【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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 誕生日。それは重ねていくことが大事なものらしい。正直俺は誕生日はどうでもいいと考えており、イベントなどとは思わないのだが、世間一般的には一大イベントの一つだ。そして、いくらどうでもいい物でもそんな日を迎えようとしているのが愛しい少女だとしたらどうだ? 話が変わってくる。俺にとって一大イベント以外の何物でもない。

 

「明日は2月29日。ゆんゆんの誕生日か」

 

 なにをプレゼントしよう。

 

「ゆんゆんが喜びそうなもの、かわいいものとか恋愛小説とか喜びそうだな……。でも、好きな子に渡すんだしもっと心のこもったものにしたい」

 

「それで? 」

 

「だから作ろうと思う」

 

 一緒に屋敷の一室で商品開発に励む俺はカズマの問いかけに答えた。

 

「ここにはちょうどその素材として素晴らしい魔道具がある」

 

 俺は以前購入してそのままにしていたチョーカーを取り出した。

 

「なんだそのチョーカー? 」

 

「願いが叶う魔道具だ。その実態は死ぬ気でダイエットしたい女性に人気の、願いが叶うまで外れない。そして願いが叶うまでどんどん首を絞めつけてくる恐ろしいもんだけど」

 

「ウィズ魔道具店で買ったのか? 」

 

「ご名答だカズマ。これの効果を書き換えて、その上でなんか飾りでもつけてゆんゆんにプレゼントしようと思う」

 

「いいんじゃないか? 」

 

 カズマがハンマーで優しく開発中の商品を叩いて微調整しながらそう口にした。

 

「ということで聞こうカズマ。どんな効果がいいと思う? 」

 

「……つけてくれた人を好きになる効果付きとかどうだ? 願ったりかなったりだろう」

 

「もうそれは叶ってる。ゆんゆんとは両思いだからな。俺は」

 

 チョーカーを指で回しながらさらっというとカズマが。

 

「お前本当に異世界ライフをエンジョイしてるな」

 

 嫌味全開でカズマは返す。

 

 俺は何でもない事のように。

 

「そうでもない、時々この世界のあほさ具合に頭が痛くなる時はあるよ」

 

 そう、カズマに告げた。

 

 例えば、野菜や果物に戦闘力があったりだとかする点だ。

 

「とにかく真剣な意見を頼む。頭のいいカズマなら何か思いつくだろ? 」

 

「お前別に発想力が乏しいわけじゃないだろうに」

 

「そうなんだけどさ。ゆんゆんに似合うとか、彼女の役に立ったりとかそういう効果を絞り込めないんだよ。思いついたとしても」

 

「なるほどな」

 

 カズマはしばし考える。そして。

 

「おお。そうだ、めぐみんに聞いてみたらどうだ? 」

 

 名案を閃いた。

 

「なるほど。親友のあの子なら確かにわかるか」

 

 さっそく聞きに行くか。

 

「カズマ、めぐみんのところに行ってくる」

 

「行ってこい」

 

 カズマは笑いながら俺を送り出してくれた。

 

 

 

 

 

「ということだめぐみん。上書きするのにいい効果はないだろうか? 」

 

 俺はめぐみんの部屋で彼女に問いかけていた。

 

「ゆんゆんを傷つけるような効果でなければ別になんでもよろしいんじゃないんですか? というかそのチョーカーを素材にするのもどうかと思いますよ」

 

 ちょむすけを膝に置いて撫でながらめぐみんが言った。

 

「……言われてみりゃそうだな。役に立つものと言う固定観念が強すぎたせいで元が危険なこれを使わないという選択肢を思いつかなかったよ」

 

「何と言うかあなたはどこか抜けている気がしますよ最近。というかキャラが変わってきてますよね。完璧に。例えば性癖を堂々と言ったりだとか」

 

「アハハハ……自分づくりを頑張ってはいるよ。アイデンティティが壊れたからね」

 

「まぁ別にいいですが、ゆんゆんがいくらどんなあなたも受け入れてくれると言ってはいましたがおかしくなりすぎないようにしてくださいね」

 

「善処する」

 

 キャラクターという物は大切だ。もともとこのパーティーでは俺はみんなと比較するとキャラクターが薄かったのでとてもそう思う。

 

 ん? キャラクター?

