【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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061 終結

 カズマが考え出した作戦を集めたパーティーメンバーとウィズさんに手早く、しかしテンロンに悟られぬよう個別に伝えていく。

 

 そして俺たちは散開し各々の役目を果たし始めた。

 

 まずダクネスはこのまま一般人を他の冒険者と連携して護りつつ避難させる。

 

「ヒール!! ヒール!! パワード!! 」

 

  アクアはこの場で冒険者全員を支援し続ける。

 

「狙撃!! 狙撃!! 狙撃!! 」

 

 カズマは大きめの飛び散ってくるハンスのかけらを発砲して粉砕していく。

 

「こっちです!! 」

 

 めぐみんはまんじゅう投擲を続け少しでもハンスの気を引き続ける。その方向は湖ではなく別の方向だ。

 

「「エアハンマー!! 」」

 

 俺とウィズさんが空中のテンロンに向けて空気の圧縮弾を連射しまくる。

 

 その結果ハンスをこちらで誘導するのを人間で妨害するという策を実行できないでいた。

 

 カズマの指揮下にいない冒険者から攻撃を喰らい、反射的にそちらへと体の一部を伸ばしたり、逆にめぐみんの方へ進んできたりと混乱しているのか右往左往するハンス。ただし、食べることが本能の一番上を司っているハンスはめぐみんの誘導に最終的には従う。

 

「ハンス様!! そちらの方はいけません!! 犠牲者が出せなくなってしまいます!! 」

 

 ハンスに呼びかけるテンロン。その隙にゆんゆんがブレードオブウインドで切りかかりテンロンはそれをぎりぎりで躱す。

 

 俺とウィズさんとゆんゆんの役目は、テンロンをとにかく足止めすることにある。そしてハンスがある場所に到達次第テンロンを無理やりテレポートさせるのだ。ある場所とはウィズさんが登録したテレポート先だ。すなわち、テンロンをハンスの中にぶち込んで撃破するのだ。

 

 その後はまんじゅうで再びハンスを湖に引き寄せ最初の作戦通りに撃滅する。

 

「何らかの策を考え付いているのでしょう。しかし、真正面からうち砕いてくれますわ!! 」

 

「カースド……クリスタルプリズン!! 」

 

 ウィズさんが魔法を唱えると、テンロンを取り囲むように巨大な氷塊が8つ召喚され一気に、その内部の空間を冷やす。テンロンは表情をこわばらせると氷塊の包囲網から空高く飛んで抜け出す。その直後、氷塊内の空間が文字通り凍り付き、巨大な氷塊が出来上がった。

 

「避けられましたか!! しかし逃がしません!! ライトオブセイバー!! 」

 

 ウィズさんがライトオブセイバーを発動する。テンロンはにやりと笑うとダークオブセイバーをライトオブセイバーに叩きつけ爆発を起こさせる。しかし、自身の足をフリーズで凍らせて地面に縫い留めたウィズさんは爆風に飛ばされることなくその場に踏みとどまる。

 

「くっ」

 

 テンロンがウィズの想定外の行動に顔を歪める。爆発を起こしながら拮抗を続けるライトオブセイバーとダークオブセイバー。

 

「リョウタさん、ゆんゆんさん!! 」

 

「「はい!! 」」

 

 俺は神殺しの剣を地面に突き刺して支えにして。ゆんゆんはグウェンのパワーを上げて。それぞれ爆風の中で体勢を維持すると、2人でライトオブセイバーを発動し、テンロンのダークオブセイバーに叩きつける。

 

 相反するエネルギーはぶつかり合えば相殺されるが、それは出力が同じ場合の話。どちらか一方のパワーが大きく上回っていれば相殺ではなく、出力の小さい方を消し去ることができる。単純な計算で出力が3倍になったライトオブセイバーによってダークオブセイバーは砕かれた。

 

「このっ!! 」

 

 引きつった顔をした瞬間。3本のライトオブセイバーを受けて一気にその身を焼かれるテンロン。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!! 」

