【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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084 拉致

 それから脚色が入りまくった冒険譚をカズマはアイリス姫に行った。

 

 アイリス姫は目を輝かせながら、白スーツに通訳させ、今までの冒険者はドラゴンを一撃で葬ったりなどの一方的にモンスターを退治する話ばかりだったからカズマのような機転を利かせた戦いは初めて聞いたと伝えてくる。

 

 その光景を見てカズマは最初はチェンジなど言っていたがなんだかんだで嬉しそうだった。

 

 それからもアイリス姫だけではなく、通訳の白スーツ自身もカズマがどのような生活をしているのか気になるとのことでその質問に、嘘は言っていないがかなり捻じ曲げた日常生活を語るカズマ。さらには冒険者になる前にはどのような暮らしをしていたのかと聞かれ、自宅警備員時代の活躍(新聞の勧誘員や某局の電波受信料徴収員との戦いと思われる)を遠い目をして誇らしげに語った。

 

 続いて、破壊神を葬ったということもあって、俺の話をアイリス姫は聞きたがったので。俺も破壊神との戦いについていろいろ話した。

 

 それから歓談もひと段落したところに、白スーツがあることを言い始めてカズマの顔がこわばった。

 

「まさかミツルギ殿が言っていたようにカズマ殿が彼に勝ったことがあるとは……。無礼だとは思いますがカズマ殿の冒険者カードを後学のために拝見させてもらえないでしょうか? 」

 

 そう、この何気ない一言である。

 

「い、いや、それは」

 

 カズマが口ごもる。

 

「わ、我々冒険者にとっては手の内をいくら王女様のお付きの方でもちょっと……」

 

 めぐみんがなぜかそんなことを言い出す。

 

「別に構わないだろう、見せて差し上げろよカズマ」

 

「お、お前なぁ……」

 

 カズマが焦った顔を浮かべる。

 

 俺とゆんゆんはどう言うことだろうと顔を見合わせる。

 

 その様子を見て白スーツは怪訝そうに首を傾げた。

 

「我々は冒険者ではなく貴族ですよ。心配せずとも不用意にカズマ殿の情報は漏らしません。……カズマ殿のスキルを参考にすることで、国の兵士たちの戦力強化につなげようと考えているのですが、協力していただけませんか? それとも見せられない理由でもあるのですか? 」

 

 それを聞いた瞬間、俺はピンときた。見せられない理由。それはリッチースキルの問題だ。どこで覚えたのか追及されるとまずいと思ったのだろう。ゆんゆんも俺と同じようにカズマの気持ちを察したのか息をのんでいる。

 

 しかしだ、別にリッチースキルの件はキールに教えてもらったことにすれば軽く言い逃れできるはずだ。キールがリッチーになって生きていたというのは実は少しだけベルゼルグ王国内で騒ぎになっていたのだ。浄化する前にお礼として教えてもらったことにすればいい。

 

 するとダクネスが見せる方向ではなく見せない方向の援護射撃を行った。

 

「その男は最弱職と言われるクラス冒険者なのです。そのことを知られるのが恥ずかしかったのでしょう。どうかこの私に免じてカードを見るのは許してやっていただけないでしょうか? 」

 

「そ、そうなんですよ、さっきの話の中では省きましたが実は俺は最弱職なんです。いやお恥ずかしい、ばれちゃいましたか」

 

 頭を掻きながらそう言うカズマに。白スーツは。

 

「なんと最弱職とは……。本当にさっき言われていたような活躍をされていたのですか? 」

 

 口調は丁寧だがあからさまにカズマのことを疑っている。

 

 カズマがどうしたものかと困っている。

 

 するとアイリス姫はクイクイっと白スーツの裾を引っ張り、何かを耳打ち。通訳させた。

 

「そ、その、イケメンのミツルギ様が最弱職の者に負けるだなんて信じられない。王族であるこの私に嘘をついているのではないのでしょうね? ミツルギ様の名は王都においては知れ渡っています。そんな彼が駆け出しの街の最弱職の冒険者に負けるだなんてとても信じられません。彼はイケメンですし……と仰せだ。……私もそう思います彼はイケメンですし」

 

「おいお前ら……イケメンイケメンうるさいぞ。さすがに俺でも引っ叩くぞ」

 

 おいカズマ!! 馬鹿か!? 

