社畜の俺がコナンの世界でも社畜になってしまった件について   作:願わくば神様転生でチートをかましたい

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 作者にしては珍しい普通のタイトル。
 こんな普通のタイトルしていいのかかなり悩んだ。

 もしかしたら変えるかもしれないけど、気にしないでくれ。


第五話 不穏な気配

 さて!なんか泣き過ぎて若干目が腫れてるんだけど、気にせずにいきましょー!

 

 もう気にしたもん負け。

 すれ違ったメイドさんたちが妙ににこにこしてるけど気にしなぁ~い。

 逆に満面の笑みであいさつしてやろう。

 

 あ、なんで角の向こうで声上げて笑ってんのさ。

 ひどいなぁ。

 なんて考えながらダイニングに入ると、もう既に母さんは朝食を食べ終わったのか、母さんはいなかった。

 

 まぁ、しょうがないっちゃあしょうがない。

 昨日泣き疲れたのと、今日が休みだというっこともあって寝坊しちゃったし、この時間なら母さんはリビングでくつろいでいるか、自分の書斎で仕事をしているのだろう。

 リビングには人のいる気配がしなかったから書斎かな?

 相変わらず仕事熱心なこって。この前も「急ぎの用事ができた」とか言って一日帰ってこなかったし。

 

 思えば、夜に帰ってこない時とか、帰ってきても深夜の三時を回っていたりする日が度々あったんだよね。

 妊娠してるのが発覚してからそういう日の回数は減ってたけど、一ヶ月に五日ぐらいはあった気がする。

 妊娠してからは流石に、一日帰ってこない日とか三時を回ったりすることはなくなったけど、やっぱり帰りが遅い日はあった。

 

 我が家には我が家のルールっていうのがって、その一つに「可能な限り食事は共にとる」っていうのがあるんだけど、やっぱり遅くなる日は一人でご飯を食べることになる。

 

 意外と、一人で食事って寂しいんだよね。この体になってからは特に思うけど。

 この家の部屋が広くて、一人でいると不安になるっていうのもあるんだけど、やっぱり家族と一緒にいることに慣れてしまったせいか、『一人』の耐性がついていたはずなのに薄れてる気がする。

 ...いいことだとは思うんだけど。

 

 そんなことを考えながらも、機械的に腕を動かしご飯を口に運ぶ。

 

 ん、このご飯美味しい。

 いつものことだけどね。

 

 食べ終えた俺は使用人に皿を渡し、一回寝室に戻り着替える。

 いつの間にか着替えが置かれてるんだよなぁ。

 ま、十中八九俺が朝食を食べている時にじいやが置いてるんだろうけど。

 

 緑のチェックのシャツに、紺のベスト、黒のハーフパンツ、同じく黒で無地の長い靴下を履いて、顔を洗いに洗面所に向かう。

 あとは勉強部屋に行って、宿題をするだけだ。

 

 昨日は珍しく、その日のうちに宿題を終わらせなかったため、今日に終わらせることになる。

 

 終わらせたら藤とあーそぼっ!

 あのもっちもちでさらさらの肌と柔らかい髪を堪能しながら存分に愛でようではないか。

 なんだろうね。弟ってこんなに可愛いものなのか?

 精神面的におじさんだからかわいく見えるのか。個人的には謎である。

 

 ほら、兄弟で無茶苦茶仲悪いとことか、逆にブラコンとかシスコンって言われるほど仲のいいとこがあるじゃん。

 なんでそんなに差ができるんだろうね。

 きっと弟や妹が可愛くないって思う兄や姉なんていないだろうし、逆もまたしかりだと思う。

 

 あ、わかった。

 自分にどれだけ素直になれるかどうかじゃない?

 少しだけ恥ずかしいと思って素直に自分の気持ちを言えないんだと思う。

 そうだ。きっとそうに違いない!

 

 ...っていっても、兄弟同士で憎みあったりしてるところがあるんだから、俺のこの理論は根本的にずれてるんだろうけどな。

 もしそうなら、兄弟間で殺しあうなんてことは絶対起きないはずだ。

 でも、歴史ではそうなってない。

 

 ほんとにこの差って何だろうね。

 不思議で不思議でしょうがない。

 少なくとも俺は藤が好きです。

 この事実はいついかなることが起きようとも、もし将来的に藤に嫌われようとも変わりません!ここに宣言しとく。

 

 だぁってあんなに可愛いんだよ?

