【完結】この素晴らしいゆんゆんと祝福を!!   作:翳り裂く閃光

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091 アイリス姫

 俺とゆんゆんは昼まで宿で休憩した後、王都の街に繰り出していた。やることが夕方までとりあえずないので2人でまずは王都の美術館に行く。

 

 この世界の美術品というものをほとんど見たことが無かった俺はなかなか美術館を楽しむことができた。様々な複雑な装飾品が飾られており。今度錬金術で再現してゆんゆんにプレゼントしようかと思った。のだが。贋作のようなものに当たるからやっぱり駄目な気がする。

 

「カズマさん大丈夫でしょうか……」

 

 今度は劇場に向かっていた俺とゆんゆんだったが、ゆんゆんがふとそんなことを口にする。

 

「確かに心配だよね。とはいえかけられる言葉もないよ。パワードスーツを着てればあんなことにならなかっただろうしさ。カズマは変に見栄えを気にし過ぎだ」

 

 あんなこととは死んだり、活躍できなかったりだ。

 

「あははは……確かにそうですね」

 

「冒険者カードの討伐数でも十分に活躍したことを示すことができるのに」

 

 俺は親友の残念な点を悲しく思いつつ歩いていると。

 

「あれ? あれってカズマさんとめぐみんですよね」

 

「本当だね」

 

 カズマとめぐみんが遠目に見えた。めぐみんはカズマに背負われている。

 

「行ってみよっか? 」

 

「いえリョウタさん。ここはせっかくめぐみんがカズマさんと2人きりの時間を過ごしているので邪魔しないでおきましょう」

 

「それもそうだね」

 

 俺とゆんゆんは温かい目で2人を見つめると劇場へと再び足を進め始めたのだが、偶然にもカズマとめぐみんはこっちに歩いてきてしまった。

 

「どうしましょうかリョウタさん? 」

 

「隠れよっか」

 

「そ、そうですね」

 

 俺とゆんゆんは路地裏に隠れようとしたのだが。

 

「ゆんゆんにリョウタではありませんか」

 

 先にめぐみんに見つかり声をかけられた。

 

 ……いいのかめぐみんせっかくのカズマとの2人きりなのに。

 

「何をこそこそしているんですか? 怪しいですね。まさか路地裏で……」

 

 めぐみんのとんでも発言に俺は。

 

「路地裏でそのようなことはしません。そんな趣味はないからね」

 

 ぴしゃりと言い切った。

 

「それなら安心です……って、何をそんなに照れているのですかゆんゆん。本当にあなたは痴女ですね」

 

「ち、痴女じゃないから!! 」

 

 ゆんゆんが赤い顔で抗議している。いや、こんなことを思いつくめぐみんもなかなかにアレだと思うんだけど。

 

 すると。

 

「あのめぐみんさん、路地裏でというのはどういうことなんですか? 」

 

「王女様にはまだ早いです」

 

 カズマとめぐみんが衝撃的なやり取りをした。

 

「「めぐみんさん? 」」

 

 それにカズマのことだから路地裏でうんたらかんたらなら普通は気づきそうなものなのにどうしてこんな反応を?

 

 ゆんゆんも疑問に思ったのか首をかしげてる。

 

 なにより。

 

「「王女様ってどういうこと?」」

 

 今はっきりとめぐみんはカズマに対して王女様と言った。

 

 俺とゆんゆんが意味不明すぎて顔を見合わせていると。

 

「聞いて驚いてください。実は今カズマと王女様が神器の力で身体が入れ替わってしまっているのです」

 

 

 

 

 

 めぐみんによるとアイリス姫が身に着けていた神器の体を入れ替える能力が、カズマが呪文を唱えたことによって発動してしまいカズマとアイリス姫の人格が入れ替わったらしい(ちなみに一定時間が経過すると元に戻る)。こうなったことで、1度城の外を家臣を引き連れずに歩いてみたいというアイリス姫は希望した。その結果お目付け役としてのめぐみんを背負った状態で王都の街を散策することになったらしい。

 

 最初はなんの冗談だと思ったがカズマの動きが妙に上品かつ女っぽく、口調も全く違うため信じさせられた。

 

「アイリス姫とカズマの身体に何かあったらいけないから俺とゆんゆんも一緒に散策するよ」

 

「そ、そうですね。そうしましょう」

 

「エスコートしますよアイリス姫。あ、めぐみんは俺が預かります」

 

「よろしくお願いしますリョウタ」

 

 めぐみんを受け取り背負う。

 

「ありがとうございますカガミリョウタさん」

 

 アイリス姫inカズマが屈託のない笑顔を見せる。かわいい……のか?

