【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
「私たちの公用語で書かれてるものが多いですね。資料は。少し意外でした」
2階の資料室の大量の本棚から多数の資料をあさりながらゆんゆんが言った。
「そうだねゆんゆん。だけどほとんどがここで作った物に関する記録とそれに対する評価だけしか見当たらないね」
「あの装置の動かし方に関する説明書のようなものは無いな……」
約1時間探してみたのだが一向に見つからない。
「まさか重要な秘密だから地下格納庫に隠されていたりはしないでしょうか? 」
めぐみんが資料を読みながらつぶやく。
地下格納庫とは、この謎施設のすぐ横にある格納庫だ。その名の通り何かを格納しているらしい。一説によると世界を滅ぼしかねない兵器が封印されているとかいないとか。ちなみにこの格納庫は特殊な封印が施されているらしく今まで誰も中を覗けた者はいないそうだ。
「確かにホイホイ紅魔族が量産出来たら困るし説明書はそこにあるのかもな」
カズマが納得がいったという顔をする。
「古代文字……ニホン語も使われていますから、カズマとリョウタ、アクアが行けば封印を解くことができるかもしれませんね。あそこの封印はさっきの紅魔族改造装置と同じで、たっちぱねる? がありまして、暗号を撃ち込むようになっているのですが、その暗号がニホン語なのかもしれません」
「地下格納庫か。行ってみようかカズマ、アクア」
「そうだな」「そうね」
「では私とめぐみん、ゆんゆんで引き続きこの資料室を探索する。お前たち3人は地下格納庫を調査する。このように別れて作業をするか」
「そうだな。ダクネス、めぐみん、ゆんゆん。日本語の資料があったら分けておいてくれ」
「分かりましたカズマさん」
「じゃあ私たちは地下格納庫に行きましょう。カズマ、神殺し」
「「了解」」
「まさに核シェルターだね。カズマ、アクア」
「だなリョウタ……」
「そうね。あ、めぐみんの言う通りタッチパネルがあるわ」
俺たちは謎施設のすぐ近くの地下格納庫に来た。洞窟の階段を下ったところにあり、その入り口や雰囲気はまさに核シェルターだった。
アクアの言うように扉の横にはパスワードを打ち込むためのタッチパネルがある。そこには『小並コマンド』と書かれていた。
「小並コマンド? なんだそりゃ? 」
「小並コマンドは小並コマンドだろリョウタ。あ、お前はゲーマーとかじゃないから知らないか」
「ああ」
「ねぇカズマさん私の魔法では封印が解けるような仕掛けじゃないみたいだからさっさと打ち込んで開けてちょうだいな」
「分かったよ」
カズマが小並コマンドなる物を入力する。
すると地下格納庫の扉が音を立てて開いた。
「あいたな」
「あいたね」
「あいたわね」
ここと言い謎施設と言い、作った日本人は遊びが過ぎる。
「罠発見スキル発動……。あ、罠なんて一つも無いみたいだ。安心していこうぜ」
俺たちはカズマが確認した後、そろって地下格納庫の中に入る。すると、人感センサーが機能したのか明かりがついた。
そこに広がっていたのは、様々な物品の山だった。いや、ただの物品ではないもはや宝の山とすら言える。
「ゲームソフトがたくさんあるわ!! プレイスケーションにゲームガールも!! あ、ちゃんとテレビもあるわね!! 」
「それだけじゃないぞ!! いろんな武器と魔道具にフィギュアもある!! プラモデルもだ!! すげぇ!! 」
