アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
「ロリンチちゃんは藤丸君の前で泣いたりなんかしない!」って言う人も中には出てくるかと思いますが……(-_-;)
そしてついに"彼等"が現れる……
立香はノウム・カルデアにある大浴場の湯舟に浸かり、自分の心の弱さを改めて痛感していた。両親の死が受け入れられずにシミュレータールーム内で作り上げた偽物の両親と家で暮らしていた事を先程食堂でバーヴァン・シーから嘲笑され、立香は恥ずかしさと悔しさが入り混じった感情を抱く。
人類最後のマスターとして今まで数多くの修羅場を乗り越えてきた立香だが、今回ばかりは流石に堪えた。そして両親の死に取り乱した自分の姿に、少なくないサーヴァント達から失望されてしまった事も。人理の危機という非常事態の最中であっても、自分はまだまだ未熟な子供でしかない事に立香は嫌でも思い知らされる。殺し合い、命のやり取り、生きるか死ぬかの修羅場を潜り抜ける事は特異点修復の旅や空想樹の切除の過程ですっかり慣れてしまった。
しかし今回の両親の死については別だ。自分の両親は汎人類史を取り戻した上で立香が帰るべき日常の象徴であり、そんな両親を失った事で立香は心に深い傷を負う。シミュレータールームで両親に別れこそ告げたが、あれはあくまで虚像の両親。立香は戦いを続ける決意こそしたが、両親の死は立香の心に暗い影を落とす。
魔術協会がまともな組織ではない事はドクターやダ・ヴィンチから散々に聞かされていたが、まさか両親を手にかけたとは思いもしなかった。いや、南極のカルデアに入れられた時点で自分と両親の運命は決まっていたのかもしれない。
"今まで留守にしてごめん、ずっと寂しかったでしょ?"
そんな謝罪の言葉すら両親に伝える事ができなかった。立香は心の中で両親に謝罪した。両親を守れなかった自分を責める一方で、両親を殺した魔術協会のやり方に怒りを覚える。両親に別れを告げる事ができず、二度と会えない事が悲しくて仕方がない。立香の目からは熱い液体が零れ落ち、湯舟に落ちていく。
「うっ……ぐすっ……」
泣き声を押し殺そうとするが、涙は止まらない。そう簡単に両親の死を乗り越えられるなら苦労はしないのだ。心を強くしなければいけない、人類最後のマスターとして戦いを終わらせなければいけない。だが自分を生み、自分を育て、自分を愛してくれた両親の存在は立香にとって唯一無二だ。
その両親がもうこの世にはいないという事実が、立香の心に深く突き刺さっていた。今までに多くの人々の死、サーヴァントの死を見届けてきた筈なのに……帰るべき家にいる筈の両親がいつの間にか殺されていた。例え空想樹を全て切除しても漂白化された地球が元に戻る保証はない、それでも自分が帰るべき日常の為に立香はここまで戦ってきたのだ。両親と再び会う為に。
しかし両親は既にこの世にはいない。自分が今までやってきた事は全て無駄だったのかと、立香は絶望する。ここまできた以上は最後まで戦い抜く覚悟を決めている。なのに立香の心には死んだ両親との思い出が鮮明に蘇り、立香を深い悲しみに陥れる。そんな時、後ろから鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえてきた。ダ・ヴィンチである。この大浴場は男女混浴である為ダ・ヴィンチも入ってこれるのだ。
「やあ藤丸君、今日もお疲れ様」
「うん、ダ・ヴィンチちゃん、お疲れさま……」
「……」
