社畜の俺がコナンの世界でも社畜になってしまった件について   作:願わくば神様転生でチートをかましたい

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 ...不定期更新タグをつけているはずなのに、全然不定期更新じゃなくてこのタグを取るべきなのかを割とガチで考えています。
 不定期じゃないのはいいことなんだけどさ。


第三話 可愛いは正義だ。なんか文句ある?

 じいや特製のうどんを食べ終わった俺は、先生から宿題を出されたと言ってダイニングを後にし、自分の勉強部屋に行く。

 

 宿題を出されたのは本当なので、さっさと終わらせるべくノートと教科書を出して問題を終わらせる。

 

 ......あぁ、簡単すぎて自分が急に天才なのかと錯覚してしまいそうだ。

 天才なんかじゃなくて、前世の記憶があるっていうだけなんだけどね。

 そもそも一年生で出される問題が難しいとか今の俺が言ってたら問題なんだけどな。

 

 ともかく宿題を終わらせるために手を動かす。

 たとえ問題が一瞬で解けるとしても、書かなかったら意味がない。

 

 かれこれ五分。たったの五分ですべての宿題を終わらせた俺は、やることがなくなり暇を持て余す。

 

 そうだ。結局休み時間のうちに読めなかった本でも読むか。

 英理さんが来るのが三時だと言っていたから、それまで本を読んで、三時丁度になったら下に降りようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、二時半になった。

 

 母さんが進めてくれた本は、六歳児にしては内容が難しいとは思ったものの、中身が三十代なため深く考えさせられる内容かつ本の内容に引き込まれた。

 何より、情景描写と主人公の心の描写が綺麗なのだ。

 何て言えば伝わるのだろうか?目の前に思い浮かべられるといえば分かりやすいのだろうか。

 とにかく面白かった。

 

 流石は母さん。

 母さんのオススメって、ジャンルを問わずすべてが当たりなんだよなぁ。

 母さんが言うなら間違いないって思えるし、そもそも間違いなんてないから安心して読める。

 

 今度また借りよう。

 

 英理さんが来るにはまだ時間があるけど、先に下に降りて、本の感想と、また貸してほしいって言うために本を持って一階のリビングに向かう。

 

 うちのリビングはもちろん家族団らん用の場所でもあるんだけど、親しい人を招く場所でもある。

 仕事関係の応接室とは別で、それこそ英理さんとか母さんの友人が時々遊びに来た時にリビングを使うため、リビングの内装はシンプルながらもオシャレになっている。

 

 部屋の中心には座り心地の良いソファが円を描くように置かれ、その円の中心にはガラス張りのテーブルが置かれている。

 基本的にどの部屋も白と黒のモノトーン調なのだが、暗くなりすぎることの無いよう白を多めに配置してある。

 部屋の隅には観葉植物とか、窓の淵にも花を飾り、より雰囲気を柔らかくしているところを見るに、母さんとじいやのセンスの良さが分かるだろう。

 

 ちなみに、こういった観葉植物は家のあちこちにあるのだが、いつの間にか季節のものになっていたり、枯れているところを見たことがないことを踏まえると、うちの使用人とメイドたちの優秀さも分かるよね。

 使用人たちを引き抜いたり、雇ったのは全て母さん直々だ。

 皆色々訳ありだったりもするのだが、いい人たちに変わりはないし、母さんが信用しているから俺も信用している。

 少なくとも腕は超一流だ。間違いなく。

 

 「お母さん、はい。この本も面白かった。また貸してほしいな」

 

 二人掛けのソファに座って静かに本を読む母さんに自分の持っていた本を手渡しながらそう言う。

 そして、母さんの隣に腰を掛ける。

 

 「この本の面白さが分かるなんて、紫陽ったら本当に子供なの?うん、また貸してあげるわね。これを面白いと感じるのなら、工藤優作の最新巻なんてのもいいんじゃないかしら。少し遠回しな描写が多いんだけど、事件のトリックが面白いのよね。そのトリック見抜けなかったもの」

 

 軽い口調でそう言いながら、本の内容を思い浮かべてるのか目を閉じて物思いにふけっている。

 そして、急に立ち上がって部屋を出ていったと思ったら数分で本を片手に戻ってきた。

 

