アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです   作:ドレッジキング

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言峰……越えちゃいけないラインあるの知ってるか?


第61話 地下の子供たち

魔術で強化された感覚でさえ、その闇の深さを測りかねる。二人は、まるで深海に沈んでいくかのような感覚に包まれながら、扉の向こう側へと足を踏み入れた。

 

床を踏む感触が、あまりにも異質だった。粘りつくような、生きた何かを踏みにじるような感覚。それは士郎の記憶の中の、プールの水苔を掃除した時の感触に似ていながら、どこか決定的に違っていた。もっと生々しく、もっと忌まわしい何かを想起させる触感。

 

「この匂い...」

 

凛の声が、震えていた。その碧眼が、暗闇の中で不自然なほど大きく見開かれている。鼻を突く強烈な薬品臭。それは単なる消毒液の匂いではなく、何か不浄なものを覆い隠そうとする、人為的な匂いだった。

 

ホルマリンの強烈な臭気が、まるで目に見える実体を持つかのように、空間を満たしている。それは単なる防腐処理のためではない。何か、もっと恐ろしい目的のために使用されているような気配があった。

 

士郎の心臓が、制御不能なまでに激しく鼓動を打つ。その音が、彼の耳の中で轟音となって響く。全身の血管が、今にも破裂しそうなほどに脈打っている。それは単なる恐怖ではない。魔術師としての直感が、この場所の異常性を警告していた。

 

そして、最も恐ろしい瞬間が訪れる。暗闇に目が慣れ始めたのだ。まるで地獄の幕が上がるかのように、ゆっくりと、しかし確実に、その光景が二人の網膜に焼き付いていく。

 

「ああ...」

 

凛の悲鳴が、虚ろに響く。彼女の碧眼に映る光景は、後見人である言峰への信頼すら粉々に砕くものだった。

 

それは、死の陳列室とでも呼ぶべき光景。しかし、それ以上に恐ろしいのは、その「死体」が、厳密には死体ではないという事実。朽ち果てた人体が、まるで標本のように壁一面に配置されている。しかし、その一つ一つが、かすかに生命の気配を漂わせていた。

 

形を失った肉体。壁に溶け込んだような上半身。床に打ち付けられ、虫の巣と化した下半身。それらは全て、人の姿を止めているとは言い難いほどに歪んでいた。しかし、確かに生きていた。

 

「生きている...どうして」

 

士郎の声が、震える。その問いは、この忌まわしい状況への抗議でもあった。目の前の光景が、彼の理性を少しずつ削り取っていく。

 

黒く禍々しい棺が、その原因だった。死体は、まるで植物の根のように棺に繋がれ、その生命力を吸い上げられている。永遠に死ねない生贄として、この地下室に封じ込められているのだ。

 

凛の表情が、凍りついたように硬直する。彼女の碧眼に、言い知れぬ恐怖と嫌悪が浮かぶ。後見人である言峰への不信感が、この瞬間、確固たるものとなった。

 

「綺礼...あなた、一体何を」

 

その言葉が、うわずった声で投げかけられる。しかし、返答はない。ただ、どこかで水滴が落ちる音だけが、この地獄のような空間に響いていた。それは、まるでこの忌まわしい儀式を見守る、時を刻む音のようでもあった。

 

黒い棺から、命が流れ出ていく。それは魔力と呼ぶには生々しく、魂と呼ぶにはあまりに機械的な何か。永遠の寄生関係。生かさず殺さず、ただ命の灯火を細々と保ち続けるという、残虐な均衡が保たれていた。

 

凛の碧眼が、恐怖に見開かれる。彼女の指先が、制御不能なほど震えていた。後見人である言峰への怒りと、この光景への戦慄が、彼女の全身を支配していく。

 

「こんな場所が...教会の下に」

 

その声は、かすかに上ずっていた。魔術師としての冷静さを保とうとする意志と、人としての感情が、激しく衝突している。

 

