アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
眼前に迫りくるクー・フーリンのゲイ・ボルクの切っ先を裂けつつ、銃による牽制を怠らない。紅き魔槍はパニッシャーが背にしていたビルの壁を穿つと同時に、放たれた銃弾を捌くものの、数発はクー・フーリンの身体に命中した。だがそれでも一切怯む様子すらもないのは流石英霊といったところか。銃弾の数発程度では攻撃の手を些かも緩めずに追撃をしてくるクー・フーリン。その気になれば一瞬でパニッシャーを殺せるであろう事は容易に想像がついた。だがこうして戦闘を長引かせているのは単純に遊んでいるか、それとも警戒しつつ様子を見ているのか。だが加減をしているとはいっても、普通の人間ではゲイ・ボルクの攻撃に反応する事さえできずに命を刈り取られるに違いない。
真っ暗な路地裏に浮かび上がるゲイ・ボルクは赤い光を放っているようにも見える。パニッシャーは銃弾を装填しつつ、再度クー・フーリンに銃口を向けるが、今度は素早く跳躍して空中から攻撃してきた。常人を凌ぐ身体能力を持つサーヴァント相手に接近戦を挑むのは無謀というものだろう。ならばここは距離を取って射撃に専念した方がいい。そう判断したパニッシャーは空中から来る魔槍の刺突をバックステップで回避する。もう少し反応が遅ければ串刺しにされていただろう。
「そんな棒切れをいくら振り回したところで、俺には届かんぞ?」
が、パニッシャーはクー・フーリンが加減をしている事を知りつつ敢えて挑発してみる。人間が相手だからという理由で手加減をするなど慢心もいいところだ。格下をわざと殺さずにじわじわ追い詰めるという戦い方を見る限り、クー・フーリンは戦いに愉しみを見出している可能性すらある。他のサーヴァントと対戦する機会に恵まれないのか、それとも現代の人間と手合わせしたいのかは分からないが、そういった戦いをしているからこそ付け入る隙は必ずある。
「ハッ、ぬかせっ!」
案の定と言うべきか、クー・フーリンは更に力を込めて連続で突きを放ってきた。これ以上スピードを上げられたら流石にパニッシャーでも避けきれない。今でさえかなりギリギリの状態で回避を続けているのだ。人間の知覚速度と動体視力ではクー・フーリンの槍捌きを捉えきることはできないのだから。だがパニッシャーはどうにかゲイ・ボルクの突きを回避し続ける。自分でもこの槍の連撃をやり過ごせているのが信じられないが、極限まで集中力を高めつつ、銃撃を放ちながら距離を取ることに成功した。しかしこのままではジリ貧。クー・フーリンを倒す決定打が欲しいところだ。
「……お得意の宝具とやらを使ったらどうだ?」
「何……?」
が、パニッシャーはクー・フーリンを挑発した。わざと殺さずに自分を追い詰めるという戦い方を続けるアイルランドの英雄に対して攻撃ならぬ口撃を仕掛けて来たのだ。
「お前等サーヴァントは宝具とかいう切り札を持ってるんだろう?ならさっさとそれを使ってみろ。それとも俺みたいな普通の人間相手には使わんのか?」
「―――チッ、舐めやがって……」
その言葉と共に、クー・フーリンは構える。それと同時に強力な力―――魔力がゲイ・ボルクに収束しはじめた。間違いない、クー・フーリンは宝具を解放する気だ。
「そんなに見たけりゃ見せてやるよ……。後悔しても遅いぜ……!」
パニッシャーとクー・フーリンの距離はおよそ5メートル前後。恐らくはゲイ・ボルクを用いて自分を攻撃してくる類の宝具だろう。パニッシャーは自分の心臓部分が狙われている事を感じ取る。そしてクー・フーリンが行動を起こすより僅かに速く、懐からフラッシュライトを取り出し、クー・フーリンの目に照射した。
「……!」
パニッシャーが取り出したのは護身用のフラッシュライトだった。相手の目に当てて一時的に視界を封じ込めるタイプの護身用具であるが、サーヴァントに対しても効果があるようだ。サーヴァントも人の形をしている以上は五感があると見て間違いなく、そんなサーヴァントと言えども強烈な光を直視すれば行動を鈍らせる効果はあるはずだ。予想通り、クー・フーリンの動きを一瞬止める事に成功した。そしてその隙を突いてパニッシャーはMK23を連射した。MK23で頭部を狙って発砲したが、魔術弾の特性上、狙った箇所に命中する事はない。銃弾は一発だけクーフーリンの脇腹を貫通こそしたものの、それ以外の銃弾は見えない力で弾かれてしまった。サーヴァントは自身の持つ逸話からくるスキルを持つと聞いていたが、魔術弾を見えない力で弾いたクー・フーリンも何らかのスキルを持っているのだろうか?小細工を用いたもののクー・フーリンを戦闘不能に追い込む事はできず、逆に怒らせてしまったようだ。
