アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです   作:ドレッジキング

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パニッシャーとエミヤって分かり合えそうな気も……?根本の価値観とかが違うんで難しいだろうけど( ̄▽ ̄;)


第40話 互いの立場

パニッシャーは顔に貼られた絆創膏の感触に違和感を覚えながら、遠坂邸の応接室の椅子に腰かけていた。部屋の空気は重く、張り詰めていた。窓から差し込む夕暮れの光が、彼の傷ついた体を優しく包み込んでいる。アーチャーは無言で彼の傷の手当てを続けていた。その手つきは丁寧で、意外なほどの優しさが感じられた。

消毒液の刺すような匂いが鼻をつく。パニッシャーは眉をひそめたが、痛みに耐えるように歯を食いしばった。彼の体のあちこちに痣が浮かび、打撲の跡が生々しく残っている。凛との戦いの激しさを物語るかのようだった。凛は先に士郎のいる衛宮邸へと帰ってしまった。

 

アーチャーは綿球を持ち替え、パニッシャーの額の傷を丁寧に拭った。その動作には無駄がなく、まるで機械のような正確さだった。しかし、その眼差しには何か言いたげな色が浮かんでいる。

 

「君も随分と派手にやられたものだな」

 

アーチャーの言葉には、皮肉めいた響きが含まれていた。その声音は低く、どこか突き放したような冷たさを帯びている。パニッシャーは無言でアーチャーを見上げた。その目には、敗北の悔しさと、なお残る復讐心が宿っていた。アーチャーは綿球を捨て、新しい包帯を手に取った。その動作には、長年の経験から来る慣れが感じられた。彼はパニッシャーの腕に包帯を巻きながら、再び口を開いた。

 

「君は衛宮士郎の家に居候している連中とは違うようだな。正義や理想のために戦っているわけではない」

 

その言葉には、鋭い洞察力が感じられた。パニッシャーは眉をひそめたが、反論はしなかった。彼の心の中で、復讐の炎が静かに燃え続けていた。

 

部屋の中に沈黙が落ちる。時計の秒針の音だけが、静寂を破っていた。アーチャーは包帯を巻き終え、パニッシャーの傷の具合を最終確認した。その目には、プロフェッショナルとしての冷静さが宿っている。

「君の目的は何だ?」

突如として、アーチャーが鋭い眼差しでパニッシャーを見つめた。その目には、単なる好奇心以上のものが宿っていた。パニッシャーは一瞬戸惑ったが、すぐに答えを返した。

 

「悪を裁くためだ」

 

パニッシャーの声は低く、冷たい怒りに満ちていた。それは、ゴッサムの暗闇に潜む悪党たちを震え上がらせるような声だった。アーチャーはその言葉を聞いて、僅かに目を細めた。その表情からは、複雑な感情が読み取れた。

 

「なるほど。私刑人か。法の外で裁きを下す者か」

 

アーチャーの言葉には、興味深そうな響きが含まれていた。パニッシャーは黙って窓の外を見た。夕暮れの街並みが、彼の目に映る。その光景は美しくも、どこか悲しげだった。

 

「正義の味方なんて気取りはしない。ただ、悪を根絶やしにするだけだ」

 

パニッシャーの答えは冷徹だった。それは、マーベルの世界で彼が貫いてきた信念そのものだった。アーチャーはその答えを聞いて、僅かに笑みを浮かべた。その表情には、皮肉と共に、僅かな共感の色が混じっていた。

 

「君は面白い男だ。正義の味方とも、単なる殺人鬼とも違う」

 

アーチャーの言葉には、評価するような響きが含まれていた。パニッシャーは黙ってアーチャーを見つめ返した。二人の間に、奇妙な緊張感が流れる。

部屋の空気が、徐々に変化していく。敵対関係にあるはずの二人の間に、何か言では表現できない共通点が生まれつつあった。それは、理想や正義とは別の、冷徹な現実主義者同士の、暗黙の了解のようなものだった。

