アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
「ここが……マスターの住んでいた家……」
アナスタシアはシミュレータールーム内で創り出された立香が元々暮らしていた家の入口の前で立ち尽くす。立香の両親はもうこの世にはいない。しかし、それでも立香はこの場所を自分の実家だと認識し、今もここで暮らしている。辛く、過酷な戦いの連続で立香の心は摩耗している。今までは態度や表情には出さなかったが、誰よりも苦しみ、誰よりも泣きたかったのはアナスタシアを始めとするサーヴァント達のマスターである立香自身なのだ。
しかし、そんな立香を責める事はできない。何も知らずに南極に連れていかれ、そこで人理焼却が起こり他のマスター達は死亡。残った立香は人類最後のマスターとして特異点修復の旅に出た。高校も卒業していないような少年にはあまりにも酷な現実だ。そんな彼の心労に気付かず、サーヴァント達は立香に対して"人理を救うに相応しいマスター"である事を求めた。汎人類史を取り戻すという使命と責任の重さはアナスタシアのマスターである立香が何より理解している。
だからこそ、彼は自分の気持ちを押し殺してでも人類最後のマスターとしての責務を全うしようと努めている。だが……立香の心は既に限界を迎えていたのだとアナスタシアは思ったのだ。そこに追い打ちをかけるかのように、立香の両親が魔術協会によって命を奪われたという残酷な真実が明らかになった。そんな立香がシミュレータールームに閉じこもり、仮想空間内で創造した自分の両親と暮らした所で誰が咎めるだろう?
「マスター……もういいのよ。あなたはもう十分すぎる程頑張ってきたわ。これ以上無理をする必要はないの」
アナスタシアはシミュレーションルーム内に投影された仮想の立香の家に入る。すると立香の両親らしき男女がアナスタシアを暖かく出迎えた。
「あら?貴女は立香のお友達ね?いつも立香から話を聞いているからすぐに分かったわ。さ、暖かいお茶をどうぞ。立香は今、自分のお部屋にいるの。呼んでくるから待っていてね」
「あ、ありがとうございます」
アナスタシアは立香の両親に促されるまま、居間で立香を待つ。二分後、階段を降りて立香が来た。立香はアナスタシアが座る席の向かいに座り、アナスタシアにいつもと変わらぬ笑顔を向ける。
「やぁアナスタシア、久しぶり。ここが俺の家なんだ。結構広いでしょ?」
「えぇ、とっても素敵な家。さっきの二人がマスターのご両親かしら?」
「うん、そうだよ。俺が産まれてからずっと一緒にいたんだ。でも、もう……」
「……そう」
アナスタシアは立香の隣の席に腰を下ろした。立香は虚ろな目で窓の外を眺めながら、アナスタシアに自分の両親について語る。
「父さんは優しくて、いつも俺の事を想ってくれる人だった。母さんは父さんよりも俺に甘い人かな。でも、俺は二人とも大好きだったんだ」
「……そう」
アナスタシアは立香の頭を撫でてやる。立香は目を細めて、アナスタシアに身を委ねた。
「ねぇ、アナスタシア。俺って人類最後のマスターとして失格なのかな……?こんなシミュレータールームで既にこの世にいない親と、暮らしていた家を再現して一緒に暮らすなんて……。皆が……サーヴァントの皆が今の俺の姿を見たらきっと軽蔑するかもね……」
立香は自分でも薄々間違った事をしているのだと気付いているようだ。
「……そんな事はないわ。あなたは人類最後のマスターである前に、一人の人間よ。辛い時は誰かに甘えたくなるもの。それは仕方のない事だわ。それに、私は今のあなたの方が好きよ。だって……だってマスターも両親との平穏な生活を望む一人の男の子だって分かったんだもの。それは生前の私と同じ」
アナスタシアは笑顔で立香の頭を撫でる。それはまるで聖母マリアが我が子キリストを慈しむように。
「……ありがとうアナスタシア。こんな俺でも……こんな俺でも君にとってはマスターなんだね……」
立香は涙を流す。アナスタシアは立香の肩を抱き寄せ、慰めるように背中をさすった。
「いいのよ、今は泣いても。ここには誰も咎める人は居ないわ。だから、ね?」
アナスタシアは立香を抱きしめ、立香はアナスタシアの胸の中で涙を流す。そしてそんな立香の姿を両親は優しく見守っていた。
「うぅ……ぐすっ……。ありがとう、アナスタシア。もう大丈夫だよ」
