アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
夜の闇が深く広がる間桐邸の敷地。ウルヴァリンは、目の前に立ちはだかるライダーを見据えながら、次の一手を熟考していた。彼の鋭い爪が月明かりに反射し、その姿は獣のようでありながら、人間の理性を宿している。ウルヴァリンの脳裏では、ライダーを倒すべきか否かの判断が激しくせめぎ合っていた。その瞬間、予想外の存在が彼の視界に飛び込んできた。一匹のキジトラ猫が、まるで幻影のように現れたのだ。
「なんだ...?」
ウルヴァリンの声には、明らかな驚きが滲んでいた。彼の鋭い感覚は、この猫が普通ではないことを察知していた。そして、その直感は正しかった。
キジトラ猫は、優雅な足取りでウルヴァリンに近づいてきた。その姿には、どこか人間的な雰囲気が漂っている。猫の瞳に宿る知性は、明らかに凡庸な動物のものではなかった。
「やあ、ローガン。久しぶりだね」
猫の口から人間の言葉が発せられた瞬間、ウルヴァリンの目が大きく見開かれた。その声は、紛れもなくストレンジのものだった。
「ストレンジ...? まさか、お前がこんな姿になっているとは」
ウルヴァリンの声には、驚きと共に少しの安堵が混じっていた。しかし、ストレンジの注意は既に別の対象に向けられていた。彼の瞳は、桜をじっと見つめていた。
その視線には、単なる好奇心以上のものが宿っているように見えた。まるで、桜の内に潜む何かを見抜こうとしているかのようだ。ウルヴァリンは、ストレンジの真剣な様子に気づき、彼の視線の先を追った。桜の姿に、何か特別なものがあるのだろうか。それとも、この状況に隠された真実が、そこにあるのだろうか。
ストレンジは、まるで重力を無視するかのような軽やかな足取りで、桜とライダーの前に立ちはだかる。その姿は、一見すると普通のキジトラ猫にしか見えないが、その目に宿る知性は明らかに人間のそれを超越している。
桜は、突如として現れたこの不思議な猫を、困惑と好奇心が入り混じった表情で見つめる。彼女の紫色の瞳には、戸惑いと共に、かすかな期待のような感情が浮かんでいた。
「やあ、君が桜君かな。初めまして、私はドクター・ストレンジという者だ」
ストレンジの声は、猫の姿とは不釣り合いな低音で、紳士的な響きを持っていた。その言葉に、桜の目が大きく見開かれる。
「え...? 喋る...猫...?使い魔……?」
桜の声は震えていたが、それは恐怖というよりも驚きによるものだった。ライダーは、警戒の姿勢を崩さずにストレンジを見据えている。ウルヴァリンは、この予想外の展開に言葉を失っていた。彼の鋭い感覚が、この場の空気の変化を敏感に捉えている。
「私は君の中に潜む何かを感じ取っている。それは君自身も気づいていない、大きな力だ」
ストレンジの言葉に、桜の表情が微妙に変化する。彼女の目に、一瞬だけ何かが宿ったように見えた。
キジトラの猫の姿をしたストレンジの瞳に、鋭い光が宿った。その眼差しは、単なる動物のものではなく、宇宙の深遠を見透かすかのような鋭さを帯びていた。静寂を破るように、ストレンジの声が響く。
「いるんだろう?ドルマムゥ。今のお前は彼女の中にいるのは分かっている」
その言葉が、夜の空気を切り裂くかのように鋭く響いた。
瞬間、桜の姿に異変が走る。それまで不安げで儚げだった彼女の表情が、まるで別人のように変貌を遂げた。その目には、底知れぬ闇と古代の知恵が宿り、唇には嘲笑めいた笑みが浮かぶ。桜の体全体から発せられる雰囲気が、一変した。
普段の桜が、か弱く儚げな少女であったのに対し、今の彼女は圧倒的な存在感を放っていた。その姿勢は堂々としており、まるで何千年もの時を生きてきた古の存在のようだった。
