地面に落ちたカズマは全く動かなくなった。おそらく死んでしまったのだろう。
「「「「カズマ(さん)!!!! 」」」」
姫様ランナーが散ってなお敵意を全開にしたトカゲたちの強襲を受けて泣いているアクア以外の全員がカズマの名を叫んだ。
また、死んでしまったのか……。
とはいえ焦ることは無い。死体が残っていればアクアがまた蘇生できるのだから。
しかし、気分のいいものでは決して無い。決して!!
トカゲどもめ絶対許さん!!
「よくも」
「よくもカズマをぉぉぉぉぉ!!!! 許しませんよトカゲども!!!! 」
俺が叫ぼうとしたセリフを、めぐみんの叫びが押しとどめた。
「め、めぐみん、待って、落ち着いて、暴れないで、空からあなたを落としちゃうから!!!! 」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
めぐみんがゆんゆんに吊り下げられた状態で暴れながら、トカゲに向けてファイヤーボールを放った。それはトカゲたちの中心で炸裂すると一気に標的を燃やし尽くしていく。
インフェルノ級のファイヤーボールだが今回は怒りによって火力が底上げされているように思える。
「ダクネス!! これ以上傷がつく前にカズマの遺体の回収を!! 」
「わかっている 任せろ!! 」
ダクネスがカズマの遺体に駆け寄っていく。俺はというと。
「トカゲどもぉぉぉぉ!!!! アクアから離れろぉぉぉぉ!!!! 」
燃え盛るトカゲの一団をソードメイスで叩き殴って吹っ飛ばしながら突き進んでいくと、まだ燃やされていないトカゲのところまで到達。続いて俺はフェイントオブインパクトの魔方陣をトカゲの一匹に設置。発動させて周囲のトカゲもろとも吹き飛ばす。
しかし。それでもアクアに到達するには遠い。早く救出しないとカズマが死んだショックで錯乱しているめぐみんのファイヤーボールにアクアも焼かれることになってしまう。
「こうなればこうだ!! 」
神殺しの剣が起動していないので魔力を一気に消費してしまうが、俺はためらわず地面に手を付けた。そしてそこから錬金術を発動。広範囲の地面を勢いよく変形させて隆起と陥没を一気に巻き起こしトカゲたちをまとめて体勢を崩させるとともに打ち上げる。
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! 」
アクアもそれによって打ち上がった。
「アクアぁぁぁぁ!!!! 」
俺はアクアに向けてジャンプし彼女を抱き止めると着地する。
それと同時に錯乱しているめぐみんのファイヤーボールが俺の付近で炸裂した。
「あつっ!! 熱いわ神殺し!! 」
涙目になるアクア。
「我慢してくれ!! 今、何とかするから!! 」
俺はアクアを抱きかかえた状態でその場から飛びあがる。そしてフェイントオブインパクトを角度をつけた足の裏に発動して一気に燃焼範囲から抜け出した。
「ばか!! 落ち着きなさいめぐみん!! リョウタさんとアクアさんまで殺しちゃう気!? 正気に戻って!!!! 」
「私は!!!! 私は……」
着地したゆんゆんに体をゆすられてめぐみんも少しづつ平静さを取り戻しているようだ。
俺は空中から着地するとアクアを降ろす。そして残ったトカゲどもに向けて。
「一気に決めるよゆんゆん!! 」
「わかりました!! 」
「「ライトオブセイバー!!!!!!!! 」
俺は残った魔力を振り絞って、ゆんゆんとともに長大なライトオブセイバーを繰り出し、2本の光の剣にトカゲたちは切り裂かれ爆散した。
「終わった? 終わったの? 」
涙目のアクアがキョロキョロする。
「終わったよ」
俺は疲労感で膝をつきながらアクアに答える。残ったトカゲたち(と言っても全体の2割ほどしかいないが)は、尻尾を巻いて逃げていった。
「すいません。リョウタ、アクア。2人のことを考えずに魔法を放ってしまいました……」
ゆんゆんのおかげで正気に戻っためぐみんは俺とその近くにいるアクアに謝罪に来た。
「気にしないで。仲間が死んだんだから誰だって取り乱すさ」
「そうよ!! って!! また誰か死んだの!? 誰、誰よ!? 」
「アクア、カズマだ」
ダクネスがカズマの遺体を抱えて悲しそうな顔で申告する。
