「今日は森でのクエストかー……。平原と比べて高難易度だから気を引き締めないとね」
「すいません。私のために……」
「いいって。一応、森で活動しても問題ないレベルになったし」
ゾンビメーカー討伐失敗から翌日。俺たちは二人で森でクエストをこなすことにした。理由はゆんゆんがめぐみんと決着をつけるという目的があるため早く上級魔法を覚えたいからだ。森にいるモンスターは平原にいるようなモンスターより得られる経験値が多くゆんゆんのレベルアップに伴ったスキルポイントの習得に都合がよい。
「ではゴブリンと初心者殺しの討伐をお願いしますね」
ルナさんに依頼書を渡し、俺たちは森へと出発する。
今回のクエストは今まで(カエル狩り)とは一味違う。それに二人パーティーという少ない人数のため、マンパワーが必然的に低い。なので俺たちはゆんゆんが持っていた大量のお金でマジックスクロールを用意して戦力不足を補っている。最も、ゆんゆん一人であればここまで万全を期さなくてもソロで何とかなるためマジックスクロールを用意したのは俺が森のモンスターに狩られないようにするための保険という意味合いが強い。
冒険者たちがカエルと格闘している平原を抜け、森へと入っていく。
「そう言えばリョウタさんって『錬金術』っていうスキルを持ってるんですよね」
「ああそうだけど、どうしたんだい? 」
森の中に入ったので俺が敵感知を発動させながら先頭を歩き、ゴブリンたちの巣を目指す中ゆんゆんがそんなことを聞いてきた。
「いえ、どこで手に入れたのかなーって思いまして」
「俺の国でここに来る前に教えてもらったんだ。ただ特殊なスキルだから専門の人じゃないと教えたりとかはできない」
嘘は言ってない。罪悪感はあるが。
「そうなんですね。あの『錬金術』って、いったいどんなことができるんですか? 」
「そう言えばゆんゆんには作業してるとこ見せたことなかったな……」
俺は立ち止まりワイヤーを取り出す。敵モンスター拘束用に用意したものだ。そしてそれを錬金術で錬成し元の荒縄へと変化させる。
「わぁ……そうやって使うんですね」
「ああ。ちなみにこのアーマーも元は革製だったものを金属製に変えたんだよ」
「便利なスキルですね。力の本質は書き換えなのかな? 」
「書き換え? 」
「はい、突き詰めていくと対象の本質を書き換える力なんじゃないかなと思って……」
「ゆんゆんは賢いな」
「えへへ、紅魔族の長を目指す族長の娘ですから。それに学校にいた頃はいつも成績優秀者に選ばれてたんですよ」
この子、俺が思っている以上にエリートだったのか。学生時代成績も平凡だった俺なんぞとは釣り合いが取れない凄い子だな。
「それにしてもこの力の詳しいことについてなんて、そんなこと俺は考えたこともなかった。……書き換えが本質だとしたら魔法の効果とかそういうのも変えられるかな? 」
俺はそう言いながら荒縄を再度ワイヤーに錬成しなおす。
「試してみたらどうでしょうか? 戦いの役に立つかもしれません」
ゆんゆんの提案を俺は受け入れさっそく魔法を発動して試すことにした。
「クリエイトウォーター」
突き出した右手から水があふれだす。
これを炎に錬成する。
そう思い意識を集中すると、流水が徐々に炎へと変わった。水の流れのごとく炎が放出されるようになる。
「……クリエイトファイヤーか? 」
そんな名前がぱっと浮かぶ。
「すごいです、魔法の効果を書き換えて火炎放射になりましたね!! 」
「ああ、こんなことにも使えるのか……錬金術」
単純に考えると小さな火を起こす初級魔法の一つ、ティンダーよりも射程が長い。これは実用性がありそうだ。
「ゆんゆんは天才だ!! 」
ほかにも試してみたいな……。俺はクリエイトファイヤーをそのままに思索にふける。
「あ、あの、リョウタさん。そろそろそれ止めないと……」
「次はウインドブレスを錬成して雷に……」
「リョ、リョウタさん。森が火事になっちゃう!! 」
ゆんゆんに揺さぶられてこのままではまずいことに気づいた。
「あ……」
その辺の草が気付くと炭になっていたので、慌てて魔法の使用を停止する。危ない。ゆんゆんですら水系統の魔法は習得していないのにここで火事になっては大事だ。
「気をつけましょうね」
ゆんゆんが困り顔で笑う。
「ごめん、ありがとう」
他を試すのはもっと可燃物とかが少ないところにしよう。
それから俺とゆんゆんは歩き続けゴブリンの洞窟状の巣の目前にまで接近した。俺たちは草陰に隠れながら、ゴブリンの有無を確認する。
