アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
ストレンジは、その小さな猫の体で威厳を漂わせながら、尻尾を優雅に揺らした。その動作は、まるで高度な魔術を編み出す魔法使いの指さばきのようだった。
「私が学んだ魔術をイチから習得するのは、時間との戦いになるだろうな。まるで砂時計の砂を一粒ずつ数えるようなものだ」
ストレンジの言葉に、士郎と凛は息を呑んだ。その比喩が、時間の制約を痛烈に表現していた。
「かといって、この世界の魔術の鍛錬で即座に強くなるのも、望み薄だ。それはまるで、一晩で大樹を育てようとするようなものだからな」
凛は、その言葉に深くうなずいた。魔術の道のりが、いかに長く険しいものであるかを、彼女は身をもって知っていた。しかし、ストレンジの次の言葉が、部屋の空気を一変させた。
「だが、希望がないわけではない。私たちの世界の魔術と、この世界の魔術...シロウの持つ起源と魔術回路を組み合わせれば、新たな可能性が開けるかもしれん」
その言葉に、凛の目が大きく見開かれた。彼女の表情には、驚きと懐疑が入り混じっていた。
「ちょっと待って」
凛の声には、鋭い警戒心が滲んでいた。
「異なる体系の魔術を組み合わせるだなんて...それこそ、火薬と炎を混ぜるようなものよ」
ストレンジは、凛の懸念を理解しつつも、猫らしからぬ微笑みを浮かべた。
「確かに危険は伴う。だが、それは同時に、新たな可能性を切り開く鍵にもなり得る。まるで、水と油を混ぜ合わせて、新たな調味料を生み出すようなものだ」
凛は、眉をひそめた。彼女の頭の中では、魔術の理論と実践の知識が激しくぶつかり合っていた。
「でも、貴方には私たちが持っているような魔術回路はないはず。それなのに、どうやって...」
ストレンジは、凛の言葉を遮るように、優雅に前足を上げた。
「私には魔術回路はない。だが、魔力を操る方法は知っている。それは、まるで異なる楽器で同じ曲を奏でるようなものだ」
士郎は、二人のやり取りを食い入るように聞いていた。彼の目には、新たな可能性への期待と、未知の領域への不安が交錯していた。
「じゃあ、俺は...」
「君は、二つの世界の魔術の架け橋となる可能性を秘めている」
ストレンジの声には、確信が満ちていた。
「それは、まるで異なる言語を操り、新たな詩を生み出すような」
凛は、なおも懐疑的な表情を崩さなかった。
「でも、それは危険すぎる。異なる世界の魔術を混ぜ合わせるなんて...それこそ、劇物と劇物を混ぜるようなものよ。最悪の場合、衛宮くんの体が...」
彼女の言葉は、部屋に重い空気を漂わせた。士郎は、自分の体内で起こりうる危険な反応を想像し、思わず身震いした。しかし、ストレンジは平然としていた。
「確かに危険は伴う。だが、適切に扱えば、それは強力な武器にもなる。まるで、毒を解毒剤に変えるようなものだ」
凛は、深いため息をついた。彼女の目には、複雑な感情が浮かんでいた。
「まるで魔術版の錬金術ね。でも、それが成功する保証はどこにもないわ」
「保証?」
ストレンジは、猫らしからぬ笑みを浮かべた。
「魔術に絶対的な保証などない。それは、未知の海を航海するようなものだ。危険も多いが、新たな発見の可能性も秘めている」
士郎は、黙って二人のやり取りを聞いていた。彼の心の中では、恐怖と期待が激しく渦巻いていた。
「俺は...やってみたい」
士郎の言葉に、凛とストレンジの視線が集中した。
「本当に分かってるの?衛宮くん。これは、命を賭けた賭けよ」
凛の声には、深い懸念が滲んでいた。しかし同時に、彼女の目には、わずかな期待の光も宿っていた。ストレンジは、満足げに尻尾を揺らした。
「決意したようだな。ならば、我々は新たな魔術の扉を開く準備をしよう。それは、まるで未知の大陸を発見するような冒険になるだろう」
部屋の空気が、一瞬にして変化した。それは、恐怖と期待、懐疑と希望が入り混じった、不思議な雰囲気だった。士郎は、自分の決断の重さを感じながらも、新たな可能性への期待に胸を膨らませていた。凛は、まだ完全には納得していない様子だったが、士郎の決意を尊重する覚悟を決めたようだった。
