アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
暗闇から、青い影が滑るように現れる。その姿に、士郎と凛の表情が一瞬で凍りつく。聖杯戦争初日の夜、学校で目撃した青い槍兵。その時の記憶が、鮮明に蘇る。
ランサーは無言で二人の背後に立つ。その動きには躊躇いと不本意さが滲んでいた。赤い瞳には、獲物を狙う狩人のような鋭さではなく、むしろ深い諦めの色が浮かんでいる。
凛の碧眼が、一瞬にして戦闘態勢に切り替わる。彼女の指先に、魔術の気配が集中していく。しかし、その威嚇すら虚しく空を切るかのように、ランサーの表情には何の変化も見られなかった。
「改めて紹介しよう」
言峰の声が、地下室に響き渡る。その口調には、これから始まる出し物を楽しみにしているような色が混ざっていた。
「彼が私のサーヴァント、ランサーだ」
神父の言葉に、ランサーの顔が一瞬だけ歪む。それは、主への忠誠ではなく、明らかな嫌悪を示すものだった。彼にとって、この神父の命令に従うことは、まさに英霊としての誇りを踏みにじる行為に他ならない。
「なるほどね、綺礼。全ては筋書き通りというわけ?」
凛の声には、氷のような冷たさが滲んでいた。その碧眼には、後見人への深い憎悪が宿っていた。
士郎は両拳を強く握りしめる。あの夜の記憶が、彼の心を激しく揺さぶる。ホークアイとブラックウィドウ、そしてキャプテン・アメリカに助けられなければ、彼はあの時、命を落としていたはずだった。
「ああ、二人とも逃げる必要はない」
言峰の声が、まるで毒蛇のように這いずるように響く。
「お前たちには、もう一つ大切な役目がある。セイバーを此処に導くための、生きた餌となることだ」
その言葉に、地下室の空気が凍りつく。死体の並ぶ棺から、かすかなすすり泣きのような音が漏れる。まるで、これから始まる新たな悲劇を予見しているかのように。ランサーの瞳に、一瞬だけ深い憐れみの色が浮かぶ。しかし、それすら主の命により押し殺さなければならない現実に、彼の心は静かに怒りを募らせていた。
「そう言えば」
言峰の声が、突如として愉悦に満ちた調子を帯びる。その表情には、これから語ろうとする事への底知れぬ期待が浮かんでいた。
「アベンジャーズと名乗る異世界からの来訪者たちが、この聖杯戦争に首を突っ込んでいるようだ」
その言葉に、士郎と凛の表情が強張る。二人の脳裏に、キャプテン・アメリカたちの姿が浮かぶ。地下聖堂の空気が、より一層重くなっていく。
「彼らもまた、セイバーと共にここへ導かれることになるだろう。正義の味方を気取る者たちには、この光景は見過ごせまい」
神父の口元が、残虐な笑みを形作る。その計画には、既に全てが織り込み済みだった。ヒーローたちの正義感すら、彼の罠を完成させる歯車の一つとして組み込まれている。ランサーの赤い瞳が、わずかに細められる。彼の中で、戦士としての誇りと、サーヴァントとしての義務が拮抗していた。しかし、その葛藤を表に出すことは許されない。
「彼らにも、このささやかな"実験場"を見せてあげたかったのだ。人間の本質を知るには、これほど相応しい場所もあるまい」
言峰の言葉には、狂気じみた哲学者の色が混じっていた。彼にとって、この惨劇は単なる実験。人間の魂の深淵を覗き込むための、おぞましい装置に過ぎなかった。
凛の碧眼に、激しい怒りが灯る。後見人の本質を知れば知るほど、彼女の心は憎悪で満たされていく。士郎もまた、拳を強く握りしめる。この狂気を止めねばならない。しかし、その方法が見出せない。
地下聖堂は、まるで全ての光を飲み込むように、より一層の闇を帯びていく。それは、これから始まる新たな悲劇の幕開けを、静かに、そして確実に告げていた。
────そしてソレは暗闇に浮かんだ。言峰が予想していた英雄ではなく、黒く冷酷な地獄の処刑人の存在だった。
地下聖堂の暗がりに、白い髑髏のマークが浮かび上がる。それは死を告げる処刑人の印。棺に囚われた生ける屍たちが、その存在を感じ取ったかのように、かすかに震えていた。黒いロングコートをまとった男の姿が、まるで地獄からの使者のように、闇の中から静かに姿を現す。パニッシャーの両眼には、殺意という名の炎が燃えていた。その視線は、まず棺に囚われた魂たち、続いてランサー、そして言峰へと冷徹に移っていく。
