【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
夜。俺がゆんゆんにアルカンレティアに行きたくない理由を聞くべきか聞かざるべきか自室のベッドの上で迷っていると。
「リョウタ、今いいですか? 」
訪問者が来た。声からしてめぐみんだろう。
「どうぞ、めぐみん」
俺はベッドに腰かけた姿勢になるとめぐみんを招く。
「失礼します」
めぐみんがドアを開けて俺の部屋に入ってきた。
「どうしたんだいこんな時間に? 」
「いえ、ゆんゆんのことで少しお話したいことが」
俺は直感的に昼間の件であることを感じた。
「……アルカンレティアに行きたくない理由の件かな? 」
「はい」
めぐみんが申し訳なさそうな顔で返事をした。
「実はアルカンレティアはアクシズ教徒の総本山でして、変わり者がたくさんいるんです」
「……あの、アクシズ教徒たちのか? マジで? 」
「はい。マジです」
「そりゃゆんゆんも行きたがらないだろうな」
「実は紅魔の里からこのアクセルに来る際にアルカンレティアにゆんゆんと私は立ち寄っているのです」
「そこでゆんゆんはひどい目にあったのか? 」
だとしたら該当するアクシズ教徒に今すぐ報復するところなのだが。
「まぁひどい目にはあっていませんが、アクシズ教徒のフリーダムさに終始振り回されました。なのでゆんゆんは反対したんだと思います」
「なるほどね。よかった報復案件じゃなくって」
「あなたはゆんゆん関係では冗談でそう言うことは言いませんからね。ある意味恐ろしいですよ」
めぐみんが引きつった顔でそう言う。
「そりゃ好きな人をひどい目に合わせた奴に対して殺意を抱かないわけがない……。殺意はいきすぎだな。敵意を抱かないはずがない」
「訂正できるところにあなたの良識を感じます」
「ありがとうめぐみん」
素直にお礼を言う。しかし自分でも自覚はあるがゆんゆんのことになるとやはり冷静な判断力が失われかけるのはよくないことだ。今みたいに平常心の時ならズレた判断をしたことに自覚できるが戦闘中などはそうはいかない。今後の課題だな。
「それで、リョウタ、あなたにお願いがあるのですが」
「なんだいめぐみん? 」
「ゆんゆんをアクシズ教徒からアルカンレティアにいる際に守ってあげてください」
「任せてくれ。言われなくてもそうするつもりだった」
「策は考えていますか? 」
それを言われると……考えていないとしか答えようがない。
「どうしたらいいだろう。宿屋に引きこもるとかしか思いつかない」
「アクシズ教はエリス教徒を忌み嫌っています。なので、そのペンダントを首からかけておいてください」
「そうすれば寄ってこないと? 」
まるで防虫剤だな。あ、防虫剤も今度カズマと研究してみよう。
「はい。ゆんゆんとあなたはどんな時でも一緒に行動しますし。あなたが、エリス教のペンダントをつけていれば護れると思うのです」
「どんな時でも一緒ってわけでもないぞ。残念ながらね」
お風呂やトイレ、寝るときは離れ離れだ。ほかにも結構別行動を少なくとも屋敷内では取っている気がするが。
「傍から見ればそのように見えますがね」
…………。
「それを言うならめぐみんだってゆんゆんと一緒に行動することが多いじゃないか。ときどき百合百合しく見えるくらい」
「百合百合しいは余計です!! あなたにもそう見えるのですか? いえ、あなたはそう見えてはダメでしょう!! 」
「いや、百合を横から見てるのも案外悪くないぞ。好きな人が百合してるとは言えな」
百合は美しいものだ。まぁ愛の形はいろいろあってどれも美しいと思うが。
そんなことを考えていると。めぐみんが。
「それ以上言っているとあなたとカズマをホモホモしいと評しますよ? 」
俺をからかうつもりでそんなことをにやにやしながら言ってくるめぐみん。
「構わんぞ。なにせ俺はバイだ。カズマは好みだ」
さらっと本気のように冗談を言う。
「……はぁぁぁぁぁ!!!? それは本当なのですか!!!? 」
めぐみんが焦り、俺にとびかかり体を揺らしてくる。この取り乱しよう、カズマと俺の距離感が以前から親友ということもあり近いからか本気で信じてしまっているようだ。あと新たな恋敵の登場に驚いていると見える。ジョークなのに。
「もちろん冗談だ。……おいやめろ、首を絞めようとするな!! 」
さすがにジョークが過ぎたか。
