【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
063 てがみ
アルカンレティアからアクセルの街に戻って2日後。
俺、そしてカズマは屋敷の工作室にいた。
そして俺は欲望の赴くままにあるものを完成させた。
「完成した。完成したぞ!! 」
「お前本当にエリス教徒か? アクシズ教徒じゃないのか? 」
カズマがあきれ顔で言ってくる。
確かにアクシズ教の教義は追い詰められた人や社会的少数派を受け止めてくれる素晴らしいものだとは思うが。
「失礼な。俺はエリス様を信仰している。それはそうとどうだカズマこれの出来は!? 」
俺は作品の感想について尋ねる。
「完璧だな。大きさをゆんゆんが着れるギリギリであろうサイズにしているところにすさまじいフェチズムを感じる。ドン引きの逸品だな」
「そうだろ。ん? 最後なんて言った? 」
「ドン引きの逸品だって言ったんだ!! お前性癖をダクネス並みにこじらせてるよやっぱり!! 」
ダクネス並みに? 失礼な。
「そんなことは無い。俺は発情してるわけじゃないんだからな」
「そう言う問題なのかよ!? というか着てもらえると思ってるのか本当に? 」
カズマが俺の作った素晴らしい作品をつかみ上げながらそう言った。
「間違いなく着てくれるね。ゆんゆんは優しいから。寿命のことを言い出せばすぐ着てくれるさ!! というか言わなくてもあの子ならなんだかんだ言って俺が喜ぶからっていう理由で着てくれるだろう」
俺はスパッと言い切る。
「どこからそんな自信がわいてくるんだよ」
げんなりした顔のカズマが問いかけてきたので。
「両思いだからかな? 」
俺がにやにやしながら言うとカズマは顔を引きつらせ作品を机の上に置くと。
「むかつくなーおい」
「あ、着ているときの一人称は『ゆんゆん』にしてもらおう。後、俺のことはお兄ちゃんって呼ぶようにお願いしてみよう」
その方がよりゆんゆんが恥ずかしがって趣が出るだろう。
「もう勝手にしろ!! 」
「ああ、さっそく勝手を開始する」
俺は工作室を出てゆんゆんのいるリビングに走った。俺の錬金術を使って服を錬成して作った水色のスモックを片手に。
穏やかな昼さがりにゆんゆんの戸惑う声がする。
「これを着てほしいんですか? 私に? 」
「うん。ぜひ着てくれ」
俺はダクネスとめぐみんのボードゲームを観戦していたゆんゆんに満面の笑顔でスモックを差し出す。
「なんだ? 新しく開発した品か? 」
ダクネスがウキウキしながら俺の方を見てくる。確かに普段から使い心地が知りたい新商品ができた時はみんなに試してもらっているのでダクネスがそう思っても仕方が無いだろう。
「リョウタの笑顔にものすごい業を感じるのは気のせいでしょうか……? 」
おっと。めぐみんには俺の表情で何かを悟られているようだ。この子は勘がいいな。
「とにかく着たらいいんですよね。ちょっと着替えてきます」
ゆんゆんは特に気にすることなく自室にいったん戻る。
俺は心の中で歓喜に打ち震えた。
するとソファーに掛けていたアクアが。
「ちょっと神殺し……あんた先が短いからって欲望のままに生きすぎじゃない? 少しは自重なさいよ……」
「普段から欲望のままに生きてるアクシズ教徒の元締めには言われたくないね」
俺は平然とした顔でそう返す。
「ちょっとうちの信者の子たちが欲望のままに生きてるって言いたいわけ? そんなことないわよ。謝って。私の可愛い信者に謝って!! あ。あと私にも謝って。高貴でつつましい生活をしてあげてるこの私にも謝って」
ソファーで普段から食っちゃ寝してるアクアのどこが高貴でつつましいのか。さっぱりわからないが、あんまり長々と絡まれると面倒なので。
「悪かったよアクア」
適当にそれっぽく謝罪した。
「私の曇りなき眼によると適当に謝ってる気がするんですけど」
「気のせいだ」
この子も勘がいいな。
「あの、まさかとは思いますがさっきの服って……」
すると、めぐみんがなにかに気付いたようで青ざめた顔で俺を見てくる。
なにに気づいたのかは俺には何となくだがわかった。
「察しがいいなめぐみん。あれこそがスモックですよ!! 」
俺が声高らかに叫ぶ。
しばらく全員が沈黙したのち。
「お、お前というやつは、あれがスモックなるものであることを知らせずにゆんゆんに渡したのか!? 」
ダクネスがうろたえる。
