アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
柳洞寺の境内は昼間に訪れた時とは明らかに空気が違っていた。とはいえ境内の中は特に変わった様子はない。闇夜に包まれある種の神秘的な雰囲気さえ漂ってはいるが、ウルヴァリンは直感でこの寺に漂う空気の異質さを感じ取った。一般の人間であれば気付かないだろうが、野生の直感に長けるウルヴァリンであれば柳洞寺の境内は人が足を踏み入れるべきではない領域のように見えている。
そう、間違いなくこの寺に聖杯戦争で召喚されたキャスターがいるのだ。真名こそまだ判明してはいないが、キャスターというクラスの性質上、肉弾戦を得手とするウルヴァリンにとって天敵となり得る。昼間に訪れた際に会ったあの水色の髪の毛の美女がキャスターなのだ。どのような手を使って境内に侵入した自分とセイバーに罠を仕掛けてくるか分からない。
そもそも山門を守っていたアサシンをウルヴァリンが倒した時点でとっくにキャスターには気付かれているだろう。そしてアサシンを倒して境内に入った以上、今度はキャスターの方から仕掛けざるをえない。ウルヴァリンとセイバーは慎重に境内の中を進んで行く。すると前方―――寺の本堂への入り口から20メートルほど離れた位置にソレは立っていた。ローブを纏った女だ。顔は隠れていて分からないが、あのローブや佇まい、雰囲気からみてまず間違いなくキャスターである。
「……アサシンが倒されたようね。全く、情けないったらないわ」
フードの奥から聞こえてくる声は女性のものにしてはやや低く感じられる。先程ウルヴァリンが倒したアサシンはキャスターと何らかの同盟関係ないし協力関係にあったのだろう。セイバーは佇んでいるキャスターに対して言う。
「貴女がキャスターか。柳洞寺を根城にして町中の人間から生命力を奪っているそうだな」
セイバーがそう言うと、キャスターはクスリと笑う。その仕草はまるで小馬鹿にしているようで、どことなく不快だ。
「今更誤魔化す必要もないし正直に答えてあげるわ。答えはイエスよ。それが何か?」
「私の質問に答えろ。なぜ無関係な人間を犠牲にする?」
「戦いに勝つ為には手段なんて選んでいられない。ましてやこれは聖杯戦争よ?わざわざまともな戦い方してあげるほど私もお人好しじゃないわ」
キャスターは笑みを浮かべている。が、外見上は余裕そうに見えて実際はかなり焦っているような感じがした。彼女の警戒心は主にセイバーに向けられているようで、ウルヴァリンは眼中にない。スティーブやストレンジから聞いた情報ではセイバーは最優のサーヴァントと呼ばれており、キャスターが警戒を抱くのも無理はないようだ。更に魔術師というキャスターの性質上、剣を持つ英霊であるセイバーと真っ向から戦うのは厳しい。それ故に注意がセイバーに注がれているのだろうが、そこを上手く突けば倒す事は可能かもしれない。
「けどいいのかしら?この柳洞寺は私のテリトリー。ここに足を踏み入れたからには私の領域で戦うのと同じ事」
「気を付けてくださいウルヴァリン、キャスターのサーヴァントは『陣地作成』のスキルを備えています……」
セイバーは小声で後ろにいるウルヴァリンに忠告する。キャスタークラスで召喚されるサーヴァントは『陣地作成』のスキルを持っており、自分に有利な陣地である「工房」を作り上げる事が可能だ。目の前のキャスターが根城にしているこの柳洞寺も既に彼女の『陣地作成』スキルによって彼女に有利な領域へと変わっている。つまりセイバーとウルヴァリンは彼女のホームグラウンドに立っているのだ。
(なぁセイバー、お前さんには何か策はあるのか?)
(策?そんなものはありません。ただ目の前のキャスターを潰すだけです)
(あのな、それって何も考えてないのと一緒だぞ……)
(わ、私はセイバークラスで召喚されたサーヴァントです!ならキャスターの陣地で戦う程度造作もありません!それに私には対魔力があります!そう簡単にはやられません!)
(……まぁ確かにそうだがな)
セイバーの戦略性、戦術性の無さに呆れつつ、ウルヴァリンはキャスターを見据える。相変わらずキャスターはセイバーの方に注目しているようで自分の事は見ていないようだ。だがウルヴァリンはそれを見て嫌な予感がした。"不自然な程に自分に注目していないのだ"。自力でアサシンを倒した自分に多少なりとも警戒を抱きそうなものだが、それでも不自然なほどセイバーにばかり注目している。そんな事を考えていると、不意にキャスターがウルヴァリンの方を見た。彼女の口元の笑みを見て悪寒が走る。
「……確かにアサシンを倒した事は褒めてあげましょう。魔術師でもサーヴァントでもないあなたが英霊を打倒したのは賞賛に値します。ですが……」
――――――――――"対魔力"も"抗魔力"もない貴方が私の魔術に抗えるかしら?
