アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです   作:ドレッジキング

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今回は番外編で、FGOの立香視点になります。思えば立香って本当に過酷な戦いを続けているんだな…。今作の立香はギリシャと妖精國で受けた精神攻撃によって心が疲弊している状態。

時系列的には13話でパニッシャーさんが牢屋から解放される前です


番外編① 心の軋み

話は少し前に遡る…。

 

 

特異点修復の旅の過程で多くの出会いと別れがあったのは事実だ。それらがあったからこそ今の自分がある事を立香も十分に理解している。カルデアでのマシュとの出会い、ダ・ヴィンチとの出会い、ドクターとの出会い…。

 

 

そんな立香も今はノウム·カルデアに身を置いて漂白化された地球を取り戻す戦いに身を投じている。これまで立香は諦める事なく、屈する事なく戦いを続けてきた。

 

 

妖精國における『失意の庭』を脱した立香を後輩は笑顔で出迎えてくれた。

 

 

――――そう

 

 

 

――――立ち上がって当たり前

 

 

――――前を進んで当たり前

 

 

――――折れないのは当たり前

 

 

――――戦い続けるのは当たり前

 

 

――――人類最後のマスターであるのは当たり前

 

 

 

 

俺は…みんなが望む『当たり前』でなきゃいけない――――

 

 

そんな立香の心にとある声が響いてきた。立香の心の奥底…魂の深淵から響くような声だった。

 

 

 

『けど…そんな必要ホントにあるのかい?そう望まれたから戦ってるんじゃないのかな?』

 

 

聞こえてきた声は立香に対してこう言ってきた。

 

 

 

『自分の苦しみを本当にマシュ達は理解してるのかい?戦ってくれるのが当たり前な事をキミに強制してるとは考えないのかい?』

 

 

それは今まで聞いた事のない、まるで誰かが自分の心の中に入り込んでくるようだった。そしてその言葉を聞いた瞬間、立香は自分の体が重くなったように感じられた。

 

 

『立香、自分の意思を持つべきだよ…言わなくても分かってくれるなんて期待しない方がいい。だってマシュはキミがどんな状況でも折れない、諦めない頼りになる先輩だと思っているのだから。キミがどれ程苦しもうが、立ち上がるのが当たり前だと思っている。それはとても残酷な事だとも知らずに、ね』

 

 

その言葉を言われた時、立香の中で何かが崩れていく音がした。だがそれと同時に立香は思った。この気持ちは何なのか、と。自分は一体どうしてしまったのか、と。

 

(俺は……何なんだ?)

 

 

『立香、キミがどんな窮地や危機であろうと折れない、諦めない、屈しない、負けない、めげない、へこたれない…それが彼等にとっての当たり前なんだよ。彼等はこうあって欲しいとキミに望んでいる。彼等とはキミの仲間であるノウム・カルデアの面々の事さ』

 

 

「…………」

 

 

『まぁ……そうだよね。いくら仲間であっても本当の意味で心を分かり合える事は出来ないだろうし、他人の心の中まで完璧に分かる人なんていない。もしいたらそいつは化け物だよ』

 

 

『誰も彼もがキミに戦う事を求めている。どうも彼等はキミに対して不撓不屈という名の呪いを掛けるのが好きらしい。いや、これはある意味祝福かな?とにかくキミはこれから先もずっと戦わなくちゃいけないという呪縛から解き放たれる事はない。お気の毒様』

 

 

「……」

 

 

『だってマシュや彼女以外の人間もそれしかキミに望まないから。頼りにされているし、信頼されている。そして必要とされている』

 

 

「……」

 

 

『思い出してごらん、キミが南極のカルデアに来た理由を。何故自分が連れてこられたのかを…』

 

 

立香は献血と称して街中でスカウトされ、半ば騙された形で南極のカルデアに連れてこられたのだ。そして立香は48人目のマスターとして、他のマスター達と共に過去の時代に発生した特異点の修復に向かう予定だった。しかしレフ・ライノールの工作によって爆破されたコフィンにいたマシュを救出して以来、立香は人類最後のマスターとして特異点の修復を行い、冠位時間神殿にて魔神王ゲーティアの野望を打ち砕き、人理焼却から世界を救った。

