アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
朝日が窓から差し込み始めた衛宮邸の2階。凛の寝室には、まだ夜の名残を感じさせる静けさが漂っていた。柔らかなベッドの中で、凛は微睡んでいた。その顔には、昨夜の出来事による疲れが微かに残っていたが、全体的には穏やかな表情を浮かべている。
突然、凛は何かに抱きつかれているような感覚に襲われた。まだ半分眠っている意識の中で、彼女はその感覚に戸惑いを覚える。温かく、小さな体。それは明らかに人間のものだった。
「...ん?」
凛は、ゆっくりと目を開ける。まぶたの重さと戦いながら、彼女は視界をはっきりさせようと努力する。そして、目の前に広がった光景に、凛の脳は一瞬フリーズした。
そこには、昨夜パニッシャーと共にやってきた立香が、凛にぴったりと抱きついた状態でスヤスヤと眠っていたのだ。立香の寝顔は天使のように穏やかで、凛の胸元に顔をうずめるようにして眠っている。
「え?」
凛の頭の中で、現実を理解しようとする回路が必死に働き始める。しかし、その努力も空しく、彼女の混乱は増すばかりだった。
「ええええええ!?」
凛の悲鳴が、静かな朝の衛宮邸に響き渡る。その声に驚いたのか、立香が少し体を動かす。しかし、目を覚ます気配はない。
「ちょ、ちょっと待って...わたし、まだ寝てる?これって夢?」
凛は慌てて自分の頬をつねってみる。痛みはちゃんとある。つまり、これは現実だ。その事実に気づいた瞬間、凛の顔が見る見る間に真っ赤に染まっていく。
「うわああああ!」
凛は思わず立ち上がろうとするが、立香に抱きつかれているせいで動けない。彼女は、まるで溺れる人のようにベッドの上でもがき始める。
「り、立香くん!起きて!わたしから離れて!」
しかし、立香はぐっすりと眠ったままだ。むしろ、凛の動きに反応して、さらにぎゅっと抱きついてくる。
「まままま...待って!こんなの聞いてない!」
凛の混乱は頂点に達する。彼女の頭の中では、様々な思考が乱れ飛んでいた。どうしてこんなことに?立香はどうやってここに来たの?誰かに見られたらどうしよう?
そんな凛の悲鳴を聞きつけたのか、部屋のドアが勢いよく開く。そこに立っていたのは、寝ぼけ眼の士郎だった。
「遠坂!どうした!?」
士郎の声に、凛は一瞬で凍りついた。彼女の表情は、まるでコミカルなアニメのキャラクターのように、驚きと恥ずかしさが入り混じった奇妙なものになっていた。
「ち、違うのっ!これは...その...」
凛は必死に言い訳をしようとするが、うまく言葉が出てこない。士郎は、目の前の光景を理解しようと瞬きを繰り返す。
「えっと...俺、まだ寝てるのかな?」
士郎の呟きに、凛はさらに赤面する。
「違う!これは...あの...」
凛が説明しようともがいている間も、立香は平和な寝顔を崩さない。むしろ、さらに気持ちよさそうに凛にしがみついている。
この騒ぎを聞きつけて、次々と他のメンバーも部屋に集まってくる。スティーブ、ナターシャ、クリント、そしてセイバーまでもが、驚いた表情で部屋の中を覗き込んでいる。
「わ、わたしは...これは...」
凛の言葉が途切れる。彼女の頭の中は、完全にパニック状態に陥っていた。そんな中、唯一冷静そうなのはナターシャだった。
「まあ、子供は寂しいと大人の女性に甘えたくなるものよ」
ナターシャの冷静な分析に、凛は泣きそうな顔になる。
「そ、そうじゃなくて...」
しかし、凛の言葉は再び途切れる。彼女は、自分がこの状況をどう説明すればいいのか、まったく分からなくなっていた。
そんな中、ようやく立香が目を覚ます。彼は、まわりの騒ぎにも気づかず、まだ眠そうな目で凛を見上げた。
「お姉ちゃん...おはよう」
その一言で、部屋中が静まり返る。凛の顔は、もはや限界を超えて真っ赤になっていた。
「お、お姉ちゃん...?」
凛の声は震えている。彼女の頭の中で、昨日クリントが言った「姉弟みたい」という言葉が、大きく響き渡る。
この予想外の展開に、部屋中が再び笑いに包まれる。凛は、ベッドの中で小さくなりながら、心の中で叫んでいた。
(なんで...なんでこんなことに...)