 

「こ、これから劇場に向かおうと思ってたんですけど一緒にどうですかアイリス姫」

 

 ゆんゆんの緊張気味のお誘いにアイリス姫inカズマは。

 

「はいぜひ!! 私、庶民の方の劇場に行くのは初めてです!! 」

 

「決まりですね。王女様も行きたがっていますし行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 劇場でお金を払い劇を見終わった俺たち。アイリス姫とゆんゆんは悲劇的なラブロマンスの話に感動して涙を流していた(ちなみにめぐみんは劇を見ずに寝ていた)。なお、俺個人としてはなぜハッピーエンドにしないのかという疑問が劇への感想だった。まぁそれがいいという人たちもいるのだろう。

 

「こんなにも刺激的なお話を見たのは生れてはじめてでした」

 

「あんな終わり方悲しすぎますよね……」

 

「ゆんゆんさんの言う通りですね」

 

 この2人、妙に打ち解けている。アイリス姫が劇場に向かう道中で「初対面の時にあんなに高圧的でごめんなさい」と謝罪してきたことが大きいようだ。

 

 雑談しながら次なる目的地を目指して歩いていく。その目的地とはあのおいしい串焼きの露店である。そんなものを食べたことのないアイリス姫はというと。

 

「私串焼きを食べるの初めてです!! 今から楽しみで仕方がありません!! 」

 

 カズマの体で全身で喜びを表していた。見た目がカズマのため変な感じはするがこれがあのアイリス姫だと考えるとかわいらしく思えた。

 

「あそこの串焼きは絶品ですよアイリス姫。今度パーティメンバーみんなを誘って一緒に食べようと思ってたほどなんです」

 

「そうなんですね。ああ、どんどん期待が膨らんでいってしまいます!! 」

 

「私も初めて食べるものですね。そんなにおいしいのですかそこの串焼きは? 」

 

「おいしいわよ」

 

「まぁ俺とゆんゆんの思い出補正がかかりまくってる可能性もあるけどそれでも味はいい方だよ。それは保証できる」

 

「そうですか。だそうですよ王女様。これは期待が持てますね」

 

「はい、楽しみです!! 」

 

 アイリス姫はニコニコ顔で俺たちと共に屋台に到着。そしてアイリス姫は人生初の買い食いを行った。

 

 

 

 

 アイリス姫の人柄もわかってきた。まずこの子は城ではわがままをおそらく一切言うことが無く妙に大人びた考えを持たざる負えない子だということ。その本質は無邪気で何事にも興味を持っている明るく博愛主義者な子だということだ。王女としてはこの上なく優秀な子だろう。

 

 ただその本質を引き出したのは間違いなくカズマのようだ。現にアイリス姫はお兄様がどうだったとか(カズマのことはお兄様と呼んでいるらしい)語ったり、逆に、お兄様は屋敷ではどんな感じなのかなど俺たちにたくさん質問してきている。口を開けばカズマのことばかりなのだ。初対面の時の高圧的な雰囲気をぶち壊したうえでアイリス姫の心を開かせたのはすごいことだ。

 

 かなり歩き回った俺たちは例の公園で休むことにした。俺はめぐみんを先にベンチに座らせ、その後その横に座る。右からアイリス姫、ゆんゆん、めぐみん、俺の順番だ。

 

「串焼きおいしかったです。それにこんなに楽しい1日を過ごしたのは1週間ぶりです!! 3人ともありがとうございます」

 

「いえいえ、アイリス姫が楽しかったようで何よりです」

 

「良かったです」

 

「私も楽しかったですよ王女様」

 

 俺たちが各々、アイリス姫の言葉に返答する。しかし1週間ぶりか。カズマがいた日々はとても楽しかったんだろうな。

 

「あの唐突なのですが、リョウタさんとゆんゆんさんは恋人同士なんですか? 」

 

 アイリス姫が突然そんなことを聞いてきた。

 

「はいそうです」

 

「ど、どうしましたアイリス姫? 」

 

「いえ、王族に恋愛というのはありませんから、さっきの劇のこともあって気になったんです」

 

「そっか、アイリス姫は恋とかできないんですよね……」

 

 ゆんゆんがアイリス姫を見て悲しそうな顔をする。

 

