【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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074 怒りに任せて

sideゆんゆん

 

 

 私は里の上空から魔王軍を探す。

 

「よくも私とリョウタさんの邪魔をしてくれたわね……。絶対に見つけ出して全滅させてやるんだから!! 」

 

 里の中に灯っている光を頼りに、私は魔王軍の蠢く影を探す。

 

 すると。

 

「見つけた……!! 」

 

 めぐみん宅の方面。公衆浴場『混浴温泉』の近くに魔王軍の鬼たちの集団がいるのを見つける。詳細な数はわからないが200はいない。おそらく散り散りになっているのだろう。

 

「グウェン!! 」

 

 私は神器の名を叫び、一気に鬼の集団へと驀進する。そしてちょうどその真上に位置すると、ほかの人にも敵がここにいることがわかるようにインフェルノを上空に向けて放った。

 

「こ、紅魔族だ!! 」

 

「と、飛んでる? 」

 

「行くわよ魔王軍!! 覚悟しなさい!! 」

 

 私は空中から、ハルバードの穂先より、ライトニングストライクを照射して一気に薙ぎ払った。

 

 叫び声をあげて吹き飛んでいく魔王軍の鬼たち。

 

「ち、ちくしょう、ただでさえ危険な紅魔族が空から攻撃してくるだなんてヤバすぎる!! 」

 

「弓矢部隊!! 撃ち落せ!! まだ敵は1人で子供だ。仕留めろ!! 」

 

「子供だからって!! 」

 

 私は放たれてきた無数の弓矢をガーターで防ぐ。

 

 続いてマントにくるまり、急降下、鬼たちの軍勢の中心に降り立つと同時に真下にいた鬼をハルバードで脳天からまっすぐ切り落として殺す。

 

「なめないでよね!! 」

 

 私は自分の中でリョウタさんとの時間を邪魔されたことへの怒りを通り越したどす黒い感情が渦巻いていることを何となく感じながら鬼たちを見据えた。

 

「のこのこ中心に降りてきやがったぜ!! 」

 

「取り囲んで殺せー!! 」

 

 地面すれすれでホバリングした状態の私に、全方位から迫ってくる鬼の大群。

 

 私は一番最初に剣を繰り出してきた鬼にまずハルバードを突き刺し刺殺。続いて後方から来た二匹を戦斧で切り裂き絶命させる。その隙を見て槍を突き出してきた鬼の一撃をガーターで受け止め左手のマジックワンドからブレードオブウインドを展開。突き刺した後、切り上げて鬼の首を刎ね飛ばす。

 

 私はブレードオブウインドの不可視の剣とハルバードの二刀流で、地面をホバーで移動しながら、どんどん鬼たちを切り裂いていく。

 

「この!! 」

 

「グウェン!! 」

 

 私の後ろから槍が10本ほど投擲される。それを私はグウェンに念じ私の身体を包ませることで防ぐ。

 

「あのマント何なんだよ!? 」

 

「絶対ぶっ殺してやる!! 」

 

「殺せるだなんて思わないで!! 」

 

 私はグウェンに包まれた状態から解放されると同時に両腕の得物からライトオブセイバーを展開し、その場で1回転。まとめて6匹ほどの鬼を切り裂く。

 

「まだまだよ!! 」

 

 私はライトオブセイバーの展開を中止し、マジックワンドからはエアハンマーを数発放ち鬼を4匹ほど吹き飛ばし、ハルバードからはエアスライサーを発射。同じく4匹ほどの胴体を真っ二つに切り裂いた。

 

「なんなんだよこの紅魔族は!? 」

 

「行くわよ魔王軍!! 」

 

 私はどんどん鬼たちをブレードオブウインドで切り伏せ、エアハンマーで吹っ飛ばし、エナジーイグニッションで焼き払う。

 

「もっとかかってきなさい!! 」

 

 そしてさっさと終わらせてリョウタさんのところに帰る!!