「やあ、ストレンジ。久しぶりだね」
ドルマムゥが憑依した桜の声は、低く響くような音色を持っていた。その声音は、桜本来の柔らかな声とは全く異なり、古代の魔術師のような威厳を感じさせた。
「相変わらず鋭い洞察力だ。さすがは至高の魔術師と呼ばれるだけのことはある」
桜の口から紡がれる言葉は、明らかに彼女のものではなかった。その語り口には、長い年月を経た者特有の余裕と皮肉が滲んでいた。ウルヴァリンは、目の前で繰り広げられる異様な光景に戸惑いを隠せなかった。彼の鋭い感覚が、状況の異常さを察知していた。桜の体は、まるで別の存在に操られているかのように動く。その仕草には、普段の彼女には見られない優雅さと威厳が漂っていた。まるで古代の女王が現代に蘇ったかのようだ。
「君の介入は予想外だったよ、ストレンジ。だが、それも私の計画の一部となるだろう」
ドルマムゥの言葉には、深い自信と計算が込められていた。桜の瞳は、今や異質な光を放っている。それは、人間の魂ではなく、遥か彼方の次元から来た存在の眼差しだった。ライダーの姿勢が、一瞬にして変化した。彼女の長い紫の髪が、緊張を感じたかのように揺れる。目隠しの下の瞳は、恐らく驚きと困惑に見開かれているのだろう。彼女の体全体から、これまでにない不安と警戒の気配が漂っていた。
「サクラ...?」
ライダーの声は、いつもの冷静さを失っていた。その口調には、明らかな動揺が滲んでいた。彼女は一歩前に踏み出そうとしたが、その足が宙で止まる。まるで、目の前の存在が本当に自分のマスターなのかどうか、確信が持てないかのようだった。ドルマムゥに憑依された桜は、そんなライダーの様子を見て、薄く笑みを浮かべた。その表情には、桜本来の優しさは微塵も感じられず、代わりに古代の魔術師のような威厳と皮肉が宿っていた。
「ああ、ライダー。心配することはない。私はただ、この子の可能性を引き出しているだけだ」
その声は、桜のものでありながら、明らかに別の存在のものだった。低く、そして力強い響きは、周囲の空気さえも震わせているようだった。
ストレンジは、その様子を冷静に観察していた。彼の猫としての姿は小さいものの、その存在感は決して侮れないものがあった。
「ドルマムゥ、お前の計画は何だ?」
ストレンジの問いかけに、ドルマムゥは桜の唇を使って答えた。
「ふむ、正直に言おう。想定外に早くお前に見つかってしまったのは計算違いだった。だが、それも私の計画の一部となるだろう」
ドルマムゥの言葉には、自信と同時に僅かな焦りが感じられた。桜の体を通して語られるその言葉は、この世のものとは思えない響きを持っていた。ウルヴァリンは、この状況に戸惑いながらも、戦闘態勢を取っていた。彼の鋭い爪が、月明かりに反射して光る。
「オレには分からねえが、とにかくアンタは桜の身体から出て行けってことだな」
ウルヴァリンの言葉は、単純明快だった。しかし、その目には複雑な感情が宿っていた。目の前で繰り広げられる超常的な出来事に、彼の経験でさえも太刀打ちできないことを感じているようだ。
ストレンジは、その小さな猫の体で、ウルヴァリンの方を向いた。その瞳には、宇宙の深遠さと、計り知れない知恵が宿っていた。
「ウルヴァリン、我々は桜からドルマムゥを引き離さなければならない。彼女の魂が、永遠に失われてしまう前に」
ストレンジの声には、切迫感が滲んでいた。その言葉が、夜の静寂を切り裂くように響く。
ウルヴァリンは、一瞬の躊躇いの後、頷いた。彼の目には、決意の色が宿っていた。
「分かった。オレにできることがあれば言ってくれ」