「うろたえるな!! そうだよ、スモックだってあらかじめ言ったら恥ずかしがって着てくれないだろ!! だからああして自然に渡したんだ」
「「「うわぁ……」」」
女性陣が俺にドン引きする中、俺の方をトントンと後ろから叩く存在がいた。多分ゆんゆんだろう。
「おお、ゆんゆん、着てくれたか? 」
俺は振り返る。するとそこにはゆんゆんが普段の胸元が開いたエロい服を着たまま、俺を悲しい目で見ていた。
「おお、ゆんゆん。そんな顔しないでくれ。あとスモックはどうして着ていないんだい? 」
「全部聞こえましたよ。あと、私が着てもサイズギリギリじゃないですか!! 着れませんよこんなの!! 」
「頼むゆんゆん。先の短い俺のために着てくれ」
「うう……それを言われると……。まぁ二人きりの時ならいいですよ? 」
「それだと羞恥心に悶えるゆんゆんが見れないから駄目なんだ。人がいる場所で着てくれないと。あと一人称は『私』じゃなくて『ゆんゆん』で、俺のことはお兄ちゃんって呼んでほしいな。こう、ロリっとした感じで」
「やっぱり新手のロリコンだったのではないですか!! ダメですよゆんゆん!! この男の希望を叶えては!! 」
めぐみんが椅子から立ち上がりゆんゆんを庇うように俺の前に立つ。
「ロリコンじゃないよ!! 俺は倒錯した趣味のただの一般人さ。というかめぐみんはなんで俺の邪魔をするんだ!? 」
「しんゆ……ライバルがそんなスモックとかいう得体のしれない変な服。それも子供が着るような物を着せられているところを見るだなんてこっちまで惨めになってくるじゃないですか!! 」
「なるほどね、じゃあ惨めにならないようにめぐみんも着るかい? 作ってあげよう」
絶対めぐみんには似合うだろう。そういう確信がある。
「着ません、いりません!! 」
俺とめぐみんが言い合いをする中、ゆんゆんはというと、めぐみんに親友と言われかけたのが嬉しくてにやにやしている。
「す、少し羨ましいな、私なら抵抗虚しくそのような服を着せられて市中を歩かされたりするというのも悪くないと思う……」
ダクネスがそんなことを小声で言う。ならば。
「ダクネスが着るかい? ゆんゆんですらぎりぎりのサイズだからそれはもう着ればエロくて恥ずかしい格好になること間違いなしだ。それで髪型も子供っぽくツインテールにして一人称をララティーナに」
「お構いなく」
ダクネスはやんわりとした笑顔で俺の誘いを断ってきた。そんな中ゆんゆんは、さっきまでの嬉しそうな顔をやめて、俺がダクネスでもいいという姿勢を示したことに嫉妬したのだろう。頬を膨らませて俺から目を逸らした。なんてかわいい。
「しかしそんなにスモックがダメなのか。少々体のラインが出るだけの水色の服なんだからアクアが普段着ているのと大差ないじゃないか……」
というかアクアの魔法少女然とした姿よりはよっぽど常識的な服に見えると思うのだが。
「何? 神殺し、喧嘩売ってるの? ねぇ喧嘩売ってるの? 先が短いからって容赦しないわよ? 」
「ごめんなさい。調子に乗りすぎました」
俺が頭を下げてゆんゆんからスモックを受け取るとわきに抱えて工作室に戻ろうとする。
すると。
「ゆんゆーん。お前宛に手紙が届いてるぞー」
カズマが玄関の方からやってきた。リボルビングライフルを入れた袋を背負っていることから射撃の練習でもするつもりだったのだろう。
「あ。ありがとうございます」
ゆんゆんがカズマから手紙を受け取ると椅子に座って早速手紙を開封する。
「リョウタ。ちなみに交渉は成立したか? 」
「カズマ、残念ながらダメだった」
俺がそう言うと。アクア、めぐみん、ダクネスから「当然だろ」と言いたげな視線を向けられる。
まぁ、二人っきりの時なら着てもいいと言ってくれたからそれで妥協するか。速くカズマのチームがクエストに言って屋敷を空けますように。
そう考えていると。
「え、ええ? えええええぇぇぇぇ!!!? 」
ゆんゆんが突然大きな悲鳴を上げた。
「どうしたゆんゆん!? 」
俺は急いでゆんゆんの方に駆け寄る。ソファで寝転がっていたアクアでさえも驚いてこっちに寄ってくる。
「騒々しいですね。まぁ自分の好きな人がこんなに倒錯していて悲鳴を上げたくなる気持ちもわかりますが……」
失礼だぞめぐみん。
呆れ顔のめぐみんがゆんゆんに近づく。
すると。
「ねぇどうしよ、ねぇどうしよぉ、めぐみん!!!! 紅魔の里が無くなっちゃう!!!!!!!! 」
