【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
「約2日。まずこの街道を1日ちょっと歩いて、それから平原を抜けて、最後一番危険な森を抜けたら紅魔の里か」
俺は整備された街道のその先を見据えながら言った。
紅魔の里まではキャラバンが出ていない。これは紅魔の里まで続く道のりが凶悪なモンスターの生息地のため危険だからである。また紅魔族の人は基本的にテレポートを取得しているため街々を自由に行き来できる。そのため今更キャラバンが危険を冒してまで向かう必要が無いからだ。
「野営するのは正直怖いな……日の高いうちにさっさと進めるところまで進んでおこうぜ」
「そうですね。あと、モンスターが非常に強いので状況によっては身をひそめる必要も出てくるかもしれません。まぁ私の爆裂魔法やゆんゆんがいるので倒せないことは無いでしょうが。とにかくカズマの敵感知と潜伏スキルが頼りです。リョウタは極力魔力を消費しないほうがいい体なのでサーチは使ってはいけませんからね」
「ダブルチェックができないのは痛いな。すまないみんな」
俺はみんなに謝罪する。
「気にするなリョウタ、私たちはパーティーだ」
ダクネスがほほ笑む。
「いざとなば、この前走り鷹鳶を狩ってレベルアップと一緒に手に入れたスキルポイントで取得した『逃走』スキルが役立つだろうな」
「ねぇ、それってカズマにしか効果が無いんじゃないの? いざとなれば1人で逃げる魂胆じゃないでしょうね」
「それはないよ……多分な」
カズマがそんな本気なのか冗談なのか分からないことを言った後、俺たちはダクネスを先頭にして歩き始めた。俺は本当に危機が迫った時だけ戦う許可が下りることになっておりそれ以外では戦闘は傍観するというスタンスをとるようにアクアに厳命されている。
「戦えないのは辛い」
「リョウタさん結構戦うの好きですよね」
「そんなことないと思うけどね。だってお金があればニート生活を営みたいと思ってるし」
「でも戦ってる時のリョウタさんってすごく生き生きしてますよ」
「それは自覚がある。あれ、やっぱり俺って結構なバトルジャンキーなのか? 」
「さすがにそこまでは行ってないと思いますけど」
「ですがリョウタは戦闘への才能がずば抜けて高いですし戦うために生まれてきたとすら言えそうですよ。あなたの職業適性の広さから見ても天才的センスを持っていると言わざる負えません」
めぐみんがちょっとテンション高めに語る。
「戦うために生まれてきたようなものか……。前は職業ヒキニートだったのに、こんな才能があるだなんて想像もつかなかった」
「まるで紅魔族のようですね。私たちも戦うために創り出された存在という言い伝えがあります」
「そうなのかい? 」
俺は事情を知ってそうなアクアの方を見ると。
「そう言えばそう言う話も聞いたことがあるような気がするわね」
適当な調子でアクアが答えた。
「いいなー才能があって、チートが2つもあって、そんで彼女候補がいて。うらやましい限りだよ」
カズマが嫌味を言ってくる。
「羨ましいだろ。ざまぁみろ」
わざと俺がカズマを煽ると。
「……お前一度俺と勝負してみるかリョウタ? 」
「いいぞ、望むところだね」
「お前に勝つためならどんなこすらこいても使うけど本当にいいんだな!? 」
ヒートアップするカズマ。
そんなに青筋立てなくても。よほど俺の才能やチート2つやゆんゆんお存在が羨ましいと見える。まぁ確かに俺の持ってるものの中でもゆんゆんの存在は羨ましいことこの上ない物だろう。
「いいぜ掛かってこいカズマ。俺にあってお前にない物。それはゆんゆんの有無だ。既に勝敗が決していることがわからない時点でお前に勝ち目はないからな」
「いいや、本気の戦いならむしろ弱点になるぞリョウタ!! 俺ならゆんゆんを不意打ちして無力化して人質にした後お前に自滅の選択を迫ってやる」
「最低ね」
「最低ですね」
「最低だな」
めぐみん、アクア、ダクネスがそう言う。
「うるせぇ!! 本気の勝負だったらって場合だ!! 」
「……ちなみにリョウタさんは私が人質に取られたとき自滅しますか? 」
「君は俺に生きることを望むだろ。だから自滅しない。そしてゆんゆんを絶対助ける」
「……えへへ」
ゆんゆんは小さく二ヘラと笑った。
「何を色ぼけているのですか全く……我がライバルは」