 

 悲鳴が上がる。

 

 ドレスが燃え上がり、肌が焼かれ、肉や骨が露出する。そんな中でもテンロンは翼を動かしてそこから魔力を噴射。一気にライトオブセイバーから逃れた。

 

 逃れたところから間髪入れずに回復魔法で、自身の身体を修復していくテンロン。ボロボロのドレスにふさわしくない美しい姿態へと戻る。しかし、その息はたえだえになっている。おそらく魔力に余裕がなくなってきたのだろう。

 

「このまま畳み掛けるぞ!! 」

 

「はい!! 」「わかりました!! 」

 

 ゆんゆんとウィズさんが返事をする。

 

「アイスランサー!! 」

 

 ウィズさんが氷の槍を自身の周囲に無数に召喚し、それをテンロンに向けて射出する。その雪崩を思わせるほどの槍の数はさすがは元凄腕冒険者にしてリッチーだと言わざる負えなかった。

 

 しかし感心している場合ではない。俺は今日一番の太さのディナイアルブラスター……、直径6メートルほどの呪いのビームを照射する。

 

 ゆんゆんはライトニングストライクを発動。極太の電撃をテンロンへと発射した。

 

「煙幕ですわ!! 」

 

 小賢しいことに最後の悪あがきなのか左手から闇の煙幕を大量に噴射するテンロン。そのまま空中で円を描くように飛んでいる。俺たち3人はそれに合わせて発射している攻撃の位置をずらす。

 

 やがて周囲が完全に暗黒で埋め尽くされた。さっきまかれた煙よりも直感的にだが多いと感じる。このまま爆発などされてはたまらないので、ウィズさんにこれが爆発するかもしれないことを伝え、ゆんゆんとウィズさんと体を寄せ合うと、全員でガーターを発動。その状態でゆんゆんがさっきのように煙幕をトルネードで吹き飛ばそうと手をかざした。

 

 するとその瞬間。

 

「来ました!! 」

 

 まずウィズさんが張っていたガーターに光属性と思われるビームが激突する。

 

「そっちか!! 」

 

 俺はガーターの隙間からディナイアルブラスターをビームの飛んできたほうに撃ち返すが、それとほぼ同時に今度はゆんゆん側にビームが激突した。

 

 それによってトルネード発動をガーターの維持に意識を割かれたせいか妨害されるゆんゆん。

 

 すると、今度は真上からビームが飛来する。

 

 俺はディナイアルブラスターを発射しそれを相殺する。

 

 しかしその直後に今度は俺のガーターにビームが飛んできた。それを、ガーターに意識を集中して受け止める。

 

 それからテンロンによる見えないところからのビーム攻撃が続く。

 

「すごい速度で動き回ってるんでしょうか? 」

 

 ゆんゆんが多方向から撃ちまくられるビームにそんな疑問を持ったためサーチを発動し位置を割り出すことを思いつきサーチを発動すると。

 

「どうなってるんだ……」

 

「リョウタさん、おかしいですよね」

 

 ウィズさんもサーチを使って気付いたらしい。

 

 ビームを受け止めながら俺はゆんゆんに今の状況の異変を知らせる。

 

「ゆんゆん、この魔力光線を撃ちながら動き回ってる存在の数が10ある。テンロン1人でやってるわけじゃないみたいだ」

 

「ええ!? いつの間に増援を? それとも魔法? 」

 

「でもあの魔力の切れそうな雰囲気からして魔法を使ったという可能性は低そうですが……。もしかして演技だったんでしょうか?