その言葉を合図に、ストレンジの体から異様な光が放たれ始めた。それは、まるで生き物のように蠢き、空気中を舞っていく。キジトラ猫の小さな体からは想像もつかないほどの魔力が溢れ出し、周囲の空間を歪ませていく。その魔力は、ドルマムゥに憑依された桜へと向かっていった。光の筋が、まるで生命を持つかのように蛇行しながら、桜の体を取り囲んでいく。しかし、ストレンジの魔力の勢いは、本来の彼のものとは明らかに違っていた。猫の肉体を借りているという制約が、彼の力を大きく制限しているのは明らかだった。
「ドルマムゥ、お前の野望はここまでだ」
ストレンジの声が、低く響く。その言葉には、決意と共に、僅かな苦痛が混じっていた。猫の体に宿った彼の魂が、限界に挑戦しているかのようだった。ドルマムゥに憑依された桜は、その攻撃を見て、不敵な笑みを浮かべた。
「ふむ、さすがは至高の魔術師だ。その姿でさえ、これほどの力を発揮できるとはな」
桜の口から発せられるその言葉は、明らかにドルマムゥのものだった。その声には、驚きと共に、どこか楽しむような調子が混じっていた。ライダーは、その光景を目の当たりにして、動揺を隠せずにいた。彼女の体が、わずかに震えているのが見て取れる。
「サクラ...」
彼女の声は、ほとんど聞こえないほど小さかった。その言葉には、深い憂いと、どうすることもできない無力感が滲んでいた。ウルヴァリンは、この超常的な戦いに介入する機会を窺っていた。彼の鋭い爪が、月明かりを受けて冷たく光る。ストレンジの小さな猫の体から、さらに強烈な魔力が溢れ出した。その光景は、まるで宇宙の神秘が地上に降り立ったかのようだった。彼の瞳に宿る決意の光が、夜の闇を切り裂く。一瞬の閃きと共に、魔力で形成された縄のようなものが、桜の体を取り巻いていく。それは光の筋のようでありながら、確かな実体を持っていた。縄は素早く、かつ精密に桜の四肢を拘束していく。
「これで少しは動きが制限されるはずだ」
ストレンジの声には、わずかな疲労が混じっていた。猫の体を通して魔術を行使することの負荷が、徐々に彼を蝕んでいるようだった。しかし、ドルマムゥに憑依された桜の表情からは、余裕が消えることはなかった。むしろ、その唇には薄い笑みさえ浮かんでいた。
「素晴らしい手際だ、ストレンジ。だが、これで私を止められると思っているのかね?」
ドルマムゥの声は、桜の口を通して響く。その声音には、古代の英知と底知れぬ力が滲んでいた。ライダーは、この異様な光景の前で立ち尽くしていた。彼女の長い髪が、不安げに揺れている。目隠しの下の瞳は、恐らく混乱と戸惑いに満ちているのだろう。
「サクラ...私は...」
ライダーの言葉は、途中で途切れた。彼女の内には、マスターを守るべきという使命感と、目の前の存在がもはや自分のマスターではないのではないかという疑念が渦巻いていた。ウルヴァリンは、この超常的な戦いの中で、自分の役割を見出せずにいた。彼の鋭い爪が、月明かりを受けて冷たく光る。その目は、状況を冷静に分析しようとしているが、理解の及ばない事態に困惑の色を隠せない。
「くそっ...オレには何ができる?」
ウルヴァリンの呟きが、夜風に消えていく。ストレンジは、猫の小さな体から驚くべき魔力を放出していた。しかし、その力は明らかに制限されたものだった。
「ドルマムゥ、我々はこの舞台で踊らされる駒に過ぎんのかもしれんな。だが、それでも私は諦めん」
ストレンジの声には、深い決意と共に、皮肉めいた響きが混じっていた。
ドルマムゥは、桜の唇を使って答えた。
「ふむ、面白い譬えだ。だが、私はこの舞台の脚本家になるつもりだよ。そして、君たちは私の物語の中で踊り続けるのさ」
