【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:菅原リディ

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058 陰謀渦巻く露天風呂

 俺とダクネスがエリス教のペンダントを出したまま歩いていると、アクシズ教徒がそれを見て「ぺっ」と唾を側で吐きまくった。ほかにもぞんざいな仕打ちも少し受けた。ペンダントに気づかず寄ってきたアクシズ教徒は様々な方法で勧誘してきた。

 

 例えば。

 

「おめでとうございます。あなたはこの大通りを通られた百万人目です。記念品を贈呈したいのですがスポンサーがアクシズ教団でして、ほんの書類上だけですので入信という形にさせていただいてもよろしいですか? 」

 

 だったり。

 

「あっれー、久しぶり!! 私が誰だかわかる?ほら同じ学校で同じクラスだった私だよ!! あっ、わかんないかー。私アクシズ教徒になってすごくきれいになったからね!! 」

 

 などという具合である。

 

 前者に関しては書類上だけでもアクシズ教徒になるなんて冗談じゃないと思わされるし。後者に関してはそもそもこの国に教育機関は紅魔の里の学校と魔法学院だけだろと突っ込みたかった。なにせ全くウィザードの雰囲気が無かったのだから。

 

「ゆんゆん、大丈夫か? 」

 

 ダクネスがゆんゆんを心配する。

 

 俺も心配だった。なにせゆんゆんはアクシズ教徒に勧誘されるたびにどんどん顔が青くなっている。

 

「大丈夫かい? ゆんゆん」

 

「少し、カフェで休憩しようぜ!! 」

 

 カズマがゆんゆんを気遣ったのだろう。そう提案する。

 

「すいません。…………」

 

 ゆんゆんの表情が優れないのを見て、俺とカズマとダクネスは顔を見合わせた。

 

 これは宿に戻った方がいいだろうか? いや戻った方がいいだろう。

 

 カフェで一息ついたら戻ることを提案するか。

 

 みんなで丸テーブルを取り囲み、しばらくすると注文したドリンクが運ばれてくる。

 

 すると。

 

「エリス教のお客様たちにはこれを。サービスです」

 

 ウィットレスはドッグフードの入った器を地面に置いてきやがった。

 

 こいつら、ぶっ殺してやろうか。

 

 俺がそう思う一方、ダクネスは嬉しそうだった。

 

 そしてカフェで一服した俺たちは宿に戻ることにした。普段は自分なんかのために申し訳ないですよと言いそうなゆんゆんも遠慮することなく賛成した。

 

 そして路地を歩いていると。

 

 小さな女の子が俺たちの前でこけた。

 

「おっ、大丈夫か? 」

 

 カズマが駆け寄り、女の子の膝についた汚れを払ってあげる。

 

「ありがとうおにいちゃん!! 」

 

 素直にカズマにお礼を言う女の子。こんな頭のおかしい教団の本拠地にもこんなにきれいな心をした子供がいるだなんて癒されるな。

 

「ほら立てるか? 」

 

「うん大丈夫!! 」

 

 カズマに手を貸されながら立ち上がる女の子。

 

「ねぇ親切なお兄ちゃん、お名前教えて? 」

 

「俺はサトウカズマだよ。こっちの怖そうなお姉ちゃんがダクネス」

 

「お、おい、私は怖そうに見えるのだろうか」

 

「それでこのバカップルがリョウタにゆんゆんだ」

 

「何言ってるんですかカズマさん!? 」

 

「まぁ近い将来そうなる予定だよ」

 

「りょ、リョウタさぁん……」

 

 ゆんゆんはかわいい。

 

「サトウカズマってどんな字を書くの? 書いてみてお兄ちゃん!! 」

 

「うん、いいぞー」

 

 カズマが女の子から紙とペンを受け取ると。直後に硬直した。

 

 俺たちがなぜ硬直したのかカズマの渡された紙を見て理解した。

 

 脳が理解を拒みそうな真実だった。

 

 カズマが渡されたのは、アクシズ教団の入信書だった。

 

「くそったれがぁぁぁぁ!!!!!!!! 」

 

 カズマが入信書を引き裂いた。

 

「おにいちゃーん!!!!!!!! 」

 

 アクシズ教徒の叫び声がこだました。

 

 そんな中ゆんゆんの目がキリキリと吊り上がり。

 

「めぐみんのバカぁぁ!!!!!!!! 」

 

 と叫んだ。

 

 どういうことだ?