「へっ、小細工を使ってこの俺を倒そうなんざ甘いんだよ。どうせならもっと派手に来いや!」
クー・フーリンは槍でパニッシャーを串刺しにしようとした。パニッシャーはそれを避け、一旦後方に下がって距離を取る。紅き魔槍の穂先が大気はおろか、空間すらも切り裂かんとする勢いでパニッシャーの顔面、心臓、その他急所目掛けて迫りくる。しかしそれでもギリギリのところで回避できた。本来であればすぐにでも殺せるであろうパニッシャーを時間を掛けて嬲り殺すつもりでいるのか。強者ゆえの慢心か、自分の加虐心を満たしたいがためか―――いずれにせよこういった戦いは悪手である事を教えてやらなければならない。パニッシャーはMK23を再度クー・フーリン目掛けて撃つが、やはり全て見えない力によって弾き返されてしまう。このままでは本格的にジリ貧状態だ。その時、ついにゲイ・ボルクがパニッシャーの顔面を捉えた。
「終わりだ!」
音速を超える程の突きが眼前に迫ろうとしていたその時、クー・フーリンの頭上から拳銃サイズ以上の弾丸が襲い掛かって来た。パニッシャーの顔面に当たる僅か数センチ手前で咄嗟にゲイ・ボルクを使って弾丸を落とすクー・フーリン。あの突き上げから頭上に来る弾丸に対処するべく槍を引き戻せるとは驚嘆すべき技術力だろう。そしてクー・フーリンに弾丸を放った人物はビルの屋上に立っていた。月明りが二丁の対物ライフルを両手に持つコヤンスカヤを照らす。
「……遅いぞコヤンスカヤ」
「それは申し訳ありませんわ。これでも急いだのですけれど」
コヤンスカヤはウィンクしつつ、対物ライフルを地上にいるクー・フーリン目掛けて発射する。パニッシャーの持つ拳銃の弾丸とは威力も射程も段違いだ。弾丸は凄まじい速度でクー・フーリンへと迫りくる。しかしそれを見切ったのか、あるいは弾道を読んでいたのかはわからないが、クー・フーリンは槍で銃弾を叩き落とした。得物であるゲイ・ボルクは対物ライフルの弾丸さえも弾き落とすのか。
「ランサー……よりもクー・フーリンと呼んだ方がよろしいかしら?」
コヤンスカヤは地上にいるクー・フーリンに言う。彼は自分の真名をコヤンスカヤが言った事で微かに表情に変化が起こる。基本的に聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは自分の真名を秘匿しなければならないのだが、コヤンスカヤは一発で自分の真名を看破した。
「テメェ……何モンだ」
そう言ってクー・フーリンは地面に唾を吐いた。その動作はまるで目の前の敵を小馬鹿にしているかのように見える。だが、コヤンスカヤはそれを気にすることなく答えた。
「あらあら、名乗る程の者ではございませんわ。私はただ、アナタ様が戦っている黒いコートの御方に協力しているだけですので♪」
そう言ってコヤンスカヤは地上へとジャンプしてパニッシャーの傍に着地した。あの高さから飛び降りれば骨折どころでは済まないというのに、やはりコヤンスカヤは普通の人間とは異なる存在だ。
「路地裏とはいえ、これだけ派手に銃弾を放っていれば周辺の住民に気付かれますわ。念のために私は先程警察に通報しましたけど」
コヤンスカヤの言葉を聞いてクー・フーリンは歯ぎしりする。聖杯戦争は基本的に冬木の一般市民に悟られずに行わなければならない。だというのにそれを知らせるような真似をされれば甚だ都合が悪い。神秘の秘匿に抵触する事にもなりかねないので、クー・フーリンは引き下がる事にしたようだ。
「……覚えてやがれ。テメェ等は必ず俺が始末してやる。そん時まで精々怯えて生きるんだな」
そう捨て台詞を残し、超人的な身体能力で跳躍しつつ去っていく。
「逃がしたか」
パニッシャーは舌打ちしつつ、既に夜の闇の中に消えたクー・フーリンを仕留め損ねた事を悔いる。
「この冬木市で行われる聖杯戦争に関わる以上はまたすぐに再会できますわよ?」
コヤンスカヤはそう言うと、パニッシャーの頬に軽くキスをする。彼女の行為にパニッシャーも少々驚いたようだ。しかし、パニッシャーはすぐに冷静さを取り戻す。
「何のつもりだ?」
「あら、私としては賞賛のキスを贈ったつもりだったのですが……」
「……今はそんな事をやってる場合ではないだろ」
「それもそうですね」
そう言いながら、彼女は笑みを浮かべる。その笑みはまるで悪戯好きな少女のような可愛らしいものだった。そして恋人のようにパニッシャーと腕を絡ませつつ路地裏を出る。
「さぁ、安全な場所に避難させた立香クンが待ってますわ♪早く帰りましょう」
そう言ってパニッシャーと共に夜の新都を歩いて立香の元へと向かう。二人の様子はまるで夫婦か恋人のようであった。
コヤンのモフ尻尾は撫でたら気持ちよさそう……(*´Д`)