アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです   作:ドレッジキング

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【悲報】パニッシャーさん、今回出番無し


今回は独自解釈回なので苦手な人は注意。

原作では不自然なまでに藤丸君の両親や家族について言及されていないのはもしかして…?と思って今回の話を作りました。


番外編⑤ 立香の両親

パニッシャーが立香の代理マスターとして微小特異点の修復へと向かっている時、立香はマイルームのベッドから重い身体を起こした。ベッドから降りてマイルームにある鏡の前まで来ると、鏡に映る自分の顔をじっと見る。泣き晴らした目は真っ赤に腫れており、目元も赤くなっていた。

 

(……酷い顔)

 

涙は止まっているが、泣いた事で心が空っぽになったような気分だった。今まで溜め込んできたものが一気に溢れ出した反動なのか、何もやる気が起きなかった。

 

「……」

 

しばらくボーっとしていた後、部屋の椅子に座る。立香はこれまで弱音を吐かず、心が折られそうになっても立ち上がり、自分の持てる力を駆使して聖杯探索や空想樹の切除をやり遂げてきた。マシュにとっての"頼れる先輩"として、サーヴァント達にとっての"共に戦うに相応しいマスター”として、皆の先頭に立って戦い続けてきた。しかし、今回の出来事によって自分の心の拠り所だったマシュに八つ当たりしてしまった事に深い罪悪感を覚えていた。

 

自分が抱えている悩みや苦しみを理解した上で受け入れてくれたマシュに対して、自分は何を言ったのか……。マシュは悪くない。悪いのは弱い自分自身だと立香は考えた。今の自分は以前よりも遥かに脆くなっていると嫌が応でも実感した。前からは考えられないような弱音や憤りをマシュとダ・ヴィンチにぶつけ、こうして部屋に閉じこもってメソメソと一人で泣き続ける……。

 

年頃の少年がこのような過酷な任務を続ければ普通は根を上げる。まず常人では精神が壊れてもおかしくない。だが立香は自分が世界にとっての、人理にとっての最後の希望だからこそ今まで頑張ってこれた。だが今はどうだ?こんなにも簡単に折れてしまった。マシュに対してあんな酷い事を言ってしまった。今までマシュは自分に寄り添ってくれたのに、それを拒絶するような真似をしてしまった。

 

「……最低だよ、俺」

 

このまま消えてしまいたい。いっそ死んでしまいたいとさえ思った。自分の置かれた立場に対して憤り、その怒りをマシュとダ・ヴィンチにぶつけるという行為は、これまでの戦い……特異点の修復や冠位時間神殿での決戦、そして異聞帯攻略の際に力を貸してくれた全てのサーヴァント達に対する侮辱ではないか。何故以前の自分からは考えられないような言動を取ってしまったのか。

 

(俺は一体どうすればいいんだ?)

 

自分の気持ちがわからない。自分の行動がわからない。どうしてこうなった?どうしてこんな事になった?何が原因なんだ? 立香は部屋のベッドの上で仰向けになり、天井を見つめながらずっと考えていた。しかし答えは出なかった。だがここ最近苦しんでいてようやく思い出せた事がある。自分の両親の事だ。騙される形で南極まで連れてこられ、それ以降何故か両親の事は頭の片隅にさえ存在していなかった。事実、マシュやダ・ヴィンチ、カルデアの職員達やサーヴァントに対してすら自分の家族の事を教えた事がない。暖かい父、優しい母…立香の想い出の中にある両親との記憶は、南極で目覚めてからの日々で塗り潰されていた。

 

「…………会いたいよ、父さん、母さん」

 

立香は静かに涙を流した。騙される形で南極に連れて行かれた自分を、両親はきっと心配している。連絡を入れようにも人理焼却で実家に連絡するどころではなかった。いや、それ以前に……ゲーティアの野望を打ち砕き、人理焼却を防いだ事で一時的に世界は元通りとなった。その1年後に地球は白紙化するのだが、空白の1年間に、何故自分は実家の両親に連絡を入れる事をしなかったのだろうか…?考えても仕方ないので、まずはシャワーを浴びる事にした。立香は汗ばんだ服を脱ぎ捨てて全裸になると、マイルームに設置されているシャワーを浴びた。熱いお湯が汗まみれの立香の身体に染み渡る。

 

「あぁ~、気持ち良い」

 

シャワーから流れる湯はこれまでの戦いによる古傷だらけの立香の全身にまんべんなく流れていく。実に10日ぶりのシャワーに心身ともに癒される思いだった。

 