 

パニッシャーは窓の外に広がる冬木の街並みを見つめながら、低い声で言った。

 

「俺はお上品な理想やら正義やらの為に戦ってるわけじゃない」

 

その言葉には、これまでの人生で積み重ねてきた苦悩と怒りが滲んでいた。アーチャーは黙って耳を傾けた。彼の目には、パニッシャーの言葉の重みを量るような色が宿っていた。部屋の空気が、徐々に変化していく。夕暮れの光が窓から差し込み、二人の影を長く伸ばしていた。パニッシャーの顔に浮かぶ傷跡が、その光に照らされてより際立って見える。

 

「始末するべき悪と、救うべき命がある。それだけだ」

 

パニッシャーの言葉は、まるで鋼鉄の如く冷たく、そして鋭かった。それは単なる理想論ではなく、彼が血と涙で紡いできた信念だった。アーチャーは僅かに眉を寄せた。彼の目には、理解と共に、何か複雑な感情が浮かんでいた。静寂が部屋を支配する。時計の秒針の音が、二人の間に流れる時間を刻んでいた。パニッシャーは再び口を開いた。

 

「誰かを救う前に、まず、その誰かを傷つけ殺す存在を消す。それが俺のやり方だ」

 

アーチャーは窓際から離れ、再びパニッシャーの前に立った。彼の目には、過去の記憶を辿るような深い色が宿っていた。夜の静けさが部屋を包み込む中、アーチャーの低い声が響いた。

 

「私もかつては理想に燃えていた」

 

その言葉には、懐かしさと共に、どこか悲しげな響きが含まれていた。パニッシャーは黙ってアーチャーを見つめた。その目には、興味と警戒が混在していた。

アーチャーは続けて、抑止力について説明し始めた。それは、人類の存続を脅かす危機に対して働く、世界の意思とも呼べる力だった。人類の集合無意識が生み出した、自己防衛のためのシステム。その力は、時に個人を犠牲にしてでも、全体の存続を図ろうとする。

 

「そして私は、その抑止に従う存在となった。いわば、掃除屋だ」

 

アーチャーの言葉には、自嘲の色が混じっていた。彼の表情には、数えきれないほどの戦いと犠牲の痕跡が刻まれているようだった。部屋の空気が、一層重くなる。窓の外では、夜の闇が深まっていった。その闇は、アーチャーの語る世界の闇と重なるようだった。パニッシャーは、アーチャーの言葉を静かに受け止めていた。彼の目には、理解と共に、何か冷たい光が宿っていた。しばらくの沈黙の後、パニッシャーが口を開いた。

 

「要は抑止なんたらとかいう機構のパシリか」

 

その言葉には、嘲笑めいた響きが含まれていた。しかし、それ以上に、冷徹な現実主義者としての理解が感じられた。アーチャーは僅かに目を細めた。その表情からは、複雑な感情が読み取れた。

 

パニッシャーは椅子から立ち上がり、ゆっくりと部屋を歩き始めた。その動きには、まだ傷の痛みが残っているようだったが、彼の目には強い意志の光が宿っていた。

 

「俺にとっては、崇高な理想や理念よりも、社会の底辺に巣食うダニやゴミを駆除する立場の方が合ってる」

 

パニッシャーの言葉には、冷たい決意が込められていた。それは、ニューヨークの暗闇で彼が貫いてきた信念そのものだった。アーチャーは黙ってパニッシャーの言葉に耳を傾けた。その目には、理解と共に、僅かな共感の色が浮かんでいた。

部屋の中に、再び沈黙が落ちる。時計の秒針の音だけが、静寂を破っていた。パニッシャーは窓際に立ち、夜の街を見下ろした。その背中には、数えきれないほどの戦いの痕跡が刻まれているようだった。

 

「俺は誰の下にもつかない」

 

パニッシャーの言葉は、まるで誓いのように響いた。それは、彼が自らに課した運命であり、同時に呪いでもあった。アーチャーはパニッシャーの背中を見つめながら、僅かに頷いた。