ダ・ヴィンチは立香の目から流れる涙を見て、立香が両親の事を思い出していたのだと悟る。そして湯舟に入ると、立香に寄り添う。
「辛いよね、悲しいよねぇ……。君の気持ちはよく分かる。私だって大切な人達が突然いなくなったらとても耐えられない」
ダ・ヴィンチは人類最後のマスターである立香が、両親の死に動揺し、悲しみ、慟哭する姿を目の当たりにして、立香は一人の少年なのだと改めて痛感していた。立香は強引に南極のカルデアに連れてこられ、人類最後のマスターとして特異点修復の旅路を歩む事となったのだ。普通の少年であった立香を人理の為の戦いに巻き込んだ事をダ・ヴィンチは深く後悔している。シミュレータールームで虚像の両親に甘える立香の姿を見て、自分達カルデアは余りにも過酷な運命を立香に背負わせてばかりいると、ダ・ヴィンチは胸を痛める。
「……ごめんね、こんな役目を押し付けてしまって。君は普通の男の子だったのに、世界を救う為に命を懸けて戦うなんて……。南極のカルデアに連れられた際に両親との記憶を消され、そのまま特異点を修復する旅に行かせてしまって……。君……君のご両親の事は本当に残念だ……。私達は君に謝罪する資格すら無いのかもしれない……」
ダ・ヴィンチは項垂れながら立香に謝罪する。
「シミュレータールームで作り上げた両親に甘える君の顔はとっても楽しそうで……それでいて幸せそうだった……。私達はなんて事をしたんだろう、君から日常を奪って戦いの日々に引きずり込んでしまった。いくら世界を救わなければならないとはいえ、君の日常を奪う権利は私達には無い筈なのに……!」
ダ・ヴィンチは目から熱い涙を流し、立香に謝罪した。普段は明るく飄々とした万能の天才であるダ・ヴィンチだが、この時ばかりは外見相応の少女のように泣いている。罪悪感に苛まれ、自分を責めるダ・ヴィンチ。そんなダ・ヴィンチの様子を見た立香は何も言わず、ダ・ヴィンチの頭を優しく撫でた。
「……えっ?」
ダ・ヴィンチは驚いて顔を上げる。
「ダ・ヴィンチちゃんは悪くないよ。俺がやってこれたのはダ・ヴィンチちゃんやマシュ、それに他のサーヴァントのみんながいたおかげなんだ。だからそんなに泣かないで」
立香はダ・ヴィンチを慰める。
「でも、私達は君から日常を奪った張本人なんだ。その責任は取らなければならない」
ダ・ヴィンチは涙目になりながら立香に言う。
「俺はダ・ヴィンチちゃん達と出会えて良かったと思ってる。カルデアに来てから多くの仲間に巡り合えた。ダ・ヴィンチちゃんはいつも頼りになるし、マシュは一緒にいると心強い。他のサーヴァントの人達も頼れる人ばかりです。そして何より、ダ・ヴィンチちゃんとマシュが傍にいてくれるだけで、それだけで俺は幸せなんだ。確かに両親を失ったのは悲しいけど、マシュやダ・ヴィンチちゃんも立派な俺の家族だから……」
立香の言葉にダ・ヴィンチの目からとめどなく涙が溢れ出す。そしてダ・ヴィンチは立香に抱きつき、泣きじゃくる。
「済まない……済まない……!私は……私達カルデアは君になんて酷いことをしてしまったんだろう。君はこんなにも優しい子なのに、私達カルデアは君を戦場に引きずり込んでしまった……。君の日常と家族との生活を奪ってしまった……!」
ダ・ヴィンチは立香に謝罪しながら涙を流した。ダ・ヴィンチだとて平穏に暮らしてた立香を人理の為の戦いに駆り出していた事に対して何の疑問も持っていなかったわけではない。心の奥底では立香を戦いから遠ざけたかった。