 

 

 

 

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マシュはモニタールームの画面に映る立香を見ていた。精神状態が不安定だった立香がようやく起き上がり、熱いシャワーを浴びている様子を見てマシュは安堵する。

 

(良かったです先輩、元気になってくれて)

 

先日の一件以来、立香の精神状態の不安定な状態が続いた為、ダ・ヴィンチの指示によりモニタールームで立香を監視する事にしたのだ。プライバシーの侵害ではないかとダ・ヴィンチに意見したが、立香の状態を考えるとそれが正しい判断であると言われ、渋々監視役を引き受けた。そもそも今までは忍者系のサーヴァント達がマイルームに潜んでマスターである立香の護衛をずっとしていたのだから今更という感じだが…。

 

(それにしても先輩の様子がおかしいですね)

 

いつもならマイペースな感じが漂う立香であるが、今の様子はまるで別人のようだった。普段は穏やかな表情をしている事が多いが、今はどこか悲しげな雰囲気を感じる。

 

(何かあったんでしょうか……?)

 

マシュは自分の考えを頭の片隅の置いて、とりあえずマイルームでシャワーを浴びる立香の姿をじっと見ていた。カメラは360℃全方向に移動でき、好きな角度から立香の様子を観察できる上に、マイルームにいる立香からはカメラの存在は絶対に知覚できないという機能が備わっている。人類最後のマスターであるのだから、生命と身の安全を管理するという目的で作られたのだが、これでは立香のプライバシーは無いも同然ではないか。

 

自分の先輩でありマスターである立香が一糸纏わぬ姿でシャワーを浴びる姿に、流石のマシュも顔を赤らめてしまう。普段のマスターとしての姿とは全く違う無防備かつ艶やかな様子の立香を見てマシュも思わずドキドキしてしまうが、何とか平静を保つ。カメラはシャワールームの中にも移動できるので、画面に映るシャワーを浴びる立香を、マシュはガン見してしまっていた。

 

「こ、これが先輩の身体……。うぅ…」

 

そしてマシュはシャワーを浴びる立香の身体の下の部分にカメラを移動しようとする。年頃の少女として興味津々と言わざるを得ないマシュであったが、そんな事をしたら確実に立香に怒られるので、あくまでこっそりと……。

 

「おや?マシュは藤丸君の身体に興味があるのかな?」

 

「え!?」

 

が、同じモニタールームにいたダヴィンチはマシュがカメラ移動をして立香の下半身を見ようとしているのをしっかりと見ていた。マシュは慌てて言い訳をする。

 

「ち、違います!その、ちょっと気になっただけです!」

 

「ふーむ。まぁ確かに藤丸君は男にしては綺麗すぎるくらいに肌が白いよね。マシュは男の子の裸を見るのは初めてかい?」

 

「は、はい。初めてです……初めてのような、初めてではないような…あれ…?以前にも見たような記憶が…?うぅ……思い出せない……」

 

マシュは正直に答えた。ダ・ヴィンチはマシュの答えを聞くなりニヤリと笑う。マシュはダ・ヴィンチの笑みの意味を理解し、顔をさらに赤く染めながら反論する。

 

「こ、これはあくまでも先輩の様子を見ているだけであって、決してやましい事ではありません!」

 

「うん。わかってるよ。藤丸君が心配なんだろう?私だって彼の事は心配だ。ただ、彼は自分の心の整理がまだできていないみたいでね。暫くの間はそっとしておいてあげてほしい」

 

ダ・ヴィンチが優しく微笑むと、マシュは納得する。

 

「先輩はこれまで弱音の一つも吐かず、自分に課せられた使命から逃げたりせずに戦ってきた。だからこそ、今回の件は相当堪えたのでしょう。ギリシャとブリテンで受けた精神攻撃が元で……」

 

「そうだねぇ。藤丸君はとても強い子だけど、それでもまだ17歳の少年なんだ。辛い現実を突きつけられれば心が折れる事もあれば、悲しみに暮れる事もある。マシュ、これからはもっと彼を支えてやって欲しい。勿論、私も協力させてもらうよ」

 

 

 

 

 

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ずっとマイルームに籠りっぱなしというのも身体に毒なので、久しぶりにマイルームの外の廊下に出た立香は、サーヴァント達で賑わうノウム・カルデアの食堂に来ていた。久しぶりに顔を出した自分達のマスターである立香の姿を見たサーヴァント達は、立香の周囲に集まり、立香の隊長を気遣ってくれた。特にアストルフォは立香の元に駆け寄り、立香の顔色を確認する。

