社畜の俺がコナンの世界でも社畜になってしまった件について   作:願わくば神様転生でチートをかましたい

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 気が付けば、八月が来ていました。
 もう終わろうとしています。

 ...最新話を投稿したのは、はてさていつだったのだろうか。
 
 確か...六月じゅう...うッッ、頭が...(現実逃避)









 ......楽しみにしてくださった方に感謝です。遅れてしまって申し訳ありません。(土下座)


第八話 駄目、だめ、ダメ

 「......」

 「お帰りなさいませ、紫陽様」

 

 五日ぶりに家に帰ると、前を歩いていたじいやが穏やかで、こちらを気遣うような笑顔を浮かべながら出迎えの挨拶をしてきた。

 その後ろから使用人たちが心配げに俺を見つめてくる。

 

 「...あぁ、ただいま」

 

 大丈夫だよ。心配はいらない。少し(・・)気が滅入っていただけなんだ。...だから、本当に大丈夫。

 

 そうぎこちない笑顔で言った後、すぐに洗面所に向かい手を洗う。

 

 ふと顔を上げると、未だにやつれた自分の顔が見える。

 

 あまりにひどすぎる顔色はまるで死人のようで、もしかしたら俺は死んでいるのかななんて自身が思ってしまう程だ。

 

 それもそうか。入院中に睡眠はとっていたとはいっても数時間かそこらだ。

 慢性的な寝不足。目の下の隈は未だ健在で、中々取れそうにもない。

 

 自分の輪郭と目の隈を鏡越しになぞってみる。

 ...この行動は何の意味も持たないけど、なんとなくしたくなってしまったから。

 

 ...今更ではあるが、医者が引き留める理由がやっとわかった気がする。

 こんなひどい顔をした、やつれて濁った眼をしている小学生を医者として見過ごせなかったのだろう。

 

 無理を言って退院日を早めてもらったが、俺の主治医はどんな気持ちで俺のことを見送ったのだろうか。

 

 ......もう過ぎたことだ。そんなのどうでもいいや。

 

 鏡に添えていた手を放し、足早に洗面所から退出する。

 

 本来なら二階にある寝室で安静にしておかないといけない。でもその前に、藤に会おう。

 五日も藤に会えなかったんだ。会いたくて、会いたくて、仕方がない。

 ......起きてるといいなぁ。藤が寝ているのを邪魔するのは嫌だから。俺が寝れない分、藤にはたくさん寝て、健康に、元気に育ってほしいから。

 

 寝室に行く予定を変更して、藤がいるであろう遊戯室に入る。

 

 久しぶりに会った彼は、俺を笑顔で迎えてくれた。

 

 その笑顔に心が救われた気がしたのと同時に罪悪感に苛まられる。

 その笑顔を向けられる価値なんて、俺にはないから。

 

 ...それでも、嬉しいと感じてしまうのはきっと駄目なことなのだろう。

 

 藤の手に触れる。とても温かい。

  ...自分の手が冷たいことに気付く。

 

 頬に触れる。とても柔らかい。

  ...自分の体が子供特有の柔らかさに欠けてしまっていることに気付かされる。

 

 藤の体を恐る恐る抱きしめる。柔らかくて、小さくて、温かくて...脆い。

  ...自分が命を懸けて守るべき存在だと骨の髄にまで刻み込む。

 

 ......いつまでも、死を引きずるな。

 

 心を捨てろ。人間性を捨てろ。 

 どこまでも合理的に。利益だけを見つめて。

 ただ、藤を守るためだけにこの命を、残された時間を、頭を使え。

 

 ...これ以上犠牲者を出さないために。

 

 ねぇ、藤。

 君の兄さんは、君の誇れるような人間にはなれない。

 きっといつか、藤は俺から離れていくのだろう。

 その時は、藤のしたいようにさせるから。

 

 ...だから、それまでは傍にいさせて。

 

 ......傍にいる権利を、頂戴...。

 

 そう言うと藤は、笑いながら俺の指を小さな手でぎゅっと握りしめる。

 

 この子は、俺の言っている意味が分かっているのだろうか?