 

 

「抑止の掃除屋の立場に収まっているってのが、既に枷だ」

その言葉には、鋭い批判の色が滲んでいた。アーチャーは眉をひそめたが、黙って耳を傾けた。

 

パニッシャーは続けた。

 

「結局は抑止の指示や命令で動くだけなら、殺し屋と大差ない」

 

部屋の空気が、一層重くなる。窓の外では、夜空に星々が瞬き始めていた。その光は、二人の間に横たわる深い溝を照らし出すかのようだった。

 

アーチャーの表情に、僅かな動揺が走る。パニッシャーの言葉が、彼の心の奥底に潜む疑問を呼び覚ましたかのようだった。しかし、彼はすぐに平静を取り戻した。

パニッシャーは、さらに説明を続けた。

 

「アベンジャーズで例えるなら、SHIELDやコズミックビーイングの指示で世界の危機を救う為に出動しているようなもんだ。分かりやすいだろ?」

 

しかし、アーチャーの目には明らかな戸惑いの色が浮かんでいた。SHIELDもコズミック・ビーイングも、彼の知識の範疇外だったのだ。パニッシャーは、アーチャーの表情を見て、自分の例えが通じていないことを悟った。

 

部屋の中に、一瞬の沈黙が落ちる。時計の秒針の音が、その静寂をより際立たせていた。パニッシャーは深いため息をつくと、改めて説明を始めた。

 

「ニック・ヒューリーという男が長官を務める組織がある。SHIELDという」

 

パニッシャーの声には、どこか苛立ちの色が混じっていた。アーチャーは黙って聞き入った。その目には、新たな情報を吸収しようとする鋭い光が宿っていた。

 

「SHIELDは世界の平和と安全を守るための秘密組織だ。アベンジャーズを運用したり、超人的な存在の管理をしたりしている。汚れ仕事もこなしているようだがな」

 

パニッシャーは、さらに説明を続けた。彼の言葉には、自身の世界の複雑さと、それに対する冷めた視線が感じられた。

 

「そして、コズミック・ビーイングってのは、宇宙を司る超越的な存在のことだ。例えば、ギャラクタスとかリビング・トリビューナルとか」

 

アーチャーの表情に、さらなる困惑の色が浮かぶ。パニッシャーの説明は、彼の世界観を大きく揺るがすものだった。部屋の空気が、徐々に変化していく。二人の間に横たわる世界観の違いが、より鮮明になっていった。窓の外では、夜が更けていく。その闇は、二人の対話の深さを象徴しているかのようだった。

 

パニッシャーは、アーチャーの反応を見て、さらに詳しく説明を加えた。

 

「つまり、俺たちの世界では、こういった超越的な存在や組織が、世界の運命に大きな影響を与えている。それでも、俺は誰の指図も受けずに動く。それが俺のやり方だ」

 

アーチャーは、パニッシャーの言葉を静かに受け止めていた。彼の目には、理解と共に、何か新たな思考の芽生えが見て取れた。

 

 

 

 

********************************************************

 

 

 

 

間桐邸の地下深く、蟲蔵と呼ばれる空間が広がっていた。そこは、光の届かない闇と、湿った空気が支配する、まるで地獄の一角のような場所だった。壁面には無数の穴が開いており、そこから常に不気味な蠢きが感じられた。空気中には、腐敗と腐臭が漂い、普通の人間であれば、その場にいるだけで正気を失いかねないほどの異様な雰囲気が満ちていた。蔵の中央に、一人の少女が横たわっていた。間桐桜。彼女の白い肌は、蟲蔵の闇の中で、まるで月光のように輝いていた。しかし、その美しさとは裏腹に、彼女の体には無数の蟲が這い回っていた。それらの蟲は、既存の昆虫学では分類できないような奇怪な形状をしていた。長さは5センチほどで、体は半透明。その中には、まるで生きた臓器のようなものが蠢いているのが見えた。蟲たちは、触手のような無数の足を使って、桜の肌の上を這い回っていた。

