アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです   作:ドレッジキング

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藤丸君の時といい、桜ちゃんの時といいドルマムゥさんは人の心の弱さを利用してきますねぇ……


第27話 大聖杯

この空間に漂う湿った空気と異様な雰囲気は常人であれば入った瞬間に眉を潜める筈だ。暗く、灯りがないこの悪夢のような蔵に比べれば地下牢の方が幾らかマシであろう。いや、そもそもここは人が立ち入るべき空間ではない。この蔵にはには悍ましい程の闇と死の気配があった。その中で蠢くおぞましいモノがいる。人間が本能的に忌避し拒絶する程の生理的嫌悪感を齎す"蟲"の住処だ。そんな蟲が数えきれない程この蔵で飼育されている。この蔵の……否、この家の当主たる老人に飼われているのだ。外見だけ見ても既存の昆虫とは根本的に異なる造形を持つ蟲は見ただけで吐き気を催し、目を背けたくなるだろう。

 

そして悍ましいのは何も外見のみではない。その蟲が持つ"役割"は更に背筋を凍らせる。桜はそんな蟲達に群がられつつも自分の役割……日課をこなしていた。この家に引き取られてからこの日まで数えるのも嫌になる程この蔵の蟲達を用いた"修行"を課されてきた。最初は苦痛と涙、そして悲鳴を上げるだけだった。だが次第にそれもなくなり、今ではすっかり慣れてしまった。慣れというものは恐ろしいものだ。自分が何をされているのか理解している筈なのに、それに慣れる事があってはならないというのに。だが桜はそれを受け入れた。

 

何も考えないように、何も感じないように。ただの"当たり前"として受け入れてしまっている。彼女にとっては日常風景と同じであり、毎日の日課。食事や風呂と変わらない。最も、魔術の家系に生まれた者として魔術の修練を行うのは当たり前なのであるが。蟲達は満足したのか蔵の床に横たわる桜を置いて飼育穴に引き上げていく。残された桜はただじっと蔵の天井を見ていた。

 

そしてゆっくりと立ち上がる。すると彼女の身体に付着していた粘液や虫の残骸等がぼたぼたと地面に落ちた。だがこんな汚らしいものでさえ彼女にとっては最早当たり前の光景になっているので今更嫌がる事もない。修練の性質上、衣服を全て脱がなければならないので今の桜は一糸纏わぬ姿なのだが、そんな事は気にもしないといった様子で蔵の中に立っている。凛からは暫く士郎の家には近づかないように言われてしまった事を思い出す。桜にとって、士郎の家で共に彼と過ごす時間が何よりも至福の時間だった。それが奪われた事で自分はこれからどうなってしまうのだろうという不安に駆られる。だがずっとではない。暫く来ないように言われただけだ。少しすればまた行けるようになる。そう考えた桜は気を取り直す。

 

――やぁ桜。元気にしていたかい?

 

「……!?」

 

桜は自分の脳内に語り掛けてきた声にハッとする。

 

「ドルマムゥ……さん?」

 

そう、少し前から自分の脳に優しく語り掛けて来た存在だ。声の主は自分の事を"ドルマムゥ"と名乗り、何かと桜を気遣う素振りを見せている。その声が自分に話し掛けて来たのだ。

 

「え、ええ。今、私に話しかけて来たんですか? 私に……用があるんですよね? 」

 

自分が置かれている状況を忘れ、戸惑いながらも返事をする。

 

「そうとも。キミが私に協力してくれる気になったのかどうか気になってね」

 

「協力ですか……? 」

 

「ああそうだ。私はこう見えても忙しい身でね。あまり長くこの世界に留まるのは難しいのだよ。考えてくれたかい桜。キミが聖杯を手にするという事に」

 

「……」

 

桜はこの街で……この冬木で聖杯戦争が行われる事を知っている。そもそも自分の兄である慎二がマスターとして参加しているのだ。慎二は本来のライダーのマスターである桜からライダーを奪い、仮初のマスターとして彼女を使役している。