カズマの首は曲がってはいけない方向に。それこそ数か月前に見たあのバニルのように首が180度回転していた。
「カズマ、カズマぁ」
めぐみんがそんなカズマの遺体に駆け寄り涙を流す。
好きな人が死ねばそりゃこうもなるよな。
「任せなさいな!! 生き返らせてあげるわ!! 」
「リザレクション出来るのですか? 」
「1度死んだ者に再度のリザレクションは無効になるという伝承を聞いたことがあるのだが……」
ダクネスが目に涙を浮かべて余裕な表情のアクアに言う。
「心配しないの。カズマが死ぬのはこれで3度目だから」
「さ、3度目なんですか!? 」
ゆんゆんが驚愕の声を上げる。
「冬将軍に殺される前にも1度死んでるのよ。心配しないで。エリスに言えばちょちょいのチョイよ!! と、その前にカズマさんの身体を修復してあげないとね」
ダクネスが木の下のそばに寝かせたカズマにアクアがヒールをかけて、折れているであろう首を修復していく。
「アクアさんって本当に女神なんですかリョウタさん? 」
カズマの遺体が修復されていくのを心配そうに眺めているめぐみんとダクネスに聞こえない声で俺にそう言ってくるゆんゆん。
そんな疑問を抱きつつも自分もカズマが心配で彼の方をちらちら見ているゆんゆんだが。
「なぜ今になってそんなことを? 」
俺は不思議だった。
「いえ、その、リョウタさんが過去を話してくれた時……バニルさんに心を壊された直後のお話でリョウタさんが天使によってこの世界に転生してきたと言っていたので。今までのアクアさんの力を考えるともしかしてアクアさんは本当に女神じゃないのかって思ったんです。バニルさんもあんなに目の敵にしてますし」
「やっぱり、俺の言ったことを疑わずに信じてくれてたのかゆんゆん」
あの状態の人間が嘘をつくとはだれも思わないであろうが完全に信じてくれていたとは驚きだ。そして嬉しい。
「え? そうですけど……」
ゆんゆんが不安げな顔をする。
「あ、いや、別に嘘だったとかじゃないんだ。ただ信じてくれていることが嬉しくてさ」
「それはそうですよ。私はリョウタさんの言ってくれることは何だって信じます」
「ゆんゆんも女神かい? 」
俺はゆんゆんの後ろに後光がさしているのを幻視した。
「ええ……!? 」
「ごめんごめん。話が逸れるね。そうだアクアは女神なんだよ。俺があの時、転生してきたって言ってたけど本来なら転生させるのはアクアの役目だったんだ。だけどカズマを死者の魂がたどり着く部屋であおった結果、カズマの逆鱗に触れてしまってこっちの世界に引きずり込まれたんだよ」
「ええ……そんな経緯があったんですか? 」
「うん。というかゆんゆん信じてくれるのはありがたいけどこんな話よく信じてくれるな本当に」
「だって悪魔もいますし、だったらそれと仲良くしている邪神やその敵対者である神や天使がいても不思議じゃないなって思えますから」
「なるほど」
俺の言葉だけじゃなくてちゃんと信じられる理由が他にもあったか。
「リョウタさん、カズマさん生き返りますよね? 」
「ああ大丈夫だ。2度あることは3度あるって言うじゃないか」
「そう……ですよね」
不安げなゆんゆん。
心配しなくても絶対大丈夫だよ。ゆんゆん。
「アクア、カズマの身体の修復はどんな感じだい? 」
「順調よ!! あと少しで魂を呼び戻しても大丈夫になるわ!! 」
鼻歌を歌いながら余裕の表情で修復作業をしていたアクアが軽い調子で俺の言葉に返事をする。
「よし完成」
「アクア、これでほんとにほんとにカズマは蘇るのですか? 」
「大丈夫なのか? 」
カズマが恋愛対象として好きな2人は心配そうだ。
「ええ、大丈夫よ蘇るわ。……。リザレクション!! 」
カズマの全身を包み込むほどの神聖な魔方陣が展開し輝きを放った後消滅する。
「あ、エリスと今会話しているみたいね。声かけてみるわ」
アクアがカズマの遺体の額のあたりに魔方陣を展開してそう言った。
「カズマー!! リザレクションかけたわよ!! いつでも戻ってこられるわー!! エリスに門を開けてもらいなさいな」
そしてカズマに呼びかけるアクア。
「ど、どうですかアクアさん? 」
「ちょっと待ってね、カズマが何か言ってるから」
…………。
「はぁ!? 何言ってるのよカズマったら……」
どうしたんだろう?