だが汎人類史を取り戻す為、ずっとその考えから目を背け続けてきた。だが両親の死を聞かされた立香が父母の死に涙を流す姿を見て、自分の心の奥底にあった罪悪感が一気に爆発し、ダ・ヴィンチは目から熱い液体を流す。マシュやホームズ、ゴルドルフの前でこんな姿は見せられない。だが立香の前では自分の感情を抑える事ができなくなった。そんなダ・ヴィンチの頭を立香は優しく撫でる。
「私は……君に慰められる資格なんてないのに……!」
ダ・ヴィンチは立香に謝ろうとするが、立香は首を横に振る。
「ダ・ヴィンチちゃんは悪くないよ。悪いのは俺の方。俺がもっとしっかりしてれば、ダ・ヴィンチちゃん達に迷惑をかける事も無かったんだから……」
「いや、藤丸君。我慢なんてしなくて良かったんだ……。泣きたい時に思いっきり泣いていいんだよ。君はまだ子供なんだから……」
「ダ・ヴィンチちゃんこそ、泣きたい時には思いっきり泣いていいんだよ。俺で良ければいつでも胸を貸すから」
ダ・ヴィンチは立香に言われ、涙を流す。
「ありがとう、藤丸君……。君は本当に優しいね。私なんかの為にここまでしてくれるなんて」
「俺にとってダ・ヴィンチちゃんは大切な仲間であり家族だから」
立香に励まされ、ダ・ヴィンチは湯舟のお湯で涙に濡れた顔を洗い流し、目を真っ赤に晴らしながらも満面の笑顔を見せた。
「ありがとう藤丸君!色々吐き出せてスッキリしたよ!この万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチが最後まで全力で君をサポートさせてもらうからね!」
ダ・ヴィンチはそう言うと、立香に抱きついた。立香はダ・ヴィンチに抱きつかれ、頬を赤く染める。
「ちょっ!?ダ・ヴィンチちゃん!?当たってる!何か柔らかいものが…!?」
「す、済まない…!お互い裸である事を忘れてしまったようだ……。さっきまで泣いていたせいで目元が腫れていて見苦しいだろう?」
「そ、そんな事無いよ。ダ・ヴィンチちゃんの目元は可愛いと思う。それにダ・ヴィンチちゃんの身体も綺麗だなって思ってたし」
立香はようやく自分もダ・ヴィンチも全裸だという事実に気付き、互いに肌を合わせてしまった事に顔を紅潮させる。
「ふ、藤丸君。そろそろ上がってくれないかい?このままだとのぼせてしまうから……」
「あ、はい。分かりました」
立香はダ・ヴィンチに促されて湯船から上がり、ダ・ヴィンチもそれに続く。立香とダ・ヴィンチは大浴場から出て脱衣所に入り、タオルで身体を拭き始めた。立香は新しいタオルを手に取り、濡れたダ・ヴィンチの身体を拭き始める。
「藤丸君。私の事は自分でできるから大丈夫だよ」
「ううん、これくらいさせて。いつもお世話になってるんだから」
立香に身体を拭かれるダ・ヴィンチは嬉しそうな表情を浮かべる。
「ダ・ヴィンチちゃんも色々と抱えてたんだね……」
「ああ、こんな姿はホームズやゴルドルフ君には見せられないなぁ……。でも君には全部知っておいて欲しかったんだ」
ダ・ヴィンチはそう言いながら立香に寄り添う。
「お互い溜まったものを吐き出せてスッキリしたね」
「そうだね。私も自分の溜まったものを吐き出せてよかった」
ダ・ヴィンチは立香に笑顔を向ける。
「藤丸君。君は優しい子だ。だからこそ私は君に惹かれる。君は私にない強さを持っている。君はこれからも自分の道を進み続けるといい」
ダ・ヴィンチは笑顔を立香に向けながら言った。
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立香は自分のマイルームのベッドに潜り込み、目を閉じた。立香は意識が遠のく中で、不思議な感覚を味わっていた。
(あれ……?ここは……?)