 

「キミはあんな魔術も扱えない未熟者の兄にマスターの座を譲り渡した。だがそのせいでライダーは本来の力を発揮できていない。キミがマスターならば彼女も本領を発揮できるというのに」

 

「……」

 

「魔術回路を持たない兄が優れた魔術の才能を持つ妹に嫉妬して挙句にキミが召喚したライダーを借りて聖杯戦争に参加する、か……。何とも彼の惨めさを物語っているとは思わないかね?」

 

慎二を嘲笑するドルマムゥ。確かに慎二は魔術師の家系に生まれたにも関わらず魔術回路を持っておらず、「偽臣の書」を用いてライダーを従えている。しかし桜は聖杯戦争への参加を拒否し、自分からマスター権を兄である慎二に譲渡したに過ぎない。その事を臓硯は認めたし、慎二も聖杯戦争に参加する意気込みを見せていたわけだが。

 

「ドルマムゥさん……私が……私なんかが聖杯を……手に出来る訳がないじゃないですか……だって私は……ただの出来損ないなんですから……」

 

自虐的な笑みを浮かべて呟く桜。この家に引き取られた時から……いや、魔術師の家系に生まれた時点で桜の運命は決まっていたと言っていいだろう。まだ幼い少女であった桜は間桐家に引き取られ、そこでの暮らしは地獄さえ生ぬるいと感じる程だ。最初こそ泣き叫び、嘆き、喚いた。無力な子供に過ぎない桜は毎日毎日そんな日々を過ごした。だが次第に自分の受けている苦痛を"当たり前"と感じるようになり、いつしか泣く事も嘆く事もなくなった。そして今ではこうして何も感じず、ただされるがままになっている。

 

「いやいや何を言うのかね? 君は優秀な魔術師だよ? 何せ君の家系には代々受け継がれてきた名家じゃないか。何より君は素晴らしい魔術の素養を持っている。そんな君の素晴らしい才能をこの間桐家の当主の老人は潰しているのさ」

 

ドルマムゥの言う通り、桜自身が持つ属性と間桐家の属性は異なる。だからこそ臓硯は蟲蔵で桜を間桐家の魔術師へと改造する為の修練を施しているのだ。しかしそれは本来桜が持つ力を潰している所業に過ぎない事をドルマムゥは見抜いている。

 

「こうして流されるままの人生を送りたくはないだろう?自分が置かれた状況を異常とも思えなくなればそれはもう手遅れだ。君が救われる方法は一つしかない」

 

「私が……救われる……?そんなの無理です……私には何もないもの……救いなんて……」

 

「あるよ。君にはまだ希望がある。君の大好きな衛宮士郎さ。彼ならきっと君を助けてくれるだろう」

 

ドルマムゥの言葉に桜はハッとする。そう、桜にとっての大切な陽だまりであり、かけがえのない日常と人間らしい笑顔をくれた少年。それが衛宮士郎なのだ。だが……桜は士郎の笑顔を思い出しながら顔を曇らせる。もし士郎が本当の自分を知ればきっと軽蔑し、拒絶するだろう。桜はその事を何よりも恐れていた。もしそんな事になれば自分は生きていけないかもしれない。だから今までずっと秘密にしていたのだから……。

 

「ああ、心配しなくていいよ。彼は絶対に君を嫌ったりしないからね。それだけ君の事を大切に想っているのだから。"嫌われるかもしれない"、"拒絶されるかもしれない"。そんな考えは君を大切に想っている彼に対する侮辱にしからならない。彼の事を大切に想うのなら真実を話すべきだ」

 

その言葉に桜の胸は締め付けられる。嫌われたくないから、拒絶されたくないから黙っている。しかしそれは士郎が持つ自分に対する信頼を踏み躙る行為ではないか。だが桜は士郎に対して真実を話す事をどうしても躊躇してしまっていた。自分が間桐の家で何をしているのか、何をされてきたか。それを知られれば……。