 

 

 

 

 さっきの女の子のアクシズ教徒の件で完全に怒りに火が付いたカズマに俺にゆんゆんは、ダクネスとともにアクシズ教団本部の教会に来た。

 

 そして。

 

「責任者出てきやがれ!!!!!!!! それから!! それから……!! 」

 

「めぐみんどこよ!? 出てきなさい!!!!!!!! 」

 

 カズマとゆんゆんが扉を開け次第大声で叫んだ。

 

 こんなキレ方をするゆんゆんは初めてだ。

 

 だがキレる理由はよくわかる。なぜならば、今回のアクシズ教団の勧誘方法はすべてめぐみんが提案してできたものだからだ。ゆんゆん曰く、めぐみんがアルカンレティアを経由してアクセルへと来る際に、お金を稼げずに食べ物にも困っていたところをアクシズ教徒に助けられその恩返しにと勧誘方法をいくつも案として出したらしいのだ。

 

 今回俺たちがアクシズ教徒に困らされたのはめぐみんに責任があると言えるだろう。考えたら腹が立ってきた。

 

「なんてカルト集団にとんでもないことを教えてるんだよ!! めぐみん出てこい!!!! 」

 

 俺も声の限り叫んだ。

 

 教会の中には床掃除をしている女性信者が一人いた。

 

「どうしたのですか? そんなに怒鳴って。入信ですか改宗ですか? 」

 

「どっちでもないわ!! 」

 

 カズマが女性信者に叫ぶ。

 

 女性信者はあくまで平静な顔で。

 

「最高司祭ゼスタ様を始め、他の信者の方たちは布教活動という名の遊び……いえ、アクア様の名を広めるための活動に出られていますが? 」

 

「じゃあ責任者のことはどうでもいい!! ……眼帯を付けた魔法使いの女の子と水色の髪のプリーストがこなかったか? あいつら俺たちの仲間なんだ!! 」

 

「あのお2人のお連れの方でしたか。お2人なら奥にいますよ? ……ところで邪教徒のお2人はのこのことアクシズ教本部に乗り込んでくるだなんて、ここで保護している子供たちに石を投げられたいのですか? 」

 

「おい、そんなクソガキをけしかけてみろ。子供と言えど容赦せずに石を投げ返すぞ」

 

 俺は顔に青筋を浮かべながらアクシズ教徒の女性に言い返す。

 

「まぁ怖い。さすがエリス教徒。子供にも手を上げるだなんて」

 

「やかましいわ!! 子供を勧誘の道具にしている邪教が正論を語るな!! 」

 

 全く、こいつらはどうかしている。ゆんゆんがフリーダムな連中だと言っていたが本当にそうだ。こいつらは自重という言葉を知らない。

 

 ダクネスが「子供に石を投げてもらえる? 」などと言って少し興奮している中、俺とゆんゆんとカズマは教会の奥へと足を踏み入れようとすると。

 

「みんな、来てくれたのですか? 」

 

 ちょむすけを胸元に抱えた涙目のめぐみんが姿を現した。

 

「お前のせいで散々な目にあったんだぞ!! ってなんで涙目なんだ? それにその入信書をいたるところにねじ込まれて……」

 

 カズマの声のトーンが怒気をはらんだものから困惑のものへと変わっていく。

 

「めぐみんあなたねぇ!!!! 今は怒りたいところだけど……なんでそんな泣きそうな顔なのよ? 」

 

「私の考えだした勧誘方法をさらに凶悪にしたものをされて、道中彼らに入信書をいたるところに突っ込まれました。ここはアクシズ教の本拠地ですがこのお姉さんとアクア以外アクシズ教徒がほとんどいないので安心していたところだったのです。あとはみんなが迎えに来てくれるまで震えて待っていました。私のせいで嫌な目にあったようなのでごめんなさい。それと迎えに来てくれてありがとうございます……」

 

「めぐみん……」

 

 ゆんゆんがめぐみんを哀れむ。

 

「は、早く帰りましょう」

 

 俺たちの輪の中に入ってくるめぐみん。よっぽど怖かったのだろう。ゆんゆんのグウェンのすそを握った。

 

「じゃあ後はもう一人だな」

 

 カズマが女性信者の方を見る。

 

「お連れ様のもう一人のプリーストの方は、今当教会のプリーストが出払っているので懺悔室の方をお任せしています。そこにいらっしゃると思いますよ」

 

「ちょっと行ってくる」

 

 進み始めるカズマに。

 

「頼んだ。俺たちはめぐみんに説教でもしてるよ」

 

 そう伝えた。

 

