アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
衛宮邸の玄関に、疲れ切った様子の士郎たちが帰ってきた。その姿を見た凛の目が、驚きで大きく見開かれる。キャプテン・アメリカのコスチュームに身を包んだスティーブと、甲冑を纏ったセイバーの姿が、まるで非現実的な光景を作り出していた。
「まさか、そのまま帰ってきたんですか!?ロジャース先生!」
凛の声が、思わず裏返る。士郎は、肩を落としながらリビングのソファに腰を下ろす。
「実は...藤ねえが人質に取られてたんだ」
その言葉に、凛の表情が一変する。更に続く説明に、彼女の顔から徐々に血の気が引いていく。
「それで、レスターってヴィランのダーツで、一度...死にかけた」
士郎の言葉が、重く響く。しかし、セイバーが駆け寄った瞬間から傷が回復し始め、奇跡的に一命を取り留めたという説明に、凛は深いため息をつく。
「ちょっと待って...整理させて」
凛は、テーブルに肘をつきながら、片手で頭を抱える。その仕草は、まるで難解な数学の問題に直面した学生のようだった。
「つまり、街中でキャプテン・アメリカのコスチュームと、西洋甲冑を着た少女が走り回って...」
彼女の声が途切れる。魔術協会の隠蔽工作にも限界がある。これは明らかにその限界を超えていた。
「あー...もしかして、アニメの撮影とか...」
凛の苦し紛れの提案に、ウルヴァリンが鼻で笑う。
「そんな安っぽい言い訳が通用すると思うか?」
その言葉に、凛は更に深く頭を抱える。彼女の脳内では、様々な言い訳のパターンが高速で処理されていた。
「コスプレ...コスプレイベント...そう!街中ロケだって説明できるはず...」
凛の独り言は、次第に自分を納得させようとする呟きに変わっていく。スティーブは、そんな彼女の様子を申し訳なさそうに見つめている。
「リン、すまない。緊急事態だったんだ」
その言葉に、凛は諦めたように肩を落とす。
「分かってます。でも...ね?」
凛の表情が、まるで壊れたコンピュータのように固まる。協会への報告書を書く際の言い訳を考えただけでも、胃が痛くなりそうだった。
「神秘の秘匿...秘匿...」
その言葉を呪文のように繰り返す凛の姿に、士郎は申し訳なさそうな表情を浮かべる。セイバーは依然として甲冑姿のまま、状況を静観している。
突如として、立香の声が響く。
「わぁ!セイバーお姉ちゃん、かっこいい!」
その純粋な感想に、凛の表情が更に崩れる。単なるコスプレで済ませられる範囲を、明らかに超えていた。魔術師としての彼女の常識が、音を立てて崩れていくのが聞こえるようだった。
「藤ねえへの説明は...大変だったよ」
士郎の疲れた声が、リビングに響く。凛は、その言葉を聞いて立ち上がると、士郎の袖を引っ張った。
「衛宮くん、ちょっと来て」
凛の声には、切迫した色が混じっていた。二人は階段を上り、凛の部屋へと向かう。扉を閉めた瞬間、凛の表情が一変する。
「整理しましょう。レスターという男が藤村先生を人質に取った。でも、なぜ彼女を?」
凛の問いかけに、士郎は首を振る。彼の目には、まだ事態を完全には把握しきれていない困惑が浮かんでいた。
「分からない。俺に会いたがっていたみたいだけど...」
士郎の言葉が途切れる。その瞬間の記憶は、まるで霧の向こうにあるかのようにぼんやりとしていた。
「それに...衛宮くん、あなたが復活できた理由も気になるわ」
凛の声には、魔術師としての鋭い直感が込められていた。彼女の瞳が、士郎をじっと見つめる。
「セイバーが近づいた時から、傷が治り始めたんだ」
その説明に、凛は深く考え込む。彼女の頭の中で、様々な可能性が巡っていく。しかし、それ以上に彼女を悩ませていたのは別の問題だった。
「このままじゃ、冬木の人たちに魔術の存在がバレかねないわ」
凛の声には、明らかな危機感が滲んでいた。彼女の表情が、徐々に暗くなっていく。
「遠坂...」
士郎の声が、静かに響く。彼の目には、何か決意のようなものが宿っていた。
「俺、言峰に会いたい」
その言葉に、凛の動きが止まる。彼女の目に、驚きの色が浮かぶ。
「綺礼に?どうして?」