朝日が昇り始めた衛宮邸で、凛の悲鳴とみんなの笑い声が、新たな一日の始まりを告げていた。
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朝日が差し込む衛宮邸のキッチンは、普段にも増して活気に満ちていた。寝間着から普段着に着替えた凛は、士郎やスティーブたちと共に朝食の準備に取り掛かっていた。包丁を握る士郎の手さばきは鮮やかで、スティーブは慣れない日本の調理器具に戸惑いながらも、真剣な表情で作業を進めている。
凛は野菜を洗いながら、ふと気づいたように口を開いた。
「そういえば、昨晩からストレンジを見ていないわ」
その言葉に、士郎とスティーブは手を止め、顔を見合わせた。確かに、キジトラ猫の姿をしたストレンジの姿が見当たらない。
「そう言われてみれば...」
士郎の言葉に、スティーブも頷く。
「確かに、昨夜から姿を見ていないな」
三人の間に、微かな不安が漂い始めた。ストレンジの不在は、単なる偶然なのか、それとも何か意味があるのか。誰もが心の中で考えを巡らせている。
一方、リビングではクリントが立香の相手をしていた。彼は子供と接するのが得意なようで、立香も楽しそうにクリントの話に聞き入っている。しかし、立香の目はしばしばキッチンの方へ向けられ、特に凛の姿を追うように見ていた。
「どうした?キッチンが気になるのか?」
クリントの問いかけに、立香は少し恥ずかしそうに頷いた。
「うん...お姉ちゃんが気になるの」
立香の言葉に、クリントは思わず笑みを浮かべる。昨日の「姉弟説」を思い出したのだろう。
キッチンでは、凛が立香の視線に気づき、少し困惑した表情を見せる。彼女は昨夜の出来事を思い出し、頬を赤らめながら野菜を切る手を止めた。
「遠坂、どうかしたのか?」
士郎の声に、凛は慌てて我に返る。
「な、なんでもないわ。ただちょっと...」
凛の言葉が途切れる。彼女は立香の方をチラリと見て、再び顔を赤らめた。スティーブはその様子を見て、状況を察したようだ。
「大丈夫か、凛?」
スティーブの優しい問いかけに、凛は深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。
「ええ、大丈夫よ。ただ、少し考え事をしていただけ」
凛の言葉に、士郎とスティーブは安心したように頷いた。しかし、彼女の心の中では、まだ昨夜からの混乱が収まりきっていなかった。立香との突然の「姉弟」設定、そして今朝のベッドでの出来事。凛は自分の中に芽生えた不思議な感情を、どう整理すればいいのか分からずにいた。
朝食の準備が進む中、衛宮邸には穏やかな空気が流れていた。しかし、その表面下には、ストレンジの不在や、凛と立香の間に生まれた不思議な絆など、様々な思いが交錯していた。新たな一日の始まりと共に、彼らの物語は次の章へと進もうとしていた。
朝霧の立ち込める衛宮邸の食卓に、まるで絵画のように美しく盛り付けられた朝食が並ぶ。その光景は、まるで日常という名の幻想を描き出すかのようだった。しかし、その幻想の中に、現実という名の亀裂が走る。
立香の瞳から零れ落ちる涙は、まるで時を刻む砂時計の砂粒のように、静かに、しかし確実に流れていく。その涙は、失われた家族への想いを映し出す鏡となり、食卓を囲む者たちの心に静かな波紋を広げていく。
「美味しい...」
立香の言葉は、喜びと悲しみが交錯する矛盾した感情を孕んでいた。その声は、まるで失われた日常を取り戻そうとする儚い願いのようでもあった。