 

「そういやこの世界で流行のキャラクターとかいたりする? 」

 

「この世界で? 」

 

 めぐみんが俺の、彼女たちからすると引っかかるワードに首をかしげる。

 

「ああ、いやごめん。間違えた。この国で人気だったりするキャラクターだ」

 

「パッとは思いつきませんね。……あ、女神エリスは人気でしたね。信者ではないので失念していました」

 

「俺は最近信者になったばっかりなのに失念してたよ」

 

 あれ? でもキャラクターの意味って架空の存在に対する意味もあったような気がする。

 

「それはそれは。信者の方の前で架空の存在扱いしてしまいました。なんだかごめんなさい」

 

「いいんだめぐみん」

 

 やっぱり架空の存在に対する意味だったか。

 

「で、リョウタは人気キャラクターを知ってどうしようと思ったのですか? 」

 

「その人気キャラクターのぬいぐるみとかを俺の錬金術で錬成してプレゼントとか考えたんだが」

 

「いい考えだと思いますよ。あの子は喜ぶと思います。ただ私にはその流行がいまいちピンときませんね」

 

「そうか……」

 

 めぐみんは爆裂魔法に人生をささげている。一般的な流行などには興味が無いのだろう。

 

 その一方でゆんゆんは俺の服を選んだりする際に流行を意識していた。あの子は流行に敏感だとみていいだろう。そう考えると迂闊に流行でないキャラクターを渡すのは得策ではない。

 

「あ、ダクネスに聞いてみたらどうですか? ダクネスはああ見えて……」

 

「少女趣味だったな。ゆんゆんと同じで」

 

「はい。なので流行のキャラクターを聞いてみるとよいと思うのです」

 

「ありがとうめぐみん」

 

「いえ、気にしないでください」

 

「じゃあさっそくダクネスに聞いてみるよ」

 

 俺はめぐみんの部屋を後にした。

 

 

 

 

「ダクネース」

 

 ダクネスの部屋のドアをノックする。

 

「ん? どうしたリョウタ」

 

「今、いいかな? 」

 

 俺は廊下の前でダクネスに確認をとる。

 

「いいぞ、入ってくれ」

 

 ダクネスの部屋に入る。彼女は鎧の手入れをしているところだった。

 

「どうしたんだ? 」

 

「実は聞きたいことがあって。この国で流行のかわいらしいキャラクターのぬいぐるみとかをゆんゆんに明日プレゼントしようと思うんだが何かいい案無いかな? 」

 

「な、ぬいぐるみ? 」

 

「どうしたダクネス? 」

 

「いや、実は私はゆんゆんへの明日のプレゼントでまさにその流行のキャラクターのぬいぐるみをプレゼントしようとして……」

 

 ダクネスが鎧の手入れをやめて、引き出しに入っていた猫のかわいらしいキャラクターのぬいぐるみを取り出した。

 

 まさか。

 

「このようにな。それに関しては私がもう用意してしまったんだ」

 

「マジかよ」

 

「す、すまない。どうしようか? 私がプレゼントを変えようか? 」

 

「いやいいよ、俺がプレゼントを変えるよ」

 

 残念だ、案が潰れてしまった。

 

「本当にすまない」

 

 ダクネスが頭を下げる。

 

「いいんだ。気にしないでくれダクネス。でもまた一から考えるとなるとなかなか大変だな」

 

「最初は何をプレゼントしようとしていたんだ? 」

 

「このチョーカーの魔道具の効果を書き換えてデザインを少しかわいらしくしたうえでプレゼントしようと思ったんだが。もともと危険なチョーカーだったから、めぐみんに言われて元危険物をプレゼントするのもどうかと思ってさ」

 

 ダクネスはそれを聞いて固まり、やがて。

 

「そのチョーカーの効果について詳しく」

 

「言うと思ったよ!! 」

 

 俺はチョーカーについて説明した。

 

「それ、もしいらないのなら私にくれないかリョウタ? 」

 

「絶対にあげませんよララティーナお嬢様」

 

「ちょっ!? いきなりララティーナと呼ぶのはやめろ!! 」

 

 吹き出すダクネス。

 

「ゴメンよララティーナ」

 

「ぬぁぁぁぁ!!!! 」

 

 ダクネスが頭を抱える。

 

 からかいすぎただろうか?