立香はゆっくりと目を開けた。するとそこは自分の部屋の天井ではなく、暗い地下道のような場所に立っていた。
「えっ……!?何ここ……!?」
周囲を見渡すとそこは見知らぬ地下道だった。そして立香は自分がいる地下道に見覚えがあった。特異点修復の際に向かったロンドンにある時計塔の地下に似ていたのだ。いや、似ているというよりあの時の地下そのままであった。
「嘘……!?どうして……!?」
立香は困惑しながら辺りを見る。
「何だか変な感じ……。俺の夢の中なのに、まるで現実みたいだ……。まさか下総の時みたく…?」
レイシフトした可能性は有りえなくはない。以前にもこれと似たような状況になった事があるのだ。とりあえず立香は地下道を進んでみる事にした。地下道は肌寒く、薄暗かった。
「やっぱり寒いな……。それにしてもこの地下道……。何処かに繋がってるのかな……?」
しばらく歩いていると、目の前に扉が現れた。古びた年代物の木製の扉である。立香は恐る恐るその扉を開けてみた。
「……!これは……!」
立香は目を大きく見開いた。目の前に広がっていたのは多種多様な生物がホルマリン漬けにされている部屋であった。瓶の中に入っているのは妖精などの幻想種から、昆虫、爬虫類、魚類、鳥類、哺乳類など多種の生物の標本が飾られていた。
「何だよこれ……。気味が悪いな……」
立香は思わず後ずさりする。そして部屋の奥にもう一つの扉があった。立香は恐る恐る近付き、扉に手を掛けて開けてみる。そこは"人間"を解剖している術場であった。部屋にある二つの手術台の上にはそれぞれ男女の遺体が置かれており、二人は身体の多くの部分を切り取られ、解剖されていた。立香は吐き気を催し、口元を押さえながらその場から逃げようとする。が、立香は手術台に置かれている二人の遺体の"名前"を見て凍り付く。手術台の上で身体を解剖されている男女は自分の父と母だった。名前の表記はアルファベットであるが、立香が自分の父と母の名前を間違える筈がない。
「そんな……父さん…!?母さん…!?」
立香は手術台に駆け寄り、変わり果てた姿の両親に呼びかける。
「何で……!?何でこんな事に……!?」
ムニエルから聞いた話によれば両親は魔術協会が放った執行者に事故に見せかけて殺された筈だ。なのに何故このような場所に遺体があるのだろうか?それに先程のホルマリン漬けされていた妖精などの幻想種を見ればここが魔術師の工房だという事は容易に想像がつく。
「事故に遭って死んだ父さんと母さんが何で魔術師の工房なんかに運び込まれているんだ…!?」
立香は改めて手術台の上に置かれた両親の状態を見た。両親の状態はとても言葉で言い表せない程に凄惨なもので、立香は吐き気を催す。
「何で……何で二人がこんな目に遭わないといけなかったんだよ……!?殺すだけじゃなく、解剖までして……!!ふざけんなよ……!!」
両親は単に魔術協会の執行者の手で消されただけではない、魔術師によって死後の尊厳さえも踏み躙られたのだ。
「父さん…母さん……ごめん……俺がカルデアにスカウトなんてされなければ……こんな事にはならなかったかもしれないのに……!」
立香は両親の遺体に縋り付き、涙を零しながら謝罪する。そして掛けられていた布を取り、両親の死に顔を見ようとする。だが……
「……!?」
両親の顔は既に腐り始めており、生前の面影が消えかけていた。更に両親の頭部は綺麗に切り開かれており、脳味噌が丸ごと抜き取られている有様だった。
「何で……何でこんな事に……!?何でこんな酷い事が出来るんだよ……!!」
立香は手術台に何度も拳を叩きつけた。
「何で……何で……!」
そして両親の遺体を抱き締め、泣き叫ぶ。シミュレータールームで作り上げた両親は所詮虚像のもの。現実の両親は執行者によって事故に見せかけて殺されたばかりか、こうして魔術師の工房に送られた上に実験体として解剖され、死後の安息すらも冒涜されてしまった。
「何で……何で……!何でだよぉ……!」