 

 ウィズさんが飛来してきたビームを防ぎながら氷の槍を数本作りだし撃ち返す。

 

「とにかくこの煙をのけますね、……トルネード!! 」

 

 ゆんゆんがビームが自身に飛んできていないタイミングでトルネードを発動し煙幕を吹き飛ばす。

 

 すると、驚愕の光景が待っていた。

 

「分裂完了ですわ」

 

 10のテンロンが様々な位置にて俺たちを包囲していた。

 

「どうなってる? 」

 

「とにかく散開しましょう!! 」

 

「「了解!! 」」

 

 ウィズさんの提案で俺たちは多方向に分かれる。

 

『逃がしませんわ』

 

 そんな言葉を同時に言ったテンロンたちは、まずはゆんゆん付近の一体がビームを発射する。

 

「はっ!! 」

 

 細いビームだったためそれを切り払うゆんゆん。すると今度は俺に近いテンロンの一体が太目のビームを撃ってきた。

 

「あたるか!!」

 

 俺が回避すると次はウィズさん付近の一体がビームを撃ち、ウィズさんに避けられる。

 

「分裂なんてできるものなのかウィズさん!? 」

 

「なにせ悪魔ですからね……バニルさんからわかるとおり、どんな不思議な力を持っているか分かりません」

 

「理不尽な!! 」

 

 悪魔。なんて存在だろう。

 

「片っ端から撃破しましょう!! 」

 

 ゆんゆんがそう言いながら、テンロンのうちの1体に空を飛んでハルバードで切りかかる。そのテンロンはうまく体をひるがえしゆんゆんの攻撃を回避。俺はというとゆんゆんの片っ端から潰して回るという作戦以外ないと判断しディナイアルセイバーでテンロンたちを一掃しようと振り回すが、攻撃を受けたテンロン4体はどいつもこいつも忌々しいことに踊るようにステップを踏んで回避する。

 

 そしてそうしているうちにウィズさんに退魔魔法が撃ちこまれた。

 

「くっ!! 」

 

 ウィズさんが喰らったのはターンアンデッド。体の各所が焦げるウィズさん。神聖魔法も使いこなせると言っていた通りだ。

 

 しかし違和感がある。

 

 なぜこいつら同時に襲ってこない。

 

 数において圧倒しているのだから同時に襲ってくればいいものを、避けるだけ避けて、一人ずつ攻撃してくる。連携をとっていないのだ。

 

「ただ単に遊んでいるって言うのか? いや、その可能性は誘導されてるハンスのせいで向こうもなに振りかまってられないから無いはずだ」

 

「リョウタさんも違和感感じましたか!? 」

 

「ああ、ゆんゆん。この包囲網はおかしい。あいつは分裂なんかしていないのかもしれない……」

 

 退魔魔法の直撃で動きが悪くなってしまったウィズさんにテンロンの内の一体がライトオブセイバーを振り下ろす。俺はウィズさんの前に躍り出てそれを神殺しの剣で受け止める。

 

「リョウタさん、ありがとうございます。テンロンが、神聖魔法を使えるのを失念してました」

 

 ウィズさんが俺にお礼を言う。

 

「気にしないでウィズさん。それよりこのテンロンの分裂だけど、一斉攻撃してこないのはおかしいと思う!! てやっ!! 」

 

 受け止めていたライトオブセイバーをディナイアルセイバーを展開して押し返す。その間にゆんゆんがライトオブセイバーを発動しているテンロンに接近しようとすると、他のテンロンが道を遮るかのように展開して邪魔をする。

 

「今だってゆんゆんに対して全方位から光線魔法でも撃ち込めばいいのにそれをやってない」

 

「やっぱりリョウタさんも気づかれましたか。おかしいですよね。この包囲網」

 

「動きだってそこまで激しくない。見かけだけの虚仮威しかもしれないですね……」

 

「だったら魔力は消費してしまいますが一気に畳み掛けましょう!! 」

 

 ゆんゆんが俺たちのそばに降りてきてそう提案する。そして、俺たちにあるところを見るように目配せした。そちらにちらっと眼をやると、めぐみんがジェスチャーでハンスの誘導が完了したことを知らせていた。

 

「よし、だったら一気に殲滅だ!! 」

 

「はい。ハンスさんに温存しておきたかったですが少しここで魔力を使います!! アイスランスファランクス!!!! 」

 