 

「無理です……先輩には話せません。こんな私を知られてしまったら先輩はきっと幻滅します……」

 

桜は両腕で自分の身体を抱き締めるようにして、必死に歯を食い縛って恐怖に耐えている。が、そんな桜に対してドルマムゥは優しく語り掛けてくる。

 

「気にしなくてもいいんだよ。君はこの家に来てから沢山辛い目に遭ってきたのだからね。君がこの家から解放されたいと願っているのは本心なのだろう?」

 

ドルマムゥは桜の考えを的確に見抜いていた。間桐家という桜にとっての牢獄……否、"呪縛"は彼女の人生に暗い影を落としていた。幼い桜は家同士の決まり事でこの間桐家に養子に出され、それ以降凄惨を極める修練を課され続けてきた。大人でも発狂死しかねない環境で今日まで生きてきた桜。

 

「……こうして脳内に語り掛けるだけではやはり不足だね。しょうがない、私の力を見せてあげよう。本来の力とは程遠いが、君が望んでこの家から出るようにするには必要な労力さ」

 

「え……?ここ……は……?」

 

ドルマムゥの言葉が終わると同時に桜は暗い場所に立っていた。最も、今自分がいる場所が地下洞窟だという事に気付くのにそう時間は掛からなかったが。

 

「洞窟……?」

 

間桐家の地下にある蟲蔵からいきなり謎の地下洞窟に移動した為、桜は混乱していた。

 

「どうだね桜?これが私の力だよ。君達魔術師の世界では転移魔術に該当するがね。さて、この洞窟の先に君が手にするべき物がある。進んでいくといい」

 

「は、はい……」

 

ドルマムゥに言われるまま、桜は暗い洞窟の中を進んで行く。洞窟内に吹き付ける風が桜の裸体を撫でていく。水が滴る音が反響し、不気味な雰囲気を醸し出している。しかし今の桜にはそんな事を気にする余裕はなかった。ドルマムゥに言われるがまま目的の場所へと歩いていく。そして数百メートルばかり進んだ先に"ソレ"はあった。初めて目にする"ソレ"を見て、直感で何なのかが桜には理解できた。

 

「聖……杯……?」

 

「そう、今から200年前にアインツベルン・マキリ・遠坂の御三家によって敷設されたものさ。この大聖杯があるからこそ冬木で聖杯戦争が開催される」

 

目の前の大聖杯の巨大さに圧倒される桜。手に持てる聖杯などとは根本からスケールが違う。

 

「最も、10年前の第四次聖杯戦争の時点であの大聖杯は汚染されていたようだ。無論、今でも汚染されている状態が続いているからそのまま使えば大変危険だ」

 

「……」

 

眼前に聳える大聖杯に目を奪われる桜。聖杯戦争の根本の原因たる大聖杯。それを今自分は目にしているのだ。

 

「桜、私は君を助けたいんだ。だから君の願いを叶えようと思う」

 

「本当に……私を助けてくれるんですか……?」

 

「ああ、勿論だとも。その為に君をここに連れてきたのだから」

 

桜の言葉にドルマムゥは答える。桜は自分の脳内に語り掛けてくるドルマムゥの言葉を信用していいものか悩んでいた。だが他に頼れる者もいない。自分の置かれた境遇や状況を知りつつ、こうして手を差し伸べてくれる存在はドルマムゥだけだ。士郎には真実を話していないし、もし話せば自分は拒絶されるかもしれないという恐怖心が桜の中に存在した。だが、そんな自分を助けてくれる存在がこうして現れ、大聖杯のある場所に転移までさせてくれた。単に脳内に語り掛けてくるだけであれば無視すればいいのだが、ここまで自分に都合の良い展開になると逆に怪しく思えてしまう。それでも今の現状から脱したいという気持ちは本心だった。

 

「それなら……私は……」

 

