アルカンレティアは青い建物が並び、水と温泉の都と言われる通り各所に水路が張り巡らされ、温泉宿が立ち並んでいる美しい街並みのところだった。温泉が湧き出る大きな山が後方にそびえ、澄んだ湖に多くの水路がつながっている。失礼ながらアクアの信者たちの総本山だというのにこんなに美しいとは拍子抜けである。
現在時刻は昼前。アルカンレティアに俺たちを乗せた馬車は到着した。
「それではどうぞごゆっくり。この温泉街を楽しんでください!! いや、本当に助かりました。ありがとうございました!! 」
俺たちはキャラバンのリーダーのおじさんから何度も頭を下げられながら人数分の宿泊券をいただいた。頑なに礼金を受け取らない俺たちに、せめてものお礼として受け取って欲しいと言われ仕方なく受け取ったものだ。
おじさんがいなくなった後。
「もらっちゃいましたね……」
申し訳なさそうな顔のゆんゆん。
「そうだねっと」
俺は背中に背負っているものの位置を整える。俺は今ウィズさんを背負っていた。なぜ彼女を背負っているかというと、昨晩のアクアのセイクリッドターンアンデッドに巻き込まれてしまいダメージを負ってしまったからだ。そのため現在意識が無い。
「まぁマッチポンプみたいなもんだけど貰っちまった以上は仕方ない。ありがたく使わせてもらおう」
苦笑しつつカズマが言った。
「ついに来たわ。来たわよ!! 私の可愛い信者たちのいるアルカンレティアに!! 」
アクアは一人盛り上がっていた。その一方でゆんゆんはアクアの発言を受けて少し表情が曇った。
エリス教のペンダント出さないとな。あ、でも今はウィズさん背負ってるから無理だわ
「そう言えばめぐみんドラゴンにどんな名前を付けたんだ? 」
ダクネスは街をキョロキョロ見回しながら、めぐみんに問う。
「じゃりっぱです」
「じゃりっぱか。そうか……そうか」
ダクネスはキョロキョロするのをやめてめぐみんのネーミングセンスにほかに何かを言うでもなく黙り込んだ。
「お前の被害者がまた増えたか。俺の刀の件といい。どうにかならないのかそのネーミングセンスのなさは」
「はぁー。じゃりっぱやちょむすけ、ちゅんちゅん丸。どれも素晴らしいでしょうに。わからない人ですね。あなたも」
「わかってたまるか」
カズマは吐き捨てるように言った。
「しかしここは本当に平穏そのものだな。確かプリーストがたくさんいるから魔王軍にとっては戦いずらいからなんだっけ」
俺は活気に満ち溢れている人々を見てそうこぼす。
「ああ、そうらしいぞ。魔王軍にとってはアクシズ教徒がしぶといということもあってこの街と、魔王城からかなり離れているアクセルの街。王都付近にありながらも戦略的に価値のないリップルを中心にしたいくつかの街以外は逆に多くの被害が出ているな」
ダクネスが物悲しそうに語る。
「せっかくの旅行なのですからそんな辛気臭い話はなしにしませんかリョウタ、ダクネス」
「そうよ、アルカンレティアの雰囲気に似合わないわよ。もっと明るくなりなさいな、ダクネス、神殺し!! 」
アクアが俺とダクネスに満面の笑みを振りまいていると。
「ようこそアルカンレティアへ!! 観光ですか? 入信ですか? 冒険ですか? 洗礼ですか? 」
「仕事をお探しならぜひアクシズ教団へ!! 」
「今ならアクア様のすばらしさを他の街で説くだけでお金がもらえて、しかもアクシズ教徒を名乗ることができる仕事があります!! 」
アクシズ教徒と思わしき集団が俺たちに話しかけてきた。
アクアに関してはその髪と目を女性信者に褒められ羨ましがられている。
「おいアクア、ちょっとこっち来い」
カズマがアクアを呼ぶ。アクアは不思議そうな顔で素直にそれに従う。
そして何かを耳打ちすると、アクアは自信ありげな顔をして。
「心配しないのよカズマ。私だってバカじゃないわ!! それより早く街中に入りましょ? なんたってここはアクシズ教団の総本山でもあるのよ!! 」
「そうなんですよねー。はぁー」
ゆんゆんがため息をつく。
「あ、あのおかしいことで有名なアクシズ教徒の本拠地かよ……!! そりゃゆんゆんも来たがらないわけだ」
「はい、そうなんです」
カズマとゆんゆんが小声で会話する中、アクシズ教徒たちはどんどん数を増していく。
「えっと、うちにはアクシズ教のプリーストがいるので。今日は観光にきたんですよ」
カズマが取り繕った笑顔でそう告げるとアクシズ教徒たちは。
「そうでしたか、さようなら同志、あなた方がよき1日を過ごせますように!! 」
そう言って手を振った。
俺たちは速足で彼らから距離をとる。
アクアを除いた女性陣は全員ほっとした顔をしている。
俺も同じような顔をしているだろう。
「やべぇな、あいつら」
「ああ、避けられてる理由がよくわかるぜ」