 

「調子に乗るなぁぁぁ!! 」

 

 飛び上がり、斧を振りかぶって私を強襲してきた鬼。その一撃をホバーによる地面を滑るかのような軌道でうまく回避し、ガーターを纏わせた足でまわし蹴りを叩き込み、こかせる。そして。

 

「死んで!! 」

 

 私は躊躇なくハルバードを鬼の首筋に振り下ろした。

 

 血が噴水の様に噴き出る中、それを浴びないようにグウェンをうまくコントロールして防ぎ。

 

『おりゃぁぁぁぁ!! 』

 

 私が仲間の返り血で視界を防がれたと勘違いした鬼たちの斬撃や刺突による多方向からの攻撃を全てグウェンで受け止める。

 

 私はバックステップを踏むと同時に空中に飛びあがり、グウェンという固い壁に阻まれて攻撃を防がれていた状態の鬼たちのバランスを崩させる。中には同士討ちになった鬼もいた。

 

 私はさらに高度を上げて、今度はファイヤーボールを連射して鬼たちを焼き払い、爆散させていく。

 

 そして、残り10匹になった鬼たち。

 

「これで決めるわ!! ライトオブセイバー!! 」

 

 ハルバード全体を包み込んで放射された長大なライトオブセイバーで一気に切り裂いた。

 

『し、シルビア様ぁぁぁぁ!!!! 』

 

 敬愛しているらしい幹部の名を叫びながら散っていった鬼たち。

 

「倒した……」

 

 でもまだいるはず。なにせ数は200ほどだと聞いた。

 

 私が空から索敵しようとしていると。

 

 突然拍手が聞こえてきた。

 

 その数は十数人の物だった。私が拍手の音のする方へ顔を向けると、紅魔族のみんなが嬉々とした顔をしていた。中にはぶっころりーさんたち魔王軍遊撃部隊もいる。

 

「ど、どうしたんですか拍手なんかして? 」

 

「バーサーカーって感じでかっこよかったよゆんゆん」

 

 ば、バーサーカーって……。

 

 ぶっころりーさんの発言に素直に喜ぶべきなのか。さらには否定しきれないことで困る私。なぜならさっきまで実際戦っているときは狂戦士の如くリョウタさんとの時間を取り戻すことだけを考えて魔王軍を抹殺していたからだ。

 

「あれ、というかみんなずっと来てたのに見てたんですか? 」

 

「いやぁゆんゆんの戦いぶりがすごくて見入ってたんだよ!! 」

 

「さすが族長の娘、滅茶苦茶強くなったねゆんゆん!! 」

 

「かっこよかったわ!! 」

 

「これで後は戦闘中のセリフを洗練すれば完璧だね!! 」

 

 口々に私の戦いぶりを褒めるみんな。

 

 褒められるのはうれしいけれど……は、恥ずかしい。やっぱり注目の的になるのは慣れない……。

 

「うう、皆さんありがとうございます……」

 

 私は頭を下げる。顔が赤くなっているのを意識しながら。

 

「さて、じゃあゆんゆんを褒めるのはこれぐらいにして、ほかのところでも上級魔法が空高く打ち上げられてるからそこに行こうか!! 」

 

 そうだ、まだ敵はたくさんいる。さっき倒したのはざっと数えて30匹ぐらいだった。あと170は倒さないといけない。

 

「私が先行して片っ端から撃破します!! 」

 

「え、ゆんゆん? 」

 

「あなたってそんなに好戦的だった!? 」

 

 私はみんなに言い残すとグウェンに念じて、一番近い位置で上がった上級魔法の輝きの方へと飛行した。

 

 それから私は各所で発見された魔王軍の鬼たちを里のみんなと一緒に撃退して回った。

 

 

 

 

 

 

 無詠唱で魔法をたくさん使ったため集中力をかなり使い、魔力も底をつきそうになった私は、ふらふらしながら帰宅した。

 

 すると玄関先にはめぐみん、アクアさん、ダクネスさん、そしてリョウタさんがいた。

 

「あ、ゆんゆん、大変なのです!! 」

 

「どうしたのめぐみん? 」

 

 疲労困憊のなか、何があったのか問いかけると。

 

「カズマがシルビアに連れ去られたんだ!! 」

 

 え、カズマさんがあの魔王軍幹部に、連れ去られた?

 

「ほ、本当なんですか!? 」

 

 それってかなりまずいんじゃ……。カズマさんどうなっちゃうんだろう……。

 

 私がカズマさんの身に起こるであろう様々な不幸を想像して心配さと恐ろしさでぞっとしていると。

 

「まぁでもあの幹部カズマのこと、気に入ってたみたいだし乱暴なことはしないと思うの。多分だけどね」

 

「そ、そうなんですか? 」

 

 なら安心、はできないわね……。

 

「とにかくカズマを助けに行こう。俺も緊急事態だから動くぞ。神殺しの剣を使わんければいいわけだし、短期戦ならルーンナイトの力を発揮できる。いいよね、ゆんゆん、アクア」

 

