【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!! 作:翳り裂く閃光
結局のところ。アイリス姫をダクネスが説得し、カズマは無事屋敷に明日戻ることとなった(ちなみにカズマがダクネスに組み伏せられ、痛めつけられていた理由はダクネスにスティールを食らわせるとか食らわせないとかそう言う勝負にになった結果、ここでは2人きりだから関係ない、肝心な時はヘタレる奴めと開き直ったダクネスを「エロネス」とあおったせいなのだそうだ)。
カズマは戻ることにやや不満げだったが、やはりめぐみんのしょんぼりした顔がかなり効いたようで文句もあまり言わない。
さて、現在俺たちは晩餐会の会場にいる。理由はカズマとのお別れ会を開きたいとアイリス姫が言い出したからだ。
それはとても華やかで豪勢なものだった。おいしそうな料理や酒が振舞われている。
そしてそれにがっつくアクアとめぐみん。
「はしたないわよめぐみん!! 」
「場違い感が半端ないな俺たち。庶民な雰囲気が隠せてない」
「そうだなカズマ。まぁ、普段ならこういう状況でのブレーキ役がゆんゆん以外にもいるけれど今はそれどころじゃないみたいだからしょうがない」
もう1人のブレーキ役。ダクネスは貴族の男たちに囲まれてちやほやされていた。ダクネスにここぞとばかりアピールしている貴族の男たち。見てくれはいいからなダクネス。まぁ中身も性癖を除けばかなりいいけれど。
ちなみに俺とカズマはどちらかと言えばアクセルを踏む側だが、今回は自重している。これだけの場で暴走できるほど俺たちは常識知らずでは無い。
「ちょっとダクネスがちやほやされてるの見るとなんかムカッとするから、からかってくるわ」
……常識知らずがもう1人いた。カズマ的には昼間の件の仕返しも込められているのかもしれない。
さて、俺も大人しくお酒と料理を楽しむか。
俺がゆんゆんを誘って料理をとろうとすると。
「カガミリョウタ様? 」
どこかで聞いたことのある声がした。後ろからだ。
振り返ってみると、ドレスを着こんだ、可憐で儚げでかわいらしい少女、ユニアゼロ=アヤメリス様がグラスを片手に持って立っていた。
「アヤメリス様!? ……そうか、あなたが晩餐会にいても不思議じゃないのか」
「はい、私は今王城にかくまわれている身ですから。それにしてもその紅い目。破壊神を滅ぼした者が紅魔族になったという噂や、クレア様が、リョウタ様のことを紅魔族だと先日から言いいはじめたことには、理解できませんでしたが、本当に紅魔族に……」
「はい。紅魔族に後天的になりました」
「な、なれるものなのですか? 」
「一応なれます。リスクはありますけど」
リスクがあまりにも大きすぎるので、俺はクレアたちには紅魔族になる方法を伝えていない。万が一、非人道的な強制改造が横行してはいけないからだ。目の前にいるアヤメリス様の件でそこまで俺は王族を、と言うかベルゼルグ王国を信用していない。まぁ他にもカズマの評価が正当でなかったりしたことも要因に含んである。
「それより、お元気ですか? アヤメリス様」
「はい。元気に過ごしています。……あの、よかったら一緒に飲みませんか? 」
「喜んで」
俺はウイスキーをバーテンダーからもらった後。俺とアヤメリス様は、小さなテーブルを囲んで座る。そしてアヤメリス様のシャンパンの入ったグラスと俺のグラスを打ち付けあって乾杯した。
「まさか王城にリョウタ様がいらしてるとは思いもしませんでした。あの時はありがとうございました。リップルを救っていただいて……」
「いえいえ、そんな。冒険者としてやるべきことをやったまでですよ」
「やはりあなたは立派な方ですね」
「そんなことありませんよ」
さすがに立派な人間にはあの頃も今もなれているとは言えない。ゆんゆんにとっての最高の人間であろうとは思っているが。
「しかしダスティネス様とパーティーを組んでおられたのですね」
「はい、ちなみにパーティーリーダーは今回の晩餐会を開いたきっかけのうちの冒険者、サトウカズマです」
「サトウカズマ様のお話は伺っております。多くの魔王軍幹部の撃退にかかわってきたとか」
「そうなんですよ。彼の機転でこれまで魔王軍幹部に起動要塞デストロイヤーも撃退してきたようなものですからね」
「すごいですね。指揮官というわけですか」
「そうなります。あ、俺はパーティーメンバーの中では遊撃係を担っています」
「リョウタ様の活躍も耳にしていますよ」
「本当ですか? 」
それは、なんというか嬉しい。
「破壊神を討伐しただけでなく、魔王軍幹部2体に直接止めを刺した存在として王城の騎士たちからもひそかに注目されていますよ。おそらく王都の冒険者たちも同じくですね」
「知らないうちに有名人になってたんですね」
「そのうちファンやリョウタ様への挑戦者が現れたりするかもしれませんね。あ、もしかしてもう経験がございますか? 」
「いえ。そう言ったことは全く。挑戦者は面倒なので嫌ですがファンがいてくれたらそれはちょっとうれしいですね。今のダクネス……失礼。ララティーナの様にもてはやされるのでしょうか? 」
陰なる者だったため想像できないが。
あれ?
