アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
キャップの首を掴んでいたランサーはアーチャーの攻撃に気付いて即座に応戦した。ランサーの手から解放されたキャップはその場に蹲るが、直ぐに起き上がり、目の前で繰り広げられるアーチャーとランサーの剣戟を見守る。サーヴァント同士の攻防の余波で、廊下の窓や壁が破壊されていく中、キャップは自分の命を狙う敵を前にして尚冷静さを保っていた。今ランサーはアーチャーとの戦いに集中しており、キャップやホークアイには構っていられないようだ。そこにブラックウィドゥがキャップに駆け寄る。
「キャップ、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。それよりシロウは?」
「あの子なら私が逃がしたわ。今頃学校から結構離れていると思うけど…」
キャップとホークアイがランサーと戦っている間に、ブラックウィドゥは士郎を逃がしていたのだ。そしてキャップはアーチャーと攻防を繰り広げるランサーの方に目を向ける。
「キャップ、あの槍野郎が双剣野郎と戦っている間にズラかろうぜ?正直俺等だけじゃあの槍野郎に勝つのは難しい」
そう、あくまでも自分達の最優先事項は衛宮士郎を守る事であり、ランサーを倒す事ではない。ホークアイの言葉を聞いたキャップは立ち上がり、学校から退散する事にした。が、後ろから鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえてきた。
「あ、アンタ達誰…!?」
振り返るとそこには凛がいた。凛はキャップ、ホークアイ、ブラックウィドゥの3人を見て動揺しているようだった。が、マスクを被っているキャップはまだしも、サングラスだけのクリントや、素顔で戦っているブラックウィドゥは直ぐに凛に正体がバレてしまう。
「ば、バートン先生とロマノヴァ先生!?貴方達がどうしてこんな所に…!?…あ!という事はそこのマスクの人は…」
「そうだよリン。私だ、ロジャースだ」
「やっぱりロジャース先生だったのね!!聖杯戦争に首を突っ込むなんて馬鹿なの!?」
凛はキャップの正体がスティーブだと知って驚くと同時に、スティーブに対して怒鳴る。
「それはこっちの台詞だ。リン、君はやはり聖杯戦争の参加者だったのか…」
「聖杯戦争について色々と知っているようだけど、魔術師でもない先生達が関わっていい事じゃないのよ!これ以上深入りするようなら、今ここで殺してもいいのよ!」
凛は懐から宝石を取り出すと、宝石を持った手をスティーブ達に向ける。
「リン、貴女は人を殺せるほど冷酷な人間ではない筈よ?まずは落ち着いて話し合いましょう?」
「うるさい!私は魔術師なのよ!魔術師である以上、目的の為には手段を選ばないし、邪魔者は容赦なく殺す!アンタ等みたいなコスプレ集団に指図される筋合いは無いわよ!」
「……!」
凛の表情を見て、キャップは彼女が本気である事に気付く。
「おい、キャップ。どうやらこの嬢ちゃんはマジでやる気だぞ?」
「……仕方がない。今は彼女と戦うしかないようだな」
「えぇ、そうみたいね」
キャップとホークアイは凛と向かい合う。
「二人とも下がっていて。ここは私がやる」
そう言うとブラックウィドゥは素早い動きで凛との距離を詰め、蹴りで凛が持っていた宝石を叩き落とした。そして凛に組み付くと、特殊部隊仕込みの格闘技術で凛を床に投げ、間髪入れずに寝技に移行して関節技をかける。凛はブラックウィドゥによって腕を固められている状態だ。
「は、放しなさいよ…!くっ!」
凛は拘束から逃れようともがくが、ブラックウィドゥの関節技は伊達ではなく、身じろぎ一つできない状態だった。凛は自分を見下ろしているキャップとホークアイを睨む。
「聖杯戦争に関わろうだなんてアンタ達は大馬鹿よ!そんな事をすれば死ぬ事になるのに!!」
「リン……」
凛の言葉を聞いてホークアイもキャップと同じく何も言えなかった。凛は続けて叫ぶ。
「それに、アンタ達のやろうとしている事は正義でも何でもないわ!ただのお節介よ!偽善者よ!自己満足で人助けをしているつもりかしらないけど、それが余計なお世話だって言っているのよ!!」
凛は苛ついた様子でキャップ達に叫んでいる。確かにキャップ、ホークアイ、ブラックウィドゥは聖杯戦争とは何の関係もない部外者ではあるが、先程ランサーがアーチャーとの戦闘を中断してまで士郎を校舎まで追跡し、躊躇なく士郎を殺そうとしたのを見る限り、目撃した人間は容赦なく抹殺されるようだ。戦いを目撃しただけの士郎に殺されそうになるだけの落ち度があったと言うのだろうか?