 

 

しかしそれから三か月後、地球は宇宙から飛来してきた空想樹によって白紙化し、カルデアの襲撃を仲間と共に逃れた立香は再び戦いに身を投じる事になったのだ。現在は彷徨海に身を置き、ノウム・カルデアのメンバーとして世界に散らばった空想樹を切除して回っている。空想樹…異聞帯は並行世界論にすら切り捨てられた「行き止まりの人類史」である。異星の神の侵略兵器として異聞帯が用いられ、ノウム・カルデアは白紙化された地球…汎人類史を取り戻すべく空想樹を切除しているが、空想樹を切除する事は即ちその空想樹があった異聞帯を滅ぼすという意味である。立香は異聞帯の世界を滅ぼしているという罪の意識に苛まれていた。ロシアの異聞帯でパツシィから投げかけられた言葉を胸に、ここまで頑張ってきた。

 

 

『立香、キミは何故自分がこんな戦いに身を投じなければならなくなったのかを考えた事はあるかい?人類最後のマスターになってしまったのは仕方がないにしても……キミはカルデアから戦う事を強制され続けてきた。拒否できる状況でなかった、逆らえる状態ではなかった。だってキミしか人理を修復する人材がいなかったのだから。状況を考えてもカルデアがキミに課した使命は過酷過ぎる。なのにキミは文句一つ言わずに人類最後のマスターとしての責務を果たしてきた。人類最後のマスターである事に誇りを持っているのかい?』

 

 

「それは…思っている。カルデアに来たからこそマシュやダ・ヴィンチちゃん、ドクターに会えたんだから。俺はみんなの期待に応えたい。応えられる存在になりたい」

 

 

『そんなものは単なる結果論だよ。何にせよカルデアはキミを騙す形で南極に連れてきて、キミは特異点修復の旅路を歩む羽目となった。キミのような男の子を過酷な戦場に放り出したのはカルデアだ。自分達の都合でキミを補欠要員として連れてきて、他のマスター達が死亡すれば今度は人類最後のマスターとして祭り上げる…。実に身勝手じゃないか』

 

「そんな事はない!確かにカルデアに来なければ今頃普通の学生として過ごしていたかもしれない。けど、俺のやってきた事が無駄だったとは思えない!」

 

 

『そう思うのはキミの自由だ。けどね、キミはカルデアに振り回されてきただけで、本当は何もしていない。特異点修復の旅で様々な出会いがあってそれでキミが成長したのを否定はしないさ。だが、キミが命がけの戦いに身を投じる原因を作ったのは間違いなくカルデアじゃないか?」

 

 

確かに言っている事は間違っていない。立香は魔術とは無縁の一般人だった。だが、それでも彼はマシュと出会い、ダ・ヴィンチやドクターに出会い、多くの英霊と出会ってきた。それは紛れもない事実だ。

 

「それは……」

 

『いいかい?そもそもの話、キミはスカウトされなければ只の一般人の学生としてごく普通の生活が送れる筈だったんだ。それをカルデアは壊した。キミの歩む"普通の人生"を踏みにじり、キミに人類の未来を背負って戦えと言ってきたんだ』

 

「それは……違う。あの時は俺もマシュも、ダヴィンチちゃんもドクターも必死だった。それにみんなだってそうだった。マシュもダヴィンチちゃんもドクターも必死になって戦ったんだ……それを否定する事は誰にもできない……!!」

 

『特異点の修復と魔術王の野望を食い止めるという偉業を成し遂げたのは私は素直に賞賛したい。だが問題はここからだ。これまでキミは白紙化した地球に散らばった異聞帯にある空想樹を切除してきた。だが空想樹を切除するという事は、その異聞帯の世界を滅ぼすという事。カルデアはキミに"世界の破壊者"としての業すらも背負わせた。実に悍ましい話だと思わないかい?』

 

「……ッ!?」

 

『その通り。カルデアはキミにそんな業を押し付けてきた。キミは自分から望んで世界を救った英雄になりたかった訳じゃない。キミはそんな事を望まなかった。望んでなんかいなかった。ただ普通に暮らしていけたらよかっただけ』

 

 