号泣する立香はふと、手術室にあるカレンダーを目にする。その日付は2017年12月9日。地球が白紙化する前であり、この時にはまだ立香は南極のカルデアにいた。つまり立香は両親がこうして魔術師の工房で身体を刻まれて解剖されている事すらも知らずにカルデアにいたのだ。魔術師の組織であるカルデアに関わってしまった自分を魔術協会が放っておく筈がないとは思ってはいたが、まさか自分の両親にまで手を出されるとは……。
「ゆる……さない……!」
両親をこのような目に合わせた魔術師達を絶対に許してはならない。両親をこのような目に遭わせた奴らを必ずこの手で殺さなければならない。今まで立香は本気で誰かを憎んだ事などなかった。特異点修復の旅でも、ゲーティアとの戦いでも、空想樹切除の戦いでも、立香は本気で誰かを恨んだ事はなかった。だが今は違う。両親をこのような目に遭わせ、あまつさえ両親をこのように解剖した魔術師達は決して生かしてはおけない。両親を殺した魔術師達には必ず報いを受けさせる。そう思った立香の後頭部に強い衝撃が走り、立香はそのまま意識を失った。
「ん…?ここは…?」
気が付けば立香は手術台の上に大の字で磔にされていた。両手両足はそれぞれ枷を嵌められ、身動きが取れないように拘束されていた。
「何だこれ……!?」
自分の身に起きている事態に困惑する立香。そんな時、部屋の扉が開き、そこから現れたのは、黒いスーツを着た中年の魔術師であった。
「侵入者がきたと思えばまだ子供ではないか。調べたところ、どうやら君が南極のカルデアにスカウトされたという藤丸立香か。いつの間にか南極を出てここに来たのかは知らないが、君の両親は私が解剖させてもらったよ」
「な……!?」
目の前の中年の魔術師が自分の両親の遺体を解剖した張本人という事実に、立香は驚愕する。
「お前が……お前が父さんと母さんを……!」
立香は手術台の上で暴れるが、枷が外れる気配はない。
「そうだ。あの二人は実に良いモルモットだった。特に父親は私の研究に非常に役立った。感謝しているぞ」
魔術師の言葉に立香は怒りを覚える。
「ふざけるな!何で……何で父さんと母さんを解剖したりなんかしたんだ……!?」
「決まっているじゃないか。レイシフト率100パーセントを誇る君の両親だぞ?調べる価値は十分にあるだろう。それに加えて君の父親と母親は魔術協会の者に暗示や記憶操作を受けたのにも関わらず、自分達には息子がいるという事を本能で感じ取って君を探していた。子供への愛が魔術を上回るとは実に研究しがいのある対象だよ」
熱心に解説する中年の魔術師の言葉に立香は怒りを覚えた。
「ふざけるな……!」
立香は魔術師を睨みつける。
「そんな理由で……そんなくだらない理由だけで父さんと母さんを……!」
「所詮一般人の君からすれば私のような魔術師の崇高な理念は理解できんだろう。だが君の父も母もこの私の実験に大いに貢献してくれた事は事実。その礼として解剖させてもらっただけだ。むしろ感謝してほしいくらいだ。何しろ君はもう二度と会えないと思っていた父と母に再会できたのだから」
「ふざけるな……!そんな理屈で……!」
「あぁ、それと君の両親が私の工房に運び込まれてきた時はまだ生きていたよ。ボロボロの状態になっても壊れたテープレコーダーのように君の名前を呼んでいたからね」
「殺す……お前だけは……殺してやる……!」
魔術師を睨む立香。自分でもどんな顔をして魔術師を睨んでいるのか分からない。
「やれやれ、これではまるで獣だな。まあいい。そんな君でも使い道はある」
そう言うと魔術師は立香に近づき、立香の頬を撫でた。
「レイシフト率100パーセントを誇る君の肉体、是非とも研究したいものだ」
そう言って魔術師は立香に魔術を掛けようとする。が、魔術師の男はその直前に意識を失いその場に倒れた。
「え……?」
立香は呆気に取られていると、手術室にある空間が歪み、そこから人型の大きなロボットが現れた。頭部は炎で燃え盛り、青を基調とした鋼鉄の身体を持っている。立香は現れたロボットに見覚えがあった。
