アベンジャーズが第五次聖杯戦争に介入するようです 作:ドレッジキング
衛宮邸のリビングに、凛の慌ただしい足音が響き渡った。彼女の乱れた呼吸と、普段は決して見せない取り乱した様子が、異変の深刻さを物語っている。スティーブたちがモニターを通してストレンジと話し合っている最中、凛は息を切らせながら部屋に駆け込んできた。その碧眼には、明らかな動揺の色が宿っていた。
「ロジャース先生!立香くんを見かけませんでした?」
凛の声には、普段の冷静さは微塵も感じられなかった。その問いかけに、スティーブの表情が一瞬で引き締まる。彼の直感が、この状況の異常性を察知していた。
「まだ庭で遊んでいるんじゃないのか?」
クリントの言葉に、凛は強く首を振る。彼女の黒髪が、その仕草に合わせて揺れる様子には、どこか慌ただしさが滲んでいた。モニターに映るストレンジの表情にも、明らかな緊張の色が浮かぶ。
「庭にも、屋敷の中にも...どこにもいないの。さっきまで赤いボールで遊んでいたはずなのに」
凛の声が震える。その様子は、後見人としての責任感と、姉のような立場からの心配が、複雑に絡み合っているかのようだった。ナターシャは素早く立ち上がり、凛の両肩に手を置いた。
「落ち着いて、リン。最後に立香を見かけたのは、いつ?」
黒寡婦の落ち着いた声音が、凛の混乱を僅かに和らげる。しかし、その効果も一時的なものでしかなかった。凛の瞳に、さらなる焦燥の色が浮かぶ。
「十分、いえ、せいぜい十五分前...わたし、台所で昼食の支度をしていて、窓から立香くんが遊んでいるのを見かけたの。それなのに...」
その言葉に、スティーブの背筋を冷たいものが走る。ストレンジとの会話で警告された内容が、彼の脳裏に蘇る。敵は確実に、士郎たちの周囲で動いていた。そして今、新たな一手を打ってきたのかもしれない。スティーブは素早く通信機を手に取り、ウルヴァリンとの接続を確立する。その動作には、キャプテン・アメリカとしての長年の経験が滲んでいた。画面に映るストレンジの表情が、一層の緊張を帯びる。
「ローガン、立香が行方不明になった。匂いの痕跡を追えるか?」
通信機からは、買い物袋を握りしめる音と共に、ウルヴァリンの低い声が響く。その声音には、野生の獣のような危険な響きが含まれていた。
「分かった。坊主、悪いが荷物を頼む」
リビングの空気が、一層重くなっていく。レスターによる人質事件の記憶が、スティーブの脳裏に蘇る。或いは言峰とランサーの仕業か。様々な可能性が、彼の頭の中を駆け巡る。
「セイバー!」
凛の呼びかけに応えるように、金髪の騎士が姿を現す。その表情には、いつもの凛とした佇まいが宿っていた。状況を察したのか、彼女の瞳が鋭い光を放つ。
「私も同行します。マスターの安全も気になりますから」
凛の視線の先には、霊体化したアーチャーの存在が感じられた。その気配は、まるで冷たい風のように部屋を漂っている。
「相変わらず、面倒事には事欠かないようだな、凛」
アーチャーの皮肉めいた言葉に、凛は僅かに表情を緩める。しかし、その緩みは一瞬で消え失せ、再び緊張が彼女の表情を支配する。
「アーチャー、今は皮肉を言っている場合じゃないわ」
スティーブたちは素早く動き出していた。彼らの姿が光に包まれ、次の瞬間には見慣れたコスチュームに身を包んでいる。星条旗を模したスーツ、弓を背負った黒いベスト、そして全身をぴったりと包み込む黒いコスチューム。その姿は確かに異様であり、不審者と見なされても仕方のないものだった。
「バートン先生、そのコスプレ感丸出しの格好で街中を走り回って大丈夫なんですか?」
凛の素朴な疑問に、クリントは軽い調子で返す。その声には、これまでの経験に裏打ちされた余裕が感じられた。
「心配するな。我々の世界じゃ、こんな格好で街を飛び回るヒーローは珍しくないんだ」
その言葉を最後に、一行は衛宮邸を飛び出す。冬の空気が、彼らの肌を刺すように冷たい。時間との戦いが、今まさに始まろうとしていた。
公園には、まだ昼前の静けさが漂っていた。ブランコが風に揺られ、かすかな軋みを立てている。スティーブたちが到着した時、ウルヴァリンと士郎は既に待機していた。買い物袋を抱えた士郎の表情には、明らかな焦りの色が浮かんでいる。