 そうしてめぐみんへの説教をゆんゆんと俺で行ったのだが、めぐみんはただでさえ辛そうだったのにさらにへこんでしまい、不憫になってきたため説教はやめた。

 

 そもそもすでにアクシズ教徒にひどい目にあわされていたのだから説教するのはやりすぎだったかもしれない。反省だ。

 

 そのように考えていると、暗い面持ちの男性が懺悔室の方へと歩いて行った。俺はその男性の方を見た時、ふと、窓の外に黒焦げになった大きな石が目に入った。

 

「あのアクシズ教徒さん」

 

 女性信者に尋ねる。

 

「なんですか邪教徒さん? 」

 

「あの黒こげの石はなんです? 」

 

 いやな予感がする。

 

「ああ、あの石は1年ほど前にここのプリースト総出で浄化した破壊神デストラクターの封印していた要石ですね。え、ちょっと何をしようというのですか邪教徒!! 」

 

 俺は無言で女性信者を殴りつけたくなる衝動にかられ、手が出そうな右腕をひたすら左腕で押さえつけた。ゆんゆんたちに「気持ちはわかるけれど落ち着いて」と言われ俺はどうにか落ち着いた。

 

 

 

 それから、結局アクアはこの教団本部の自慢の温泉に浸かるということになり俺たちとは別行動になった。そして、俺たちは夕方ごろ宿に戻った。帰りも何度かアクシズ教徒に絡まれたためぐったりとしている俺たち。ただしダクネスだけはつややかだ。きっとエリス教徒であるとわかるたびにぞんざいな扱いを受けたのがよかったのだろう。

 

 そして女性陣の部屋にて。

 

「あっ皆さんお帰りなさい。ご心配をおかけしました。復活したので温泉に先に入らせてもらってました。混浴の方の露天風呂。とても広いですよ。人がいなかったので貸し切りみたいでした」

 

 ウィズさんがほこほこしながら言ってきた。

 

 へー。

 

 え。

 

 混浴風呂あんのここ?

 

 ふと横を見ると悔しそうな顔をしているカズマ。

 

 ああ、ウィズさんと一緒に入りたかったんだな。気持ちはわからんでもない。

 

「それで観光の方はどうでしたか皆さん? 」

 

「アクシズ教のせいでこの街はいろいろおかしい」

 

 カズマが悲しそうに言う。

 

「アクシズ教徒怖いです」

 

 めぐみんも。

 

「明日はもう外に出たくないです」

 

 ゆんゆんも。

 

「私は明日も出て回りたいぞ!! 」

 

 ダクネスは嬉しそうだ。

 

「俺もゆんゆんに合わせて宿に引きこもることにするよ」

 

「そんなに観光は過酷だったんですか? 」

 

「「「「はい」」」」

 

 ダクネスを除いた4人で返事をする。

 

「さてと、それじゃあ俺は風呂にでも入るかな、心の疲れを癒しに。リョウタも行くか? 」

 

「ああ、そうするよ」

 

 俺たちは着替えを取りに男部屋に戻ろうとすると。カズマは立ち止まり。

 

「俺たちは風呂に入ってくるから」

 

 おもむろにつぶやいた。おまえらもくるか? というお誘いのニュアンスがあるのだろう。

 

「聞こえましたよ? 」

 

「行ってこい」

 

 めぐみんとダクネスが返事をする。

 

「俺たちは風呂に入ってくるから」

 

「あの、聞こえてますよカズマさん? 」

 

「俺たちは風呂に」

 

「「早く行け」」

 

 当然お誘いは断られた。

 

 

 

 

 

「リョウタ。もちろん混浴に入るよな」

 

「当然だ。性欲に従う」

 

「ははっ!! だよなー」

 

 俺とカズマは3つある露天風呂への入口の前でそんなことを話していた。俺たちが進むのはもちろん真ん中の混浴である。

 

 脱衣所に入り、服を脱ぎ、腰にタオルを巻くと、いよいよ混浴風呂という名のパラダイスにつながる戸に手をかける。

 

 ここを通れば女性の裸体を合法的に見ることができる天国が待っている。

 

 しかし、そんな天国から聞こえてきてはいけないような会話が俺とカズマの耳に届いた。

 

「お前たちの協力があればこの街も完全に壊滅させられる。10年、20年かけて資金源を破壊するよりずっと効率的だ。あと気分がいい」

 

 屈強そうなイメージを抱かせる男の声だった。

 

「そうですね。アクシズ教徒というのは破壊するのもはばかられる気分の悪い存在ですからね……。それにしても我々のために計画変更を迫ってすいません」

 