 

「大丈夫なのマスター?何があったのか知らないけど、ボク達に話せるなら相談に乗るよ。あ、でも無理しない方がいいかも。キミの心はまだ傷ついているんだから」

 

優しい口調で言うアストルフォの言葉を聞いた立香は、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「ありがとう。みんなにも迷惑をかけちゃうと思うんだけど……もう少しの間、俺の事を心配してくれるかな?」

 

立香が言うと、ブーディカが食事を持ってきてくれた。

 

「気にする事はないさ。マスターの力になれる事がサーヴァントにとって一番嬉しい事だからね。それに、マスターが元気じゃないと張り合いがないよ。ほら、遠慮なく食べて!」

 

ブーディカはそう言って、食事をテーブルの上に置いた。立香は礼を言い、目の前に置かれた料理を食べ始める。

 

「先輩、食欲はありますか?」

 

マシュに聞かれると、立香はすぐに首を縦に振った。

 

「うん、あるよ。ただ、あんまり量は食べられないけどね」

 

立香は出された料理をゆっくりと口に運びながら、自分が思い出した両親の話を振る事にした。思えばサーヴァント達やマシュにも自分の家族の事は一切話してこなかった。この際なので話しておくべきだと思い、自分の父と母の事について話す。

 

「そういえば皆には俺の家族の事については話してなかったっけ。一緒に戦ってきた皆には話しておこうと思うんだ」

 

立香の言葉に、周囲にサーヴァント達は興味津々といった様子で耳を傾ける。

 

「俺は見た目も性格も父さん譲りって言われてる。特に目元はそっくりなんだ」

 

立香は自分の目を指差す。

 

「性格は父さんの若い頃に似てるって言われる事が多い。だけど、たまーに変わった事をして母さんを困らせたりする事もあったみたいで、そういうところだけは母さん似なのかなって思ってる。あと、口癖とか仕草もよく似てるって言われた事がある」

 

立香は懐かしそうにして、言葉を続ける。

 

「父さんの性格は…まぁ、俺がそのまま大人になった感じだと思う」

 

今の立香は父と母の事を昔に遡るまで思い出す事ができる。何故南極のカルデアに連れてこられてから両親の事を思い出せなくなったのかは分からないが、とにかく今はようやく思い出せた家族の事を周囲に話しておきたい気分だった。自分はサーヴァント達の過去の事を知っているが、サーヴァント達はマスターである自分の過去を知らない。だからこそ、こんな今だからこそ家族の話をするべきだと立香は思ったのだ。

 

「先輩の家族の話を聞いたのは私も初めてです!今まで全然そういうのは教えてくれませんでしたよね」

 

マシュに指摘されると、立香は少し恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 

「いや、なんか改めて家族の話をするとなると照れ臭いんだ……」

 

立香が苦笑いすると、アストルフォが不思議そうな表情を浮かべ、立香に質問をした。

 

「けど何で今まで家族の話をしてくれなかったの?そりゃ人理修復や空想樹切除で忙しかったのは分かるけど、ボク達サーヴァントだってマスターの話を聞くくらいの時間なら作れるよ?」

 

「う~ん、なんていうか、家族に関する記憶を思い出そうとしても頭の中に靄がかかるというか……どうしてそうなっちゃうのは分からないんだけど……」

 

立香は悩んでいると、ふと食堂で食事を取っているムニエルと視線が合う。南極にいた時からの付き合いであるムニエルなら何か分かるかもしれないと思い、立香はムニエルの所まで行った。

 

「俺が南極にあるカルデアに連れてこられてから、家族の事を思い出そうとしても全然ダメだったんだ。ムニエルなら何が原因か知っているかなと思って」

 

立香に話しかけられた事で、料理を食べていた手を止めたムニエルが立香の方を見る。

 

「……!」

 

立香の言葉に、ムニエルは明らかに動揺した表情を浮かべる。それだけでなく露骨に視線が泳いでおり、立香と目を合わせようとしない。

 

「どうしたの?」

 

立香が尋ねると、しばらく黙っていたムニエルだったが、やがて観念したように立香の方に向き直った。

 

「……実はお前に言っておかないといけない事があるんだ」

 

ムニエルは深刻そうな表情で立香に対して告げる。

 

「実はな…南極のカルデアに連れてこられた際、魔術でお前の記憶を操作していたんだ。あの時は時間がなかったから仕方がなくそうしたんだけど……」

 