 逆に嫌いになることができないっつーの。

 あの天使が嫌いとかほざくような奴は見る目がないのか、藤の良さが理解できない可哀そうな頭をしているんだろうね。

 その人たちに心から同情するよ。もちろん煽ってるっていう意味で。

 実際にそういう人に会ったら、俺ができる最大限のイラつく顔をしてやろう。この顔は前の友達から好評だったんだよな。もちろん、喧嘩勃発必至だったっていう意味でだけど。

 

 

 終わった~。

 ついでに連休中の宿題も終わった~。

 

 よし、藤のとこに行こ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼、うちの(天使)が可愛すぎてツラい。

 

 表面上、真顔は自他ともに怖いとの認識なので笑顔は浮かべているのだが、あまりにもうちの(天使)が可愛すぎて、来ていけない領域に来てしまった気がする。

 

 違うんだ。一応弁解(?)は聞いてくれ。

 

 まずだな、母さんとは違う癒しなんだよな。

 母さんは、俺のことなんて全てお見通しで、俺のことを全部知ったうえで包み込んでくれる、そんな感じ。

 母さんは、百夜桔梗という女性は、自分の母親なんだと感じさせられる暖かさを持っている。

 

 ほら、自分が友達と喧嘩した時とか、勉強が分からなくてイライラしてたり、つらい出来ことがあって気分が落ち込んでいる時に、妙にこっちの気持ちとか考えてることが分かるかのように接してきて、救われたことってない?

 思春期にそれをやられると少しだけ頭に来るけど、まじで落ち込んでるときに何も言わずにお茶入れてくれたりさ、ぎゅって抱きしめられるとその温かさにほっとするだろ?

 

 それと同じなんだ。

 

 ためしに抱き着いてみ?

 年齢に寄るけどな、結構落ち着くぜ。

 ただし、成人済みの男性は控えること。傍から見てすごくその行動は気持ち悪いので。

 

 俺?俺はいいんだよ。

 だって体は小さいんだもん。

 精神年齢がおっさんだったとしても、体が子供だったら大丈夫なんだよ。

 コナン見てみろ。あいつどさくさに紛れて、惚れてる女と一緒にお風呂に入ってるからな?

 どさくさというか、半ば強制的なんだけど、本気で拒否ってたらそんな無理やり連れていかれないって...って言おうとしたけど、相手があの蘭ちゃんだから無理やり連れていかれそうだな。うん。

 

 んで、藤の場合は、その場にいるだけで可愛い。

 その空間にいるだけで癒しになるという超癒し系の弟なのだ。

 藤が笑っているだけで俺は癒されて嬉しくなるし、泣いてても可愛い。

 

 うーん、あんまりちゃんと弁解(?)になってない気がする。

 

 ま、いっか。

 

 藤が俺の顔見て笑ってくれているというこの状況を堪能していよう。

 だれもこの至福の時間を邪魔してくれるな。

 いいか、誰もだ。これは振りでも何でもない。

 

 それから昼食をとる時間までずっと藤と遊んでいた。

 

 藤が眠そうにしていたら、子守唄を歌い、寝ている時は、藤の傍で本を読み、起きている時は渾身の顔芸をする。

 もちろん顔芸だけではないけど。

 最近はずっとそうしている。

 だぁって、藤が可愛いんだもん。しょうがないよね。

 

 メイドさんにおしめの替え方も教えてもらったし、子守唄のバリエーションも増えたし、音程完璧にしたし、なんなら鍵盤ハーモニカの練習がてら弾いてるし、藤専用の子供部屋に備え付けられているピアノ弾きながら弾き語りもしてるし、ヴァイオリンもなんとなく興味本位で習って、藤が興味を示したので今必至で習得中だし、藤に関することなら何でもする。

 この間は、うちのお抱え料理人にお願いして、離乳食の作り方も教えてもらったし、裁縫と縫物が得意なメイドさんに手伝ってもらいながら、藤の靴下も作った。

 

 藤への執着っぷりがすさまじいから、若干引き気味だった使用人たちも、俺が無言+真顔で藤の笑顔の写真と本物を見せたら理解してくれたみたい。

 

 仲の悪い兄弟よりかは、すこぶる仲の良い兄弟の方がいいじゃん?