「そう言えばアヤメリス様の周囲には人だかりができていないんですね。あなたはとても可憐で美しくてかわいらしいのに」
「ほ、ほめ過ぎですよ……」
アヤメリス様が顔を赤くしてうつむく。かわいい。
って、他の子をかわいいだなんて思ってたらゆんゆんにまた嫉妬されるかな? ……されるだろうな。というか、最近あの子は俺の心を読めるようになってきている。気を付けないといけない。まぁ幸いこの場にはゆんゆんはいないが。
「その、傲慢だとは思いますが容姿はかなり優れていることは自覚があります。それでも私の周囲に人だかりができない理由は……私に財政手腕が絶望的なまでにないのと私が王城にかくまわれなければならない厄介な存在であることが周知されてるからだと思います」
「な、なるほど」
こういう時なんてお声がけしたらいいんだろう……。
「ですが、考えようによっては煩わしい人間関係が少なくて済むとも言えますし、必ずしもマイナスではありませんからね」
「プラスに考えられているんですね」
「物事のいい面を見る癖をつけることにしたんです。王城に来てからお金にかかわることなどは当然お手伝いさせていただけず、できることといったら、執事やメイドさんのお手伝いくらいしかありませんでしたから、有り余った時間の中でそのようなことを考え付きました」
「見習わせていただきます」
俺は素直に良い考え方だと思ったので見習うことにする。
「ぜひどうぞ。心が楽になりますよ」
アヤメリス様がシャンパンを口に含んだ後、笑顔を見せる。
「それにしても、貴族が執事やメイドのお手伝いをするのは大丈夫なんですか? 」
「屋敷にいたころは自分でお掃除していたので掃除には自信がありましたので、実際に私が掃除したところを見てもらって、掃除のお手伝いをすることの許可をいただきました」
「認めさせたんですね」
「強めの言い方になるとそうなりますね。うふふ」
何だろうアヤメリス様、王城にかくまわれるような厄介な事情を抱えていなければ財政手腕など気にしない人が寄ってくるだろうな。絶対に。そう思わせる魅力をこの人には感じる。
そんなことを考えていると。
「なになに、神殺しったら、女性貴族を口説いてるの? ゆんゆんという存在がありながら? 」
お酒で出来上がったアクアが絡んできた。
「そんなわけないだろう。俺はたとえいろんな女性をかわいいと思うことがあってもゆんゆん一筋だ」
「初めましてダスティネス様のパーティーメンバーの方。私はユニアゼロ=アヤメリス。かつてリョウタ様やゆんゆん様に街を救ってもらった者です」
「あらそうなんですか? 初めまして。私はアクア。水の女神です」
アクア様は酔って判断力を失っておられる。
「という設定なんですよアヤメリス様」
「そうなのですね。でも非常に強い神聖な力を秘められているのがわかります」
「どうしてそんなことが? 」
勘が鋭いのか?
