社畜の俺がコナンの世界でも社畜になってしまった件について 作:願わくば神様転生でチートをかましたい
第一話 どうやら俺は死んだらしい
俺は根っからの社畜であった。
会社のために昼も夜も働き、上司から言い渡されたノルマを消化するために休日を返上した。
自分が借りていたアパートは、ただ夜中に帰って数時間寝るためだけの部屋と化した。
それも最近は家に帰る時間も惜しく感じ、会社で寝泊まりをする毎日だ。
仮眠室なんて使えない。床に雑魚寝に決まっているだろう?
......今は社畜人生を謳歌している俺も、最初はこんなんじゃなかった。
ごく普通の一般家庭に生まれ、頭はちゃんとした大学にギリギリ入れるレベル、運動神経だって皆無という訳ではないが、クラスに一人はいる何でもできる勝ち組のアイツには敵わない。
顔は良くもなく悪くもない、強いて言うなら中の下辺りだろう。どこにでもよくいる顔だ。
中学、高校は良くもなく悪くもなく、ただなるがままに流される毎日。
大学だってそう変わりはない。一つだけ違う点を挙げるとするなら彼女ができたくらいだろうか?おかげで魔法使いやら、賢者にはならずにすんだ。
就活を始めた俺は、特に特技や資格も持ち合わせていないからずっと不採用が続く。
やっと入れた『ホワイト企業』をかがけているプログラミングなどのIT関係の会社は、ホワイトとは真逆のブラック企業で、ここから俺は社畜へと改造させられていく。
ろくな研修とかもないまま膨大な仕事を押し付けられ、どこから手を付けたらいいかわからず見よう見真似で仕事をこなそうにも、量が量なだけに当然その日のうちには終わらない。
「なんでここの簡単なプログラムを書き間違えるんだ?」
「こんなの誰だってできるぞ」
「なんで仕事が終わってないんだ、今日中にやっておけと言ったよな?」
「『知らなかった』だぁ?周りにいくらでも人がいるんだから聞けばよかったじゃないか」
「今年の新人社員もクソだな」
上司に初日から絞られる。
緊張と、今自分のせいで起こられているというこの状況と、周囲からの冷たい目線のせいで上手く思考が回らない。
普通に考えたらこの状況はパワハラ以外のなんでもなくて、別に俺自身が悪い訳ではない。
そうだ。俺は何にも悪くない。
だがそれに気付くのは何年も経って、上司からのパワハラ、セクハラ等の様々なハラスメントの耐性が付き、それに伴い俺という社畜が出来上がってからの事だった。
今では仕事がないと安心できない。
しんどいのにももう慣れた。『休み』?そんなものいらない、仕事だけしてれば満たされる。
気付けば、そこそこ仲の良かった友人も、心から愛していて、結婚する約束までしていた恋人もどこかへ行ってしまっていた。
手を差し伸べる人も、この生活を「おかしい」と思える人も周りにいなくなったからこそ、俺の社畜度はどんどん加速し________
_____________ついに急性心不全、つまりは過労死してしまった。
だからこそ、非常に疑問なのだが、.........なぜ、心臓は動いているのだろうか?
俺こと『森 大智』は、心不全で死んだはずだ。
いつものようにパソコンにコードを打ち込んでいる時に心臓に違和感を覚えたと思ったら、......すごく苦しくなった。
息ができない。...いや、できないんじゃない。肺は動いていたけど、心臓が止まったから酸素が全身に回らなくなって苦しくなったんだ。
遠くなっていく意識の中で、これでやっと解放されると思ったことを鮮明に覚えている。
もう洗脳に域に達していた社畜意識からやっと解放されると、死ぬことで解放されるとそう思ったのに。
また生きている。
心臓が動いている。
呼吸をしている。
指が動く。
声を発することができる。
こうやって考えることができる。
嗚呼、これが普通の人なのならば嬉しがるのだろうか。
まったく嬉しくない。
あのまま死にたかった。
......本当に死にたかったのだろうか?