士郎は、立香の姿に自身の過去を重ね合わせ、言葉を失う。凛の瞳には、複雑な感情が宿り、スティーブたちの表情には、戸惑いと同情が混ざり合う。
「父さん...母さん...お姉ちゃん...会いたい...」
立香の呟きは、まるで呪文のように食卓の空気を凍らせる。その言葉は、失われた家族への想いを具現化し、現実という名の壁を打ち破ろうとするかのようだった。
テーブルに顔を伏せる立香の姿は、まるで悲しみという名の重荷に押し潰されそうだった。その小さな背中は、世界の理不尽さを一身に背負っているかのように見える。
凛は、立香の姿に胸を痛め、思わず手を伸ばしかける。しかし、その手は宙に浮いたまま、届かない距離で止まってしまう。彼女の心の中で、魔術師としての冷徹さと、人間としての温かさが激しくぶつかり合う。
「立香...」
士郎の声は、優しさと無力さが混ざり合った複雑な響きを持っていた。彼の心の中で、過去の自分と目の前の立香が重なり、言葉にならない感情が渦巻いていく。
スティーブたちは、この異世界で起きた悲劇を目の当たりにし、自分たちの正義の在り方を問い直されているかのような感覚に陥る。彼らの正義は、この小さな命を救うことができるのか。その問いが、静かに、しかし確実に彼らの心を蝕んでいく。朝食という名の日常の中に、悲劇という名の非日常が侵入してきた。その境界線上で、彼らは立ち尽くす。失われた家族への想いと、新たな絆の芽生え。その狭間で揺れ動く立香の姿に、彼らは自らの在り方を問われているのかもしれない。
そして、その問いへの答えを見つけるまで、この朝食は続いていくのだろう。まるで、永遠に朝が来ないかのように。
リビングに漂う空気は、まるで目に見えない鉛の塊のように重く、息苦しいものだった。凛は急いで立香を別室に移して戻って来た。パニッシャーの目に宿る怒りは、まるで実体化しそうなほどに激しく燃え上がっていた。その炎は、周囲の空気さえも焼き尽くしかねない勢いだ。彼の全身から発せられる殺気は、まるで有形の実体を持つかのように、部屋中を覆い尽くしていく。
「この全ては、聖杯戦争とそれを主催している魔術師どもの仕業だ」
パニッシャーの言葉はまるで毒を含んだ針のように鋭く、冷たかった。その声には、これまで積み重ねてきた怒りと憎しみのすべてが込められているようだった。
「そして、お前たちサーヴァントにも責任がある」
彼の視線が、鋭い剣先のようにセイバーへと向けられる。その眼差しには、ただならぬ殺意が宿っていた。パニッシャーの怒りは、まるで暴風のように部屋中を渦巻いていく。その激しさに、誰もが言葉を失っていた。
「無辜の民を巻き込む戦いに加担する英霊なぞ、英雄でも何でもない。ただの殺人鬼の集まりだ」
パニッシャーの言葉は、まるで雷鳴のように響き渡る。その声には、これまで積み重ねてきた正義への信念と、目の前の現実への怒りが混ざり合っていた。彼の全身から発せられる殺気は、まるで実体化したかのように部屋の空気を震わせる。スティーブたちは、パニッシャーの怒りの前に言葉を失っていた。彼らは、この怒りの正当性を理解しつつも、その激しさに戸惑いを隠せないでいる。士郎と凛の表情には、複雑な感情が浮かんでいた。彼らは、聖杯戦争の参加者でありながら、その残酷さを改めて突きつけられ、自らの立場に苦悩しているようだった。
セイバーは、パニッシャーの怒りの矛先に立ちながらも、毅然とした態度を崩さない。しかし、その瞳の奥には、かすかな動揺の色が見て取れた。