「え……?けどなんで俺の記憶を弄ったりなんかしたんだ…?」

 

立香が疑問に思っていると、隣にいたダヴィンチが声をかけてきた。

 

「……藤丸君は他の47人のマスターとは違って一般から来た人間だ。あの日集められたマスター達は君以外魔術師ばかりだったし、魔術とは縁がない一般人の藤丸君をカルデアに入れる為には記憶を弄るしかなかったのさ。カルデアといえども魔術師の立てた組織だ。藤丸君が外にいる自分の両親にカルデアの事を話せば必ず勘付かれる。それに、万が一カルデアの存在が外部の者に漏れたら大変な事になる。だからね、私達は仕方なく君のご両親の事を忘れさせたのさ」

 

「……そんな事が、あったのか」

 

今の今まで両親の事を思い出せなかった事に納得する立香。自分が一般家庭の出身である事を考えればカルデアが情報漏洩防止の為に自分の記憶を弄るなど当たり前だろう。

 

「けど……両親は俺が突然いなくなった事に心配している筈。南極にあるカルデアに来てすぐに人理焼却が始まったから仕方なかったけど、ゲーティアを倒して一時的に人理が元通りになった時期があったでしょ?その時に俺の両親は行方不明の俺を探したりしたのかな……?」

 

立香は騙される形で南極のカルデアに連行され、両親に別れも言えなかった。

 

「俺は早く漂白化された地球を元に戻して父さんと母さんに会いたい。そして謝りたいんだよ。勝手にいなくなってゴメンって……。でも、父さんと母さんは俺の事を心配していると思う。きっと探し回っているに違いないよ」

 

立香の言葉を聞いたアストルフォは、立香に同情するようにして言った。

 

「そっか……それは辛いね……」

 

が、ムニエルはそんな立香に対して申し訳なさそうな表情をしていた。そして立香に対して何かを言いたげだった。

 

「その…立香…えっと……」

 

口に出そうとしても上手くいかず、言い淀むムニエル。その様子を見た立香は首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

立香に尋ねられると、ムニエルは覚悟を決めたような表情をして、立香に向かってこう伝えた。

 

「俺が言うのもなんだが…お前さんの……お前さんの親御さんは事故で亡くなった……」

 

「え……?」

 

立香はムニエルの言葉に、自分の心が凍り付く感覚を覚えた。

 

「どういう事……?」

 

立香の言葉にムニエルは頭を下げて立香に詫びた。

 

「スマン……!今までお前にはどうしても伝える事が出来なかった……!本当にすまない……!!」

 

ムニエルの言葉を聞き、立香は頭が真っ白になる。

 

「嘘……だよ……な……?」

 

立香が震えながら呟くと、ムニエルは辛そうな表情を浮かべながらも、立香に真実を伝えた。

 

「いいや、本当なんだ……。人理焼却から地球が戻って二か月後に、お前の親御さんは事故で亡くなったんだ……。あの日、ゴルドルフのおっさんとコヤンスカヤ、そしてラスプーチンの野郎が南極に査問に来ただろ?そん時にある人物から俺を初めとするカルデアスタッフに渡されたお前に関する資料の中に、お前の親御さんが交通事故で亡くなった事が記載されていたんだ……」

 

ムニエルの言葉を受け、床にへたり込む立香。

 

「そんな……なんで父さんと母さんが……?本当にそれは事故……なの……?」

 

虚ろな目でムニエルを見つめる立香。そんな立香を見たムニエルは慌てて立香に声をかけた。

 

「あぁ!そうだ!これは事故で間違いねぇ!お前の両親が乗っていた車が暴走してガードレールを突き破って崖から転落したんだ!幸いにもお前の両親は即死じゃなかったらしいが、病院に着いた時にはもう手遅れの状態で……!」

 

だが立香は両親が本当に普通の交通事故で死んだとはどうしても思えなかった。南極で査問を受ける際、ドクターやダ・ヴィンチが自分に関する報告書を改竄し、自分の事を協会から守ろうとした事を思い出す。そう、報告書に真実をそのまま書いてしまえば立香自身、魔術協会によって処分されるか、もしくは監禁された上で解剖されるかのどちらかになっていただろう。ドクターとダ・ヴィンチ、ムニエルを始めとする他のカルデアスタッフ達の尽力があったからこそ査問を乗り切る事ができたのだ。人理修復を成し遂げ、多くのサーヴァントと契約した自分の事を魔術協会が放っておくはずがない。人理修復の為にカルデアに滞在している際、ドクターやダ・ヴィンチから協会がどのような組織なのかを耳にタコが出来る程に聞かされていたのだ。だから両親が本当にただの交通事故で死んだとしても、何かしらの力が関与しているとしか思えない。一般人である自分が魔術師の組織であるカルデアに深く関わってしまえばただで済ませてもらえる筈がない。だからこそ両親が単なる交通事故で死んだのかどうか疑問なのだ。

