

 

「どうしてよ? 素直に受け取っておき」「「いらない」」

 

 まだ俺たちはサキュバスサービスすら堪能していないのにそのサキュバスたちに嫌われかねないお守りなんて論外だ。

 

「よぉカズマ、リョウタ。何やってんだ? 」

 

 突如としてダストとキースに声をかけられる。

 

「お守り売ってるんだけど全然売れないんだよ」

 

「悪魔よけのな」

 

 カズマと俺が現状を説明する。

 

 俺たちの言葉にそりゃそうだろうなと苦笑する2人。

 

 すると、2人が大事そうに何かのチケットを握りしめていることに俺は気づいた。

 

「なぁそれって何のチケットだ? 」

 

「なんかあの店に入った時に見たことあるチケットに似てる気がするんだけど……」

 

 俺とカズマは大事そうに握っているチケットがとても気になり二人に聞いてみると。ダストとキースはにやりとした後、俺たち二人に手招きした。

 

「ちょっと席外すよ」

 

「頼むぜ4人とも」

 

 俺とカズマは一言4人に伝えてその場を離れ、ダストとキースのところに行く。

 

「2人はまだだったよなあの店のサービス」

 

「ああ、残念ながらな」

 

 身をかがめて話しかけてきたダストの言葉に俺は返答する。

 

「実はこれはあの店で最近始めた特殊サービスのチケットでな。無料配布なうえ、あたりが混ざっているらしい」

 

 キースが小声で伝えてくる。

 

「あたりだって? でも、望んだ夢を見せてくれるんだから全部当たりみたいなもんだろ」

 

「確かにそうなんだがなー」

 

 ダストもわからないようでカズマに同意した。

 

「なぁそれってサキュバスってぐらいだし本当にできるとかじゃないのか? 」

 

 キースが一言。

 

 その言葉を聞いた瞬間カズマは2人に礼を言うと、お守り売りを放り出してギルドの外へと駆け出していった。

 

「ちょっと待てカズマ!! 」

 

「なになに? どうしたのカズマさん? 」

 

「カズマいったいどうしたんでしょう? 」

 

「全力疾走だったな」

 

「ギルドの外に言っちゃいましたしトイレじゃないですよね……? 」

 

 女性陣がカズマの突然の行動に頭に疑問符を浮かべる。

 

「ちょっと神殺し。連れ帰ってきて頂戴!! 女神の従者ともあろうものが、その女神様との仕事を放り出してどこかに行くだなんて認められないわ!! 」

 

「……了解」

 

 カズマは間違いなくサキュバスの店に行ったのだろう。とりあえず追うか。

 

 

 

 

 

「カズマ!! サキュバスの店だろ」

 

「よくわかってんじゃねぇかリョウタ。一緒に行くか? 」

 

 ルーンナイトの身体能力を発揮してカズマにサキュバスの店への途中で追いついた俺は、カズマに天国への道を誘われた。確かに一度も体験していないしこれを機に素晴らしい夢を見せてもらうのも悪くないだろう。

 

 しかし。

 

「頼んだところでまたアクアの結解にサキュバスが捕まらないか? 」

 

「ダストたちと飲みに行くことにして宿を借りれば解決だろうが」

 

「なるほど」

 

 さすがはカズマ。頭が回る。

 

「で、どうするんだよリョウタは? 」

 

「俺もう経験してみたい。だから行くよ。ただ通常サービスにしとく」

 

「なんでだよ? 夢じゃないかもしれないんだぞ? 」

 

「俺の純潔はゆんゆんに捧げる予定だ」

 

「なんつうか……最近お前、言葉に遠慮がなくなったな」

 

「ストレートでいいと思うんだが。まぁさすがにカズマ以外の人の前では今のレベルの発言はしないよ。引かれるし」

 

「安心しろ、俺でも引いてる」

 

「カズマも言いそうだと思うんだけどな」

 

「……好きな女ができたらな」

 

 そんなこと無さそうだけどと言いたげにカズマがつぶやく。

 

 そんなカズマに現実を伝える。

 

「めぐみんもダクネスもお前のこと好きだろ多分」

 

「そんなわけないだろ。ダクネスは好みのタイプと俺が一緒なだけだし、めぐみんに関しては……あれ、この間の俺に甘えたいっていうバニルの見通した結果からして、もしかして気があるのか? 」

 

「あるといいな」

 

「……うん」

 