 「はい、これがさっき言ってた最新巻。これが読めたら優作君(・・・)の他の書籍も読んでみるといいわ」

 

 そう言いながら手に持っていた一冊の分厚い本を受け取り、感謝を述べる。

 

 やった。工藤優作だって。

 コナンの世界に来たんなら一回は読んでみたかったんだよな~。

 だって新一のお父さんの本だぜ?しかも世界的に有名ときた。

 読まないなんてそんなもったいないことするはずないだろ。

 

 さっそく本を読み始めたいところだが、まあ待て待て。

 ひとまずこの本の表紙とかも見ていこう。

 俺は思い思いに表紙をめっくたり、ひっくり返したり、カバーを外したりして工藤優作の本を眺めていった。

 

 この表紙の凝ってる感じ。

 すっげぇなぁ。この模様とか、数字、文字にも意味あんのかな?

 あったらあったでこれ考えてんの優作さんだろ?優作さんがもの凄い人になってしまうんだが。

 事実、もうヤバい人だし。

 

 ......ん?これなんだ?

 裏表紙を開いたところににサインらしきものが...。

 

 『桔梗さんへ 工藤優作』......。

 

 ......なるほど。これサイン本でしたか。

 

 もう驚き過ぎてまわりまわって冷静になってしまっている自分がいる。

 これは重症だ。

 

 それにさっきは気づいてないふりしてたけど、軽く現実逃避してたけどさ。

 母さん「優作君」って言ってなかったけ?

 

 え、どういうことだってばよ。

 

 と、取り敢えず母さんに聞こう。

 多分これ考えだしたら沼にハマる奴だ。

 ハマっちゃいけない沼にハマって自問自答繰り返してフリーズするやつだ。間違いない。

 

 「...お、お母さん?これ、サインだよね。しかも名前付き。...あとさ、さっきは何も言わなかったけど『優作君』って言わなかった?」

 「ん?...あぁ、そうよ。それはサイン本で、彼のことは優作君って呼んでるけど...それがどうしたの?」

 

 「それがどうしたの」じゃないよ、母さん。

 首傾げないの、無駄にかわいいんだよ。きょとんとした顔も可愛らしいことこの上ないんですけどね、そうじゃないの。

 そういう事先に言ってよ。心の準備ってものがあんじゃん。

 サイン本て、しかも工藤優作のサインだよ?しかも名前付き。

 人によっちゃ家宝にもなるもの軽く「はい」って渡すのは、ダメだよ。

 

 「え、そういう物なの?」じゃないの。そういう物なの。

 多分工藤優作ファンが知ったら卒倒するね。

 へぇ~って母さん...。可愛すぎかよコンチクショウ。

 

 サイン本だということが発覚したため、元々丁寧に扱っていた今俺の手に持ってる本をより慎重になりながらテーブルに置く。

 

 いやぁ、ちょっと無理。

 少なくとも今は無理。後で読まさしていただきます。

 心の準備ができるまではちょっと無理だ。

 

 んで母さん。ちょっと確認していい?

 工藤優作とはどういう関係なんでしょうか?

 返答によっては俺、キャパオーバーになってフリーズするんだけど。

 

 「...ん~、そうね。前までは普通にただのファンだったんだけどね、有希ちゃんが結婚して、それで知り合ったのよ。ん?有希ちゃんって誰?聞いて驚かないでね。大女優の藤峰有希子よ。有希ちゃんとは親友でね、実は英理ちゃんを紹介してくれたのは有希ちゃんなの。有希ちゃん様様よね」

 

 そう楽しそうに母さんは笑う一方で俺の心の中は......もう察してくれ。

 

 話の途中でオーバーしたけど、その後にもっとヤバいこと聞いたからかな。

 意外にもすぐに正気に戻ったよ。

 

 ...ああ、戻ってしまったんだよ。

 

 えぇ、これモブでいられるか?

