アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです   作:ドレッジキング

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今回は立香くん回となります。


第71話 家族の幻

冬の陽光が衛宮邸の庭を優しく照らす中、赤いボールが空に舞う。立香の小さな手から放たれたそれは、まるで時間の重みを忘れたかのように軽やかに弧を描く。家の中からは大人たちの話し声が漏れ聞こえてくるが、立香はそれに気を取られることなく、ただボールを追いかけ続けていた。風が庭を吹き抜けるたび、木々のざわめきが少年の耳に懐かしい声を運んでくる。

 

「お父さん...」

 

その呟きは、誰にも聞こえないほど小さなものだった。ランサーの槍に貫かれた父の最期の表情が、立香の脳裏に浮かぶ。しかし、それは既に鮮明な記憶ではなく、どこか霞がかかったような印象に変わりつつあった。立香は再びボールを投げ上げる。それは母の温もりを探すかのように、青空へと舞い上がっていく。母もまた、あの夜のうちに命を落とした。最後まで立香を守ろうとした彼女の背中は、今でも少年の心に深く刻まれている。ボールが地面に落ちる音が、庭に響く。それは鈍い音を立てながら、何度も跳ねていく。立香は、その様子をぼんやりと見つめていた。姉の笑顔が、記憶の底からふわりと浮かび上がる。彼女もまた、ランサーの槍から逃れることはできなかった。

 

「僕だけ...」

 

無意識に零れた言葉には、生き残った者特有の苦しみが滲んでいた。しかし、すぐに立香は首を振る。パニッシャーに救われ、今は新しい家族に囲まれている。お姉ちゃんこと凛も、お兄ちゃんこと士郎も、そしておじさんことパニッシャーも、皆が立香を大切にしてくれている。ボールが再び宙を舞う。今度は、まるで希望を掴もうとするかのような軌道を描いて。立香の瞳には、もう涙は宿っていなかった。それは悲しみが消えたからではなく、新しい明日を見つめる強さを、少しずつ身につけ始めているからなのかもしれない。

 

 

風が立香の髪を揺らす中、何気ない仕草で後ろを振り向いた瞬間、少年の世界が止まった。そこには、死んだはずの父が立っていた。温かな笑顔を浮かべ、いつものように優しく立香を見つめている。

 

「お...とう...さん...」

 

声が震える。立香の小さな体が、激しい感情の波に揺さぶられる。父の姿は幻なのか、本物なのか。そんな判断をする余裕さえ、立香には残されていなかった。

 

「お父さん!」

 

叫びと共に駆け出す。しかし、その手が届きそうになった瞬間、父の姿は霧のように消え去った。立香の指先には、かすかな温もりさえ残らない。頬を伝う涙を拭う間もなく、門の前に母の姿が浮かび上がる。

 

「お母さん...待って!」

 

再び走り出す足取りには、必死の思いが込められていた。母は優しく微笑み、立香を見守るように佇んでいる。しかし、その存在もまた、手の届かない幻のように消えていった。

 

「僕を置いていかないで...」

 

立香の声が、切なく響く。必死に周囲を見回す少年の目に、今度は姉の姿が飛び込んでくる。いつものように明るい笑顔で、立香を見つめている。

 

「お姉ちゃん!今度こそ...!」

 

走る。全力で走る。しかし、姉の姿もまた、立香の願いを嘲笑うかのように消失していく。少年の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。それは悔しさなのか、寂しさなのか、もはや立香自身にも分からない。その時、視界の隅に温かな光が差し込む。立香が顔を上げると、そこには家族三人が揃って立っていた。父と母と姉が、笑顔で立香を見つめ、優しく手を振っている。まるで「こっちにおいで」と誘うように。

 

「待っていて...!」

 

立香は再び走り出す。小さな足が、必死に地面を蹴る。家族との距離が、少しずつ縮まっていく。もう手が届きそうな位置まで来た時、三人の姿が一斉に霧散していった。

 

「やだ...行かないで...」

 

立香の声が、かすかに震える。手を伸ばした先には、もう誰もいない。ただ虚空を掴むだけの、むなしい仕草が残される。少年の目から流れる涙は、もはや止めどもない。

立香は消えた家族の幻影を追って走り続けていた。父の背中、母の微笑み、姉の手招き。それらは確かにそこにあるのに、近づくたびに霧のように消えていく。

 

「お父さん...お母さん...お姉ちゃん...!」

 

声を振り絞って叫びながら、立香は街を駆けていく。時折現れては消える家族の姿を追って、少年の足は休む暇もなく動き続けていた。涙で視界が滲むのも構わず、ただひたすらに前へと進む。

 

そして辿り着いたのは、見覚えのある公園だった。かつて家族で遊んだ思い出の場所。ブランコやすべり台が、陽光に照らされて長い影を落としている。

 

「立香...こっちよ...」

 

母の声が、風に乗って届く。立香の心臓が高鳴る。今度こそ、きっと触れることができる。そう信じて一歩を踏み出そうとした瞬間。

 

「あら、うまく釣れたわね」

 

銀髪の少女の声が、立香の背後から響く。振り返ると、赤い瞳を持つ女の子が立っていた。その手には、小さなリモコンのような装置が握られている。

 

「すごいわ。この装置、完璧に機能するのね」

 