死体たちは泣いていた。それは人の声とは呼べない、蚊の鳴くような悲鳴だった。彼らの喉は、もはや声を出すための器官ではない。ただ生きるための、最低限の機能を保持した管でしかない。それでも、彼らは叫び続ける。自らの存在が少しずつ溶解していく恐怖と、終わりの見えない苦痛への抗議を。

 

突如として、不穏な音が響く。前方の棺が、まるで生き物のように喘ぐ。その中の存在が、ゆっくりと首を動かす。腐敗の進んだ組織から、粘液めいた何かがしたたり落ちる。

 

「衛宮くん...!」

 

凛の警告の声が響く。しかし遅すぎた。その存在は、既に士郎を見つめていた。ふやけた唇が、かすかに動く。そこから漏れ出る言葉は、声ではなく、魂の振動とでも呼ぶべきものだった。

 

「ここは...どこ...」

 

その問いかけに、士郎の心が凍る。それは痛みへの悲鳴でも、救いを求める懇願でもない。ただ純粋な疑問。なぜ自分がこんな場所にいるのか、その理由を問うているだけだった。

 

その瞬間、士郎の中で何かが共鳴する。見たこともない顔なのに、どこか見覚えがある。知るはずのない存在なのに、懐かしさすら覚える。まるで、彼らが士郎を知っているかのように。いや、士郎が彼らを知っているかのように。

 

「士郎...何を見てるの?」

 

凛の声が、不安げに響く。彼女の碧眼は、士郎の異変を鋭く捉えていた。その表情には、この状況への恐怖と共に、彼への深い懸念が浮かんでいる。

 

死体たちは、みな同年代の子供たちだった。その共通点に気付いた時、士郎の背筋を激しい悪寒が走る。これは偶然なのか、それとも意図的なものなのか。その答えは、闇の中に沈黙したまま横たわっている。

 

「遠坂...俺、この子たちを」

 

士郎の声が震える。記憶の底に沈んでいた何かが、徐々に浮かび上がってくる。しかし、それを直視する勇気が、まだ彼にはない。あまりにも恐ろしい真実が、その記憶の中に潜んでいるような予感がしたからだ。凛は、黙って士郎の腕を掴む。その掌から、かすかな温もりが伝わってくる。それは、この地獄のような空間で、唯一の人間らしい感触だった。しかし、その温もりさえも、周囲の死の気配に飲み込まれそうになっている。

 

「よく来てくれた、衛宮士郎」

 

突如として響く声に、二人の背筋が凍る。その声音には、この忌まわしい光景とは不釣り合いな、親しみが込められていた。暗がりの中から、言峰綺礼の姿が浮かび上がる。

 

「まさか凛まで一緒とは。これは予想外だったな」

 

神父の唇が、不敵な笑みを形作る。その目には、この状況を心から愉しんでいるような光が宿っていた。

 

「綺礼...これは一体」

 

凛の声が、震えている。その碧眼には、後見人への激しい怒りと、同時に言い知れぬ恐怖が宿っていた。この瞬間、彼女の中で、言峰への信頼が完全に崩壊していく。

 

神父は、ゆっくりと二人の前に歩み出る。その姿は、まるでこの地下室の闇そのものが実体化したかのようだった。彼の表情には、この凄惨な光景を前にしても、何の感情の揺らぎも見られない。

 

「申し訳ない。そろそろ衛宮士郎が来る頃だと思ってな。もてなしの準備をしていたところだ。前回はろくな接待もできなかったからね」

 

その言葉には、まるで日常的な会話をしているかのような軽やかさが込められていた。しかし、その不自然さこそが、より一層の不気味さを醸し出している。

 

「しかし、不法侵入とは感心しないな。見てはいけないものを見てしまう。例えば...」

 

言峰の視線が、じっと士郎を捉える。その目には、何か底知れぬ悪意が潜んでいた。

 

「お互いの関係を、白紙に戻さざるを得なくなるような真実とか」

 

士郎の全身が震える。それは恐怖というより、むしろ激しい嫌悪感だった。目の前の存在が、人としての仮面を脱ぎ捨て、その本質を露わにしていく。

 

「やめて、綺礼!」

 

