アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです   作:ドレッジキング

32 / 48
今回はウルヴィーVS小次郎回です。1話丸々バトルって久しぶりな気が……。


第21話 ウルヴァリンVSアサシン

深夜、闇に包まれた柳洞寺へと続く長い階段をウルヴァリンは駆け上がっていた。昼間の調査の結果、柳洞寺にはサーヴァントがいる事を突き止めた。衛宮士郎の護衛をしているスティーブに連絡を入れ、ウルヴァリンは単独で柳洞寺へと偵察に行く旨を伝えた。スティーブが士郎から聞いた情報によれば柳洞寺には「魔女」が潜伏しており、柳洞寺自体も魔術師が拠点とするには最適の場所らしい。2月の深夜故に、冷たい風が吹きつける中、ウルヴァリンは速度を緩めずに柳洞寺へと駆け上がっていく。階段の途中ではサーヴァントと思われる存在の気配を感じ取る事はできなかった。しかし、確実に何かが潜んでいる。ウルヴァリンは魔術には疎いが、人間や動物の気配を感じ取る第六感には自信がある。

 

(今んとこサーヴァントの気配はねぇが、どんな罠が仕掛けられているか分からねえ。油断せずに行こう)

 

ウルヴァリンは速度を早め、しかし慎重に階段を上がり続けた。長い階段ではあるが、ウルヴァリンのスピードは常人のそれを上回る。あと僅かで寺へと辿り着くだろう。見たところ、罠や奇襲の気配はしない。そしてようやく柳洞寺の入り口である山門が見えた。ウルヴァリンはサーヴァントが待つ寺へと入るべく歩を進めようとする。しかし山門の所に何者かが立っていた。

 

(ありゃサムライか……?)

 

柳洞寺の山門には時代錯誤とも呼べるサムライが立っていた。長い髪を後ろに束ね、背中には長大な日本刀を背負っている。単にそこに立っているだけで絵になるであろう美男子。花鳥風月、風雅といった形容詞が似合うそのサムライは階段の下にいるウルヴァリンをじっと見据えていた。柳洞寺という和風の空間に溶け込んでいるサムライであるが、こうして見られているだけで山門に立つサムライが只者ではない事が分かる。

 

(あの野郎タダもんじゃねぇな……)

 

ウルヴァリンも山門に立つサムライの危険性を直感で感じ取る。今まで数々の戦いを経験してきたウルヴァリンの経験から見てもあのサムライは危険極まりない。そしてサムライはゆっくりと階段を下りてきた。サムライは階段を下りつつ、ウルヴァリンに声をかける。

 

「このような夜更けに客人とは珍しい。見たところ魔術師の類ではなさそうだがサーヴァントでもない。何用あってこの柳洞寺へと参った」

 

サムライはウルヴァリンの前方5メートルの位置にまで近づいた。余りにも自然体なその姿に反して全くといって良いほど隙が無い。その時点でこのサムライが相当な実力者だという証であろう。

 

「……テメェなにもんだ?サーヴァントなのか?」

 

ウルヴァリンは目の前のサムライに問いかけると、サムライ口を開いた。

 

「――――アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎」

 

「ササキ・コジロウだと……?」

 

日本との関わりが深いウルヴァリンでも、佐々木小次郎の名は聞いたことがある。宮本武蔵と巌流島で決闘を行った武芸者。その佐々木小次郎がこうして自分の目の前にいる。聖杯戦争では古今東西の英雄豪傑をサーヴァントとして召喚するとは聞いていたが、目の前のサムライが佐々木小次郎だという事実にはウルヴァリンも驚く。

 

「日本でも有名なサムライとこうして対面できるたぁ俺もツイてるじゃねぇか」

 

「そなたが何者であるかは問うまいよ。だがこの階段を通ってあの寺へと入るのであれば通すわけにはいかん」

 