 アクアさんが構わないとこくこく頷くなか、私も緊急事態の中の緊急事態なのでそれを了承することにした。

 

「は、はい!! でもどこにいるか分かるんですか? 」

 

「すでにぶっころりーたちにサーチでシルビアの位置を割り出してもらっています。そろそろわかるでしょう」

 

 めぐみんがそう言った瞬間、目の前の空間が歪んだ。そして現れた魔王軍遊撃部隊の4人。

 

「カズマくんとシルビアの位置が分かったよ!! 地下格納庫だ!! テレポートにそこは登録してないから走っていくことになるよ。いいね? 」

 

 ぶっころりーさんの言葉に私たちは頷いた。

 

 そして地下格納庫までみんなで走る。そんな中で。

 

「本当にゆんゆんがそんな活躍をしてたんですか? 」

 

 めぐみんが首をかしげる。

 

「本当だよ。あれで戦闘中の前口上とかが完璧なら惚れ惚れするレベルの立派な紅魔族の戦いざまさ」

 

 ぶっころりーさんが先ほどの私の戦っていた時のことをパーティーのみんなに伝えていた。

 

「いつもゆんゆんはあんな風なのかい? 」

 

「いや、もっと戦い方は冷静沈着な印象のはずだぞぶっころりーさん。ねぇゆんゆん」

 

「は、はい」

 

 さすがにリョウタさんとの時間を邪魔されて怒りのあまり普段以上の力や苛烈なバトルスタイルで戦ってしまったことを言うのは恥ずかしい。リョウタさんの前で言うだけならまだしもほかの人にまでばれるのはいくら何でも……。

 

「どうしたゆんゆん、顔が赤いぞ」

 

「疲れて熱でも出た? 」

 

 ダクネスさんと、アクアさんがそんなことを言ってくる。

 

「だ、大丈夫です。それよりもうすぐ地下格納庫ですよ。準備はいいですか? 」

 

「なんだかやけくそ気味に言いましたね……。まぁいいですが。カズマを助けましょう!! 」

 

『おー!! 』

 

 そして、私たちは地下格納庫のある洞窟にリョウタさんとダクネスさんを先頭にして踏み込んだのだが。

 

 

 

「よ、お前ら。助けに来てくれたみたいだけど生憎大丈夫だぞ。シルビアならこの中に閉じ込めた」

 

 

 

 カズマさんがなんと、地下格納庫の扉の前でニコニコ笑っていた。

 

「本当だ……」

 

「サーチの反応が、地下格納庫の中にあるね。しかし地下格納庫の扉を開けるだなんてカズマくんはすごいな……」

 

 サーチの使えるリョウタさんとぶっころりーさんがシルビアの反応を感知したようだ。

 

「カズマ、何ともありませんか? 」

 

「大丈夫だよ。なにもされなかったし」

 

「そうですか。良かった」

 

 めぐみんがカズマさんの返答を聞いて安心している。ダクネスさんも安堵していた。好きな人が無事だったらそれはもうそんな反応をするよね。

 

「ねぇカズマさん、もしかして扉の向こうでぎゃあぎゃあ言ってるのはシルビアなの? 」

 

「ああ、そうだぞ。まぁ1か月もそのままにしとけば静かになるんじゃないか? 知らんけど」

 

「ま、魔王軍幹部がこんな死に方をするというのは哀れだな……」

 

 ダクネスさんが少しシルビアに同情的な表情を浮かべる。

 

「そうですね。結構残酷な死に方だと思います」

 

 私もシルビアに少し同情した。

 

「ねぇカズマ。ここって危ない兵器がたくさん保管されてなかった? グロウキメラのあのオカマを突っ込むのってまずいんじゃないの? 」

 

 アクアさんがちょっと引きつった顔でそんなことを言う。

 

「え、シルビアってオカマだったのか」

 

「ああ。危うく雌オーク並みのトラウマができるところだったぜ……」

 

 カズマさんとリョウタさんがそんなやり取りをする中。

 

「え、グロウキメラって……」

 

 私はグロウキメラについて思い出していた。確かグロウキメラはなんでも取り込み成長し続ける危険な存在のはずなんですが。

 

「あ、アクアさんの言う通り危ないかもしれません!! ここをもう一度開けてくださいカズマさん。直接止めを刺しましょう!! 」

 

「え、えらく好戦的だなゆんゆん……」

 

 カズマさんが驚く中。

 

「大丈夫ですよゆんゆん。内部の兵器は、ニホン語の読めるカズマたちはわかりませんが誰も起動させられたことがありませんし、起動のさせ方もわかりませんから」

 