 

「カズマ!! 今のは失礼だぞ!! 」

 

 俺が声を上げて叱責する。まぁイケメンと比較されまくってそのうえ一応勝ったことを疑われては、引っ叩きたくなるカズマの気持ちはわからんでもないが身分の差がある以上そこはしっかりわきまえて発言すべきだ。

 

「あっやっべ」

 

 カズマが俺の言葉を受けて硬直する。

 

「王族に対してお前ら呼ばわりとは。しかも引っ叩くだと!? 何事だ、この無礼者!! 」

 

 白スーツは激昂し、剣を抜き放つ。

 

 それに対してダクネスがいろいろ言って謝罪する中、俺はカズマを怒っていた。こうしておいた方が多少アイリス姫たちへの心象はマシになるだろう(ちなみに怒っているのは半分演技で半分本音だ)。ちなみにゆんゆんは白スーツが抜刀したことに身構えている。

 

 するとアイリス姫は白スーツにまた何かを耳打ちした。落ち着きを取り戻し通訳を開始する白スーツ。

 

「アイリス様はこう仰せだ……今までこの国に対して多大な功績のある、ダスティネス家の名に免じてこのことは不問としましょう。ですが気分を害されました。冒険譚の褒美はしっかり取らせます。そこの最弱職の嘘つき男はそれを持って立ち去りなさい、と」

 

 嘘つきか。嘘ではないんだよな。どんな形であれカズマがミツルギに勝ったのは事実だし、そもそもあの時は俺のためにカズマが行動してくれたようなものだ。それを嘘つき呼ばわりされるのは我慢ならない。

 

「お言葉ですがアイリス姫、この男がミツルギキョウヤを倒したのは本当です。あの時の戦いは卑怯にもカズマのことを低レベルの最弱職、冒険者と知りながら戦いを挑んできたミツルギキョウヤが機転を利かせたカズマに返り討ちにあっただけのことです」

 

 俺が立ち上がり発言するとそれに続いてめぐみんも立ち上がり、言った。

 

「その通りです。あの時点でのカズマのレベルはまだ一桁、それに対しミツルギキョウヤのレベルは37でした。奇策をもってミツルギは退けられたとはいえカズマが勝ったという事実は揺るぎません。嘘など申していませんよ」

 

 その目は紅く輝いている。本当ならば爆裂などと言ってキレたいところなのだろうが我慢しているのが長い付き合いなのでわかる。

 

 アイリス姫は俺たちの言葉を受けて渋い顔をした。白スーツに関しては「戯言を」と言いたげな顔を浮かべている。ちなみに影が薄いもう1人の付き人の黒ドレスは静観している。

 

 アクアはこんな状況でもマイペースに料理を食べ、ゆんゆんはあわあわしている中、俺たちの抗議もあってかダクネスはアイリス姫に向いて。

 

「アイリス様。先ほどのカズマへの嘘つき男という評を取り消してはいただけませんか? この男は大げさに言ったものの、嘘は申しておりません。それに最弱職ではありますが、いざというときには誰よりも頼りになる男です。それは多数の魔王軍幹部や起動要塞デストロイヤーの撃破の指揮を全て担っていたことからも明らかです。お願いしますアイリス様。どうか先ほどの言葉を訂正し、彼に謝罪をしてはいただけませんか? 」

 

 真剣な表情のダクネス。そんなダクネスの言葉に白スーツはいきり立つ。

 

「何を言われるダスティネス卿、アイリス様に、庶民に謝罪せよなどと……」

 

 すると、スッとアイリス姫が立ち上がり自分の口ではっきりと言った。

 

「謝りません。嘘ではないというのなら、そこの男にどうやってミツルギ様に勝ったのか証明させなさい。それができないというのなら、その男は口だけの嘘っ!? 」

 

 ダクネスがアイリス姫の言葉を遮った。……平手打ちによって。

 