「ローガンさん、立香の匂いは?」
士郎の問いかけに、ウルヴァリンは鋭い眼差しで周囲を見渡す。その鼻孔が、野生の獣のように広がっていた。その仕草には、長年の狩りの経験が滲んでいた。
「まだ新しい。小僧は確実にここを通ってる」
その言葉に、凛の瞳に僅かな希望の光が灯る。スティーブは通信機を手に取り、ストレンジとの接続を確認する。モニターに映る至高の魔術師の表情には、いつもの余裕は見られない。
「ストレンジ、援軍は送れるか?一人でもいい」
スティーブの声には、切迫した響きが含まれていた。通信機のスピーカーから、ストレンジの深い溜息が漏れる。その音には、何か重大な決断を下す者特有の重みが感じられた。
「一人なら...今すぐにでも送り込める。彼なら、この世界の法則にも適応できるはずだ」
ストレンジの告げた名前に、スティーブ、クリント、ナターシャの表情が微かに変化する。その変化は一瞬のことだったが、凛の鋭い観察眼を逃れることはできなかった。
「ロジャース先生、誰が来るんですか?」
凛の問いかけに、スティーブは意味深な微笑みを浮かべる。その表情には、戦友への絶対的な信頼が滲んでいた。状況説明は後回しにして、まずは立香の捜索を優先すべきだと判断したのだろう。
「信頼できる仲間だ。それ以上は、会えば分かる」
ウルヴァリンの鼻が、再び空気を嗅ぎ分ける。その動作には、獲物を追跡する捕食者特有の鋭さが込められていた。セイバーもまた、魔力を探知するように周囲に神経を研ぎ澄ませる。
「ローガン、方角は?」
ナターシャの問いかけに、ウルヴァリンは山の方角を指差した。その先には、アインツベルンの城がある。クリントの表情が、一瞬で引き締まる。
「この方向...まさか」
空気が張り詰める中、ウルヴァリンの足が既に動き出していた。彼の野生の本能が、立香の存在を確実に捉えている。一行は、その背中を追うように動き出す。時間との戦いが、より一層の緊張感を帯びていく。
*******************************************************************
アインツベルン城の広間に、冬の陽光が差し込んでいた。巨大な窓からは眼下に広がる森を一望できる。イリヤは静かな足取りで、その空間へと歩を進めた。彼女の銀髪が、差し込む光に透けるように輝いている。広間の中央には、一人の男が佇んでいた。紫と金で縁取られた未来的な装甲に身を包み、その姿は中世の征服者と未来の支配者を融合させたかのような威厳を放っていた。装甲の肩には鋭い棘が連なり、頭部を覆うヘルメットには不気味な光を放つセンサーが埋め込まれている。
「用意はできたわ。言われた通り、立香って子を連れてきたの」
イリヤの声には、数日前にバーサーカーが敗北した時の記憶が重く滲んでいた。どれほどの力を持つサーヴァントでも、この男の前では無力だった。戦いを挑んでも無駄なことは、彼女にも分かっていた。
「良い判断だ。私の技術と、君のような特異点が協力することで、この世界の歴史は新たな分岐点を迎えることになる」
男の声には、全ての存在を見下すような傲慢さが滲んでいた。その言葉が広間に響くたび、空気そのものが震えているかのようだった。装甲の胸部に埋め込まれた青い光源が、かすかに明滅する。その表情は、ヘルメットの隙間からも読み取ることができた。彼の存在そのものが、この城に異質な空気をもたらしていた。
「それじゃあ、次は何をすればいいの?」
イリヤの問いかけに、男は装甲の手袋で静かに彼女の頭を撫でる。その仕草には、道具を扱うような冷たさが感じられた。
「私の目的は、この世界の歴史そのものだ。聖杯という存在を研究することで、全ての時間軸を掌握する。君には、その実験に協力してもらう」
男の言葉には、科学者としての冷徹さと、征服者としての野心が混在していた。イリヤは黙って頷く。バーサーカーの敗北が、彼女の選択肢を完全に奪っていた。広間に差し込む光が、男の装甲を不気味に照らし出す。それは、この世界に降り立った異界の支配者の姿を、より一層際立たせるものだった。