 

「ごめんダクネス。……しかし何をプレゼントしたもんかなぁ……」

 

「ゆんゆんは私と同じでロマンチックなものとかが好きだろう? 私とかわいいものでは被ってしまうからそっちの方面で行ってみたらいいんじゃないか……? 」

 

「なるほど」

 

 俺はダクネスに礼を言ってロマンチックなものについて考えることにした。

 

 

 

 

 ロマンチック。情熱的であったり理想的であることの意。

 

 そんな意味は分かるのだが。ロマンチックなものがなんなのかと言われるとピンとこない。ここは安易に行くと恋愛小説とかだろうか? でもなぁ、心を込めてプレゼントしたいからできれば買うのは無しの方向で行きたい。まぁ作ったからと言って心がこもっているかどうかなど自己満足の領域だが。

 

「ロマンチック、ロマンチック……」

 

 俺は廊下をクマのようにうろうろしていると。

 

「ちょっと神殺し。ゆんゆんへのプレゼントを模索しているらしいじゃない」

 

「よく模索なんて難しい言葉知ってたね偉いねアクア」

 

「ふふん、そうでしょ。ちなみに意味は探すのを探すって意味よ!! 」

 

 微妙にあっているようなあっていないような。

 

「いや今回はほぼあってる気がするな。偉いぞアクア」

 

 俺はうれしそうにしているアクアがかわいらしくてついつい頭を撫でる。

 

 すると。

 

「ちょっと髪の毛が乱れるじゃない!! なにするのよ? あれなの? ナデポでもしたかったの? 私チョロくないからね!! 」

 

 アクアがぎゃあぎゃあ騒ぐ。

 

「かわいくねぇ」

 

「なんですって!? 」

 

 キレるアクア。

 

「まったく。せっかくこの私がアンタに助言をしてあげようっていうのにどうやらいらないみたいね」

 

「……ちなみにアクアは何をあげるんだ? 」

 

 教えてもらうために謝るかどうかはこれを聞いてからだ。

 

「え、私? あの子一人遊びが好きじゃない? だからジグソーパズルをあげるつもりよ? 」

 

「別に好んで一人遊びをしてるわけじゃない気もするんだが。結構まともだったな」

 

「どういう意味よ? 」

 

 睨んでくるアクア。

 

「なんでもない。さっきはいろいろごめんアクア。何かロマンチックなものでいい案無いかな? 」

 

 俺は頭を下げてアクアに頼む。

 

「教えてあげましょうか? この世界に無いけれどロマンチックで。多分アンタのクソチートを使えば作り出せる物」

 

 何と、俺が手作りできるものか。それはぜひとも聞きたい。

 

「それは? 」

 

「あんたの清酒のコレクションを一本ささげてくれれば教えてあげるわよ? 」

 

「よしいいだろう」

 

 俺は自分の部屋に置いてあるお酒コレクションからそこそこ高い清酒を一本選び、アクアにプレゼントした。

 

 そして俺は最高のプレゼントをアクアから教えてもらった。

 

 

 

 

「ただいまカズマ」

 

「お帰りリョウタいい案見つかったか? って……なんだそりゃ? 」

 

 作業中だったカズマが俺が手に握っているものを見て疑問を向ける。

 

「この世界の星座早見表。これを使って今から素晴らしいプレゼントを作る」

 

「星座早見表ねぇ。あれチョーカーはどうした? 」

 

「ああ、あのチョーカーなら元が危険物だからそれをプレゼントするのはいかがなものかという意見をめぐみんに貰って却下したよ」

 

 近々捨てる予定だ。ダクネスが拾わないように錬金術で破壊したうえで。

 

「カズマ。魔力を与えると光る鉱石使うぞ、いいか? あとこの虫メガネ」

 

「ああ、いいけど。本当に何作るんだ? 」

 

「それはな……」

 

 

 

 翌日の夜。

 

『ハッピーバースデーゆんゆん』

 

 リビングにやってきたゆんゆんを先にスタンバイしておいた5人で取り囲みおめでとうを言う。

 

 それを受けてゆんゆんはしばらく呆然とした後。

 