そして、キジトラの姿をしたストレンジは、まるで全てを見通しているかのような表情で、静かに二人を見つめていた。
ストレンジは、その小さな猫の体で凛の前に立ち、鋭い眼差しを向けた。その瞳には、古代の魔術師たちの知恵が宿っているかのようだった。
「さて、実験の時間だ。君の魔術回路を、私の魔力という未知の調味料で味付けしてみようじゃないか」
凛は、思わず眉をひそめた。彼女の表情には、好奇心と不安が入り混じっていた。
「ちょっと待って。私の体を実験台にするつもり?まるで魔術版のモルモットみたいじゃない」
ストレンジは、猫らしからぬ微笑みを浮かべた。
「心配するな。危険な兆候が見えたら、即座に実験を中止する。まるで熱い鍋から手を引くように素早くね」
凛は深呼吸をした。彼女の心の中では、魔術師としての好奇心と、自己保身の本能が激しくぶつかり合っていた。
「分かったわ。でも、変な事になったら即座に止めるのよ」
ストレンジは頷いた。
「では、君の魔術回路を浮かび上がらせてくれ。まるで夜空に星座を描くように」
凛は目を閉じ、集中した。彼女の腕に、青白い光の筋が浮かび上がり始めた。それは、まるで生きた電気回路のように、繊細かつ複雑な模様を描いていた。
ストレンジは、その光る回路を見つめ、感心したように尻尾を揺らした。
「見事だ。まるで宇宙の神秘を映し出す万華鏡のようだ」
そう言うと、ストレンジは前足を凛の腕に軽く触れた。その瞬間、凛の体に異質な感覚が走った。
「これから私の魔力を注入する。まるで未知の潮流が、君の魔術回路という河川に流れ込むようなものだ」
凛は、息を呑んだ。彼女の全身の神経が、一斉に反応しているかのようだった。
ストレンジの魔力が、ゆっくりと凛の魔術回路に流れ込み始めた。それは、まるで異なる次元からの来訪者のように、凛の体内を探索していく。最初、凛は違和感を覚えた。それは、まるで体内に氷の結晶が形成されていくような、奇妙な感覚だった。しかし、次第にその感覚は変化していった。
「これは...」
凛の声が震えた。彼女の魔術回路が、今までにない活性化を始めたのだ。それは、まるで眠っていた火山が目覚めるかのような激しさだった。ストレンジの魔力は、凛の魔術回路を刺激し、新たな可能性を引き出していく。凛の体内で、魔力の渦が巻き起こり始めた。それは、彼女が今まで経験したことのない強大な力だった。
「まるで...体中を星屑が駆け巡るような...」
凛の言葉に、ストレンジは満足げに頷いた。
「その通りだ。君の魔術回路という銀河に、私の魔力という新たな星々が生まれているようなものだ」
凛の魔術回路は、ストレンジの魔力を受け入れ、融合し始めていた。それは、まるで二つの異なる楽器が、完璧なハーモニーを奏でるかのようだった。
凛の体から放たれる魔力の波動が、部屋中に満ち始めた。それは、まるで目に見えない潮騒のようだった。
「凄い...こんな感覚、初めて...」
凛の声には、興奮と驚きが入り混じっていた。彼女の魔術回路は、今や鮮やかな光を放ち、まるで生きた宝石のように輝いていた。ストレンジは、その様子を見守りながら、静かに説明を続けた。
「君の魔術回路が、私の魔力を媒介として、新たな次元へのポータルを開いているようなものだ。まるで、異なる宇宙同士が交錯する瞬間のようだね」
凛は、自分の体内で起こっている変化に、畏怖の念を抱いていた。それは、魔術の常識を覆す現象だった。
「でも...これって危険じゃ...」
凛の言葉が途切れた。彼女の魔術回路が、突如として激しく脈動し始めたのだ。それは、まるで制御不能になった機械のようだった。
「ストレンジ先生!これは...!」
ストレンジは、即座に前足を凛の腕から離した。
「落ち着け。深呼吸だ。まるで荒れ狂う海から船を安全に導くように、君の魔力を制御するんだ」