 ...母さんに似て、将来は確実に賢い子に育つだろうからその片鱗がもう見え始めているのかもしれない。

 

 それからしばらく藤と遊んだ後、疲れたのか、うとうとし始めたのでベッドに藤を寝かせ、寝付いたのを確認してから着がえるために寝室に行く前に自室に行く。

 素早く着替えを済ませた後は、主治医とじいやに耳に胼胝ができるほど「安静にしておけ」と言われていたためベッドに潜り、瞼を下ろす。

 

 とはいえ、ただでさえ寝つきが悪くなってしまったことに加え、入院中に睡眠をとっていたため確実に今日は寝られない。

 

 眠くないのに眠れと言われるのは酷な事だ。

 だって、確実に寝られないと分かっているのにベッドの上で何時間も無駄にしてしまう。

 

 「たかが数時間じゃないか」

 

 そう言われてもさ、その数時間がもの凄くもったいないんだ。

 

 その数時間で人生が変わるかもしれない。

 その数時間でやりたいことができる。

 その数時間で知識が増える。

 

 そう考えてしまうとどうしても『眠れ』という、きっと俺のことを心配してかけてくれている言葉が急にそう思えなくなってしまうのだ。

 

 確かに人間に睡眠は欠かせない。

 生きていく上で必要なものだし、睡眠時間や質によって脳や体、ひいては心の状態にまで深く影響を与えるものだと化学的にも証明されているし、その原理も多少は知ってる。

 

 だとしても俺は、俺にとって睡眠というものは必要最低限だけ取っていればいいと思う。

 

 そもそも睡眠意欲がわかないし、逆に眠ろうと思っても寝れないのだから仕方ない。

 つまりはそういう事だ。

 

 ベッドの端から端まで転がりながらこれからどうしようかと考える。

 

 俺には明らかに時間がない。

 いや、原作開始まで十数年はあるはずだから時間がないわけではないのか。

 今主人公たちは三歳か二歳のどちらかだったはずだ。つまり単純計算で、高校二年生を仮に17歳とすると14年はあるのか。

 

 あぁ、割とあるね。ほんの少しだけ心にゆとりが持てそうだ。

 とはいえ黒の組織の大きさは原作ほどではないと考えても主軸がしっかりしてるんだし、有名な幹部の半数は確実に組織に在籍しているだろう。母さんと接触していたっていう事もあるだろう。母さんも幹部だったらしいし。

 

 組織の人間は基本的に新参者を信用していない。古参メンバーですら簡単に殺すんだから新しいも古いも糞もないか。

 ただ、新しく入ってきた者に対して幹部のメンバーが考えることは使い捨ての駒が一騎増えたなぐらいだろう。...いや、そもそも存在を把握してすらいないだろう。

 

 俺が組織に所属するという未来は確実にやってくる。つまり、さっさと入ってしまってこの体を赤く染める時期を早めるか、様子を見て遅らすかの違いだ。

 その二択なのなら確実に早くに入った方がいいに決まっている。

 

 

 “組織に入らずに、藤を連れて組織が壊滅するまで逃げ続ける”

 

 

 ...なんて無責任なことはできないし、する気も毛頭ない。

 

 逃げられるわけがない。逃げたところで俺の代わりに犠牲になるものが増えるだけだ。

 そんなことを考える事の方が馬鹿だろう。

 

 それに藤には自由に育ってもらいたい。

 物心つく前からずっと逃亡生活なんてさせられるわけがない。

 

 ......そんな選択肢が俺にあったらよかったのにな。この人生から逃げられたかもしれない。

 でも、あったところで俺にその選択肢を選ぶ未来は無かっただろう。

 

 この世界が、俺の知っている『名探偵コナン』という物語通りに、寸分違わず話の通りに時間が過ぎていくのならその選択肢を俺は選ぶだろう。

 

 でも、そんなことは起こりえない。

 必ずどこかでバグが生じる。...俺の存在そのものがバグのようなものだし。

 

 とにかく、組織にはできる限り早くに入ろう。

 そして下っ端からのし上がった方がいい。

 

 ...となると、銃は扱えるようになっていた方がいい。体術も何か習っておいた方がいいだろう。

 飛び級制度を使って飛び級して今当主代理をしてもらっている祖父さんの代わりに早く俺が当主にならないといけない。

 経営学、医学、薬学も知識としてほしいし、外国語も多数マスターしておいて損はない。

 

 するとあら不思議、飛び級制度を使いたいという考えが出た時点で日本を出るのは確定する。

 元々そのつもりだったのだけど。

 

 この際、日本を出る事は確定でいいとしよう。

 

 問題は何処に媚を売るかだな。

 

 イギリスのメアリーさん及び長男の秀一と父を除いた赤井ファミリー、&MI6。

 アメリカにいる赤井さん(秀一)およびFBI、そしてCIAの水無怜奈こと本堂瑛海+そのお父さんのイーサン。

 もしくは上記以外の各国の諜報機関。

 

 ...あーでも、原作から14年前だろ?