言っている事は何も間違ってはいなかった。「行き止まり」の人類史である異聞帯の空想樹を切除すればその異聞帯は消滅する。異聞帯で暮らしていた沢山の人々も剪定された歴史と共に消滅してしまう。

 

「けど……そうしなければ人類は滅んでいた。それは確かな事だろ……?だから俺は今まで戦ってきた。それが俺の役目だから。例えどんなに辛くても、苦しくても、悲しくても、やり遂げなきゃいけない事なんだ。だって……俺は人類最後の……」

 

 

『……キミは一度として自分の置かれた状況に憤りを見せなかった。周囲からの期待に応え、何度も立ち上がり続け、幾度も戦い続けた。しかし"普通"という生き方を否定して、ここまで過酷で残酷な旅路を歩む事への憤りはないのか?悔しさは感じないか?』

 

「それは……」

 

立香は命が幾つあっても足りないような状況に放り込まれ、その度に心が折れそうになりながらも立ち上がり、戦い抜いてきた。それは確かに自分の為すべき事で、やらなければならない事だから、と自分に言い聞かせて戦って来た。だが、心の奥底ではいつも疑問に思っていた。どうして自分はこんな目に遭わなければならないのか、と。

 

(俺は……何なんだ?)

 

この感情は何なのか。立香は自分自身の気持ちがよく分からなくなっていた。

 

『キミは人類最後のマスターなんてものに選ばれてしまった。だけど、それはキミが望んだ事ではない。キミは望まずして人類最後のマスターとなってしまった。だからキミはずっと悩んでいたんだろう?』

 

「……」

 

『キミは自分の意思を押し殺してまで戦い続けてきた。でも、キミはもう我慢の限界だろう?こうして見ているだけでもキミの心が限界を迎えているのが分かる。

 

このままじゃいつか本当に壊れてしまう。1ダースの聖杯を望んでいる時点でもう"普通"の生活には戻れないだろう。キミは身も心も汎人類史を取り戻す為に戦う"人類最後のマスター"になってしまった』

 

 

これまで立香はずっと自分の意思を抑えてきた。人理焼却という非常事態に、人類最後のマスターとして戦う事を受け入れた立香は特異点修復の旅路を歩み、冠位時間神殿においてゲーティアを倒し、見事人理の焼却を防いだ。そして白紙化した地球を取り戻すべく異聞帯の空想樹を切除する日々が始まり、残す空想樹は後一つだけとなった。長きに渡る戦いで、すっかり"普通"から遠ざかった立香だったが、未だに戦い続ける。

 

『キミはずっと傷ついていた。キミは心の奥底では本当は普通の人間として生きていきたいと思っている。カルデアでの生活や、人理を取り戻す為の戦いが長引いたせいで、その感情は消えかかっているが、確かにキミの深層心理に残っている。だがキミはそれを表に出したりは決してしない。そんな事を望むのは許されない事だとキミ自身が無意識に思っているからだ』

 

 

普通の生活、普通の日常、普通の人生…今の立香にはすっかり遠くなったものだ。戦い続ける度に普通から遠ざかっていく感覚、カルデアで過ごす程に普通から切り離されていく感覚があった。

 

『立香、キミは自分の意思をハッキリとマシュやダ・ヴィンチに伝えるべきだ。これまでずっと自分の意思を殺してまで特異点修復や空想樹の切除をしてきたが、キミはもう限界だ』

 

「……」

 

『キミを騙して利用し続けたカルデアに対して怒りの一つでも言っていいんじゃないか?キミにはその権利も資格も十分にある。何も戦いから逃げろと言っているんじゃない。ただ、自分の中の憤りを存分にぶつけてもいいんじゃないかい?』

 

「そうかもしれないけど……」

 

『立香、キミはもう疲れたんだろう?マシュやダ・ヴィンチに本音を打ち明けるのなら今だ。今しかない』

 

「……」

 

『キミはこれまでずっと戦い続けて来た。辛い事もあったが、それでもキミは頑張って来た。自分の人生を犠牲にしてまで、自分の気持ちを殺しながら、それでも前に進み続けた。キミは立派な男だ』

 

