アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
夜、夕食を終えた士郎は一人衛宮邸の縁側に座っていた。今は冬の時期だが扉を開けて夜風に当たる。夜空から降り注ぐ月明りが衛宮邸の庭を照らしており、どことなく神秘的な雰囲気を醸し出している。そんな士郎にスティーブは声をかけた。
「シロウ、隣いいかな?」
スティーブの言葉に士郎はゆっくりと頷く。彼は士郎の隣に座った。
「……切嗣が亡くなった日もこんな月明りが綺麗な夜だったんです。切嗣と暮らしたのは5年だったけど、それでも俺にとってかけがえのない大切な日々でした。今でもあの日の事を思い出すんですよ」
そう言うと士郎は静かに語り始める。
「俺は……切嗣みたいな正義の味方になりたいんです。あの日、大火災の日に俺を救ってくれた人が切嗣ですから。その時の切嗣の顔はまるで本当に救われたかのような表情をしていて……助けられたのは俺なのにまるで俺が切嗣を助けたみたくなっちゃって」
そう語る士郎の表情はどこか嬉しそうだ。
"いいかい士郎、誰かを救うということは、誰かを救わないってことなんだ"
大火災から生き延び、病院に入院していた士郎の元を訪れた切嗣が言った言葉だ。その言葉を初めて聞いた時、当時の士郎にはよく理解できなかった。
「正義の味方、か……。私やクリント、ナターシャは"ヒーロー"という立場なんだ。正義の味方とヒーローというのは似ているようで違う」
スティーブは士郎に対してそう説明した。"正義の味方"と"ヒーロー"は一見すると響きも立場も同じように見える。しかし似ているように見えて異なる点がある。自分を10年前の大火災から救ってくれた切嗣と、学校でランサーに襲われている自分を助けてくれたスティーブ、クリント、ナターシャの3人を比べてみればその違いは明らかだ。今の士郎はその点には気付いていないようだが、これから経験を積む事でいずれ気付いていくだろう。そして気付いた時にこそ、自分がどのような道を選ぶのかを決めるのだから。
「シロウ、"ヒーロー"と"正義の味方"の違いは何だと思う?」
「え?どうしたんですか急に?うーん……俺にはあんまりその二つの違いってよく分からないですけど……」
突然そんな事を聞かれて、戸惑いながらも答える士郎。彼が言う通り、この二つは同じような物に見える。しかしその本質は微妙に異なる。ただそれを言葉にするのが難しいだけである。
「両者は似たような意味に捉えられる事もある。だがシロウもいずれこの二つの違いについて気付くだろう。今はまだ分からなくても仕方ない」
「はい」
そう答える士郎の顔は納得していないようだったが、それでも頷いてくれた。今はそれで十分だろう。スティーブはそう思いつつ自分の部屋へと戻った。そして士郎は立ち上がると二階の部屋にいる凛に魔術の教えを乞うべく階段を昇っていく。
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凛からの魔術及び魔術師に関する講義内容は実に有意義なものだった。魔術師の持つ魔術刻印や魔術回路といった生前の切嗣が教えてこなかった事を凛は士郎に話してくれた。切嗣からは魔術こそ学ばせてもらったものの、家系や魔術刻印の継承といった深い部分までは教えてくれなかったのだ。今まで知らなかった部分を知識として吸収できている感覚は心地よかった。聖杯戦争に巻き込まれ、右も左も分からない自分に対して親身に魔術の事を教えてくれる目の前の凛。彼女には感謝するしかない。こうしてやり取りをしてると彼女には人に教える才能があるようにも思えた。魔術師の家系である遠坂家に生まれ、身体に魔術刻印が刻まれている凛と、切嗣から魔術の基礎を教わっただけで魔術刻印もない士郎とではそもそも立っているスタートラインが違う。だからこそ士郎は魔術師の事について知らなければならなかった。凛からの講義が一通り終わり、また明日に備えて自分の部屋に戻ろうとした士郎はふと凛に対して尋ねてみる。