「敵感知に感あり。千里眼発動……、依頼書にあった数と同じ10匹。今は食事中みたいだ。2匹ほど巣の前で見張りをしてる」
声を押し殺してゆんゆんに報告する。
「そうですか、一気にここからファイヤーボールで撃退しましょうか。それで仕留め漏らした分がいれば私とリョウタさんで各個撃破しましょう」
「そうだな。ゆんゆんは接近戦もできるんだよね? 」
「大丈夫です。ブレード・オブ・ウインドがありますから。それに体術も得意なんですよ!! 」
ブレード・オブ・ウインドとは風の刃を纏った手刀だ。中級魔法である。
「なら安心だ。魔法使いなのに前衛もできるってやっぱりすごいなゆんゆんは」
「そ、そんな、褒めないでください。……えへへ」
ゆんゆんが顔を赤くして下を向いた。かわいい。
「ゴブリンは簡単に狩れるだろうけど、問題はその後にやってくるであろう初心者殺しだな」
初心者殺しは黒いサーベルタイガーのような見た目で、知能の高いモンスターだ。彼らはなんでも、ゴブリンやコボルトと言った比較的弱いモンスターのそばをうろうろして弱い冒険者を狩るという狡猾な奴だ。しかも狩場を変えるために定期的にゴブリン等を追いやって定住させないようにする習性を持っている。
「そ、そうですね。……でもそのためにたくさんマジックスクロールを用意しましたから。リョウタさん、使い方やどれがどんな効果を持つのかしっかり覚えてますか? 」
「問題ないよ。ただ初心者殺し出てきてくれるかな……。超火力で派手なゆんゆんに警戒して逃げたりしそうだよ? 」
初心者殺しは知能が高いだけあって警戒心が強い。……とのことだから、派手にゆんゆんが暴れると引っ込んで出てこないかもしれない。
「確かにそうかも。……今もどこかで私たちを観察しているかもしれませんし、ここは、わざとゴブリンたちを接近戦で地味に退治して、かけだし冒険者感を出しましょうか? 実際まだかけだしですけど……」
そう言ってゆんゆんはブレード・オブ・ウインドを発動させる。
俺はその提案に乗ることにした。
「そうだな。じゃあ俺は地味に弓矢で援護するね」
「はい!! 行きましょう」
俺は深呼吸した後、弓矢を構える。そしてゆんゆんと頷きあい、草陰からゴブリンの巣へと突撃を仕掛けた。
「いけ!! 」
俺は矢を放ち見張りのゴブリン2匹に攻撃しながら巣へと接近する。
矢を喰らって苦悶の表情をするゴブリンたち。それを全力ダッシュして肉薄したゆんゆんがブレード・オブ・ウインドの手刀でまとめてとどめを刺した。
ゴブリン2匹の首が宙を舞う。
「リョウタさん巣のゴブリンが出てきました。そのまま行きますので援護引き続きお願いします!! 」
「わかってるよ!! 」
正直、好きな子を前に出して援護するのは気が引けるがこれも作戦。仕方がない。俺は役割をきちんとこなしてゆんゆんが怪我を負わないように最大限努力しよう。
「やっ!! 」
ゆんゆんが、巣から真っ先に出てきた棍棒を持ったゴブリンと戦闘になる。俺は矢を放ち他のゴブリンを寄せ付けないように牽制する。
その間に、棍棒を持ったゴブリンは、その得物ごとゆんゆんに袈裟切りにされ絶命する。
「やぁぁぁぁ!! 」
ゆんゆんは次は銅剣を持ったゴブリンを標的にして、手刀を心臓に突き刺し撃破。そのままの勢いで、自分の後方に回り込んできたゴブリンに足払いをかけバランスを崩させると首を切り裂いた。
残り5匹。俺は牽制だけではなく、仕留めることにも集中する。
「当たれ!! 」
矢を何度も放ち、やがて1匹の頭を打ち抜いた。そのうちにゆんゆんは自分を包囲するかのように展開していくゴブリンからいったん距離をとると体制を整え手近なゴブリンに襲い掛かった。
「ゆんゆんには近づけさせねぇ!! 」
俺は残りのゴブリンにゆんゆんが接近されないように、クリエイトファイヤーを使用。炎がゴブリンたちに殺到した。怯むゴブリン。
「リョウタさんありがとうございます!! 仲間と一緒に戦うってやっぱりいいですね!! 」
目をキラキラさせながら隙の出来たゴブリンを後ろに回り込んで手刀でどんどん葬っていくゆんゆん。かわいい表情と言動とは裏腹に行動は恐ろしいほど洗練されている。
「これで終わりよ!! 」
そして、ゆんゆんが最後に残ったゴブリンの首筋を切り裂き死滅させた。
「楽に終わってしまったな。さあて、初心者殺しは……来た!! 」
敵感知に反応があった。どうやらゆんゆんと俺を雑魚パーティーだと認識してくれたようだ。正直、バッタバッタとゴブリンをなぎ倒していくゆんゆんを見て逃げないか心配だったが来てくれて幸いだ。
