アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
夜の帳が降りた新都のビルの間をスパイダーマンはウェブを用いて飛び回っていた。この冬木市はピーターがいる世界のニューヨークのようにヴィランや犯罪者が跋扈している危険都市というわけではない。どこにでもある日本の地方都市であり、日本という国の治安の良さも相まって犯罪発生率は低く、スパイダーマンのようなスーパーヒーローを必要とするような事件も起こらない。
しかし、それでもスパイダーマンは人助けのために夜の街を飛び回るのだ。だが今この冬木市では『聖杯戦争』が行われている。聖杯戦争に参加する魔術師やサーヴァントは周囲の住民の都合を考えずに戦う場合が多く、中には『魂喰い』という行為に及ぶ者もいるようだ。スパイダーマンは犯罪発生率の低いこの冬木市で警戒を緩めないのは聖杯戦争が理由だ。スパイダーマンは新都のビルの壁に張り付き、夜の街を見下ろす。
「もう聖杯戦争は開催されているみたいだけど、誰か暴れたりしていないかな?」
スパイダーマンは独り言を言いつつ、辺りを見渡す。すると、スパイダーマンが持つスパイダー・センスが反応した。スパイダーマンが張り付いているビルの場所から数百メートルの地点である。スパイダーマンは急いで目的の場所までウェブを用いて移動する。辿り着いたのは路地裏だった。スパイダーマンは慎重に路地裏を進んでいくと、前方に人影を見つけた。制服を着た女子高生らしき少女が地面に倒れ、その少女の首元に噛みついている女がいた。女は地面にまで届くであろう美しい紫色の髪の毛に、モデル顔負けの長身の肢体をボディコンで包んだ妖艶な美女であった。そして美女の傍らには少年が立っている。
「ライダー、お前が弱いからこうして夜な夜な魔力を供給させなきゃいけないんだ。全く、マスターに手間をかけさせるなよ」
ライダー…というのは美女の事を言っている。間違いない、吸血行為をしている美女はこの聖杯戦争に召喚された「騎兵」のサーヴァントであるライダーだ。少年はライダーのマスターだろうか?
「…終わりました慎二」
ライダーは立ち上がると慎二に対して言う。ライダーと慎二は路地裏の壁に張り付きながら様子を伺うスパイダーマンには気付いていない。スパイダーマンはライダーと慎二の会話に聞き耳を立てる。
「ライダー、今夜はもう帰るぞ」
そう言うと慎二はライダーを連れて路地裏を去ろうとする。が、スパイダーマンは路地裏の壁からライダーと慎二に向かって声を掛けた。
「待ちなよそこの通り魔さん達」
「誰だ!?」
慎二は声がした方を向くと、路地裏のビルの壁に蜘蛛のように張り付いているスパイダーマンを見た。
「何だお前は…?あ、お前は最近テレビのニュースで見る新都に現れる蜘蛛男だろ?こんな所で何をしているんだよ?」
「何をしているってパトロールだけど?君とそこの美人さんが女の子に暴行加えているのを偶然見ちゃったんだ。悪いけど警察に自首するのを推奨するよ?」
スパイダーマンの言葉に慎二は高笑いを上げる。
「僕が警察に自首?笑わせるなよピチピチスーツを着た変質者め。新都のビルを勝手に飛び回ってるだけなら単なる変人で済んだのに哀れだね。こうして僕とライダーのしている事を目撃したんだからさ」
慎二は不敵な笑いを浮かべながら言う。そして慎二の言葉を聞いていたライダーは慎二に対して告げる。
「慎二、あの男は私達の邪魔をするつもりのようです」
慎二はライダーの言葉に答える。
「ライダー、あんな奴はさっさと始末しろ。聖杯戦争を目撃した人間には消えてもらう。ついでにアイツの精も吸い取ってやれ」
慎二の言葉が言い終わるのと同時に、ライダーは壁に張り付いているスパイダーマン目掛けて跳躍した。
