【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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007 ゾンビメーカー?

「手ごろなクエストはなんかないもんか」

 

 俺は宿代や食費を稼ぐためクエストを探す。ここ数日、繁殖期というのもあって活発に活動するジャイアントトードの狩りばかりをゆんゆんと行っており、金はそこそこたまり、レベルは7になったのだが。カエルの相手はそろそろ飽きてきた。

 

「同意見だよリョウタ。うちのパーティーは前衛職が鎧を修理中なもんな上、残り二人がカエルを嫌がって碌なクエストが受けられもしない……」

 

「それは深刻だな……」

 

 ジャージから新たに冒険者らしい装いへと変化した、俺と同じくクエストを探すカズマがぼやく。そんな彼だったが。

 

「おお、ゾンビメーカーの討伐か。報酬は10万エリス。駆け出し冒険者でも難易度的に問題ない奴だ。言うことを聞かないとはいえアクアがいるしどうにかなりそうだな。これなら……」

 

 どうやら自分のパーティーにピッタリなクエストを見つけたらしい。

 

「ゾンビメーカーって言ったら確か、ゾンビを操る悪霊の一種だよな」

 

 確か、自分は質のいい肉体に乗り移って手下代わりに数体のゾンビを操るはずだ。

 

「ああ、そういうモンスターらしいな」

 

 敵は悪霊。つまり神殺しの剣が力を発揮する相手だ。俺はいまだに神殺しの剣が真の力を……アクアの言っていたようなとんでもないパワーを発揮している状態を味わったことが無い。ここは。

 

「なぁカズマ。臨時で俺もそのクエストに同行させてくれないか? 報酬は無しでいいから」

 

「え、どうしたんだよ? 」

 

「俺の神殺しの剣の力がどんなものか分かるかもしれないんだ。頼む」

 

「いいけどうちはマジで金欠だから本当に報酬はやれないけどいいのか? 」

 

「構わない。よろしく頼むよ」

 

「わかった」

 

 俺とカズマは受付に行きゾンビメーカー討伐の紙をルナさんに渡した。

 

 こうして俺にいよいよ神殺しの剣を試す機会が訪れた。

 

 

 

 

 夕方。カズマたちとともに俺とゆんゆんは街から外れた丘の上の墓場の近くでキャンプをしていた。

 

 この墓場は身寄りのない人やお金のない人が埋葬されている共同墓地だ。埋葬方法は土葬で、だからこそゾンビなんぞが生まれる。

 

「リョウタの事情は分かりましたがどうしてゆんゆんがいるんですか」

 

 めぐみんがジト目でゆんゆんを見つめる。

 

「だ、だって私はリョウタさんのパーティーメンバーだもの。一緒にいたっていいじゃない!! 」

 

「同級生だっていうのに殺伐としてるわねー二人の関係って」

 

「そ、そりゃーなんたってライバルですから」

 

 アクアの一言に頬を染めながら答えるゆんゆん。カズマのパーティーと合併してもいいのではないかという意見がこの前出たのだが、このようにめぐみんとゆんゆんがライバル関係だからという理由のため結局その話はお流れとなってしまった。

 

「おや? 一番大事な友達だったのではないですか? 貴方にとって私は」

 

「も、もうそのネタでからわないでよめぐみん!! 」

 

「とにかく本日は爆裂魔法がもう使えないので、ゆんゆんにいられると私の立つ瀬がなくて困ります。お引き取り願いたいのですが。」

 

「そんなあんまりじゃない!! 」

 

 うーん。めぐみんに対してはあしらわれながらも普通にしゃべれるんだが。ほかの人相手だとやっぱり下手に出てるなゆんゆん。

 

「どうしたんだリョウタ、考え込んで」

 

 カズマのパーティーにいろいろあって加わったダクネスが俺に話しかける。今日の服装はタイトな黒のスカートに黒いシャツに革ブーツだ。

 

 この人性癖が変な以外は本当に高貴な感じの人だ。

 

「いや、ゆんゆんのコミュ障をどうにかしてあげられないかと思って。……俺も人のことを言えるわけじゃないんだけどね」

 

「そうなのか? 」

 

「俺も実は会話が下手な方だと自負してる」

 

「そうは思えないんだが……」

 

「お前コミュ障って言ってるけど少なくとも俺は話しててそんな感じはしないぞ」

 

 ダクネスが困り顔をし、カズマが真顔で言及する。俺の言ってることは嘘偽りなく本当だ。人と話すとき……今のところゆんゆんとカズマ以外の相手には若干緊張してしまっている。