「え、み、みんな私のお誕生日を祝ってくれるんですか!? 」

 

 驚きと喜びの入り混じった声を上げた。

 

 朝からゆんゆんはどことなく何かを言ってほしそうな雰囲気を醸し出しながら過ごしていた。

 

 それが叶ってとても嬉しそうだ。顔が緩んでいる

 

「14歳のお誕生日、めでたいわね」

 

「これでゆんゆんも晴れて大人の仲間入りだな」

 

「どうですかゆんゆん、ライバルの私と年が並べて嬉しいでしょう? 」

 

「これからもよろしくなゆんゆん」

 

「このためにみんな朝からゆんゆんにお誕生日おめでとうを言わなかったんだ。不安にさせてごめんねゆんゆん」

 

 アクアにダクネス、めぐみんにカズマに俺の順番でゆんゆんに一言ずつ声をかけていく。

 

 ゆんゆんは呆然とした後。

 

 予想外にも泣き出した。

 

『ちょ!? 』

 

「私、私、家族以外の誰かにお誕生日祝ってもらっうたことなんてなくって。それで、それで、ごめんなさいみなさん。……ふぇぇぇぇぇん!!!!!!!!」

 

「泣いてるゆんゆんもかわいいな」

 

「お前平常運転すぎるだろ」

 

 カズマにツッコミを入れられながら俺はしゃがみ込んだゆんゆんに手を差し出す。

 

「リョウタさん……」

 

 ゆんゆんはそれを握って立ち上がる。

 

「みんなからプレゼントがあるわ。受け取って頂戴なゆんゆん!! 」

 

「は、はい!! ……ありがとうございます」

 

 はにかみながらお礼を言うゆんゆん。

 

 そんな彼女に各々が用意したプレゼントを渡していく。

 

「さてと、みんなプレゼントを渡し終えたな」

 

 俺がわざとらしくそう言うと、ゆんゆんは焦った顔をする。なぜなら俺はまだゆんゆんにプレゼントを渡していないからだ。

 

「あ、あの、リョ、リョウタさんからは? 」

 

「なんだいゆんゆん? 」

 

「な、何でもありません……なんでもありません」

 

 目に見えてしょげるゆんゆん。かわいすぎる。

 

「さて、おーいみんな明かりを消すぞ!! 」

 

 カズマが、ゆんゆんが落ち込んでいる間に各所に散らばった俺以外の3人に指示を出す。

 

「「「了解!! 」」」

 

 その瞬間、部屋が真っ暗になった。

 

 そして、真っ暗な部屋の天井に……満天の星が映し出された。

 

「え、えええええ!? 」

 

 ゆんゆんがいきなりの展開に大声を出す。

 

「ほうこれは!! 」

 

「すごいですね……」

 

「私の言った通り!! 神殺しになら作れたわね」

 

「これがリョウタ力作の!! 」

 

「ゆんゆん、誕生日おめでとう。いつもありがとう。本当にありがとう。俺からのプレゼントだ。受け取ってくれ。プラネタリウムって言うんだ」

 

 俺は両手で保持した球体をゆんゆんに見せる。

 

 それは小さな魔導式プラネタリウム投影機だった。

 

「これを私に? 」

 

「うん……。お誕生日おめでとう」

 

 俺がほほ笑みながらゆんゆんの広げた手のひらに投影機を乗せる。

 

「リョウタさん……ありがとうございます!! 」

 

 星空のもと、ゆんゆんは満面の笑顔を俺に見せてくれた。




 リョウタが「リライズ」する話が完結しました。これにて第3章終了です。なぜ「リライズ」にしたかというと、リョウタが仮面を脱ぎ捨てて本音を仲間に見せて“再び昇る”お話だからです。

 そして私がガンダムシリーズが好きなのを気付いている方もいると思いますが、第3章のタイトルの「リライズ」はガンダムビルドダイバーズリライズから頂戴しています。ビルドダイバーズリライズは素晴らしい作品です。YouTubeで無料で視聴できるので興味がわかれた方は是非観てみてください。面白いですよ。

 さて第4章はいよいよあの頭のおかしい教団の総本山にお邪魔する話です。今までの章と比べて少し短めですが楽しみにしていてください。

 

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