俺とカズマはひそひそと話す。
「ねぇみんな、私ここの教団本部に言ってアークプリーストとしてちやほやされてくるわ!! 先に宿に荷物を置いておいてくれる? 」
「はぁ? お前は」
カズマが何かを言いかけたが、アクアは言いたいことを言い終わるころには駆け出していた。
「さっき言ったこと忘れてないだろうな」
心配げにぽつりとつぶやくカズマ。
「そうしたんだカズマ? 」
「いや、あいつにさすがにここでは偽名を使うように言ったのと女神であることは絶対にばらすなよって伝えたんだ。さすがに忘れてないと信じてはいるが……」
「あのカズマカズマ」
「はいカズマです。なんだめぐみん? 」
「アクアが心配なのでついて行ってきますね。ちょむすけをお願いします」
「了解。頼んだぞめぐみん」
アクアとめぐみんがいなくなった後、俺たちは宿屋に足を運んだ。
宿屋に到着すると、そこは地球の洋式のホテルを連想させるような場所だった。宿屋と聞いていたので和風のイメージがあったが違っていたようだ。それとこの宿屋。規模がやたらと大きい。貴族御用達とかそう言う感じの格式も高そうな場所だった。
俺たちは宿屋の割り当てられた部屋に荷物を置く。女性陣5人の部屋と、男2人の部屋に分けられている。
「リョウタ、ゆんゆんと俺が変わろうか? 」
男部屋にて、にやにやしながら言ってくるカズマ。
「それはありがたいがさすがに無理だろ」
「だろうな」
そんな会話をしながら、女性陣の部屋へと移動する。
「この後どうするみんな? 」
「とりあえずは街の観光をしたいところだがウィズがこの調子だからな……」
「あ、じゃあ私が看病しているので皆さんは街に観光に行ってきてください」
「いやゆんゆん。リッチーなんだから看病のしようが無いだろう」
「うぅ……」
俺のツッコミにうなだれるゆんゆん。
「とりあえず、ウィズは置いて観光にでも行こうぜ。まぁ見てて良くなるわけじゃないしさ」
カズマがそう提案する。
「そうだな。では観光に行こうか。二人はどうする? 」
ダクネスが俺とゆんゆんに問いかける。
「俺はとりあえず街の外に出てみようとは思うんだが。ゆんゆんはどうだい? 」
「リョ、リョウタさんが行くなら私も」
「安心してくれゆんゆん。アクシズ教徒を避ける手段もちゃんとある」
「え、本当ですか? 」
「ああ。だから安心してくれ。ダクネスもその時が来たら手伝ってくれ」
「ん? なんだかよくわからないが決まりだな」
「おう、じゃあ、ダクネス、リョウタ、ゆんゆん。観光に出発だ」
「ああ。Wデートと洒落込もう」
俺がにやけながらそう言うと。
「お前何言ってんだ!? 」
「デ、デート、カズマとデート? 」
「リョ、リョウタさんはそんなことさらっと言って……もう」
各々面白い反応を見せてくれた。
ウィズさんが起きたら俺たちは街に出ていることを伝えてくれと宿屋の人に頼み、いよいよ俺たちは観光を始めた。
「おい見ろみんな、エルフとドワーフがいるぞ!! 」
「本当だな!! 」
テンションの上がるダクネスとカズマ。
「並んでいるところを見るのは初めてだな。アクセルの街にもいるにはいたけれど」
「そうですねぇー」
エルフとドワーフは喧嘩しながら、双方の販売する商品を売り捌いていく。
「私は両方から、まんじゅうを購入しようと思うんだがみんなはどうだ? お父様や使用人たちにお土産として買って帰りたいのだ!! 」
「いいぞーだったらたくさん買わないといけないだろダクネス。俺も並ぶよ」
「だったら2班に分かれよう。ダクネスとカズマがエルフの方のまんじゅうで、俺とゆんゆんの方はドワーフの方の饅頭だ」
「「「了解!! 」」」
俺たちは買う量をダクネスから聞いた後、行列の出来ている双方の列に並んだ。
俺とゆんゆんが買うのは肉まんじゅうだ。俺たちが買う番になると店主のドワーフが日持ちもして肉汁たっぷりでおいしいと説明してくれた。
「まいどあり!! ほれ見たかエルフ!! 今日はうちの方が客がたくさん来たな」
「まいどあり!! 全く、客の数だけでしか語れないとは愚かな。売り上げも考えることですね」
ちょうどカズマとダクネスのペアも買い終えたようでこっちに駆けよってきた。
「せっかくだ。いくつかベンチにでも座って食べないか? 」
「そうだねダクネス。カズマ ゆんゆんもいいか? 」
「ああもちろんだ」
「どっちのまんじゅうの味も楽しみです!! 」
そして俺たちは、噴水が中心に備えられた公園の方に向かう。噴水の前にはベンチがあった。俺はあの装備を新調したときのことを思い出す。
すると。
通りすがりの若い女性が俺たちの横で躓き、リンゴをぶちまけた。俺たちはそれを拾う手伝いをすると。
「どうもありがとうございました。親切な人たち。何かお礼をさせてはもらえないかしら?
