【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
051 最高に尊いもの
「いやよ!! だって外はまだまだ寒いんだもの!! 三人とも子供は風の子元気な子なの!? 子供なの!? 外で遊びたがる子どもと同レベルなの!? 」
暖炉前のソファに腰かけたアクアがめぐみん、ダクネス、ゆんゆんの3人に引っ張られ抵抗していた。
なぜ引っ張られているのかというと、クエストに行くためだ。
「誰が子供ですか!? 」
子供と言われたのが自らの体形の件もあり気に障ったのかめぐみんがムキになり。
「今のアクアさんの方が子供みたいですよ…… 」
ゆんゆんがアクアの態度に呆れる。
「全く、めぐみんとゆんゆんの言う通りだぞアクア」
アクアに目線を合わせて語り掛けるダクネス。
「だってー」
アクアは目を逸らす。
「もう春がきたんですよアクアさん」
「そうだぞ春と言えばモンスターが活発に活動し始めるのだから……冒険者の出番だ……!! 」
「その通りです。……アクア、そんなだだをこね続けているといつかは……」
めぐみんがそう言って俺とカズマの方をゆっくりと指さし。
「「「あんなふうになるぞ(なりますよ)」」」
3人が声ハモらせてジト目で俺とカズマを見つめてきた。
あんなふうとは何だ。ゆんゆんはいいけどほか2人、失礼だぞ。あとジト目のゆんゆん、かわいい。
「そりゃ私だってあんな風にはなりたくないし、そもそも高貴な女神である私がなるわけないけれど……。そうだわ!! 私を説得する前に、あっちのダメな奴らを説得しなさいよ3人とも!! 」
出たー。自分のことを棚に上げるやつ。
「おいお前ら。さっきから俺たちのことをあんなふうだとかダメな方だとかさんざん言ってくれてるな、いくら温厚な俺達でも怒るぞ。なぁリョウタ? 」
「ああ、断固抗議させてもらう」
俺とカズマは4人に向けて暴言をやめるように伝える。
するとアクアが。
「文句があるならそこから出てきて言いなさいよ。カズマに神殺し」
そう言って蔑んだ目を向けてきた。
「「断る」」
俺とカズマはそう言い残して、頭だけ出していた状態からあたたかな聖域へと頭をひっこめる。
聖域の名はこたつ。日本の冬場から春先に人々に幸福をもたらす最終兵器だ。電気の代わりに、魔力を送ると発熱する鉱石を使っている。
俺とカズマは対極の位置から顔を出していたが4人からの呆れたものを見る視線から逃れるためにこうして中でうずくまっている。男二人でそこそこ大きいがやはり狭いこたつの中に丸まっているのは暑苦しいし絵面的にもどうかと思うが外の寒さにさらされるよりははるかに快適だ。ちなみに余談だが、こたつの上ではちょむすけが丸まっている。
「全くカズマとリョウタは。……2人の作った暖房器具が優秀なのはわかりましたがそろそろ出てきてください」
めぐみんがカズマの側の布団を持ち上げて優しく語りかけてくる。まるで言うことを聞かない子供をあやすかのようだ。
「そうだぞ、ほら、外に出てクエストに行こう? 」
ダクネスもしゃがみ込み、微笑みをカズマに向ける。
それに対してカズマは容赦のない反撃を行った。
「フリーズ」
「にゅぅぅぅぅぅぅぅ!!!? 」
ダクネスがおそらくだが首の裏。うなじあたりにフリーズを喰らわされられ悲鳴を上げる。
「この男反撃してきましたよ!? カズマそんな抵抗はやめて出てきてください!! 」
「いやだ、ね!! 」
「ぬわぁぁぁ!!!? 」
めぐみんの手を握りドレインタッチを繰り出すカズマ。
「我が魔力を奪うなど万死に値しますぅぅぅぅぅぅ!!!? 」
なおも吸い続けるカズマ。
「うわー……」
アクアのドン引きする声が聞こえてくる。
「リョ、リョウタさんは反撃しませんよね……? 」
「どうだろうねゆんゆん」
こたつの布団越しにゆんゆんに対応する俺。
俺とゆんゆんを隔てていたこたつの布団が持ち上げられ。ゆんゆんが優しく語りかけてきた。
「リョウタさん。そろそろ頑張りましょう? お外ではモンスターが活動してますし私たちが頑張らないと。それにリョウタさんはアクセル1の冒険者なんですよ? ほら、出てきてください」
ああ、本当に女神のようだ。どこかの駄女神とは違って俺の信じる女神、エリス様にも匹敵する。
それに、深い母性を感じた。
これは。
「バブみだ」
「……今なんて言ったリョウタ? 」