「こいつらが色ぼけてんのはいつものことだろめぐみん」
カズマがそう言いながら苦笑する。
「まぁ本気でカズマと戦うとなったら本音を言うと俺が負けるだろうな」
俺は偽らざる本心を語った。
「ん? なんでそう思うんだよ? 」
カズマが怪訝な顔をする。
「いやだって知略の面で大きくカズマに俺は劣ってるだろ。真正面からぶつかるしか能がない俺だから確実にカズマに絡め手を使われて負けるね」
「いや、お前のほうが絡め手を使いまくれるじゃねぇか。クリエイターの魔法で。あと錬金術も」
「だとしてもだよ」
多分カズマは今までのように機転を利かせてどうにかしてしまう。そう言う確信があった。
「どんだけ俺の評価はお前の中で高いんだよ……」
そう言いながらも満更でもなさそうな顔をするカズマ。
「なになに、カズマさんたら。神殺しに照れてるの? 」
にやにやしながらアクアがカズマに問いかける。
「て、照れてねぇし!! 男が男に照れたりしねぇし!! 」
顔を赤くして否定するカズマ。わかりやすいな俺の親友。
すると。
「おいみんな、人がいるぞ……」
ダクネスが突然立ち止まる。俺たちもそれに合わせて立ち止まるとダクネスの視線を追う。
そこにいたのは緑髪の少女。林の入り口で出っ張った岩の上に腰かけていた。
こちらに手を振っている。
「あの子怪我してるな」
俺は女の子が右足に血のにじんだ包帯を巻いており痛そうにしてちらちらとそれを見ていた
「おい、俺の敵感知スキルに反応があるんだが……」
カズマがそんなことを言う。
「まさか、ただの女の子だろ? 」
「怪我してるじゃない、私が直してあげるわね」
駆け寄るアクアを止めるカズマ。
「ちょっと、あの子がかわいそうじゃない!! 」
「俺の敵感知スキルにモンスターの気配をびりびり感じる。あれ擬態したモンスターだ」
『えっ』
カズマ以外の全員が声をハモらせる。
「あ、ま、まさか」
ゆんゆんは心当たりがあるようだ。
「安楽少女だな」
カズマがアルカンレティアのギルドでもらった紅魔の里までの地図に載っているモンスター情報を確かめながら言う。
「あれでモンスターなのか」
俺が引いているとゆんゆんが安楽少女を心配げに見つめながら説明を始める。
「はい。安楽少女は旅人に対して強烈な庇護欲を抱かせるんです。物理的に危害を加えてくることはありませんが―――」
安楽少女は一度自分に情を移らせた相手を逃さない。近くによるとそっと寄り添うようにしてくるこのモンスターは、旅人に腹が膨れる、しかし栄養素を持たない果実をご馳走し痩せ細らせて栄養不足で殺してくる。また、その実には神経に異常をきたす成分がある。そのため旅人は寄り添う少女のおかげで夢見心地なまま死ねる。ちなみに死後は安楽少女がその上に根を張り養分にされるらしい。
「善良な人間ほどとらわれるって書いてあるな」
ゆんゆんの説明中に、残り3人の女性陣は安楽少女を取り囲んでいた。そして何か話しかけている。それも楽し気に。きっと庇護欲をわきたてられたのだろう。
「ゆんゆんも行きたいかい? 」
「いえ、私は、確かに庇護欲をそそられますけど。以前の私とは違いますから、側にいたい人が今はいるので大丈夫です」
ちょっとつらそうに笑うゆんゆん。心の中で安楽少女に近づいて護ってあげたくなる衝動と戦っているのだろう。
「カズマは何ともないのか? 」
「まぁ思うところはあるけどモンスターだからな……」
微妙そうな顔のカズマ。
「だよな。駆除しないと」
「お前は何ともなさそうだなリョウタ」
「だって仲間を……今まさに安楽少女をちやほやしてるあの3人を養分にしようとしてるんだろ。そう考えるとどうだ? 殺意すらわいてくる」
「でも人の姿してるしなぁ……やりづらいな」
「俺がやろうか? いつでもバーニングスラッシャーで焼けるけど」
「いや、レベルの低い俺にやらせてくれよ。レベルアップしときたいし」
「了解」
「ええー!! 倒しちゃうんですか!? そのかわいそうですし見逃してあげても……」
「それで新たな犠牲者が出たらかわいそうだよゆんゆん」
「そ、それも、そうですね……」
カズマがちゅんちゅん丸を引き抜き、安楽少女に迫ると。
「ちょっとこの子に何するつもりよ冷血ニート!! 」
「さ、さすがにカズマでもこの子を倒したりしませんよね? ね? 」
「くっ、しかし冒険者の義務だからな。倒さなければならないのだろうな……っ!! 」