」
結構きれいな女性で、彼女の視線がややカズマを中心に注ぎ込まれていることから、カズマはほおを緩め、それを見たダクネスは嫉妬からか少しムッとする。
女性は言葉を続ける。
「この先にアクシズ教団が運営するカフェがあるのでそこでお礼を」
「結構です」
カズマはきっぱり断った。しかしカズマに占いがどうだとか言って追いすがってくるアクシズ教徒の女。
ゆんゆんは頭痛がするのか頭を押さえ、ダクネスはどうしたものかと思索している。
俺は思索するダクネスに対処法を耳打ちする
「なるほど、さすがはめぐみんだな」
「だろ」
「今占いの結果が出ました、あなたには近いうちに不幸が訪れることでしょう!! しかしアクシズ教に入信すればそれを回避できます!! 」
「今まさに不幸に遭遇してんだよ、はな、放せー!! 」
「「おいアクシズ教徒」」
「うん? 」
「俺たちはエリス教徒だ」
「その男を勧誘したければまず私たちに断りを入れるんだな」
「ぺっ!! 」
女性が道に唾を吐いた。
そして少し離れ振り返ってもう一度。
「ぺっ!! 」
…………。
「むかつくなアクシズ教徒」
「さすがは、あの駄女神の信者なだけのことはある」
「んん!! 」
「だ、ダクネスさん? 」
「おいまさか今のぞんざいな扱いで興奮したんじゃないだろうな。ララティーナお嬢様」
カズマが引きつった顔でダクネスを見つめる。
「してない」
ダクネスは赤い顔で否定した。
嘘つけ興奮してただろ。
「まんじゅうおいしいですね!! 」
「俺は肉まんじゅうが気に入ったよ」
「俺は珍しくアルカンまんじゅうの方が好きだな。普段は肉系なのに」
「私は両方とも好きだな」
ゆんゆん、俺、カズマ、ダクネスは公園のベンチに仲良く並んでまんじゅうを食べていた。
「もう一個食べよう」
俺は肉まんじゅうに手を伸ばし、口に運ぶ。カズマもアルカンまんじゅうに手をのばしほおばる。
するとダクネスがおもむろに。
「しかし、なんだ。……これでは本当にWデートだな」
「ごふっ!! いきなり変なこと言い出すなダクネス!! まんじゅうがのどに詰まるところだったろうが!! 」
「す、すまないカズマ!! 」
「で、でもそんな感じですよねこれって。Wデート……」
ちらちら俺の方を見てくるゆんゆん。かわいい。
「乙女な2人にとってはなかなかに来るものがあるシチュエーションなんじゃないか? 」
俺の軽い調子の発言にしばしばの空気が凍る。
やがて。困り顔のゆんゆんとダクネスが。
「それはそうなんですけど」
「それを言ってしまったらなんだかこの雰囲気がぶち壊になってしまった気がするぞ」
「……ごめん」
こういう一歩引いた言葉を発するときは気を付けないといけないな。
俺が客観的感想を言うのを次から自重しようと考えていると。
「なぁダクネス。お前って俺のこと好きなのか? 」
カズマが、突然そんな確信を突いたことを言った。
「なっ、何を言い出すんだお前はぁぁぁ!!!? 」
「かっ、カズマさん!? 」
「普通聞くのか、このタイミングで!? 」
ダクネスとゆんゆんと俺が驚愕する中、カズマは言葉を続ける。その目はやや泳いでいる。
「いやだって、ダクネスは俺のことが好みのタイプらしいしー。なんかWデートっていうシチュエーションで盛り上がってるみたいだったから……。あー忘れろ、忘れろ!! 」
真っ赤な顔で俺たちに懇願するカズマ。
「う、うむ忘れることにしよう」
ダクネスはなんだか少し嬉しそうにそう言った。
どうせならここで「実は私はお前が好きなんだ」とか言ってしまえばよかったのになダクネス。もったいない。
「と、とにかくそろそろ動こうぜ、腹ごしらえも済んだことだしな!! 」
カズマが、無理にそう言っているのがまるわかりだがあえて指摘しないでおこう。
「そ、そ、そうだな。……次はどこへ行こうか? 」
「適当に歩いて散策でよくないか? 」
「そうですね、街並みは綺麗ですし」