「リン、君も校庭での戦いを目撃したシロウが校舎に逃げていくのを見ただろう?ランサーはシロウを追いかけ、私は彼の命を救った。後少し遅ければ確実に彼はランサーに殺されていただろう」
「え…?あの逃げていた男子生徒は衛宮くんだったの…!?」
凛は驚いた様子でキャップの話に耳を傾ける。
「彼は君の知り合いだったのか?ともあれ、同じ学校の生徒であるシロウはもう少しでランサーに殺されそうだったんだ。聖杯戦争では目撃した人間は消すというルールでもあるのか?」
キャップは床で関節技を掛けられて動けずにいる凛を睨む。
「それがルールなのよ…。魔術師やサーヴァント同士の戦いは一般の人間に知られたらいけないからね。だから目撃者がいればその人物は消さないといけない決まりがあるの。本来なら聖杯戦争とは何の関係もないアンタ達だって消されてもおかしくないのよ?」
「おいおい、そりゃお前等魔術師の都合だろうが。勝手に自分達で戦って、それを見られただけで目撃者殺すとかヴィランと変わらねぇぜ?」
ホークアイは聖杯戦争のルールに眉を潜める。
「うっさいわね!部外者のアンタ達には関係ないでしょうが!最も、ヒーロー気取りで聖杯戦争に介入しようとするお馬鹿さん達に言っても無駄でしょうけどね」
凛は思いっきり馬鹿にしたような表情でホークアイに言う。
「確かに俺達は聖杯戦争とは無関係な部外者だが、それでも無関係の人間が殺されるのを黙って見ているわけにはいかないんだよ」
「それがヒーロー気取りだって言ってんのよ、何様のつもり?」
凛はホークアイを睨みながら言う。魔術師であり、聖杯を巡って戦いを繰り広げる聖杯戦争に、キャップやホークアイのような外からの部外者が介入すれば、凛だとて面白くはないだろう。凛にとってキャップ達はせっかく自分の魔術師としての実力を示す舞台を台無しにしてくる不届きな輩という認識である。
「そんなクソダサなコスチューム着て、聖杯戦争に関わってくるイタいヒーロー気取りのアンタ達には聖杯戦争がどれだけ私達魔術師にとって重要なのか理解できないでしょうね」
「オイ!さっきから聞いてりゃ馬鹿にすんのもいい加減にしやがれ!」
ホークアイは余りの凛の態度の悪さに激怒している。
「アンタ達がどんな格好をしようと勝手だけど、いい迷惑なのよね。こっちの事情も知らない癖にズカズカ入って来て、好き放題言いまくってくれちゃって」
「リン、なら聖杯戦争というのは冬木市民の許可を取って行われている戦いなのか?勝手に自分達の街でサーヴァントや魔術師が戦って、挙句にその戦いを目撃した人間は魔術師側の都合で消される…。そっちこそ冬木の住む人達の事情も考えずに戦いをしているんではないか?」
キャップは凛の主張に対して真っ向から反論した。
「許可なんて取ってるわけないでしょ!そんな事をすれば神秘の秘匿に反するじゃない!!聖杯戦争は本来魔術協会と聖堂教会が主催していて、マスターとなる資格を与えられた魔術師だけが参加できるのよ。そんなわけで部外者のアンタ達の出る幕じゃないのよ、分かったかしら?」
凛は尚も馬鹿にしたような笑みを浮かべてキャップに吐き捨てる。余程神経が図太いのか、それとも単に鈍感なだけか、凛は自分の主張が正論であると信じて疑わないようだ。
「君の主張は分かった。なら猶更私達の出番という事になるな。君達魔術師にとっては街の市民が戦いに巻き込まれようが関係ないのだろう?だからこそ私達アベンジャーズが介入するべきなのさ」
「そういうわけだぜリン。俺達は人々の為に戦う『ヒーロー』だからな。もしお前さんがさっきのシロウみたいに、戦いを見ただけの一般人を消そうなんてした時は、然るべき対処をさせてもらうぜ?」
「バッカじゃないの!何がヒーローよ、ただのコスプレ集団じゃない!!」
凛は怒っているようで、顔を赤くしながら怒鳴った。
「まぁ、確かにこの格好じゃあ説得力ないか」
「…………」
凛の言葉を聞いて苦笑いをするホークアイに対し、無言になるキャップ。
「ともかく、アンタ達が聖杯戦争に関わりたいっていうのならば止めはしないわ。せいぜいがんばる事ね」
キャップとホークアイは後ろを向くと、いつの間にかアーチャーが立っていた。
「アーチャー、ランサーはどうしたの?」
「逃げられたよ。生憎と私の脚では奴には追い付けん。所でこの連中は?」
アーチャーはキャップ、ホークアイ、ブラックウィドゥを見回しながら言う。
「ヒーロー気取りの痛い連中よ。聖杯戦争に関わってくる大馬鹿トリオって言った方が正しいかしらね?」