ドルマムゥの提案に乗ろうとする桜。が、その時ドルマムゥは桜を制止する。

 

「……!桜、気をつけたまえ。すぐ近くにいるぞ!」

 

「え……?」

 

ドルマムゥの言葉に周囲を見渡す桜。その時、二百メートルほど先に人が立っているのが見えた。

 

「まさか"奴"の……!?」

 

ドルマムゥの言葉が分からない桜だったが、その間に向こうにいた人間がこちらに歩み寄って来る。身長190センチはあろうかという偉丈夫であり、銀色の鎧を纏っていた。背中まで伸びている長髪に、手に持った巨大な剣が特徴的だ。雰囲気、身体から放たれるオーラ、そして持っている魔力を見ても、彼がサーヴァントである事が桜にも理解できた。第五次聖杯戦争で召喚されたサーヴァントであろうか?手に持った剣を見る限りではセイバークラスのようだが、セイバーは士郎のサーヴァントだ。なら長髪の偉丈夫のクラスは……。

 

「その……貴方は……?」

 

桜は長髪の剣士に話しかける。桜は目の前にいる男が誰なのか全く分からなかった。だが、この男は間違いなくサーヴァントだと直感で分かった。それも尋常ではない力を持った英霊だという事も感じ取れる。男はゆっくりと口を開く。男の口から発せられた声は低くて渋い声だった。

 

「……ここには誰にも近付かせないようにマスターから言われている。悪いが死んでもらう」

 

長髪の剣士は亜音速の踏み込みで桜に剣を振るう。桜から見れば長髪の剣士の斬撃は目視すらできない速度だろう。が、そんな中ドルマムゥの言葉が脳内に響いた。

 

―――仕方ない……暫く君の身体を借りる事にしよう。

 

その言葉と共に桜の意識は消え去る。が、意識が消えたにも関わらず長髪の剣士の斬撃を紙一重で回避したのだ。桜は空中で一回転すると地面に着地する。

 

「ふぅ……、危ない危ない。危うく死ぬところだったよ」

 

声こそ桜のものであったが、発せられるオーラや言葉の重みが彼女とは違い過ぎる。

 

「悪いね桜。暫く君の身体を借りさせてもらおう。なに、心配はいらないさ。君は暫く大人しくしていればいい」

 

不気味な笑みを浮かべつつ、長髪の剣士の前に立つドルマムゥ。桜の意識は別の場所に存在しており、今の彼女の身体の主導権はドルマムゥが握っている。

 

「それにしても丸腰のあられもない姿の少女に突然斬り掛かるとは、英雄らしからぬ行為だとは思わないかねサーヴァント君?」

 

ドルマムゥは両手で桜の胸を揉みつつ、目の前の長髪の剣士を嘲笑う。

 

「お前は……何者だ?」

 

長髪の剣士はドルマムゥが桜の肉体を乗っ取った事には気付いていない筈だが、先ほどの桜とはあからさまに雰囲気が違い過ぎるので警戒しているようだ。

 

「ほう?私の存在に気付いたのかね?ならば話が早い。私はドルマムゥ。この娘の身体を借りて君と話をしている」

 

ドルマムゥは不敵に笑いながら答える。最も、肉体は桜である為、その表情は普段の桜からは想像できないような妖艶かつ残酷な笑みであった。長髪の剣士も得物の大剣を構え、臨戦態勢を取る。剣を構えるという単純な動作でさえ、凄みを感じさせる長髪の剣士は正しく伝承に伝わる大英雄に相応しい存在であった。そしてそんな彼を前にしても桜の肉体を借りたドルマムゥは余裕を崩さない。

 

「悪いがこの肉体の持ち主である少女を死なせるわけにもいかないのでね。少しばかり遊んでいこうか?」




桜の肉体を借りているドルマムゥ……(;^_^A
声は桜だけど、台詞はドルマムゥだからエロく感じるのは私だけ?
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