凛は、必死に自分の魔力をコントロールしようとした。それは、まるで暴れ馬を手綱で抑えようとするような、困難な作業だった。しかし、徐々に彼女の努力が実を結び始めた。激しく脈動していた魔術回路が、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「ふぅ...なんとか...」
凛は、大きく息を吐いた。彼女の額には、冷や汗が浮かんでいた。ストレンジは、満足げに尻尾を揺らした。
「見事だ。君は未知の領域に足を踏み入れ、そして無事に帰還した。まるで、新大陸を発見した探検家のようだ」
凛は、自分の腕を見つめた。魔術回路の輝きは落ち着いていたが、以前よりも鮮やかに、力強く光っていた。
「これは...私の魔術回路が進化したってこと?」
ストレンジは、静かに頷いた。
「そうだ。君は今、魔術の新たな地平を垣間見たのだ。まるで、魔術という楽器の新たな音色を発見したようなものだ」
部屋には、まだ魔力の余韻が漂っていた。それは、まるで目に見えない霧のようだった。
ストレンジは、その小さな猫の体で士郎の前に座り、深い青色の瞳で彼を見つめた。その目には、宇宙の深遠さを思わせるような知性が宿っていた。
「さて、君の起源と精神の源を探る時が来たようだ。まるで未知の惑星へ探査機を送り込むようなものだがね」
ストレンジの言葉に、士郎は僅かに体を硬くした。未知の領域に足を踏み入れることへの不安が、彼の心を占めていた。
「ただし、この精神ダイブには若干の苦痛が伴うかもしれない。まるで深海に潜水するような圧迫感を感じるだろう」
士郎は、一瞬躊躇したが、すぐに決意を固めた様子で頷いた。
「分かりました。やってください」
ストレンジは、その言葉を受けて静かに前足を士郎の額に当てた。その瞬間、士郎の意識が急速に沈んでいくのを感じた。それは、まるで深い淵に吸い込まれていくような感覚だった。士郎の意識が完全に沈み込んだ後、ストレンジの精神が彼の心の奥底へと潜り込んでいった。最初は、ぼんやりとした霧のような空間だったが、やがてその霧が晴れ、驚くべき光景が広がった。そこは、10年前の冬木市だった。しかし、それは平和な街の姿ではなく、大火災に包まれた地獄絵図だった。燃え盛る炎が街を覆い、建物が次々と崩れ落ちていく。空気は灰と煙で濁り、呼吸するだけで喉が焼けるようだった。そして、その地獄の只中を歩く一人の少年の姿があった。10歳の士郎だ。彼の目は虚ろで、まるで魂を失ったかのようだった。周囲では人々の悲鳴と嗚咽が響き渡り、死の臭いが漂っている。ストレンジは、この光景に言葉を失った。彼は多くの世界を見てきたが、これほどまでに生々しい悲劇の記憶に遭遇したのは初めてだった。
少年士郎は、瓦礫の山を乗り越え、燃え落ちる建物の間を縫うように歩き続ける。その足取りは不確かで、時折よろめきながらも、どこかへ向かって必死に進んでいた。ストレンジは、この記憶が士郎の精神の深層に根付いていることを察した。これこそが、彼の起源と力の源泉なのだろう。しかし、それは同時に深い傷でもあった。焼け落ちる建物の中から、助けを求める声が聞こえる。しかし、少年士郎にはそれを救う力がない。彼にできることは、ただ前に進むことだけだった。その姿は、無力さと必死の生存本能が混ざり合った、痛ましいものだった。ストレンジは、この光景を食い入るように見つめた。彼は、士郎の心の奥底にある、この根源的な体験の重みを感じ取っていた。それは、単なるトラウマ以上のものだった。士郎の存在そのものを形作る、核心的な経験だったのだ。空には、赤く染まった月が浮かんでいた。その不気味な光が、廃墟と化した街を照らし出している。少年士郎の影が、歪んだ形で地面に映る。それは、まるで彼の歪んだ運命を象徴しているかのようだった。ストレンジは、この記憶の中を移動しながら、さらに深く士郎の精神世界を探索していった。彼は、この悲劇的な経験が、どのように士郎の魔術や精神性を形作っているのかを理解しようとしていた。