 赤井さん...俺の記憶が確かならまだアメリカにいないんじゃ......?

 水無さんは確か、日本にいた記憶があるから、実質アメリカにいて媚売れそうな相手っていずれ確実に来る赤井さんぐらいか。

 

 日本に水無さんとその父がいるのなら二人に会うのも手か?...いや、ありえないな。その選択肢は確実にない。

 

 ただいずれにせよ、今考えている内容は今年中に日本を発つという大前提をもとに考えているのであって、その前提から外れたルートだってある。

 

 将来的に考えれば俺が日本を出て、別の国にわたる確率は100%だ。

 ただ、その時期は別に今でなくてもいいとは思う。

 

 銃を習いたいのなら日本で習える場所を探せば見つかるだろうし、なんなら作ってしまえばいい。

 母さんは俺が一生遊んで暮らせるほどの金を残してくれた。ついでに背負いきれないほど重い責任も伴ってるけど。

 それを使えばどうとでもなる。

 

 ...多分、本家に行けば射撃場ぐらいあるだろうし。

 

 日本でできないことと言えば本当に飛び級ぐらいなもので、それ以外のことは日本でもできる。

 むしろ日本で基礎を固めて海外で深く掘り下げていった方がいい気もするし。

 

 だから、...そうだな......、三年後。主人公たちが小学一年生、つまりは6歳の時まで日本にいても何ら問題はない。

 原作開始は彼らが高2の頃だが、割と大事なエピソードがつまっているのは幼稚園の年長から小1だったりするし、そういった物語の流れに便乗するのは割といい案だともうかがえる。

 

 数か月前までは主人公たちに関わりたくないだとかほざいていた何も知らなかった頃の馬鹿馬鹿しい記憶があるが、今となってはそんなことは言ってられない。むしろどんどんアプローチしていってもいい。もし原作に深く関わってくるキャラクターが近くにいるのなら繋がりを持っておくのも一つの手ではあるだろう。

 ただ、主人公たちに何の考えもなしに近づいて彼らの人格に大きな影響を与えてしまい今後の展開に大きな影響を与えてしまうというのは否めないので、現時点で関わりを持つとしても準レギュラー位置の大人だな。例えば、妃さんとか目暮警部とか...かな。この二人に関してはもう関わりを持ってしまってるんだけど。

 

 すぐに日本(ここ)を発つか、時期を窺うか。の二択になると、慎重に行きたい俺からしたら確実に後者を取る。

 今焦って下手な行動したらすぐ死にそう。勿論、物理的な意味で。この世界って新一とその周り、そして人気のあるキャラクター以外に厳しくて、すぐ死ぬからなぁ。

 『命は尊いものだ』なんて言ってるけど確実に週に一回は人が死ぬようなこの(米花町)でそんなこと言ってたら、尊い命とは、ってなるんだよなぁ。尊い以前の問題なんだよなぁ(遠い目)

 

 これ以上脱線すると考えがすごい方向に行きそうなのでここらへんで止めておくことにしよう。

 さて、頭がこんがらがりそうなのでここまでの話を軽くまとめると...

 

 1.いずれ、確実に日本を発つことになる。

 2.行き先はアメリカかイギリスが候補に挙がっているが、それ以外もあり得ないことはない。ただ、個人的にはアメリカに行くことになりそう。

 3.銃を習う。

 4.武術を習う。

 5.原作キャラクターと関わることになった場合、故意に近づくなかれ。ただ、故意に避けるなかれ。全ての可能性を考えてからこちらにとって利益を生みそうであれば関わっていい。

 

 といったところか。

 

 あと、付け加えるのであれば、学校に通う時間が惜しいので多分行かないだろう。

 とはいえ、今通っている帝丹小学校を急に登校拒否からの休学にするのは忍びないのと、百夜家について詳しく知る必要があるため東京を出て京都にある本家に行きたいから転校するという体にすれば双方win=winでしょ。

 理由は適当に家の都合+俺の体調不良の療養のために京都に行く__とかでいいだろ。嘘ではない、決して。

 