その言葉には、古代の魔術師の知恵と、現代の皮肉が混ざり合っていた。
ウルヴァリンは、この超常的な戦いの中で、自分の立ち位置を見出そうとしていた。彼の鋭い目が、躊躇うライダーを捉えた。
「おい、紫髪の姉ちゃん!桜って子が心配なら、いつまでもそこで固まってねぇで、オレたちに力を貸せよ!」
ウルヴァリンの粗野な言葉が、夜の静寂を切り裂いた。その声には、いつもの荒々しさの中に、奇妙な説得力が込められていた。ライダーは、その言葉に反応して、僅かに体を震わせた。彼女の長い髪が、風に揺れる。
「私は...サクラのサーヴァント。でも、今の彼女は...」
彼女の声は、迷いと決意が交錯するように震えていた。しかし、その目隠しの下の瞳には、徐々に覚悟の色が宿り始めていた。
「分かりました。私も...力を貸します」
ライダーの言葉に、ウルヴァリンは満足げに頷いた。
「そうこなくっちゃな。さぁ、一緒にあの小娘を救おうぜ」
ストレンジは、この展開を見て、猫の口元にかすかな微笑みを浮かべた。
「ふむ、心強い味方を得たようだ。さて、ドルマムゥ。我々の舞台は、さらに賑やかになったようだが、君の台本通りかな?」
その言葉には、明らかな挑発の色が混じっていた。
ドルマムゥは、桜の体を通して、不敵な笑みを浮かべた。
「予想外の展開こそ、物語を面白くするのさ。さぁ、この芝居の結末がどうなるか、楽しみじゃないか」
ドルマムゥは桜の体を借りて、突如として異質な魔術を発動させた。その瞬間、周囲の空間が歪み始める。まるで現実そのものが捻じ曲がり、解体されていくかのような光景が広がった。ストレンジの拘束を縛っていた魔力の縄が、まるで幻影のように霧散していく。それは、物理法則すら無視するかのような現象だった。
「ふむ、この娘の魔術は実に興味深い。現実と非現実の境界を自在に操る力か」
ドルマムゥの声が、桜の口を通して響く。その口調には、明らかな興奮が滲んでいた。
解放された桜の体は、瞬時に姿を消した。その動きは、まるで光速を超えているかのようだった。次の瞬間、ウルヴァリンの背後に現れる。
「なっ!?」
ウルヴァリンの驚愕の声が上がる前に、桜の手から放たれた魔力の波動が彼を襲う。その攻撃は、物理的な衝撃というよりも、存在そのものを揺るがすような性質を持っていた。ウルヴァリンは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。その肉体の驚異的な回復力をもってしても、この攻撃の異質さに戸惑いを隠せない。
「くそっ...何なんだこの力は...」
次の標的はライダーだった。桜の体は、まるで空間を歪めるかのように移動し、ライダーの目の前に出現する。
「サクラ...!」
ライダーの声には、悲痛な響きが込められていた。しかし、その瞬間、彼女の体は宙に浮かび上がる。まるで重力そのものが彼女を拒絶するかのように。
「申し訳ないね、ライダー。だが、これも全て必要な過程なのさ」
ドルマムゥの言葉とともに、ライダーの体は激しく壁に叩きつけられた。
ストレンジは、この予想外の展開に驚きを隠せない。彼の猫の姿からは、焦りの色が滲み出ていた。
「まさか、この少女がそこまでの力を...」
ドルマムゥは、桜の体を通して不敵な笑みを浮かべる。その姿は、まるで現実と非現実の狭間に立つ存在のようだった。
「さて、諸君。この物語の結末はどうなるかな?私たちの舞台は、まだまだ続くようだ」
キジトラ猫の姿をしたストレンジの目が、鋭く光った。その小さな体からは、宇宙の深遠さを感じさせるような威厳が漂っていた。彼は、目の前で繰り広げられる異常な光景を冷静に分析していた。