カズマがめぐみんからドレインタッチをやめて俺に問いかけてくる。
何と言ったかだと? それはもちろん。
「バブみを感じた」
「ぶぅぅぅぅぅ!!!! 」
カズマが噴き出した。そのつばがめぐみんに当たったのか「汚いではないですか」という抗議の声が聞こえる。
「ゆんゆんにバブみを感じておギャる……最高に尊い」
俺はそう言ってこたつから這い出し立ち上がった。
そんな俺にゆんゆんは嬉しそうながらも言葉の意味が解らず戸惑っている。
「お、お前自分が何言ってるのかわかってるのか!? お前本当に言葉に遠慮がなくなったな!! 」
カズマがこたつの中で何かを言っている。
「うるさいぞこたつむり。俺はバブみを感じることができたんだよ……」
バニルに事実上精神崩壊させられて数か月。俺は時々欲望に素直に行動する真面目系コミュ力それなりの引きこもりへと変革した(コミュ力は酒の席で養った)。
「リョウタさん? えっと『バブみを感じておギャる……最高に尊い』ってどういうことですか? 」
某赤くて3倍の総帥のコラ画像に書かれていた名言(迷言)が元とは言えないしな。ここは。
「俺の故郷の言葉でね、ゆんゆん。母性的で素晴らしい若い女性に対する誉め言葉なんだよ」
「お前……」
カズマがドン引きした声質で一言。
「わ、私が母性的に感じたと? 」
「うん。ゆんゆんはかわいくて優しくて母性もある魅力的過ぎる女の子だ」
「リョ、リョウタさんはもう……」
ゆんゆんが照れる。
「なんだか私はすさまじい業を感じがしたのですが。『バブみを感じておギャる』というワードに……」
カズマにつかまれていた手をさするめぐみん。
「ああ、なんだかカズマのフリーズ以上に別の意味で背筋が凍るような感じがしたぞ。さっきのワードからは」
ダクネスはうなじに手を当てながらそう言う。
「まぁ業は深すぎるし故郷で女性に言うとドン引きされるワードなのは認めるよ。まぁこの言葉の真意がわかる人なんて俺の故郷にもそうそう居ないけど」
「え? 」
俺の発言にゆんゆんは目を丸くする。
「とにかく出てこいカズマ。クエストいくぞ」
「いやだよこの裏切り者が。絶対こたつから出るもんか、って何するお前ら!? 無理やり引っ張るな!! この、この!!!! 」
俺とめぐみんとダクネスは、聞き分けのないカズマをこたつから無理やり引っ張り出した。
「寒いわ……。暖炉が恋しい」
「うぉぉぉぉ……寒い」
「リョウタ、お前張り切って俺を引っ張り出したくせに何なんだよそれ」
「すまない。でも寒いものは寒い」
俺たち6人は街の大通りを歩いていた。そのうち3人は外の寒さに文句を言っている。
「しかしなぜこの大通りに用があるのだカズマ? 」
ダクネスにそう聞かれたカズマが目の色を変えてふっふっふっとわざとらしく笑う。
そして。
「俺がただこたつでぬくぬくしていただけだと思うなよ!! なにせ俺はリョウタと一緒に商品開発したりしている間にも装備を整えていたんだからな!! 」
「装備を整えていた? 」
めぐみんが疑問符を頭に浮かべる。
「その答えの1つが、ここだ!! 」
カズマがある店の前で立ち止まりそこのドアを開ける。
そこは武器屋。アクセルでは一番の職人の営む店だった。
「おっちゃん出来た? 俺のお願いしてたもの出来た!? 」
カズマが嬉々として店主のおっちゃんに尋ねる。
「おう、いらっしゃい。お前さんか。心配すんな両方とも出来てるよ!! 」
「本当か!? 」
ちなみにこのおっちゃんからカズマは物作り系スキル(主に鍛冶スキル)を学んだ。
「おうよ、焼き入れとか技術のことは結局さっぱりわかんなかったが言われた通りの形にしてみたぜ!! 」
おっちゃんがカズマにひょいっと差し出す。それは。
「待ってたぜ俺の刀!! 」
「刀? 刀って言った? 」
「ああ、以前リョウタが絵に描いて見せてくれた奴だ!! 」
「絵の通り反りのある片刃剣ですね」
「これがリョウタさんたちの故郷で最強と言われてた剣ですか」
「俺にはこれが最強の剣なことがいまいちわかんねぇけどそれなりに面白い仕事だったよ」
女性陣が刀に注目する中そう語るおっちゃん。
「あとはせいぜい立派な名前を付けてやんな。おまえさんの新しい相棒に」
「俺の新しい相棒」
カズマがおっちゃんから、剣に名前を刻み込むための魔法の紙札を受け取る。
「それともう一つの方もできてるぜ」
「鎧の方か」
「おう!! 」
