【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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059 作戦会議

「泳げるほど広いですねこのお風呂。さすがは高級旅館です!! 」

 

「おいめぐみん、泳ぐのはマナー違反だぞ」

 

「そうよ。大体全裸で泳ぐだなんてはしたないわよ」

 

「心配せずともマナーは守りますとも」

 

 ゆんゆん、めぐみん、ダクネスの声が女湯の方からした。

 

「というか二人は何を体をタオルで隠しているのですか? ここは混浴などではないのですから。ほら……ほら!! 」

 

「な、何をするんだめぐみん!? 」

 

「そうよ、ダクネスさんにもバーコードの位置が知られちゃう!! だからダメなの!!」

 

「おっとゆんゆんバーコードの話を大声でしていいのですか? 隣にはおそらくカズマとリョウタがいるのですよ」

 

 そうです。俺たちはここにいます。ゆんゆんには幻滅されるかな?

 

「すでにリョウタさんにはあんたが知らせちゃってるじゃない!! それにリョウタさんは……きっと男湯にいるわよ。あの人私以外の女の人にもかわいいって言うけど堅実な人だもん」

 

 おっと、知られると幻滅されるやつですね。

 

「しかし最近のリョウタのカズマに影響された様を見ているとそうとは言い切れないかもしれないぞゆんゆん」

 

「うう」

 

 俺は無言で立ち上がると体を洗いに行った。カズマにはアイコンタクトとジェスチャーで、ゆんゆんには俺が男湯にいたことにしてくれと伝えると、さすがは親友。すぐに理解してくれたらしくサムズアップしてきた。その後、カズマは女湯の方に泳いでいった。

 

「ふぅ。たまにはこうやって温泉も悪くないですね。本来ならものぐさなカズマたちを外に連れ出してアクアに引き寄せられたアンデッドでも狩ろうという魂胆だったのですが、色々ひどい目にあいましたがこの温泉に入っているとここにきて正解だったと思えますよ」

 

「私たちはひどい目にあったわよ。めぐみんが旅先をここに選んだせいで」

 

「まぁ悪くはなかったがな」

 

「ダクネスさん……」

 

 呆れ声のゆんゆんもかわいい。

 

 そう思いながら頭を洗っていると、ダクネスがカズマへの評を語り始めた。

 

「しかしカズマは本当によくわからん男だ。保守的で臆病かと思えば、身分の差も気にせず貴族相手ですらひどく強気の時もあるし……。カエル相手に逃げ回ったと思えば、魔王軍幹部と渡り合う。本当に変わった奴というか不思議な奴というか……」

 

「シッ!! ダクネスそれ以上言う前に待ってください。この隣は混浴になっています。カズマが入るとしたらどっちだと思いますか? 」

 

「混浴だな。間違いない。大義名分がある以上いくら小心者でヘタレでもこちらを選ぶだろう」

 

「もしかするとリョウタも誘ってるかもしれませんね」

 

「めぐみん変なこと言わないでよー」

 

 それから、カズマは女湯に耳を当てて女同士でじゃれあっている声に興奮していると、壁越しにぶん殴られたり、それがきっかけでクリエイトウォーターをカズマが女性陣にぶっかけたり、逆に風呂桶やちょむすけが投げ込まれてきたりという事態があったが、俺が入っているということはゆんゆんに露見することは無かった。

 

「カズマ、俺先に出とくぞ。それであの4人の指名手配依頼用の似顔絵でも書いとくわ」

 

「了解。俺はちょむすけを洗ってから行くから少し遅くなるぞ」

 

「はいよ」

 

 俺は脱衣所に行く。念のためライトオブセイバーをいつでも発動できるように詠唱を済ませておいたまま風呂に入っていたのだが結局発動することなく終わって安心だ。

 

 さてと、じゃあ俺にできることをやりますか。

 

 そう思いながら、着替え終えて脱衣所から出ると。

 

「「あ」」

 

 女湯の脱衣所から出てきたゆんゆんと鉢合わせになった。

 

 …………。

 

「ゆんゆんの期待を裏切ってしまって申し訳ない。それにしても風呂出るの早いね」

 

「リョウタさんのバカ……」

 

 ゆんゆんから理不尽な叱責を受けた。

 

 まぁあの時素直に混浴にいますと白状しなかったのが悪いんだろうけどね。

 

 

 

 

 風呂上がりの女性陣のお部屋にて、みんなに話があるとして集合してもらった俺たち。

 