イリヤは感心したように装置を眺めながら、微笑みを浮かべる。その表情には、人形で遊ぶ少女のような無邪気さと、どこか危険な色が混ざり合っていた。

 

「ねえ、一緒に来ない?家族に会えるわよ」

 

その誘いに、立香は首を横に振る。少年の直感が、目の前の存在の異質さを察知していた。イリヤの赤い瞳に、かすかな残念そうな色が浮かぶ。

 

「僕は...おじさんのところに帰る」

 

立香の声は震えていたが、その意思は固かった。幻の家族を追い求めていた少年の瞳に、現実を見据える強さが戻り始めていた。

 

「もう、わがままは良くないわよ」

 

イリヤの声には、子供らしい甘さと、どこか異質な冷たさが混じっていた。紫色の冬服を着た少女が、立香の前に歩み寄る。太陽を背に立つその姿は、まるで異世界から抜け出してきた妖精のよう。

 

「わたしの家に来れば、家族に会えるのよ?」

 

銀髪が風に揺れる中、イリヤの赤い瞳が立香を見つめていた。人形のように整った顔立ち、雪のように白い肌。その存在自体が、現実離れした美しさを放っている。立香の目の前に立つ少女は、確かにそこにいながら、どこか幻のようにも見えた。

 

「僕は...帰らないと...おじさんが心配する」

 

立香の声が震える。幼い心の中で、家族への思慕と、現実の絆との間で葛藤が生まれていた。しかし、その決意はまだ揺らいでいない。

 

イリヤは不機嫌そうに唇を尖らせると、真っ直ぐに立香の目を見つめた。その瞬間、立香の体が硬直する。指先一つ動かすことができない。まるで見えない鎖で縛られたかのような感覚が、全身を支配していく。

 

「あなたが、どうしても必要なの」

 

イリヤの冷たい指先が、立香の頬を優しく撫でる。その感触は確かなものなのに、意識はどんどん遠ざかっていく。最後に見た銀髪の少女の姿が、闇の中に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

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意識が戻った時、立香の目に飛び込んできたのは見知らぬ洋室の光景だった。天井まで届きそうな大きな窓、重厚な作りの家具、壁に掛けられた古めかしい絵画。その全てが、異国の童話から抜け出してきたかのような雰囲気を醸し出している。自分は椅子に座らされ、両手は背もたれの後ろで縛られていた。縄は子供の肌を傷つけないよう、布で巻かれているようだが、それでも強く締め付けられ、動くことはできない。

 

「お目覚め?」

 

部屋の隅から、銀髪の少女の声が響く。イリヤは立香の前まで歩み寄ると、満足そうな表情を浮かべた。彼女の紫色の冬服が、豪華な調度品に囲まれた室内で、より一層鮮やかに映える。

 

「ここはアインツベルン城よ。わたしのお城」

 

イリヤの言葉には、どこか誇らしげな響きが含まれていた。しかし立香には、その意味を理解する余裕はない。ただ必死に、帰りたいという思いを声にする。

 

「お願い...家に帰して。おじさんが待ってる」

 

立香の懇願に、イリヤは首を傾げる。その仕草は幼い少女そのものなのに、赤い瞳に宿る光は、とても子供のものとは思えない冷たさを帯びていた。

 

「ダメよ。まだ、あなたに大切な役目があるんだから」

 

その言葉には、いかなる慈悲も含まれていなかった。立香の運命は、この銀髪の少女の手の中に握られていた。

「あなたが必要なの。おとなしく来てくれると思ったんだけど」

 

イリヤの声には、もはや子供らしい無邪気さは感じられない。代わりに、幼い外見からは想像もつかない古代の魔術の重みが滲んでいた。立香は必死に体を動かそうとするが、それは完全な徒労でしかなかった。

 

 

「だから言ったでしょう?あなたの存在が必要なの」

 

イリヤの声は甘く、まるで子猫が甘えるような可愛らしさを帯びていた。しかし、その赤い瞳の奥底には、人形遊びに夢中になる少女のような残虐さが潜んでいる。

 

「お願い...家に帰して。おじさんや、お姉ちゃんが心配する」

 

立香の懇願に、イリヤは不機嫌そうに頬を膨らませる。その仕草は年相応の愛らしさを見せていたが、それは同時に、獲物を弄ぶ前の表情でもあった。

 

「もう、しつこいわね。わがまま言うのは良くないって言ったでしょ?」

 

銀髪が揺れる度に、窓から差し込む光が美しく反射する。イリヤは立香の前で優雅なクルエットを披露するように回転すると、まるでバレリーナのように優美な仕草で立ち止まった。

 

「わたしだってわがままを我慢してるのよ?ねえ、あなたを今すぐ壊したくて仕方ないの。でも、ちゃんと待ってるでしょう?」

 

その言葉は、まるで友達とおもちゃの取り合いをしている時のような無邪気さで語られた。しかし、その内容は五歳の子供の耳に入れるには、あまりにも残酷なものだった。立香の顔から血の気が引いていく。

 

「家に...帰りたい...」

 

立香の声が震える。イリヤは不貞腐れたように唇を尖らせ、まるで駄々をこねる子供のように足を踏み鳴らす。その姿は愛らしく、同時に底知れない恐ろしさを感じさせるものだった。幼い魔術師の中で、無邪気さと残虐性が複雑に絡み合っている。




えっとイリヤ……立香くんに手を出すのは色々と不味いよ……?(^▽^;)
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