 ...母さんが主要人物の両親と親しいっていうだけで、レギュラーの面々とは面識はない。

 毛利探偵、今は確かまだ警察官だろうけど、彼とはまぁ英理さん経由で顔は知っていたとしても、そこまで仲が良くなるなんてことはないだろう。

 ......多分だけど、優作さんと普通に仲がいいのは元々母さんが優作さんのファンだからであって、きっと全く共通点のない知らない人なら親しくなっていないはず。

 

 ......ああでも今、主要キャラ達、小学生組と高校生組はそもそも生まれてないか幼児だ。

 親しくなりようはないし、かといってこれから親しくならないなんてこともないわけで。

 

 しかも英理さんはともかく有希子さんは新一のことを紹介してきそう。

 

 「____有希ちゃんのところにもね、英理ちゃんとこの蘭ちゃんと同い年の子供がいてね、新一君って言うんだけど、すっごく可愛かったわぁ。幼稚園ぐらいの年齢になったら日本に帰ってくるって言ってたから、その時は蘭ちゃんと新一君と紫陽と...このお腹の中にいる子でパーティーを開くのもいいかもしれないわね」

 

 ...あ.......。時すでに遅し。

 既に紹介された後でした。はい、おわたー。

 

 ...いや、まだだ。まだ回避の余地はある。

 ......はず。

 

 なんとしても回避をしないと、年は離れてるとはいえ事件に巻き込まれること間違いなしなんだが。

 そうなると俺のSAN値が...。

 

 なんとしても、俺の心の状態と今後の平和な生活のためにその危険分子パーティーは絶対に回避する。

 願わくば俺の弟か妹も一緒に回避させてやりたい。

 俺の弟or妹が人様の死体見ても何も感じることがない人間にはしたくないんだよ。

 それは不憫すぎるし俺はそんな弟or妹を見たくない。そして、弟or妹がもし新一たちと仲良くなったら芋づる形式で俺にまで来る可能性がある。

 

 それだけはほんとにダメ。

 

 モブどころじゃねぇよ。

 さよなら、俺の平和な日々。やあ、死体と事件の毎日。

 ってなっちゃうよ。何が悲しくて死体とランデブーだよ。クソが。

 

 おおっと、いけないね。

 地が出て口が悪くなってしまっている。

 悪い癖だ。

 これは直しようがないけど。

 口に出してないだけ許してほしい。

 

 心を落ち着かせるために工藤優作の最新巻を手に取り読み始める。

 

 ......そもそも俺がこんなに頭を抱えたくなるワードを聞いた元凶はこの本なんじゃないのか?

 ...すべてはこれが悪い......?

 いや、それよりもモブ人生閉幕の危機に気づけたのだから喜び、感謝するべきだったのか?

 

 ...うーむ。これは難しい問題だ。

 

 ...............うん、よし。何も考えるな。本の内容にだけ集中しろ。

 考えるだけ無駄だ。

 

 変な悟りを開いた俺は、本の世界に入り込み黙々と本を読み進める。

 

 

 

 

 

 俺が、この本の中盤に差し掛かったころにピンポーンと呼び鈴が鳴り、それでやっと意識が浮上する。

 

 ...この本すげぇな.....。

 読書好きならきっとわかると思うのだが、本の中に入り込むことってないか?

 猛者ならきっと、どんな本でも入り込むことができるのだろう。ちなみに俺は、設定や描写が細かければ入り込むことはできる。残念ながら猛者には今のところなれてない。

 

 ...話を戻そう。

 なら逆に引きずり込まれたことはあるか?

 俺はない。正確に言うならなかった、だな。この本を読むまでは。

 

 工藤優作の本が有名になる理由が分かった気がする。

 もちろん登場人物の細かい設定、移ろいで行く気持ちや情景の細かい描写、奇怪で斬新なトリックの数々。

 その全てに目を見開き、柄にもなくワクワクし、気が付けば周りの時間が分からなくなるくらい引きずり込まれ、ページをめくる手が止まらない。

 

 ...そもそも、本を読むという行為は案外疲れるものなのだ。

 細かい字の羅列を目で追い、その意味を理解し、その光景を想像し、この作者が伝えたいことを、意味を考え理解する。

 これらのことを一瞬で行い、繰り返すことで本を読むということをしているのだと俺は考えている。

 

 だから、本が嫌いだという子はきっと、その場でじっとして目で文字を追い、その場を想像するのが苦手だから嫌いだと言っているのだと思う。

 きっと読まず嫌いっていう子もいるだろう。

 今でこそ本は面白いと思うが、こんな俺も昔は本が嫌いだった。

 でも、自分にとっての運命の一作が見つかったおかげで一気に本が好きになることができた。

 