「なんか巨大兵器もたくさんあるな。えっとこれは蛇型のマシンか。名前は……『魔術師殺し』かって……うおっ!! 」
「どうしたリョウタ!? 」
「人型兵器まである……」
「本当だな」
「私が送った人、趣味全開で生きたのね、この世界で」
どうやって運び込んだのかはわからない(もしかしたら格納庫のハッチが他にもあるのかもしれない)が大きなマシンがたくさん並んでいた。どれもアニメで見たことのありそうなものばかりだった。
「なるほど、MSはデカすぎるから実用性にも難点はあるけど、KMFやATサイズなら実用的だよな……」
「お前こそ何言ってるんだよリョウタ? 」
「ロボットアニメの用語だよ」
「オタクたちには嬉しすぎる空間みたいね。まぁオタクじゃない私でも喜ばされる品々がいっぱいだけどね!! 」
アクアがテンション高く、格納庫内を物色する。
「あ、なんか手記を見つけたわ!! 」
「本当か? 紅魔族製造装置について何か記載があるかもしれないから読んでみようぜ」
「そうだね。アクア。朗読を」
「任されたわ!! 」
アクアが手記を読み始めた。
「あら、この筆跡……デストロイヤーで見つけた手記のと一緒ね」
「え、そうなのか? 」
カズマが手記を覗きながらそう言う。
「じゃあ、あのなんともむかつく手記を書いた人が……デストロイヤーの開発者があの施設やこの格納庫とその内部の品々を作り出したのかよ!! 」
なんか納得は行くがむかつくなぁ。
「みたいね、えっとなになに―――」
そこには、ゲームガールやその他おもちゃの秘めらし秘話(国の予算を使ってゲーム機を作り、踏み込んできたお偉いさんをごまかすために、それを世界を滅ぼしかねない兵器と偽ったこと)や、国に貢献するのが面倒で『争いは何も生まない』と言ったら同僚に『争いがあるからお前の仕事があるんだろうが』と言われたことや、3つの力を1つにするような変形合体巨大ロボの計画書が却下されたこと、逆に『巨大で魔法に強いの作ればいいんじゃないんですかね』と適当に言った案が通ってしまいその設計図を犬型にしたところ胴体が長かったため蛇型と解釈されたり、その蛇型兵器『魔術師殺し』はバッテリーが長持ちしないものの強かったことがアクアによって明かされた。
「まだ続きがあるわね。あ、紅魔族についてだわ!! 読むわよ。えっと―――」
アクアが紅魔族の誕生秘話についても読み始める。そこには紅魔族は魔王軍と戦う新兵器の改造人間であることや、改造希望者が大勢いて抽選をしたこと。希望者たちのお願いで目を赤く、髪を黒くしたこと。また同じく希望者たちからのお願いで紅魔族にバーコードが備わったことが明かされた。また、完成した紅魔族の希望で物干しざお台の対魔術師殺し用の魔力圧縮式ライフル型ビーム兵器『レールガン(仮)』が作り出され、それこそ世界を滅ぼしかねない威力だったことが分かった。
そして。
結局複雑な操作方法については書かれていなかったが見落としてはいけない問題点が1つ、手記から発覚した。それは、紅魔族に改造手術をすると『記憶がなくなる』ということだった。
「―――以上よ」
俺たちの空気が凍る。
「ね、ねぇ、ほかに方法があると思うの」
「だ、だよなぁ、きっと紅魔族になる以外の方法があるんだろきっと」
アクアとカズマが俺の方を見ながら言ってくれるが。
「バニルは寿命問題を解決できる方法があるとは言っていたがそれにリスクが伴うかどうかは一言も言っていなかった。それに、あの3階の設備の中で人間をどうにかする装置は紅魔族改造装置しか無かった。そのことから考えて多分……」
