公式最強さん(に憑かれている者)です   作:枝豆%

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 誰よりも強くなりたかった。

 この手の届く範囲くらいは、目の前にいる仲間くらいは。

 それくらい守る力を望んだってバチは当たらない、そう思っていた。

 

 誰かに頼られたかった。

 人の上に立ち、部下に慕われる。そんな闘将になりたかった。

 誰かに頼られるということは、それだけで素晴らしいことだと知っていたから。

 

 弱くなりたくなかった。

 誰かに守られるのは、苦痛であることを知っており。何も出来ずに背中に隠れる歯痒さが大っ嫌いだったから。

 

 弱者でいたくなかった。

 死に方すら選べなくなるから。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 夢から覚めた時、ソレは傍らに浮いていた。

 ソレがいつから居たのかなんて覚えていないし、ソレの存在意義なんて考えたことすらない。

 そこにいて当たり前、でもその姿は俺以外には見ることが出来ない。

 

 随分と古い格好をしている。

 刀を持っており、廃刀令が出た大正では鬼殺隊以外では見ることはほとんど出来ない。

 白髪で髪が長く後ろ一本で括られている。

 ヨボヨボの老体で、でも何故だか力の溢れているその姿に何か引き寄せられるものがある。

 

 そして何より額にある痣。

 ソレが俺には不気味でならない。

 

 口を開くこともほとんど無く、漸く話したと思えば。

 

「ヤツを討つ事が私の役割」

「本来なら私はここに居るべきではない」

「お前に剣客として才はない」

 

 と、訳の分からないことや核心をついたりなどしてくる。

 会話など殆ど出来ないし、こんな……なんというのだろうか。浮世離れ? した老人もまた珍しい。

 

 だが話さない代わりに、色々と物理的な指摘をしてくれる。

 育手の下で呼吸を学んでいた時に、育手からどこに力を入れればいいのかが分からなかった時に、老人は指で肺近くを押して感覚的に教えてくれたりしてくれた。

 

 それでも才能はなく『隠』として鬼滅隊に採用されたのだが……。

 どうやらその事も老人は分かっていたような顔をしている。剣客としての才がないとはこういう意味だったのだろう。

 鬼殺隊の剣士に欠かすことの出来ない呼吸。

 それが出来ないということは自分は弱者である。そういう事だからだ。

 

 

 そんな事実を認めたくなくて、受け入れたくなくて。

 それでも刀を振り続けた時期もあったが、それが意味の無いことだと自覚してしまい。隠として影ながら支えると決断し刀を捨てた。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 隠の業務は意外にもハードである。

 隊士達に比べれば命の危険は格段に減るが、過労で死んでしまうのではというほど激務である。

 本当だったら同期だった隊士が次々と出世していき、近々柱への昇進も控えていると噂もちらほら聞こえる。

 

 何度か後処理の為に出向いたことがあるが、あれだけ美しい顔立ちをしているのに鬼狩りの世界に足を踏み入れることに少しばかり哀れに感じた。

 恐らく彼女は死ぬまで現役なのだろう、それこそ鬼舞辻無惨を倒し全ての鬼をこの世から消し去るまで。

 それまで彼女はこの血腥い世界から出ていくことが出来ないのだろう。

 

 何とも悲しいことだ。

 あれだけ美しければ、裕福な家に嫁ぐこともできただろう。女としての幸せを掴み取れただろう。

 

 この世に鬼など居なければ……。

 そう思い各隊士や隠は今日も鬼を狩る。

 

 仕事も終わり宿で休んでいる時に老人に何気なく聞いてみた。

 

「俺に憑いているのは何か理由があるのか?」

 

 そう何気なく聞いてみた。

 いつもならシカトされていたが、鬼狩りの道を歩み後には引けないところまで来たからだろうか。老人は重たい腰を持ち上げるように口を開けた。

 

『私は数百年前に鬼舞辻無惨を殺しきることができなかった。恐らく何もかもやり残したまま妻の許へと行くことはできなかったのだろう。私はその為だけにここにいる』

「それってつまり鬼舞辻無惨を殺したいってこと? でもどうやって?」

 

『分からない。だが、私のように剣を振ることにしか能のない木偶が霊になってまでこの世にいる意味などそれ以外に考えられぬ』

「そっか……爺さんも色々とあるんだね」

 