 おいダクネス。気持ちはわかるがやりすぎではないだろうか? これではダクネスが一番嫌がっていた面倒ごとが発生してしまう。

 

 呆然と立ち尽くすアイリス姫。

 

 その一方で。

 

「何をするかダスティネス卿、貴様ぁぁぁぁ!! 」

 

 激昂した白スーツがアイリス姫の前に立つと、怒りに任せて剣を振り下ろす。ダクネスへと。

 

「あっ!! だ、ダメ!? 」

 

 切羽詰まったアイリス姫の声。

 

「「「ダクネス!? 」」」

 

 カズマ、アクア、めぐみんの3人が同時に叫ぶ中、受け身の体勢をとるダクネス。

 

「「ライトオブセイバー!! 」」

 

 俺とゆんゆんは同時にダクネスの前に躍り出てライトオブセイバーを発動。白スーツの剣をお互いの光の剣を交差させて受け止めた。しかし白スーツの剣の速度がわずかに早く、ダクネスの腕にめり込んでしまう。鮮血とともに鈍い音がした。しかし、どうやら剣はダクネスの腕の皮膚と筋肉を多少切り裂いただけでとどまったようだ。

 

 驚愕の表情を浮かべ、動かなくなる白スーツ。

 

 いや、動けないのだろう、ダクネスの腕に剣がめり込んで。

 

 俺は隙ができたと思い、白スーツに蹴りを入れようとする。だが、それに気づいた白スーツが慌てて剣を無理やりダクネスから引き抜き、後退する。

 

「大丈夫かダクネス!? アクア、回復魔法を!! 」

 

「分かってるわ!! ヒール!! 」

 

 アクアが俺の指示でダクネスの腕に急いでヒールをかける。

 

「ダクネス!? 」

 

「すまねぇ、大丈夫か!? 」

 

 めぐみん、カズマもダクネスの前に庇うように躍り出て身構える。

 

「問題ない」

 

 ダクネスは俺たちに微笑みかける。

 

 俺とゆんゆんはライトオブセイバーの生成を中止するが気を緩めずにいつでも魔法を放てる体勢をとる。

 

 そんな中ダクネスは、俺たちの間からいまだ硬直しているアイリス姫にまっすぐ向き合い、語り掛ける。

 

「失礼しましたアイリス様。ですが精いっぱい戦い、あれだけの功績を残したものへの物言いではありません。カズマにはどうやって魔剣使いに勝ったかを説明する責任もありませんし、そしてそれができないとしても、彼が罵倒されるいわれは一切ありません」

 

 アイリス姫の頬を優しく撫でるダクネス。

 

 カズマはいまだ青い顔をしている白スーツを見据えて言い放った。

 

「よし分かった。ここまで仲間が庇ってくれて教えないわけにもいかないだろ……見せてやるよ、俺がどうやってミツルギに勝ったのかを。あんまり綺麗な勝ち方じゃないんだけどな? 」

 

 白スーツが剣を手元に引き寄せ構えをとる中、アイリス姫は先ほどまでの高圧的な雰囲気を完全に無くし。

 

「もういい、もういいから!! クレア、私はもういいから!! 」

 

 そう、白スーツ……クレアに訴えかけていた。

 

「……お前がいいなら、私からは何も言うまい、やるんだカズマ。まさか、後れを取ったりはしないだろう? 」

 

 挑発的に言ってカズマに笑いかけるダクネス。

 

「当たり前だろ!! 」

 

「やってやれ親友」

 

 カズマは白スーツに片手を突き出し。

 

「任せとけ親友、俺が渡り合ってきた連中を考えろ!! これでも喰らえ!! まずは、スティール!! 」

 

 カズマがスティールを発動した。

 

 その結果。

 

 カズマの手には白い下着が握られていた。

 

 おい、カズマ。

 

「これお返しします」

 

「え、あ、きゃぁぁぁ!!!? 」

 

 剣を手放して慌てて下腹部を探る涙目のクレアにカズマは申し訳なさそうに下着を返す。

 