凛の叫びが、闇を切り裂く。彼女の碧眼には、怒りの炎が燃えていた。しかし、言峰はその反応をさらに愉しむかのように、薄く笑みを深める。

 

「なぜそう怒るのだ、凛。これはただの再会の場に過ぎないのだよ」

 

神父の声が、不気味に響く。その言葉の一つ一つが、毒を含んだ刃のように、二人の心を抉っていく。

 

「見たまえ、衛宮士郎。この子たちは、君の兄弟とも言えるのだ。同じ地獄を生き延びた者同士、血のつながりはなくとも、その絆は─」

 

「黙れ!」

 

士郎の絶叫が、地下室に木霊する。その叫びには、全ての理不尽への抗議が込められていた。しかし、言峰の表情は一層愉しげになるばかり。彼にとって、この状況こそが、最高の娯楽なのだ。凛は、士郎の腕を強く掴む。その手に込められた力が、彼女の動揺を物語っていた。言峰の言葉が意味するもの。それは、十年前の大火災に繋がる、何か恐ろしい真実の存在を示唆していた。

 

その瞬間、士郎の脳裏に全てが蘇る。見覚えがあると感じた理由。それは、十年前の病室で共に過ごした子供たちの面影だった。大火災で全てを失い、この教会に預けられた魂たち。その悲劇は、ここで更なる深淵へと転がり落ちていたのだ。凛の碧眼が、激しい怒りに燃え上がる。彼女の唇が、震えている。後見人である言峰の残虐性を、これほど露骨な形で突きつけられるとは思ってもいなかった。

 

「それにしても不思議なものだ。同じ病室で過ごした仲間たちと、一度も再会することがなかったとは」

 

言峰の声には、残虐な愉悦が滲んでいた。その言葉の一つ一つが、毒を含んだ刃となって二人の心を抉る。

 

「綺礼...あなた、まさか」

 

凛の声が震える。彼女の中で、最後の信頼の糸が音を立てて切れていく。

 

神父は、死体の並ぶ棺を愛おしげに眺めながら、ゆっくりと語り始める。それは、人間性を完全に喪失した者だけが語れる、おぞましい真実だった。

 

「彼らには引き取り手が見つからなかった。そう、誰一人として。この世界から完全に見放された魂たち。ならば、彼らにも新たな存在意義を与えてやるべきではないかと考えたのだ」

 

言峰の笑みが、より深く、より歪んでいく。それは人の表情とは呼べないほどに、邪悪な色を帯びていた。

 

「サーヴァントの魔力供給源として、彼らは実に有用だった。若く、純粋な魂。それは最高の養分となる。十年もの間、彼らは私の実験体として、見事な働きを見せてくれた」

 

士郎の全身から、冷や汗が噴き出す。自分が切嗣に引き取られなければ、この運命を共にしていたという事実。その偶然の残酷さが、彼の心を締め付ける。

 

「衛宮士郎。おまえは実に幸運だった。衛宮切嗣という救い主を得て、この運命から逃れることができた。しかし、考えてみるがいい。なぜ、おまえだけが救われる必要があったのか」

 

神父の言葉は、まるで毒蛇の牙のように鋭く、そして致命的だった。士郎の心臓が、激しく鼓動を打つ。

 

「彼らは毎日、苦痛の中で生かされ続けた。魂を少しずつ削り取られながら。そして今、ようやく解放の時を迎えようとしている。私にとってはもう用済みの道具だ。新鮮な苦痛も望めない」

 

その言葉を聞いた瞬間、士郎の中で何かが切れた。理性という名の鎖が、音を立てて崩れ落ちる。

 

「てめえ...!」

 

彼の叫びが、地下室に響き渡る。それは、十年分の悔恨と怒りを込めた絶叫だった。凛の碧眼に、決意の色が宿る。彼女もまた、この狂気を止めなければならないと悟っていた。




今回の展開。捏造でもオリジナル設定でもなく原作通りなんだぜ……?凛がいるという違いはあるにしても当時は衝撃を受けた。
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