パニッシャーの怒りの言葉が飛び交う中、士郎はゆっくりと立ち上がった。その動作には、まるで重力に逆らうかのような重々しさがあった。彼の目には、これまでにない強い決意の色が宿っていた。それは、単なる勇気ではない。正義への揺るぎない信念が、彼の全身から溢れ出ているかのようだった。士郎は、セイバーの前に立ちはだかるように位置取りを変える。その姿勢は、まるで盾のようにセイバーを守ろうとしているかのように見えた。彼の背中には、これまでの経験から培われた強さと、同時に、まだ見ぬ未来への不安が混在しているようだった。
「セイバーを責めるのは間違っている」
士郎の声は、静かでありながら、芯の通った強さを持っていた。その言葉は、まるで重い鉄の扉を開くかのように、重く、しかし確実に空気を震わせた。
「確かに、聖杯戦争は多くの犠牲を生み出す。でも、それはサーヴァントたちの責任じゃない。彼らもまた、この戦いに巻き込まれた存在なんだ」
士郎の言葉は、まるで静かな湖面に投げ込まれた小石のように、部屋中に波紋を広げていく。その真摯な思いは、パニッシャーの怒りの炎にも、わずかながら揺らぎを与えているようだった。
パニッシャーは、士郎の言葉を聞いて、一瞬だけ目を細める。その表情には、怒りと共に、かすかな興味の色が浮かんでいた。
「ほう、正義の味方気取りか?ずいぶんと甘っちょろい考えだな、坊主」
パニッシャーの皮肉な言葉に、スティーブが反応する。彼は、腕を組みながら、少し困ったような表情を浮かべた。
「フランク、君の怒りは理解できる。だが、この少年の言葉にも一理あるんじゃないかな? 我々も、時に望まない戦いに巻き込まれることがある。それでも、できる限りの正義を貫こうとしているだろう?」
スティーブの言葉に、クリントが軽く肩をすくめる。
「まったく、キャップは相変わらず説教くさいな。でも、今回ばかりは同意せざるを得ないか。この状況、アベンジャーズ結成時を思い出すよ。あの時も、我々は望まない戦いに巻き込まれたんだ」
ナターシャは、静かに頷きながら、冷静な視線をパニッシャーに向ける。
「フランク、あなたの怒りは正当だわ。でも、その怒りを向けるべき相手を間違えてはいけない。我々の敵は、この状況を作り出した者たち。無辜の人々を巻き込む者たちよ」
ナターシャはフランクを宥めるものの彼には効果は無かった。
「甘ったれた考えは捨てろ」
パニッシャーの声は低く、しかし鋭い刃のように耳に突き刺さる。その言葉の一つ一つが、重い鉄球のように、部屋中に響き渡る。
「サーヴァントどもは、自らの意思で聖杯戦争に参加している。その時点で、連中にも責任の一端があるだろう?」
彼の言葉は、まるで冷たい鋼鉄のように、容赦なく現実を突きつける。その論理は、感情を排除した冷徹なものだった。
「マスターの命令とあらば、どんな非道な行為も厭わない。聖杯のためなら、手段を選ばないのがサーヴァントというものだ」
スティーブの表情が、一瞬だけ曇る。彼の目に、過去の記憶が蘇ってくる様子が窺えた。柳洞寺を拠点としていたキャスターの所業が、彼の脳裏に浮かび上がる。街中の人々から生命力を吸い上げていたその光景は、今でも彼の心に重くのしかかっている。
「確かに、君の言う通りかもしれない。だが、全てのサーヴァントがそうだとは限らない。我々の目指す正義は、そんな一方的な判断を許さないはずだ」
スティーブの言葉には、迷いと決意が混在していた。彼の瞳には、複雑な感情が渦巻いているのが見て取れる。クリントは、軽く肩をすくめながら、苦々しい表情を浮かべる。彼の脳裏には、学校の生徒たちを魔力の糧にしようとしていたライダーの姿が浮かんでいた。