桜の体は、蟲たちの分泌する粘液で覆われ、僅かに光を反射していた。彼女の胸や腹部、太腿など、体のあらゆる部分に蟲が群がっていた。その光景は、グロテスクでありながら、どこか神秘的な美しさすら感じさせた。

 

やがて、蟲たちは徐々に桜の体から離れ始めた。まるで潮が引くように、一斉に彼女の体から離れていく。最後の一匹が桜の足首から這い降りると、蔵の中央には桜だけが残された。全裸の桜は、蟲たちが残した粘液に覆われたまま、静かに横たわっていた。彼女の胸は僅かに上下し、生きている証を示していた。しかし、その目は虚ろで、まるで魂が抜け殻のようだった。突如として、桜の脳内に声が響いた。

 

「やあ、桜。今日の修練はどうだったかな?」

 

その声は、ドルマムゥと名乗る存在のものだった。低く、どこか威厳のある声音で、桜の意識に直接語りかけてくる。

 

桜は僅かに瞼を動かした。その仕草は、まるで長い悪夢から目覚めたかのようだった。

 

「ドルマムゥ...さん」

 

桜の声は、か細く、震えていた。それは、長時間の苦痛と恐怖を経験した後の、疲弊した魂の声だった。

 

「君は強い。これだけの苦痛に耐え続けるなんて、並の人間にはできないことだ」

 

ドルマムゥの声には、賞賛の色が混じっていた。しかし、その裏には何か別の意図が潜んでいるようにも感じられた。桜は、ゆっくりと体を起こし始めた。その動作は、まるで操り人形のようにぎこちなかった。彼女の肌には、蟲たちが這った跡が無数に残されており、それは暗闇の中で微かに光っていた。

 

「もう...慣れました」

 

桜の言葉には、深い諦めが滲んでいた。それは、長年の苦痛と屈辱の末に到達した、ある種の悟りのようなものだった。ドルマムゥは、桜の言葉を静かに受け止めた。しばらくの沈黙の後、再び彼の声が響いた。

 

「君には、もっと大きな可能性がある。この蟲蔵での儀式に縛られる必要はないんだ」

 

その言葉には、誘惑めいた響きが含まれていた。しかし、桜の心には、まだ反旗を翻す気力が湧いてこなかった。彼女は、ただ黙って立ち尽くしていた。

蔵の闇が、桜の裸体を包み込む。その姿は、まるで闇に飲み込まれそうで、同時に闇から生まれ出たようにも見えた。彼女の長い紫の髪が、僅かな空気の動きに合わせて揺れる。その動きだけが、この静寂の中で唯一の生命の兆しのようだった。

 

「私に力を貸してくれれば、君をこの地獄から救い出すことができる」

 

ドルマムゥの声が、再び桜の意識に響く。しかし、桜の表情には変化がなかった。彼女の目は、依然として虚ろなままだった。

桜は、ゆっくりと歩き始めた。その足取りは不安定で、まるで初めて歩くことを覚えた幼子のようだった。彼女の足跡には、蟲たちの粘液が光の筋を描いていく。

 

「私には...何もできません」

 

桜の言葉は、ほとんど聞こえないほど小さかった。それは、自分自身への言い聞かせのようでもあった。ドルマムゥは、桜の言葉を聞いて、わずかに息をついた。その声には、僅かな苛立ちと、同時に期待の色が混じっていた。

 

「それは違う。君には大きな力がある。ただ、それを使う方法を知らないだけだ」

 

桜は立ち止まり、自分の手のひらを見つめた。そこには、蟲たちが残した傷跡が無数に刻まれていた。それは、彼女が経験してきた苦痛の証でもあった。

蔵の闇が、さらに深くなっていく。それは、桜の心の闇を映し出しているかのようだった。彼女の周りでは、蟲たちが再び集まり始めていた。その光景は、まるで桜を再び闇に引きずり込もうとしているかのようだった。