 数少ない会話ではあるが、これだけ長く会話が成立したのは初めてだったかもしれない。

 胸の内を聞けたからだろうか、それがより濃く感じられる。

 

 鬼舞辻無惨を倒すことが出来るかもしれない。だが、やり方が分からない。

 そんな訳の分からないのが現状だ。

 

「大丈夫、俺はこの仕事を選んだ時から死ぬことを覚悟してるし。俺の魂一つで千年に終止符がうてるならソレは名誉な事だ。だから存分に使っていいよ」

 

 俺は他人に敏感だ。

 何も無いものを見ている子供、空虚に話しかける不思議な子供。

 そうやって育てられてきたからか、他人の悪意などには異常なまでに敏感だ。

 だから老人の「分からない」という発言も嘘だったことが分かっている。

 老人はそうすると俺に危険が及ぶと考えたから言葉を濁したのだろう。

 

『……かたじけない』

「いいよ、現実なんてそんなもんだよ」

 

 最後に名前を聞いた。

 老人は『継国縁壱』というらしい。

 

 

 ーーーーー

 

 

 鬼を倒すことの出来る毒が開発されたらしい。

 そしてその毒を作ったのは、よりにもよって俺と同じくどうしようもない落ちこぼれの『胡蝶しのぶ』だと聞き嬉しさと共に喪失感が心を襲った。

 

 あの柱である胡蝶カナエの実の妹であるしのぶは鬼の頸を斬れない剣士として当時カナエと共に教わっていた花の呼吸の育手から見放されたと聞いた。同情したし、その時は最低だが嬉しくもあった。

 俺は日輪刀の色が変わらず呼吸が使えないだけで、恐らく頸は斬ることができるだろう。

 そうやって自分と同じ、もしくは下が出来たことに愉悦を感じてしまったのだろう。

 そして姉は鬼殺隊最強の柱。

 

 比べるななどできるはずもない。

 姉と比較され、しのぶは辛いめにもあっただろうし、そういう環境で過ごすのは苦痛だっただろう。

 

 その逆境を跳ね返し、今では一傷与えれば致命傷になる鬼への毒を開発してドンドンと結果を残していっている。

 

 もう血筋がだとか天才はだとか。

 そういう事はとても恥ずかしいことだということに今更ながら気付き、その言葉は封印した。

 

 それをこれから口にしてしまえば、しのぶの苦労を天才の一言で片付ければ。もう二度と話すことが出来なくなる。

 だからもう、余計なことは言わない方がいいのだろう。

 

 俺はこの日、(同士)を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 今日無事だったから明日も無事。

 そんな日常は鬼殺隊には当てはまらないと誰もが知っている。

 

 隠の隊士すら遺書を残しているような職場だ。

 毎日が命を張った行いであり、その非日常がここでは日常。

 安心も安らぎもこの世にはない。

 

 だからだろう。

 

『カーッ! カーッ! 胡蝶カナエ! 上弦ノ鬼ト交戦チュウ! 近クノ隊士ハ増援二向カエ!』

 

 血生臭く、そして氷の匂いがした。

 そこに着くと辺りが地獄絵図だった、花柱の胡蝶カナエは立っているのもやっと。

 どう考えても勝てない相手を前にして、気力だけで立っている。

 

 出血も酷い、長年この仕事を続けてきたからか出血量をみて意識を失っていないことに疑問を感じる程だった。

 

 

 でも、俺にはどうすることもできなかった。

 俺には誰かを助けるだなんて、そんな力はない。そんなものがあったなら、隠などやっていない。

 

 

 ────不甲斐ない。

 

 歯が唇を噛み血が顎を通る。

 その無力を俺は知っている。

 

 何度も経験してきた。

 自分ではどうすることも出来ない歯痒さを。

 

 それをしたくなくて、それがしたくなくて。

 俺はここに入った筈なのに。

 

 護りたいと思った。

 助けたいと思った。

 

 それでもどうすることも出来ないと知っている。

 

「爺さん」

『なんだ?』

 

「爺さんは鬼舞辻無惨を倒すことができるんだよね?」

『ああ、今度こそ私が終わらせる』

 

「鬼舞辻無惨を倒せるってことは上弦の鬼も倒せるよね?」

『……ああ、問題ないだろう』

 

 