「とにかくゆんゆんをお願いしますよリョウタ。今回、私もゆんゆんがあそこまで反応を示すとは思っていませんでしたから。今更、ゆんゆんに合わせて旅行を中止すればあの子は今以上に気に病むことまちがいなしでしょうしね」
「さすがはゆんゆんの親友。よくわかってるじゃないかゆんゆんのことを」
「し、親友ではありません。ライバルです」
そんなに意地を張らなくても。
「任せましたからね? 」
「了解。任された」
こうして俺はアルカンレティアにてゆんゆんを護る使命を請け負った。まぁ言われなくも普段から彼女を護っているが。
……それにしてもこの旅行では告白できる機会はなさそうだな。
翌朝。やたらと早起きなアクアに起こされて、俺は朝を迎えた。起こし方が俺の身体を超高速でゆするという物だったので寝ざめは悪い。
「もうちょっと起こし方なかったのか? 」
「だってだってアルカンレティアに行くのよ、楽しみで仕方ないんだからしょうがないじゃない!! 」
どや顔でそう言ってくるアクア。
かわいいが腹立つな。
「私、次はダクネスを起こしてくるわ。あんたもゆんゆん起こしてきなさいな!! 」
アクアがウインクしてくる。気遣いしているつもりなのだろう。
「余計なお世話だよ。まぁ俺が起こしてくるけど」
俺はダクネスを起こしに行ったアクアを見届けるとさっさと着替えてゆんゆんの部屋に行く。
「ゆんゆん。起きてるかい? 」
ドア越しに声をかけてみるが返事が無い。
寝ているのだろう。
「許可なく部屋に上がりこむのもどうかと思うな。でも早く起こさないとアクアがやってきてゆんゆんに朝から強烈なシェイクをお見舞いしそうだし……」
ここは入って起こすべきだろう。
半分優しさ、半分欲望。いや訂正しよう3割優しさ、7割欲望でゆんゆんルームにお邪魔する。
かわいらしい、いかにも女の子な部屋だな。
そう感じながら、ベッドで丸まっているゆんゆんの方に行く。
かわいらしい寝息をたてながら寝ている俺の愛する人。寝顔もやっぱりかわいい。
俺は、ゆんゆんにグウェン獲得の旅で抱き枕にされたのを思い出して少しの興奮と恥ずかしさと嬉しさを感じながら、ゆんゆんの身体をやさしく揺する。
「ん、んん」
「ゆんゆーん、朝だよ。起きてくれ」
「んぁ? 朝? 」
ゆんゆんが目をこする。
「そう朝だ。旅行に行くよ」
「旅行……。あ、そうでした。今日はアルカンレティアに行くんでした……」
ひきつった顔になるゆんゆん。
「大丈夫だ。アクシズ教徒からは俺が護るから」
「リョウタさんが護ってくれる? えへへ、うれしいです」
二ヘラと笑うゆんゆん。
「そう言ってくれるなら俺も嬉しい」
俺はゆんゆんに言われたことのうれしさで口元を緩める。
すると。
「え、待ってください。何でリョウタさんがここにいるんですか? 」
突然、声のトーンが低いゆんゆんが俺にそう言ってきた。
あれ、なんかまずいことした?
やっぱり勝手に部屋に入ったのがまずかったか?
「ご、ごめんゆんゆん」
「異性に勝手に部屋に入ってほしい女の子なんていませんよ? 」
あ、これキレてるやつだわ。顔もとがいつになく柔らかくなくて真剣だ。
ゆんゆんがゆっくりベッドの上で体を起こし俺の方を見つめてくる。
「すいませんでした」
俺はその場に膝をついて土下座した。
「べ、別にそこまでしなくっても……いいですけど」
ゆんゆんが俺から目を逸らしながら言っているのが感覚的にわかる。
「とりあえずリョウタさん……着替えて準備しますから」
「分かったよ出て行くね。ごめんよゆんゆん」
欲望のままに動くとろくなことが無い。
「いえ、反省してくれてるみたいですし。とにかくこれからは気を付けてくださいね」
苦笑するゆんゆんに見送られ、俺は彼女の部屋を後にした。
それからカズマを除いた俺たちは馬車の乗り合い所に移動した。カズマは先に乗り合い所にて馬車の席を予約しているらしかったのだが。カズマの姿が見えない。
それにしてもここに来るのは2度目だ。朝早くからだが相変わらず人の数が多い。
「ちょっと先に行って席予約しといてって言ったじゃないカズマって、なに背負ってるの? それってウィズ? 」
カズマがなんとも言えない表情をして乗り合い所の俺たちに合流してきた。アクアの言うようにウィズさんを背負っている。