 

「なになに、ヒキニートだからやっぱり、社交力が低いの? プークスクス」

 

 アクアが人を腹立たせる笑いをする。

 

「「ヒキニート言うな」」

 

 せっかくゆんゆんに隠し通してるんだから黙れ駄女神。

 

「ちょっとカズマには言ってないわよ、私は神殺しの方に言ってるの」

 

「神殺しとはまた大層なあだ名をつけられたなリョウタは……」

 

 俺自身は神殺しなんかじゃないんだけど。まぁいい、話題がヒキニートの方に行かなかったから良しとする。

 

「神殺し、かっこいいじゃないですかリョウタ。いいあだ名をつけてもらいましたね」

 

 めぐみんがサムズアップしながら俺の方を見る。

 

「私ならそんな大仰なあだ名、恥ずかしくて死んじゃいそうです……」

 

「ゆんゆんはセンスがやはり壊滅的ですね」

 

「ちょっ!! ひどい!! めぐみんの方が世間一般から見ればおかしいのよ!? 」

 

 めぐみんとゆんゆんが言い合う中で。

 

「なぁその剣は本当に神を殺す力があるのか? 確かに仰々しい見た目をしているが……」

 

 ダクネスがいぶかしんだ目で俺の神殺しの剣を見る。

 

「アクア曰くそうみたいなんだ」

 

「リョウタの神殺しがしっかり起動するといいな、今回のクエストで」

 

「ああ、ありがとうカズマ」

 

 そしてそんなこんなで時間が過ぎ去っていき、深夜になった。

 

「……なんだか大物の出る予感がするわ。ゾンビメイカーなんてちゃちい物じゃなくてリッチーとかヴァンパイアとかそういうたぐいのアンデッドが出る気がするの」

 

 アクアが不吉なことをつぶやいた。

 

「おいフラグを立てるなよ。今日はゾンビメーカーと取り巻きのゾンビを討伐。それとリョウタの神殺しが起動するかどうか確認する。計画以外のイレギュラーな発生したら即刻帰る。いいな? 」

 

 カズマの言葉に俺たちは頷いた。

 

「いくぞ」

 

 クリスから教わった敵感知スキルの使えるカズマと俺を先頭に、墓へと俺たちは入っていく。墓の中は荒れ果てており、かなり不気味だった。

 

「リョウタさん、カズマさん。どうですか? 」

 

「敵性反応はあったか? 」

 

 ゆんゆんとダクネスが俺たちに尋ねるとほぼ同時に、敵感知に反応があった。

 

「カズマ……」

 

「わかってる。みんな警戒しろよ、ゾンビの数はえーと、1、2,3,4……あれなんか多くないか、かなりいるぞ!! 」

 

「ゾンビメーカーが1体で作ってるような数じゃないぞこれ!! 」

 

 俺はカズマに続いて、敵の数にぼやいた。現状敵感知に引っかかったのは数18だ。

 

「もし今日まだ爆裂魔法を放っていなければ私が墓地ごと消し飛ばすのですが残念です」

 

 めぐみんがそんな物騒なことを言う。爆裂魔法の威力を考えればここで撃つのはまともな判断ではない。なるほど、紅魔族は確かに変わっている。常識がずれている。そしてめぐみんがどれだけ爆裂魔法を愛しているのかがよくわかる。まぁそれしかできないからこその発言なのかもしれないが。

 

「リョウタさん、神殺しの剣の方はどうですか? 」

 

 ゆんゆんの言葉を聞いて俺は神殺しの剣を引き抜いてみる。すると……。

 

「なんだこれ……」

 

「なっ剣全体が黒く輝き始めたぞ!! 」

 

「かっこいいです!! 」

 

 俺の体内に力が流れ込んでくるのがわかる。そしてそれが全身に行き渡った時、筋力や魔力、防御力、魔法抵抗力が激増したのを直感的に察知した。そして現状の敵に対してはビームは撃てないという情報も流れ込んできた。

 

「起動してるみたいだ……」

 

「ちょっとぉ!! 私のそばでそれを抜かないでよ!! 」

 

 そんな抗議をするアクアと初めて会った時には、剣を一時的に鞘から出した状態で握る機会があったがこうはならなかった。おそらく持ち主にとっての敵に対してのみ呪いが起動するようになっているのだと思われた。

 

「想定外の事態だが今の俺とゆんゆんならこの数でも簡単に撃破できそうだがどうするカズマ? 」

 

 今ならば、確実にどんな敵でも倒せる。そんな自信があった。

 

「どうするかなって、うお!! 」

 