 次いで丁寧な口調の男の声。

 

「なに、気にするな。正攻法でアクシズ教団を潰せないのは癇に障ることだったからな。だが、お前たちの協力があれば真正面から渡り合える」

 

「私は今回は魂の収集に専念させてもらいますから援護はできません。その代わりに妹があなたの直掩兼誘導係になります」

 

「お任せくださいな」

 

 新たに若い女の声がした。声がやたらとかわいい。

 

「おいリョウタ、なんかやばい会話してるけどめっちゃかわいい声がしたぞ……!! 」

 

「ああ、そうだな……!! すごく容姿が気になるけど、ここは我慢だ。やばい企みだろうし話をもっと聞いておこう」

 

「ああ……!! 」

 

 カズマと俺は声を潜め、聞き耳を立てる。と同時に俺はサーチを発動させる。4つほど反応があった。

 

 おそらくだが会話の端々やサーチの結果から分析して魔王軍だろう。

 

「ということだウォルバク。この街から……」

 

「明日までには避難しろってことでしょ? あーあ。せっかくの湯治場だったのに新しい湯治先を見つけないといけないのね」

 

 今度は女性の声がする。

 

「元気を出してくださいなウォルバク様」

 

 若い女が女性を励ましている。

 

「とにかく作戦決行は明日の朝9時ごろ。ハンスさんが全力で街中で暴れまわり、私は魂の収集に専念。妹がハンスさんに立ち向かってくる冒険者を撃退し、最後は山の源泉に誘導する」

 

 ハンスとはおそらく屈強そうなイメージを抱かせる声の男の名だろう。

 

「物理的に一気に数を減らし、再建するための財源もダメにする。最高の二段構えの作戦ですわ兄さん」

 

 かわいらしい声の若い女は丁寧な口調の男の妹なのだろう。

 

「リョウタ……。めちゃくちゃかわいい声の女の子の正体が気になる。戸、開けていいか? いいよな? 」

 

「ダメに決まってるだろカズマ……!! 企みを最後まで聞かないと」

 

「あのバカな弟が生きていれば、このようにハンスさんに理性を失った状態で行動させるというリスクを冒してもらう必要はなかったのですが」

 

「気にするな。この忌々しい街を一気に滅ぼせるチャンスをくれたことを感謝ししているぐらいだよ」

 

「まぁ、あなたたちがアクシズ教徒を忌み嫌う気持ちはわかるわね」

 

「ですわよねウォルバク様。……それにしてもウォルバク様。美しい体ですね。私の依り代ももっとナイスバディであったら嬉しかったのですが。容姿が一番優れている依り代がこれだったんですのよ。見た目はどうしても依り代に引っ張られますので」

 

「ナイスバディだなんてそんな。あなたも十分綺麗だし均整の取れたプロポーションじゃない」

 

「お褒めいただき、光栄ですわ」

 

「私の自慢の妹ですから」

 

「もう兄さんは……」

 

「さてと、ではそろそろ明日の準備でも使用ではないかご兄妹」

 

「ええそうですわね。ウォルバク様。ごきげんよう」

 

「それではまたお会いしましょうウォルバクさん」

 

「ええ、また会いましょう」

 

 声の主4人のうち3人はどうやら風呂から出るようだ。

 

「カズマ……!! 今脱いだばっかりに見せかけるぞ……!! 」

 

「わかってる……!! 」

 

 俺たちは抜き足差し足しかし速足で服を脱いだ棚のところまで戻ると、それっぽい演技を始める。

 

 それとほぼ同時に、露天風呂への扉が開いた。

 

 扉からは想像通り屈強な体系のおそらくハンスという男と、銀髪で赤と青のオッドアイの男(多分丁寧語で話してたやつ)と、白い髪で毛先にかけて黒のグラデーションがかかった長い髪の美少女が出て来た。

 

「……っ!! 」

 

 美少女はカズマと俺を見て警戒心むき出しの顔になる。しかしなる理由もわかる、なにせカズマが、たまたまタオルで体を隠していない美少女をガン見していたからだ。

 

「こら、妹よ。そんな顔を人様に向けるのはよくありませんよ」

 

 そんな妹を叱る兄。

 

 どうやらこの様子だと話を聞かれていたとは思われて無さそうだな。安心。

 

 兄妹はしばしアイコンタクトをした後。

 

「だって兄さん!! 」

 

 カズマのガン見にご立腹な様子の妹さん。

 

「カズマ、謝れ」

 

「……すいません。あと、ありがとうございました」

 

