【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
sideテンロン
「一足遅かったですわね……」
私は紅魔の里を見下ろしながらつぶやいた。
スパリュード兄さんの命令で、本来なら私は、魔王軍幹部シルビア様と合流した後、ハンス様から事情を説明されている彼女と協力し、紅魔の里でベルゼルグ王国の命を受けて紅魔族たちに警護されている要石をテレポートを使って奪取する予定だった。
のだが。
シルビア様が前線基地にいなかったので紅魔の里に来てみたところ、なんと目の前で圧倒された末に死んでしまわれた。しかも、よりによって神殺しの剣を持ったあの男によってだ。
「何でいるんですのよあの男……」
私は忌々しく感じる。
スパリュード兄さんからの命令で神殺しの男とは不用意に接触しない方針をとっている。
私たち悪魔にとっても天敵と言える悪名高い神器、神殺しの剣の特性は知っている。私たちを簡単に残機を丸ごと削り取って死に至らせる力を持っている代物だ。兄弟である故、意識をリンクさせられる私とスパリュード兄さんはゲキドラス兄さんが最後に送ってきた感覚で残機を消し飛ばされる恐ろしさを味わっている。そのためあれに殺されるのは御免被りたい。
依然として要石の警備は小人数でながら行われているので今から私が要石目当てに強襲しても、紅魔族たちにてこずらさせられた末に駆け付けた神殺しの男と戦闘になるだろう。しかも皮肉なことにデストラクター様の存在で現状神殺しの男は以前戦った時よりもはるかに強い。はっきり言って勝ち目がない。傀儡化した紅魔族を連れて来ていてもどうにもならないだろう。スパリュード兄さんがいるならともかくだ。
「仕方ないですわね」
スパリュード兄さんに合流しましょうか。
私たち兄妹は封印を解くのに長い期間のかかる要石を奪取し、傀儡化した紅魔族たちの知力を使って解除する作戦と、魂をとにかくたくさん収集してデストラクター様の残機を補充しておく作業の二つを同時進行している。スパリュード兄さんは王都に攻撃を仕掛けている魔王軍と協力して死者をたくさん出したうえで王城内部にある要石を奪取する予定だ。私もその作戦の方に合流することにしよう。
私は協力できなかったシルビア様に少しの間黙とうした後、紅魔の里を去った。
sideリョウタ
シルビアとの戦いが終わって約1時間後。ウィズさんは高名な魔道具職人であるめぐみんの父上にお会いしたがっていたが、バニルに俺のために買い集めた解呪用の魔道具の返品作業が済んでいないのでさっさと帰るぞとバニル式殺人光線の構えでにじり寄られ、テレポートを発動して帰っていった
俺とめぐみんを除いたパーティーメンバー(めぐみんはまだ気絶している)、そしてお義父さんお義母さんは、奇跡的に無事だったゆんゆん宅でアクアに治療されるゆんゆんを見守っていた。
そして。
「アクアさんありがとうございます」
「なんのなんの。傷跡が全く残らないように治療してあげたからねゆんゆん」
アクアがセイクリッドハイネスヒールを使いゆんゆんの傷を綺麗に癒し尽くした。
「アクアさんありがとう。紅魔族的には傷跡があるのは一種のステータスなんだが娘は絶対嫌だろうからね」
「ありがとうございます」
お義父さんとお義母さんがアクアにお礼を言った。
「パーティメンバーだし当然よ!! 」
どや顔をするアクア。
「それにしても死人が出なくてよかった」
俺は安堵する。里に出た被害は学校周辺の家々が焼けたに留まった。このゆんゆん宅は学校のすぐ近くだったのだが運よくシルビアとの戦闘の余波を喰らうことが無かった。
「……本当にだよ」
カズマが肩を落とす。今回の件でかなり責任を感じているらしい(彼曰く自分のせいでパーティーメンバーが大けがし、里は焼け、そのうえ2度もシルビアを倒すのにしくじったからだそうだ)。
「気にしなくていいよカズマくん。このくらいの被害なら半日あれば復興できるだろうしね。リョウタくんの言うように死人も出なかったんだし」
お義父さんがカズマに声をかける。
「ありがとうございます……って!! 半日で!!!? 」
カズマはお義父さんの発言に驚き声をあげた。俺やダクネスも驚く。
「ああ、それとシルビアの討伐報酬だけどカズマくんたちで山分けしてくれて構わないよ。うちの里が別にお金に困ってるわけじゃないからね。それに倒したのはリョウタくんだし」
お義父さんはそう言って笑った。
「ところでリョウタくんは名乗りを上げていた時に新たなる紅魔族だと叫んでいたけれど、本当に紅魔族になったのかい? 眼も真紅に染まっているし。確か記憶が無くなるはずなんじゃなかったのかな? 」