しかし、桜の心の奥底では、何かが僅かに動き始めていた。それは、反抗の炎とまではいかないまでも、変化を求める小さな火種のようなものだった。ドルマムゥの言葉が、彼女の心に微かな揺らぎをもたらしていたのだ。

 

蟲蔵の重苦しい空気を切り裂くように、新たな存在が姿を現した。長い紫の髪が床を這うほどに伸び、その姿は神話から抜け出してきたかのような美しさを湛えていた。ライダー。桜の本来のサーヴァントである彼女は、静かに蔵の中に足を踏み入れた。

 

ライダーの目は、目隠しで覆われていたが、その気配は鋭く、蔵の中の状況を瞬時に把握しているようだった。彼女の長身の体は、蟲蔵の闇の中でさえ、威厳に満ちた存在感を放っていた。

 

「サクラ」

 

ライダーの声が、静かに蔵内に響く。その声音には、心配と愛情が滲んでいた。

桜は、ライダーの声を聞いて、僅かに体を震わせた。彼女の目に、わずかな光が戻ってきたように見えた。

 

「ライダー...」

 

桜の声は、か細く震えていた。それは、長い苦痛の後に、やっと安らぎを見出したかのような響きだった。ライダーは、桜に近づき、その裸体を優しく包み込むように立った。彼女の長い髪が、まるでベールのように桜を覆う。

 

「大丈夫ですか、サクラ」

 

ライダーの声には、深い懸念が込められていた。桜は、僅かに頷いた。その仕草には、まだ力強さは感じられなかったが、確かな意志が宿っていた。蔵の中の空気が、僅かに変化する。ライダーの存在が、この重苦しい空間に、わずかな希望の光をもたらしたかのようだった。

 

「シンジが...」

 

ライダーは言葉を途中で切った。その口調には、複雑な感情が滲んでいた。

桜は、ライダーの言葉の意味を察したように、僅かに眉を寄せた。彼女の目に、悲しみの色が浮かぶ。

 

「兄さんは...怒っているの?」

 

桜の問いかけに、ライダーは沈黙した。その沈黙が、全てを物語っていた。

ドルマムゥの声が、再び桜の意識に響く。

 

「興味深い展開だね、桜。君のサーヴァントが、君の兄に使役されている。これは、君にとって何を意味する?」

 

その言葉には、皮肉めいた響きが含まれていた。桜は、その声に反応して、僅かに体を震わせた。ライダーは、桜の様子の変化に気づき、さらに彼女に寄り添った。その姿は、まるで守護者のようだった。

 

「サクラ、何かありましたか?」

 

ライダーの問いかけに、桜は首を横に振った。彼女は、ドルマムゥの存在をライダーに知られたくはなかった。蔵の中の沈黙が、さらに深まる。蟲たちの微かな動きだけが、その静寂を破っていた。

 

「シンジは...しばらく顔を見せるなと言っていました」

 

ライダーの言葉に、桜の表情が曇った。彼女の心の中で、兄への複雑な感情が渦巻いていた。

 

 

桜は、僅かに体を震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。彼女の動作には、まだ儀式の痛みが残っているようだった。ライダーが手を差し伸べようとしたが、桜は小さく首を振って拒んだ。

 

「大丈夫...一人で行けるわ」

 

桜の声は、か細くも、決意に満ちていた。ライダーは、その言葉に従い、静かに手を引いた。蟲蔵の暗闇を抜け、桜は階段へと向かった。その足取りは不安定だったが、一歩一歩、確実に前に進んでいく。階段を上がる度に、蟲蔵の重苦しい空気が薄れていくのを感じた。

 

ドルマムゥの声が、再び桜の意識に響く。

 

「賢明な判断だ、桜。あのサーヴァントに私の存在を気づかれては、面倒なことになるからね」

 