「アクア何かあったのか? 」
「カズマがまだ帰ってきたくないとか抜かしてるのよ。……ちょっとカズマ!! 早く帰って来なさいな、そんでもってとっととレベルを上げて魔王のやつをしばいてきて頂戴!! 」
アクアがカズマの額の魔方陣越しに呼びかける。
「まだ帰ってきたくないとはどういうことですか? 」
「エリスともっと話したいらしいのよ」
「な、エリス様と、か!? おいリョウタ、エリス様とカズマが会話していると言っているぞ!! 」
エリス教徒なダクネスは興奮を隠しきれていない。俺はエリス教徒だがエリス様とは何度も話しているので別段興奮する点はない。
「エリス様か……」
ということは今クリスは地上に存在していないな。
「どうしましたリョウタさん? 」
「なんでもないよ」
「ちょっとカズマー聞こえてるー? 聞こえてるんでしょ? とっとと帰って来なさいよ。そのパッド女神と話してたってなんのいいこともないじゃない。そもそも胸を盛っているような奴と……。え? 赤子からやり直すですって!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! 」
「ど、どういうことですか? いやな予感がするのですが……」
「カズマが人生疲れたから赤子からやり直すだなんてバカなこと言い始めたのよ」
「……バカだ。女2人に惚れられておいて戻ってこないなんて、バカの極みだぞカズマ!! 」
「「ちょっ!! なにを言い出すんだ(のですか)!! 」
「リョ、リョウタさん……」
今のは失言だった。
「ごめん。めぐみん、ダクネス」
「な、何故私たちに謝るのかわかりませんね!? 」
「そ、そうだぞ。……そ、そうだ、カズマに落書きしてやろう。アクア戻ってこないとカズマに落書きすると伝えてくれ」
照れ隠しのつもりなのか。たまたま同じタイミングでそんな案を思いついたのか。ダクネスがペンを片手に言った。
「ちょっとカズマー、ダクネスがアンタの身体に落書きするって言ってるわよ!! どんな恥ずかしい落書きをされるのか楽しみね!! 」
アクアがにやにやする。しかしその表情は浮かないものに変わった。
「ちょっとなんだか決意が固そうなんですけど。このまま帰ってこないつもりみたいなんですけど……」
冷や汗を浮かべ始めるアクア。
「よしアクア。こう伝えてやれ、お前の性癖ばらすぞって」
「わかったわ!! カズマー。神殺しがアンタの性癖ばらすって言ってるわよ。恥ずかしい思いしたくなかったらとっとと帰って来なさいな」
「……せ、性癖って」
「気になるのかいゆんゆん? 」
「い、いえ。そんなことありませんよ!? 」
「あ、カズマが返答してきたわ。リョウタお前そもそも俺の性癖なんて知らないだろう。あと万が一知られてもお前ほど倒錯してないから恥ずかしくなんかない!! だそうよ」
「これもダメか」
「何かいい手はないかしらって、ちょっとめぐみん、めぐみん!? なにやってるのよ、ねぇなにするのよ、カズマさんの身体に!! 」
突然。めぐみんが涙目でカズマの上に上乗りになると彼の服を脱がしていった。
まずはマントで次は上着。その次にシャツを脱がした。
「めぐみん、めぐみん!? あんた何やってるのよ!? 」
「ぬぅぁぁぁぁ!!!! 」
ゆんゆんとダクネスが各々カズマの裸を見て驚き、めぐみんに問いかけたり声を上げる。
「ちょっとカズマさん早く、早く帰ってきて!!!! 」
アクアが必死に呼びかける。
そんな間にもめぐみんはカズマの遺体に今度はダクネスからペンを奪い、落書きを始めた。
止めるべきかと思ったがこれはカズマが帰ってきたら面白いことになりそうなのであえて止めないでおこう。
なにせ笑える下ネタなのだ。
「な、なに書いてるのよあなたは!? 」
「めぐみん、そんなこと、ダメだぞ……」
「ちょっとめぐみん!? なんてこと書くのよ!? 聖剣に失礼でしょ!! 」
「ぶっ」
女性陣がめぐみんの行動にうろたえる中、俺は笑いをこらえるのに必死だった。笑ってしまってはカズマが目覚めた際のネタばらしに繋がりかねない。
やがて書き終えためぐみんがカズマの服を元に戻していき、マントのあたりをいじっていると。
「お前、名前と爆裂狂なこと以外は基本まともだって思ってたのに俺の身体に何してくれてんの? 」
カズマが生き返り、いかにも不機嫌な顔と声でめぐみんに問いかける。