「はい、紅魔族になりました。謎施設の3階の古代の魔道具を使ってです。本来紅魔族になると記憶を失ってしまうというデメリットがある物でしたが、俺は自分だけのスキルを使って記憶をつなぎとめたんです」
「なるほど、紅魔族の出生の秘密と言い、いろんなことがリョウタくんたちのおかげで分かったよ。……紅魔族になれるというのを観光資源にするのはさすがに無理かな。記憶を失う代わりに強大な魔力が手に入るというのは里の者にとっては良くても外の人には受けが悪そうだ」
お義父さんが手に顎を当てながら考え込む。俺は今のお義父さんの発言を聞いて、紅魔族を束ねられるのは外の人の感覚もある程度理解できているからこそなんだろうなと思った。
その後、俺たちは、各自休息をとってから約半日後、意識を取り戻しためぐみんと合流し、これから定食屋に行ってお昼ご飯を食べに行こうとしていた途中、里の被害地区を歩いていた。
そこでは、紅魔族によって召喚された6本腕の悪魔が大工道具を持って作業したり、建材がゴーレムとなって自力で移動したりしていた。もうすでに見た感じ90パーセントぐらいは再建されている。
「今更ですけどアルカンレティアの復興速度から考えて、紅魔の里がいかにすごいかよくわかりました……」
めぐみんが一言。
「めぐみんの言うとおりね。うちの里ってとんでもないのね」
そんなやり取りをしていると、目の前をシルビアのロボ部分の残骸がゴーレムに運ばれていった。
「っ!! 」
思わずカズマの手を握るめぐみん。
「な、なんだよめぐみん? 」
「あのシルビアのゴーレムの腕、怖いです。すいません。もう少しこのまま握らせてください」
めぐみんは俺が来るまでの間、プラズマフィールドでひたすら拷問されていたらしい。それを発動させることのできる巨腕のパーツがどうやら怖いようだ。
「ゆんゆんは大丈夫? 」
俺はゆんゆんが心配になり聞いてみる。
「わ、私もかなりトラウマになりました……。ほんの数時間前にあれに殺されかけたばかりなので……怖いです」
震えているゆんゆん。俺はゆんゆんの背中をさすった。カズマも俺と同じようにめぐみんの背中をやさしくさすっている。
ちなみにシルビアのロボの部分の残骸は全て魔術師殺しの様に魔法が効かないことが判明したため、魔法を弾く武具の素材として再利用されるらしい。
「さて、さっさと定食屋に行ってしまおうか」
ダクネスが場の雰囲気を変えようと大きめの声を出す。
「そうね、早くご飯を食べましょう。激戦でおなかがすいたわ!! 」
アクアがダクネスの声に嬉々とした表情で反応する。
「よしじゃあさっさと行くか。めぐみん、ゆんゆん。先導よろしく」
カズマが紅魔族二人に頼む。……いや、俺も紅魔族だったな。
しばらく歩いていると。
「なぁ、すごく今更なんだがリョウタ、聞いていいか? 」
「どうしたんだいダクネス? 」
「どうやって記憶を失わずに紅魔族になったんだ? 族長には錬金術を使ったような言い方をしていたが」
ああ、そう言えばみんなには言ってなかった。
「それ、俺も気になってたよ。なんでなんだ? 今更だけど」
「錬金術で記憶を錬成して書き換えられて空白になった脳領域に片っ端から記憶を焼きつけていったんだ」
「そんなことまでできたんですね。リョウタの錬金術……」
めぐみんが感心する。
「紅魔族になったってことはリョウタさんの知力と魔力が上がってるんじゃないんですか? 」
言われてみればそうだ。
俺は冒険者カードを取り出しステータスを確認すると知力と魔力が激増していた。
「何これすごい」
ちゃんと上がってる。
「おめでとうござますリョウタ。これであなたも晴れて紅魔族の仲間入りです。名乗りを一緒に考えて―――」
「あ、めぐみん、ゆんゆんとそのパーティーの皆さんじゃないか」
紅魔の里商業区にて、あるえと鉢合わせになった。
「あ。あるえじゃないですか。どうしました? 」
「いや、実は里が焼かれる様子からインスピレーションを刺激されてね、紅魔族英雄伝の第2章が先ほど完成したんだ。ぜひ読んでくれないかい? 」
「あのゆんゆんがどこの馬の骨か分からない奴と一緒になる作品の続きか。やめてくれよあるえ……」
「まぁまぁ。神を断つ剣リョウタ。そう言わずに。あくまで創作なんだから」
「……何であるえが知ってるんだ? 神を断つ剣って叫んだこと……」
あれはなぜか本能がそう叫べと言ってきて、心行くままに叫んだのだが、今思うとなかなか恥ずかしい。いや、紅魔の里で何度か破壊神を葬ってきただの自己紹介してきたがあれはニュートラルに言ってただけで、あのシルビア戦の時は本当に心の底から叫んでしまってたからな……。