 ......最期はあんまり読めなかったし、自分が本が好きだったということも忘れていたけど、この姿になってからやっぱり面白いって思えた。

 

 本は読めと言われて嫌々読むものではないと思っているし、逆に強制させると余計に読む気を失ってしまって本嫌いが悪化する。

 かといって、誰も何も言わなかったらその子は永遠に本は読まないだろう。

 だから俺は本は面白いものだと言い続ける。

 

 「これ面白かったんだ」

 「これとか読んでみたら?字も大きいし一話完結の短編集だから読みやすいと思うよ。」

 

 そう言い続けることで一人でも本好きが増えたらそれでいいし、本好きとはいかなくても本に対する苦手意識が少しでもなくなったらきっといつかは読んでくれる。そう思うから。

 

 マンガも、アニメも面白い。

 俺もそう思うし、大好きだ。

 アイドルだって追いかけるのは楽しいだろうし、好きなものをとことこんやり続けるのもいいんだ。

 

 でも、何回か面白そうと思う本を選んで手にとってはくれないかな。

 もしかしたらそれが君にとっての思い出の品になるだろう。

 数多の本を読み続けたけど、やっぱりあの本は忘れられないっていう一作がきっと見つかるはず。

 

 ......なんてね。久しぶりに素晴らしい作品を知れた嬉しさからか変にハイになってる。

 こんな考え、伝わる人なんていないのにね。

 そもそも声に出してないし、聞く人もいないしな。

 

 変な思考になったなぁと一人で声をあげずに笑っていると、

 

 「面白かった?その反応を見るに、本の中に引きずり込まれたんでしょ。私も優作君の作品を初めて読んだとき引きずり込まれたなぁ。やっぱり親子で似るんだね」

 

 と、母さんはそう言うとニヤリと笑う。

 

 やっぱり母さんには何でもお見通しらしい。

 笑いながら首を縦に振る。

 

 さて、あのチャイムが鳴ってから数分が経った。

 もうそろそろ玄関に着くころだろうか?

 

 母さんもそう思ったのか立ち上がり玄関に向かったため、俺も後に続く。

 

 玄関の大きな両開きのドアの正面で母さんが止まったから、俺もそれに倣い、母さんの隣に移動して止まる。

 

 玄関に移動して一分も経たないうちに執事の一人がを開け、客人を出迎える。

 

 本日の客人は妃恵理さん。

 

 ......だけだと思うじゃん?俺もそう思った。

 だって、母さん英理さんが来るとしか言ってないもの。

 

 そう。英理さんが来るって言ったんだ。何も英理さんだけとは言ってない。

 

 つまりだな、簡単に説明すると、何故か娘さんの蘭ちゃんもやってきたんですわ。

 母さんは驚いてなかった。つまり母さんは蘭ちゃんが来ることを知ってたっていうわけだ。

 

 ......なぁ、俺...ちゃんとモブだよな............?

 

 ...お、お、落ち着け。大丈夫だ。.........確証は皆無だけどな。

 

 彼女は今は二歳だ。

 そして、高校生の彼女は新一とずっと一緒に育って来たのにも関わらず、コナンの正体を見破っていないつまり、二歳の頃の記憶など覚えているわけがない。

 

 よし、勝った。俺は勝った。この世界に勝った。

 

 モブだ。俺はモブだ。よっしゃぁ!

 

 よし、そうなれば、このかわゆい天使を存分に愛でようじゃないか。

 

 そう心に決めたところで、俺達はリビングに移動することになる。

 

 ......なんでだろうな。俺、別にそこまで蘭ちゃんのことを凝視してたつもりはないんだけど、今すっげぇ見られてる。

 蘭ちゃんに見られてる。

 これがキモいロリおっさんなら、「蘭たんがボクのことをすっごい見てくれてる、ハスハス」ってなるんだろうけど。

 残念、確かに俺は子供は好きだが、ロリコンでもショタコンでもございません。

 そういう卑猥な目で見るわけねぇだろ、子供っていうのはそういう奴らから守るもんなんだよ。

 