 

「本当に俺の父さんと母さんは普通の交通事故で亡くなったの…?お願いだから本当の事を教えてくれ……!」

 

ムニエルの表情を見れば彼が自分に対して必死で嘘を付いているのが分かる。立香はムニエルの肩を掴んで揺さぶりながら彼に尋ねた。

 

「わ、分かったから落ち着け……!」

 

立香の剣幕に圧倒され、思わず後ずさりするムニエル。

 

「俺は……!両親が死んだ本当の理由を知りたい……!!嘘じゃなく真実を知りたいんだ!」

 

縋りつく立香の悲しみに満ちた顔を見てムニエルは観念したのか、両親の事故に関する真実を語り始める。

 

「……立香が行方不明になった事で親御さんは立香の捜索願いを出したんだ。だが協会の連中が立香の親御さんに暗示を掛けて、息子である立香の事を忘れさせたんだ。一般人の家庭に生まれた立香が、魔術師の機関であるカルデアに行っているなんて言えないからな。そんで親御さんはそのまま生活を続けていたんだが……」

 

「だが…立香の親御さんは暗示を掛けられている状態にも関わらず、自分達には大切な一人息子がいる事を本能で感じ取っていたようなんだ。それで息子である立香の捜索を再開した。だが協会の連中は暗示が役に立たないと知ると、今度は立香の親御さんの記憶を弄って、立香の親御さんが自分の息子である事を忘れさせたんだ。だがそれでも……」

 

ムニエルが言うには、例え暗示に掛けられたとしても、記憶を弄られたとしても、それでも自分達二人には最愛の息子がいる事を本能で理解していたのだという。愛する息子である立香の存在はそれだけ大きく、立香がいない生活には違和感と不安を覚えてしまうのだ。

 

「立香の両親にとって、お前はかけがえのない存在だった。だからこそ、立香の両親にとっては、立香の失踪はあまりにもショックが大きかったんだろう。親の愛ってやつは暗示や記憶操作すらも破ってのけたんだ……」

 

立香が持つ決して諦めない心…どんな逆境でも挫けない精神は父から譲り受けたものなのだ。そんな父も、そして母も愛する立香がいない生き方を否定した。親が子に向ける愛は魔術すらも打ち砕く。だが協会はそんな両親を邪魔に思い、とうとう始末する事にしたのだという。暗示や記憶操作もダメなら、後はこの世から退場させるしかない。

 

「俺もまさか協会がそこまでやるとは思わなかった……。協会にはお前の親御さんを消すつもりはなかった筈なんだ……。けどお前の親御さんはお前を見つけるのを諦めなかった。そんな親御さんを邪魔に思った協会はとうとう力づくで始末する事にしたんだ。事故に見せかけて親御さんを殺害したのは協会の執行者だそうだ……。スマン立香……!今までずっと言えなかったんだ……!!」

 

ムニエルの言葉を聞いた立香は、悲痛に満ちた表情を浮かべて涙を流し始めた。

 

「そんな……、父さんと母さんが……そんな……!!父さんと母さんは俺の事を忘れなかった…!ただ…ただ俺を探したかっただけなのに……!!」

 

立香はその場に崩れ落ち、大粒の涙を流す。そんな立香に対してアストルフォが寄り添うようにして声をかけた。

 

「マスター……」

 

例え漂白化された地球を元に戻しても、もう立香の両親はこの世にいない。それは覆しようがない事実であった。両親は南極のカルデアに連れて行かれた自分を探そうとしただけなのに、そのせいで殺されてしまった。マシュは泣き崩れる立香の肩に手を置きながら言う。

 

「先輩……辛い気持ちはよく分かります……」

 

マシュの言葉に立香は俯き、嗚咽する。そんな立香に清姫がそっと近づき、優しく抱きしめた。

 

「大丈夫ですよ……旦那様。貴方は一人ではありません。わたくし達がいます……」

 