突如、光景が変化した。燃え盛る街並みの中に、一筋の希望の光が差し込んだ。それは、コートの男が少年士郎を救出する瞬間だった。彼の姿は、まるで救世主のように輝いて見えた。ストレンジは、この瞬間こそが士郎の人生を決定づけたのだと悟った。絶望の淵から救い出されたこの経験が、士郎の「誰かを救いたい」という強烈な願望の源となったのだ。しかし、同時にストレンジは、この願望の危うさも感じ取った。自己犠牲的なまでの他者への献身は、時として破滅的な結果をもたらす可能性がある。それは、まるで両刃の剣のようだった。ストレンジは、さらに深く士郎の精神世界を探索し続けた。彼は、この悲劇的な経験が士郎の魔術にどのような影響を与えているのかを理解しようとしていた。
「これが...彼の"正義の味方"の原点か」
ストレンジは、猫の姿ながら深い思索に沈んだ。士郎の「誰かを救いたい」という強烈な願望、そしてその危うさ。全てがこの瞬間に起因していることが、鮮明に理解できた。しかし、その瞬間、現実世界からの声が、ストレンジの意識を引き戻した。
「ストレンジ先生!早く戻ってきて!衛宮くんが...!」
凛の焦りに満ちた声だった。ストレンジは即座に精神ダイブを中断し、現実世界へと意識を戻した。目の前に広がる光景は、想像を絶するものだった。士郎は床に倒れ、全身を激しく震わせていた。涙が頬を伝い、苦痛に歪んだ表情で呻いている。凛は必死に士郎を抱きかかえ、慌てふためいていた。
「ストレンジ先生!どうしたらいいの?」
凛の声には、明らかな動揺が滲んでいた。ストレンジは迷うことなく行動を起こした。
「落ち着くんだ、凛。彼の精神を安定させる」
ストレンジは、小さな猫の体ながら、前足を士郎の額に当てた。淡い青白い光が、その接点から広がり始める。
「Sanctum guardis, mentem protectum...」
古代の言語で呪文を唱えながら、ストレンジは士郎の乱れた精神を鎮めていく。それは、まるで荒れ狂う海に、静けさをもたらすかのようだった。
徐々に、士郎の体の震えが収まっていく。涙は止まり、呼吸も落ち着いてきた。凛は、その変化に安堵の表情を浮かべた。
「よかった...」
凛の声は震えていた。彼女は、士郎の頬を優しく拭いながら、ストレンジに向き直った。
「いったい何があったの?」
ストレンジは、深いため息をついた。その瞳には、重い真実を告げなければならない者特有の苦悩が浮かんでいた。
「彼の精神の奥底にある、10年前の大火災の記憶だ。想像以上に深い傷跡が残っていた」
凛の表情が凍りついた。彼女は、士郎の過去について知っていたつもりだった。しかし、その傷の深さを本当に理解していなかったことに、今やっと気づいたのだ。
「まさか...こんなに...」
凛の声は震えていた。彼女の目に、悲しみと後悔の色が浮かんだ。
「私...全然分かってなかった...」
ストレンジは、静かに頷いた。
「君を責めることはない。彼自身も、おそらくこの傷の深さを十分に理解していなかったのだろう」
士郎は、まだ意識を取り戻していなかった。しかし、その表情は平穏になり、まるで深い眠りについているかのようだった。
「彼の"正義の味方"への執着。それは、この経験から生まれたものだ」
ストレンジの言葉に、凛は静かに頷いた。彼女は、初めて士郎の行動の真の意味を理解したような気がした。
「でも...それって、すごく危険じゃない?」
凛の声には、明らかな懸念が滲んでいた。ストレンジは、深く考え込むような表情を見せた。
「確かに危険だ。しかし、同時に彼の力の源でもある。我々がすべきは、この力を正しい方向に導くことだ」
凛は、無意識のうちに士郎の手を握りしめていた。彼女の目には、決意の色が宿っていた。
「私...衛宮くんを助けたい。でも、どうすればいいの?」
ストレンジは、静かに微笑んだ。その表情には、深い知恵と慈愛が滲んでいた。
「君の存在自体が、既に彼の助けになっているよ。だが、これからは更なる理解と支援が必要になるだろう」
凛は、士郎の寝顔を見つめながら、静かに頷いた。彼女の心の中で、何かが大きく変化し始めていた。それは、単なる同情や憐れみではない。もっと深い、魂と魂の繋がりのようなものだった。静寂が支配する部屋に、かすかな呻き声が響いた。士郎の瞼が、ゆっくりと開かれる。凛の顔に、安堵の表情が広がった。