その後、俺たちは街の中を目的もなく歩いた。時々お土産屋さんによって、ご当地グッズを購入する。中には女神アクア人形と言ったものもあったがアクアとは人形なのに雰囲気が微妙に違っていた。何と言うか荘厳な感じなのだ。そもそも街の至る所にある女神アクアの像も「詐欺だ」と思わせるような美しい彫刻だった。アクアは確かに絶世の美女なのだが像のように真面目であったり慈悲深い顔をしていたのは、キールダンジョンで以外見たことが無いからそう思わされたのだろう。
「しかしアクアは、本当に女神アクアにそっくりなのだな。女神らしさはみじんも感じないが能力の高さは神がかっているし像の表情はともかく顔つきはそっくりだし、服装も伝承の物とたがわない。本当に女神なのか? いや、まさかな」
ダクネスが苦笑気味にそう言う。
(((実は本当に女神なんです)))
俺とゆんゆんとカズマは同じことを心の中で呟いたのだろう。自然と顔を見合わせ微妙に笑った。
すると人通りの少ない道に差し掛かり、川沿いの道を歩いていると。
屈強な大男とそこそこかわいい美女がこちらに駆けてきた。
美女は言う。
「ああ、助けてくださいそこの旅の方!! この邪悪そうなエリス教徒と思わしき男が私を追い回すんです!! 」
大男も言う。
「へっへっへっ、そこの兄ちゃんたちアクシズ教徒じゃないな。強くてかっこいいアクシズ教徒相手なら逃げ出したところだが、そうじゃないなら遠慮はいらないぜ!! 暗黒神エリスの加護を受けた俺様の邪魔をするんじゃねぇぞ!! 」
「ああ、なんてこと。私の手元には偶然にもアクシズ教入信書が。これに名前を書いてくれればこの邪悪な男は去っていくのに」
俺たちはくるりと方向転換し、彼女らを無視した。
「ああ、見捨てないで旅の方。今入信すればアクア様から超パワーを授けられて、強くなれますよ。きっとこの暗黒神エリスの加護を受けた男も逃げ出すことでしょう!! 」
「そうだぜ!! しかも今なら芸達者になれる特典までついてくる!! あとアンデッドモンスターに好かれやすくなったりと――――」
ああもう限界だ。ゆんゆんは顔が青ざめてるし、エリス様を。あの崇高なお方を暗黒神呼ばわりされて引き下がれるか!!
「おいアクシズ教徒どもこれを見ろ!! 俺たちはエリス教徒だ!! 」
エリス教のペンダントを懐から取り出し。見せつける。
「私たちの前でエリス様を侮辱するな!! 」
ダクネスも吠える。
「「ぺっ!! 」」
その瞬間。美女と大男は同時に唾を吐いた。そして遠ざかってもう一度。
「「ぺっ!! 」」
………。
「エリス教徒の恐ろしさ見せてやろうかアクシズ教徒ぉぉぉぉ!!!! 」
俺は大男に瞬間的に追いつくと体をゆすつた。
「な、なにをするやめろ暗黒神の手先め!! 」
「お前も同類なんだろ、エリス教徒なんだろ!! なら仲よくしようぜぇぇぇぇ!!!! 」
「ち、違う、俺はアクシズ教徒だ、は、放せ邪教徒!! 」
女の方のアクシズ教徒は逃げていった。
「俺と君は友達だ!! 一緒にエリス様の美しさについて語り合おうぜぇぇぇぇ!!!! 」
俺はルーンナイトのパワー全開で大男を抑えつけながらまくしたてる。
すると。
「リョ、リョウタさん。その辺で!! 」
「キレる気持ちもわかるがお前も頭のおかしい子に見えるからやめとけ!! 」
ゆんゆんとカズマに言われ、俺は大男を解放した。大男は大急ぎで、女のアクシズ教徒の行った方に逃げていった。
「勝った」
俺は一言呟いた。
もうあんな連中に絡まれるのはごめんなのでエリス教のペンダントは出したままにしておこう。
原作ではカズマさんはエルフ&ドワーフにすら異世界ファンタジーの夢を粉砕されますが本作では夢が壊されることはありませんでした。めでたしめでたし。
ちなみに私はアクシズ教の教義に心を救われたのでアクシズ教の教義は素晴らしいものだと思っています。なのでアクシズ教徒かもしれませんが、他の信者の様にエリス様を暗黒神だとか思ったりはしていません。というかなんでエリス様ってアクシズ教徒から暗黒神扱いされるんでしょうか? 理由が気になります。