 まぁ、この状況はどっからどう見たって俺が藤にメロメロなだけなんだけどな。

 

 ブラコンで結構。

 むしろ、ブラコンと呼ばれる方が藤を愛しているという実感が持てて嬉しいです。

 

 ......分かってるよ、今の自分の状態が異常なんだって言うのはさ。

 でもいいじゃん。

 きっと藤が思春期とか反抗期に入ったら否が応でも嫌われる運命なんだし、赤ちゃんで、まだハイハイもできない状態なんて今しか見れないんだから。

 前世の記憶があるから本当に思うけど、人はいつ死ぬかわかんないんだから。

 

 今のうちに、自分のしたい事、やりたいことを忠実にした方がいいんだって。

 もちろん、犯罪はダメだけどね。

 法の許す範囲でやればいいのさ。周りの人たちに迷惑さえかけなかったらいいんだよ。

 

 自分自身に正直になれない人の末路は、俺が痛いほど知ってるから。

 

 だーかーら!藤を愛でるんだよ。

 

 俺の今したいことランキング一位は、『藤の成長を見守る』なんだから。

 

 ベビーベッドで眠っている藤の傍で俺は本を読みながら、藤の寝顔を見守る。

 気持ちよさそうに寝息を立てる様子を見てほわほわしながら、頬を指で優しくなでる。

 

 ......やっぱり、藤は可愛いよ。本当に。

 俺の自慢の弟だ。

 

 じいやに呼ばれるまで俺は、藤の寝顔を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じいやに「お昼御飯ですよ」と呼ばれた俺は、藤と離れるのを惜しみつつ一階のダイニングに向かう。

 

 嗚呼、藤。

 あとで必ずお兄ちゃんが迎えに行くからな、くっ。

 

 などと心の中で茶番をしつつ、自分の席に着く。

 今日はトマトソースのパスタらしい。

 目の前に置かれたパスタをフォークとスプーンを使って綺麗に小さく巻き取り、口に運ぶ。

 

 こんなに上品な食べ方をしているのは、こういったしぐさを習慣づけるためだ。

 本音を言えば、フォークだけで適当な大きさに巻き取り、大きな口を開けてパクっと食べてしまいたいが、それを今のうちからしてしまうと、将来、大切な会合とか、パーティーに呼ばれた時に上品な食べ方のように見える汚い食べ方をしてしまうだろう。

 

 幼いころからの習慣や癖って怖いもので、直そうと思っても中々直るものではない。

 ましてや、直そうとするのが成人済みであるならなおさら。

 

 今のうちにこういった小綺麗な食べ方をマスターしておけば、どんな時でも対応していけるだろう。

 それに、今はまだ幼い。

 もし間違った作法をしていても、それを正してくれる人は近くにいるし、手本も目の前にいる。

 ぶっちゃけると、小さい時の癖はなかなか取れないという習性を生かしたらいいことを知ってんだから、利用するしかないだろ。

 

 てなわけで、どこぞのシャレオツ女子みたく優雅な動作でパスタ食ってる。

 

 シャレオツって死語なんかな?

 おじさんには分かりません。

 

 もぐもぐと無心でパスタを平らげた俺は、傍に置いてあった水を一口飲み、口の中に残っていたトマトソースを胃に流し込む。

 

 うちのシェフはこれまた優秀で、今回のトマトパスタのトマトソースが超濃厚。

 市販のトマトソースは使わずに、一から作ったんだろう。

 じゃなかったら、こんなに濃厚になるわけがない。

 濃厚過ぎて、のどに詰まるのはどうかと思うけど、まぁ美味しいことに変わりはないからいっか。

 

 美味しかったぁ。

 

 さて、藤のところに行きますか。

 藤~、藤~、藤のお兄ちゃんが今行きますよ~っと。

 

 素早く椅子から立ち上がり、出ていこうとすると、

 

 「...紫陽。少しだけ大事な話があるのだけど、いい?」

 

 少し冷たいお母様の声が聞こえたため、顔面に笑顔張り付けて、椅子に座りなおす。

 

 ...母さんの顔が影になってて表情が見えない。

 あの声とこの危険信号を発している本能からすると、あまりいい話ではないんだろうなぁ。

 

 はて、俺なにかしたかな。

 

 学校では特に問題は起こしてないし、自分で言うのもなんだけど超優等生だと思う。

 学校関連はないとみていいと仮定しよう。

 

 ......とすると、なんだろうね。

 

 身に覚えがなさ過ぎて逆に怖い。

 

 社畜時代の経験からか、身に覚えのない仕事の失態の説教程怖いものはないと知っている。

 今でこそ、社畜精神から若干解放されてきたものの、完全に拭い去れたわけじゃない。

 

 ......正直言うと、叱られるという行為が俺にとっては大きなトラウマなんだ。

 

 俺を非難する怒声。

 周りからの「あぁ、コイツまたか」という視線、冷たい目線。

 完全に俺は悪くないのにもかかわらず、パニックになって思考能力が低下し、俺はダメな人間だと刷り込まれていく感覚。 

 

 ...あの感覚を感じてしまったらまたああなってしまうのではないか。

 生きているのに、生きた心地がしない感覚。

 いや、人としてはもう死んでいたんだと思う。

 

 ...だからかな、この世界では結構慎重に生きてきた。

 まだ七年しか生きてはいないけど、俺が思うように動けない時だって叱られたくないから、大人しくしていた。

 

 今の俺では、精神面的にトラウマを克服するなんてこと絶対に無理だ。

 

 また、人ではなくなる。

 ...これがどんなに怖い事か分かる?