もうわかんないや。
何にも分からない。
......だから。
気にせずに、前世のような人生にならないように、今世こそは社畜になんかならないように今を生きよう。
せめて報われない生き方をするのではなく、幸せになれるような生き方をしよう。
うん、そうしよう。
取り敢えず前世の記憶があることの整理はついたため、今の俺の話でもしようか。
まだ、驚くことがある。
ここは、某バーロー系事件ホイホイ高校生探偵の世界である。
「東京」ではなく『東都』、そして、少なくとも前世に米花町や杯戸町なんて地名は存在しなかった。前世の現実世界では。
しかし、首都が『東都』で米花町や杯戸町などの地名がある
それが「名探偵コナン」だ。
日本のヨハネスブルクと恐れらた米花町に今、俺は住んでいる。
......普通の人ならこの時点で、「死亡フラグ乱立!?」とか「マジか!?原作キャラに会いに行こ」とか思うのかもしれない。
確かに、社畜になる前のヲタクだった俺が転生していたとしたら、恐怖したり、テンションが上がったりするかもしれない。
ただ、考えてみて欲しい。
俺、社畜。感情がないわけではないけど、感情なんてもの最低限あったらいいわけで、それ以外は、社畜に置いて邪魔でしかない。
感情をコントロールするすべくらいは心得ているわけで、死亡フラグとかさ、原作キャラと関わらなかったらいいわけでしょ?
そんなの簡単。
だって、俺、根っからモブだもん。
関わったからって動揺してる時点でコナンとか安室さんとかに疑われて終わりじゃん?
つまり、もし関わってしまったとしても知らぬ存ぜぬで貫いたらいいし、モブはモブらしく背景の飾りにでもなってたらいいんだよ。
ここヨハネスブルクだよ?(違います)人生の一回や二回ぐらい事件に巻き込まれて、原作キャラに会うなんてこと普通にあり得るでしょ。舐めてんの?ヨハネスブルク。(違います、米花町です)
結論、モブらしく堂々としてりゃいいんだよ。
変なことするから疑われるんだって。
え?主人公補正が入るだろ?
はっ、俺が主人公とかないわ。モブでいいんです。社畜になりたくない、精神が大人で、前世の記憶を持った普通の六歳児なんですー。どこに主人公要素があんだよ、言ってみろ。ねぇだろ、なあ。
...なんか、言ってて虚しくなってきた...。
ちなみに、今俺は自分の寝室のベッドの中にいる。
なんでかって言うと、40度を超える高熱を出し倒れたためだ。
生死を彷徨ったおかげで前世の記憶を全て思い出すことができたのは良かったといえるのかもしれないが、もうちょっとで下がり掛けていた熱が、急に頭に流れてきた記憶と情報の処理に追われて、所謂知恵熱を出してしまった。無駄に体がだるい期間が延びてしまったのだ。
今は情報の整理も、心の整理も付いたため熱は平熱とまではいかないが、幾分か下がって、体のだるさも少ない。
窓の様子を見るに、今は昼らしい。
昨日までは全くお腹なんて空かなかったのに、数日間ろくに固形物を食べていないせいか余計にお腹が空いていると感じてしまう。
この程度の空腹ぐらいなら我慢はできるのだが、体力的に何か口にしといたほうがいいだろう。
生き返ったのは不本意だったとしても、また生きているのだ。記憶を思い出したのにすぐに栄養失調で死にましたとかマジで笑えない。
......仕方がない、自分で歩いて行きたいところだけど、多分今は思うように歩けないだろう。
呼ぶか。
六歳児には大きすぎるクイーンサイズのベッドの真ん中で寝ていた体を起こし、左側にあるサイドテーブルに手を伸ばし、ベルを鳴らす。
金色に輝き、綺麗な装飾がされた今の俺の手の大きさと同じぐらいのそれは、チリンと綺麗な高音を奏でた。
まもなくして、俺の専属の執事である田中が両開きの扉を片方だけ静かに開け、入ってくると、少しだけほっとした面持ちでベッドのそばに近づいてくる。
「紫陽様、その格好ではお体を冷やしてしまいます。これを肩におかけください」
いつの間にか持っていたショールを手渡してきたため、ありがたく受け取る。