桜は黙ったまま、階段を登り続けた。彼女の心の中で、ドルマムゥの言葉が反響していた。階段の上、間桐邸の廊下に出た桜は、深い息をついた。蟲蔵の空気から解放された安堵感と、これからの不安が入り混じる。その時、老人の声が聞こえてきた。

「桜よ、今日の鍛錬は終わったのか?」

 

間桐臓硯だった。桜は、その声に僅かに体を硬くした。

 

「はい、祖父様」

 

桜の返事は、儀礼的で感情のないものだった。臓硯は、桜の様子を見て、薄く笑みを浮かべた。

 

「よくやった。お前は儂の期待通りじゃ」

 

その言葉に、桜は何も答えなかった。ただ、静かに自室へと向かった。

臓硯の視線が、桜の背中に突き刺さる。しかし、桜の心の中では、もはや恐怖よりも、別の感情が芽生え始めていた。それは、まだ小さな火種に過ぎなかったが、確かに存在していた。

 

桜は自室のドアを静かに閉めると、深い息をついた。蟲蔵での儀式の余韻が、まだ彼女の体に残っていた。窓から差し込む月明かりが、彼女の白い肌を優しく照らしている。ゆっくりとタンスに向かい、引き出しを開ける。そこから取り出したのは、薄紫のショーツとブラジャーだった。桜は、それらを手に取り、しばし見つめていた。日常の象徴とも言えるそれらの下着が、今の彼女には何故か遠い存在のように感じられた。まず、ショーツを履く。両足を通し、ゆっくりと腰まで引き上げる。その動作には、まだ儀式の痛みが残っているようだった。次に、ブラジャーを身につける。背中で留め具を合わせる時、桜は少し顔をしかめた。

 

下着を着け終わると、桜はクローゼットを開けた。そこから取り出したのは、いつもの私服。白いブラウスとピンクのスカート。それらを手に取りながら、桜の脳裏にドルマムゥの声が響いた。

 

「桜、君は気づいているかな?ライダーが本来の力を発揮できていないことに」

 

桜は、ブラウスを頭から被りながら、その声に耳を傾けた。

 

「シンジが仮初のマスターであるがゆえに、ライダーは制限をかけられている。本来なら、もっと強大な力を持つサーヴァントなのだがね」

 

ドルマムゥの言葉に、桜の手が一瞬止まる。しかし、すぐに動きを再開し、ブラウスのボタンを留めていく。

 

「どうだろう?今一度、ライダーと正式に契約を結んでみないか?君が本来のマスターとして、聖杯戦争に参加するのだ」

 

スカートを履きながら、桜はその提案に戸惑いを覚えた。鏡の前に立ち、髪を整えながら、彼女は考えを巡らせる。

 

「でも...私には...」

 

桜の言葉は途切れた。ドルマムゥは、その躊躇いを見透かしたかのように続けた。

「君には十分な資格がある。むしろ、君こそが最適なマスターだ。ライダーの力を最大限に引き出せるのは、君しかいない」

 

靴下を履きながら、桜は深く考え込んだ。ドルマムゥの言葉には、確かな説得力があった。しかし、同時に恐怖も感じていた。

 

「聖杯戦争に...参加するなんて...」

 

桜の声は震えていた。彼女は、鏡に映る自分の姿を見つめた。そこには、いつもの間桐桜がいた。しかし、その目には何か新しい光が宿っているように見えた。ドルマムゥは、さらに言葉を続けた。

 

「考えてみたまえ。これは君が、今の状況から抜け出すチャンスだ。もう誰かの言いなりになる必要はない。君自身の力で、運命を切り開くのだ」

 

桜は、静かに目を閉じた。彼女の心の中で、様々な感情が渦巻いていた。恐怖、不安、そして...僅かな希望。

 

「私が...マスターに...」

 

その言葉を口にした瞬間、桜は何かが変わりそうな予感がした。それは、恐ろしくもあり、同時に期待も感じさせるものだった。




エミヤとパニッシャーってお互い悲しい過去持ちなのよね……。
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