「とりあえず私のマスターを解放してもらおうか?これ以上拘束するようなら、君達を殺さなければいけない」
アーチャーは凛に関節技をかけて拘束しているブラックウィドゥに剣の切っ先を突きつけながら言う。サーヴァントであるアーチャーとの戦闘力の差を考え、仕方なくブラックウィドゥは凛を解放した。
「あ~、痛かった。もうちょっと優しく扱えないのアンタは」
凛は解放された途端文句を言い始めた。
「貴女が私達を攻撃しようとするからじゃない」
ブラックウィドゥは凛の文句に対してツッコミを入れる。そんな彼女の言葉に対して凛は「フンッ」と鼻を鳴らしながらそっぽを向いてしまう。
「リン、聖杯戦争が起きれば多くの人達が傷つき、命を落とすかもしれん。本当に君はそれでいいのか?」
「うっさいわね!そんなの聖杯戦争を行う上で仕方のない事なのよ!私だってそれを承知で参加したんだから!!」
凛はキャップの問いかけに対して怒りを露にする。
「私達魔術師の都合も考えないで、自分達の都合や正義を押し付ける…。そういうやり方ってアンタが着てるそのコスチュームに合ってるわね」
凛は星条旗をモチーフにしたコスチュームを着ているキャップに対して挑発的な言動を行う。その言葉を聞いたキャップは眉をひそめ、険しい表情になった。
「私はアメリカの掲げる自由・平等・博愛の精神の為に戦うんだ」
「それが余計なお世話だって言ってんでしょ!!アンタ達のやってる事は結局只の自己満足じゃない!!」
「……」
凛の罵声に無言を貫くキャップ。
「もういい、これ以上アンタ達に関わるとこっちにまで馬鹿が移りそう。今この場で私とアーチャーに殺されないだけ感謝しなさいよね」
そう言うと凛はアーチャーと共に去って行く。
「そこどきなさいよ、邪魔」
凛は不機嫌な顔をしつつ去り際にキャップの肩にわざとぶつかると、そのまま廊下の先に消えて行った。取り残されたキャップ、ホークアイ、ブラックウィドゥは凛の姿が消えたのを確認すると、胸をなでおろした。凛がもしアーチャーをけしかけてきたら、キャップ達では歯が立たなかっただろう。
「ちくしょう…あのガキ、言いたい放題言いやがって!」
クリントは凛に対して怒りを露わにする。
不幸にも聖杯戦争の戦いに巻き込まれる一般市民達は自分達がどのような状況に置かれているのかを知る事はない。自分達が酷い目に遭ったとしてもその真実を知る事もない。全ては「神秘の秘匿」という大義名分の元、魔術師によって真実は闇の中へと葬られる。参加者同士の戦いに巻き込まれで死んだとしてもその原因は「ガス漏れ」などという実に下らない事実に捻じ曲げられるのだから。普通の人間が持つ倫理観やモラルを一切持ちえない人でなし…この世界における"魔術師"という者達がそうだ。
聖杯戦争において街で暮らす者達を戦いに巻き込んだとしても良心の呵責は生まれない。既にスティーブ・ロジャース…キャプテン・アメリカの心は決まっていた。何を迷う必要がある。自分達の持つ"矜持"を思い出せ。自分達が誇りとする"使命"を思い出せ。自分達がやるべき事を思い出せ。
「…この街に住む市民には"救いの手"が必要だ」
その言葉を聞いたナターシャとクリントの口元が緩む。そうだ、自分達は何者であるかを今一度考えた。魔術師…英霊…魔術協会…聖堂協会…この冬木の街に住む人々にとっての"味方"は何処にもいない。人々の命と安全を気に掛ける存在などいない。だからこそ自分達がいるのだ。今こそ人々の為に立ち上がらなければならない。
「誰も救わないのなら…救う者がいないのなら…"我々"が救うまで…私達は…"アベンジャーズ"だ!!」
「キャップならそう言うと思ってたぜ」
「えぇ、私も同感」
「それじゃホークアイ、ブラックウィドゥ、シロウの家まで行くぞ。あのランサーはシロウの命をまた狙ってくるだろう。聖杯戦争を目撃した一般人が口封じに消されるのであればシロウが危ない…!」
キャップ、ホークアイ、ブラックウィドゥは大急ぎで士郎が住む家へと向かった。
凛の態度が悪い理由としてはそもそもキャップ達は魔術師でも聖杯戦争の参加者でもなく、魔術師同士の戦いである聖杯戦争に首を突っ込んでくるからですね。魔術師にとっての一大イベントである聖杯戦争に介入して文句言ってくるヒーロー気取りのコスプレ集団(凛視点)であれば仲良くする義理なんて無いし、凛の態度が悪くなるのも当然っちゃ当然なんですが…(;^_^A
それでもキャップ達を始末しない辺り、お人良しというか情があるというか。