立香を慰めるかのように優しい言葉をかける清姫。だが立香は無言で立ち上がると、ムニエルの方を見た。

 

「お前等のせいだ…」

 

そして立香は一瞬でムニエルとの距離を詰めると、ムニエルの顔面に向かって強烈な右ストレートを叩き込んだ。多くのサーヴァント達に鍛えられた立香の拳は、並みのアスリートを凌駕するほどの威力がある。立香の渾身の一撃を受けたムニエルは、そのまま壁まで吹き飛ばされた。

 

「ぐあぁっ!?」

 

壁に叩きつけられたムニエルは苦痛の声を上げる。そしてムニエルはよろめきながら立ち上がった。

 

「な……何しやがんだ…!?」

 

そして立香はムニエルの胸倉を掴み、ムニエルを壁に押し付け、そのままムニエルの身体を持ち上げた。ムニエルに怒りをぶつけた所で意味などない。だが今の立香は怒りをぶつけなければ気が済まなかった。共に戦ってきたムニエルを容赦なく殴り飛ばした今の自分の怒りが逆に恐ろしくなる程である。

 

「お前等が……お前等が俺をスカウトなんてしなければ……父さんと母さんは……!!」

 

鬼のような形相を浮かべる立香に対し、ムニエルは怯えるような視線を向ける事しかできなかった。周囲にいるサーヴァント達は初めて見る立香の憤怒の顔に唖然としている。自分達のマスターである立香がこんな顔を他者に…しかも苦楽を共にしてきたムニエルに対して向けているのが信じられなかった。

 

「ま、待ってくれ立香…!確かにお前のご両親の件に関しては俺達は無関係じゃない!だけどお前が今まで抱えてきた苦悩は俺にも分かる!だから……!」

 

ムニエルは必死に立香を宥めようとするが、立香は聞く耳を持たなかった。

 

「黙れ……!お前等に俺の苦しみが分かるか…!俺の記憶を弄るだけならまだしも……何も知らない父さんと母さんまで……!!!」

 

だが立香の怒りは収まらなかった。立香はムニエルを片手で持ち上げた状態でムニエルの腹に拳を入れる。

 

「がぁ……ッ!」

 

立香に殴られたムニエルは口から血を流し、苦しそうな表情を浮かべていた。

 

「お前等のせいで父さんと母さんは……!」

 

更に立香はよろけたムニエルの顔面に蹴りを入れ、ムニエルの鼻が折れ曲がってしまう。

 

「がぁぁぁ!?」

 

ムニエルに暴力を振るう立香を、慌ててマシュとダ・ヴィンチは止めに入る。

 

「先輩!落ち着いてください!これ以上はダメです!先輩!先輩!!お願いします!先輩!やめて下さい先輩……先輩……先輩……」

 

マシュは泣きながら立香に抱きつき、何度も呼びかける。しかし立香はマシュを振り払うように腕を動かし、マシュを払いのける。

 

「邪魔しないでくれマシュ!!俺は……父さんや母さんを殺した協会を許さない……!!そして俺を勝手に南極に連れて行ったカルデアも……!」

 

マシュに対して叫ぶ立香の目からは涙が流れており、とても正気とは思えなかった。そんな状態の立香を見て清姫も声をかけるが……。

 

「旦那様……どうか……冷静になって……」

 

清姫の言葉に対しても反応せず、ムニエルに対する暴行を続ける。そんな立香の様子を見たアストルフォは立香を止めるべく立ちふさがる。

 

「もう止めてマスター!これ以上やったら死んじゃうって!!」

 

しかし立香は止まらず、今度はアストルフォーの顔面を殴りつける。だがサーヴァントであるアストルフォには人間である立香のパンチは効いていない。

 

「うわっ!?」

 

アストルフォは驚きの声を上げ、その場に尻餅をつく。そんなアストルフォの胸倉を掴んだ立香はアストルフォを壁に押し付けた。

 

「ぐぅ……っ!」

 

アストルフォは苦悶の声を上げるが、それでも立香は止めない。

 

「マスター命令だ…!俺の邪魔をするな!!!」

 

立香はアストルフォに対して怒鳴る。そんな立香に対して清姫が駆け寄り、立香の身体にしがみつく。

 

「旦那様……!もう……もう……!それ以上は……!」

 

清姫は涙を流し、立香を止めようとする。だが立香は清姫を引き剥がそうとする。

 

「離してくれ清姫…!離してくれ…!」

 