 アクアもちょうど帰ってきたころで都合がよかった。

 

 しかし当のアクアはというと。

 

「あんまりよー!! 温泉をわざと浄化したわけじゃないのにあんまりよー!! 大体この私が浸かれば普通瞬間的に水は浄化されちゃうのにあんなに時間がかかっちゃったってことは何か身体によくない者が混ざってた証拠よ。私が浄化したことむしろ感謝してほしいぐらいなのにー!!!! 」

 

「災難でしたねアクア様」

 

 ウィズさんがアクアをなだめる。優しい。

 

「これは魔王軍の仕業に違いないわ!! 私たちアクシズ教を恐れた魔王軍がアクシズ教団の財源を潰すために破壊工作を行ってるのよ!! 」

 

「多分それ当たってるぞアクア」

 

「え、ホントなのカズマさん!? 」

 

「ああ。俺とリョウタが今からする話を聞いてくれ」

 

 それから俺とカズマはみんなで丸テーブルを囲んであの4人のことを話した。

 

「な、なんてことだ、確固たる証拠もないわけだが放っておくわけにもいくまい。すぐにでも指名手配しないと!! 」

 

 ダクネスが焦りに焦る。

 

「安心してくれダクネス。そのための似顔絵も書いた」

 

「さすがはリョウタですね、絵の上手いあなたが書いたのならば手配書としてもばっちりです」

 

 めぐみんが俺のことを褒めてくれる。気分の良くなる俺。そして、手配書に使う予定の似顔絵を描いた紙を机の上に置こうとすると、それをアクアが取り上げ。

 

「見せてみなさいな……。私がもっと綺麗に仕上げてあげるわね」

 

 やがて。

 

 俺は心を折られかけていた。

 

 なぜなら数少ない取り柄の一つである画力を、こういった方面に多彩な才能を持つアクアが平然と上回っていたからである。

 

 俺の絵をもとにカズマと俺の証言を聞きながらアクアは写真と見間違うほどの芸術的な絵を完成させた。

 

「元気を出してくださいリョウタさん。リョウタさんの絵も十分綺麗でしたから」

 

 優しい笑顔を向けてくれるゆんゆん。本当に女神のようだ。

 

 心が回復していくのを感じていると。

 

「ああ、この人はわかりますよ皆さん!! デッドリーポイズンスライムの変異種のハンスさんですよ。私と同じ魔王軍幹部ですね」

 

「「なんてこった」」

 

 ウィズさんが嬉々として語る中、俺とカズマは顔を見合わせ言った。

 

 冗談じゃないぞ、この世界のスライムは大型のものはゲームに出てくる雑魚モンスターなどとは比較にならない強さのとんでもない存在だ。そんな奴が幹部だとか。

 

「他の奴はわからないかウィズさん」

 

「すいません他の方はちょっとわかりませんね。ただハンスさんと対等な雰囲気で会話していたということは私の知らないうちに増えた幹部という可能性もありますね」

 

「幹部クラスが4人相手って考えるべきか? あ、でもこのウォルバクってお姉さんは会話の感じからして今回の作戦には参加しないみたいだしな……」

 

 そう言うとカズマが安心からかため息をつく。少しの間とはいえ言葉を交わした相手と戦うのは気が引けるからだろう。

 

 それでも戦うとなれば最悪幹部クラスを3人を相手にしなきゃならないのか。

 

「あ、あの私もお手伝いします。私が魔王軍と敵対しない条件はあくまで一般人の方の殺されない場合に限りますから。ハンスさんたちの計画からして犠牲になる方が出るのは明白ですし……」

 

「それは心強い!! 」

 

 ダクネスが感嘆の声を上げる。

 

「頼むぜウィズ!! 」

 

 カズマもウィズさんに期待する。

 

「みんなでアクシズ教団を、私の可愛い信者とこの街を護りましょう!!!! 」

 

 アクアが元気な声を上げるが、アクシズ教団を護るという点に関してはなんだかすっきりしないものがある。

 

「え、ここは普通『おー!! 』とか言って一致団結するところでしょ? ねぇみんな」

 

 アクアが目を点にして俺たちに聞くが誰も反応しない。

 

 いや、唯一ウィズさんが照れながら「おー……」と言った。

 

 そんな中、めぐみんは一人、アクアの新造した手配書のある人物にくぎ付けになっていた。その人物とはウォルバクさんだった。

 

