アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
道場内にて本日十数回目の竹刀で打たれる音が鳴り響いた。竹刀で打たれた方は士郎で、竹刀で打った方はセイバーだった。どうやら彼女は士郎に対して人間や魔術師がどのような手を用いようがサーヴァントには勝てないという事を学習させたかったらしい。セイバーは霊衣を纏っておらず、可愛らしい女の子の服を着てはいるものの、そんな彼女と竹刀を持って手合わせをした士郎は成すすべもなく竹刀で身体中を打たれてしまう。見た目は可憐な少女でもセイバーはサーヴァントという事だ。
「ハァハァハァ……っ!!」
全身汗だくで息が上がっている士郎に対し、セイバーは涼しい顔をしている。持っている武器が単なる竹刀だとしても、使い手であるセイバーは英霊。なので地力も身体能力も高校生に過ぎない士郎とは圧倒的な差がある。フィジカルという面でも経験という面でも隔絶していた。
「まったく、貴方は強情だとは思っていましたがこれほどとは」
セイバーは何度でも自分に向かってくる士郎を見て呆れと感心が混ざったような表情を浮かべる。
「俺は根本的に負けず嫌いなんだ」
「えぇ、それは嫌という程思い知りましたので結構です。そろそろ休憩にしますからシロウも竹刀を置いてください。床は汗で滑りやすくなっている上に貴方は疲労困憊状態。極限状態での模擬線でもないのに意味はありません」
だがそんなセイバーの台詞に対して士郎は反論する。
「……なんでさ。普通、戦闘訓練っていうのは最悪の状態を想定してやるもんだろ?」
「それこそ意味はありません。いいですかシロウ、貴方がサーヴァントと戦う、というのでしたら、体力は万全、足場は完全、逃走経路は確保済み、という状況以外での戦闘は無意味です。貴方は全てが充実した状態でなければ、サーヴァントと戦いにさえならない。最悪の状態で戦う、という時点で貴方は選択を間違えているのです」
セイバーの言う事は最もだ。魔術師とサーヴァントでさえ両者の間には隔絶した開きがあるというのに、ましてや人間とサーヴァントとなれば絶望的という三文字以外の表現は見当たらない。セイバーはマスターである士郎を生き延びさせる為の訓練を施しているのだ。決して彼を強くして戦線に立たせるなどという考えで指導している訳ではない。
「……う。つまりこういう状態では、間違っても戦うなってコトか」
「そういう事です。そうなってはどのような奇蹟もシロウを救いはしないでしょう。貴方の戦いは、まず自身を万全にし、的確な状況を模索する事から始まるのです」
セイバーは何も間違った事を言っていない。サーヴァントという超常の存在を相手にするとはどういう事なのか、それをしっかりと士郎に理解させたいのだろう。士郎とセイバーのやり取りを道場の隅からスティーブ、クリント、ナターシャは見物していた。
「キャップ、セイバーの言う事をどう思う?」
「彼女の言う事は正しい。シロウをできるだけ長く生き延びさせるという目的であれば理に適った訓練だと私も思う」
スティーブから見てもセイバーが士郎に施してる訓練は正しいものだと思える。そもそも、彼女の言葉に嘘はない。突っ走りがちな士郎を抑えるという意図もあるが。
「シロウ。貴方の実力ではサーヴァントと戦うなど夢物語に等しいという事を理解してください」
が、セイバーの言葉を聞いてクリントは興味本位で道場の中央にいるセイバーと士郎に近付く。
「嬢ちゃん、お前さんは人間はサーヴァントに勝てないって言っていたが、そんな人間じゃ到底勝てないスーパーヴィラン相手に俺やキャップは戦ってきたんだぜ?個人の才能や素質も関わってくるだろうが、人間ってのは案外捨てたもんじゃないって事を知ってほしいな」
クリントはどこから持ってきたのか、竹刀を片手に持ってセイバーの前に立つ。
「……私は貴方たちアベンジャーズがどのような敵と戦ってきたかまでは知りません。ですが貴方たちはサーヴァントという存在を甘く見過ぎています。サーヴァントにとって人間を殺すのは赤子の手を捻るより簡単なこと。サーヴァントに生身の人間が戦ったところで勝てる訳がないのです」
セイバーの言い分は最もだ。しかしそれが何だというのか。アベンジャーズとは人間の手には負えない神の如き存在とこれまで幾度となく戦ってきた。アベンジャーズのメンバーの中でもクリントはキャップのように超人血清を打って身体を強化しているわけでもない普通の人間だ。だが卓越した弓術や剣術を駆使してアベンジャーズの一軍として活躍してきた経歴がある。
「そんじゃ試してみようか?人間ってのは死に物狂いなら怪物だって倒せるんだ。英霊だって生前は俺やキャップみたいな人間だったんだろ?」
クリントは竹刀を構えてセイバーの前に立つ。どうやら彼女と手合わせをしたいようだ。士郎はセイバーに手も足も出なかったが、クリントであればどうか?