「よかった...目を覚ましたのね、衛宮くん」
凛の声には、抑えきれない安堵感が滲んでいた。士郎は、まだ朦朧とした意識の中で周囲を見回した。ストレンジは、小さな猫の体で士郎の傍らに近づいた。その瞳には、深い後悔の色が宿っていた。
「君のトラウマを蘇らせてしまって申し訳ない。まるで過去の傷口を無理やり開けてしまったようなものだ」
しかし、予想に反して士郎は穏やかな表情を浮かべた。
「気にしないでください、ストレンジ先生。過去に起きた事を思い出したところで、何も変わりません。むしろ、前に進むためには必要な過程だったのかもしれない」
士郎の言葉に、ストレンジは驚きの表情を浮かべた。その成熟した態度は、彼の年齢からは想像できないものだった。
「それより、授業を再開してもらえませんか?」
士郎の熱意に押され、ストレンジはため息をついた。
「君の熱意には敬服するよ。まるで乾いた砂漠に降り注ぐ雨のようだ。わかった、続けよう」
ストレンジは、しばし沈黙した後、重要な情報を明かすことを決意した。
「君の起源は『剣』だ。そして、私にはその力を更に引き出せる可能性がある」
士郎の目が大きく見開かれた。凛も、その言葉に驚きの表情を浮かべた。
「どういうことですか?」
士郎が尋ねた。ストレンジは、慎重に言葉を選びながら説明を始めた。
「私の魔術が君の魔術回路に干渉し、それを調整できれば、今以上の力を引き出せる可能性がある。ただし...」
凛が即座に反論した。
「ちょっと待って。魔術師が他の魔術師の魔術回路に干渉するなんて、ほぼ不可能よ。まるで氷の上でフラメンコを踊るようなものよ」
ストレンジは、凛の比喩に微笑んだ。
「確かに、君たちの世界ではそうかもしれない。しかし、私の世界の魔術は異なる原理で動いている。世界が異なれば法則も違う。だからこそやってみる価値はある」
ストレンジの世界の魔術は、宇宙の根源的なエネルギーを直接操作するものだった。それは、現実を歪め、物理法則を超越する力を持つ。一方、この世界の魔術は、世界に既に存在する神秘を利用し、再現する技術だ。この根本的な違いが、ストレンジの提案を可能にしていた。彼の魔術は、この世界の魔術の枠組みを超えて、直接的に魔力や魔術回路に働きかけることができるのだ。
「しかし、これには重大なリスクが伴う」
ストレンジは続けた。
「君の体内に、異物が入り込むような感覚になるだろう。まるで、体内に別の生命体を宿すようなものだ」
士郎は、真剣な表情でストレンジの言葉に耳を傾けていた。
「そして、もし君が少しでも拒絶の意思を示せば、私の魔力は即座に追い出されてしまう。まるで、免疫システムが異物を排除するように」
凛は、眉をひそめた。
「それって、危険すぎないかしら?衛宮くんの体に何が起こるか分からないわ」
ストレンジは、凛の懸念を理解しつつも、静かに続けた。
「確かに危険だ。しかし、成功すれば、シロウの魔術は飛躍的に進化する可能性がある。まるで、蝶が蛹から羽化するように」
士郎は、しばらく沈黙した後、決意の表情を浮かべた。
「やります。リスクは承知の上です」
凛は、驚きの声を上げた。
「衛宮くん!そんな無謀な...!」
しかし、士郎の目には揺るぎない決意が宿っていた。
「遠坂、俺には強くなる必要がある。他の人を守るために、そして...」
彼の言葉は途切れたが、その意味は明確だった。10年前の悲劇を二度と繰り返さないために。ストレンジは、士郎の決意を受け入れた。
「分かった。だが、これは慎重に進める必要がある。まるで、ガラスの橋を渡るようなものだからな」
凛は、まだ不安そうな表情を浮かべていたが、もはや反対はしなかった。
「もし何かあったら...」
「大丈夫だ、リン」
ストレンジが彼女を安心させた。
「私が全責任を持つ。これでも至高の魔術師としての誇りがあるのだ」
部屋の空気が、緊張感に満ちていた。これから始まる実験は、魔術の常識を覆す可能性を秘めていた。それは、未知の領域への冒険であり、同時に大きな危険も伴うものだった。