 

 今まで美味しいと感じていたはずの食事は味がしなくなり、『美味しい』という感覚が分からくなる。

 ...あの眼が、声が、怖いから、『怖い』という感覚に苛まれないように心を閉ざし、思考を放棄する。

 ただ、やれと言われるがままに仕事をする。

 自分の上司のストレスの捌け口になっていても、それが法的に訴えられるということがすでに分からなくなった後だったから甘んじて受け入れる。

 

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 ただ、上司に言い渡されたノルマと、先輩たちが押し付けてきた書類の山を切り崩すためにパソコンを打つ。

 

 考えてはいけない。

 考えてしまったら辛うじて守った心さえも失くしてしまう。

 

 言われるがままに、都合のいい存在になる。

 人ではなく人形にならなくてはいけない。

 

 ......そんなことを思ってしまったが最後、立派な社畜の出来上がりさ。

 

 もう、あんな人形のようにはなりたくない。

 だからこそ今世で社畜には絶対にならないと意気込んでいる。

 

 ...でも、またこの感覚に陥るきっかけを、叱られるという行為を受けてしまったら、もしかしたら_____。

 

 ......すっかり今ではトラウマさ。

 ずっと怯えている。

 このトラウマを克服できるのなら、この世界の主人公様とお近づきになってもいいと思う。

 

 ...あー、死にたくないし、死体も見たくないから前言撤回。

 でも、その位本気でこのトラウマを克服したいとは思っている。

 

 だけど、何度も言うが今は無理。

 時間がさほど経ってないし、なんなら社畜時代の記憶がすぐに思い浮かぶ。

 

 だからこの雰囲気は俺にとっては毒だ。

 今すぐこの場から退散して、藤を撫でまわしたい。

 もとよりその予定だったし。

 

 ...うん、腹くくる。

 全ては藤のためだと思えば、この場は乗り切れるような気がしてきた。

 あくまでこの場は、だけどね。

 その後の精神状態は測りかねる。

 ...てか考えたくもない。

 

 「......お母さん、話って...?」

 

 俺もそうだけど、母さんが話しかけてから黙りっぱなしで、話をする雰囲気ではなかったため、こちらから声を掛ける。

 俺としてはこんな場所、さっさと移動したい。

 だからこそ催促する。

 

 嗚呼、胃が痛い。

 藤の部屋に行く前に胃薬飲まなきゃだな、コレ。

 

 「...大事な話って言うのは、今後の事についてよ」

 「......今後...?」

 

 今後、とは?

 取り敢えず、説教ではなさそうなのでいくらか気分は良くなったものの、やっぱりこの部屋の空気、そして母さんの顔は暗いままで。

 

 ......よくわからんが胃が痛い。

 もの凄く痛い。

 

 なんか結構重要そうなこと話そうとしてるよ、母さん。

 先日七歳になったばかりになったばかりのガキに言うべき内容じゃない気がするよ。

 

 「...お母さんね、『百夜家』の当主でもあるの。あなたならこの意味が分かるのだろうけど」

 「......当主の意味は分かるよ?」

 「紫陽は賢いから当たり前よね。それでね、次の当主は紫陽、貴方になると思うの。...まだ藤は育っていないから、今決めてしまってはいけないのだろうけど、...貴方は素質があるのよ。間違いなく」

 

 そういう母さんは苦しそうな、今にも泣きそうな顔をしていた。

 まるで今俺に余命宣告を突き付けたかのような、そんな表情。

 いつも柔らく微笑んでいる彼女からは考えられないほど、眉間にしわが寄っていて、唇をかみしめてる。

 

 「...それは、悪い事なの...?」

 

 俺は母さんにそう尋ねる。

 

 だって普通に考えたら、結構いい話なんじゃないのか?