立香はアナスタシアから離れると、自分の頬に伝う涙を拭い、アナスタシアに微笑みかけた。アナスタシアは立香の笑った顔を見て安堵する。
「俺は……自分でもこのシミュレータールームにずっといる事が間違いだって薄々気付いてたんだ……。けど……けど父さんと母さんが魔術協会の手で殺されたって聞いて……例え白紙化した地球を元に戻してももう父さんと母さんはこの世にいないっていう現実に耐えられなくて……。ごめん、情けないマスターで……。こんな俺でも……こんな俺でも君はマスターだって言ってくれるんだね……」
「えぇ、そうよ。私は貴方に救われた……。罪悪感で押しつぶされそうな私の手をマスターは握ってくれたの。だから……だから今度は私がマスターの悲しみを受け止めてあげたい。貴方の苦しみを理解して、分かち合いたい」
アナスタシアの言葉を聞いた立香は再び涙を流し、アナスタシアに抱きつく。アナスタシアもそんな立香の体をしっかりと抱きしめてやった。しばらくすると落ち着いた立香は自分の胸に手を当てて言う。
「アナスタシア、俺は戦いに戻りたい。最後まで……最後まで戦い抜きたいんだ。地球を白紙化したままじゃ終われない……汎人類史を取り戻すまで戦いは止めない……!」
立香は力強くアナスタシアに答える。そんな立香の決意を汲み取ったのか、アナスタシアは笑顔で立香に語りかける。
「うん、それでこそマスターよ。私も全力でサポートしてあげる。さぁ、行きましょう」
アナスタシアは立香の手を取り、立ち上がる。そして立香は虚像の両親に対して別れの言葉を言った。
「父さん……母さん……俺、行ってくる……。最後まで戦い抜く……!」
両親は立香の言葉を聞き、笑顔を向ける。それはまるで、戦いに向かう愛する息子を見送るような眼差しであった。
「ありがとう、父さん、母さん……。俺、頑張るよ……。」
立香は目に涙を浮かべながら、虚像の両親に向かってそう告げると、アナスタシアと共に家を出ていく。そして家を離れていく立香は両親に別れの言葉を告げた。
「……さようなら、父さん……母さん……」
別れの言葉を告げた立香の目からは大粒の涙が零れ落ちる。そんな立香の肩をアナスタシアは優しく抱いてやる。
「マスター、もう大丈夫よ。マスターは一人じゃない。私が居るから……」
アナスタシアは立香にそう声をかけると、立香は泣きながらも笑顔を見せた。
「うん、ありがとうアナスタシア……行こうか」
立香はアナスタシアに支えられるようにしながら歩き出す。二人はシミュレータールームを出ると、ダ・ヴィンチの元へ向かった。
ダ・ヴィンチは二人の姿を見ると、笑顔で出迎えた。
「おぉ、藤丸君!やっと出てきたね。もう大丈夫かい?」
ダ・ヴィンチはそう言うと、立香の頬を指先で軽く突いた。
「あはは、心配かけてごめん……。もう大丈夫だよ……。それと……ダ・ヴィンチちゃん、その……ありがとう。俺がシミュレータールームで虚像の両親と一緒に暮らすのを認めてくれて……」
立香はダ・ヴィンチに礼を言うと、ダ・ヴィンチは微笑みながら立香に言う。
「いいんだよ。藤丸君の心の傷が癒えるまで、シミュレータールームの中で家族と触れ合うのは構わない。でも、シミュレータールームから出る時は必ず誰かに声をかけてから出る事。それだけは約束してほしいな」
ダ・ヴィンチはそう言うと、立香は笑顔で答える。
「うん、わかったよ」
ダ・ヴィンチは立香の返事を聞くと、満足げにうなずき、食堂の方へと向かった。
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立香は食堂に集まったサーヴァント達に対して頭を下げる。自分の感情を優先して、10日以上もマイルームに引きこもったり、シミュレータールームに何日も閉じこもり、偽物の両親と一緒に暮らしていた事を謝罪した。
「みんな、本当にごめんなさい……。俺はみんなのマスターなのに……。こんな情けないマスターで……」
「ふむ、確かにそなたはマスターとしては未熟だ。しかし余は、そなたがどのような状況であれ、決して諦めずに前に進む姿勢を評価しているぞ」
ネロはそう言うと、立香の肩に手を置いた。
「そうですとも!私達は先輩の味方ですよ!」
マシュはそう言うと、立香の手を握った。可愛い後輩の励ましの言葉を聞いた立香は、笑顔を見せた。