 正直めぐみんもダクネスも好みや性癖に真っ直ぐすぎるという欠点こそあるがどちらもいい女の子だと思う。見てくもいいし内面も割とよくできている。めぐみんの喧嘩っ早い点とか、ダクネスの家柄とかには目を瞑る必要があるが。

 

「って!! こうしちゃいられない!! 特殊サービスのチケットが売切れたら大変だ。急ぐぞリョウタ!! 」

 

「わかった!! 」

 

 俺とカズマは急いでサキュバスの店に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 それから、アクアにカズマと俺は戻るのが遅すぎて何をしていたのかと怒られた。

 

 しかしそんなことなどみじんも気にならない俺たちは、お守り販売は明日手伝うと言って、ダストたちと飲みに行くと伝えた。もちろんダストたちと飲みに行くなど嘘である。宿を借りてサキュバスに夢を見せてもらうために外泊するのだ。ゆんゆんに嘘をつくのは気が引けたがそれも今更である。

 

 そして夜。宿屋にて、俺は緊張の時間を過ごしていた。エチケットとして体はきれいに洗っておいた。サキュバスがもしかしたら嫌がるかもしれない神殺しの剣は屋敷に置いてきてソードメイスのみ所持した状態だ。

 

「いや、待てよ。自分たちにもダメージが通るとはいえ、神を殺す剣だから悪魔たちからすれば結構好印象なのでは? 」

 

 まぁいいか。

 

 俺はベッドに寝転がり。布団をかぶると、サキュバスの到来を待つ。

 

「今日はゆんゆんと夢の中でイチャイチャできる。楽しみだ」

 

 そしていずれは現実にもイチャイチャしたいところだがそれはまだ早い。俺はいま変革している時なのだ。キャラクターが安定するまではそれはまだ早い。というかお付き合いを始めたとしてもどのタイミングからやっていいことになるのかよくわからないな。経験もそう言ったことを聞く機会も無かったから。さすが俺はコミュ障元ニートだ。友達0人だっただけのことはある。

 

「さぁサキュバスよ来てくれ。そして俺に素晴らしい夢を見せるんだ!! 」

 

 そんなことを言ったりしているうちに俺は睡魔に襲われ、やがて眠った。

 

 

 

 

「お客さん。ごめんなさい。お客さん……」

 

 どこかで聞いたことのある声がする。それに体をゆすられてるな。

 

 俺はそんなことを思いながら意識を覚醒させる。

 

 すると。

 

「ああ、あの時のサキュバスさん」

 

 茜色の髪をした、俺を接客し、俺とカズマで護った、ゆんゆん似のプロポーションのサキュバスがベッドの横に片膝をついていた。

 

「どうしたんです? 俺に謝罪してませんでしたか? 」

 

 というかなんで俺を起こしたんだ?

 

「実はお客さんに夢を見せられなくってですね。それで起こさせていただきました……」

 

 申し訳なさそうに言う茜色の髪のサキュバス。

 

「見せられない? なんで? 」

 

 俺が落胆しながらサキュバスに問うと。

 

「実はお客様に夢を見せようとすると何らかの呪いの力で私たちの力をはね除けられてしまうんです」

 

「……呪いの力? 」

 

 俺はおもむろにつぶやいてしまった。理由は心当たりがあるからだ。

 

「もしかして神殺しの剣の呪いか!? 」

 

 俺は夜にもかかわらず声を上げてしまう。

 

 それを受けてサキュバスは焦るが、幸い店主や隣の部屋を利用しているカズマが苦情を言いに来ることは無かった。

 

「どうしましょう……お客様には命を救ってもらった恩があるのでどうにかして夢を見せて差し上げたいのですが……手を尽くしてみたのですが私どもの力ではとても……」

 

「……気にしないでください。むしろ俺の方こそすいませんでした。俺の呪いのことを失念してました」

 

 クソ、神殺しの剣め!! お前なんか大っ嫌いだ!!

 

 融通の利かない愛剣にこの理不尽からの罵倒を心の中で行う。

 

「そんな。こうなれば私もサキュバスですから……お客様がよろしければその、直接致しますか? 私初めてですけど頑張りますから……!! 」

 

 紅潮した顔で、そう言うサキュバス。

 

「は? 」

 

 一瞬、思考が停止し、俺にとっては時間が凍った感覚があった。今俺には現実で初体験する機会が目の前に巡ってきている。

 

 巡ってきている!!