 それはさておき、ほんとに見られてる。刺さる視線が痛いほど。

 こんなに露骨に見ることってある?ないでしょ。

 俺何かしたっけ?該当するようなことが一つも見当たらなくて困るわ。

 シンプルに反応に困る。こういう場合どうすればいいの。誰か教えてくれ。

 青い狸でも未来のロボットじゃなくてもいいから、変な高望みはしないから、とにかく誰か教えてくれ。頼む。

 

 刺さる視線に耐え、尚且つ気づいていないふりをしながらリビングのソファに腰かける。

 もちろん二人掛けのソファで、母さんの隣だ。

 

 あん?マザコン?

 はっ、たわけ。自分の将来の方が大事じゃボケ。

 死んでもヒロインとその母親の隣に座るか。

 

 あ、もちろん英理さんと蘭ちゃんに挨拶して、先にあちらが座ってからだけどね。

 客より前に席に座ったり、お茶を飲んだりするのは基本的に相手にとって失礼だ。

 幸い、俺は年齢的に間違ったとしても許されるだろうが、許されるのはそのことを知らなかった子供だけ。

 つまり、俺みたいに知ってるのにそれを実行しなかったのは相手には分からないだろうけど十分失礼なわけで。

 

 しかも、俺は母さんのを立てなければならない。

 英理さんが母さんと仲が良くて寛容であったとしても、母さんの評価に傷がつくかもしれない。

 逆に考えれば、俺が猫をかぶっていさえすれば教育の行き届いいている優秀な息子という認識になり、すなわち、母さんの教育が行き届いているともとらえられる。

 

 念のために言っておくが、これは母さんに仕込まれたわけではなく、勝手に自分っで考えてやっているから、母さんがゲスい奴とかそういう事でもない。

 

 素晴らしい。完璧やで。

 

 内心ではふんぞり返っているのだが、そんなことをおくびにも出さずにこにこと営業スマイルを張り付ける。

 

 前世では営業職ではなかったけど、社畜たるものポーカーフェイスぐらい心得ているものだ。

 身に着けていないのに俺は社畜だとかほざいてる奴。それは社畜じゃない。

 そもそも、生きている時に自分のことを社畜ですとか言ってる時点でもうアウト。

 

 本物の社畜はだな、生きている時には自分のことを社畜とは思わない。

 俺みたいな例外でもない限りそんなこと思わないはずだ。

 これ、マジで。

 

 全員が席について、使用人たちがお菓子やら紅茶やら準備を済ませると同時に女子会が開始する。

 

 英理さんは名目上仕事でここに来てるから、仕事の話をしようというそぶりは見せたが、二歳児と六歳児が聞くような内容じゃないため遠慮してるみたいだし、母さんは知ってか知らずか、裁判には全く関係のない話をしているため、本当にただのガールズトーク。

 俺の場違い感が半端ない。

 

 別に裁判の話を聞いても俺はどうとも思わないけど、英理さんにはやっぱり気になるのだろう。

 英理さんがちらちらと俺と蘭ちゃんを交互に見ている。

 ちなみに俺は素知らぬ顔でお代わりの紅茶を啜り、蘭ちゃんは綺麗なお菓子に目を輝かせながらゆっくりもぐもぐとクッキーをほうばっている。その様子は小動物のリスさながらで、将来は電柱を軽く破壊できる怪力少女になるのは知っているのだが可愛いことに変わりはない。

 ロリコンではないのだが、かわいいは正義だと思う。

 

 さて、そろそろ真面目な英理さんが可哀想なので蘭ちゃん連れて別の部屋で遊ぶとしましょうか。

 

 笑顔を顔に張り付けながら、蘭ちゃんの手を引いて隣の部屋へ移動する。

 通りすがりに「僕と蘭ちゃんは別室で待っていますね」と英理さんに耳打ちするのも忘れずに。

 母さんには何も言わなかったけど、一口だけ一口紅茶を啜った後には仕事の顔になっていたから大丈夫だろう。

 

 あぁ、毛利蘭の手を触っている。触れてしまった。

 どうせ記憶には残らないだろうと割り切ってはいるけど、なんか絶対にやってはいけない失態をしている気になってきた。

 ......胃が痛い。ストレスかな?