「破壊神の子のパズルのピースの腕輪や私自身にかかっている呪いのおかげでそう言う力に対して敏感なんですよ」
少し自慢げに言うアヤメリス様。
するとアクアは怪訝な顔をして。
「アヤメリス様。確かにあなた呪われてるわね。破壊神の腕輪もそうだけどあなた自身から強烈な悪魔の力を感じるわ。カズマの裁判の時に感じた邪悪な力と同質のものよ。……とにかく呪いを解呪してさしあげましょうか? 」
「そんな、できるのですか? 」
不安と少しの期待の入り混じった顔でアクアを見るアヤメリス様。
「はい。この私にかかればお茶の子さいさいだわ!! 」
「アクアなら確かに解呪できるか……。アクア、不本意だとは思うが破壊神の力の宿った腕輪は浄化せずにアヤメリス様にかかっている呪いだけを解けるか? 」
「できるわよ。でも破壊神の腕輪を何で浄化しちゃいけないの? 」
「これは王族の所有物ですので勝手に私の一存で何かをするわけにはいかないんです」
「そうなんですね」
アクアがあまり深く考えてなさそうな顔で言葉を発する
「じゅああ早速行くわよ。セイクリッドブレイクスペル!! 」
アクアの突き出した人差し指から神聖な輝きを秘めた光線が放たれてアヤメリス様に命中。そしてアヤメリス様の身体を包み込む。するとアヤメリス様の身体から、赤黒い呪いの渦が放たれた後、天に登って霧散した。
「終わったわ。どうですかアヤメリス様? 」
「体が軽くなった気がします……」
アヤメリス様が立ち上がる。
「あなたにはカースドダークネスって言う呪いの内容を設定できる呪いがかけられてたわ。どうやらお金を横流ししたりとかピンポイントなもののようね。それにお金のことを考えると強烈な頭痛に襲われるようにもなってたわ。これだけの邪悪な力をつけられるだなんて相当運が悪かったんですね」
「……私のせいだったのですね。リップルの街が財政難だったのは……」
崩れ落ちるアヤメリス様。
「アヤメリス様!? 」
俺はしゃがみ込んでアヤメリス様の顔を覗き込む。
「大丈夫です。大丈夫。そうでしたか……そんな呪いをかけられていたのですね」
「お気を確かに!! 」
アヤメリス様と俺とアクアの周辺に人だかりができ始める。貴族たちが心配していた。
アヤメリス様はゆっくりと立ち上がると。
「アクア様、リョウタ様、ありがとうございます。自室で少し休んできますね。すいません」
「付き添います」
「大丈夫ですよ。ごめんなさい。1人にさせてください」
「……分かりました」
俺は去っていくアヤメリス様を見送った。そんな中でアクアは。
「私まずいことしたのかしら……? 」
そう言ってきょろきょろしている。
「いや、いいことはしたんだが。内容が内容だけにな」
アヤメリス様、処罰されたりしないだろうか?
とぼとぼと去っていくアヤメリス様の背を見ながら彼女の行く末を心配していると。
さらに心配になる声がした。
「だから噂の義賊を俺が捕まえるって言ってるんだ!! 」
貴族たちがざわめき始める。ほかでもないカズマの大声の宣言に対して。
「何言ってるのかしらカズマさん? 面倒ごとに自分から首を突っ込もうとしてるのはとりあえずわかるわね」
「ああ、同じくだよ」
なに考えてるんだカズマは。
とりあえず状況を静観していると、カズマはなんでも最近王都で噂の義賊……悪徳貴族の屋敷に入り込んで後ろ暗い金や財宝を根こそぎ奪い取りエリス教の孤児院に寄付している義賊を捕まえたいらしい。
貴族たちはカズマがわざと注目を浴びるために大声を出しているのを見て、「あれが噂のサトウカズマか」とか「パッとしない」とか「一般人にしか見えない」とか「アイリス様の遊び相手とかいうニートじゃないかね? 」など散々な言われようだ。正直国には十分カズマは貢献しているのでそんなひどい言われかたをするのはかわいそうだとは思うし、魔王軍幹部を撃退してきた功績がある以上あなた方よりも役に立っているのではと言いたくなったが我慢した。だって言われてることも否定できない点が多いんだもの。
ダクネスが正義感とは無縁のお前が一体どうしたのだ? と、戸惑う中カズマは堂々と、功績を上げればまたこの城で養ってもらえるかと思ってと言い放った。……親友よどんだけアイリス様との暮らしを気に入ったんだ。めぐみんとダクネスがいながら。というか俺たちパーティーがいながら少し薄情ではないかと思う。まぁなんだかんだで最終的には俺たちのもとに戻ってくる気はするが。
「あなたという人は」
クレアが呆れる中。
「素晴らしい!! 」
そう1人の貴族が声を上げた。
それに続いて一部の貴族がカズマを称賛し始める。
なんというか称賛しているのが人相が悪くて、まさに悪徳貴族ですよという雰囲気なのが笑いそうになるが。お前ら絶対義賊に目を付けられそうなことしてるんだろ。
「分かりました。では、カズマ殿。あなたには、これはと思う貴族の家に泊まり込み、そのまま張り込んでいただきます。そして万が一、本当に賊を捕縛することができたなら城への滞在も考えましょう。……皆もカズマ殿への協力は惜しまぬように」
クレアがそう言って貴族連中に呼びかけた。