ストレンジは、その小さな猫の体で威厳を漂わせながら、士郎と凛の前に座った。その瞳には、宇宙の深遠さを思わせるような知性が宿っていた。
「さて、君の魔術について、もう少し詳しく聞かせてもらおう」
士郎は、少し躊躇いながらも答えた。
「俺が使えるのは、『投影』と『強化』だけです」
ストレンジは、その言葉を聞いて、興味深そうに尻尾を揺らした。
「なるほど。『投影』と『強化』か。これは実に興味深い組み合わせだ。まるで、鍵と鍵穴のような相性の良さを感じる」
ストレンジは、しばし考え込むような仕草を見せた後、再び口を開いた。
「シロウ、君の魔術属性が『剣』であることを考えると、『投影』を使って剣を創り出すことが可能なはずだ。これは、まるで詩人が言葉を紡ぎ出すように、君の内なる剣を現実世界に投影することができるということだ」
士郎の目が大きく見開かれた。彼自身、自分の本質に気づいていなかったのだ。
「しかし」ストレンジは続けた。
「それだけでは不十分だ。たとえ伝説の剣を投影したとしても、君の肉体が脆弱では意味がない。それは、まるで紙の鎧を着て戦場に赴くようなものだ」
凛が、その言葉に頷いた。彼女も、士郎の肉体の脆弱性を懸念していたのだ。
「そう考えると君の肉体そのものを『剣』とすることが、一つの解決策となり得る」
凛は、驚いた表情を浮かべた。
「衛宮くんの体が剣に変形するってこと?」
ストレンジは、その質問に首を振った。
「そうではない。人としての形を保ちつつ、体そのものが剣の性質を持つのだ。まるで、水が氷になるように、形は変わらずとも本質が変化するのだ」
士郎と凛は、その説明に聞き入った。ストレンジは、更に詳しく説明を続けた。
「例えば、敵が君の素肌に触れれば切り裂かれ、逆に敵の攻撃を受けても、剣のように硬い体でダメージを軽減できる。これは、まさに攻防一体の究極の姿だ」
ストレンジは、ふと何かを思い出したように目を細めた。
「私たちの世界には、ルーク・ケイジという英雄がいる。彼の能力は、君が目指すべき一つの形かもしれない」
凛と士郎は、その名前を聞いて首を傾げた。ストレンジは、彼らの反応を見て、説明を加えることにした。ルーク・ケイジは、ストレンジたちの世界で活躍するヒーローの一人だ。彼は、ある実験の結果、超人的な強さと、ほぼ不死身と言えるほどの耐久力を得た。彼の皮膚は、銃弾さえも跳ね返すほど硬く、通常の武器ではほとんど傷つけることができない。しかし、ルークの能力は単なる物理的な強さだけではない。彼は、自身の能力を正義のために使い、弱者を守り、犯罪と戦う。彼の姿は、まさに「肉体が武器となった」理想の形と言えるだろう。
「ルーク・ケイジの能力は、君が目指すべき一つの形だ。彼の肉体は、まさに盾であり剣なのだ」
ストレンジの説明に、士郎と凛は深く考え込んだ。それは、彼らが今まで考えもしなかった魔術の使い方だった。
「だがルークの能力を完全に再現することは難しいだろう。だが、君の『剣』の本質と『強化』の能力を組み合わせれば、似たような効果を得ることができるはずだ」
士郎は、その可能性に目を輝かせた。
「俺の体を...剣にする...」
凛は、まだ懐疑的な表情を浮かべていた。
「でも、そんなこと可能なの?魔術回路を通じて全身に魔力を巡らせるのは、相当な負担がかかるわ」
ストレンジは、凛の懸念を理解しつつも、静かに答えた。
「確かに、通常の方法では困難だ。しかし、私の魔術を介在させることで、その負担を軽減できるかもしれない。それは、まるで触媒が化学反応を促進するようなものだ」
士郎は、決意の表情を浮かべた。
「やってみたいです、ストレンジ先生」
ストレンジは、士郎の決意を見て、静かに頷いた。
「分かった。だが、これは慎重に進める必要がある。一歩間違えれば、取り返しのつかない事態になりかねない。まるで、薄氷を踏むようなものだ」
凛は、まだ不安そうな表情を浮かべていたが、もはや反対はしなかった。
士郎の肉体を人間の状態のまま剣にするっていうのは、他の二次創作で既に出てるアイディアだったりして……?不安だー……( ̄▽ ̄;)