「仕方ありません。それではお相手しましょう」
嘆息交じりにセイバーはそう言いつつ、竹刀も構えずにクリントの前に立つ。
「何だ、構えないのか」
「確かに貴方は人間の中では強い方でしょう。しかし所詮は人外の域には到達していない。ならば私の相手は務まらない」
「言ってくれるな」
クリントはそう言うと素早く打突を繰り出した。弓術だけでなく剣術にも秀でるクリントは竹刀を用いた勝負さえお手の者だ。セイバーはその一突きを躱すとそのまま竹刀をクリント目掛けて振り下ろすが、間一髪でクリントはそれを竹刀で受け止める。しかしその直後、セイバーは竹刀を握る手に力を籠めると一気に押し返す。
「やるじゃねぇか。可憐なお嬢ちゃんの見た目しといて、まるで武人のそれだ」
「この程度の事は造作もありません」
セイバーがサーヴァントとしての力を発揮した上でクリントと戦えば、まず間違いなくクリントは秒で屍になっているだろう。それだけ彼女は人間とは比べものにならないほどの強さを持っているのだ。今のセイバーは手加減こそしているものの、それでも先ほど士郎と手合わせしていた時のような手心は余り感じられない。
クリントと士郎では経験値でも戦闘技術でも差があり過ぎるので無理もないかもしれないが、クリントの持つ実力をセイバーも肌で感じているようだった。超人血清を打っているスティーブとは異なりクリントの身体能力は人間の範疇を超えていないものの、単純な戦闘能力だけを見るなら彼も立派なアベンジャーズの一員である。クリントは素早い動きで竹刀を振るいつつ、隙を見て鋭い突きを何度も放っている。だが、セイバーもまた俊敏さに関しては負けていない。相手の攻撃を最小限の動きで回避しつつ反撃に転じているのだ。
「どうしました?攻め手が温くなっていますよ?」
「そっちこそ受け身になってんじゃねえか?もっと攻めてきたらどうだ?」
二人は軽口をたたき合いながら打ち合いを続ける。一見すると互角に見える二人の戦いだったが、徐々にその戦況に変化が生じ始める。クリントが劣勢になってきているのだ。やはりサーヴァントであるセイバーと人間であるクリントでは根本的に地力の差が大きすぎたらしい。このままではそう遠くない内にクリントは敗北してしまうだろう。打つ、突く、払うといった基本的な動作でも、サーヴァントと人間の間には大きな隔たりがあるのだ。
「動きが鈍ってきましたね。そろそろ限界ですか?」
そう言ってセイバーはクリントの胴を狙って竹刀を振るう。しかしその一撃はギリギリのところで躱された。
「凄いなバートン先生……。俺なんてセイバー相手に何もできなかったのに」
感心したように言う士郎。しかし人間とサーヴァントの差を覆すには至らず、バートンはセイバーによって持っている竹刀を落とされてしまった。勝負ありだ。
「今日はここまでですね」
そう言うとセイバーは竹刀を収める。一方のクリントは悔しそうな表情をして肩を落とした。
「よくやったぞクリント。彼女相手にあそこまで戦えたんだ」
「得物の弓さえありゃ勝てんだがな……」
やはりクリントにとっての自分の武器は弓と矢なのだろう。弓術の達人であるクリントは剣術にも長けているが、剣士のクラスであるセイバーには及ばない。そもそも人間とサーヴァントでは色んな意味で隔絶しているのだから無理もないが。クリントとの手合わせを終えたセイバーは道場の床で正座をしている。こうして座してるだけでも絵になる程の美少女だった。そんな彼女の姿に見とれる士郎。
「お、シロウはあの嬢ちゃんに気があるのか?」
からかうように言うクリント。
「い、いや、そういう訳じゃ……ただ単に綺麗だなって……」