「あれしかないって言うのかよ……」
「多分そうだと思う」
俺は立ち眩みがするような感覚を味わいながらカズマの言葉を肯定した。
「じゃ、じゃあ神殺しが長生きするには、今までの記憶を全部パーにするしかないの? 本当に? 」
アクアが焦る。
「そのはずだ」
俺は、ゆんゆんになんて説明しようかと暗い気持ちで考えながらアクアの言葉に反応した。
「どうでしたか? 地下格納庫の封印とかは? 」
資料室に戻るとめぐみんが開口一番にそう言ってきた。
「封印は解けたから、必要な情報は集めて再封印したよ」
「そうかカズマ。こっちは収穫は無かったが安心したぞ」
ダクネスがほほ笑む。
「あの、リョウタさん? どうしたんですか」
俺の様子を見て何かがおかしいと察したのだろう。ゆんゆんが不安げに問いかけてくる。
「操作方法はわからなかったが、多分バニルが来れば見通す力でどうにかその辺はできると思う」
俺の言葉にめぐみんとダクネスは明るい表情を浮かべる。ゆんゆんはというと、俺の言葉に続きがあるのをわかっているようでまだ不安げな顔だ。
ああ、この顔を。この曇った表情を今から俺はさらに曇らせてしまうのか。
そんなことを思いながら俺は言葉を続ける。
「ただ、紅魔族になることに1つリスクがあった。それは改造後は記憶を失うということ」
「き、記憶を失うんですか? 嘘ですよね? 」
ゆんゆんの目元に涙が浮かぶ。その声も身体も震えていた。
ごめんよゆんゆん。
「嘘じゃなくて本当なんだよゆんゆん」
「そんな……」
ゆんゆんは崩れ落ちた。
その後、ほかにも可能性が無いかほかの階を探したり、協議してみるが、紅魔族に改造すること以外明確な俺の寿命問題解決策は見つからなかった。
「とりあえず明日バニルがウィズと一緒に来るだろうし、その時にリョウタのことまた見通してもらおうぜ。そうすればきっと、きっと別のいい手段が見つかるさ」
わざと元気な声で謎施設の前でそう言うカズマ。
「そうね、あのクソ悪魔を頼りにするのは癪だけど、カズマの言う通りよ」
アクアもカズマに同調する。
「そ、そうですね。とりあえずいったん解散しましょうか!! 」
めぐみんが俺とゆんゆんの時間を作るためだろうか? 俺を見つつそんな提案をする。
「だな。一時解散しよう」
ダクネスもめぐみんと同じ意図なのだろう。俺の方を見ながらそう言った。
俺はゆんゆんと2人で話したいことがあるのですごくその提案や気遣いは助かる。
「うん。じゃあ解散ってことで。ゆんゆん。さっそく2人で話したいことがあるんだ。いいかな? 」
「っ!! はい……」
俺とゆんゆんは、喫茶店『デッドリーポイズン』にやってきていた。
俺の寿命を縮めてくれた元凶と同じ名前をしているのでなんて嫌な店名だと思ったが話せそうなお店はここしかない。
「い、いやな店名ですね、今更ながら」
「だね」
席に座った俺とゆんゆんは早速そのような会話をする。
ゆんゆんも俺と同じく店名が不満なようだ。
「でも出てくる料理とかはおいしいんですよ」
「そうなんだ。店名の割に意外だな」
「本当ですよね」
その後お互いに注文したドリンクを飲んだ後しばらく沈黙する。俺がゆんゆんに今の心境と、これからどうするかを語ろうとした。その時、ゆんゆんの方が先に沈黙を破った。
「リョウタさんは……どうしたいですか? 」
「ゆんゆん……」