「けど俺は…そんな弱音をマシュやダ・ヴィンチちゃんの前で言いたくはない。俺はマシュにとって頼れる先輩でありたいから…」

 

『強迫観念に囚われているね。キミはまだ若いんだ。もっと年相応の振る舞いをした方がいい』

 

「……」

 

『マシュは…あの子はキミがどれだけ立派な存在であるべきだと思っているのだろうね。キミは等身大のどこにでもいる普通の少年だというのに。マシュはキミに対して常に"理想の先輩"である事を求めている。だが不幸にもそれがキミにとっての"呪縛"となっているのだ』

 

「どういう…意味なの…?」

 

『キミはマシュの前では立派な先輩として振舞おうとする。弱音を吐かないし、絶望もしない。常にマシュにとっての手本となるべき存在であろうとしている。だがそれこそが"呪い"であり、キミの心を追い詰めている。キミはマシュの事を思い、本当の自分を隠して偽物を演じている』

 

「違う……俺は……」

 

『違わないさ。キミはいつだってマシュや他のカルデアの人間達の為に"自分"を押し殺してきた。だがもうその必要はない。キミは十分に苦しんだ。キミはマシュに「自分」を見せるべきだ。キミはもう楽になるべきだ』

 

「……」

 

『キミはマシュに弱い自分を見せたくなくて、強い自分を演じ続けてきた。だがキミがいくら強くあろうとしても、キミが元々"普通"の少年である事実は変わらないというのに。立香、自分の本心を偽るのはもうやめにしよう。キミはもう十分に苦しんだ。これ以上自分を誤魔化すのは止めよう』

 

「……」

 

『マシュはキミの事を"普通の男の子"である事を望まない。マシュはキミの事を"普通の少年"ではなく、"頼りになる先輩"であり続けて欲しいと望んでいる。一見すると矛盾しているが、これは当然の話だ。何故ならマシュはキミが"普通の少年"であるという事を知らないのだから』

 

「ッ!?」

 

『そうだ。マシュは知らない。キミの事を"頼りになる先輩"としてしか見ていない。キミの苦しみに気付いていない』

 

確かにマシュの前では常に"頼りになる先輩"として振舞ってきた。恐怖を押し殺し、迷いを断ち切り、悩みを振り払い、戦い続けた。

 

だが、そんな日々はいつまでも続かなかった。立香は心の中で少しずつ不安を募らせていった。自分は本当に正しいのか、間違ってはいないのか、と。

 

『キミは"普通"に戻りたかった。普通に学校に行って、普通に友達と遊んで、普通に勉強をして、普通に部活に打ち込んで、普通に恋をする。そんな普通な生活をしたかった』

 

(あれ…なんでこんなに…?)

 

『だが、キミはそんな普通な生活からは程遠い人生を歩んできた。キミは普通とは程遠く、過酷な運命を背負ってしまった』

 

(何でこんなに…苦しいんだろう…?)

 

立香の目からは熱い液体が流れてくる。それは涙だった。今まで抑え込んできた感情が一気に溢れ出したかのように、立香は自分の頬を流れる温かい感触を感じ取った。

 

(どうして俺はこんなに苦しい思いをしてまで戦わなくちゃいけないんだろう?俺の人生って何なんだ?俺の今までの努力は何の為にあったんだ?俺が何のために戦ってきたのか分からない……)

 

立香はカルデアに身を置いて戦場に行く時点で、"普通"である事は許されなかった。魔術師の世界に適応し、人理修復という偉業を成し遂げた時、彼は初めて自分の人生が報われた気がした。しかし人理修復を果たしても、まだ立香の戦いは終わっていなかった。異聞帯を切除する度に、自分の心には罪悪感が芽生えていくのを感じた。

 

戦えば戦う程、"普通"から遠ざかって行った。戦い続ける度に、自分の心が擦り減って行く感覚があった。自分は一体何をしているのか、自分は何の為に生きているのか、自分はどうしたいのか、と様々な疑問と葛藤が生まれてきた。

 

(俺は……みんなが望むような人間じゃない……本当は……普通の人間なのに……!)