立香は涙を流しながら清姫に訴えるが、清姫は離れようとしなかった。するとそこにジャンヌオルタがやってきた。そして暴れる立香の前に立つ。

 

「何やってんのあんた……」

 

呆れた様子で呟いた後、立香の方を見る。

 

「ちょっと落ち着きなさいよ」

 

立香は暴れるが、すぐにサーヴァント達に取り押さえられてしまう。

 

「ぐっ……!放せ……!」

 

「落ち着けと言っているでしょうが!」

 

暴言を吐き続ける立香に対し、ジャンヌオルタは一喝した後、立香の頬を思い切り叩く。

 

「え……?」

 

ジャンヌオルタからの強烈なビンタに、立香は我に返った。

 

「ようやく落ち着いたようですね」

 

マシュは安堵の息を漏らす。

 

「まったく……何があったのか知らないけれど、アンタらしくもないわねぇ……。あれ以上やったらムニエルが死んじゃうでしょうが。というか……何があったの……?」

 

ジャンヌオルタが尋ねると、立香の代わりにムニエルが答える。

 

「あー……実は……」

 

ムニエルは先程あった出来事を話し始めた。立香がカルデアに連れてこられた際、立香には記憶操作がされ、両親との想い出や両親の事を忘れさせられていた事、そして立香の両親は南極に連れて行かれた息子の立香を捜索するが、魔術協会の手によって暗示が掛けられるも、息子への愛で暗示を打ち破り、更に記憶操作まで施されるものの、それでも諦めなかった立香の両親は協会の手により事故に見せかけて消されたのだ。その話を聞いたジャンヌオルタは顔をしかめる。

 

「それは……酷い話ね……。それじゃマスターが怒るのも無理はないじゃない」

 

そしてジャンヌオルタは続けて言う。

 

「それにしても……マスターの記憶を操作するだじゃなく家族まで殺すなんて、いくら何でもやり過ぎなんじゃないの?」

 

「仕方なかったんだ……。カルデア自体魔術師の組織だし、一般人には魔術の存在を秘匿する関係上、どうしても一般家庭出身の立香には多少なりとも暗示や記憶操作はしなきゃいけなかったんだ……。もちろん俺だって立香のご両親が魔術協会に始末された事には納得してないさ。だけど……」

 

ムニエルは暗い表情を浮かべる。もし人理焼却から元に戻った際に地球漂白化現象が起きず、立香が自分の家に帰れたとしても記憶操作の魔術が施された状態では、両親が事故に見せかけた暗殺で殺された事はおろか、下手をすれば自分には最初から両親など存在しないと思い続けていただろう。

 

「酷いじゃないか……俺の父さんと母さんはいなくなった俺を探していただけなのに……。殺すなんて……殺すなんてあんまりだ……」

 

立香は嗚咽を漏らしながら涙を流した。人理焼却を防ぐ為に七つの特異点を旅し、ゲーティアの本拠地である冠位時間神殿での決戦を終えて世界を元に戻したのに、自分の両親は南極に連れて行かれた立香を探し続け、それを疎ましく思った協会の執行者に消されてしまった……。南極のカルデアがコヤンスカヤや、オプリチニキに襲撃されて以降、ムニエルはずっとこの事を立香に黙っていたのだ。

 

「俺の…父さんと母さんを返してくれ……。戦いが終わっても家には父さんと母さんもいない……俺は親に"今まで留守にしてごめん"の一言すら言えないまま、もう二度と会えないんだ……」

 

泣き崩れる立香を見てマシュは優しく抱き締める。

 

「先輩……」

 

マシュは立香を慰めようとするが、心身共に疲弊した今の立香にとってマシュの慰めさえも逆効果でしかない。

 

「やめてくれマシュ……!俺はもう嫌なんだ……!俺がカルデアにスカウトされなければ……されなければ……!」

 

立香はマシュの身体を払いのけると、その場から走って立ち去った。

 

「先輩!待ってください!」

 

が、立香を追いかけようとするが、その前にジャンヌオルタが立ちふさがる。

 

「待ちなさい。今追いかけても無駄よ」

 

「どうしてですか!?」

 

「マスターの精神はもう限界よ。これ以上マスターを追いつめたらどうなるか分からないわ」

 

ジャンヌオルタの言葉を聞いたマシュは悲痛な面持ちになる。

 

「そんな……!」

 

「気持ちは分かるけど……今はそっとしておくべきよ」

 