 転校はするが、転校先の学校には療養のため休学という手続きをして必要最低限の日数さえ出ていればいい。何なら行かなくてもいいだろう。義務教育とかいう便利な制度があるんで、別に一日も行かなくても進学は出来るし。

 

 この家の管理を使用人たちに任せて本家に行き、引きこもりながら勉強。ついでに銃と武術のマスターかな。ははは。

 

 なら、最初にすべきはお祖父さまの了承を得るところからか。

 

 ぐちゃぐちゃの頭の中が整理されたからか、頭痛が多少ましになっている気がする。あくまで気がするだけで、そこまで変わっていないのだけれど。

 

 ......あれ、こんなに蝉って鳴いていたっけ。考えることに必死過ぎて周りの音が聞こえなくなっていたのだろう。

 だって、ほら。すごい元気に鳴いてる。

 一週間で自身の命が燃え尽きることを悟っているから、こんなに必死になって鳴き喚くのだろうか。

 何も背負うものがなかった頃は、...目の前に積み上げられた仕事をただがむしゃらにこなしていた日々を過ごしていた頃は、唯々うるさいと、さっさと死ねと思っていたが、自分を取り囲む状況が変わったことでこんなにも見解が変わるものだなんて思わなかった。

 はは、人間ってすごいのな。本当に面白い。

 

 ただ、今でも変わらないのは、『さっさと死ねばいいのに』という結論だけだ。人間ってのは根本的には何も変わらないらしい。笑える。

 

 

 

 

 

 ...だんだん、治まったような気がしてた頭痛が酷くなってき、考えることがしんどくなってきたため思考を止める。

 

 寝てはいない。ただ完璧に意識が覚醒しているという訳ではない。

 ただベッドの上に寝転がり、特に何かをするわけでもなくぼ~っと時間が過ぎるのを待っているだけ。

 

 気が付けば、ヒグラシが鳴く時間にまでなっていたようで、只々「ヒグラシが鳴いているなぁ」とだけを思い瞳を閉じる。

 

 ......目を閉じたところで寝れるはずもないのに。

 

 

 

 

 

 

 「...紫陽様、お食事をお持ちしました。食欲はまだあまり戻られていないように見受けられたため、量は減らさしていただいております」

 「......ぁ、じいや。持ってきてくれたんだ。ありがとう」

 「お食事の方はこちらのサイドテーブルの方に置いておきますので好きな時にお食べください。そして何かございましたら気兼ねなくこのベルをお鳴らし下さい」

 「ん、分かった」

 

 食事を運んできたじいやはそう言うと一礼して部屋から出ていった。

 わざわざ運んできてくれたことに感謝しかないよ、本当に。

 

 じいやが来たことで意識がはっきりしてきた。完全に思考を停止していたためか睡眠はとっていないのにも関わらず頭が冴えている気がする。頭痛は酷いままなのが唯一の欠点だな。

 

 ...でもいいな、これ。思考を完全にシャットアウトしてしまって体を、主に脳を休めるのは意外と使えるかもしれない。

 意識を手放しているわけではないから寝ている訳では無いのは確実に分かるのだが、こういう現象(?)に正式名称はあるのだろうか?...まぁ普通の人なら、こんなのするぐらいなら寝るだろうからそもそもこれができるのは俺だけかもしれないけど。だって人間のするような技ではないもの。

 

 ......これってあれでしょ。マグロが泳ぎながら脳を休ませる(睡眠をとる)ために右脳と左脳を交互に眠りにつかせてるようなもんだろ?厳密に言うと違うけど。

 

 ......うーん、結構違うような気がしてきたぞ? まあ、そんな感じだって。

 

 サイドテーブルに置かれている出来立てだろう、湯気をあげて艶々な米がのぞく小さな土鍋の中にはお粥が入っている。

 栄養面に関しても色々考えてくれたのだろうか、米だけではなく小さく刻まれた野菜が、じっくりと煮込まれたせいでトロトロになって良い感じにパステルカラーになっていて色彩も豊かだ。

 美味しそうだし、なんか普通に売れそう。

 

 などと感想を述べてみた。ちょっとでもお腹が空くかな、...なんて希望的観測を持ちながら。

 