 

 お、おぉぉぉぉぉ!!!!!!!!

 

「す、すいません……!! ダメですよね……ごめんなさい」

 

「あ、いや、ダメとかじゃなくて驚かされたんだ」

 

 今俺は人生で最も苦しい選択を迫られている。愛をとるか欲望をとるかだ。葛藤こそするが答えは最初っから決まっている。

 

 愛をとるべきなのだと。

 

「ごめんなさい。気持ちはうれしいんだけど、俺には好きな人がいるからその申し出は断らせてくれ……」

 

 その好きな人がいるのに、サキュバスに淫夢を見せてもらおうとしていることの時点でアウトになりそうだが、俺が見るのは好きな人ゆんゆんの夢。ぎりぎりセーフだろう。まぁもう一生見られないことが確定したけどな。残念で残念で、そして神殺しの剣が憎たらしくて仕方がない。あの剣を憎んだのなんて今日が初めてだろう。

 

「わ、わかりました。誠実なんですね」

 

 俺に笑顔を向けてくるサキュバス。ああ、もったいないことしたなぁー。でもこれは譲ってはいけないものだ。

 

「では返金させていただきます。お客様の身体の事情とはいえ夢を見せられなかった私の力量不足でもあるので。命を救ってもらっているのに本当にごめんなさい」

 

「いえいえ、お気になさらずに」

 

 サキュバスとそんなやり取りをしていると。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! 」

 

 突然カズマの悲鳴が聞こえた。

 

 俺はその悲鳴のあまりの声量から緊急事態だと判断した。

 

「あなたは逃げてください!! 」

 

「え、お客様!? 」

 

 サキュバスに逃げるように伝えると、ソードメイス片手に自分の部屋を出てカズマの部屋に突入する。

 

「どうしたカズマ!? 」

 

 部屋に突入すると呆然自失したカズマがそこにいた。

 

 

 

 

 

 翌日。俺は神殺しの剣のことをいままで初めて恨みながらカズマとともに帰宅した。そして、帰宅した瞬間カズマはというと血走った目でアクアにバニル討伐を訴えた。

 

「あのクソ悪魔絶対に許しちゃおけねー!!!! アクア、やつを討伐するぞ!!!! 討伐だ!!!! 世の男たちのためにも討伐だー!!!! ぶっ殺してやるぅぅぅぅ!!!! 」

 

 カズマから帰路に就いた際に聞いたのだが、昨日カズマはチケットのあたりを引いてしまったらしく。奇しくも俺と同じでサキュバスに夢ではなく実際に致さないかとお誘いされたとのことだ。もちろんOKをしたカズマだったが、すんでのところでそのサキュバスは姿を変えてバニルになったそうだ。俺が突入したときにはすでにバニルは退散していたようだ。

 

 まさに悪魔の所業だ。許してはおけない。

 

「ちょっとカズマ落ち着きなさいな、ダクネスみたいなこと言いだして何があったのよ? 」

 

「……カズマの話を聞いてやってくれアクア」

 

「分かったわ神殺し。それでどうしたのよカズマ。眼に涙を浮かべて。頭撫でてあげるからこっち来なさいな」

 

 アクアに頭を撫でられながら、昨日のことを泣きながら話すカズマ。しかし、サキュバスの店のことをばらすわけにもいかず言葉を選んだ説明だったため。

 

「……えっと、お礼を言いに来た女の子と朝チュンしようとしたら実はバニルで大当たりって言われたって……ちょっと意味わかんないんですけど」

 

 アクアは戸惑った。そんな彼女にカズマが。

 

「おかげで宿屋の店主に怒られたんだぞ!! それよりあの悪魔を、バニルを退治にしに行こう、あいつは俺たちの敵だ!! 」

 

「その残念ながらカズマ、やつは品行方正でな。協議した結果、街の住人として正式に迎えることになったんだ……だから討伐はできない」

 

 ダクネスがそんなカズマにとってはショックな一言を放った。

 

 それは……残念だ。男の敵に報復ができなくなってしまった。

 

「何が品行方正だ畜生!! ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!! 」

 

 カズマはおそらく悔しさでうなり声をあげた。

 

 俺はそっとカズマの背中をさすった。




 ついにリョウタが、神殺しの剣の力で淫夢が見られないことに気づきました。かわいそうにリョウタ。まぁその宿命を背負わせたのは私ですが。

 さて次回第3章の最終話です。お楽しみに。

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