「まったく、この世界の連中は手が込んでるぜ。俺たちが相手にしてきた悪党どもとは一味違う。でも、だからこそ我々がここにいる意味があるんじゃないのか?」
クリントの言葉には、皮肉めいた響きと共に、かすかな希望の色が混じっていた。
士郎は、拳を強く握りしめる。彼の目には、激しい葛藤の色が宿っていた。ライダーの行為を思い出し、胸の内で激しい怒りが渦巻いている。しかし同時に、セイバーへの信頼も揺るがない。
「確かに、非道な行いをするサーヴァントもいる。でも、全てを一緒くたにするのは間違っている。セイバーは...違う。彼女は、決して無辜の人々を傷つけたりしない」
「10年前の悲劇。あの業火の源を辿れば、結局のところ行き着く先は一つじゃないのか」
パニッシャーの言葉は、重い鎖のように空気を引き裂く。その声音には、怒りと共に、言い知れぬ悲しみが滲んでいる。10年前の大火災──その単語を聞いた士郎の瞳にも動揺が浮かんだ。
「あれだけの命が消えた。だが、誰かが責任を取ったという話は聞いたことがない。法の裁きなど、この世界では意味を持たないのか」
その問いかけは、まるで鋭い矢のように、在席する全員の胸に突き刺さる。魔術協会による隠蔽工作。その事実を知る者たちの表情が、一瞬にして曇る。
士郎の瞳に、かすかな動揺の色が浮かぶ。セイバーの唇が、わずかに震える。キャプテン・アメリカの顔には、複雑な陰影が落ちる。誰もが、パニッシャーの言葉の重みを感じ取っている。
静寂が、まるで永遠に続くかのように流れる。その沈黙の中に、それぞれの思いが交錯する。正義とは何か。責任とは何か。そして、彼らがこの地に立つ意味とは――。
パニッシャーの鋭利な視線は、聖杯戦争という名の闇を照らし出す。冬木の街に潜む、人知れぬ悲劇の数々。その残酷な真実は、まるで生々しい傷跡のように、この場にいる者たちの心に刻み込まれていく。
「この街の人間は、何も知らない」
パニッシャーの言葉は、重い鎖のように空気を引き裂く。その声音には、怒りと共に、言い知れぬ悲しみが滲んでいる。
「魔術の存在も、サーヴァントの存在も、聖杯戦争さえも。彼らは何も知らされていない。そんな無知な犠牲者たちが、どうやって身を守ればいい?」
その問いかけは、まるで鋭い矢のように、在席する全員の胸に突き刺さる。魔術協会による隠蔽工作。その事実を知る者たちの表情が、一瞬にして曇る。
パニッシャーの怒りは、まるで生き物のように蠢いている。それは彼自身をも飲み込みかねない、制御不能な炎となって燃え盛る。
「魂喰いの犠牲者たち。戦闘に巻き込まれた無辜の民。彼らは自分たちが何の犠牲になったのか、最後まで知ることもない」
その言葉は、聖杯戦争の非情さを浮き彫りにしていく。知らされることのない真実。対処する術もない脅威。そして、その全てを覆い隠す情報操作。その現実は、あまりにも残酷で、あまりにも理不尽だった。
パニッシャーの目に宿る怒りは、さらに激しさを増していく。それは単なる怒りを超えた、この世界への呪詛とも呼べるものだった。
「そして誰も、この不正を正そうとしない」
その言葉には、深い絶望が滲んでいた。パニッシャーの故郷には、アベンジャーズやX-MEN、スパイダーマンのような存在がいた。市井の人々に寄り添い、彼らを守るヒーローたち。しかし、この世界には、そんな存在は見当たらない。
「誰も立ち上がらない。誰も戦おうとしない。この街の人々は、ただ黙って犠牲になるしかないのか?」
パニッシャーの言葉は、まるで呪いの言葉のように、部屋中に響き渡る。その声には、怒りと共に、深い悲しみが込められていた。