 

立香は震える自分の身体を抑えながら、目から大粒の涙を流している。彼はこれまでの旅路でずっと抱えてきた感情が、遂に爆発してしまった。思えばカルデアに来たあの日から全てが始まったのだ。人理修復という目的の前には自分個人の余計な感情は切り捨てるべきだと、立香はずっと思っていた。

 

『立香、キミはマシュに"本当の自分"を見せようとしていない。キミはマシュにとっての"理想の先輩"であるように心がけているが、あの娘はキミの本心を…苦しみを理解さえしていない。これまでキミはあの娘に対して自分が抱える"弱さ"を見せなかった。"弱音"なんて吐かないし、"恐怖"なんてもってのほか。マシュはキミの苦しみを分かってあげてはいない』

 

「……俺は……俺は……」

 

立香は言葉が出てこない。頭の中では色々な言葉が浮かんでは消えていくが、言葉にならない。言葉が見つからない。これまでずっと溜め込んでいたものが、堰を切ったように流れ出す。

 

『キミはずっとマシュの「理想の先輩」として振るまい続け、弱音を吐かず、恐れず、絶望せずに立ち向かってきた。キミはマシュの前ではいつも強者であり続けた。マシュの前で弱みを見せなかったのはキミ自身だ』

 

「……」

 

『だがそれは逆に言えば、「自分の弱さを他人に見せられない」事でもある』

 

「……」

 

『いいかい?人間は誰しも弱い部分を持っている。誰もが自分の弱さを知っているし、自分の弱さに向き合っている。そしてそれを克服しようと努力もしてきた。しかしキミの場合は、自分の弱さと真正面から向かい合っていない。マシュに弱音を吐かないように、マシュの前では強くあり続けた。だがそれこそがキミの心を深刻に蝕む呪いになっている』

 

「……うぅ……」

 

立香は嗚咽を漏らしながら泣いていた。今まではこうして「泣く」という行為さえもできなかった。自分の感情を押し殺し、空想樹を切除し異聞帯を滅ぼしていく…。その過程で多くの人々の命を奪う事となっても人類最後のマスターとして受け入れなければならなかった。だが今は涙が止まらない、溢れ出てきて止まらない。だが声は優しく立香に語り掛ける。

 

『恨んでもいいのだ、怒ってもいいのだ。それだけの権利はキミにはある。マシュはキミの苦悩を理解していない。キミの苦痛を何も分かっていない。だがそれも今日まで。今こそ"本当の自分"をマシュやダ・ヴィンチ、他のカルデアの面々に見せてやるんだ。今まで抑え続けてきたものを吐き出すといい』

 

その言葉と共に、立香は自分の部屋のベッドで目を覚ました。ベッドの横にはマシュとダ・ヴィンチがおり、心配そうに立香を覗いている。

 

「あ!目が覚めましたか?良かったです!」

 

「おはよう藤丸君、熱は無いかな?さっき廊下で倒れてたからびっくりしたよ」

 

立香はマシュとダ・ヴィンチの顔を見る。

 

「そうだったの…。とりあえずありがとう。所でマシュ、ダ・ヴィンチちゃん。俺から話があるんだけどいいかな?」

 

「はい、私で良ければ何でもお話しください」

 

「うん、なんでも言ってくれたまえ」

 

立香はゆっくりと口を開く。

 

「俺は…今までずっとカルデアから戦いを強制されてきたんだよね?」

 

立香の口から出た言葉にマシュとダ・ヴィンチは目を丸くする。2人は互いに顔を見合わせるとダ・ヴィンチが答える。

 

「ふむ……それは少し違うんじゃないかな?藤丸君は今までの戦いの中で様々なものを見て来たはずだよ」

 

「…………」

 

「異聞帯での悲しい別れや苦しい戦い……それを乗り越えて新たな未来を切り開く為に戦って来たじゃないか」

 

「そうさ!藤丸君のこれまでの旅路は決して無駄じゃない!私達はこうして今も生きているだろう?」

 

「ああ、そうだな」

 

「俺は街中を歩いている時、騙されてスカウトされて南極のカルデアに来たんだ。正直、人類最後のマスターになるとは思っていなかったけど、オレをあんな特異点修復の旅に行かせる事になったのは全部カルデアのせいじゃないか。俺は望んでカルデアに来たわけじゃない…ただ、騙されただけなんだ…」