 俺が、一度社畜と死んでからこの世界に生まれてきて最初に決めたのは、「今度こそは人間らしい生活をしよう」という事だった。

 俺の中での人間らしい、とはすなわち、ちゃんと寝る、食事をとるといった基本的なものであって、『普通』に生きていれば叶えられるものだ。

 

 ただ、今この現状は『普通』とはかけ離れていて、今の俺は俺の思う『人間らしい』事ができなくなってしまっている。

 

 特に俺が思う人間らしい行動、人間なら当たり前にしている行動で、今最も実行することが難しいものがズバリ、【睡眠】と【食事】だ。

 

 ......睡眠はしようと思ってもできないものだと俺は思っている。

 むしろ寝なくては駄目だという強制させる意識を持てば持つ程眠気がそがれ、気が付けば朝になっている。そんなもの仕方がないと思うし、睡眠に関してはもう諦めた。

 きっと仮眠ぐらいならとれるようになる時が来るだろう。そんな未来が来るように訓練しなければ。

 

 でも、食事に関しては無理やり食べようと思えば何とかなるものだと思っている。

 ろくに噛まなくても、味わなくても、無理やり喉の奥に流し込んだのだとしても、食べ物を胃に送って消化さえすれば、それは『食事』だと俺はとらえているから。

 これはつまり、もし無理やり胃に流し込んでも吐いてしまっては『食事』とは言えないという事である。

 まぁ、当たり前だよな。すぐに吐いてしまっては意味がない。口の中に押し込んで、無理やり呑み込んで、すぐに吐くのを繰り返すことを『食事』だとは誰も思わない。普通(・・・)じゃない。

 

 

 ...何が言いたいかって、二つとも今の俺の現状なんだということだ。

 眠れない。それはもう諦めてしまった。

 

 だから。

 だから、食事だけは死守したい。あの頃のようにならないと決めたんだ。それだけは、守りたい...。

 ...だって、これもスルーしてしまったら、俺はいったい何になる?また、同じように過労死して終わりだよ。

 ...それだけは絶対に嫌だ...! ...嫌なんだよ......

 

 ...何も考えずに、ただ機械のように蓮華で土鍋からお粥をすくい、置いてあったお茶碗の中に注ぎ入れる。

 そのまま少し小さい木製のスプーンに持ち替え、半口分だけすくい上げ...、......意を決して口の中に放り込んだ。

 

 (...ッッ!!)

 

 程よい温かさで口の中に入ったそれは、米本来の甘さと、野菜の甘さが見事にマッチしていてもの凄い美味しい...!

 食欲なんてなかったのに、これならいくらでもける!

 

 

 

 ......なんて、なるわけないんだよなぁ。世の中そんなに甘くないんだよ。

 

 実際は、温かいのだろうということは分かった。っていうか湯気をあげている時点で分かりきっていることである。ぶっちゃけ当たり前。

 ...あとお粥がすごく美味しいのか不味いのかが分からない。ここ数日で確信したのだが、味覚があまり機能していないようなのだ。

 甘いも、酸っぱいも、苦いも、しょっぱいもわからない。ただ味のしないでんぷんのりを柔らかくしたものの中に細かなふにゃふにゃの何かが入っている。言葉に直すのならこんな感じだろう。

 思えば米はでんぷんなのだからあながち間違っていないのかも。

 

 既に噛む必要がないほど柔らかかったため軽く数回噛み拒否する胃に無理やり流し込む。

 

 ...良かった......、飲みこめt...。

 

 「......ッ」

 

 その時言い表せられないほどの吐き気が俺に襲い掛かった。

 

 「......ぁ...、あ゛ぁ...うぅ゛...あ゛ぁ゛ぁぁ......う゛うぅぅ......ぅぅ゛...ぅぅうう゛うぅ......」

 

 吐かないといけない...この俺の中に入ってきた異物を...吐き出さねばならない... 否、駄目だ。 吐いてしまっては駄目だ...... 駄目なんだよ...、吐いてしまっては『食事』とは言わない。ちゃんと味あわないと......

 

 (でもどうやって...? 『味』が分からなくなってしまった癖にどうやって味わうの...? どうやったら、...どうやったら『生きた人間らしい食事』になるの......?)

 

 ......分からない、分からないんだよ......!

 

 .........でも...

                ......食べなくちゃ...............、食べないと、いけないんだ。

 

 「......あぁぁ...あぁ゛あああ゛ぁ......うぅ゛ぅぅ」

 

 吐き気をこらえて、震える手を押さえつけて、二口目を運ぶ。

 三口目を.........四口目を......五、口目......