「なるほど...どうやらドルマムゥは、この少女の本来持っている力を増幅させているようだな」
ストレンジの声には、深い洞察力と僅かな焦りが混じっていた。桜の体から放たれる魔力の波動は、まるで現実そのものを歪めているかのようだった。
ウルヴァリンは、地面から身を起こしながら、苦痛の表情を浮かべる。
「くそっ...オレの回復力でさえ、追いつかねぇような攻撃だ」
彼の言葉には、明らかな困惑が滲んでいた。通常の物理攻撃なら、ウルヴァリンの驚異的な回復力で瞬時に治癒できるはずだ。しかし、桜の魔術は彼の能力さえも凌駕していた。ライダーは、壁から身を剥がすように立ち上がる。彼女の長い髪が、乱れた呼吸に合わせて揺れている。
「サクラの力は...元々途方もないものでした。それにあの存在の力が加わるなんて...」
彼女の声には、深い懸念と共に、かすかな誇りのようなものも混じっていた。
ストレンジは、猫の姿でありながら、深く頷いた。
「そうか...この少女の魔術は、通常の概念を超えたものなのだな。それにドルマムゥの力が加わるとなれば...」
彼の言葉は途中で途切れた。その先にある可能性は、あまりにも危険すぎて口にするのも躊躇われるほどだった。
ドルマムゥは、桜の体を通して不敵な笑みを浮かべる。
「やれやれ、ストレンジ。君の洞察力は相変わらずだね。だが、それだけでは私を止められないぞ」
その言葉と共に、再び周囲の空間が歪み始める。現実と非現実の境界が曖昧になり、まるで夢と現実が混ざり合うような光景が広がっていく。ウルヴァリンの鋭い目が、ライダーを捉えた。彼の脳裏に、先ほどのライダーの言葉が蘇る。突如として湧き上がった疑問が、彼の口から飛び出した。
「おい、紫髪の姉ちゃん。さっき『サクラは私のマスター』って言ったよな?てっきりお前のマスターは間桐慎二だと思ってたんだが」
その言葉に、ライダーの体が微かに震えた。彼女の長い髪が、夜風に揺れる。
「...そうですね。本来、私のマスターはサクラです。慎二は...仮初のマスターに過ぎません」
ライダーの声は静かだったが、その中には複雑な感情が交錯していた。ウルヴァリンは、この予想外の事実に目を見開いた。一方、ストレンジは猫の姿でありながら、深い思考に沈んでいた。彼の目が、突如として輝きを増す。
「ライダー、君のスピードなら、ドルマムゥに追いつける可能性がある。君の力で桜を動けなくすることはできないだろうか?」
ストレンジの提案に、ライダーは僅かに躊躇した。彼女の表情には、複雑な感情が浮かんでいた。
「確かに...私の魔眼キュベレイを使えば、サクラの動きを封じることは可能かもしれません。ですが...」
ライダーの言葉が途切れる。その瞳に、深い葛藤の色が宿る。
「魔眼を使えば、サクラを石化させてしまう可能性があります」
その言葉に、場の空気が凍りついた。ウルヴァリンとストレンジの表情が、一瞬にして緊張に満ちる。
「石化だと?」
ウルヴァリンの声には、驚きと共に焦りが混じっていた。
ストレンジは、猫の姿でありながら、深く考え込んだ様子を見せる。彼の小さな体からは、宇宙の深遠さを感じさせるような威厳が漂っていた。
「なるほど...確かに危険な賭けだ。しかし、今のドルマムゥの状態を考えれば...」
彼の言葉は、重い意味を含んでいた。桜の体を借りたドルマムゥの力は、刻一刻と増大している。このまま放置すれば、取り返しのつかない事態を招く可能性がある。
ライダーの目隠しの下で、目が激しく揺れていた。彼女の心の中で、マスターへの忠誠と、世界を救うという使命が激しくぶつかり合っている。