「ありがとう、マシュ……。俺、頑張るよ……」
立香はそう言うと、笑顔を見せた。
マシュはそんな立香の顔を見て安心すると、笑顔を見せた。
「はい!一緒に頑張りましょう!」
食堂にいる英霊達は、立香の持つ"一人の少年としての弱さ"を受け入れ、シミュレータールームに引きこもっていた事を許した。無論、中には立香の持つ弱さを"マスターとして未熟"と断じるサーヴァントもいたのだが、ブーディカとアナスタシアの説得により、大半のサーヴァントは立香を責める事をやめた。立香は最後の異聞帯である南米を前にして、途中で投げ出す事をしなかった。ここまでくれば最後まで責任を持って戦うのが筋だと、立香は思ったのだ。そう、まだ戦いは終わっていない。漂白化された地球を元に戻さなければならない。マシュは立香の表情を見ると、満足げに頷く。
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パニッシャーはサーヴァント達と共に微小特異点の修復から帰ると、立香がマスターとして復帰する事をダ・ヴィンチとマシュから告げられた。パニッシャーは二人から立香が騙された形で南極のカルデアに連れてこられた事、そして立香の両親が魔術協会の執行者によって事故死に見せかけて殺された事を知った。
「立香は……お前等カルデアに騙されて、南極に連れてこられたって事か!?」
パニッシャーは怒りを抑えながら、ダ・ヴィンチとマシュに詰め寄った。しかしダ・ヴィンチとマシュは冷静な口調で、自分達は立香の意思を尊重した事、立香は自分の意思で聖杯探索に同行する道を選んだ事を説明した。
「立香君は、私達との旅の中で、自分が置かれた立場を理解した上で、自分の意志でカルデアのマスターになる事を決断したんだ」
ダ・ヴィンチはそう言うと、真剣な眼差しでパニッシャーを見つめた。
「自分で聖杯探索に臨んだだと?人理焼却が起きて世界が消失して、帰る家も無くなり仕方なく聖杯探索に行く事になっただけじゃないのかそれは?立香は自分の帰る家を取り戻す為には人類最後のマスターとして戦うしかなかった……違うか?」
パニッシャーはマシュとダ・ヴィンチを睨みながら、そう言った。
マシュはパニッシャーの言葉に何も言い返せず、ダ・ヴィンチも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「お前達があの子を……立香を戦いに引き込んだからだ。お前等は自分達の都合で何も知らないあの子を拉致同然で連行して人類最後のマスターとして勝手に祭り上げただけだ!!」
パニッシャーの怒声が食堂に響き渡る。
マシュもダ・ヴィンチも反論できず、ただ黙り込むしかできなかった。これでもパニッシャーは相当抑えている方だ。でなければダ・ヴィンチとマシュを殺しにかかっていただろう。
「お前等カルデアの都合であの子は家族と引き離された挙句、特異点の修復の旅に行かされた。普通の人間であれば命が幾つあっても足りない、到底子供に任せられるような事ではない任務をお前達はあの子に課したんだ……!あの子は優しいから自分の課せられた使命を全うする為に戦い続けた。だがな……そんな立香の優しさにお前等は胡坐をかいていただけじゃないのか?」
パニッシャーの問いかけにマシュとダ・ヴィンチは何も言えなかった。実際、立香の境遇を考えれば同情の余地はある。だが、それでもマシュとダ・ヴィンチは立香を戦いに巻き込んでしまった事をずっと……ずっと後悔していた。
「マシュ……お前は立香に"理想の先輩"でいて欲しいと願っていたんだろ?だがそれは同時にあの子にとっての"呪い"となった。マシュの手前弱音を吐くわけにはいかない、挫折するわけにはいかない、自分が頑張らなければ皆が困る、だから自分は戦わなければならない、という呪縛だ。立香は、お前の為にも必死になって頑張ってきたんだぞ。だが、そのせいであの子の心は次第に壊れていった。マシュ、お前は立香の心を壊してまで、自分の先輩でいて欲しいと願ったのか?傷付いたりボロボロになっても立ち上がる姿を見て、『流石は私の先輩だ』とでも思ったか?」
「それは…」
「どうなんだ!!」
パニッシャーはマシュの胸倉を掴み上げ、怒鳴りつけた。