うちの執事は皆優秀なのだが、田中___じいやはその執事たちから群を抜いて優秀だ。
何も言わなくても、こちらの行動を先読みして準備してくれる。未来か、それとも俺の心の中でも見えるのかと思ったぐらいだ。
...いや、過去形じゃねぇな。現在進行形で思っている。
「ねぇ、じいや。僕、お腹が空いた。何かお腹に優しいものを持ってきてくれないかな」
「かしこまりました。食欲が戻ったのですね、よい傾向です」
そう言って微笑むと、じいやはすぐに部屋を出て行く。
さて、これまでの会話で薄々感じただろう。
そうです。金持ちの家の子です。執事とかメイドもいます。庭師もいます。
あと、子供っぽい言動を心掛けています。どっかの丸眼鏡かけた青いジャケットと赤い蝶ネクタイがトレードマークの死神とは違うので、ちゃんと子供を意識しています。
前世の記憶が完全に戻ったのは今だったけど、漠然とした知識と違和感は物心がつく前からあって、でも、変な子供っぽくない言動をしたらダメだと本能的に思ったため自分のことは『僕』と呼び、敬語は論外、子供っぽく外を駆け回るなんてのは精神的に疲れるから、家の中で本読んだりして、大人しい子という印象にした。
そのおかげか、多少六歳児が知らないであろう難しい考え方や難しい単語を出してしまっても「本を読んでいるおかげ」ということで誤魔化している。
......コナンとか、灰原哀があんなので通用するんだ。大丈夫だろ。
ただ、じいやと母さんは何かを見抜いているみたいで、時々子供に投げかけるべきではない難しい問題、大体政治か、経済関係をさらっというもんだから、俺もさらっと「僕、全然わかんないよ」感をだしつつ答えたりしている。
それを何も言わないから、放っておいてるけど、...俺の対応は間違ってないよな?
それにしても、相変わらず自分の部屋の広さと豪華さにビビる。
まず、クイーンサイズのベッドと両開きのドアっていうだけでおかしい。
しかもこの部屋、寝室なのだ。遊ぶための部屋や勉強をする部屋はまた別にある。
この部屋でも勉強はできるように机は置いてあるけど。
ベッドの左側にはサイドテーブル。
右側には、これまた両開きの窓がある。窓の外を見ながら昼寝とか、本が読めるように少し広めのスペースが用意されており、白と黒等のモノトーンカラーのクッションが敷き詰められている。ここでの読書が俺のお気に入りだ。昼寝も最高。
ちなみに、部屋広さだが、クイーンサイズのベッドが入っていたとしても、狭いと感じないほど広い。
ただし、今住んでる家の部屋の中では狭い方とだけ言っておこう。
金持ちってすごいのな。
金持ってるからこそ、使って、経済を回しいていかないといけないとかそういう理由もあるんだろうけど、純粋に庶民との差が激しいわ。
そして、今回の人生は社畜にはならずにすみそう。
もう就職先決まってるから。
父さんではなく、母さんが白夜グループの会長兼、本社の取締役だからだ。
俺が生まれた白夜家は、かなり長く続いている家系で、名家でもあるらしい。
本家は京都にあるのだが、首都が東都ということもあり、本社が東都にあるため、今俺は東都に住んでいる。もちろん米花町。
話それたけど、取り敢えず俺は長男ということもあり、次期会長兼、取締役の最有力候補である。
ただ、確実ではない。
母さんは仕事の事で妥協しない。ただ俺が、母さんの子供だからといって、俺に会社を任せられると思わなかった場合は普通に切り捨てられるだろう。
母さんは超優秀だ。
ちゃんと俺のことを育ててくれたし、その傍らで仕事もおろそかにしていない。
ほんとに仕事のできる人で、俺のことを愛してくれると同時に、会社のことを愛していた。
父さんとの政略結婚だって嫌な顔一つせず、それどころかちゃんと愛していたし、父さんが不倫をしていても激情せずに話し合おうとしていた。
......すっごい怒ってたけど。
笑ってたけど俺には分かる。
あの目は笑ってない。
ちなみに、父さんは不倫相手、所謂愛人とは別れずに、堂々と交際をしている。
その愛人の人は、元々父さんと結婚する予定だった人らしく、その話を聞いて母さんも離婚を前提に今、話を進めている。