 

 当の蘭ちゃんは、なんでお母さんから引き離されて俺と一緒の部屋にいるのかが分からないらしく、少し不安げな顔をしながら辺りを見渡している。

 泣かないでいてくれるのはありがたい。正直、今泣かれたら俺のメンタルがやられる。

 ただでさえ精神状態がよろしくないのに。

 

 本当の話をしても今の彼女には意味が理解できないだろうから、すごく簡単にこの部屋に連れてきた説明をし、俺は怖くないよとアピールすると、蘭ちゃんの不安もなくなったのかこっちを見て笑ってくれた。

 

 うん、天使だね。ここには天使がいるようだ。

 

 メイドに頼んでお菓子を持ってきてもらったり、蘭ちゃんと遊べるように遊び道具も一式用意してもらう。

 俺は、目の前にいる天使と内心ではでれでれになりながら遊ぶのであった。

 

 尊いわぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「......あの子は...、本当に六歳なの?」

 

 妃恵理は、ついさっきこの部屋から出ていった一人の男の子を思い浮かべながら、目の前に座り、優雅な動作で紅茶を飲む百夜桔梗に話しかける。

 

 英理は信じられなかった。

 

 確かに、内心では仕事できたという名目上、焦っていたのだが、それを小さな子供に悟られるようなわざとらしい動きはしていないつもりだ。

 

 ...だというのにあの子は、紫陽は、こちらの意思に気がついて蘭を連れて行った上、気遣うように笑顔まで見せたのだ。

 

 その行為は、僅か六歳の子供には到底できない所業だ。

 だからこそ英理は信じられなかった。

 

 「......えぇ。あの子は確かに六歳だし、最近小学校に入学したばかりよ」

 

 そう静かに答えるのは紫陽の母であり、優秀な経営者である百夜桔梗。

 

 桔梗がそういうのだから間違いない。

 それに、英理は紫陽の子供らしからぬ行動は百夜家に訪問する度に見ていたため、本当に僅かではあるが耐性はついている。

 

 最初あった時、彼は子供らしい無邪気な笑みではなく、年齢にそぐわない仮面のような完璧な微笑み、所謂営業スマイルを張り付け、スラスラと子供が知らないような言い回しや単語を交えながらの自己紹介をした。

 その次にあった時には、彼の手に猟奇殺人がテーマの小説を持っていたし、また別に日にあった時には、使用人と英語で会話していた。

 

 

 『あの子はただの子供ではない』

 

 

 最初はそう、ただ直感的に感じただけだったが、本当に自分の直感があっていてどう反応すればいいかわからなくなる。

 

 子供は好きだ。愛らしいし、守るべき存在だとも思っているし、実際にそうしている。

 

 でも、彼のことは子供に見えない。

 六歳であることは分かっているのだが、別の子たちと一緒に同じ扱いをすることができない。

 彼からは、今の私と同じか、それ以上の人生経験があるように感じられて、少しだけぞっとする。

 

 ......あの子はいったい何者なんだろう。

 

 そう考えては未だに答えが出ていない。そして、これからも出ることはないのだろう。

 

 「......あの子は、少しだけ普通ではないわ...もちろんいい意味で」

 

 そうぽつりと漏らす桔梗は少し悲しそうに見えた。

 

 「......あの子なら、私の家業を継げられる。...私の愛しい子には継いで欲しくなかったなぁ...」

 

 なんで継いで欲しくないのかは英理には分からなかった。

 しかし、そう語る桔梗の顔が酷く苦しげに映り、とても聞ける雰囲気ではなかったため、一旦この話はお開きにし、本題に入る。

 

 結局また彼のことは分からずじまいだったけど、これで良かったのかもしれない。

 そうもやもやする心を英理は無理やり納得させ、仕事のために切り替えた。

 




 紫陽が使用人と英語でしゃべっていたのは、その人が新人で、英語でしかしゃべれないから。紫陽は日常英語ぐらいならしゃべれます。

 三十分ほどで分厚い本の半分ほどまで読み進められたのは、社畜だったおかげで本を読む速度が速くなっているのと、あまりにも面白かったからです。

 一応の弁解です。
 
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