*************************************************************
城の一室―――それはイリヤの寝室であり、同時に幽閉の檻となった空間。豪奢な調度品の数々が、まるで異世界の風景画のように並び立つ。その中心で、椅子に縛り付けられた立香の小さな体が震えていた。部屋の入り口が開かれ、銀髪の少女が舞い戻るように入室する。その紫色の冬服は、まるで毒を含んだ花弁のように美しく、そして危険な色彩を放っていた。
「お願い...家に帰して。お姉ちゃんが心配するよ」
立香の声が、部屋の静寂を引き裂く。その懇願は、囚われの身となった幼子の純粋な願いでしかなかった。しかし、イリヤの赤い瞳には、そんな願いを受け入れる慈悲の色は微塵も宿っていない。
それはそうだ。慈悲など持ち合わせていないからこそ、彼女は「最高傑作」と呼ばれるのだから。イリヤの唇が、残酷な笑みを形作る。その表情は、人形で遊ぶ少女のそれと、魔術師としての冷徹さが混ざり合った、奇妙な美しさを帯びていた。
「もう、お話したでしょう?あなたは大切なゲストなの。ここに居てもらわないと困るわ」
その言葉には、子供らしい甘さと、底知れない冷酷さが同居していた。立香の目に、新たな恐怖の色が浮かぶ。それは単なる幽閉への不安ではなく、この銀髪の少女が放つ異質な雰囲気への本能的な畏れだった。
「帰りたい!おじさんが...おじさんが待ってるの!」
叫びは、豪華な調度品に囲まれた空間を無意味に彷徨う。イリヤは不機嫌そうに頬を膨らませ、まるで駄々をこねる子供のように足を踏み鳴らす。その仕草は年相応の可愛らしさを見せながら、同時に冷酷な拒絶の意思を表していた。
「だから、わがままは良くないって言ったでしょ?わたしだってね、本当はもっといろんなことがしたいの。でも我慢してるのよ?」
その言葉は、まるで毒の滴る蜜のように甘く、そして危険な響きを持っていた。立香の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。それは囚われの鳥が、自由を夢見て流す無力な雫だった。
イリヤは、肉食獣が獲物を追い詰めるように、ゆっくりと立香に近づいていく。銀髪の少女は、まるでバレリーナのように優雅なステップを踏みながら、立香の目の前で静止した。その動きには、人形師が愛玩具に戯れるような、残酷な優美さが感じられた。イリヤは立香の前でくるりと回転し、その後、蝶が花に止まるかのように椅子に手をつき、立香の顔を覗き込む。赤い瞳と褐色の瞳が交差する。その距離は、互いの吐息が感じられるほどに近かった。
「ねえ、いう事きかないとお人形さんにしちゃうよ?」
その声は、まるで蜜を含んだナイフのように甘く、そして危険な響きを持っていた。イリヤの瞳に、魔術師としての冷徹な光が宿る。それは、人間を文字通りの人形へと変えてしまう、禁忌の魔術の輝きだった。立香の小さな体が、激しく震え始める。それは恐怖という感情が、幼い魂を根底から揺さぶった証だった。五歳の少年に、魔術への抵抗など望むべくもない。純粋な脅威が、彼の精神を追い詰めていく。
「や...やめて...」
立香の震える声が、虚しく部屋に響く。その瞬間、温かい液体が椅子を伝い、床に染みていく。恐怖が彼の理性を奪い、本能的な反応として現れた失禁。それは、幼い魂が投げかけた無言の悲鳴だった。
「もう!汚いでしょ!」
イリヤは可愛らしく怒りの声を上げる。その仕草は、まるで人形遊びに夢中になる少女そのものだった。しかし、その目に浮かぶ光は、決して子供のものではない。魔術師としての冷酷さと、少女としての無邪気さが、不気味なまでに混ざり合っている。
この瞬間、立香は理解したのかもしれない。目の前の銀髪の少女が、人間という概念からかけ離れた存在であることを。その認識が、さらなる恐怖となって彼の心を蝕んでいく。イリヤは不機嫌そうに唇を尖らせながら、立香から離れる。その仕草には、壊れたおもちゃを見る時のような残念そうな色が混じっていた。窓から差し込む冬の陽光が、二人の姿を照らし出す。それは、人形師と人形になりゆく少年という、歪んだ光景を浮かび上がらせるようだった。
イリヤちゃん、あんまり立香くんを怖がらせるとこわーいおじさんが来ちゃうよ?