 

立香は唇を噛みしめながら言う。その表情は悲痛そのものと言っていい。人類を救う為とはいえ、立香にとっては辛い事ばかりであった。立香は異聞帯と呼ばれる異世界を滅ぼさなければならないという使命感に駆られていた。もし自分が普通の人間だったらどうしていただろうかと考える。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、正直に言うと俺は自分を戦いに巻き込んだカルデアに対して怒っている。あの時はそんな怒りを抱いている時間さえ無かったけど、今思えばカルデアの都合で俺は南極に連れてこられたんだ…」

 

立香はベッドから出ると、立自分の部屋の壁を拳で殴りつける。立香は自分を戦いに巻き込んだカルデアに対して明確な怒りを抱いていた。カルデアにスカウトされなければ平凡な日常を謳歌できたかもしれない。

 

立香は今までの戦いを振り返る。最初は右も左もよく分からないまま、人理焼却という世界の危機を知らされ、自分は人理を守るという目的を与えられた。それから数多の困難や試練があり、その中で多くの出会いと別れがあった。

 

マシュとの出会い、ダ・ヴィンチやドクターと過ごした日々…。だがずっとその間、立香は自分の中の恐怖や嘆き、悲しみ、憤りを抑えてきた。自分はそれを誰にも悟らせない様に振舞ってきた。だが夢の中で聞こえた声に従い、立香は今こそ自分の中の意思をマシュやダ・ヴィンチに話すべきだと決意する。

 

「先輩…大丈夫ですか?どこか具合が悪いんですか!?︎」

 

マシュの声を聞いて我に返ったのか、先ほどまで壁を殴っていたはずの右手からは血が流れており、立香の手からも出血している。

 

「マシュ…ダ・ヴィンチちゃん…俺は……自分から"普通の生活"を奪ったカルデアに対して怒っているんだ……」

 

「普通の生活……?それはどういう意味だい?」

 

ダ・ヴィンチは首を傾げる。

 

「俺は……カルデアに来るまではごく一般的な学生生活を送っていた。勉強をして、友達と遊んで、部活をしたり、バイトしたりして……。俺は平凡だけど楽しい生活を過ごしていた。でもカルデアに来てから一変してしまった。特異点修復の為にレイシフトして、敵を倒して、また次の場所に行って……。気が付けばいつの間にか人類の命運を背負って戦うようになって、普通の生活を奪われたんだ……」

 

「……」

 

「マシュ、ダ・ヴィンチちゃん、これは俺が今まで誰にも言えなかった本音だ。俺はもう嫌だ、普通の生活に戻りたい……。だからカルデアなんて辞めさせてくれ」

 

「えっ……」

 

「待ってくれ、ちょっと落ち着こうか」

 

マシュは驚きのあまり声が出なくなり、ダ・ヴィンチは冷静に対応する。

 

「君の言いたい事はわかるよ。でも、それは少し違うと思う」

 

「何が違うんだよ!!カルデアが無茶苦茶にしなければ俺は普通に学校へ行って、普通に友達と遊んで、普通の何気ない生活を送れたはずなのに!!」

 

「落ち着いてくれ藤丸君。確かにキミは騙された形でカルデアに来てしまった。だが、そこから始まった旅路は全て無意味なものじゃなかったはずだ。だってキミは色々なものを見たろう?」

 

ダ・ヴィンチは立香の目を真っ直ぐ見ながら話す。

 

「私はキミが経験してきたものは無駄ではないと思っている」

 

「……確かに、結果だけ見ればそうかもしれない。けど俺は…本来なら命がけの戦場に立つような立場じゃなかった筈だ。それどころか普通の生活を送っていてもおかしくはなかった。それがいきなり世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれて、普通では考えられないような過酷な旅を強いられているんだ…!」

 

「うーん、キミの気持ちはわかる。だがね、私はキミに感謝しているんだ。キミがいてくれたからこそ、私たちはここまで来ることができたんだ」

 

ダ・ヴィンチは笑顔で言う。

 

「私はキミがいたおかげで助かった。キミは何度も私たちを助けてくれた。キミは世界を救った英雄だよ。キミは世界を救う為に戦った。そしてキミのおかげで世界は救われた。私はキミに心から感謝している」