そう言って予備動作も無く背中の長大な日本刀を抜いた。その長さは通常の日本刀を上回るものであり、並大抵の技量の持ち主では扱いこなす事は不可能だろう。長刀を持ったまま無構えだ立ちすくむ小次郎。一見隙だらけに見えるが、ウルヴァリン程の実力者であればそれが嘘だと見抜ける。

 

(あの野郎……全くといっていいほど隙がねぇ。それに空気が張り詰めてやがる)

 

小次郎本人の身体からは殺気や圧など発していないものの、ウルヴァリンは周囲の空気が一変した事を感じ取る。

 

「俺を通す気はねぇって事だな?」

 

「然り。そなたが何を企んでいるのかは知らぬ。だが此処でそなたを斬るのも悪くはない」

 

外見とは裏腹に、この小次郎は戦う事が何よりも好きなようだ。根っからの武芸者であり戦い好き―――故にこそ、己の剣技に絶対の自信を持っている。

 

「ま、俺は別に構わねぇぜ。ただ、一つだけ忠告しておく」

 

「ほう、忠告とな?それは興味深い」

 

「アンタの実力は相当なものだ。だが俺の方が強ぇ!」

 

ウルヴァリンはそう言った瞬間、手の甲からアダマンチウムの爪を出した。ウルヴァリンの体内の骨は地上で最も硬い金属であるアダマンチウムで覆われており、手の甲から飛び出る爪はウルヴァリンを象徴する武器である。ウルヴァリンは一気に間合いを詰め小次郎に切りかかる。が、小次郎の剣速は尋常ではなく、一瞬にしてウルヴァリンの身体を捉える。小次郎の長刀はウルヴァリンの肉体を切り裂くものの、ウルヴァリンは咄嗟の回避によって傷が浅く済んだ。しかし、小次郎の刃は確実にウルヴァリンの肉を裂いている。ウルヴァリンは一旦距離を取り、階段の踊り場から上段にいる小次郎の様子を見る。

 

(あの野郎の太刀筋が見えなかった……!)

 

ウルヴァリンは小次郎の剣術を見て驚愕する。あれだけ長い刀をウルヴァリンでも視認し切れない程の速度で振り回せるのは異常である。

 

(これがサーヴァントの力だって言うのか?)

 

「サーヴァントではないが、私の物干し竿による攻撃に反応できるだけでも大したものよ」

 

「へぇ、高名な剣士にお褒め頂き嬉しい限りだぜ」

 

ウルヴァリンは小次郎の絶技とも呼べる剣術を目の当たりにし、自分の血が騒ぐのを感じた。ウルヴァリンは立ち上がると同時に構える。ウルヴァリンは短躯ではあるが、身体に搭載した筋肉は最早凶器に等しく、大型の肉食獣をも食らわんとする程の攻撃性に満ちていた。一方の小次郎はウルヴァリンの身体から放たれる突き刺さるような殺気を涼しい顔で受け流す。

 

「どうした? 来ぬならこちらから行くぞ」

 

小次郎は無構えのまま階段を下りてくる。対するウルヴァリンは両腕を交差させつつ、構えた。

 

「行くぜ!」

 

ウルヴァリンはトップスピードで上段にいる小次郎との間合いを詰める。ウルヴァリンの爪の長さはおよそ三十センチ。距離さえ詰めてしまえば、相手は回避する事は出来ない。

 

しかし、次の瞬間、ウルヴァリンは首筋に悪寒を感じる。小次郎が放つ視認不能な程に速い斬撃が、既に目の前に迫っていた。

 

(クソッタレ!)