ジャンヌオルタは落ち込むマシュの肩に手を置く。マシュは立香に何と声を掛ければ良いのか分からなかった。何と慰めれば良いのか分からなかった。どんな困難が立ち塞がっても決して挫けず、戦い続けた先輩である立香。だが今の立香は以前からは考えられない程に弱り切っており、このままではいずれ心が壊れてしまうのではないかと思うほどだ。そんな立香の姿を見ているだけで心が張り裂けそうな程に辛い。そしてマシュは自分の無力さを呪う。自分がもっとしっかりしていたらこんな事にはならなかったかもしれない。いや……そもそも自分さえいなかったら……?そんな考えすら頭を過った。マシュは自分の目から熱い涙が流れるのを感じた。残酷な真実に打ちのめされ、悲しみに暮れる立香を支えきれない自分が情けない。

 

「…………」

 

ジャンヌオルタは立香が出て行った方を見やる。

 

「マスターは私達が思っている以上に過酷な運命を背負っているわ。だからこそ、あの子はあんなにも苦しんでいる」

 

ジャンヌオルタはそう呟く。

 

「はい……」

 

マシュは小さく頷いた。

 

「私達は……マスターに対して"人理を救う存在であれ"っていう期待……いえ、圧力を無意識の内にかけていたんですね……。マスターは世界を救った英雄だから、きっと大丈夫だと……」

 

「まぁ……確かにマスターは色々と背負っちゃってるからね……。でも、それは仕方のない事だと思うわ。だってマスターは……本当に凄かったもの」

 

ジャンヌオルタは遠い目をする。

 

「私達はマスターに……"人類最後のマスター"としての使命を背負わせた……。先輩は普通に暮らしていれば学校で友達と遊んだり、部活をしたり、勉強したり、恋をした事もあったはずなのに……それらを犠牲にして世界を救うために戦ってきた……。私はそれを素直に凄い事だと思います。思うんですけど……」

 

そう言うマシュの目からは涙がとめどなく流れ出る。

 

「けど…けど……私達は先輩に対して"人類最後のマスター"っていう重すぎる使命と責任を押し付けてしまった……。先輩が抱えている苦しみを分かってあげられなかった……!私は……今まで先輩に甘えていただけです……!先輩は……私の前じゃ絶対に泣かなかった……。いつも笑顔で……明るくて……優しくて……!」

 

マシュは顔を手で覆うと泣きじゃくる。他のサーヴァント達は号泣するマシュの姿を沈痛な面持ちで見ていた。

 

「先輩が……先輩があんなにが泣いてる姿なんて見た事がない……。先輩は……本当は誰よりも傷ついているのに……それを誰にも見せずに今まで頑張ってきた……。それなのに……それなのに……!」

 

マシュは嗚咽を漏らしながら泣く。

 

「マシュ…気持ちは分かるけど、あまり自分を責めてはいけないよ。キミは藤丸君が抱える苦悩を理解できていなかったわけじゃないだろう?」

 

「……はい……。ですけど……!私がもっとしっかりしていたら……!」

 

「……マシュ、これはあくまで可能性の話なんだが……もしかしたら藤丸君は……」

 

「……もしかすると……先輩は……?」

 

マシュは泣きながら俯く。

 

「いや、忘れてくれマシュ。今はそんな事を考えている場合ではないよ。まずは目の前の戦いに集中しよう。我々は汎人類史を取り戻す為に戦っているんだ。残る最後の異聞帯である南米に向かう準備を進めている。決戦はもう目の前なんだ」

 

ダ・ヴィンチもマシュも、今自分達は漂白化された地球を元に戻す為、汎人類史を取り戻す為に戦っている事は理解している。立香の精神状態が不安なのは分かるが、異星の神との決戦が近い今は戦いに集中するべきだ。

 

「先輩……」

 

マシュは廊下の向こうに走り去った立香の事を思い出す。

 

「マシュ、今はそっとしておいてあげなさい」

 

ジャンヌオルタはマシュの肩に手を置く。

 

「はい……」

 

マシュは悲痛な面持ちのまま返事をする。彼女の言う通り、今は立香の事はそっとしておくべきだろう。




書いていて酷いとは思ったけど、ぶっちゃけ協会ないし魔術師連中なら平然とこういう真似をすると容易に想像できるってどういう事なの…?(´・ω・`)

ぐだーずの親については二次創作でも描かれているけど、自分にはこういう描き方しかできなかった…orz

書いている時に涙が出たのは内緒……( ;∀;)
マシュは先輩である藤丸君が壊れたら支えてあげられるのかな…
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