各々反応を示すアクア、めぐみん、ダクネス。
「お前ら退けよ。そいつはお前らを養分にしようとしてるんだぞ。っておい安楽少女。その訴えかけるような目はやめろよ罪悪感が……」
カズマがたじろぐ。
やっぱり俺がやるか。
「カズマ」
「……いや、任せとけ、やるよ」
カズマが覚悟を固めた表情になる。
討伐の邪魔をしようとするアクアを俺が無言で羽交い絞めにする。
「か、神殺し!! 放して!! あ、カズマさん!!!? やめてやめて!!!! 」
絶叫するアクア。
「めぐみん、ここはカズマに任せよう」
「えっ、でも……」
胸元に入れているちょむすけをぎゅっと抱きながらダクネスに促されてその場から離れるめぐみん。
「と言うことで安楽少女。悪いが討伐されてくれ……って……」
カズマが涙目の安楽少女の前で首をかしげる。
「ど、どうしましたカズマさん? 」
ゆんゆんが不安げにカズマに問いかける。
「いや、こいつどこを攻撃したら死ぬんだ? 弱点がわからないんだけど。岩も擬態した一部みたいだし……」
「ああ、それなら、多分ですけど安楽少女には知能があることから考えて、人間と同じく脳があるはずなので首をはねたら…死ぬと、思い、ます……」
ゆんゆんが目を背けながら言った。
「そっ、そっかー、あはは」
乾いた笑い声を出すカズマ。
すると。
「コロスノ……? 」
安楽少女がなんとしゃべった。
不安げな顔でカズマを見ながら、もう一度。
「コロスノ……? 」
カズマが握るちゅんちゅん丸がカタカタ震える。迷っているのだろう。
「カズマ、迷っているときに出した決断はね、どの道どっちを選んだとしてもきっと後悔するものよ。なら、今が楽ちんな方を選びなさい」
アクアがカズマをアクシズ教の教義で惑わす。
しかしさすがにそんなダメ人間の考え方はカズマには効かないようでカズマは。
「討伐する!! 」
声を上げて安楽少女にちゅんちゅん丸を振り上げるが、振り下ろせないでいた。
「ワタシハモンスターダカライキテイルトメイワクカケルカラ。ウマレテハジメテ、コウシテニンゲントハナナスコトガデキタケド。サイショデ、サイゴニアエタノガ、アナタデヨカッタ。モシ、ウマレカワレルノナラ、ツギハ、モンスタージャナイト、イイナ」
安楽少女が儚げな笑顔を見せてそう言った。
「殺せるわけねぇだろ……」
カズマの気持ちはわかる。しかし今最初で最後に会えたのがあなたでよかったっていうフレーズはこの状況的にちとおかしくないか? モンスターだからやや言葉がおかしいのは仕方がないのか?
「まぁいいや」
「あ、神殺しも見逃す気になったのね。よかったわ!! 」
俺が拘束を解いた瞬間嬉々とするアクア。そんな彼女を俺は一瞥もせずに安楽少女に向くと、神殺しの剣を引き抜き。
「バーニングスラッシャー……」
火炎の斬撃波を安楽少女に躊躇なく発射した。
「うぁぁぁぁぁ!!!? 」
アクアが絶叫し
「ちょ、お前!? マジかよ!? 」
カズマが驚愕し。
「リョ、リョウタ(さん)」
ほとんど怯えた声のゆんゆん、めぐみん、ダクネス。
すると安楽少女はさっきまでのたどたどしい口調をやめて。
「おのれ人間め!! よくもやってくれたな!! ああ、体が燃えていく……このままだと死んじゃう!! 」
流暢にしゃべり始めた。
それを見て絶句するほかの5人。
「本性現したな。そのまま焼け死ね」
少々想定外だったけどやっぱりさっきの違和感は間違いじゃなかった。
やがて安楽少女が悶えながら、燃え尽きると。人間の焼死体に見えなくもない物が完成してしまった。実際人型をしているので仕方ないだろう。
『…………』
みんな無言で街道を進みだした。
きっと安楽少女の正体を知ったことへの落胆と、俺へのドン引き。あとは燃えていく光景が人型をしているせいでグロテスクだったのがいけなかったのだろう。
「みんなゴメンよ」
『…………』
みんなは何も言わなかった。
夕方になって、やっと会話するようになった俺たちは、雑談しながら街道をひたすら進んでいた。その会話の中に安楽少女の物はない、みんなあれは黒歴史にしてしまいたいようだ。
「だいぶ日が沈んできたけどまだまだ進むぞー。完全に日が沈むまでは歩き続ける」
「それにしても順調に進めているな。私は最初はもっとモンスターの襲撃が連続すると思っていたのだが……」
「当てが外れて残念でしたねダクネス。でも今の私たちにとっては襲撃が無いのはやはりありがたいことですよ」