俺の一言にカズマはうれしそうに笑いながらおっちゃんに付いて行きそれを拝見する。
「おおおおお!!!! 」
カズマが興奮の声を上げた。
俺も思わず声が出そうなほどその鎧はかっこよかった。カズマのイメージカラーである緑と紺色が使われたフルプレートの鎧。俺やダクネスの物と違って兜までついている。
「早速装着してみろよカズマ」
「ああ、これはなかなかに上等な鎧だぞ」
俺とダクネスがカズマをせかす。
「わかってるって!! さて早速着てみるぞ!! 」
カズマがおっちゃんに手伝ってもらいながら鎧を装着していく。そして最後に兜を装着し、刀の鞘を腰に下げ。
「フルアーマーカズマさん完成だ!! 」
カズマがはしゃぐ。
「いい感じですねカズマ」
「なかなか似合ってるわよカズマ」
「今日はそれをつけてクエストいきましょうか」
めぐみんアクア、ゆんゆんがそんな言葉をカズマに投げかける。
「おう、じゃあさっそく……あれ? 」
「どうしたカズマ? 」
不思議そうな声を出すカズマに俺が聞く。
「いやなんでもないんだ。フン!! 」
カズマが全身に力を入れているのがわかる、歯を食いしばっているからだ。しかしカズマは動かない。
いや。
動けないのだろう。
「カズマさん? 」
「どうしたの? まさか動けないのカズマ!! プークスクス!! 」
「はっはははは」
さっきまでの元気な姿はどこへやら。死んだような目をして笑うカズマ。
「カズマのレベルはどれくらいですか? 」
めぐみんが何気なくカズマに問いかける。
「……17。なのに動けねぇ!! ……お前らのレベルは? 」
「私は28よ」
「私は40です」
「私は26だ」
「私は35です……めぐみんに負けてる……」
「仕方ないよ爆裂魔法は強力だから。ちなみに俺は51レべだ」
「最低でも26はないとこんな鎧は装備できないってことかよ!? 」
「いや、カズマ。クラスによって筋力は変わってくるから単純なレベルはあてにならないぞ」
ダクネスがカズマに突っ込む。
「……カズマ、冒険者カードを見せてください」
苦笑しているおっちゃんに手伝ってもらいながら鎧を外した涙目のカズマはめぐみんに冒険者カードを渡す。そして。
「わ、私より筋力のステータスも低いですね」
「え」
「みんな、冒険者カードを見せてもらえますか? 」
「どうぞ? 」
俺はめぐみんに言われ、他のみんなと同じように冒険者カードを差し出す。
めぐみんが自分とカズマとみんなの冒険者カードを見比べる。そして。
「カズマにその鎧をつけるのは絶対に無理ですね。クラスチェンジしない限りは」
カズマにとって絶望的な一言をきっぱり告げた。
「俺どれだけレベルを上げても別のクラスの転職候補が出ないんだけど? 」
「……まぁカズマはいろんなスキルを使えて器用ですから今のままでもいいではないですか」
「そ、そうだな」
「カズマ元気出しなさいな」
「人には得手不得手がありますよカズマさん」
「まだアクアみたいにカンストしてないんだから希望はあるよカズマ」
「お前らありがとな。でも今はどんな言葉も俺には慰めに聞こえないよ!! 」
カズマが膝を折ってうなだれた。
「か、カズマ……」
俺はカズマの背中をさする。
「リョウタ、ダクネス。料金はもう支払ってあるから鎧はお前らにやるよ。じゃんけんでもしてどっちが引き取るか決めるなりしろよ」
「俺は別に鎧コレクターじゃないからいらないかな、今着てるこれがあるし」
「なら私が引き取ろう。何なら屋敷に飾っておくか? 」
「うん」
カズマは悲しみをにじませた返事をした。
「カズマのレベルアップも兼ねて今日のクエストは頑張らないとですね!! 」
めぐみんのクエストに張り切る声を酒場から聴きながら、俺とゆんゆんは今日受けるクエストを選んでいた。
「これにするかリザードランナーの群れの討伐」
「結構大変そうなクエストですね」
「まぁでも姫様倒せば解散するってあるし思ってるほどでもないんじゃないかな? 」
「そうでしょうか? 」
リザードランナー。それは、エリマキトカゲを緑色にしてでかくしたような二足歩行の爬虫類だ。普段は危険のない草食性のトカゲだが姫様ランナーという大型の雌の個体が生まれると、それとつがいになるために勝負が始まる。その方法が独特で、走って他種族を抜き去った数が一番多い個体が王様になるという物だ。王様ランナーは群れを従えるようになりそこら中を爆走する。ちなみにかけっこ勝負のためなら相手が何であろうと蹴って逃げる習性があり、大変危険だ。その蹴りの威力はあたりどころが悪ければ死につながるレベルの物らしい。