「私、どんなリョウタさんでも受け入れるって約束しましたから。だからもし、リョウタさんが記憶を捨てて長生きすることを選んでも私はそれを否定しません。受け入れます。だってリョウタさんであることに変わりはないんですから」
涙目で震えた声をしたゆんゆんは、それでもしっかりそう言い切った。
「ありがとうね。ゆんゆん」
俺はそんなゆんゆんを見て、まずは彼女の頭を撫でた。
「ん……」
「ゆんゆんは相変わらず温かいな」
「リョウタさんの手も……温かいです」
言葉を詰まらせながらそう言うゆんゆん。
「俺の気持ちを聞いてもらっていいかなゆんゆん? 」
ゆんゆんは頷いた。
「俺はこの半年間の思い出が人生の中で最も輝いてた」
「はい」
あの時のように。ゆんゆんはただ静かに俺の言葉に返事をする。
「そして今この瞬間も君のおかげで輝いて感じられる」
「はいっ……」
涙がこぼれ始めるゆんゆん。
その涙を俺は右手でぬぐいながら言葉を続ける。
「それを俺は忘れたくなんか微塵も思わない」
「はい」
俺は何度ぬぐってあげても涙が止まらないゆんゆんを見てほほ笑みかけながら。
「俺はみんなのことを、何よりゆんゆんのことを忘れたくなんかない。忘れてしまった俺は俺じゃない。君が受け入れてくれた過去の俺があって初めて加賀美涼太であれるんだ」
きっとバニルに心を壊される前ならば過去のことを含めて俺だとは言えなかっただろうな。そう感じながらゆんゆんの頬に触れ続ける。
「だから俺はもしバニルが来てもどうにもならなければ、この短くなってしまった人生をそれでも精いっぱい生きるよ!! 残された時間がどれだけあるか分からないけれどそれでも俺は、俺のまま君のそばにいたい」
「はい!! 」
ゆんゆんが泣きながら笑った。とてもきれいな笑顔。今まで見てきたゆんゆんの笑顔の中でも5本の指に入るであろうその笑顔を俺はしっかりと目に焼き付けた。
それから、喫茶店で2人で色々食べ物を注文すると一緒に食べながらひとしきり他愛のない話をした。
とても楽しい時間を過ごした。
そして俺は決断する。
いよいよ時が来たと思ったからだ。
「ゆんゆん。今から魔神の丘に行かないかい? 」
「えっ!? 」
「ダメかな? 」
しばらく押し黙るゆんゆん。それから笑顔になると。
「ううん。ダメじゃないです!! 」
「ありがとう。……じゃあ行こうか!! 」
「はい!! 」
俺たちは会計を済ませると、喫茶店の外に出た。
すると。
「なんだありゃ」
「ど、どうしたんでしょう? 」
カズマ、アクア、めぐみんが、大量の紅魔族を背後にしてどこかへ走っている。
方向はちょうどこっちのようなので俺とゆんゆんは事情を聞くべくカズマたちと紅魔族の軍勢に合流した。
「どうしたんだカズマ!? 」
「おお、リョウタ、ゆんゆん!! 実はめぐみんに頼んで気分転換に紅魔の里をめぐってたら、魔神の丘からめぐみんの家のすぐそばの木柵で、魔王軍の連中が蠢いてやがったんだ。だから今からそいつらを討伐に行くところだ!! 」
「それってこめっこちゃんが危ないんじゃ!? 急がないと!! 」
こめっこ?
「そうなんですよ!! あの子はゆんゆんの知っての通り好戦的な子ですから奴らに突っかかっていくかもしれませんしね!! 」
めぐみんが嘆く。こめっこってなんだ?
「とにかく急ぎましょう!! こめっこちゃんが心配だわ!! 」
いや、こめっこっていったいなんなんだ!? 紅魔族なのはなんとなくわかるがいったいカズマやアクア、めぐみん、ゆんゆんとどのような関係にあるんだ?