ストレンジの猫の姿から、突如として強烈な魔力の波動が放たれた。その瞳には、宇宙の深遠さを思わせるような光が宿っていた。
「ライダー、私の魔力を全て君に送る。そのスピードで桜を動けなくしてくれ。我々には、もう時間がない」
その言葉と共に、ストレンジの体から青白い光が溢れ出し、ライダーへと流れ込んでいく。ライダーの体が、その魔力を受け止め、徐々に輝き始める。
ウルヴァリンは、その光景に息を呑んだ。
「オイオイ...これは一体...」
彼の言葉が途切れる中、ライダーの姿が変化していく。彼女の長い髪が、まるで生き物のように蠢き始め、その体からは圧倒的な魔力が放出されていた。本来のマスターである桜との再契約によって、既に本来のスペックを取り戻していたライダー。そこにストレンジの魔力が加わることで、彼女の能力は想像を超える領域に達していた。
ライダーは、一瞬の躊躇いの後、決意の表情を浮かべる。
「分かりました。サクラ...お許しください」
その言葉と共に、ライダーの姿が消えた。いや、消えたのではない。彼女の動きが、人間の目で捉えられないほどの速度に達したのだ。桜の周囲の空間が、突如として歪み始める。それは、ライダーの超高速の動きによって引き起こされた現象だった。彼女の姿は、まるで幻影のように桜の周りを旋回し、その軌跡が光の帯となって空間を覆っていく。
夜空を切り裂くような閃光が連続して走る。ライダーの姿は、もはや肉眼では捉えられない。彼女の動きは光速を超えた領域に達していた。本来のドルマムゥであれば、このような速度など問題にもならないはずだった。しかし、桜の肉体を借りている現状では、ライダーの動きが明らかな脅威となっていた。ライダーは、その超高速の動きの中で自身の武器であるナイフの鎖を巧みに操る。鎖は、まるで生き物のように蠢きながら、桜の体に絡みついていく。その光景は、幻想的でありながら、どこか残酷さも感じさせた。本来のライダーであれば光の速度など出せよう筈もないが、ストレンジの全力のバックアップによって可能にしていた。
「くっ...まさか、こんな速度で...」
ドルマムゥの声が漏れる。その口調には、明らかな焦りが滲んでいた。
ストレンジは、猫の姿でありながら、全身から魔力を放出し続けている。その小さな体は、既に限界を超えていたが、それでも彼は諦めない。
「ライダー、そのスピードを維持するんだ。一瞬でも緩めれば...」
彼の言葉が途切れる。その先にある可能性は、あまりにも恐ろしすぎて口にできないほどだった。
ウルヴァリンは、その光景を食い入るように見つめている。彼の鋭い感覚をもってしても、ライダーの動きを正確に捉えることはできない。
「すげぇ...あいつ、まるで時間を止めてるみてぇだ」
ライダーは、一瞬たりともスピードを緩めることはできない。それは、即座にドルマムゥに捕捉されることを意味する。彼女の全身から滴り落ちる汗が、その緊張の高さを物語っていた。鎖は徐々に桜の体を覆っていく。それは、まるで蛇が獲物を締め上げるかのようだった。しかし、ライダーの表情には、深い悲しみの色が浮かんでいた。
「サクラ...お許しください」
その言葉は、風の中に消えていった。戦いは、まさに佳境を迎えようとしていた。この一瞬の攻防が、世界の命運を決することになるのは明らかだった。
ドルマムゥに憑依された桜の表情が、初めて驚きの色を見せる。
「なんだと...?こんな速度があり得るのか?」
ドルマムゥの声には、明らかな動揺が滲んでいた。ライダーの速度は、彼の予測を遥かに超えていたのだ。
ウルヴァリンは、その光景を目を見開いて見つめていた。彼の鋭い感覚をもってしても、ライダーの動きを正確に捉えることはできない。