 ウィズさんの周囲にアイスランスが先ほど見せた数倍の数が生成される。ゆんゆんはそれを見て息をのみ、俺はリッチーの底知れなさに舌を巻いた。

 

「撃ちます!! ファランクスファイア!!!! 」

 

 ウィズさんがそれを発射する。轟音とともにウィズさんを爆心地にして半球状に広がっていくアイスランスの軍勢。

 

「俺も続きます!! ディナイアルセイバー!!!! 」

 

「私も!! ライトオブセイバー!!!! 」

 

 俺とゆんゆんも遅れて最大火力の技を発動しテンロンたちに振り回す。

 

「これでどうだ!? 」

 

 アイスランスや、ディナイアルブラスター、ライトオブセイバーの直撃を受けて周囲の空間を歪ませながら消滅していくテンロンたち。やっぱり分裂なんか嘘っぱちだったか。

 

 俺はサーチを発動する。10のうち9の反応が消え去った。

 

 残り1はアイスランスの直撃を受けても無傷だった。なぜなら、直撃したすべてのアイスランスが熱量で溶解したからだ。

 

 テンロンの残った1体は下に突き出した両手に光と闇、両方の属性が混ざり合った魔力の塊を作り出していた。それは本能的に恐怖を抱かせる黒と白に点滅する1メートルの球体で。

 

「私の作り出していたのはあなたたちが気付いた通り、魔力の塊を光の屈折魔法で私の姿に見えるようにしていた燃費のいい虚像ですわ。タダの時間稼ぎで、本命はこれですのよ!!!! 」

 

「あ、あれは反発反応魔法!? 」

 

「え、それって……」

 

 ゆんゆんが固まる。

 

「光属性と闇属性の魔法を無理やり制御して融合させることでできる大火力魔法です!! 燃費はいいですし、発射速度は避けられないほど速く、射程も長いです!! それに、範囲はともかく威力だけなら高レベル術者の放つ爆裂魔法に匹敵します……まさか実現可能な存在がいるなんて」

 

「私は光と闇を司る悪魔ですので!! もう止められませんわよ、私が発射せずとも、制御を欠いた瞬間このあたり一面消し飛びますわ!! 私には残機がありますからあとで他の依り代に移ればいいだけのこと。貴方たちだけ死になさいな。さぁあと少しの猶予でみんな死にますわよ!! 素晴らしい破壊がもたらされますわ!!!! あははははは!!!!!!!!」

 

 テンション高く、反発反応魔法をしっかり制御したまま歓喜で空を踊るかのように縦横無尽に飛び回るテンロン。

 

「ほ、本当なのかウィズさん!? 」

 

「はい!! ど、どうしましょう!? テレポートなら逃げられますけど私たちが逃げたら……」

 

 避けることもできない、かといってテレポートを使って逃げても、その辺に撃ち込まれたられたら死者多数になってしまう最強魔法。

 

「ならもうテンロンごとどこかにテレポートさせてしまえば!! 」

 

「ゆんゆんさんの言うようにそうしたいところですけどテレポートの範囲から逃れられては……。多分彼女、攻撃しても避けますし……」

 

 確かにそうだ。魔法を制御しながら今のように飛び回れるのだ。避けられては意味が無い。

 

 だったら!!!! 避けられないようにすればいい!!!!

 

「リョウタさん!? 」

 

 一か八かだ!!

 

 俺はフェイントオブインパクトを発動し飛び上がり。

 

「リアクティブアーマー起動!! 」

 

 さらに鎧に仕掛けておいた全てのフェイントオブインパクトを調節して発動。空中でバランスを取りつつ突き進み。

 

「とどけぇぇぇぇ!!!! 」

 

「な、そんな奇策で飛びますの!? 」

 

 俺は見事にテンロンにとりつき羽交い絞めにした。そして、その状態でテンロンにチェーンバインドの魔方陣を仕掛け、発動。彼女を魔力の鎖で拘束する。さらにフェイントオブバーナーを出力が釣り合うように俺やテンロンの体に複数個設置して発動。外側への炎の噴射でその場に俺たちを縫い留める。