「めぐみん? この人がどうかしたの? 」

 

 ゆんゆんが心配げに問いかけると。

 

「……この人は私に爆裂魔法を教えてくれた恩人です」

 

 めぐみんは悲しそうにつぶやいた。

 

 

 

 

 俺たちは今、夜の街の中、アルカンレティアの冒険者ギルドに向かっていた。会議した結果まずはギルドに知らせて4人を指名手配してもらうことが最善という結果になったからだ。

 

 本来なら足の速い俺かゆんゆんがとっとと先行して向かえばいいのだが、街中で奴らに出くわさないとは限らないので集団行動だ(彼らの作戦の決行自体は明日のようだが万が一ということもあるし、俺かカズマが実は気付かれていて口封じに襲撃される危険性もある)。

 

 めぐみんはというと、憧れだった人が魔王軍にいたという衝撃の事実を受け止めようと頑張っていた。こればかりは他人が口出ししてどうにかなる問題ではないため静観している。

 

「しかし、俺たちの証言だけで指名手配できるかな? 」

 

「難しいところだが策はあるぞ」

 

 カズマがニヤッと笑いながら言う。

 

「私が水の女神だってことを明かすのね!! アルカンレティアにはアクシズ教徒がたくさんいるからギルドの職員たちの中にもアクシズ教徒は多いだろうし、女神の言葉とあれば信じてくれるわ!! ねぇカズマ? 」

 

「うん、俺の策とちょっとだけ近かったけどはずれだぞアクア」

 

「なんでよー!! 」

 

「では、カズマさんはいったいどんな策を? 」

 

 ウィズさんが首をかしげる。

 

「それはだな」

 

「ん? どうしたカズマ。私の方を見て」

 

 ああそう言うことか。

 

「分かったぞカズマ。お前の意図が」

 

「さすがリョウタ、気づいてくれたか」

 

「いったい何なんだその策というのは? 」

 

 俺とカズマだけではなく、俺たちに釣られて全員に注目されたダクネスは少し怪訝な顔をして言った。

 

「お前だよダクネス。いや、ララティーナお嬢様」

 

「な、カズマ、ララティーナと呼ぶな!! というかなぜ私なのだ。……はっ!? まさか……」

 

「お前の家の力を使う。ダスティネス家の紋章を出して説得だ。たまには役に立てダクネス」

 

 カズマがひどい物言いをする。

 

「うう、やっぱりか……。しかし待て。私は普段から何の役にも立っていないような言い草ではないか」

 

「そうだよ」

 

「カズマ、貴様!! 」

 

 いきり立つダクネス。そんな彼女に。

 

「それにしても、ダクネス。そんなに拒否しないんだな。これは不当な権力の行使だとか言いそうだったのに」

 

「た、確かに」

 

「リョウタもゆんゆんもひどいぞ。一応貴族特権というものがあって厳密にはこのような形で権力を使おうとするのは、不当な権力の行使ではないんだ。……そのはずだ」

 

 ダクネスはそう言った後「自分の取り柄は防御力ではなく家柄なのだろうか」と言って落ち込み始めた。

 

 そんなダクネスにカズマが、「エロさもお前の取り柄」と言ってしばかれる。

 

 そうしているうちにギルドに到着した。

 

「ほらララティーナお嬢様、ダスティネス家の威光を示すんだ!! 」

 

「わ、わかっている。せかすなカズマ……」

 

 ダクネスが、ダスティネス家の紋章を出してギルド職員に俺とカズマとともに説明を始めた。

 

 そして似顔絵を渡すと大急ぎで警察と連携して手配すると言った。

 

「ねぇダクネスのあの紋章、私も粘土で作っちゃおうかしら。そうすればダクネスの家の子だって言い張っていろんなわがままを聞いてもらえるようになるし」

 

「そんなことをしてみろアクア、お前の頭にアイアンクローが炸裂するぞ」

 

「いたいいたい!! もう炸裂させてるじゃないダクネスの脳筋!! 」

 

「誰が脳筋だ!! 本気を出すぞアクア!? 」

 

「いやぁ!! やめてやめて!! 」

 

 ギルドの中でそんなやりとりがあった後。

 

「ではこの後どうしますか? 敵も指名手配に気づけば作戦決行を早めるかもしれませんしできるだけ早く探し出した方がいい気がするのですが」

 

「確かにそうよね」

 