キャスターの言葉を聞いた瞬間、ウルヴァリンはその場から離れようとしたが遅かった。自分の意思で身動きを取る事ができない。
「これは……!?テメェ、オレに何をしやがった……!?」
身体が動かないだけではなく、呼吸する事さえ困難になる程の重圧を感じる。まるで全身を見えない巨大な手で押し潰されているような感覚だ。この魔術から逃れられる手段はないのだろうか?いや、ある筈がない。今、自分の身体にはキャスターの魔術がかかっているのだ。そもそもウルヴァリンは魔術師ではないし、衛宮士郎や遠坂凛にある"魔術回路"は存在しない。ストレンジから借りた魔力のアミュレットなら持っているが、目の前のキャスターには役に立たないようだ。
「魔術回路も持たない貴方を操る事など私にとっては造作もない」
ウルヴァリンの様子がおかしい事に気付いたセイバーは後ろを見る。
「悪ィセイバー……。しくじっちまったみたいだ……」
ウルヴァリンの言葉に動揺するセイバーだったが、冷静に目の前のキャスターの方に視線を向ける。キャスターはいつの間にかウルヴァリンに魔術を行使していたのだ。
「貴方が山門にてアサシンと戦っている隙に魔術を使わせてもらったわ。魔術回路も持たない、魔力の欠片もない人間を操るなど簡単なことです」
そう言ってキャスターが手をかざすと、ウルヴァリンの身体が勝手に動きセイバーに襲い掛かる。ウルヴァリン自身の意思ではどうにもならないようだ。
「クソッ!オレを自由にしろ!」
しかし、ウルヴァリンの言葉を無視して、ウルヴァリンはセイバーに向かっていく。両手の甲からアダマンチウムの爪を出してセイバーに斬り掛かる。
「無駄ですよ。貴方の身体は既に私の手中にあります。私の許可なく動くことはできない。さぁ、セイバーを倒しなさい」
チャールズ・エグゼビアからレベル9の精神防壁を施されているウルヴァリンであるが、キャスターの力は魔術でありミュータントパワーの類ではない。しかも精神そのものではなく肉体に働きかけるタイプの魔術らしく、ウルヴァリンはセイバーへの攻撃を止められなかった。思えばこの柳洞寺はキャスターの本拠地。であればウルヴァリンに気付かれずに魔術を掛けてくるなど簡単な筈だ。
「セイバー!オレに構わずキャスターを倒せ!」
セイバーは無言で頷くと不可視の剣を構え、斬り掛かってくるウルヴァリンに応戦した。ウルヴァリンの身体は自由にならず、彼の意思に反して動いている。一方、セイバーは不可視の剣を用いて的確にウルヴァリンの爪を捌いていた。ウルヴァリンはキャスターによる肉体操作に抵抗しようとするが、上手くいかない。
対魔力も抗魔力も持たないウルヴァリンであれば魔術に抵抗するのは難しいのは道理だが、そんなウルヴァリンに全く気付かれずにキャスターは肉体を操作している。ウルヴァリンのアダマンチウムと、セイバーの不可視の剣がぶつかり合い、火花が散った。互いに一歩も譲らない攻防が続くが、流石に身体能力に勝るセイバーがウルヴァリンを押し始めている。
「セイバー!いっそオレを戦闘不能に追い込めないか!オレは簡単には死なねぇから安心しろl!」
「……承知しました」
ウルヴァリンの懇願を聞き入れ、セイバーは不可視の剣を構えたまま、ゆっくりと前進した。アサシンとの戦いを見ており、ウルヴァリンにヒーリングファクターがある事はセイバーも知っている。そして徐々に加速していき、そのまま剣を振りかざして一気に振り下ろす。セイバーの不可視の剣がウルヴァリンの胴体を捉えた。が、セイバーはその瞬間、悪寒が走る。彼女自身の直感が告げているのか、ふとキャスターの方に顔を向けた。キャスターは既に地上にはおらず、空中で強力な魔力の塊を生成しているではないか。
「ふふっ、あなた達が戦っている隙に上空へ飛んでいて正解でしたわ」
刹那、セイバーは咄嗟に後方へと飛び退き、同時にウルヴァリンの襟首を掴んで退避する。が、次の瞬間、地上に向かってキャスターによる強烈な魔力の光弾が地上へと放たれた。
メディアさんとウルヴァリンってよく考えたら相性最悪やんけ(^▽^;)