 

「……あら、私、もう少しでこの魔法を暴発させるところでしたわよ。全く、完成まで大人しくするか逃げることに徹してれば数秒だけ寿命が延びましたのに」

 

「いや、お前だけで死ね。ウィズさん!! 俺ごと()()()()にテレポートで飛ばしてくれ、頼む!!!!!!!! 」

 

 そう作戦通りにだ。そうすれば魔法がほとんど効かないハンスの中で反発反応魔法が爆発させることで周囲への被害は抑えられるし、テンロンも倒せる。俺はダクネスから教わった様々な防御系統スキルで耐えながらハンスの中から抜け出せばいい。状態異常耐性があるから呪いにも跳ね除けられるだろうし。……たとえ俺の計算が多少違っていたとしてもどのみちこれしかみんなで助かる可能性のある方法はない。

 

「っ!! 分かりました!! 」

 

「な、正気ですの!? 確かにこれなら私は逃げられませんけれど、どのみち貴方は死にますわよ!! 」

 

「死ぬもんか!! 」

 

 俺とテンロンの足元にテレポートの魔方陣が展開される。

 

「まって!! やめて店主さん!!!! リョウタさんが死んじゃう!! いやぁぁぁあぁ!!!!!!!! 」

 

「リョウタさんを信じます!! テレポート!! 」

 

 ウィズさんが叫んだ瞬間、俺とテンロンと反発反応魔法は……ハンスの中へと転送された。

 

 俺とテンロンはハンスの中で声を出せないままに体が猛毒に侵されながら呪われ、溶かされていく激痛に襲われる。しかし、俺の身体は完全には溶けない。ルーンナイトとして頑丈なうえ多数のスキルによる防御力向上。そして神殺しの剣の防御系統のステータス向上と治癒力向上の恩恵があるからだ。

 

 さぁ、ハンスの中で消え去れテンロン!!

 

 俺がそう思いながら、脱出のためにディナイアルブラスターでハンスの中に道を作ろうとすると、その前に反発反応魔法が爆発を起こした。

 

 クソ、神殺しの剣の力で思考も動きが高速化されてるからってさすがに無茶すぎたか?

 

 俺が判断ミスをしたことを悔やむ間もなく、反発反応魔法の熱が伝わってくる前に……先に発生した衝撃波で俺は幸いなことにハンスの中からはじき出される。

 

「がぁぁぁぁ!!!!!!!! 」

 

 俺は全身に走る激痛を感じながら、ハンス付近のどこかの建物に激突して壁面を粉砕。そして部屋の中に転がった。

 

 テンロンはというと悪魔ゆえの防御力の高さか、結局溶かされ切らず中途半端な状態で俺と同じくハンスから叩きだされた。

 

 そしてハンスはというと、制御を欠いた反発反応魔法が膨れ上がり、体内から喰らって大幅に蒸発した。……爆散ではなく蒸発だ。サイズが明らかに小さくなるハンス。しかし爆裂魔法クラスの威力を内部から喰らってもサイズが5分の1になる程度で済むとはさすがは魔王軍幹部だ。

 

 しかし。

 

「ざまぁみやがれ!! 」

 

 俺はハンス、そしてテンロンに叫んだ。痛いものの、体は幸いにも動く。建物の部屋の中にいた俺は、そこから飛び出し着地した。

 

 すると、ゆんゆんとカズマとウィズさんが俺に真っ先に駆け寄ってきた。

 

「リョウタさん!! 大丈夫ですか!? 」

 

 涙目のゆんゆんが俺に問う。

 

「大丈夫だよ。ありがとうゆんゆん。二人も心配しないでくれ」

 

 俺はゆんゆんの頭を撫でる。

 

「突然お前とあの女がハンスの中にテレポートしたと思ったら爆発して、驚かされたぜ。とりあえず大丈夫ならいい」

 

 カズマが苦笑する。

 