壁を蹴って宙を舞ったライダーの蹴りをスパイダーセンスで察知したスパイダーマンは体を捻って避けるとそのまま地面に着地する。しかし、空中から落下してくるライダーの攻撃を避ける事は出来ず、その攻撃によってビルの外壁へと叩き付けられた。が、ライダーの追撃を避けるべくスパイダーマンはウェブを用いて路地裏の壁に飛び移り、壁を高速でよじ登りながらビルの屋上へと出る。
スパイダーマンがビルの屋上に到達したのと同時に、ライダーが跳躍してスパイダーマンのいる屋上に現れ、スパイダーマンの背中に蹴りを入れようとするも、ライダーの攻撃を察知したスパイダーマンは身体をしゃがめてライダーの蹴りを回避した。
そしてスパイダーマンはしゃがむと同時に後ろ蹴りを繰り出し、ライダーの腹に当てる。ライダーは隣のビルまで吹き飛ばされるものの、直ぐに体勢を立て直し、再びスパイダーマンに向かっていく。
スパイダーマンも素早さには自信があるが、ライダーはスパイダーマンの敏捷性に簡単に追いついてくる。クイックシルバーのようなスピードスターには及ばないものの、ライダーの速さも尋常ではない。ライダーの猛攻に苦戦しながらも、何とかライダーの攻撃を受け流していく。
ライダーは長い鎖に先端に短剣が取り付けられた武器を振り回し、スパイダーマンに攻撃を仕掛けてきた。鎖のリーチの長さを生かして攻撃を行うライダーに対して、スパイダーマンは回避する事に専念していた。
「お嬢さん、そんな危ない得物振り回して疲れない!?」
スパイダーマンはいつもの軽口を用いてライダーを煽る。だがライダーはスパイダーマンの挑発に耳を貸さず、短剣が取り付けられた鎖を自在に操ってスパイダーマンに攻撃を続ける。
ライダーの攻撃を避け続けるスパイダーマンであったが、ライダーは突如として鎖を引っ込めて、そのままスパイダーマンに向かって跳躍した。だがスパイダーマンはライダーに対する攻撃のチャンスを待っていたのだ。自分目掛けて突っ込んでくるライダーに対してスパイダーマンは腕からウェブを射出する。放たれたウェブはライダーの身体ではなく彼女の長い髪に付着した。地面まで届くであろうライダーの長髪にスパイダーマンのウェブが付着し、スパイダーマンはウェブを掴んでライダーを振り回しつついつもの軽口を叩いてくる。
「そんなに長い髪の毛をしてちゃ、こうして敵に利用されちゃうよ?」
スパイダーマンはライダーを振り回すとビルの壁に叩き付けた。スパイダーマンは手応えありと確信する。だが神秘の塊であるサーヴァントには同じく神秘の込められた攻撃しか通じない。ライダーは壁を蹴ると同時に再びスパイダーマンに向かっていった。今度はライダーはスパイダーマンに向かって鎖を投擲する。
スパイダーマンは飛んできた鎖を紙一重で避け、ライダーに向かって突進していった。スパイダーマンはライダーとの距離を詰めると、ウェブを射出してライダーの身体に付着させる。そしてライダーの周囲を高速で旋回しつつ、ウェブをライダーの身体に巻き付け始めた。スパイダーマンのウェブは一本でも乗用車一台を吊り上げる程の強度があり、そんな糸を用いてライダーの身体をがんじがらめにしてしたのだ。
ライダーの身体はスパイダーマンの糸が何重にも巻かれており、彼女もウェブの拘束から脱出できないでいた。
「どうだい?警察に自首する気になった?」
スパイダーマンはライダーの目の前に立ち、彼女に説得を試みる。
「……」
だがライダーはスパイダーマンから言葉を掛けられても無言のままだ。
「仕方ないな…それじゃこのまま君を連れて警察に…」
スパイダーマンがそう言おうとした矢先だった。スパイダー・センスが反応したため、辛うじてライダーの攻撃を回避する事ができたが、ライダーの短剣がスパイダーマンの頬を僅かに掠める。