士郎の瞳に、かすかな動揺の色が浮かぶ。セイバーの唇が、わずかに震える。キャプテン・アメリカの顔には、複雑な陰影が落ちる。誰もが、パニッシャーの言葉の重みを感じ取っている。
聖杯戦争。それは、魔術師たちの野望が生み出した、歪んだ儀式。その存在自体が、既に理不尽そのものだった。無辜の民を巻き込み、彼らの生命を踏み台にする。そんな残酷な現実が、この街には存在していた。パニッシャーの怒りは、その理不尽さ全てに向けられていた。それは、彼の正義感が生み出した、制御不能な炎だった。その炎は、彼自身をも焼き尽くしかねない勢いで燃え盛っている。
「俺たちの世界なら、こんな状況は許されない」
パニッシャーは自分の世界……多くのヒーロー達が奮闘する自分のいた世界の事を口に出した。
「ヒーローたちが立ち上がる。市民のために戦う。だが、ここには誰もいない。誰も、この狂った状況を止めようとしない」
その言葉には、深い失望と怒りが込められていた。
「お前は、ご主人様のお言葉なら何でも聞くんだろうな?」
パニッシャーは士郎の向こう側にいるセイバーに視線を向けて言い放った。
「令呪という魔法の言葉一つで、無垢な魂を踏みにじるのも朝飯前ってわけか」
その問いかけは、まるで毒を含んだ矢のように、セイバーの胸に突き刺さる。セイバーの唇が、かすかに震える。その瞳には、複雑な感情が交錯している。
「そ、それは違います。私は決して...」
セイバーの言葉は、震える声と共に途切れる。しかし、その反論は、パニッシャーの怒りをさらに煽り立てる結果となった。
パニッシャーの体から発せられる殺気が、まるで実体化したかのように部屋中に満ち溢れる。その圧倒的な存在感に、誰もが息をのむ。
突如として、パニッシャーが動く。その動きは、まるで獲物に飛びかかる猛獣のように素早く、容赦ない。士郎を押しのけ、セイバーの前に立つ。
「やめろフランク!」
クリントの制止の声が響く。しかし、それすらも届かないかのように、パニッシャーの手がセイバーの胸倉を掴む。
「綺麗事並べて、どこまで自分を正当化する気だ?」
パニッシャーの怒号が、部屋中に響き渡る。その声には、これまで積み重ねてきた怒りと憎しみのすべてが込められているようだった。セイバーの背中が、壁に強く押し付けられる。その衝撃に、彼女の体が小さく震える。しかし、セイバーの目には恐れではなく、悲しみの色が浮かんでいた。
「私は...決して無辜の人々を傷つけるような...」
セイバーの言葉は、震える唇から漏れ出る。その声には、自らの信念を貫こうとする強さと、現実との葛藤が滲んでいた。
緊張が頂点に達した瞬間、時間が止まったかのような静寂が訪れる。パニッシャーの右腕が、怒りの具現化のように宙を切り裂く。その拳には、この世界への呪詛とも呼べるほどの怒りが込められていた。
しかし、その一撃は目的地に到達することはなかった。
閃光が走り、まるで幻影のように現れた赤い外套の男が、パニッシャーの腕を掴む。アーチャーの出現は、まるで時空を歪めるかのように唐突だった。その姿は、霊体から実体へと変化し、凛とした佇まいで場に立っていた。
部屋中の空気が、一瞬にして凍りつく。士郎、凛、キャプテン・アメリカ、クリントの動きも、アーチャーの介入によって止まった。誰もが、この予想外の展開に息を呑む。アーチャーの目には、複雑な感情が交錯していた。それは理解と同情、そして何か言い知れぬ悲しみのようなものだった。彼は静かに首を横に振る。その仕草には、この状況全体への諦念のようなものが滲んでいた。
「もういい加減にしたらどうだ」