 カズマよ。本音が隠せてないぞ。

 

 美少女は苦虫を潰したような顔でハンスとオッドアイの男とともにカズマと俺の横を通り過りすぎ、体をふき、着替え始めた。

 

「さて、俺たちは風呂に入るか」

 

 脱衣所に長い間とどまっていても怪しまれるだけだ。さっさと風呂に入ってしまおう。

 

「ああ!! 」

 

 意気込むカズマとともに風呂に入ると、ウォルバクと呼ばれていたネコ科を思わせる目をした巨乳の美人なお姉さんがいた。

 

 ……この人も敵なんだよな。警戒しないと。

 

 そう考えていると、意外にもウォルバクの方から俺たちに声がかけられた、

 

「あなたたちはこの辺の人じゃなさそうね。旅行できたのかしら? 」

 

 ちらちらウォルバクさんの豊満な胸を見ているカズマが遅れて反応した。

 

「あ、いえ、そうです。はい。実は俺たちこう見えても冒険者でして。俺はこの前死闘の果てに大けがをして湯治に来たんです」

 

 本当は混浴目当てで来たんだけどなカズマは。

 

「あらそうなの。奇遇ね。私も半身と戦った際に力を完全には奪い切れなくてね。それで本来の力を取り戻すために湯治をしているの」

 

 冗談めかして言ってるがおそらく事実だろう。

 

「それ、俺たちの仲間の魔法使いのうちの一人が聞いたら大喜びしそうな話ですね」

 

 警戒しまくって何も言わないのも、警戒されかねないので俺も会話に参加しておく。

 

「あら、もしかしてあなたたちの仲間の魔法使いって紅魔族? 私が魔法を教えた紅魔族の女の子は元気かしら? それにしても、私の半身どこかその辺に転がってないかしらね。そうすればすぐにでも本来の力を取り戻せるんだけど」

 

 本来の力を取り戻した後人類でも殺すのか?

 

 そう聞きたくなるのをこらえる。

 

「私もそろそろ上がるわね。それと、この温泉街から立ち去った方がいいわよ。よくないことが起こるから」

 

 そう言ってウォルバクは風呂からあがろうとして、躊躇した。

 

「その恥ずかしいから、お風呂から出る無防備な姿は見ないでほしいかなーって……」

 

 カズマにそう言うウォルバク。価値観は人間とそんなに変わらないのか。人外の存在な気がするんだけどな。

 

「お構いなく」

 

 カズマはそう即答する。

 

 ウォルバクは涙目になる。

 

 さすがに申し訳なく感じたのかカズマも、そして俺も後ろを向いた。

 

「ありがと」

 

 そう小さくこぼすと風呂場から出て行った。

 

 俺はカズマに体を寄せて。

 

「今さっきの連中全員魔王軍関係者だよな」

 

「多分、そうなんだろうな」

 

「どうするカズマ。今すぐここのギルドや警察に知らせるか? 」

 

「ギルドに報告って言ったってなー。そもそもアクシズ教団が滅んでも誰も困らないだろう」

 

「そこには心底同意したいところだが人が大量に死ぬかもしれない事態に直面する寸前なんだぞ。看過できない」

 

「まぁそうだよな……」

 

 カズマは雰囲気的に考えて今回の件に首を突っ込むのは消極的なのだろう。そりゃそうだ。彼の戦闘能力からして魔王軍の企みをどうにかするには心もとなさすぎるのだろう。しかしカズマは機転で魔王軍幹部やデストロイヤーと渡り合ってきたのだ。司令塔のカズマ抜きでこれまでの戦いを勝つことなどできなかったと思える。そんなすごい俺の親友なのだ。

 

「頼むぜ親友。どうにかしてこの街であいつらの企みを阻止しようぜ」

 

 我ながら思うが本当に正義感の強い人間になったもんだ。演技とかじゃなくて本心からそう思えるようになったのはゆんゆんのおかげだろう。きっとこの世界に来る前の俺なら逃げることをすぐに選んでいたはずだ。

 

「……仕方ねーなー。風呂が終わったらみんなで作戦会議するぞ」

 

「了解だ」

 

 俺は頼りになる親友に笑いかけると、親友は苦笑した。本当は一刻も早く作戦会議したいところだがカズマのモチベーションから考えてもここは風呂にしばらくはいっておくのがよいだろう。

 

 すると。

 

 木の壁で隔てられた女湯の方から聞き慣れた声たちがしてきた。




 原作通り、油断して露天風呂で作戦について話してしまう敵陣営です。油断大敵とはこのことですね。

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