とにかく俺とゆんゆんは魔王軍討伐に加わった。
「さぁ、どうした、かかってくるがいい!! 」
「し、シルビア様、この女騎士の目的が分かりません。お下がりを!? 」
「この女硬いだけで攻撃が全部スカります。もう放っておきましょう!? 」
「どうした、私の目の黒いうちはここは通さんぞ!! 」
「金髪のお姉ちゃん頑張れ!! 」
めぐみん宅周辺につくと、魔王軍と対峙しているダクネスと、彼女を応援しているこめっこと思われるめぐみんの妹(めぐみんから、道中どのような存在なのかを聞いた)がいた。
ダクネスは鎧愛好家として腕のいい鍛冶屋の店に顔を出しておきたいのでそこに行くと言っていたらしいがどうやらいち早く魔王軍に気づき戦っていたようだ。
「助けに来たぞダクネス!! よく頑張ったな!! 」
「なんだカズマか、もう来てしまったのか……」
残念そうに言葉を漏らすダクネスに。
「褒めた俺がバカだった!! 」
カズマがキレる。
「期待のオークがメスしかいないことでがっくりしていたところに魔王軍の幹部は女ときた!! 」
ダクネスが悲しみを秘めた怒りを吐露する。
そして。
「鬼どもに告げる!! 仮にも魔王の手先だというのなら私を屈服させてご主人様とでも言わせて見せろ!! 」
鬼たちに激昂するダクネス。
ダクネスよ。鬼たちも悪魔もどきだから性別はないはずだぞ。悲しいことにね。
「もう黙ってろダクネス!! 」
カズマが、せっかく孤軍奮闘してかっこよかったのにいろいろ台無しなことを口走っているダクネスに黙るように促す。
そんなやり取りの中、魔王軍たちは紅魔族の軍勢に顔を青くしていた。
そんな部下たちを庇うように。シルビアとかいう名前のはずの幹部が前に出る。
「へぇ、わざと攻撃を外しまくって、たしたことないと思わせる演技をして時間を稼いでいたわけなのねあんたは。一本取られたわねアタシたちも。やってくれるじゃないの」
「ば、ばれてしまったか。そ、そうなんだ……」
嘘が苦手なダクネスが助けを求めるようにカズマの方を見る。
「確かシルビアとか言ったな!! このクルセイダーは、魔王軍バニルとの決戦時に爆裂魔法にも耐えてみせた頼れるクルセイダーで俺の仲間だ!! その真の実力を見抜くとは……さすがと言ったところだな」
カズマが突然そんな気取った口調で演技をかまし始めた。
ゆんゆんとアクアとめぐみんがそれを見てヒソヒソする中。
シルビアは「あのバニルがですって!? 」と驚愕の表情を浮かべる。どうやらあのチート悪魔は魔王軍の中でもやっぱりチート扱いされていたようだ。
「そして止めを刺したのはここにいる、このめぐみんだ」
「こ、この紅魔族の子供が!? 」
「そして蘇った破壊神を討伐したのも俺の仲間、この加賀美涼太だ!! 」
「な、まさか、ハンスからの最後の定期連絡で聞いた手を組んだ悪魔たちの親玉を討ち取った奴がいるだなんてね……」
シルビアは青ざめ後ずさり、それに合わせて魔王軍も後ずさる。
「勇者殺しのベルディアも!! デッドリーポイズンスライムのハンスも!! そして大物賞金首起動要塞デストロイヤーも!! そいつらもすべて俺たちが討ち取らせてもらった!! 」
「う、嘘でしょう!? まさかそんなパーティーにこんなところで出くわすって……」
「し、シルビア様、逃げましょう!! 」
「ここは撤退あるのみです!! 」
「そ、そうね、ハンスからの定期連絡が途切れたことを考えても嘘ではないようだし。……あなたがパーティーのまとめ役ね。名前を聞いておこうかしら? 」
シルビアに問われたカズマは一切の躊躇なく。
「お前らもうわさは知っているだろう。俺は魔剣の勇者ミツルギキョウヤだ!! 」
自分のことをミツルギと名乗った。
…………。
おい待てカズマ。今なんて言った? なんでミツルギって言ったんだ!?