 

「……ダ・ヴィンチちゃん……君は俺に"英雄"でいる事を望んでいるんだね……」

 

立香は光のない瞳でダ・ヴィンチを見る。

 

「そうだとも。キミは世界を救う為に戦って、世界を取り戻した。キミは間違いなく世界の英雄だ」

 

「……」

 

「私はキミを誇りに思っている。キミの勇気ある行動に私は敬意を払ってる。キミは素晴らしい。キミは凄い。キミは強い」

 

ダ・ヴィンチの言う通り、特異点修復の旅は無駄ではかったのは事実だ。修復の過程で様々な出会いと別れがあった。それらがあってこそ今の自分がいて、世界を取り戻す事が出来たのも間違いはない。だがそれは同時に立香が背負わされた責任でもあった。世界を救う為に戦い続けなければならないという重圧もあった。

 

ごく普通の高校生として、ごく普通の生活をしていた立香にとって余りに重い責務だった。だが、ダ・ヴィンチはそんな彼に"世界を救うために戦い続けた"という"功績"を与えようとした。"世界を救う為に戦い抜いた"という"偉業"を与えた。

 

「藤丸君は世界を救ったんだ。キミのやった事は偉業であり、偉業を成し遂げた者は称賛されるべき…」

 

「そんな事を言っているんじゃない!!!」

 

立香は気が付けば怒鳴っていた。

 

「英雄英雄って…みんなはいつもそればっかりだ……。どうしてそこまでして戦わなければならないの?俺には英雄でいてもらいたいの?俺には普通の…普通の生活はさせてもらえないの…?」

 

立香は気が付けばダ・ヴィンチを睨んでいた。

 

「普通の生活を送りたかった。ただそれだけなんだ。それのどこに非があるっていうんだよ!なんで俺はこんな事をしているんだ……。誰か……教えてくれよ……」

 

「先輩…落ち着いてください……」

 

マシュは立香に寄り添う。立香の目からは涙が流れていた。

 

「マシュ……ごめん……」

 

立香は落ち着きを取り戻してダ・ヴィンチに言う。

 

「ごめん。感情的になっちゃって……」

 

「構わないさ。むしろもっと吐き出してくれたまえ。キミが感じてきた痛みや苦しみはキミにしか分からないんだ。その苦痛を少しでも共有したい。私に出来ることがあれば何でも言ってくれたまえ」

 

ダ・ヴィンチは立香に微笑みかける。

 

「ありがとう……。少し落ち着いたよ。マシュも心配かけてゴメン……」

 

「いえ、気にしないで下さい。それにしても、マスターがそのような事を思っていたとは思いませんでした。ですが、先輩は頼もしい人だと思っています」

 

マシュも立香の言葉を聞いて安心したのか笑みを浮かべる。思えばマシュの前では常に"頼もしい先輩"であろうとし続けた。マシュが自分を頼ってくれる限り、自分はマシュの先輩でいようと決めていた。だが、今は違う。

 

「マシュ…俺の本心を聞いて失望したかい?俺は"頼りになる先輩"なんかじゃないんだ…。どこにでもいる、平凡な高校生の藤丸立香なんだ…。マシュはこんな俺を…こんな俺を受け入れてくれるか…?」

 

立香は消え入りそうな声でマシュに尋ねる。

 

「先輩……。私はどんな先輩でも受け入れます。先輩が普通の生活を送りたいと願っているのであれば、私も力になりたいと思っています」

 

「マシュ……」

 

マシュは真剣な表情で立香に語り掛ける。

 

「先輩……。私は先輩がどのような決断をしようと、先輩に付いていきます。だから……どうか……辛い時は……苦しい時は自分の心に正直になって欲しいんです……。自分の本当の気持ちを偽らないでほしいのです……。私はどんな事があっても、先輩の味方でいたいんです……。それが私の願いなんです……」

 

「マシュ……。うん、わかった……。自分の気持ちをちゃんと伝えるようにするよ……」

 

立香は今まで抑え続けてきた自分の思いをマシュとダ・ヴィンチに打ち明ける事ができて、胸のつかえが取れた気がした。

 