 

 体が拒否する。

 手が震えてまともにスプーンが持てない。

 吐き気が、......止まらない......。

 

 スプーンからこぼれた『異物』が口の端から垂れている。

 目から生理的な涙が溢れて止まらない。

 顔を苦しそうに歪めながら無理矢理スプーンを口の中に押し込む。

 

 「...う゛っ......!」

 

 これまでとは比べられられないほど強烈な吐き気が込み上げてき、持っていたスプーンを投げ捨てて両手で口を塞ぐ。

 ...駄目、ダメ駄目、駄メだ目ダメ駄目だめダめ......!

 喉の辺りまで、来ている。分かってしまうのが恨めしい。いっそのこと全てぶちまけてしまって楽になってしまいたい...!

 ......でも、俺が楽になるとか、楽をするのは駄目だから。 ...我慢しないと......いけない... いけないんじゃない、そうするべきなだけだ...それが、普通なんだ......。

 

 片手で口を押えながら震える手で水の入ったグラスを掴むと、一気に水を口の中に流し込み、その勢いのまま飲み込む。

 

 吐き気が収まった訳ではない。けっして。

 でも、食べ...る...... 食...べないと......ダメ... 

 

 ......スプーンで目の前にある『異物()』をすくい上げ、口の中に押し込み、水で流し込む。

 

 何回も、何回も...何回も何回も、何回も何回も何回も何回も何回も...... ただ、この単純な行為を繰り返す。

 それはまるで機械のように。こういうプログラムに設定されたロボットのように。

 対価は電機ではなく吐き気、身体からの警告。

 

 ...時々、このプログラムにバグが生じるようで対価以上の強烈な吐き気が込み上げてくるが、それに耐え、またプログラムを起動させる。

 

 「...紫陽様、失礼します。少しは食べられましt... 紫陽様...? 紫陽様...! 無理に食べなくてもいいのです。お止めください...! 紫陽様!」

 

 あれ、これもバグなのかな。何故か手が()()()()()()()()()()()()かのように動かない。

 なんか自分の名前を呼ばれたような気がする。幻聴でも聞こえるようになってしまったのだろうか...? もし本当にそうなのであれば直さないと。バグは直さないと。昔のように。

 

 あれ、昔って何だっけ。今は()()()だっけ... ん...?どっちってなんだ...? 俺は俺で、...そう俺は......、俺...。

 

 何を...し...ていた......?

 

 えっと、食べてた。『食事』?をしてたんだよな。

 ...うん、そう。『異物』を体の中に押し込んでいた。

 ...『食事』って、『毒』を無理やり体内に入れることだっけ......

 

 こんなにも苦しいものだったっけ...。

 

 ああ、苦しかった。

 『食べること』()苦しかった。

 苦しいものだった。

 

 ...ん?楽しいものだった......?

 

 「...陽様...! ...紫...様! 返事......てく...い、××様!! 」

 

 あれ...? 分かんなくなっちゃった

 

 頭がふわふわして、目の前が霞んできた。

 ぐらぐらする。自分が何を考えているのかが分からない。

 

 ...嗚呼、気分が悪い。

 

 

 

 何か(・・)に体を預けながら、俺は意識を手放した。

 




 人間って、極度の疲労やストレスによって人格が壊れてしまうことがあるようですね。
 紫陽の場合もそれに似たもので最後の描写は、精神状態が回復しきっていなかった×極度のストレス×睡眠不足による脳の処理速度の低下による混乱などがあげられるんじゃないでしょうか。

 睡眠が脳や身体に与える影響は実際に多々あります。
 肌が荒れたり、イライラするなどの精神状況にも影響を与える事もあります。あとは、記憶力低下、集中力低下、集中力の持続時間の大幅激減、脳の処理速度の低下など、無理に夜更かししていい事なんてまずありません。科学的に証明されていることなのでそこら辺にある睡眠の本とかを読めばこの事が書いてあると思います。

 ただ、寝たいのに眠れない。もしくは寝たくないと思ったことのある方が大半だと思うので、作者的には夜更かしを禁止にするというよりかは、ほどほどにすればいいんじゃないかなと思います。
 ほら、何事もやり過ぎれば毒にはなるけど大抵は、ほどほどに抑えさえすれば悪い事ばかりじゃないので。
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