 

 だって、俺はまだ子供でまだ未来はあるし、今後してみたいことが出てくるかもしれないけど、最初から未来が決まっているのは、俺としては結構安心する。

 また就職活動で落ちまくるなんてこともないだろうし、俺にとってはいい話でしかない。

 たくさんの人たちをまとめられるほどの器量が俺にあるのかは謎だけど、母さんならきちんと教えてくれるだろう。

 そこのところはあまり心配していない。

 

 ...母さんにしてみれば、幼いうちから俺の将来は決まっていることに罪悪感を感じているのかもしれないけど、それにしたって母さんのこの表情は尋常ではない。

 何かがあるとしか考えられない。

 

 「...『悪い事』なのかどうかは、お母さんには分からないわ。私自身、この立場がいいのかどうかわからないもの。...でもね、きっと紫陽は当主であることに、背負ってしまったものの重さに苦しめられると思うの。...私がそうだったから。だから、本当は紫陽に、私の愛しい子供たちに当主になんてなって欲しくないのよ」

 「......。」

 「...でも...でも...なんでなのかな...、きっと貴方には才能がある。現当主として、貴方を当主にしないなんてことはできないの。......ごめんなさい...」

 

 辛そうに謝り続ける母さんに、俺は何も言えなかった。

 どんな言葉をかけたら、母さんは救われるのだろうか。

 俺には分からない。

 

 なんでこんなに苦しそうにしているのかも分からないのだから、それは当たり前なのかもしれない。

 だけど俺のせいで、俺のことを心配するあまり苦しんでいるのだという事だけは分かるから、俺が何とかしたい。

 俺のことを、大切に育ててくれたこの人には、こんな顔をしてほしくない。いつものように笑っていてほしい。

 

 ......でも、言葉が出てこない。

 「俺は大丈夫」なんて無責任なことを言いたくない。

 「心配しないで」なんて言っても優しい母さんはきっと心配し続ける。

 それが分かるからこそ、言葉が思いつかない。

 

 俺はまだ子供で、母さんからしたら守るべき存在だ。

 そしてこのことは事実で、事実だからこそ母さんは苦しんでいるのだろう。

 

 ......俺は無力だ。

 中身が成人済みの社畜経験ありの中年でも、周りからしたらただの小学生で守るべき存在で、体は未熟な子供だから自分の身すらも守れない。

 

 その事実を今、突き付けられたような気がした。

 今までは子供だというこの状況を満喫する気でいたが、大人じゃないこの状況を初めて恨んだ。

 早く大人になって、守るべき弱い存在じゃなくなったらきっと母さんは苦しまずにすむのに。

 

 「......話はこれだけよ。あなたが大きくなったらちゃんとこの事を説明するわ。......ごめんなさいね、急に変な話をしてしまって」

 「...ううん、僕は大丈夫。...藤のところに行ってくるね...」

 

 やつれた笑みを浮かべる母さんをもう見たくなかったから、ゆっくり立ち上がって扉に向かう。

 

 ......此処に居たくない。

 ...逃げているだけだっていう事は自分が一番わかっているさ。

 

 「...___な_い」

 

 後ろで母さんが顔を手で覆って何か言ったような気がしたけど、足早に部屋を出て藤のいる部屋に向かう。

 

 藤は寝ていた。

 すやすやと、俺が悩んでいることなんてお構いなしに安らかに。

 

 そんな藤に少しだけほっとし、藤の近くに座り藤のことをただ眺める。

 

 母さんは何を俺に伝えたかったのだろうか。

 百夜家の当主はそんなに苦しいものなのだろうか。

 

 母さんの苦しさは尋常じゃなかった。

 多分、百夜家には何かがある。

 

 でも今それを考えても仕方がない。

 

 俺が当主になるのには少なくともあと二十年ぐらいはかかるだろう。

 俺が成長して、百夜家の秘密を知ったうえで当主になるその時が来るまでに、母さんが心配しなくても済むように強くなろう。

 

 ...別に、肉体を強くするっていう訳ではない。

 精神面を鍛えよう。

 

 ......そうして強くなったら、母さんは俺を心配して苦しむことはなくなるだろうか。

 

 俺にはやっぱり分からない。

 

 「...分からないよ、藤」

 

 その言葉は、誰にも届くことはなく、ただ静かに部屋に響いた。




 『百夜家』の秘密とは...?

 きっと近いうちにわかりますよ。
 
 桔梗さんの最後の言葉の意味も、『百夜家』の当主の本当の意味も、紫陽という存在がコナンの世界にどんな影響を与えるのかもきっと分かる。
 ...てかそれを書くのが作者の仕事なんですけどね。

 少し投稿が遅れてしまって申し訳ありません。

 多分次回以降もこうなるかと。
 
 言うのが遅れましたが、誤字脱字報告ありがとうございます。
 ちゃんと見ているつもりでも間違えるもんですね。
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