顔を赤くしながら言う士郎。クリントはそんな士郎の反応を見て楽しそうに笑う。
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聖杯戦争に参加しているサーヴァントである以上、この冬木のどこかにいる筈。そう思ってパニッシャーは立香の家族を口封じで殺害したランサーのサーヴァント……クー・フーリンの行方を追っていた。コヤンスカヤからの情報で、ランサーの真名がアイルランドの光の御子たるクー・フーリンと知ったパニッシャーは、新都を歩き回り、行方を追う。冬木のどこに身を潜めているのかはまだ分からないが、手掛かりはある筈だ。そう考えながら歩いていると、突然声をかけられた。振り向くとそこには雪の妖精を思わせる銀髪の少女が立っていた。
「……!」
そう、冬木教会からの帰りにキャップや士郎を襲ったバーサーカーのマスターであるイリヤスフィールだ。彼女の名前に関してはキャップからの連絡で聞いていたが、あの時パニッシャーは遠距離狙撃をによってイリヤの細腕を吹き飛ばしたのだ。それが功を奏してイリヤとバーサーカーを撤退に追い込めたものの、イリヤとは直接顔を合わせたわけではないので面は割れていない筈であるのだが、当のイリヤはパニッシャーの方を見てニヤニヤしている。
「……何か用か?」
警戒しつつもイリヤに声を掛けるパニッシャー。するとイリヤはクスクスと笑う。
「ふふ、決まってるじゃない。私の腕を吹き飛ばした張本人のアナタが目の前にいるんだもの。顔を見るのは当然でしょ?」
そう言って微笑むイリヤ。どうやら腕を失った事を根に持っているらしい。しかし、その割には敵意を感じさせない態度である。
「お前は俺を知っているのか?」
「さあ?どうかしらね?」
そもそもどうやってパニッシャーが自分の腕を狙撃で切断した犯人だと分かったのか。聖杯戦争に参加する以上はイリヤも魔術師である。魔術なりを用いて自分を撃った者の情報を集めたのだろう。
「その顔だといちいち聞く必要もないな。この前は腕を吹き飛ばしてやる程度で済ませたが、今度はそうはいかんぞ?」
イリヤの腕を撃ち抜いた事は後悔していない。あの時はあれが最善だったと思っているからだ。
「貴方に腕を切断された時はすっごい痛かったんだからね」
イリヤは頬を膨らませながら言う。だが、その顔は相変わらずニヤニヤしていた。そんなイリヤを無視してパニッシャーは質問を続ける。
「それで、俺に何の用だ?」
「別に~?たまたま会ったんだから、ちょっとお話しようって思っただけよ」
「俺に話……?てっきり仕返ししてくるのかと思ったがな」
「私みたいなマスターは昼間は戦っちゃダメだからね。バーサーカーも置いてきたし。けど、貴方は聖杯戦争の参加者じゃないから今ここで相手をしてあげてもいいんだよ?」
天真爛漫な笑顔で物騒な事を言うイリヤ。そして、パニッシャーに近付いてくる。一方、バーサーカーを放置してきたと言ったイリヤに対し、内心驚くパニッシャー。確かにバーサーカーがいなければイリヤと戦うのは容易いだろう。とはいえイリヤはあの怪物のマスターである。見た目は少女だとしても決して油断してはならない。
「あれ?結構警戒してるんだね。私は貴方が警戒するような事はしてないわよ?今のところはね」
そう言いながらクスクスと笑うイリヤ。
「なら何の用だ?」
「貴方に興味があったのよ。でもまあ……うん、今の所特に用はないかな?けど今度邪魔してくるんなら、その時はバーサーカーを使ってグチャグチャにしてやるんだから」
そう言って楽しそうに笑いながらイリヤは去っていく。パニッシャーは彼女の背中をじっと見つつ警戒を解かない。イリヤ自身も魔術師なのだ、用心し過ぎるという事はない。そしてイリヤの姿が完全に見えなくなるとようやく警戒を解いた。