士郎と凛は、その出現に息を呑む。パニッシャーの放つ威圧感は、もはや人間のそれではなかった。それは死そのものの具現化とも言えるような、凄絶な存在感だった。
「あいつ...」
凛の碧眼が、緊張に見開かれる。パニッシャーと言峰は既に面識があった。聖杯戦争開始前、教会の礼拝堂で交わした視線を、凛は覚えていた。その時から既に、両者の間には越えがたい敵意が存在していた。
士郎は、全身から吹き出る冷や汗を感じていた。パニッシャーから放たれる殺気は、彼が今まで感じた中で最も純粋で、最も冷酷なものだった。それは聖杯戦争という魔術の儀式すら、暗黒の中に飲み込もうとするかのような、圧倒的な存在感を持っていた。
言峰の微笑みが、より深く歪む。彼にとって、このような事態こそが最高の愉悦なのかもしれない。ランサーは無言のまま、パニッシャーの殺意に応えるように身構えていた。
地下聖堂は、まるで深淵そのものとなって、全ての光を飲み込もうとしていた。そこに浮かび上がる白い髑髏は、この地獄の光景を見つめる審判者の印のように見えた。
薄暗い地下聖堂に、新たな影が次々と浮かび上がる。パニッシャーの背後には、まるで地獄への遠征隊のように、個性豊かな戦士たちが控えていた。ウルヴァリンの鋭い爪が、かすかな光を反射して輝き、セイバーの魔力が青白い光となって空気を震わせる。キャップの盾が、正義の象徴として静かに存在を主張し、クリントの弓とナターシャの銃が、暗闇の中で冷たい光を放っていた。
「やはり掃除が必要な"汚物"は、お前だったようだ」
パニッシャーの声が、地下聖堂に響き渡る。その一言一言が、まるで死刑宣告のように重く、冷たかった。
言峰は、その言葉を聞いて不敵な笑みを浮かべる。その表情には、かつて第四次聖杯戦争で衛宮切嗣と対峙した時の記憶が重なっているようだった。
「君も、あの男と同じような目をしている。だが、衛宮切嗣には決して持ち得なかった"何か"を、君は持っているようだ」
神父の言葉には、狂気じみた興味が滲んでいた。その瞳には、まるで実験台の珍しい標本を見るような色が浮かんでいる。
「……一応聞いておいてやる。子供たちをこんな風にした理由を聞かせてもらおうか」
パニッシャーの声は、もはや人間のものとは思えないほど低く、冷酷なものとなっていた。その眼差しには、これまでに殺してきた数え切れない悪党たちへの怒りが、全て凝縮されているかのようだった。
両者の間に流れる空気は、もはや毒気と言えるほどに濃密で重苦しい。死体の並ぶ棺からは、まるでその対峙を見守るかのように、かすかなすすり泣きが漏れ続けていた。
ウルヴァリンの鼻が、苛立たしげにピクリと動く。この地下聖堂に充満する腐臭と血の匂いが、彼の野生の本能を刺激していた。セイバーの手が、無意識のうちに剣を握りしめる。キャップの表情が、この非道な光景への怒りで硬くなっていく。
「貴様...いい加減にしろよ!!」
クリントの怒号が、地下聖堂に轟音となって響き渡る。その声には、これまでの任務で見てきたどんな残虐行為よりも、この光景への怒りと憎悪が込められていた。
弓兵の両手が震えていた。それは恐怖ではなく、この惨状を前にしても優雅な微笑みを崩さない神父への激しい怒りだった。棺の中で苦しむ子供たち。その一人一人が、彼の記憶の中にある自分の子供たちと重なって見える。
「仮にも神父が...よくもこんな真似を!」
クリントが矢を番える。その動作には、普段の冷静さは微塵も感じられない。彼の目は、獲物を狙う鷹のように鋭く、言峰とランサーを捉えていた。闇の中で、ランサーの赤い瞳が不吉な光を放つ。サーヴァントの本能が、迫り来る戦いを予感していた。クリントの放つ殺気は、もはや一般的な人間のものではない。それは、この惨劇への怒りが実体化したかのような、圧倒的な存在感を持っていた。
「バートン先生...」
凛の碧眼が、不安げにクリントを見つめる。彼女の口から漏れた言葉には、これまで見たことのない教師の姿への戸惑いが滲んでいた。
神父の微笑みが、より深く、より邪悪なものとなっていく。まるでクリントの怒りそのものを愉しんでいるかのように。地下聖堂の空気が、さらに重く、より濃密なものとなっていった。
やっぱ言峰の相手はパニッシャーだよね。