 

ウルヴァリンは直感を駆使して小次郎の物干し竿の斬撃をアダマンチウムの爪で受け流した。そして小次郎は間髪入れずに目にも止まらぬ速度の太刀をウルヴァリンに繰り出す。ウルヴァリンも応戦し、アダマンチウムの爪を用いて斬撃を弾く。両者共に一歩も引かず、攻防は激しさを増していく。互いの身体能力は常人を超えており、繰り出す攻撃も普通ではない。小次郎の物干し竿とウルヴァリンの爪がぶつかり合う金属音が周囲に響き渡る。爪と刀、鉄と鉄。全く異なるカタチの武器と武器が火花を散らしながら交差し合う。長大な物干し竿と短い爪。間合いに入ればウルヴァリンの勝ちであるが、そうはさせないのが小次郎の技量である。

 

小次郎の長刀による斬撃は疾風と化してウルヴァリンを捉えるが、長年の戦いによる経験と研ぎ澄まされた直感を駆使して受け流していく。両者の武器にはリーチの差があるのでこのまま膠着状態に陥らないようにと、小次郎は手数を増やしながら攻撃を続け、一方のウルヴァリンは防御に徹して攻撃に転じようとしない。否、ウルヴァリンは決定的なチャンスを伺っているのだ。長い攻防から生まれる微かな綻びを見つけ、そこを突いて一気に勝負を決めるつもりである。しかし、小次郎は中々隙を見せない。その隙を見逃さないように集中する。

 

(野郎、一向に隙を見せやがらねぇ。こっちの攻撃を凌いで反撃する戦法に切り替えたのか?)

 

ウルヴァリンは小次郎の表情を見る。相変わらず涼しげな顔をしているが、その瞳の奥には冷徹な光があった。まるで獲物を狙う鷹のような眼差しである。

 

(どうやら向こうは俺の隙を窺ってるようだな。だが、いつまでも付き合ってやる義理はねえ)

 

ウルヴァリンはカウンターを狙っている。攻撃は最大の防御という言葉があるが、それは相手も同じである。

 

「やるなお主」

 

「アンタこそ、大した腕だ」

 

互いに称賛の言葉を送りながらも攻撃の手は一切緩めない。しかし、ここでウルヴァリンは違和感を覚える。何故なら、この小次郎が未だに本気を出していないような気がしたのだ。

 

「ふむ……」

 

そこでウルヴァリンは一旦攻撃を止め、一度体勢を立て直す事にする。一方の小次郎は追撃を仕掛ける事なく、ただ黙って佇んでいた。その表情は相変わらずの無表情だが、それがかえって不気味に感じた。

 

「その短躯に見合わず、恐ろしい程の疾さと力強さよ。だからこそ斬り甲斐がある」

 

そう言って小次郎は距離を詰めてくる。ウルヴァリンは階段の上段にいる小次郎に切りかかるが、相手が上で自分が下という地形的な不利があり、また小次郎の敏捷さもあってなかなか決定打を与えられなかった。とりわけリーチの差は如何ともしがたく、小次郎の長刀は確実にウルヴァリンの肉体を捉えられる距離でも、ウルヴァリンの爪は小次郎まで遠い。が、ウルヴァリンは一瞬の隙を突いて小次郎の長刀をアダマンチウム爪の間に挟める。チャンスは一度きり、これを逃せばウルヴァリンに勝機はなくなる。故に、絶対に外せない。

 

「捕まえたぜ?まさか爪と爪の間に挟まれるとは思わなかっただろ?」

 

「……ふむ。爪の特性を生かした見事な技よ」

 

小次郎は感嘆の声を上げる。そして次の瞬間、彼は自ら後ろに向かって飛んだ。それによってウルヴァリンのアダマンチウムの爪から逃れる。そして空中で一回転して着地を決めると、再びウルヴァリンに向かってくる。

 

(ちきしょう!仕切り直しかよ!)