 めぐみんはそう言って私を見る。

 

「いや、でもグロウキメラの特性上……」

 

「そんなにまずいのかい、ゆんゆん? 」

 

「はい。起動のさせ方がわからなかったとしても取り込んでしまえばあるいは……」

 

 シルビアが未知の兵器を重武装して中から出てきてもおかしくない。

 

「カズマ、小並コマンドをもう一度打ち込んでくれ。俺が直接止めを刺す」

 

「え、マジかよ」

 

「あ、なんか静かになったんですけど……」

 

 アクアさんが不安げな顔をする。

 

「カズマ今すぐ小並コマンドを打ち込め!! 」

 

「わ、わかった!! 」

 

 リョウタさんの指示でカズマさんが急いでこの地下格納庫の開くための暗号を撃ち込んでいく。

 

「僕たちはライトオブセイバーの発動準備をしておこう!! 」

 

「「「了解!! 」」」

 

 ぶっころりーさんたちは、格納庫内部に突入次第シルビアにとどめを刺すためライトオブセイバーの詠唱を始める。

 

「よし開くぞ!! 準備はいいか!? 」

 

 カズマさんがそこまで言った直後。洞窟が突然揺れ始めた。

 

「な、なんだ? 」

 

「洞窟が……このままだと崩れるぞ!! 」

 

 リョウタさんが驚き、ダクネスさんが洞窟の周囲の状況を見て崩れると判断する。

 

「全員洞窟から出るぞ!! 」

 

 カズマさんの一声で、私たちは小さな洞窟の中から一気に脱出する。

 

 ダクネスさんが最後に飛び出した瞬間。

 

「ボウヤ!! よくもやってくれたわね!! そして感謝もするわよ!! やっと念願の兵器を、アタシは魔術師殺しを手に入れたわ!! 」

 

 シルビアが、轟音と共に洞窟を粉砕して現れた。

 

 その下半身は、各節の左右にレンズを備えたメタリックな蛇型をしていた。それは魔術師殺し。あらゆる魔法攻撃を無効化する私たち紅魔族の天敵だ。ラミアのような姿になったシルビアは不敵に笑うと、炎のブレスを私たちに放射した。

 

「「「「テレポート!! 」」」」

 

 ぶっころりーさんたちがテレポートを発動して、私たちのパーティーもまとめてその場から飛ばす。

 

 そして私たちは紅魔の里の監視施設本部に移動していた。

 

「今すぐ里中に知らせよう!! 魔術師殺しが乗っ取られたってね!! 」

 

 ぶっころりーさんが監視施設の中に入りシルビアの件を伝えに行った。

 

「俺たちは各自散開して魔術師殺しが乗っ取られたことを伝えて回るぞ!! 」

 

『了解!! 』

 

 「俺のせいかな? 」などと恐る恐る呟いていたカズマさんが、ぶっころりーさんを見てやるべきことにスイッチを切り替えてすぐに私たちに指示を出す。

 

「リョウタはゆんゆんと一緒な。お前は長時間の運動はダメだからな。ゆんゆんに安全なところに輸送してもらえ。めぐみんは実家に行って家族に知らせてこい!! 」

 

「わかりましたよカズマ!! 」

 

「じゃあ各自散開!! 」

 

 私はリョウタさんの後ろに回ると後ろから抱きしめる。鎧のひんやりした感覚が体に走る。

 

「飛びますよリョウタさん」

 

「……わかった」

 

 何もできない自分が歯がゆくて仕方ないのか返事の遅いリョウタさんがそこにいた。

 

 そんなリョウタさんを元気づけたくて私は優しく言い聞かせるように。そして安心感を抱けるように明るい声色で。

 

「リョウタさん、今回は私たちに任せてください」

 

 そう言い切った。実際、リョウタさんを前に出すわけにはいかない。リョウタさんはすごく強いとはいえ、もうまともに長時間戦闘はできないのだから。

 

「うん。そうだね。そうするよ」

 

「じゃあ飛びますよ。里に何かあった時の避難所は魔神の丘になってるんです!! 今から行きますね」

 

「了解」

 

 私はリョウタさんを抱えて魔神の丘へと向かった。まさかこんなことが理由で魔神の丘に行かなければならないというのが少し残念だった。




 憎悪を力に変える系のヒロインです。神器の力も引き出して無双しました。

 さてシルビアがいよいよ魔術師殺しと合体しました。次回からしばらく戦闘回が続きます。

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