ちなみに、こっちの弁護士は妃英理さんだ。
なんでも、ひょんなことで知り合ったらしく、母さんと英理さんの仲はすごくいい。
裁判を進めるにあたって、よく家に招いては話し合いをしているのだが、最後の方には英理さんの旦那さんの愚痴と娘さんが可愛いっていう話、母さんの父さんへの愚痴と、今お腹の中にいる子供の話をしている。
不倫が発覚したのはつい最近で、発覚する前にはもうお腹に子を宿していた。
俺は一人っ子だったため、素直に嬉しかったのだが、不倫のことをその後に知ってしまったため、元々好きではなかった父の好感度がどん底になり、正直死ねばいいのにと思ったほどだ。
父さんの実家は資産家であり、そのこともあってか政略結婚の話が進み、結婚したらしいのだが、母さんの手腕により、別に父の実家の恩恵を受ける意味がなくなってしまったため、離婚しようと決意したのだ。
でも、相手側がのらりくらりと話し合いの時間をかわし続けたせいで、まったく話が進まず、母さんの仕事が一段落したら裁判所に訴えようということで、英理さんとの話はまとまっていた。
父さんが母さんと別れたくないのは、父さんが働いていなく、母さんのお金で生活しているからだ。所謂ニート生活。
母さんと離婚すると、きっと散財してきた父さんは生活基準を下げることができず、重い腰を上げて働かなければいけなくなるからだ。
理由がゲスすぎて笑える。
こんなのと政略結婚させられた母さんが可哀想。
美人で、仕事ができて、優しい母さんならもっといい人と結婚して、幸せになれたはずなのに。
ついでに、俺も生まれなかったのに。
だからこそ、俺はちゃんと言う。
母さんが好きだと。父さんなんか知らない、母さんが一番好きだと。
父さんから貰えなかった愛を補うように、ちゃんと声に出して好きだという。
家族なら、恋人なら、「好きだ」なんて言わなくてもちゃんと通じる?
そんな都合のいいことがあるわけないだろ。
ちゃんと声に出して言わないと分かるわけがない。
日本人は言わなくても分かり合えるなんて夢見てるけど、それは美徳なんかじゃない。
直すべき部分だ。
少なくとも俺は、自分の気持ちは素直に伝える。
母さんには、だけど。
親しい人以外はどうでもいい。
いろいろなことを考えているうちに、じいやがお粥を持ってきてくれた。
小さな土鍋に熱々のおかゆが入れられ、取り分けるための小さなお椀と蓮華が乗せられたトレーをサイドテーブルに置くと、じいやは体温計を使って俺の体温を測る。
37度6分、うん微妙に熱が残ってる。俺の平熱は36度丁度だからほんとに微妙。
まだ大事をとって休みましょうとじいやが言うから、首を縦に振って同意する。
お椀にお粥をいれ、ゆっくりと食べていく。
熱いんだよ、猫舌なんだよ。
そんでもって、じいやがにこにこしながらこっちをずっと見てくるから、なんか理由はないけど緊張する。
食事中に見つめられるのってなんか緊張しない?
まさに今がそれ。
......それにしても久しぶりだな、ちゃんとした食事らしい食事をしたの。
あぁ、いや、この体では普通にご飯は食べさせてもらえるけど、社畜時代は食事なんて必要最低限の栄養とカロリーさえあればいいと思ってたからさ、大体カ〇リーメイトとミネラルやらビタミンやらが配合されているサプリメント、眠気覚ましのエナジードリンクだけだったんだよね。今思えば異常だったと思う。でもそれが普通だったから。
周りの先輩、数人だけ残った同期、他部署の人さえも同じような食事だった。
人によっては、カップラーメンとかサラダを食べたりしてたけど、カ〇リーメイト勢が多かった気がする。
マジで、カ〇リーメイトには長い間お世話になりました。当分食べません。
じいやの視線に耐えつつお粥を食べ終わった俺は、食器の後始末を頼み布団の中に潜り込む。
まだ疲れが残っていたのと、お腹が満たされたことによりすぐに眠気がやってき、それに抗うことなく深い眠りに落ちる。
そして、俺が目を覚ましたのは翌日の朝だった。
作者は決して社畜ではありません。