 突然、前方……墓場の中心地点で青白い光が走る。それはやがて大きな円形の魔方陣へと形を変えた。

 

 そしてその中心には人影があった。

 

「あの、なんだかゾンビメイカーではない気がするのですが……」

 

「あれ? あの人影どこかで見たような気がします……」

 

 不安げにつぶやくめぐみんに、首をひねるゆんゆん。

 

「人間なのか? 」

 

 カズマが息を飲みながらそう言った。

 

 人間だとしたら不自然だ。あれだけの数のゾンビに囲まれているのに身動き一つしないのはおかしい。

 

 するとダクネスも人間である線は薄いという主張をしはじめた。

 

「この時間帯にあんなところに居る人間はいないだろう。おそらくアンデッドだ。どうするカズマ? 突撃して撃破するか? アークプリーストのアクアがいれば問題は無い」

 

「うーんどうしたもんか。っておい駄女神!! 」

 

 突如アクアが駆けだした。そして「あーっ!!」と叫び声をあげながら人影……黒いローブをかぶったそれの眼前で立ち止まると、指をさし。

 

「何かと思えばリッチーじゃない!! 成敗してくれるわ!! 」

 

 リッチー。たしか、魔導の奥義で不死者となったもの。アンデッドの最高峰にしてそれらの王だ。

 

「セイクリッドブレイクスペル!! 」

 

 アクアがスキルを発動し、リッチーと呼ばれた存在を中心に展開していた魔法陣を杖の先端から出た光線で破壊し始める。

 

「ひ、ひどい!! いきなり現れてなんなんですかあなたは!? やめてやめてください。ああ……」

 

 リッチーが抗議する間にも魔方陣はどんどん形を崩していき、やがて完全に消滅した。

 

「どうせこの魔方陣でろくでもないことをする魂胆だったんでしょ!? 壊されて当然だわ!! 」

 

 もみあいになる2人。正確にはアクアが積極的につかみかかりそれを振りほどこうとするリッチーという図が繰り広げられていた。

 

 周りにいるゾンビたちは何をする出なくただ呆然と立ち尽くしている。

 

「さ、さっきの魔方陣はいまだ成仏できていない迷える魂を、天に還してあげるための魔方陣だったんです。ほらたくさんの魂が天へと昇って行っているのが見えるでしょう!? 」

 

 リッチーの言うように確かに魂と思しき発光体が天へと昇って行っているのが見えた。

 

「カズマ。あのリッチーもしかしていいリッチーなのでは? 」

 

「奇遇だな。なんか俺もそう感じてた」

 

「リッチーの分際で神のまねごとだなんて生意気よ!! セイクリッドターンアンデッド!! 」

 

 

 アクアが、リッチーを中心に超巨大な魔方陣を展開して巻き込んだすべてのゾンビもろとも昇天させた。が。リッチーは「ほぇぇぇぇぇぇ!! 」とかわいらしく叫び、足元が透き通るほどのダメージを受けた状態で何とか耐え抜いていた。

 

 なんだろう、一方的過ぎてすごくかわいそうだ。

 

「へぇやるじゃない、私のセイクリッドターンアンデッドを受けて耐えるだなんて。でももうすでにあんたは死に体、次のターンアンデッドで……っいた!! 」

 

「おいやめてやれよアクア」

 

「なんでよ!! というか頭を剣の柄でたたかないで頂戴!! 」

 

 カズマがアクアを叩き、ターンアンデッドを止めた。アクアはカズマに食って掛かるがそれをカズマは無視して、身体の透けが時間の経過とともに回復していっている、恐怖でうずくまるリッチーに声をかけた。

 

「大丈夫かリッチーさん」

 

「は、はい。助けてくださりありがとうございます私はリッチーのウィズと申します……」

 

 そう言って立ちあがったリッチーは目深にかぶっていたフードをのける。すると二十歳くらいの茶色の髪の美女が現れた。

 

「あ。あの時の店主さん!! 」

 

 ゆんゆんがウィズを見て驚く。

 

「あらっ、あなたは確か、パラライズの威力向上のポーションを購入してくれたゆんゆんさんじゃないですか」

 

 どうやら2人は知り合いのようだ。

 

「なぁウィズさん、どうしてリッチーのあなたがこんなことをやってたんだ? 」

 

 俺は神殺しの剣を鞘に収めながらウィズさんに質問する。

 

「私はアンデッドの王と呼ばれるくらいですから迷える魂の声が聞けるんです。ここの魂の多くはお金が無いためろくに葬式すら受けられず天に還ることなく毎晩墓地をさまよっています。それで私は、定期的にここに来て天に還りたがっている子たちを送ってあげてるんです」