アーチャーの声は、低く、しかし確かな意志を秘めていた。その言葉には、皮肉めいた響きと共に、不思議な説得力があった。
「君の怒りも、その正義感も分かる。だが、それを彼女にぶつけたところで何も変わりはしない」
アーチャーの言葉はパニッシャーの怒りの殻を切り裂いていく。その眼差しには、この世界の理不尽さを知り尽くした者特有の冷めた諦観が宿っている。部屋中の空気が、徐々に変化していく。パニッシャーの怒りの炎が、少しずつ収まっていくのが感じられた。セイバーの目には、複雑な感情が浮かんでいる。安堵と共に何か言い表せない後悔のようなものが見て取れた。
アーチャーの介入は、この場の空気を一変させた。それは単なる物理的な阻止ではなく、この状況全体に対する新たな視点を提示するものだった。彼の存在が、パニッシャーの怒りとセイバーの悲しみの間に、一筋の光明を差し込んだかのようだった。しかし、その光明が真の解決をもたらすのか、それともまた新たな闇を生み出すのか。その答えは、まだ誰にも分からない。ただ、この瞬間、彼らは新たな局面に立たされたのは確かだった。
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衛宮邸の和室に、静寂が優しく降り立つ。障子越しに漏れる月明かりが、立香の寝顔を柔らかく照らしている。その光景は、まるで時が止まったかのような穏やかさを湛えていた。士郎と凛は、立香の寝顔を覗き込んでいる。二人の表情には、複雑な感情が交錯していた。それは同情であり、哀れみであり、そして言葉にならない温かさだった。
立香の寝顔は、安らかそうでいて、どこか儚さを感じさせる。その小さな身体は、これまでの苦難を物語るかのように、布団の中で小さく丸まっていた。
「遠坂、立香って...お前に似てるな」
士郎の言葉は、静寂を優しく破る。その声音には、不思議な温かさが滲んでいた。
凛は、その言葉に思わず顔を赤らめる。彼女の瞳には、困惑と共に、何か言い表せない感情が浮かんでいた。
「な、何言ってるのよ。わたしとは全然...」
凛の反論は、まるで自分自身に言い聞かせるかのように、小さく震えていた。しかし、その言葉の裏には、立香への不思議な親近感が隠されているようだった。
二人の会話が途切れた瞬間、立香の小さな寝言が聞こえてきた。
「父さん...母さん...お姉ちゃん...」
その言葉は、まるで失われた日々を取り戻そうとする祈りのようだった。立香の声には、深い悲しみと、どこか切ない希望が混ざっていた。
その寝言を聞いた士郎の表情が、一瞬にして柔らかくなる。彼の目には、立香への深い共感の色が浮かんでいた。士郎は、そっと手を伸ばし、立香の頭を優しく撫でる。その仕草には、言葉では表現できない温かさがあった。それは、同じ喪失を経験した者だけが持つ特別な思いやりだった。
パニッシャーさんの怒りは分かるけど、アルトリアに怒りをぶつけるのは違うような……(つってもアルトリアだって承知の上で聖杯戦争に参加しているわけだし、原作でも自分の信念に反する命令なら令呪を使いなさいって士郎に言ってるし)。
実際聖杯戦争って民間人には理不尽な儀式だし、一般人は魔術の存在なんて知らないし知る事もできないっていう世界観が更に理不尽ぶり拍車をかけてる気が。当事者である士郎や戦争の参加者である凛、サーヴァントであるセイバーやアーチャー、理不尽さの被害者である桜でもなく完全な部外者であるパニッシャーさんが1番怒っているという……。
教会の地下編はもうすぐだけど、今から怖くなってきた……