即座にスパイダーマンは後方に跳躍しつつライダーと距離を取って前方を見ると、そこにはウェブの拘束から抜け出していたライダーが立っていた。ライダーの身体が一瞬だけ消失したように見えたが、直ぐにライダーが現れ、スパイダーマンに攻撃を加えたのだ。
「驚いたな…ウェブの拘束からどうやって脱出できたの?」
スパイダーマンの問いかけにライダーは答えない。ライダーの後ろには先ほど彼女の身体に巻き付けたウェブの塊が置かれている。スパイダーマンはどうやってウェブの拘束から逃れられたのかと思考を巡らせていたが、ライダーはサーヴァントとしての能力である「霊体化」を用いてウェブの拘束から抜け出したのだ。魔術的な力の無い物質的なスパイダーマンの糸では霊体化したライダーを拘束する事はできない。
「こりゃ不味いかもね…」
スパイダーマンはライダーと距離を取ると、ウェブを射出する構えを取った ライダーはスパイダーマンの隙をついて、スパイダーマンに向かって鎖を射出した。スパイダーマンはウェブを発射して鎖を弾き飛ばす。ライダーはスパイダーマンに向かって跳躍すると、鎖を用いてスパイダーマンの身体を縛り上げた。ライダーはスパイダーマンの身体を持ち上げ、先程のお返しとばかりにそのままスパイダーマンの身体を地面に叩き付ける。
「ぐ…!?」
流石にスパイダーマンもこれにはダメージを受け、苦悶の声を上げる。ライダーは追撃とばかりにスパイダーマンの腹に蹴りを入れ、さらにスパイダーマンを殴りつけた。
(ヤバい…!意識が飛びそうになる…!)
ライダーの拳をまともに受けたスパイダーマンは壁に激突する。壁が崩れ落ち、瓦礫が周囲に散乱した。ライダーは鎖を引っ張り、鎖に巻き付かれた状態のスパイダーマンを勢いよく引き戻す。
そしてスパイダーマンの身体が引き寄せられるのと同時に、スパイダーマンの顔面に蹴りをカウンター気味に叩き込んだ。スパイダーマンはまたしても吹き飛ばされ、そのまま勢いよく地面を転がった。
「くっ……」
ライダーは鎖に拘束された状態のスパイダーマンを再び引き寄せる。
「貴方には宝具を使うまでもない。これ以上抵抗すれば苦痛が長引くだけです」
ライダーは恐ろしく穏やかな口調で言うと、スパイダーマンの身体に馬乗りになり、マスクを外して首元に噛みつこうとする。
「できれば苦痛は少ない方がいいでしょう?」
「君みたいな美人が人を襲ったりしちゃダメだよ。あの慎二っていう子が君のマスターかい?」
スパイダーマンが問いかけるが、メドゥーサは答えない。バイザーで目が隠れているとはいえライダーが恐ろしく妖艶な美女だという事はスパイダーマンでも分かった。だが美女とはいえライダーは普通の人間を遥かに超える力を持つサーヴァントである。このままでいればやられるだけだし、かといってスパイダーマンにライダーを倒す術はない。ならばどうするか?スパイダーマンは素早く思考を巡らせる。サーヴァントは魔術的かつ神秘的な力を持った存在という事をストレンジから聞かされていた。
しかしだからといって自分の攻撃がここまで通じないとはスパイダーマンも想定していなかった。ウェブで拘束しても先程のように脱出されるだけだし、物理攻撃を叩き込んでも余り手応えがない。ハルクやゴーストライダー、ミズ・マーベル、アイアンマンといったヒーローはこの世界に来ていない。
恐らくヴェノムでさえもこのライダーを倒すのには苦労する筈だ。
「貴方はサーヴァントでも魔術師でもない…。何者ですか?」
「通りすがりの親愛なる隣人だよ。さっきみたいな事はしちゃいけない。路地裏で君に襲われた女の子が君に何をしたのさ」
「……私はサーヴァント。マスターの命令には従わないといけない。それに貴方には関係の無い事でしょう?」
「命令でもダメだよ。君はもっと自分を大事にしないと」
「……貴方には私のようなサーヴァントの事は分かりません。サーヴァントはマスターである魔術師と契約した身なのです。サーヴァントはマスターに使役される道具に過ぎないのです。貴方には理解できないでしょうけどね」