士郎は、窓の外を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「親父のことを...切嗣のことを、もっと知りたいんだ。第四次聖杯戦争のことも含めて」
その言葉に込められた想いに、凛は黙って耳を傾ける。士郎の瞳には、養父への複雑な感情が映し出されていた。
「綺礼には気をつけて。あの男、いつも人を試そうとするから」
凛の声には、後見人に対する複雑な感情が込められていた。その警告に、士郎は静かに頷く。
「でも...ロジャース先生たちには内緒にした方がいいわね」
凛は、窓の外を見やりながら言葉を続ける。午後の陽光が、まだ強く地上を照らしていた。
「どうして?セイバーにも黙っておくべきなのか?」
士郎の問いかけに、凛は腕を組んで考え込む。彼女の表情には、魔術師としての慎重さが浮かんでいた。
「教会は聖杯戦争における安全地帯。でも、ロジャース先生たちはイレギュラーな存在よ。この世界の人間ですらないわ」
凛の説明に、士郎の目が僅かに見開かれる。確かに、アベンジャーズの存在は、魔術世界の常識を大きく逸脱していた。
「綺礼が彼らの存在を知ったら...想像したくもないわ。わたしたちの身にも危険が及びかねない」
その言葉には、明確な危機感が込められていた。士郎も初めて出会った時から言峰綺礼という男の異質さを感じ取っていた。
「それに、協会から執行者が派遣されるのだけは勘弁。そうなったら、本当に手に負えなくなるわ」
凛のため息が、部屋の空気を揺らす。執行者の存在は、彼女にとって最悪のシナリオだった。
「レスターの襲撃も考えられる。だから、わたしも一緒に行くわ。少なくとも、身を守る程度の魔術なら使えるし」
凛の提案に、士郎は感謝の色を浮かべる。彼女の存在は、確かな心強さを感じさせた。
「今日中に行きたいわね。まだ日も高いし」
窓の外では、夕暮れまでにはまだ時間があった。凛は、その時間を見計らうように腕時計を確認する。
「出かけると言えば、買い物に行くってことにしましょう。そうすれば、あまり怪しまれないはず」
その提案には、魔術師としての狡知が感じられた。しかし、それは現状では最善の選択だった。
二人の間に、短い沈黙が流れる。これから向かう冬木教会で、どんな真実が明かされるのか。それは誰にも分からない。ただ、その場所で士郎は、自分の養父について、そして第四次聖杯戦争について、新たな事実を知ることになるのかもしれない。部屋の空気が、さらに重くなっていく。それは、まるで未知の領域に足を踏み入れる前の緊張感のようだった。
冬の寒風が、新都郊外の丘を吹き抜けていく。士郎と凛は、その風に身を縮めながら、静かに坂道を登っていた。夕暮れ前の空は、まだ明るさを保っているものの、既に冷たい空気が二人を包み込んでいた。
「本当にロジャース先生たちには内緒で良かったのか?」
士郎の声が、風に乗って消えていく。彼の言葉には、まだ迷いが残っていた。
凛は、マフラーで口元を覆いながら、ため息をつく。その息が白い霧となって、冷たい空気の中に溶けていく。
「これでいいの。ロジャース先生やバートン先生が綺礼と会えば...」
凛の言葉が一瞬途切れる。彼女の頭の中で、その最悪のシナリオが展開される。正義の味方であるアベンジャーズと、聖杯戦争の監督役である言峰綺礼。その二つの存在が交わることは、明らかな災厄を予感させた。
「火薬庫でタバコを吸うようなものよ。特にロジャース先生は、聖杯戦争のことを絶対に黙っていない」
その比喩に、士郎は無言で頷く。確かに、キャプテン・アメリカの正義感は、この非道な儀式を決して認めないだろう。
坂道を登り切ったところで、二人の前に教会の姿が現れる。その立派な外観は、夕暮れ前の光を受けて、どこか不気味な威厳を放っていた。
古い石造りの建物は、まるでこの世界とは違う場所から持ち込まれたかのような異質さを醸し出している。それは、魔術世界の存在を象徴するかのような、重々しい存在感だった。士郎は、その建物を見上げながら、喉の奥が乾くのを感じていた。切嗣の過去、そして第四次聖杯戦争の真実。それらが、この建物の中に眠っているのかもしれない。その予感が、彼の心を静かに揺さぶっていた。
ここまで長かった……。ついに自分の一番描きたい展開が来てしまった。