理由をカズマから聞く。カズマによるとウィズさんは売れる見込みのない商品を大量に取り寄せた結果バニルに折檻されたらしい。それによって現在気を失っているようで返品作業の邪魔をしてきたら困るのでバニルに彼女の面倒を見るように頼まれたらしい(彼女の旅費は預かった)。ちなみにウィズさんは無類の風呂好きとのことだ。
「事情は分かったけど……その子透けてるわよ」
アクアがカズマの背中に背負われたウィズさんの状況を指摘する。
「ほんとじゃないか、ヤバいぞカズマ!! 」
「こういう時はこうだ!! 」
「旅か、幼いころ父とアイリス様……この国の姫様の誕生パーティーに王都に、なんだカズマ? ぬわぁぁぁぁ!!!? 」
ダクネスの首筋に手を置き彼女から生命力と魔力を奪い取り、ウィズさんに流し込んでいくカズマ。
「何をする貴様ぁぁ!!!? 人が懐かしい思い出を思い出しているときに!! 」
ダクネスが叫んでいる間にもウィズさんが透けていたのが治まる。
「非常事態だ!! この中で生命力にあふれてんのはお前だろうが!! 」
もみ合うカズマとダクネス。
「バカを言うな、リョウタに比べれば私はか弱いぞ!! おいなんだその目は!! 」
「か弱いねぇ」
「か弱いことは無いだろダクネス、俺と比べれば君の方が防御力は遥かに勝ってるしな」
「余計なことは言わなくていいリョウタ!! 」
ダクネスが俺の茶々にキレる。
そうしていると。
「あれ? ここは……」
「あ、店主さんが目を覚ましましたよみなさん」
「あ、ゆんゆんさんにみなさん。えーとおはようございます。ここはどこでしょう?」
ウィズさんになぜここにいるのか事情を説明する(もちろん彼女がバニルに厄介者扱いされて俺たちに預けられたことは伏せて)。
「まぁそうだったんですか。バニルさんもやっぱりいいところありますね。私のことこんなに気遣って温泉旅行に行くように言ってくれるだなんて」
ウィズさんはニコニコする。かわいい。
「そう言えばウィズさん歳いくつなんですか? 」
この人、リッチーになってから何年たっているのだろう?
俺がそんな疑問をウィズさんに投げかけたことに女性陣の空気が凍り付いた。
お前は何てこと聞くんだ。と言いたげな雰囲気を出している女性陣。
「あ、失言だった」
「私は20歳の時にリッチーになったので永遠に20歳ですよリョウタさん? 」
有無を言わせぬ雰囲気のウィズさんがニコニコしながら俺にそう言って顔を近づけてきた。
失言だった。というワードが余計にウィズさんを刺激してしまったのだろう。
「す、すいません」
俺は本日2度目の土下座をした。
それから俺たちは、1席がレッドドラゴンの赤ちゃんの入った篭で埋まっている馬車をアルカンレティア行きのキャラバンから選択した。理由は一番乗り心地が良さそうだったからだ。しかし席の数は1席埋まっていて残り6席だ。よって誰かひとりが荷台に移って座らなければいけなくなった。
そこで、みんなでじゃんけんをして負けた人が荷台に行くことになった。最初は飛び入り参加したウィズさんがそこに行くと言っていたのだがそれでは旅費もバニルからカズマが預かっているのに不公平なので普通にじゃんけんになった。
そして、まずカズマが1抜けする。その瞬間駄女神様は何かを(主に自分の幸運値の低さから)察したようで、このじゃんけんは勝ち抜けではなく、7人でじゃんけんして1人の敗者を決めるまで続けるルールだと言い始めた。
ものすごく非効率なその案に文句を言ったカズマが、「じゃんけんで3回勝負して1回でもアクアが勝ったら自分が荷台に行く」と言い出した
そして、小さなころからじゃんけんで負けたことのないらしいカズマは見事に3回ともアクアに勝利し、アクアに泣きながら縋り付かれていた。
「お願いもう一回だけ!! もう一回だけ勝負してよカズマさん!! 」
「……本当にこれで最後だぞ、これで負けたら大人しく荷台に行けよ? 」
「受けたわねカズマ、受けたわね!! ブレッシング!! 」
「あ、こいつ汚ねぇ!! 魔法で運上げやがったな!! 」
アクアの周りにキラキラした光がまとわりつく。エリス様のセイクリッドハイネスブレッシングと比べたらしょぼいな。さすが俺の信じる幸運の女神エリス様だ。
それからアクアとカズマの最終決戦が始まり、一瞬で終わった。
結果は言うまでもなく、元の幸運値が高いカズマだった。
ブレッシングの原理が運を足すのか運をかけるのかは知らないが、元が低すぎるアクアには大きな効果をもたらさなかったようだ。