「なあ遠坂。ロジャース先生たちについてどう思う?」
「何よ急に。質問の意図が見えないんだけど」
「いや、仮にも俺の命を助けてくれた人たちなんだ。曲りなりにも魔術回路を持っている俺と違ってロジャース先生たちは本当の意味での一般人……いや、ヒーローだったな。そんな部外者であるロジャース先生たちの滞在を認めてくれる辺り、遠坂も結構お人好しなんだな」
そう、スティーブ、クリント、ナターシャの3人は聖杯戦争とは全く縁もゆかりも無い、完全に無関係な部外者でありながら首を突っ込んできているのだ。聖杯戦争に参加している凛のようなマスターからすれば迷惑千万な存在である事には違いないだろうが、そんな彼等が衛宮邸に滞在する事を容認している凛。内心ではどう思っているのかはともかくとして、積極的に排斥しない辺りやっぱり面倒見が良い奴なんだな、という印象だった。
「……強いてあげれば"お節介な連中"ね。わたしも最初は変なコスチューム着てヒーロー気取りしている人たちっていう印象だったけど、少なくとも人を救いたいっていう意思だけは本物みたいだから。とはいえ聖杯戦争についてあれやこれや口出ししてくるのは正直鬱陶しいけど、そこは目を瞑るわ」
「そっか……。けど俺はあの人たちは素直に凄いと思う。教会からの帰りにバーサーカーに襲われた時だってセイバーを救うために立ち向かってくれたし、何より俺が学校でランサーに襲われた時も、俺を逃がす為に身を挺して戦ってくれた」
「そこは理解してるわよ。けど……」
何かを言いかけた凛だったが黙っている事にした。
「けど衛宮くん。ロジャース先生たちをこのままにしておくのは危険だと思う」
「何でだ?あの人たちは何も危険な事はしないと思うんだが……」
「……そういう意味じゃないんだけど。まぁ、その時がきたら話すわよ」
「何だよ……ハッキリしないな」
凛の言葉に首を傾げながらも士郎は部屋を後にした。
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衛宮邸の庭に出たスティーブは夜風に当たりながらこれからの事を考えていた。自分とクリント、そしてナターシャが介入している聖杯戦争。どうにかしてこの戦いを止めなければいずれ取り返しのつかない事態になるだろう。士郎と凛が通う穂村原学園に仕掛けられた結界。あれが発動すれば大勢の生徒が危険に晒されてしまう。それだけは何としても阻止しなければならないのだが、凛はスティーブの出した提案を中々受け入れようとはしなかった。
凛だとてこの戦いに参加しているマスター……否、魔術師である以上は"神秘の秘匿"に抵触するような行為はできないのだろう。だが学校の生徒はそもそも聖杯戦争の事や学校に仕掛けられた結界の事など知る由もない。火事やガス漏れに見せかけて生徒を避難させるのが手っ取り早いのだが、凛は首を縦に振らない。どうしたものかとスティーブは考えていると、後ろに気配を感じ取った。明らかに普通の人間のものではない。スティーブは振り向くとそこには赤い外套を着た弓兵……アーチャーが立っていた。凛のサーヴァントであるアーチャーはセイバーに重傷を負わされていた筈だが、こうして現れている辺り傷はもう癒えたのだろう。アーチャーは無表情のままスティーブをじっと見つめている。
「アーチャーか。どうやらセイバーにやられた傷は癒えたようだな」
「これでも私はサーヴァントだ。時間さえ掛ければ宝具によるダメージでも回復する」
そう答えるアーチャーはスティーブに対して何か言いたそうな顔をしている。マスターである凛がスティーブ達が衛宮邸に居候するのを認めているとはいえ、彼女のサーヴァントであるアーチャーは色々とスティーブやクリント、ナターシャに思うところがあるのだろう。
「ヒーロー……だったな。君達は自分の世界でそう呼ばれているのだろう?」