「リョウタさんの判断は最善でしたね!! テンロンを倒せておまけにハンスさんを小さくできましたし!! でも本当に良かったです、死ななくて」

 

 ウィズさんが胸をなでおろしながら言う。

 

「それよりテンロンはまだ死んでない。あいつにとどめを刺さないと。まだ神殺しの剣が起動して」

 

 俺はそこまで言った瞬間。四肢が溶け落ち全身にダメージを負っているテンロンと、赤紫の赤子大の結晶を抱えた、誰かに蹴り飛ばされ、後方の建物の壁面にめり込んだ。

 

 俺はあまりのその蹴りの威力に吐血する。ただでさえハンスのせいで全身が痛いのにそれを上回るダメージを一気に叩きつけられた。

 

 それをやった犯人を目で捉える。それはテンロンの兄。悪魔らしい翼を備え、赤のラインが入った全体的に青い鎧を身に着けた銀髪の青年。おそらく。

 

「お前がスパリュードか!! 」

 

 無理やり俺は声を上げながらも立ち上がる。幸い動くのに支障が出る骨折はしていない。

 

 ゆんゆんは俺に駆け寄り、カズマとウィズさんはスパリュードに身構える。

 

「兄さん……? 」

 

「よかったですテンロン。その依り代の状態でもまだ息がありましたか。ハンス様はもうダメです。撤退しますよ」

 

「でもそいつらはゲキドラス兄さんの仇……」

 

「目的を見失ってはいけません。私たちの目的は破壊神デストラクター様の復活。私たちにとって天敵である神殺しの剣を持ったこの男も私の蹴りを受けてもいまだ戦闘可能なほどの状態です。ここで戦っても数で押し負けるでしょう。ですが幸い魂はそこそこ収集できました」

 

「わかりましたわ兄さん……」

 

「全くバカな弟が死んだのはかなり私たちにとって痛手でしたね……。傀儡化した紅魔族を連れてこなかったのも失敗でした。さて、テレポート!! 」

 

「逃がすか!! ディナイアルブラスター!!!! 」

 

 俺の放ったディナイアルブラスターはスパリュードとテンロンに命中する前に、スパリュードが展開したガーターで防がれ、その後、テレポートにより2体はこの場から消え去った。

 

「逃げられたか、だけどまだハンスが残ってる!! みんな、めぐみんと一緒にあいつを今度は湖まで誘導するぞ!! 」

 

「わかっ……げほっ!! 」

 

 俺は突然吐血した。

 

 どういうことだ? 体のダメージが悪魔2体がいなくなった瞬間大きくなって……。そうか、神殺しの剣が停止したからか……。

 

「リョウタさんは休んでてください」

 

 ゆんゆんに手を貸され地面に膝をつく。

 

「あとはみんなに任せとけリョウタ!! めぐみん!! 爆裂魔法の準備を!! ハンスは小さくなったけど念には念を入れて爆裂魔法を食らわせろ!! ウィズはカースドクリスタルプリズンを爆裂魔法でまだハンスに形が残ってたら喰らわせてくれ。アクアは水辺から、ゆんゆんは空からまんじゅうを投げて湖の中にハンスを誘導しろ!! あと、アクアは浄化に備えとけ!! 」

 

「「「わかりました!! 」」」「わかったわ……」

 

 自分の信者が多数死んだことで、3人と比べて覇気のない返事をするアクアが見ていて悲しかった。

 

 それからハンスは、湖にまんじゅうによって再度誘導された後、爆裂魔法を喰らってさらに小さくなり、最後はカースドクリスタルプリズンで氷漬けになり粉砕された。爆裂魔法で飛び散った破片で汚染された湖はアクアのセイクリッドハイネスピュリフィケーションで綺麗に浄化されつくした。




 元気のないアクア様も尊い。

 しかし饅頭で誘導された末に死滅するとはハンスもなかなか残念な死に方をしますね。しかもアニメとは違って特に何か言い残したりもしませんでした。

 次回第4章最終話です。

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