「めぐみん、ゆんゆんの言う通りだろうけど、今日はいろいろあったからみんな疲労がたまってるだろ? 早朝までは休んでおいたほうがよくないかな? 」

 

 今日はアクシズ教徒のせいで肉体的にも精神的にもボロボロだ。できれば休んでおきたい。

 

「そうですね。では、有事の際に皆を起こすための見張りをローテーションでして休みましょうか」

 

 めぐみんは俺の言いたいことがわかっているようだ。

 

「何言ってるのよ? 私の可愛い信者たちがピンチなのよ。夜通し探すに決まってるじゃない」

 

「いや、体力がみんな持たねーから。今の状態で戦っても高パフォーマンスを発揮できるとは思えねぇ」

 

 カズマがアクアの意見を却下した。拗ねた顔をするアクアは。

 

「じゃあいいわよ、私一人で探すから」

 

「アクア様、それはさすがに迂闊すぎます」

 

「何よウィズ、リッチーの分際で私に意見する気? 」

 

「アクア様の身を案じて言っているんです。アクア様になにかあれば信者の方がそれこそ悲しみますよ? 」

 

 真剣なまなざしで訴えかけるウィズにアクアは気圧され「わかったわよ」とつぶやいた。

 

「よし決まりだな。まずはお前ら、明日に備えて休息だ」

 

 カズマの一声にみんなで頷いた。

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 夜には結局騒ぎなどはなく平穏なひと時を過ごすことができた。

 

「このまま、あきらめてくれたりしないかな、指名手配がきっかけで」

 

「そうだといいが。きっとそうはならないだろうな」

 

 俺とカズマは男部屋で装備を整えながら話をする。

 

「弾の数は大丈夫か? 」

 

「銃の弾か? 問題ないぜ、ほら!! 」

 

 カズマがマントの裏や腰にひっさげたスピードローダーポーチを指さす。

 

「120発はあるぜ」

 

「それなら安心だな」

 

 カズマは大量のスピードローダーポーチにリボルビングライフル。弓矢にリボルバーにちゅんちゅん丸という装備だった。

 

 俺はというとゆんゆんが選んでくれた大事な鎧に、リボルバー。ソードメイスに神殺しの剣を装備している。ついでに言うとクリエイターの魔法であるフェイントオブインパクトをあらかじめ鎧に設置して、ここぞというタイミングでリアクティブアーマーのように使用できるようにしてある。

 

「カズマ。今回の戦い、やっぱり嫌だよな」

 

「当たり前だろ。できれば逃げ出して帰りたいよアクセルに。でもやるしかないだろ、やっぱ人が死ぬっていうのを見過ごすのも冒険者としてどうかと思ったしな。まぁお前がいなきゃ確実にそうは思わなかっただろうけど」

 

「悪いな」

 

「ほんとだよ。だけどまぁ、感謝してるよ。こういう人に誇れる選択をさせてくれたことにはさ」

 

「そうか」

 

 照れるな。

 

「さてと、行こうぜリョウタ。女性陣が待ってる」

 

「ああ。行こうか」

 

 俺とカズマは部屋を出ると、隣の部屋の前ではすでに完全装備の女性陣がいた。

 

「準備はできましたか? カズマ、リョウタ」

 

「俺たちはOKだよめぐみん。それより君は大丈夫か? 万が一の可能性の話だが恩人と戦わなければならないかもしれないぞ」

 

「問題ありませんよ。覚悟はできています」

 

 俺の問いに自信満々な顔で答えるめぐみん。やや強がっている気もするが、まぁ大丈夫だろう。

 

「ふっ!! デッドリーポイズンスライムか。どんな攻撃をしてくるか楽しみだ!! 」

 

 ブレないダクネス。

 

「しかもハンスさんは変異種ですからね。触れるだけで即死しかねない猛毒に合わせて呪いの効果も持っていたはずですよ」

 

「危険すぎませんか、ハンス……」

 

 マイペースに答えるウィズさんに、ハンスの力を聞いてやや引き気味のゆんゆん。

 

「何かあったら私が解呪も解毒もしてあげるから安心なさいな。あ、でも神殺しは無理だからね。そこのところ忘れちゃダメよ神殺し? 」

 

「了解。肝に銘じとくよ」

 

 俺はアクアの忠告に軽い調子で答えた。




 アクア様は多才な御方ですからね。少々絵心がある程度では到底太刀打ちできません。

 次回から戦闘回です。

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