「爺さん、お願いだ。命だって差し出す、なんだってする。……だから──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──彼女を助けて」

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 一瞬の出来事でした。

 上弦の鬼に追い詰められ、呼吸を使う鬼殺隊の剣士にとって天敵である肺への攻撃をする鬼。

 そのせいで私の肺は血鬼術の冷気を吸ってしまい殆ど壊死してしまった。

 

 絶体絶命、走馬灯のような物が頭の中を駆け巡る。

 鬼に襲われ両親を目の前で殺されたこと、辛い訓練のこと、最終選別の過酷な生活、妹たちや屋敷の子達。

 

 駆け巡ったのは記憶。

 辛くて、それでも暖かくて。

 傷の舐め合いだって言われるかもしれない、それでもあの屋敷には、私たちには確かにそこには言葉には言い表せないものがあった。

 

(ここで死んでたまるか)

 

 力の入らない手で刀を握り奮い立つ。

 ここで死ぬ訳にはいかない、そんな願いにも似た何かが私を奮い立たせてくれる。

 万全とは呼べない状況、そんなこと関係ない。

 

 何故なら私は、柱だから。

 

 

「まだ立つんだ! そんな事しても無駄なのに、待ってて直ぐに俺が救済して──」

 

 それ以上鬼は話さなくなった。

 明らかに全身の何かが警鐘を鳴らしているのが分かる、それは長年の勘によるものなのか。

 それとも血に刻まれた記憶なのか。

 

 そんなもの知る由もない。

 ただ、間違いなく後ろにいるこの男は。目の前にいる柱よりも警戒に値する。

 

「娘、楽にしろ。お前の勝ちだ」

「……あなたは……隠の」

 

「もう動くな、助かる命を無駄にするのは命への冒涜だ」

「なんで……大丈夫、私が守るから」

 

 突然現れた隠に動揺するが、私には関係ない。

 全てを守ってこその柱。

 

 守れ! 私が皆を! 

 

 するりと隠の彼は私の後ろから歩き、街中で歩くかのように私の刀を取り上げて前に立った。

 

 何をされたのか初めは分からなかった、ただ近づいて私を無理やりこの場から逃がそうとやってきたのだと思っていたし、この状況なら隠の人はそうすることは分かっている。

 もう日の出も近い、柱を逃がしきり上弦の鬼の能力を持ち帰るだけで価値のある収穫だ。

 

「……え?」

 

 自分でも間抜けな声が出たと思う。

 何をされたか分かっている、歩いて刀を取られた。

 

 理解することはできる。

 でも、それを実現させるのは隠には不可能だと知っている。

 

 なぜならこの隠は妹のしのぶと同じく落ちこぼれという部類だからだ。しのぶが珍しく他人に気を許していることで少し嫉妬して、話したことがある。

 呼吸が使えない、日輪刀の色が変わらない。

 

 最終選別へいく許可すら育手からもらえなかったと。

 

 それなのに彼は柱である私から刀を奪い、上弦の鬼を目の前にして物怖じもせずに堂々と立っている。

 

「…………そ、んな……」

 

 上手く言葉が出てこない。

 肺が壊死しているからか、それとも驚きのあまりなのか。

 理由なんて分からない。

 

 

「君は……誰だい? その()は」

日の呼吸──

 

 

 

 

円舞

 

 あれだけ遠かった上弦の鬼の頸を彼はいとも容易く斬り落とした。

 何が起きたのか殆ど見えなかった、次に視覚が捉えたのは私の櫻色のはずの日輪刀が煌々と燃える火、いや日のような色をしていたところ。

 

 通常ならありえない事だ。

 日輪刀は別名「色変わりの刀」とも呼ばれているが、色が変わるのは最初に手にした時だけ。

 何らかの異変があり、色が変わったなんて聞いたことがない。

 

「あの日の失敗から、無駄話はしないと決めている」

 

「刮目せよ、黄泉よりお前を屠る為だけに参った」

 

「私は今度こそお前を滅する」

 

 上弦の鬼は首を斬られ、何も言うことが出来ずに顔を刀で斬られ灰となった。

 最後に目に映ったのは、なんだったのか理解が及ばない。

 だが眼の奥に棲む奴には何が起こったか分かった。

 

 真の鬼狩りの帰還。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 




オリ主『憑依・口寄せ』


良ければ続きます
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