ゆんゆんとアクアとめぐみんとダクネスがヘタレたとささやきあっている。
「ミツルギ!! そう、あの魔剣使いのミツルギね!! あなた噂とはずいぶん違う風体だけれど嫌いじゃないわ。むしろ好みのタイプよ!! でも紅魔族だけじゃなくてあなたまでいるだなんて今日はついてないわね。ねぇあなた、今日は私たちを見逃してくれないかしら? 」
「いいだろう。見逃してやる。これで勝っても紅魔族の力を借りたみたいですっきりしないしな。ただし、俺の後ろの紅魔族と加賀美涼太がそれを許すかな? 」
カズマが不敵に笑う。
「感謝するわミツルギキョウヤ!! また会いましょう!! アタシの名はシルビア!! 魔王軍幹部シルビアよ!! 撤退!! 」
「逃がすか!! ライトオブセイバー!! 」
「フリーズガスト!! 」
「捕まえて魔法の実験台にしてやる!! 」
紅魔族たちが各々上級魔法を逃げていくシルビアたちに叩き込む中。
俺も神殺しの剣を引き抜く。
かつてない力の高まりを感じる。神殺しの剣が最大稼働しているからこそなのだろう。
俺の背中にX字状に展開されたガラスの様に透明な4枚の金の羽根が魔力放出によって俺の身体を浮き上がらせるのを感じる。
「いける、これならぁぁぁぁ!!!! 」
俺はシルビアに向けて驀進した。
これまでにない瞬足に自分でも驚きながら、俺は直径10メートルものディナイアルセイバーを発動し、魔王軍たちをまとめて蒸発させようとした。
その時。
突然、力が抜けて神殺しの剣を手放してしまい全身に激痛と不快感が戻ってくる。結果、ディナイアルセイバーも、俺を浮かせていた放出される魔力とその根源たる羽が消失し、俺の身体は顔面から地面に突っ込み、滑った。
「リョウタさん!!!? 」
ゆんゆんが駆け寄ってくるのがわかる。
しかし。
なにが起きたか分からないが、体に力が入らない。ただ、さきほど顔面からスライディングする瞬間は、全身に力がみなぎっているはずなのに体がそれについてこないという感覚があった。
「どう、なっている……? は? 血の味? 」
気づくと俺は血を口から流していた。吐血だった。
どういうことだ、魔王軍に何かされた風ではない。しかし身体の不調とも考えられない。神殺しの剣を握っていたおかげで身体の調子はむしろいいはずだったのに。
「本当にどうなってるんだ……」
俺は倒れ伏したまま、上級魔法の雨あられに焦りながら去っていく魔王軍を見つめることになった。
「……私の診察によると今の神殺しは、神殺しの剣の呪いの力が強すぎて、弱った体を蝕まれているわね」
アクアが、地面に腰を下ろし、血の付いた口を手でぬぐっている状況の俺に触診してそう告げる。
「そんな!? 神殺しの剣のおかげでリョウタさんの身体は調子が良かったんじゃないんですか!? 」
アクアの肩をつかみ揺らすゆんゆん。
「お、落ち着いてゆんゆん。揺らさないで頂戴!! ……最大稼働している神殺しの剣の呪いが神殺しの身体を傷つけてしまうほどだったとは想定外だったわよ」
「そ、そうですか。アクアさんごめんなさい……リョウタさん立てますか? 」
手を差し出してくるゆんゆん。俺はその手を握って立ち上がった。
「ありがとうゆんゆん」
「まさかリョウタの身体がそんなことになってたとはな……。悪かった。さっきは紅魔族と一緒にけしかけるような言い方して。そのせいでリョウタは……」
「大丈夫だカズマ。怪我自体は吐血とヘッドスライディングしてしまったことによる顔の傷程度だから」
「吐血は重傷だと思うのだが……」
「ダクネスの言う通りですよリョウタ……」
「最近血を吐きすぎて感覚がおかしくなってるのかも。ごめん。ところでカズマ、あんなはったりかましてたがなんでだったんだ? ヘタレたのか? 」
「ああ。だって魔王軍側に指名手配とかされたら嫌じゃねぇか。それにまた今度シルビアは会いましょうって言ってたけど明日になればバニルが来るし、お金払って護ってもらえばいいだろ。あいつ自称魔王より強いかもしれないバニルさんだし」
「他力本願ですか!? 残念過ぎますよ!! 」
めぐみんがカズマの態度に呆れる。
「とにかく神殺しは、速くゆんゆんのお家に帰って、そこに持ってきた聖水をたくさん飲むのよ。今、腰に下げてる水筒の量の5倍は飲みなさいな」
「分かったよアクア」
そして俺たちは魔王軍を追い回す紅魔族とは違って、その場を後にした。
原作ではカズマさんがシルビアに名乗るときは、「ミツルギキョウヤだ!! 憶えておけ!!」みたいな感じだったと思いますが、原作のセリフのセリフコピーを極力減らすように努力した結果このようになりました。本当は原作通りに言わせたかったんですけどね。