「お前ってやつは、お前という奴は、どうして肝心な時に格好よく決めることができないのだ!!!? 」

 

 ダクネスが涙目でカズマを揺さぶった。

 

 

 

 

「その、こんなことになってしまい申し訳ありません……」

 

 パンツを別室で履きなおし、戻ってくるなり頭が冷えたのか俺たちに謝るクレア。

 

 アイリス姫はというとそんなクレアの腕に隠れるように顔を埋めていた。

 

「お気になさらず。こちらにも非礼があった。傷はこうして跡形もなく言えたことだし、水に流すことにしましょう」

 

 ダクネスがクレアに語り掛ける。

 

 俺もそう思う。

 

「しかし、あの傷を瞬間的に痕も残さずいとも簡単に消してしまうとは、いやはやなんと高レベルのアークプリーストでしょう、アクア殿は」

 

 アクアはクレアに褒められたのがうれしいのかどや顔をしている。かわいい。

 

「そしてダスティネス卿のあの頑強さ。それにそちらのお三方は紅魔族。そのうえカガミリョウタ殿に関しては破壊神討伐の功績までおありだ。このパーティー編成なら魔王の幹部や起動要塞デストロイヤーを撃退してきたことにも頷けます。……まぁ、カズマ殿に関しては……」

 

 カズマに不審な目を向けるクレア。

 

 気持ちはわかる。あんなやられ方をしたのだからカズマに不審な目線を送りたくなるというのも仕方がないだろう。

 

 すると、その横でもじもじしていたアイリス姫がクレアではなく黒ドレスの女性の方に「レイン」と言って耳打ちした。すると黒ドレス……レインさんは。

 

「アイリス様。それはご自身の口で告げた方がよろしいかと。大丈夫ですよ、カズマ殿はアイリス様のような方には甘そうな方ですよ」

 

 おい、それは俺がロリコンだとでも言いたいのか? と言いたげな顔をするカズマ。

 

 しばし沈黙の後、アイリス姫は言葉を紡いだ。

 

「先ほどは嘘吐きだなんて言ってごめんなさい。……また冒険話を聞かせてくれませんか? 」

 

 上目づかいでカズマを見つめるアイリス姫。

 

 それを受けてカズマは満面の笑顔で。

 

「喜んで!! 王女様!! 」

 

 そう答えた。

 

 

 

 そしていよいよ会食が終わりの時間になった。

 

 カズマの冒険譚を聞き、先ほどまでとは打って変わって、年相応な顔を浮かべているアイリス姫。

 

 ダクネスとレインさんが別れの挨拶をする。そしてダクネスがアイリス姫に笑いかけると、アイリス姫もはにかんだ。

 

「それではテレポートの詠唱を開始します」

 

 レインが呪文を唱え始める。

 

 そんな中、クレアがダクネスにこれまでの功績を称え、賞状と何かの袋を手渡す。

 

「これはかたじけないことです。ではアイリス様、どうかお体にお気をつけて」

 

 優しく微笑むダクネス。俺、めぐみん、ゆんゆんも手を振る。アクアはお酒のせいで寝てしまっている。

 

 そしてカズマは。

 

「それじゃあ王女様。またいつの日か、俺の冒険話を再びお聞かせに参りますので」

 

 そう言った瞬間。

 

「何を言ってるのですか?」

 

 アイリス姫は不思議そうな顔を浮かべ、カズマの腕を手に取ると。

 

「テレポート!! 」

 

 レインさんのテレポート有効範囲内にカズマを引きずり込み、もろともにテレポートした。

 

 かき消えたアイリス姫にクレアにレインさん。そしてカズマ。

 

『は? 』

 

 アクアを除いたその場の全員の声がハモった。

 




 ほぼ原作通りのお話と展開でした。原作では拉致されたカズマが「さすが貴族の元締めの王族。傍若無人っぷりが半端ない」みたいなことを思っていましたが、実際のところはアイリス姫は全然そんなことは無くて、原作を読んでいて驚いた記憶があります。アイリス姫の本性は、もっとおてんばな感じの子だと思っていたので。

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