「マシュ…ダ・ヴィンチちゃん…胸を借りていいかな…?凄く…涙を流したい気分なんだ…」

 

立香の言葉にダ・ヴィンチは笑顔で答える。

 

「ああ、もちろんだとも。思う存分泣いてくれてかまわないさ」

 

「はい、どうぞ」

 

ダ・ヴィンチとマシュは立香に歩み寄ると、立香を抱きしめた。まるで悲しみに暮れる我が子を慰める母親のように…。

 

「うっ……ぐすっ……ひくっ……」

 

立香はまず最初にダ・ヴィンチの胸の中で泣き始めた。少女のようなダ・ヴィンチの身体だが、立香にとって自分の苦しみと悲しみを受け止めてくれる大きな存在に思えた。

 

「辛かっただろう……。キミは本当によく頑張った。キミは世界を救い、そして世界を救った。それは紛れもない事実だ。だから…溜まった怒りや悲しみは全部吐きだしてくれ。キミはずっと自分を抑えてきたんだ……だから今は思いっきり泣いていい」

 

「ダ・ヴィンチちゃん……うぅ……うわぁああん……!」

 

立香は自分の中の感情を全て吐き出すかの様に大声を上げて泣いた。

 

「よしよし……大丈夫だよ。キミはよく頑張った……キミがどれだけ苦しもうが、私はキミの味方だ……!」

 

ダ・ヴィンチは優しく立香の頭を撫でる。そして今度はマシュの胸に飛び込み、思い切り涙を流した。

 

「うぅ…マシュ…マシュ…!さっきはゴメン…!ううう……!」

 

「いいんですよ、先輩。私はずっと先輩の側にいますから……」

 

マシュは泣いている子をあやす母親のように立香を抱きしめる。

 

「先輩、私で良ければいつでも相談に乗りますからね」

 

「ありがどう……!マシュ……ダ・ヴィンチぢゃん……!」

 

「よしよし……落ち着くまでこうしていよう……」

 

「はい……」

 

ダ・ヴィンチとマシュはしばらくの間、立香が落ち着くのを待ってあげることにした。

 

「ふぅ……ようやく落ち着いてきたよ……」

 

しばらくして、立香はダ・ヴィンチとマシュの二人から離れた。

 

「そうですか、良かったです」

 

「少しは気持ちが晴れたかな?」

 

「うん、おかげさまでね。それと、ごめん…。さっきはつい感情的になっちゃって……」

 

立香は申し訳なさそうにダ・ヴィンチとマシュに言う。

 

「いや、気にすることはないさ。誰だって自分の気持ちをさらけ出したくなる時もあるさ。それに、キミの気持ちは痛いほど分かるつもりだ。キミが背負ってきた重責、キミが味わってきた苦悩、それらはキミにしか分からない。キミの苦しみはキミだけのものだ。けど私とマシュは君が受けてきた苦しみも悲しみも分かち合いたい。キミを支えていきたいと思っているんだ」

 

「はい、私も同じ気持ちです。マスター、私達はあなたの側を離れません。あなたが抱えているもの全て、私が受け止めますから……」

 

「ダ・ヴィンチちゃん……マシュ……」

 

立香はダ・ヴィンチとマシュの二人の言葉を聞いて、胸が熱くなった。二人は自分の心の内を理解し、支えてくれようとしている。その事がとても嬉しかった。

 

「ダ・ヴィンチちゃん……マシュ……ありがとう……」

 

立香はダ・ヴィンチとマシュに感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、立香の心の奥底で舌打ちのような音が聞こえてきたが、立香はマシュとダ・ヴィンチへの感謝の気持ちで一杯になっていたので気が付かなかった…。




自分で書いていて涙腺緩んだ…(´Д⊂ヽ

そりゃ特異点修復や異聞帯での戦いを共に駆け抜けてきた仲間だからそう簡単に仲を引き裂けるわけないよねぇ。


けど本音を吐露したのがマシュやダ・ヴィンチちゃんだったからこの程度で済んでいるけど、相手がギルとかオジマンだったら…(^_^;) 2人でなくても絶対に一部のサーヴァントは座に退去するか、立香をシバきそう。
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