 

小次郎が持つ長い刀の斬撃とウルヴァリンの爪の斬撃が再び交差し、激しい火花を散らす。今度は互いにバックステップを踏み、距離を取る。ウルヴァリンの爪は小次郎の頬を掠めたが、小次郎の長刀はウルヴァリンの脇腹を切り裂いた。ウルヴァリンの方が致命的な傷ではあるが、問題なく戦闘を続行できる。そして小次郎は笑みを浮かべながら言う。

 

「よもやここまでの実力者とはな。これは益々、斬り甲斐があるというものよ」

 

そう言って小次郎はジャンプし、ウルヴァリンがいる階段の踊り場へと着地した。

 

「どうしたよ?自分から地形的な優位を捨てるのか?」

 

「何、貴様には私の"秘剣"を見せてやろうと思ってな。貴様ほどの強者への敬意として」

 

「"秘剣"だと?ハッ、大層な名前じゃねぇか」

 

「―――では見せてしんぜよう」

 

そう言って小次郎は構えた。今までは無構えのまま長刀を凄まじい速度で振るっていたというのに、ここに来て初めて構えたのだ。ウルヴァリンは小次郎の構えを見て、額から冷や汗が流れるのを感じ取る。空気が先ほどまでとは段違いに張り詰めており、ウルヴァリン自身の直感が危険を知らせているのだ。

 

(……あれはやべぇ)

 

ウルヴァリンは無言で迎撃体勢を取る。先程のようにカウンターを狙っているのではない。自分を確実に殺す為の構えだ。ウルヴァリンと小次郎との距離は3メートル弱。一瞬でも隙を見せれば、その瞬間に勝負は決するだろう。しかしウルヴァリンも簡単に負けるつもりはない。

 

(俺だって、伊達に修羅場を潜ってきたわけじゃねぇ)

 

ウルヴァリンは己を鼓舞し、小次郎へ向かっていく。しかしその刹那、小次郎の魔剣が発動した。

 

―――――――――秘剣・燕返し

 

小次郎の秘剣がウルヴァリンの身体を捉えた。ウルヴァリンの身体は切り裂かれ、鮮血が派手に噴き出す。これは誰から見ても勝負があったように見えるだろう。三つの斬撃が同時に繰り出され、かつ脱出不可能な斬撃の牢獄を潜り抜けられる者など存在しない。だが小次郎は知らなかったのだ。ウルヴァリンが持つ力を……。

 

「……!?」

 

「……へっ驚いたかよ?俺の身体を断ち切れねぇ事に」

 

小次郎の斬撃は人間だけでなくサーヴァントの身体をも寸断してしまう程に強力だ。耐久ランクが高いサーヴァントといえども小次郎の燕返しをそのまま受ければ無事で済む筈もない。しかしウルヴァリンの身体は断ち切る事が不可能なのだ。

 

―――――――――アダマンチウム

 

ウルヴァリンの骨格に埋め込まれた地上で最も硬い金属の名前。このアダマンチウムが骨に埋め込まれている故に、小次郎の長刀はウルヴァリンの身体を切断する事ができず、アダマンチウムの骨格は燕返しによる斬撃を防いだのだ。そしてそれ故に決定的なチャンスをウルヴァリンは得た。ウルヴァリンは小次郎の物干し竿を手で掴んでいるのだ。更にウルヴァリンはどんな傷をも再生できるヒーリングファクターを持つ為、こういった捨て身の戦法を可能にしている。

 

「へへ……今度こそ捕まえたぜ?日本でいう”肉を切らせて骨を断つ"ってやつだ」

 

「成程、物干し竿の斬撃でも断ち切れぬ骨を持つか……。お主の身体の特性を見誤った私の未熟、という事であろうな」

 

そしてウルヴァリンは小次郎の物干し竿を力づくで奪い取ると、階段の下へと放り投げ、同時に小次郎との距離を一瞬で詰める。

 

「勝負アリだ!!」

 

その言葉と共にアダマンチウムの両爪を小次郎の胸に深々と突き刺した。




ウルヴィーの身体の特性を考えればこういう戦法も可能ですよね(原作でも普通にやっていますし)。

ぶっちゃけ小次郎じゃウルヴァリンを殺す手段に欠けていたのでこんな結果になってしまいました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。