めぐみんの肩をつかんでゆんゆんは泣き叫びながらシェイクした。
「や、やめ、やめ、やめろー!! 落ち着いてください何があったのですか!? 」
「それに私の運命の相手がリョウタさんじゃないかもしれないの!! いやぁぁぁぁ!!!!!!!! 」
え。
「どういうことなんだゆんゆん!? 本当にどういうことなんだ!? そりゃ確かに先が短いけれど。俺が死んだら俺以外の人と幸せになってくれてもいいんだけどさ!? いったい何があったんだ!? 」
俺はゆんゆんの口から出た衝撃の一言に焦り、うろたえ、心が壊れそうになる。
「と、とにかくゆんゆん、手紙に何を書かれていたのか言ってくれ、というか読ませてもらっていいか? リョウタが死にそうだ」
俺がショックで床に胸を押さえてしゃがみ込んでいると、カズマがそう言って手紙を読み始める。
「なになに、えっと、この手紙が届くころには私はこの世にいないだろう。我々の―――」
カズマが読み上げたのは、なんと紅魔族族長からの手紙だった。すなわち、ゆんゆんのお父様からの手紙である。
その内容は、魔王軍が紅魔の里を襲撃していること。彼らによる巨大な軍事基地が建造されたこと。それらを率いる魔王軍幹部が魔法に強い抵抗力を持っていること。そして紅魔族が劣勢にあること。最後に、ゆんゆんのお父様が魔王軍幹部と刺し違える覚悟であり、ゆんゆんには最後の紅魔族としてその血を絶やすことが無いようにとの記載があった。
「かなりまずいんじゃないのかそれ? 」
俺は紅魔の里の状況に冷や汗を流しながら立ち上がる。運命の相手がどうのとか言っている場合ではない。
「なに、なに? つまり紅魔の里が危険で危ないの? 」
アクアが首をかしげる。
するとダクネスが。
「ちょっと待て、最後の紅魔族というのはおかしくないか? めぐみんもいるぞ」
確かに。族長ならめぐみんが外にいることも把握しているだろうし。もしかしてめぐみんは忘れられているのだろうか?
「ダクネスの言う通りですよ!! 私もいるではありませんか!! 」
めぐみんが手紙の内容に憤慨する。
「お、もう1枚手紙があるのか」
カズマがゆんゆんがもう1枚の紙を差し出しているのに気づく。
「はい。……どうぞ」
ゆんゆんは茫然とした顔のまま言った。
「どれどれ……。里の占い師が―――」
カズマがゆんゆんからもう1枚の手紙を受け取り読み上げていく。その内容は要約すると、アクセルの街にてゆんゆんがダメ人間と出会い、そいつを伴侶として迎え、腹立たしいことにそいつとの間に生まれた子供が魔王を討伐するというものであった。
「ふざけんじゃねぇ!!!! 俺はもうダメ人間じゃなくなったんだ!! 取り柄だって神殺しの剣と錬金術が使えて……」
「それ両方とも貰い物じゃない神殺し。あんた自分で誇れる人間的魅力は無いの? 」
お、俺の人間的魅力? あったっけ?
「大丈夫ですよリョウタさん!! 私は知っています。リョウタさんは強くて優しくてかっこいいですよ!! 」
「ありがとうゆんゆん!! だそうだアクア。というか君だって俺のことこの前、俺が優しいって言ってくれただろう」
「バカね神殺し。自分のこと自己評価できないのかって私は言いたいのよ。人の評価が無いとダメなわけ? 」
「自己評価なんて難しい言葉知ってたんだ。偉いね、アクア」
「ちょっと!! 病人だからって容赦しないわよ。聖なるグーを食らわせるわよ!? 」
アクアが俺に吠える。しかし、ゆんゆんに褒められた俺はそんなものどこ吹く風だ。
それはともかく、ゆんゆんがどこの馬の骨とも知れない奴と結婚するというのはいただけない。
「恋は盲目とは言いますが恐ろしいものですねダクネス」
「そうだなめぐみん。まぁゆんゆんの言う通り強くて優しい奴だとは思うが」
「まぁそうですが。性癖があまりにも……」
「そうだな……」
「おい聞こえてるぞめぐみん、ダクネス。君たちだってカズマのことが」
「「わぁぁぁぁ!!!!!!!! 」」
「え、なんだよ、俺のことがなんだって言うんだよめぐみん、ダクネス」
ちょっと期待した表情のカズマが2人に問いかける。
「「なんでもない(です)!! 」」
真っ赤な顔のめぐみんとダクネスが俺を睨んできた。俺の趣味をとやかく言うからだ。
「とりあえずだ。この手紙から紅魔の里が危機なのと、ゆんゆんが俺の死後ダメ人間に引っかかるということが分かった」
「死後だなんて悲しいこと言わないでください!! 」