 

 いい人だなー。

 

 多分だがアクア以外のすべてのこの場の者がそう感じている中、俺は一つ疑問に思ったことがあった。

 

「別にウィズさんがやらなくてもこの街の聖職者が本来やるようなことじゃないのか? 」

 

「この街のプリーストさんたちは拝金主義でして。あっいえ、ごめんなさい。そのお金のない人を後回しにするというか、あの、その」

 

「つまりこの街のプリーストはどこぞの駄女神のごとく金儲け優先のやつがほとんどでこんな風な共同墓地なんて供養しにやってこないってことか? 」

 

「あっ!! いま駄女神って言った!! 大体私そんなに拝金主義じゃないわよ!! 」

 

 カズマがこの街のプリーストに対して散々な評価をしながらウィズさんにそう質問した。

 

「え、えええとそうです……」

 

 ウィズさんの言葉にその場の全員がアクアを注目する。アクアはばつの悪そうな顔で目を逸らした。

 

「それならしょうがないな。……あのウィズ。ゾンビを生み出すのは何とかならないかな? 俺たちがここに来たのはゾンビメーカーを討伐するって言うクエストをギルドで受注したからなんだけど……」

 

「あ、そうだったんですね。実は私がここに来ると私の魔力に反応してまだ動ける形の残った死体は自然と目覚めちゃうんです。……その私としては埋葬される人たちの魂が迷わずに天に還っていけるのなら、ここに来る理由もなくなるのですが……。どうしたらいいでしょう? 」

 

 

 

 

 共同墓地での一件は、アクアが定期的に墓地を浄化をすること。多数決の結果、人間に危害を加えたことのない善良なウィズを見逃すという形で決着がついた(見逃さないに投票したのはアクアだけだった)。

 

 俺はウィズさんとの別れ際に渡された名刺と、彼女が営む店の住所が書かれた紙を見ていると。

 

「でも穏便に事が済んでよかったです。もし戦いになっていたらいくらアークプリーストのアクアがいたとしてもみんな死んでいたかもしれません」

 

 そんなことをサラッというめぐみん。

 

「え、そんなにやばいのかリッチー」

 

 カズマがめぐみんの発言にぎょっとする。俺もまた内心驚いていた。彼女がアクアの浄化で消えかかっていたためそんなに強そうなイメージが無いからである。

 

「リッチーはアンデッドの王なのですよ? 強力な魔法防御力に魔法のかかった武器以外の攻撃の無効化。それだけではなく、相手に触れるだけでその魔力や生命力を吸収する力も持っています。これだけの化け物にむしろ駆け出し冒険者のアクアの浄化魔法が効いていたことが不思議なぐらいです」

 

「……そんなのが街でマジックアイテムの店を開いてるのか。今度リッチーのスキルを教えてくれるって言ってたけど会うのが怖くなってきた。行くときはアクアを連れて行こうかリョウタ」

 

「だな……女神アクアの加護が必要だ」

 

 『冒険者』である俺とカズマは街で店を営んでいるというウィズさんからリッチー特有のスキルを教えてもらえることになっている(見逃してくれたお礼らしい)。のだが、次会うとき報復とかされないだろうか心配になってきた。

 

「あら何々アンタは私が女神だって信じてくれてたの? まあ当然よねこのあふれ出る神々しさ。まさに女神そのものだもの!! 神殺し、少しだけ見直してあげるわ」

 

「リョウタは純粋なんだな。アクアの発言を信じてやるとは」

 

 ダクネスが苦笑する。めぐみんやゆんゆんはそれに同意するかのように頷いた。

 

 いや、おそらくこのアクアは本当に女神なんだが。神殺しの剣の事情を詳しく知っている存在で、天使さまの発言の中にあった『アクア』のワードからもそう推察できる。

 

「誉め言葉として受け取っとくよ。ありがとうダクネス」

 

 俺はそう返事をする。と。

 

「あぁーーーー!! 」

 

 カズマが大声を上げた。

 

 いったいどうした?

 

「ちょっとカズマ、深夜の街の中なんだからご近所に迷惑でしょ!! なによ夜になると奇声をあげたくなる病気なのアンタは? 」

 

「違うわ!! いや迷惑という点は違わないけど!! ……なぁこれって、ゾンビメーカー討伐失敗なんじゃね? 」

 

「「「「「あっ」」」」」

 

 ゾンビメーカー討伐クエスト。失敗!!


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