「やぁ、立香君。久しぶりだね。私だよ、ドルマムゥだよ」
立香は自分の無意識の底にあった記憶を蘇らせる。シミュレータールームでマシュと訓練を行っている時に現れた謎のロボットだ。
「ここは過去の時間軸。地球が白紙化する前の時間に君を飛ばしたのさ。この工房に君のご両親の遺体があったからね」
ドルマムゥが手をかざすと、立香の両手両足を拘束していた枷が外れ立香は自由になった。そして立香は手術台の上にある両親の遺体に駆け寄り、涙を流す。
「父さん……母さん……」
立香は両親に抱き着いた。立香は涙でぐしゃぐしゃになりながらも、両親に語り掛ける。
「父さん……母さん……俺……父さんと母さんに会いたくて……ずっと会いたかったんだ……」
例え魔術師から記憶操作と暗示を受けても、自分の事を忘れなかった両親に、立香は涙が止まらなかった。
「こんな終わり方だなんて……父さんと母さんがこんな形で死ぬなんて……!!」
立香は両親の死に悲しむと同時に、両親をこんな目に遭わせた魔術師に対する憤りが芽生えていた。許せない、赦せない、絶対に。
「可哀想に…。世界を救った君に対する仕打ちがこれさ」
ドルマムゥは号泣する立香の肩に手をかけながら優しく語り掛ける。
「もし……君のご両親を救う事ができるとすれば君はどうする?」
「……!?」
ドルマムゥの言葉に立香は振り返る。そう、こんな結末は…こんな終わり方は望んでいなかったはずだ。自分は両親を助けたい。たとえ自分が助かる事がなくても、せめて二人だけでも……。
「そうか……君ならそう言うと思っていたよ。けど本当にそれでいいのかい?もしかしたら君の仲間であるカルデアを裏切る事になるかもしれないよ?」
「……裏切る事になっても……俺は……俺は父さんと母さんを助けたい……!!」
マシュ、ダ・ヴィンチ、ホームズ、ゴルドルフ、ムニエル、アナスタシア、ブーディカといった仲間達を裏切る事は立香も望んではいなかった。だが…両親が魔術師から受けた余りにも惨過ぎる仕打ちを目の当たりにした立香は、どうしても両親を助けたいという気持ちを抑えきれなかった。人類最後のマスターとして、汎人類史を救う者として失格の烙印を押されるだろう。だがそれでも構わない。取り戻すべき日常の象徴であった両親が理不尽な死を遂げたという現実に耐えられなかったからだ。
「それじゃまずは強く願うんだ。君を救いに来る存在……アベンジャーズが来るように……!」
そう言われて立香は祈った。強く願った、何度も願った。両親にもう一度会いたい。両親が生きている世界をこの手で守り抜きたいと。今の立香は人類最後のマスターとしてではない、愛する両親を救いたいと願う一人の少年として願った……。
「…………」
立香は目を覚ました。そこはいつも見慣れたマイルームの天井だった。
「あれ……夢だったのか……」
立香は上半身を起こし、自分の身体を見る。服はいつも通りだし、特に変わった様子はない。
「はぁ……何だ、夢か……」
立香は安堵した。あんな悪夢のような出来事が自分の身に起こるはずがない。立香はそう思った。だが……
突然ノウム・カルデアに警報が鳴り響いた。
「何だ!?」
立香は急いで着替え、大急ぎで中央管制室に向かう。中央管制室に辿り着くと、そこにはマシュ、ダ・ヴィンチ、ホームズ、ゴルドルフ、ムニエル、シオン、そしてアナスタシアがいた。
「先輩!大変です!彷徨海の上空に謎の巨大空母が出現しました!!」
「何だって…!?」
「あれ程の巨大な空母を空中に浮遊させて飛行できるなんて……。これはかなり厄介だよ……!!」
「どういうことなんだ……?」
立香は先程の夢の中でのドルマムゥの言葉を思い出す。
―――――君を救いに来る存在……アベンジャーズが来るように……!
「それじゃあ……彷徨海の上空に浮かぶ空母が……アベンジャーズ……?」
立香は自分が何か途轍もない間違いを犯したのではないかと感じていた。
次回は舞台は再び冬木市に戻ります。別マガのコミカライズの藤丸君には普通に家族がいるんだよね……。