ライダーは続けてスパイダーマンに言う。
「それに貴方には私を殺そうという意思や殺意も見受けられなかった。自分の命が危ういというのに他人の心配をするなんて、そんなのお人よしを通り越して愚かです」
「お人よしで結構だよ。僕みたいなヒーローはヴィランとはいえ殺す事はしない。勿論君もね。ちゃんと警察に出頭して裁判を受けるんだ。僕の知り合いに優秀な弁護士がいてね、マスターであるさっきの慎二っていう子に脅されたって言えば裁判で有利になれるよ?」
スパイダーマンはこの状況でも軽口を叩く。目の前にいるライダーがグリーンゴブリンやカーネイジのような邪悪なヴィランではない事はこうして会話しているだけでも分かる。
「貴方は馬鹿なのですか…?私がマスターの命令に背く訳がないでしょう?ですが…貴方は優しいのですね」
ヒーローは基本的に不殺が鉄則な上、犯罪者は司法の裁きに委ねる。聖杯戦争に参加している魔術師やサーヴァント達からすれば馬鹿げた話かもしれない。しかし、それがスパイダーマンにとっては当たり前の事だった。そしてライダーはスパイダーマンに顔を近づける。ライダーの吐息からは甘い香りがした。
「先程私がした魂喰いは貴方には関係のない事でしょう?私のマスターが私に何を命令しようと貴方には関係がない。貴方はヒーローのつもりかもしれませんが、それは大きな間違いですよ。ヒーローというのは誰かを助ける為に存在するのではなく、自分を救う為に存在するのです。貴方は自分の事しか考えていない。それこそ本当の意味では誰も救えない。だから貴方は何も守れない」
ライダーの言葉を受けて、ピーターはかつで自分の傲慢な行いのせいで亡くした伯父の事を思い出す。
―――――大いなる力には、大いなる責任が伴う。
そう言い残して伯父はこの世を去った。それ以来、ピーターは伯父の言葉を原動力としてヒーロー活動を続けていた。だがそのヒーロー活動はある意味で自分が救われたいという気持ちもあったのかもしれない。地道なヒーロー活動をしても、偏向報道を用いてバッシングしてくる者は存在していたが、それでもニューヨークの市民は自分達の為に戦ってくれるスパイダーマンに感謝していた。
「……確かに僕は自分が救われたいっていう気持ちもヒーロー活動を続ける動機に入っていたかもしれない。けど…抗う力を持たない人達の為に戦ってきたという自負はあるつもりだ」
「そんなのは偽善です。結局貴方は自分が称賛されたいからヒーローになっただけ」
ライダーは冷たく言い放つ。
「そうだね。僕だってヒーローになる前はただの高校生だった。だけど、スーパーヒーローは誰かの為に戦う存在なんだ。そういう君は誰かに…救いを求めた事はあるのかい?」
「……」
だがライダーは答えない。
「もう話す事はありません。これから貴方の精を奪います。ですが…出来るだけ苦痛は少なくしてあげます」
そう言ってライダーはピーターの首筋に牙を立てた。
スパイダーマンって本来はもっと強いんですけど、私としては「神秘の入っていない攻撃はサーヴァントに通じない」という設定をどうしても守りたいんで、ライダーさんに負けちゃってます(;'∀')
本来は無口なのにやけにライダーがお喋りなのですが、そこは目を瞑ってください(-_-;)
スパイディじゃハルクみたいに物理法則を強行突破できるだけの並外れた腕力は無いわけですし(原作コミックスじゃ殴り合いは演じていますが、それでもハルクの持つ無限の腕力には及んではいないと思います)
ウェブで拘束しても霊体化使われたら脱出されちゃうんで、ぶっちゃけスパイディじゃサーヴァントの相手は相当厳しいだろうと思い、今回の内容になっています(スパイディは不殺なんでその辺も関係している)