「里中ですでに広まっているよ。新たなる紅魔族が誕生し、その紅魔族が魔王軍幹部シルビアに素晴らしい前口上とともに引導を渡したってね」
「す、素晴らしい前口上」
ああ、恥ずかしい。なんかわからないがすごく恥ずかしい。
「どうやら名乗りを一緒に考える必要はないようですね神を断つ剣リョウタ」
めぐみんが微笑みながら言ってくる。
「やめてくれ、ゆんゆんじゃないが結構恥ずかしいんだぞめぐみん。あれは本能が赴くままにやってしまった結果なんだ……」
「いいんじゃないの? 紅魔族なんだもの」
「ああ、別に恥じなくてもいいんじゃないのか? 」
「というかお前のバニル戦後の普段のふるまいから考えると、ダクネスみたいにどこに羞恥心の基準があるのか分かんねぇな」
「「失礼だぞカズマ」」
「私は……かっこよかったと思いますよ。リョウタさんの名乗り。生まれて初めて紅魔族の名乗りがかっこよく思えるくらいには」
ゆんゆんが満面の笑顔で俺にそう言った。
するとあるえは。
「ゆんゆんも言われてるよ雷鳴轟く者だってね。ほかにも」
「お、蒼き稲妻を背負う者ゆんゆんじゃないかそれに神を断つ剣リョウタ、初めまして」
「神を断つ剣じゃないか、いやぁよかったよあの登場方法」
「ついに覚醒したと聞いたわよ、夜空を舞う白き閃光ゆんゆん」
あるえの言葉を皮切りに、周りの紅魔族たちが俺とゆんゆんに声をかけては通り過ぎていく。
「こんな具合にね」
「「恥ずかしい」」
俺とゆんゆんのつぶやきがハモった。
定食屋で遅めのお昼ご飯を食べた後。ゆんゆんと行きたいところがあると言って俺たちはみんなと別れた。
行先は言うまでもない。魔神の丘だ。
緊張してさっきからゆんゆんは無言だ。俺もいささか緊張していた。しかし不安は無い。お互いに好意を抱きあっているのはもうわかっている。告白が失敗に終わってしまうことはないだろう。
そう感じながら、深夜に1度は訪れた魔神の丘についに到着した。約半年間。ゆんゆんへ抱いていた想いを伝える瞬間が来たのだ。
長かったと思う。本当に長い間ゆんゆんに想いを伝えていなかったと思う。
お互いに好意を抱いていると確信しあってからもしばらくの間俺の事情でゆんゆんを待たせてしまっていたのだから本当に悪いことをした。一歩間違えれば互いに想いを伝え合うことなく今日終わってしまっていたかと思うと少し怖くなる。
「リョウタさん? ど、どうしました? 」
緊張しつつ俺が複雑そうな顔をしているのを心配に思ってか、ゆんゆんが俺の方を不安げに見つめてくる。
「大丈夫だよゆんゆん」
そう返事をした後、ゆんゆんは少し微笑んで再び無言の時間が流れる。そしてしばらく魔神の丘を歩き、1本の木の下で立ち止まる。
「ここにしようか」
「っ!! はい!! 」
ゆんゆんがまっすぐ俺の方を見つめてきた。その瞳は輝きうるんでいる。顔も赤くなっていた。俺も自然と自分の目が紅くが輝いているのを感じながら顔が熱を帯びていくのを感じる。
俺は深呼吸する。そして今までの多くのゆんゆんとの思い出を呼び起こしながら言葉を紡いでいく。
「ゆんゆん。俺は君のことをずっと想い続けてきた」
「……はい」
ゆんゆんの顔もとが覚悟を秘めたものに変わる。
俺はその顔をまっすぐ見つめていよいよ決定的な一言を告げる。
「俺は君が、ゆんゆんのことが好きだ。大好きだ……。愛してる。これからずっとそばにいてほしい」
「はい!! 」
「俺と付き合ってくれ」
しっかりと想いは告げた。
「私からも伝えさせてくださいリョウタさん」
今度はゆんゆんが深呼吸する。そして。
「お付き合いの申し出。喜んでお受けします。私もあなたのことが好きです。大好き!! 愛していますリョウタさん」
照れ笑いしながらもゆんゆんは俺にきっぱりと想いを伝えてくれた。
その瞬間。
俺たちは息ぴったりに歩み寄りお互いを抱きしめた。
「誓うよ。俺の全身全霊を持って君のすべてを護ると」
「はい。私もあなたのそばであなたを護り続けます。これからもずっと」
そう言った後、今度は見つめあい、やがて優しく唇を交わした。
人生で最高の瞬間だった。輝いて感じる。この輝きを俺はこれから護っていこう。そして育てていこう。
優しく俺とゆんゆんを照らしてくれている木漏れ日が、祝福してくれているようにも感じた。
雰囲気的に『この素晴らしいゆんゆんと祝福を』完結!! みたいな感じですし、ここで終わっても問題ない気もしますが、もう少し続きます。あと1章とプラスα数話があります。第5章は次話で終了です。