カズマはというとそれを聞いて、思ってたのと違うと言いたげな顔をしていた。
本当はカズマは義賊の捕縛を理由に城に居座る気でいたのだろう。残念だったなカズマ。
深夜。何とか予約できた宿屋にて俺たちは(カズマも含め)宿泊していた。
俺とゆんゆんは相部屋だ。ベッドは2つあるが1つのベットで一緒に寝ている。ダブルベッドではないので多少窮屈だがそれよりもそばで感じられるぬくもりの方がはるかに大切なのでそれには目を瞑れる。
「すぅー……すぅー」
ゆんゆんの寝息がする。俺は寝顔を覗き込んでみるととてもかわいらしくて癒された。
護りたい、この寝顔。
俺が頭を撫でてあげると、本能的に幸福を感じたのかゆんゆんの顔がニヘラと笑う。
本当にゆんゆんはかわいい。
続いて頬を撫でる。やわらかい。本当に潤っていてすべすべだ。
「あー、これこそ幸せだ」
そんなことを言っていると。突然カギが開く音がした。
ありえない。カギは中から閉めているのに開くだなんておかしい。スキルを使用したな。
おそらく盗人。ドアが開いた瞬間、神殺しの剣を構えて突きつければ逃げるだろう。
ゆんゆんを起こすまでもないな。
俺はゆんゆんを起こさないようにゆっくりと立ち上がると神殺しの剣を構えて扉の前に立ち。扉が開いた瞬間。
現れた人影の首元に神殺しの剣の切っ先を向けた。
「何者だ? いや、なんのつもりだ? 」
「ごめんなさいカガミリョウタさん、こんな形で部屋に入ってしまって。私です、エリスです」
その人影はクリスだった。しかしエリスと名乗っていることから人格は女神モードなことがうかがい知れる。
「どうしたんですかエリス様。あ、とりあえず剣を下ろしますね」
「すいません」
困り顔で頬をかくエリス様。
「いったいどうしたんですか? こんな夜遅くに」
なにがなんだかわからないが、部屋に招き入れながらエリス様に質問する。エリス様は真剣な顔で俺に告げた。
「天使ミルデの未来視の力で破壊神との最終決戦の未来がそう遠くない未来。それこそ1か月以内に発生することが予見されました」
「……本当ですかそれ」
「はい。本当です」
1か月以内にか……。と言うか勝てるのか?
「単刀直入に聞きますエリス様。勝利のビジョンが予見されていますか? 」
「いいえ。残念ながら」
首を横に振るエリス様
負けるということなのだろうか。
俺はゆんゆんを護らなければならない。最悪破壊神との戦いを放りだしてでも護る所存だが、破壊神が復活した場合はきっと逃げ場などないのだろう。なにせ、予見されたのは最終決戦の未来だ。
「しかし、負けるビジョンが見えたわけではないことも事実です」
「……なら勝機はあるのか。安心しました」
「はい。勝機はあります」
「未来は変えることができるんですよねエリス様。だったら破壊神の復活を阻止することは……」
「その可能性は限りなく0に近いそうです。なにせミルデがこれまでにないほどの強烈な戦いのビジョンを見たそうですから」
「そうですか。でも最善はつくします。0でないというのなら」
俺の言葉を受けてエリス様は。
「あなたは本当にまっすぐな人ですね」
目を細め微笑んだ。
「俺がまっすぐこんなことを言えるのはゆんゆんのおかげですよ。しかも嘘や偽りではなく本心から言えているというのは本当に感謝しかありません」
ゆんゆんの穏やかな寝顔を見据えながらそう口にする。
「愛の力ですね」
エリス様はいたずらっぽく笑いなら言った。
「そうですね。愛の力です」
俺は微笑を浮かべそれに応じた。
「それにしても夢で告げるのではなくて直接告げに来るだなんてめずらしい? ですね」
「私自身王都に用事がありましてなので直接会いに来たんですよ」
「だったらノックして入ってくればよかったのでは? 」
「……職業柄ついやってしまいました、ごめんなさい」
エリス様がしばしの硬直の後、謝罪してきた。
「いや、あなたの本職は女神でしょうに」
「そうですね。あははは……」
俺の信仰する幸運の女神さまは、思ったよりも天然なようだ。かわいい。
「カガミリョウタさん。この世界の人々の未来はあなたにかかっています。私もできる限りのサポートはしますのでどうか破壊神を倒してください」
「分かっていますよ、任せてください」
俺はエリス様に笑いかける。
俺には護りたいものがたくさんある。何一つ奪われてなるものか。
「それでは失礼しますねリョウタさん。夜遅くに驚かせてごめんなさい。おやすみなさい」
「おやすみなさいエリス様」
俺はエリス様を見送ると部屋の扉を閉めて、ベッドの中。俺にとって世界一温かな場所に戻った。
アヤメリス再登場です。そしてアクアによってあっさりと彼女の呪いが解かれてしまいました。さすが、女神様ですね。そして女神と言えばエリス様も再登場です(見た目はクリスでしたが)。原作読んでいる方ならおわかりだろうと思いますが彼女の活躍はしっかり第6章内であるのでお楽しみに。
追記……読者様の指摘で気づいたのですが、アヤメリスが、涼太が紅魔族になったことにリアクションが無かったことに違和感があったので会話を追加しています。2020年9月11日10時30分までに読んでくださった方すいません。