「ゆんゆん来るぞ!! 2時の方向だよ!! 」
「はい!! 一気に仕留めます。……ライトニング!! 焼き焦げなさい!! 」
初心者殺しが草陰からゆんゆんにとびかかる。その瞬間ゆんゆんはライトニングを発動。初心者殺しに雷撃が迫る。
「っ!! 避けた!! やっぱり一筋縄ではいかないわね……」
雷撃を初心者殺しは身をひるがえして回避して着地した。ゆんゆんを値踏みするかのようにその場で彼女を睨みつける。どうやら、ゆんゆんの強さが思っていたのと違ったからだろう。
「今は俺だって中級魔法を使えるんだぞ初心者殺し!! ファイヤーボール!! 」
俺はマジックスクロールを展開し、ファイヤーボールを初心者殺しに発射する。スクロールは黒ずみ崩れ去る中、初心者殺しは迫ってくる火炎弾を飛び跳ねて回避する。そして、狙いをゆんゆんから変更し、俺に向かって疾走してきた。
「リョウタさん!! 危ない!! 」
「次だ、ウォーターカッター!! 」
次なるマジックスクロールを取り出し、水の断撃を放射する。水の刃を初心者殺しは巨体をうまくひねってやり過ごし俺に肉薄する。
「っ!! 」
そして振り下ろされた初心者殺しの右前足の爪の一撃を神殺しの剣で受け止める。が。
「ぐあっ!! 」
あまりの威力のせいで俺は後方に吹っ飛ばされる。俺はバランスを崩し尻餅をついた。そのチャンス見逃す初心者殺しではない。俺に追撃、あるいはとどめとしてとして口を広げてとびかかってくる。後方からゆんゆんの魔法が炸裂するがそれらを全て回避しながらだ。
「まだスクロールはあるんだよ!! 」
エアスライサーという目標を追尾する風の刃を射出するマジックスクロールを取り出し、発動する。スクロール中心の魔方陣から巨大な風の刃が射出され初心者殺しに襲い掛かる。
初心者殺しはバックステップでそれを回避するが、それが追尾攻撃であることに気づくのに遅れ、それを横っ腹に喰らい、威力に吹っ飛ばされて血を巻きながら宙を舞う。
「今!! パラライズ!! 」
ゆんゆんがパラライズの魔方陣を初心者殺しの着地地点を計り展開する。見事にそこに降り立ちマヒする初心者殺し。
「仕留めます!! ファイヤーボール!! 」
ゆんゆんが初心者殺しに火炎弾をぶつけた。その瞬間初心者殺しは丸焼きになってくたばった。
「リョウタさんが初心者殺しの標的になった時はどうなるかと思いましたが無事でよかったですよ」
「本当にね」
今思い出すと、よくあんなライオンよりでかくて、見た目もやばい獣に怯まず立ち向かえたものだ。
「リョウタさん戦闘中一切恐れてる様子が無いところを見るに、本当に戦いの才能があるんだと思います」
「アドレナリンが出まくってるだけだと思うんだけど……まぁそれを才能というのかもね」
俺とゆんゆんは森の中で昼食を食べていた。昼食はもちろんゆんゆんの作ったお弁当だ。
俺はゆんゆんの言うように戦闘中、恐怖を感じずに立ち向かえてる。さすがにカエルと闘いまくって命のやり取りには慣れたのだろうか? 最初にカエルに食われたトラウマは払拭できていないとはいえ我ながら大した成長だと思う。
「慣れって恐ろしいな。というかゆんゆんこそ大丈夫なのか? モンスターと戦ってて怖いとか感じないのかい? 」
「私は紅魔族の長となる者ですから、そんなことで怯んでられないというのもありますし、里で自警団をしてる内にだんだん慣れましたから。それに今は……」
「今は? 」
「あ、いえっ……そのリョウタさんが一緒にいてくれますから」
「そういうことか。……って、そ、そうか。……そうなのか」
反則だろゆんゆんそういうのは!! 顔を赤くしながらそんなことを言うだなんて勘違いしてしまうだろうが!!
「そ、そうですよ。……ありがとうございます」
俺がドギマギさせられる中、女神の如き笑顔を持って追撃を加えてくるゆんゆん。
可愛すぎだろう。というか、言うべきことはしっかり言うって感じのところがずるいぞこの子。
「リョ、リョウタさん? どうしました? 拳を握りしめたままプルプルして……。あ、もしかしてお弁当の中に苦手なものがありましたか? ごめんなさい……」
「違うんだ。うん気にしないでくれ」
焦る姿もやっぱりカワイイ。可愛くない姿が無いだなんて、まぁ本当に反則級の可愛さだ。やっぱり女神だよ。
ウォーターカッターもエアスライサーもオリジナルの魔法です。公式にはありません。
あと、本編に記述があるように涼太は生まれ持った戦闘の才能があります。そのため、これから先かなり強くなっていきます。……その分魔王軍などの敵を強めに設定していますが。