「すげぇ...あいつ、光より速いんじゃねぇのか?」
ストレンジは、疲労の色を見せながらも、満足げな表情を浮かべていた。
「これで...勝機が見えてきたな」
ドルマムゥの魔力が急激に高まり、桜の体から禍々しい光が放たれ始めた。空間が歪み、現実が溶解しそうな錯覚さえ覚える。しかし、その瞬間、ライダーの動きが一変した。
「これしかない...!」
ライダーの声が、風を切り裂く。彼女の手が、自らの目を覆う帯に伸びる。一瞬の躊躇いの後、帯が解かれた。その瞬間、世界が静止したかのような錯覚に陥る。ライダーの目から放たれる光が、桜の体を捉えた。魔眼キュベレイの力が、桜の肉体を侵食していく。
「な...何だと!?」
ドルマムゥの驚愕の声が響く。桜の体が、徐々に石化し始める。しかし、ドルマムゥは諦めない。彼の魔力が桜の体内で暴れ出し、石化を強引に解除しようとする。
その一瞬の隙を、ストレンジが見逃すはずがなかった。
「今だ!」
ストレンジの声が響く。彼の猫の姿が、突如として霧散する。代わりに、青白い光の粒子が現れ、それが桜の体へと吸い込まれていく。
ウルヴァリンは、その光景に目を見開いた。
「オイオイ...アンタ、まさか...」
彼の言葉が途切れる中、ストレンジのアストラル体が完全に桜の精神へと侵入していった。世界が一瞬にして変容する。ストレンジの意識が、桜の精神世界へと沈降していく。それは、現実とは全く異なる、歪んだ景色だった。闇と光が入り混じり、記憶の断片が宙を舞う。そこは、桜の心の奥底、ドルマムゥとの戦いが繰り広げられる最後の戦場だった。
ストレンジは、この異質な空間の中で、自らの意識を保とうと必死だった。彼は、桜を、そしてこの世界を救うため、最後の戦いに臨もうとしていた。
******************************************************
ストレンジの意識が桜の精神世界に完全に沈降すると、周囲の景色が一変した。そこは現実とは全く異なる、幻想的な空間だった。淡い光に包まれた広大な庭園が広がり、その中心には大きな桜の木が立っていた。ストレンジは自身の姿を見下ろした。猫の姿は消え、代わりに赤いローブを纏った本来の魔術師としての姿に戻っていた。彼の鋭い目が、この異質な空間を慎重に観察する。
突如として、少女たちの笑い声が聞こえてきた。ストレンジがその方向を見ると、桜の木の下で二人の少女が遊んでいる姿が目に入った。一人は紫の髪をした幼い桜、もう一人は黒髪の少女だった。
「桜、こっちよ!」
黒髪の少女が桜に手を伸ばす。その声は、どこか懐かしさを感じさせるものだった。
ストレンジは、その光景を静かに見つめた。桜からは彼の存在が認識できないようで、二人の少女は楽しそうに遊び続けている。
「遠坂凛...」
ストレンジの口から、その名前が零れた。黒髪の少女の姿に、彼は既知の人物を重ね合わせていた。遠坂凛、現在の聖杯戦争の参加者の一人。そして、桜との関係は...
ストレンジの思考が巡る中、突如として空間が揺らいだ。桜の木から一枚の花びらが舞い落ち、それが地面に触れた瞬間、周囲の景色が歪み始める。
「これは...記憶の断片か」
ストレンジは呟いた。彼は、この空間が桜の記憶や感情で構成されていることを理解し始めていた。そして、この幸せそうな光景の裏に潜む、何か重大な真実の存在を感じ取っていた。
桜と凛の笑い声がまるでエコーのように空間に響き渡る。その音が徐々に遠ざかっていく中、ストレンジは次なる行動を決意した。彼は、この精神世界の深層へと進みドルマムゥと桜の関係を見つけようとした。
ウルヴィーと桜の相性は悪くはないと思うんでよねぇ。