「恋ってどんなものですか? 」

 

 アイリス姫の真剣な表情での質問。さて何と答えるべきかと悩んでいると、意外にもゆんゆんが先に口を開いた。

 

「そうですね、とても心が温かになるものですね」

 

「心が温かになるもの……」

 

 ゆんゆんに続いて俺も口にする。

 

「恋は忍耐だってあの大魔導士キールも言ってました」

 

 あの頃の俺はその言葉をバニルに言われた通り律義に守っているつもりでいたな……。

 

 それにしても俺の回答は少しずれていただろうか。過去を振り返りながらそう思っていると。

 

「恋は忍耐。いい言葉ですね」

 

 めぐみんがそう言って笑った。

 

「……めぐみんさんは恋をしていますか? 」

 

 アイリス姫がめぐみんに質問する。

 

「していますよ」

 

 さらりと答えるめぐみん。

 

「……もしかしてそのお相手はお兄様なのでは? 」

 

 アイリス姫、よくわかったな。

 

「よくわかりましたね王女様」

 

 めぐみんもアイリス姫に感心する。

 

「そうです。私はカズマのことが好きです」

 

「……今なんて? 」

 

 ……あ。これは。

 

「カズマのことが私はす……待ってください、あなたはアイリスですか!? もしかしてカズマなのでは!? 」

 

「大当たりだめぐみん。それより俺のことがなんだって!? 」

 

 カズマにいつの間にか戻っていた。

 

 めぐみんは頬を少し赤く染めた状態でカズマから顔を背けると。

 

「……まぁ嫌いではないですよ」

 

「またあの時みたいにはぐらかす!! ちゃんとさっき言ったことをもう一度言ってみてくれよめぐみん!! 」

 

「き、嫌いではありません」

 

 と。さっきより赤面しながら言うめぐみん。

 

「そっちじゃない!! 」

 

 さすがにめぐみんが不憫なのでカズマに声をかけることにしよう。

 

「お帰りカズマ」

 

「お帰りなさいカズマさん」

 

 ゆんゆんも同じことを思ったようでカズマに声をかける。

 

「おう、ただいま。お前らも一緒だったんだな。アイリスと俺の体に何ともなかったか? 」

 

「何ともありませんでしたよ。仮に何かあっても彼女は王族です。カズマの身体でもそれなりに戦えるので問題ありませんよ」

 

 平静を取り戻しためぐみんが一言。

 

「それもそうか」

 

 カズマが納得する。

 

「ところでめぐみん。もう1度言ってはくれないのかな? 」

 

「嫌いではないです!! 」

 

 めぐみんは強めにカズマに言い返した。

 

 がんばれめぐみん。それにしても難儀な男を好きになったものだな君も。まぁ難儀な男という点では俺もカズマと変わらない気がするけど。

 

 

 

 

 

 時間も夕方に差し迫っていたので城へと足を運ぶ俺たち。今日の戦いで俺たちのパーティーはカズマを除いてMVPのため、宴に必ず参加するようにクレアから言われている。

 

 きっとこの前のカズマのお別れ会よりも大きなものが開かれるに違いない。

 

 そんなことを考えていると俺たち4人は城門まで到達したのだが……。そこにはブチ切れ状態のダクネスとクレアがいた。二人とも鬼の形相だ。

 

 ダクネスは叫ぶ。カズマに向けて。

 

「カズマ貴様という奴はどういうつもりだ!!!! 」

 

「ど、どうしたダクネス? 」

 

 カズマが顔面蒼白になる中、俺はダクネスになぜブチ切れているのかを質問してみると。

 

「その男はアイリス様と入れ替わっている間に私たちとともに風呂に入ろうとしたのだ!!

 

 マジかよ。そりゃ切れるわけだ。

 

「ダスティネス卿の言う通りの性獣のような男だな貴様は!!