怒りだすゆんゆん。
「ごめんよゆんゆん。でも自分でも先がそんなに長くないのは全身に走ってる痛みと不快感でわかるから」
そう、俺は聖水のおかげもあってそれなりに元気に過ごしているが、体には常に痛みが走っていて、何かに呪われているという気持ちの悪い感覚が常に付きまとっているのだ。だから先が短いことを実感している。
「リョウタさん……」
涙目になるゆんゆん。
「ごめんね」
俺はそれを見て少し泣きそうになったのをこらえてゆんゆんに謝っていると。
「なんだこれ? 紅魔族英雄伝 第1章 著者:あるえ って書いてあるぞ。これまさかとは思うが作り話なんじゃ……」
「あら? カズマの言うとおりね、1枚目と字が違うし、『追伸、郵便代が高いので族長に頼んで同封させてもらいました。2章ができたらまた送ります』ってあるわね」
「え、本当ですか!? 」
ゆんゆんがカズマから手紙を受け取ると、顔を青くした後、今度は怒りで真っ赤にして手紙をくしゃくしゃにすると。その場に投げ捨て叫んだ。
「あるえのバカー!!!!!!!! 」
「おいどういうことだよ? つまり2枚目に書いてあることは全部作り話でゆんゆんがどこかの馬の骨と一緒になるってのは無いってことなのか!? そうなんだな!? ってか、あるえってなんだよ」
アロエの仲間か何かか?
「あるえは紅魔の里での私とゆんゆんの同級生です……。なんというかその、作家を目指している変わった子でして」
「なんて迷惑な子なんだ……。変な勘違いを招きやがってからに」
俺は頭痛がした。
「いや待てよ、この2枚目が作り話だってのはわかったけど1枚目は本物ってことにならないか? 」
『……確かに』
カズマの一言に残りの全員がハモった。
「……つまり紅魔の里は今壊滅状態にあるということだろうか? しかしそれだとあるえというめぐみんとゆんゆんの学友がこんな手紙を送ってこれる余裕などないはずだしな」
ダクネスが考えこむ。
「ですが昔から紅魔族は魔王軍に目の敵にされていました。きっと本腰を入れて里の攻略に来たのでしょう」
「お父さん……きっと大丈夫だよね」
「ゆんゆん。私たち紅魔族がそう簡単に魔王軍に敗れ去るとは考えられませんよ。族長も大方、手紙を書いてるうちに紅魔族としての本能が抑えられなくなってこんな風に書いたんじゃないんですか? 」
「た、確かに言われてみるとそうかも。授業でも手紙はそんな風に書くように習った覚えがあるし」
いったい紅魔の里の学校では何を教えているのだろうか? そんなくだらないことを教える必要があるのか? いや、民族性なのだから伝統として受け継いでいかなければならなことなのだろうか?
とにかく現状打破のためには手っ取り早い手段が1つ思いついた。ついでに言うなら俺の呪い問題も解決できるかもしれないことだ。
「バニルあたりに聞いてみるのがいいかもしれないね。あいつなら金さえ積めばいくらでも素晴らしい答えをくれそうだ」
「ナイスアイデアだなリョウタ」
「あいつなら確かに見通す力で一発で里の現状がわかるだろうな。いいじゃないか」
「名案だろ? 」
ダクネスとカズマが俺に賛同する中アクアは渋った顔をする。
「私あいつの力を借りるのは女神としてのプライドが許さないんですけど。みんなも女神の従者としての自覚が足りないんじゃないの? 」
しかしみんなはそんな言葉を無視する。
「早速聞きに行きましょう。……私には妹がいて、あの子のことが少し気がかりです」
めぐみんが言った。妹いたのかめぐみん。
ちょっと驚いているとゆんゆんが。
「バニルさんとリョウタさんってビジネスの関係もあるんでしょうけど……それなりに仲良くなりましたよね。正直想像できませんでした」
突然そんなことを言った。そう、俺はこれまでバニルに錬金術のことでアドバイスをもらって以降、商品開発などで行き詰まればバニルに聞くことが何度かあった。
「悪魔は契約にうるさいからね。特にバニルに関してはお金を積めばどんなことでも正解をくれるからありがたいことこの上ない存在だよ。困ったときのバニえもんだよ」
「バ、バニえもん? 」
某ネコ型ロボットの名前にかけてみたバニルのあだ名に戸惑うゆんゆん。
「とにかく早速聞きにいこうぜ」
カズマが真面目な表情でそう言った
俺たちはそれから各自準備をしてから一緒にウィズ魔道具店へと向かった。
ついに始まりました第5章。
ゆんゆん視点も本章で解禁しますのでお楽しみに。