「おい。私の名前に文句があるなら聞こうじゃないか。帰らないとか……バカな冗談言うからですよ。次にそんな冗談言ったらもっとすごいことしますからね」
さすがは仲間思いでカズマに恋するめぐみんだと思わされる言葉だ。
馬乗りになっていためぐみんはカズマから退くと涙目のままそっぽを向いた。
「おい、俺なにされたんだ、ダクネス? 」
ダクネスは顔を覆ってうずくまっている。彼女の羞恥心の基準がわからない。
「アクア」
「あんた神聖な女神の口から何言わせる気よ」
アクアはフンと言いながらカズマから顔を逸らした。
「ゆんゆん」
「っ、ご、ごめんなさい!! 私の口からもとても……」
「……リョウタ? 」
「まぁ気にするなカズマ。大したことじゃない」
少しにやけを顔ににじませつつ俺はカズマの問いかけに答えた。
「俺、本当に何されたの? 」
カズマは一人げっそりした顔で混乱した。
「お風呂に入る時にでもわかりますよきっと」
めぐみんはぼそりとつぶやいた。
それから俺たちはギルドにリザードランナーを倒したことを報告し、報酬をいただくと帰路についていた。
「というかカズマ。気の合う男仲間にこれだけの美女たちに囲まれていて何の不満があって生き返りたくないなんて言ってたのよ? お金だって総資産3億4千万エリスよ? 」
「そのうち2人は実質恋仲みたいなもので残り3人は手のかかる残念な美少女だぞ。お金があったって戻ってきたくないと思わせるには十分すぎる要因がそろってると思うんだがな!? 」
カズマがアクアに食って掛かる。
「何よ、私はそんなに手はかからないじゃない!! 」
「そんなにだと? お前ら全員似たようなもんだよ!! 」
「なんですか? 私は爆裂魔法がらみ以外ではカズマに迷惑などかけていませんよ」
「爆裂魔法で迷惑かけてる自覚はあったのな」
「わ、私なんて一番の常識人だと思うんだが!? 」
「お前は万年発情中の頭の中真っピンクのめんどくさい子だ」
「め、めんどくさい子」
アクアがカズマに縋りつき、めぐみんはふくれっ面で顔を逸らし、ダクネスは落ち込む中ゆんゆんが。
「恋仲。……恋仲」
顔を赤くしてぼーっとしていた。
君もたいがい頭真っピンクだな。かわいい。
それにしてもカズマが生き返ってくれてよかった。やっぱりカズマがいないと楽しくないのだ。
「カズマ」
「あ、なんだよリョウタ? 」
アクアに縋りつかれているためか、いやそうに返事をするカズマに。
「帰ってきてくれてありがとう」
そう本心を伝えた。
「……それはヒロインから聞きたいセリフだよ」
カズマは苦笑した。
帰宅後。死んだせいで体がだるいので風呂に先に入ってくると言ってカズマがリビングから姿を消したおよそ1分後。
「めぐみん!!!! めぐみんはいるか!!!? 」
カズマが、顔を赤くしてリビングに現れた。腰にタオルを巻いただけという状態で。
「おい、めぐみん、なんだかカズマが大声でお前を呼んでぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! 」
雑誌から目を離し、カズマの方を向いた瞬間予想外の姿をしていたことにダクネスは驚き悲鳴を上げる。
「うるさぁぁぁい!!!! 」
カズマから理不尽な叱りつけを受けるダクネス。
「あわわわわ」
ゆんゆんは顔を赤くして俺の後ろに隠れ、タオル一丁のカズマと、してやったりと言った表情を浮かべるめぐみんを交互に見ている。
「ねぇカズマ。自分に自信があることはいいことだけれどそう言った自己主張はどうかと思うの」
「バカ、お前な!! めぐみんがこれ書いてるとき一緒にいただろうが!! ちくしょー!!!! お前何ほくそ笑んでんだめぐみん!!!? 」
「自業自得です。むしろその程度で済んだことをありがたく思うのですね」
「リョウタ、お前何で止めなかった!? 友達だろう!! 」
「面白そうだったからつい、見逃した」
カズマの下腹部の『聖剣エクスカリバー↓』という落書きを見てぶっと吹き出しながら言った。
「何が聖剣エクスカリバーだー!!!! めぐみんお前!! あ」
カズマが叫んだ拍子にタオルがズレ落ちる。
その瞬間アクアを除いた女性陣は顔を真っ赤にしてカズマから目を逸らした。
そんな中俺はついに爆笑し。アクアはというと。
「ふっ」
カズマの聖剣エクスカリバーを見て嘲笑した。
ゆんゆんにアクアの正体が明かされるお話でした。
アクアはアニメ版でもカズマさんのエクスカリバーを見て嘲笑していましたが、実際カズマさんの剣は如何ほどの物なんでしょうかね?