「そうだ。私やクリント、ナターシャはアベンジャーズとして活動している。別の世界の人間だとしても、困っている人、危機に陥っている人々は助ける」
「何ともお優しいことだ。アベンジャーズではなく"慈善団体"とでも名乗ったらどうだ?」
まるでスティーブ達が行うヒーロー活動を馬鹿にしているような口ぶりのアーチャー。
「確かに我々アベンジャーズのしている事は慈善活動だろう。そこは否定しない」
だがなと付け加えるスティーブ。
「しかし私達はただ助けたいから救うんじゃない。そこに助けを求めている人がいるからだ。その助けを求める人の中には子供もいれば、善良な市民もいる。私達の行動で救われる人々がいるんだ。助けを求める人々を決して見捨てない、それがヒーローだ」
「やれやれ……どこぞの"正義の味方"を志す小僧と似たような甘い人間が目の前にもいるとはな。そんな甘ったれた考えではいずれ足元を掬われる事になるぞ」
「アーチャー、君は何が言いたいんだ?」
「君は助けを求めている人間全員を救う気でいるのか?だとすれば随分とおめでたい考え方だ」
「全員を助けられるとは思わない。だがそれでも手の届く範囲にいる人々を出来る限り救うのが私の理想だ」
「私からすれば、君たちのしている事は単なる"おままごと"にしか見えないのだがね。綺麗ごとだけで人々が救えるほど世界は甘く無い」
アーチャーはスティーブを始めとするアベンジャーズの理念を真正面から否定してくる。ヒーローとサーヴァントでは在り方も立場も違うのは当たり前だが、それでもアベンジャーズの事を詳しくしる筈もないアーチャーはヒーロー活動に対して辛辣だった。何がそこまで気に入らないのかスティーブは理解できないが、厭世的なアーチャーにとって、アベンジャーズのしている事は青臭い理想論を振りかざす者たちに映るのだろう。
「私たちアベンジャーズはヒーローとして活動する上で法律も遵守する。例え犯罪者やヴィランといえど、司法の裁きに委ねなければならん」
「つまり言い換えれば君たちは法律の奴隷だろう?法を守るとはいうが、法ではどうにもならん事もあるという事を忘れるな。所詮人間の創り出したルールの上での平和など砂上の楼閣と何ら変わらん。君らの活動には限界があると言っているのだ」
「……私たちが法律に従うのは、自分たちに世界を滅ぼすだけの力があるからだ。使い方を間違えてしまえばそれだけで人々を危険に晒す。だからこそ法というルールで自分を律し、力の使い方を制御する必要がある。闇雲に自分の持つ力を振るうなどヴィランと変わらないだろう?」
ハルクやソー、キャプテン・マーベルといったアベンジャーズでもトップクラスの力を持つヒーローは単身で世界そのものを破壊するだけの力を有している。だからこそルールの上で力を行使しなければならない。無用に自分のパワーを振りかざせば、それは即ち世界の終焉へと繋がりかねない。だがそれでも力を行使するのであれば、それは正義の為であって欲しいというのがスティーブの考えだ。
「君たちは世界の裏側や汚い部分を見てきたと言えるか?」
「見てきたさ。これまで嫌という程な」
アーチャーはスティーブ自身が決して青臭い理想に溺れているだけの人間ではないという事を彼の目を見て理解した。世界の裏側……汚い部分や醜い部分を見てきた上で、それでも尚ヒーローとして人々の為に戦い続ける決意をした目だ。そんなスティーブの目を見てアーチャーは微かに溜息をつく。その溜息が何を意味するのかは分からない。
「……成程。君の考えは分かった。だがこだけは忘れないでくれ。人々を守るためであったとしても、私のマスターに害が及ぶような行為をした場合、遠慮なく私は君たちの敵に回ろう。そんな事にならないよう上手に立ち回る事だ」
アーチャーはそれだけ言うと霊体化してその場から消失する。残されたスティーブはじっとアーチャーが立っていた場所を見つめていた。
抑止の守護者であるエミヤがしている事って要は始末屋ないし掃除屋と同じで、キャップ達アベンジャーズとは違うんですよねぇ。