「今度会った時、か……」
イリヤと会った瞬間に、彼女の額を銃弾で撃ち抜く程度ならできたのだが、クー・フーリンを追うのを優先していたのでそこまで頭は回らなかった。ただ、イリヤがバーサーカーを用いて冬木の住民を襲わせているような事態ともなればその時は躊躇わずに引き金を引くだろう。そしてパニッシャーは深山町へと足を運ぶ。一応、コヤンスカヤも協力してはくれているのだが、彼女にばかり頼ってはいられない。夕方になり、下校中の穂群原学園の生徒もちらほらと見掛けるようになった。今日の探索はこれぐらいにしようかと思った時、目の前の少女とばっちり目が合ってしまう。遠坂凛だ。
「げ、アンタは……」
聖杯戦争が始まる前、アーチャーと行動を共にしていた彼女と遠坂邸の前で会ったのだ。その際にパニッシャーは凛に対して聖杯戦争への参加をやめるように忠告したのだが、そんな言葉を受け入れる凛ではない。
「……奇遇ね。こんな所で会うなんて」
彼女はまるで宿敵にでも出会ったかのような目でこちらを見ている。パニッシャーの立場上、聖杯戦争の参加者である凛から良い思いは抱かれていないのは事実であるが。
「それはこっちの台詞だ。キャップ達の協力を受け入れていなきゃ、この場でお前を射殺していたぞ?」
スティーブ、クリント、ナターシャが士郎の家に居候する事を許可し、自分も士郎とは同盟関係である凛。しかし彼女とて部外者であるスティーブ達の存在を歓迎などしていない。
「まさか貴方がロジャース先生達のお仲間だったとはね」
凛はパニッシャーに対して警戒心を抱いている。スティーブやクリントとは異なり、パニッシャーは凛に対して威圧的、敵対的な態度を取っているのが原因なのだが、当の凛も舐められたくないのかつい身構えてしまうようだ。
「"聖杯戦争から身を引け"なんていう忠告や説教は結構よ。わたしは自分の意思でこの闘いに参加しているんだから」
「犠牲者が出ているんだ。それも聖杯戦争とは何の関係もない市民のな。それを知って尚戦いを止めるつもりはないと言うんだな?」
「私にも魔術師として……いえ、遠坂家の当主としてやり遂げなきゃいけないの。その為にはどんな犠牲を払ってでも勝つしかないのよ」
凛の表情や言葉からは確固たる決意を感じ取る事ができる。どうやら説得で退く気はないらしい。そんな凛に対し、パニッシャーもまた自分の信念を曲げる事はしない。
「部外者である貴方にはこっちの事情なんて知らないでしょうけどね、マスターとして参加した以上は最後まで勝ち残る必要があるの」
「結局は自分や家の体面の為か」
「わたしにはこの冬木のセカンドオーナーとしての責任があるのよ」
「セカンドオーナーなら自分の街を戦場にしていい権利があるのか?そこに住んでいる住民は聖杯戦争の存在は知っているのか?」
「いい加減にしてくれないかしら?ただでさえ士郎の家には口煩いのが3人も居候しているっていうのに。これ以上私の神経を逆撫でするのは止めてほしいわね」
凛は不満げに愚痴を零している。これ以上何を言っても無駄だと思い、パニッシャーは背を向ける。
「お前がこのまま戦い続けるというんならそれでも構わん。だが関係のない市民を殺傷した時には故意であろうと偶然であろうと関係なくお前を殺す。それだけは覚悟しておくんだな」
そう言い残してパニッシャーは去って行った。
型月世界の魔術師って身体強化ができるし、凛もキャップレベルにまでフィジカルを上げられるのを考えると、身体強化も無しにアベンジャーズの一員として戦っているクリントがおかしすぎるw