「うわぁぁぁん なんでよぉぉぉ!!!! 」
「ほら大人しく荷台に移れ駄女神」
「そうですね、アクア負けましたし」
「ここは大人しく荷台に移れよアクア」
カズマ、めぐみん、ダクネスに言い聞かされるアクア。
「アクアさんよく泣きますね」
苦笑するゆんゆん。
「アクア様は確かに泣かれているところを見ることが多いですね」
ウィズさんも苦笑しながら言う。
「あ、ゆんゆん。ウィズさんもアクアが女神であることを知ってる1人だ」
「え、そうなんですか店主さん? 」
「はい。私もアクア様が女神であることは……体感して理解していますので」
「ああ……」
ゆんゆんがウィズさんに同情するような視線を向けた。
「なんてこと、カズマは生まれながらのチート持ちだったんだわ。じゃんけんに絶対に負けないというチートを。だったら、私を天界に還してよこのクソチート。あんたにはもうチート能力が一つあるじゃない!! 」
「てめぇこのクソビッチが!! 俺の能力はじゃんけんに勝てる能力ってか!? おいこんなんでどうやってモンスターや魔王軍と戦えって言うんだよ!? あぁあん? というか一番むかつくところ自分が俺のチートアイテムだと思い込んでるところだ!! ふざけやがって!! お前を返品してチート能力だのアイテムだのをの一つでももらえるんだったらさっさと返品してやるところだ!! 」
「むぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!! カズマが一番言っちゃいけないこと言ったぁぁぁぁ!!!!!!!! 」
喧嘩を続けるカズマとアクア。
「お客さーん、そろそろ出発しますよ!! 乗らないと置いてっちゃいますよ!! 」
騒がしい俺たちに御者のおっちゃんが声をかけてきた。
それからアクアは荷台に乗せられ、俺たちは客席に乗って馬車に揺られる旅が始まった。
現在俺たちは街の外に出ている。
めぐみんはレッドドラゴンの赤ちゃんの入った篭を自分の膝に置き「ちょむすけの方がかわいいですね」と言いつつも、満更でもなさそうな表情でレッドドラゴンの赤ちゃんを眺めている。ウィズさんはちょむすけを膝にのせてかわいがっていた。なぜかちょむすけはかなりウィズさんになついている。ダクネスは窓から見える景色を子どものような顔で見ている。街からあまり出たことのないらしい貴族のお嬢様にとっては非常に珍しい光景なのだろう。カズマはそんなみんなを見て優しげな表情を浮かべていた。
俺はというと、自然と隣に座ることになった(というかみんなが気を利かせてくれている節がある)ゆんゆんと雑談していた。
「今回は何もなく安全な旅になると良いですね」
「そうだねゆんゆん」
「この前は結構行きは戦いましたからね」
「アルカンレティアまでは1日半で行けるらしいし、そう考えるとモンスターに遭遇する可能性も低いさ。まぁ襲われたって俺たちが出張れば瞬殺できるだろね。多分」
「私は中堅でリョウタさんは上級冒険者ですからね」
「自分でもこんなレベルになってアクセル1になるとは思わなかったよ」
半年くらい前では想像だにしなかったことだ。まさか自分がある集団の中で一番上位の存在になるだなんて。
「これまでたくさんの強敵を打倒してきましたからねリョウタさんは」
「最後の強敵と言えそうなのはバニルかな……。あいつには完敗だったけどね」
「あははは……そうですね」
「でもおかげでいろんなしがらみが取れた」
「はい」
ゆんゆんがまるであの時を思い起こさせるような優しい笑みを浮かべる。
「ゆんゆん。その笑みは反則だ。尊すぎる」
「と、尊いんですか? 」
「うん。その笑みを浮かべられると心が安らぐよ」
「そ、その、そう言ってもらえると嬉しいです」
「う、うん」
はにかむゆんゆんに俺は照れさせられた。
しかしよかった。今回の旅行がゆんゆんは嫌そうだったがそれでも思ってたほどではなかったようだ。なんだかんだでみんなと旅行をするというのはゆんゆんにとって楽しみなようだ。
ゆんゆんとの会話の中でそんな思いを抱く中、キャラバンはアルカンレティアへと進んでいった。
勝手に部屋に入られると誰だって怒りますよね。ましてやそれをやったのが好きな人となると女の子はとても困ると思います。
それにしても原作通りですがカズマさん本当に運がいいですね。そしてアクア様は運が悪すぎますね。