 

 クレアも叫ぶ。

 

「「「これはカズマ(さん)が悪い」」」

 

「すいません……」

 

 俺とゆんゆんとめぐみんから揃って言われて土下座したカズマだった。

 

 

 

 

 

 夜になり宴が始まる。

 

 多くの冒険者や貴族が参加している宴はとても豪華で騒がしいものだった。MVPである冒険者は演出として冒険者服を着ることをお願いされているためフォーマルな格好ではなく普段通りの姿(俺なら鎧でゆんゆんならグウェンを纏っている状態)だ。俺とゆんゆんは一緒に貴族に取り囲まれて今回の戦いについていろいろ質問されている。カズマを除いた他のパーティーメンバーやミツルギも同じようにだ(ダクネスの周囲は男性貴族の数が多く、ミツルギの周囲には女性貴族が多い)。

 

 そして嫌なことが現在進行形で起こっていた。それは貴族にカズマのパーティーからミツルギのパーティーに移籍されてはという打診がいくつもされていることだ。俺はカズマの名誉のためにこれまでいかにカズマが戦闘指揮や策略において活躍してきたか説明するのだが聞く耳をまるで持ってくれないのだ。俺が苦い顔をしていると。

 

「カガミリョウタ様、ゆんゆん様。私も混ぜてはいただけませんか? 」

 

 アヤメリス様が俺とゆんゆんの周りにできた人だかりに割入ってくる。その瞬間、貴族たちは次々と適当なことを言っては俺たちから離れていった。

 

「私の厄介者扱いもたまには役に立ちましたね。ご苦労様ですリョウタ様、ゆんゆん様」

 

「アヤメリス様? どうして? 」

 

 ゆんゆんが驚く。俺も驚いていた。

 

「いえ、お2人が困り顔をされていたので助けに入った方がいいかなと思ったんです。余計なお世話でしたか? 」

 

「そんなことないです。ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 俺とゆんゆんはアヤメリス様にお礼を言った。

 

「少しは恩返ししないとですね」

 

 アヤメリス様は、はにかんだ。しかし厄介者扱いされていることを自認しているのは構わないのだがなんだか聞いていて辛くなる。

 

「アヤメリス様のその……厄介者扱いが無くなるといいですね」

 

 ゆんゆんがさっきまでとは違った困り顔を浮かべる。

 

「ありがとうございます。でもアルダープの策略に落とし込まれた経歴があって、さらに王城にかくまわれなければならない立場なのでなかなか無くならないと思いますよ」

 

「アヤメリス様……」

 

 ゆんゆんが息をのむ中。俺も悲しい気持ちになったが、これは好機だ。

 

「さて、じゃあもう1人誘いに行きますか」

 

 カズマは「口だけのやつか」等散々な言われようで涙目になっている。合流して少しでも元気づけてあげたい。

 

「そうですね。カズマさんのところに行きましょうか」

 

 ゆんゆんが微笑む。

 

「サトウカズマ様ですね。私、話したことがまだないのでお話しするのが楽しみです」

 

 アヤメリス様も笑った。

 

 しかし。

 

 俺たちがカズマに歩み寄っていくと、カズマはクレアから何か言われていた。そしてカズマは泣きながら会場から出て行こうとし始めた。

 

「ちょっカズマ!? 」

 

「カズマさん!? 」

 

 俺たちが声を上げるがカズマは振り返らなかった。

 

「行ってしまいましたね……」

 

 アヤメリス様が苦笑する。

 

「私たちは一応MVPなので離れてはいけませんしどうしましょうかリョウタさん……? 」

 

「出て行くときのあのカズマの泣いてる顔からしてなんて声をかけたらいいか分からなくなったよ……」

 

 今追いかけてもきっとカズマは1人にしてくれと言うだろう。

 

「仕方がない。カズマを元気づけるのはこの宴が終わってから……。それこそ明日にでもしよう」

 

「そう……ですね」

 

 ゆんゆんが悲しそうにつぶやいた。

 

 それからというもの、3人でお酒を飲みながら談笑した(ゆんゆんはジュースを飲んでいる。すぐに酔うからだ)。

 

 カズマのことが気がかりでどうしても心に引っかかったが、楽しい時間を過ごした。

 

 やがて、時刻が深夜になったころ。参加者も帰路に就くか、酔いつぶれるか、あるいは城内の各部屋に戻り始め、宴もそろそろお開きになろうとしていたころに緊急事態が起こった。

 

〈緊急事態発生、緊急事態発生!! 城内に賊が侵入した模様!! 繰り返す。城内に賊が侵入した模様!! 数は2、数は2!! 現在宝物庫を抜けて最上階へと向かっているとの情報あり!! 〉

 

 大音量のアナウンスが城内に流れた。

 

 

 

 




 アイリス姫が外の世界を満喫するお話でした。それにしてもかわいいめぐみんを書くのは楽しいですね。

 それとアヤメリスがやっとリョウタたちに些細なことですが恩返しできました。

 さて、次回はいよいよ本気になった彼と、とある女神様が活躍しますよ!!

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