「それに数がいたほうがカズマのレベルアップにもいいだろ。解散していく凶暴性をなくしたリザードランナーを撃破していけばお手軽レベルアップだ」
「それも、そうですね」
「じゃあカズマたちに知らせようか」
「はい」
俺とゆんゆんは先に昼食をとっていたカズマたちのところに行き、リザードランナー狩りをすることを伝える。ちなみに、何故今回6人でクエストを受けているかというと今回が長いブランクが明けての久しぶりのクエストのためフルメンバーで挑んだ方がいいとみんなで判断したからだ。
「悪いな、俺のレベルアップのために」
「いいっていいって。それよりカズマ、剣の名前は決まったか? 」
「それがまだなんだ……ムラマサ、正宗、虎鉄、うーん」
悩むカズマに俺は案その1を出した。
「一斬必殺・村雨」
「なんかからパクっただろそれ」
「うん」
俺は屈託のない笑顔で答える。
「えーと菊一文字、小烏丸」
再び悩み始めたカズマに今度は。
「絶刀・天羽々斬」
俺の案その2を提示したが、カズマは怪訝な顔で。
「それもパクリだろ」
わかりきっていることを言った。
「うん」
「ちゅんちゅん丸です」
そんな俺たちの会話に割りいる声があった。しかもその声は奇天烈にもほどがある名前を提示している。
「「今なんて? 」」
「ちゅんちゅん丸がいいと言ったのです」
「いやそれはない」
「いくらなんでもあんまりだろめぐみん」
俺とカズマがめぐみんの案を却下する。
「そうよめぐみん。どう考えてもリョウタさんやカズマさんが言ってた名前の方が変わってるけどおかしくなかったわ」
「確かに、悪くはありませんでしたが押しが足りませんね。だからこそちゅんちゅん丸です」
「絶対にそんな名前は付けな……おいぃぃぃぃ!!!! 」
めぐみんがちゅんちゅん丸と書き込んだ魔法の札を、刀の持ち手部分に張り付けた。その瞬間紙は消滅し、刀の持ち手にちゅんちゅん丸という名が刻まれる。
「今日よりこの剣の名はちゅんちゅん丸です」
「おまえぇぇぇ!!!! 」
「いたたた、いたいれふ、そんなにひっぱらないでくらさい」
カズマが怒りに任せてめぐみんの頬を引っ張る。
「さすがに、今のはひどいぞめぐみん」
「あんまりな名前ね。名刀ちゅんちゅん丸って」
「カズマさんに謝りなさいめぐみん!! 」
「そうだぞ謝れ!! 」
カズマがめぐみんの頬をつねるのをやめてまっすぐ睨みつけるがめぐみんは。
「そもそもカズマだって紅魔族的にはなかなかかっこいい名前をしているのに、ネーミングセンスが無いのがおかしいのですよ。嘆かわしいです」
「お前ら的にはいかした名前に聞こえるってすごく嫌な真実なんだが……」
「なぁめぐみん、俺のリョウタって名前はどうなんだ? 」
「リョウタもいい感じのセンスだと思いますよ」
……マジかよ。
「なんですか? そんなショックを受けたような顔して」
「誰だってショックを受けるだろ。紅魔族のセンスからしていい名前だとか言われたら」
カズマが引きつった顔でめぐみんに言う。
「じゃあ、ゆんゆんからしたら俺の名前ってどうなんだい? 」
「あ、俺の名前の感想も頼むわ」
俺とカズマがゆんゆんに聞いてみると。
「その……言いにくいんですが、なかなか奇抜な名前に感じます」
「そうか」
カズマが悲しそうな顔をする。
俺はというと。
「奇抜な名前でゴメンねゆんゆん」
自分の名前が嫌になって謝った。
「ええ!! わ、私の感性の問題ですから、謝らないでくださいリョウタさん!? カズマさんもそんな辛そうな顔しないでください!! 」
……まぁでも。
「ダストよりはマシか。なんせ屑だもんなあいつの名前の意味」
「だな、ダストよりはマシだ」
俺の言葉にカズマが同意した。
そうあの愚か者のチンピラダストよりは、はるかにマシだ。
リョウタは芯はぶれていませんがキャラが濃くなりました。あと某赤くて3倍の総帥ことシャア大佐は一説によるとロリコンでマザコンではなく、ファミリーコンプレックスらしいです。
ちなみにリョウタがカズマの刀に名前を付ける際にパクったのはまず、「一斬必殺・村雨」は「アカメが斬る!」の登場人物、アカメの帝具、一斬必殺・村雨で、次に「絶刀・天羽々斬」は「戦姫絶唱シンフォギアシリーズ」の登場人物、風鳴翼のシンフォギア・天羽々斬です。