めぐみんがダクネスに冷静に言葉を紡ぐ。
「そ、そうではあるのだが……」
モジモジするダクネス。
いろいろ持て余しすぎだろ。このお嬢様。
「ん、おいダクネスお前がフラグみたいなこと言ったせいでモンスターがお出ましたぞ!! 敵感知に感ありだ!!」
「わ、私のせいなのか!? しかし何という僥倖だ!! 」
「モンスターは何かしら? 」
「みなさん、このあたりの林だとどうやら初心者殺しの上位種である、上級者殺しが出るみたいですね……鼻が利くとあるので消臭ポーションを使ってカズマさんの潜伏スキルで林の中にひとまず隠れませんか? 」
「そうだな。よしみんな俺につかまれ。潜伏してやり過ごすか不意打ちを食らわせて倒すぞ」
カズマが林に入るとみんなでそれに続く。
「みんな声を静めろよ……すぐ近くまで来てる」
カズマが小声でそう言うと、全員頷き、カズマの各所を握り息をひそめる。
「潜伏」
カズマがスキルを使用すると同時に消臭ポーションを使用して臭いを消し去る。
すると、黒い体躯に赤いラインの入った巨大なサーベルタイガーの如き生物の姿が同じ林の中に見えた。俺たちは身を低くする。
カズマが無言でリボルビングライフルを取り出す。みんなそれを止めない。不意打ちで仕留めてしまおうというのがみんなの総意なのだろう。俺も賛成だ。
カズマが射撃体勢に入る。そして狙いを定め。
「狙撃……!! 」
カズマが引き金を引いた。爆音とともに銃弾がリボルビングライフルから撃ち出され、まっすぐ上級者殺しに伸びていく。
しかし。
「ガウッ!! 」
上級者殺しは何と銃弾を前足の爪で器用なことに叩き落とした。
「な、ふざけんなよ!? 」
カズマが狼狽えながらリボルビングライフルの残弾5発を全て発砲するがそれらすべてを爪先で叩き落す上級者殺し。
「クソ、全員フォーメーションを組め!! ダクネス、デコイを発動して突撃、ゆんゆんは魔法の使用。アクアはダクネスに防御力増強の支援魔法を!! めぐみん、リョウタは退避。俺はダクネスが受け止めている間に銃で撃ちまくる!! 」
『了解(です)!! 』
全員が各々言われた通りに動く。俺はめぐみんとともに後を見ながら後退する。
まずはダクネスが上級者殺しに突撃した。上級者殺しは当然のごとくダクネスに襲い掛かり、彼女に嚙り付いた。
「今私はケダモノに襲われている!! 」
興奮するダクネスはもみ合いになった末、上級者殺しのパワーに負けて組み伏せられた。
「これでも喰らえ!! 」
カズマが腰に吊り下げていたホルスターから2丁のリボルバーを抜き、上級者殺しに発砲する。
それを受けて、上級者殺しは大ジャンプをして銃弾を回避し、追撃の銃弾も爪で弾き飛ばしながらダクネスの上に急降下し、殴りつけのしかかった。
「ぶっ!!!! 」
ダクネスが声を上げながら上級者殺しにのしかかられた衝撃で土煙を巻き上げる。
「ちょっとダクネスが気絶しちゃったわよ!? 」
ここからではダクネスの顔を確認できないがどうやら気絶してしまったようだ。
「っ!! ライトオブセイバー!! 」
ゆんゆんがライトオブセイバーをハルバードの先から展開し横なぎに振るう。林の中の木々が一気になぎ倒されると同時に、上級者殺しを切り裂かんと迫るが。
それを上級者殺しは身をねじって回避する。
しかし、その隙を見逃すカズマではない。彼は銃弾を3発ほど上級者殺しの胴体に撃ち込んだのだが。
「爆散してない!? 」
あろうことか上級者殺しに弾丸が埋まっただけで、爆散はしなかった。何という強靭さだろう。
俺が少し感心しつつまずいのではないかと内心慌てていると、上級者殺しが疾走、一気にカズマを捉えると、爪で一撃を加えた。
「ぐわぁぁぁ!!!? 」
「か、カズマ!? 」
俺の隣のめぐみんが悲鳴を上げる。
カズマの胸元が大きく引き裂かれ血が噴き出していた。
「あわ、わわわ、カズマが、カズマが死んでしまいます!!!? と言うかこのままだと私たちたち全滅なのでは!? リョ、リョウタ!! 止む得ませんお願いします!! 」
「了解だ!! 」
俺はソードメイスを担いで、カズマの首筋に噛みつこうとしている上級者殺しに突撃した。
上級者殺しはゲーム、「このすば迷宮」より登場させました。
しかし、安楽少女って本当に嫌なモンスターですよね。悪辣という言葉がここまで似合うモンスターはなかなかいないと思います。