「……はい。確かに私はマスターを追い詰めました。私が……私が先輩に対して"理想の先輩"であり続けて欲しいと無意識に思っていたからこそ、先輩は追い詰められてしまったんです……。私の前では決して弱音を吐かず……手本となるような姿ばかり見せていました」
マシュは涙を浮かべながら自分の罪を認めた。
立香はマシュに頼られ、先輩として慕われる事に喜びを感じていた。だからこそ、マシュの前では無理をして気丈に振る舞い続けていた。自分がマシュにとっての憧れの存在であろうと努力し続けた結果、立香は精神的に疲弊していった。
「……」
ダ・ヴィンチは俯き、沈黙した。ダ・ヴィンチは立香が自分に助けを求めない事に寂しいと感じていたが、それを口にする事はなかった。立香が自分を頼りたくない理由を知っていたからだ。泣き言も言わず、弱音も吐かず、心も折れない姿をずっと維持していた。ずっと……ずっと……。
「マシュ。お前は自分でも気付かない内に立香の心を追い詰めていた。立香は……立香は誰かに甘える事も頼る事もできず、ずっと理想の先輩として、人類最後のマスターとして戦いの日々を送っていた。そんな立香に対して、お前はあの子にずっと"自分にとっての理想の先輩"であり続けて欲しいと思っていたのか!?」
パニッシャーはマシュの胸倉を掴んだまま、怒りをぶつけ続けた。
「私の……私のせいで先輩はずっと傷ついていました……。私を頼る事なんて決してしないから……悲しみを私にぶつけるなんてしないから……だから、あんなにも苦しんでいたんだと思います」
マシュは目から涙を流し、自分の罪を懺悔するように語った。あの日、南極で初めて出会った日、立香を『先輩』と呼んだその時から"呪い"は始まっていた。だからこそ立香はマシュの前では先輩らしく……人類最後のマスターらしく振舞い続けた。まだ年頃の少年であり、両親に愛され、友達に囲まれて育ってきた普通の人間である立香が、たった一人で人類最後のマスターとして人類史を救うという重責を背負い続けてきたのだ。
「マシュ。お前が立香に抱いていた感情は、お前自身のエゴだ。お前の価値観であの子を縛り付け、追い込んだ。その結果、あいつの心は壊れた。それが全ての原因だ」
「……」
マシュは何も言い返せなかった。自分が立香を追い込んでしまった事は紛れもない事実なのだ。
「仮に……仮に立香が戦いを……汎人類史を取り戻す戦いを望んでいたとしても……望んでいたとしてもあの子はまだ子供だ……」
パニッシャーはマシュの胸倉を放すと、自分の拳を強く握りながら立香が背負った過酷で残酷な運命を呪うように呟く。
「マシュ…ダ・ヴィンチ……俺はお前達カルデアを決して許さない。あの子を…何も知らない子供であった立香をこんな戦いに巻き込んだお前達を……!」
パニッシャーはマシュとダ・ヴィンチに怒りの眼差しを向ける。が、そんなパニッシャーに対してマシュは意外な言葉を口にする。
「……パニッシャーさん、貴方は優しい人なんですね。貴方の先輩の事を想う気持ちは本物です」
マシュは優しく微笑みかけ、そんなマシュを見てパニッシャーは怒りの表情から一転して困惑する。
「何だと?」
「パニッシャーさんは一見危険な人に見えてしまいますけど……それでも誰かの為に…苦しんでいる人の為に本気で怒ってくれる。まるで辛い境遇に遭っている人を放っておけないような……」
マシュの言葉を聞いたパニッシャーは黙り込む。立香の事を想う本心を隠し切れていない事を、マシュは見抜いていたのだ。それを見ていたダ・ヴィンチがニヤニヤした顔でパニッシャーに言う。
「パニッシャー君、マシュは他人の"良い部分"を見つけるのが上手いのさ。だから彼女は多くのサーヴァントから好かれるのだよ♪」
ダ・ヴィンチはマシュを褒めるが、当の本人は恥ずかしそうな顔をしていた。
一方、マシュに指摘された事で図星だったパニッシャーは自分の怒りが無意味なもののように感じ、それ以上は何も言わなかった。
「……全く、白けちまった。立香が今後も戦い続けるなら俺も支援してやる。だがあの子に対して必要以上に"人類最後のマスター"として戦う事を強要したりするなら、そん時は俺がそんな事を強要した奴を殺す」
そう言うとパニッシャーは食堂を去っていく。
あっちの方では子供に戦わせる事に対してかなり拒否感があるみたいですね。これも文化の違いでしょうか…。
そりゃこんだけ藤丸君への想いを吐露しているんだからマシュは気付くよね…(^▽^;)