公式最強さん(に憑かれている者)です   作:枝豆%

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 彼と私は同じでした。

 周囲に笑われ、無理だと貶され。それでも抗った同じ穴の狢。

 私には鬼の頸が斬れない、そして彼には剣客としての才がなく体も弱い。

 

 そんな彼と出会ったのは桜の蕾が開き始めた、少し寒さが残る初春の頃でした。

 

 あの時の私は姉さん目当てで蝶屋敷に押しかける隊士にうんざりして、毒の研究も行き詰まっていて、そういう負荷が重なって破裂寸前だったと思います。

 蝶屋敷に如何にも弱そうで、どこか浮世離れ(・・・・)した私と同じくらいの男の隠に向かって要件も聞こうとせずに怒鳴り散らしました。

 彼もあの時は大した要件はなく、寄ったのも先の任務で負傷した隊士へのお見舞いとあとから聞きました。

 

 それでもあの時の私は限界がきていたのでしょう。

 しょんぼりとして帰る素振りをみせる彼に向かって「それ見た事か」と追い討ちをかけました。

 それからは彼には関係の無い鬱憤を罵詈雑言の嵐で投げつけ続けました。

 

 全てを言い終わり、少しも晴れない私の胸の内を悟ったのか彼は。

 

「もういいのか?」

 と一言だけいい、私が「帰って!」というと少しだけ悲しそうな背中をこちらに見せて帰っていきました。

 

 少し悪い気もしましたが、その場で謝るなんてことあの時の私には出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 それから怪我を負った隊士が蝶屋敷に来る度に彼は訪れました。

 それと同時に疑問も湧きます。

 

 これだけ任務を共にしているのに、何故彼だけ無事なのか。

 もちろん隠は後処理に重きを置いており、負傷しづらい位置にいます。ですが、それでも死と隣り合わせのこの仕事で負傷らしい負傷がない人はほとんど居ません。

 それこそ最高位にいる柱でさえ、負傷はします。

 

 考えすぎか……と思ったりもしました。

 ですが、やはり腑に落ちない。

 

 言い方は少し語弊がありますが、彼が怪我を負えばゆっくりと話すことが出来るのに。

 決して怪我をして欲しいという意味ではなく、患者として接すれば今までの非礼を詫びることができる。そう思いながら数年が経過しても彼は患者としてここに運ばれてくることはありませんでした。

 

 そうなった手前私も彼に初めて会った時のことを謝れません、そればかりか他の隊士よりも少しキツい対応をしてしまっています。

 

 姉さんに「どうして彼にキツく当たるの?」と聞かれ「関係ないでしょ」と切り捨てました。

「好きな子には冷たくしたくなるのよね」という姉さんの的外れな言葉が私の鬱憤を溜まらせます。

 

 多分だけど、そういうのでは無いことは理解しています。

 強がりや意地ではなく、私は多分彼のことは好きではありません。むしろ気味が悪いとすら思っています。

 

 いつか彼が蝶屋敷のベッドで横になった時に、これまでの非礼を詫びると同時に互いに胸の内をさらけ出せれば。そう思わずには居られませんでした……。

 

 

 

 彼と姉さんが瀕死で運ばれてくるまでは。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 上弦の鬼を目の前にして、爺さんに体を託した瞬間。

 起きたら知らない場所で横たわっていた。

 

 いや、知っているが。まさかこちら側になるとは思ってもみなかった。

 任務で危なくなると爺さんが避ける場所を指示してくれていたし、なによりそう危険が及ばない位置に逃げていた。

 だからここ蝶屋敷に患者として運び込まれたのは初めての事だった。

 

 起きたら知らない場所というのはこういうことなんだ、と朦朧とした意識の中思う。

 

 傍らにはいつもの様に爺さんがいる。

 だが、少しだけ変化している。爺さんの痣、それが前あった時よりも大きく、そして広がっているように見える。

 

「爺さん、その痣──」

 

 そこから先の言葉は喉に詰まったかのように出てこなかった。

 いつにも増して悲しい爺さんの姿を見て、直感的に悟ってしまう。

 

 ほとんど何も覚えていない、動いたのはホント一瞬だけ。

 記憶もかなり困惑していて、どれが夢でどれが本物か脳があやふやになっている。

 それでも一瞬だけ、体が燃えるように熱くなり鬼の中身といえばいいのだろうか、骨や筋繊維が裸眼なのに見えて刀を持つ手に尋常ならない力が入った。

 たったそれだけの事を一秒未満で完成させ、そこからは記憶が無い。

 

 爺さんに憑依されたというのは分かる。

 体が勝手に動いたのはそのせいだと思うし、それよりも反動で全身のそこいらが痛い。全身筋肉痛なんて初めてだ。

 体に少しの力も入らない、指一本動かすことが出来ない。

 

『一度目は乗り切れた、次は命は無いだろう。何より痣が出てしまった、深く謝罪する』

 

 一度目は憑依のことだろう。

 それに痣? 

 それは爺さんの額の話では無いのか? 

 すぐにでも質問して爺さんから答えを毟り取りたい。だが、全身の疲れを認知したからか、全身が動かないことを理解したからか話す気にならなかった。

 

 ──疲れた。

 

 

 自分自身なぜあんな事をしたのか分からない、爺さんの言う鬼舞辻無惨を倒す憑依(奥の手)が相当危ないもの、それこそ使った途端に俺が死ぬ事くらい視野にいれていたし実際死ぬと思ってた。

 鬼舞辻無惨を滅するという爺さんの野望を踏みにじってまで、俺は何故胡蝶カナエを助けたのだろうか……。

 

 深く考えれば考えるほどに答えは出てこない。

 時間だけが有り余る治療の時間、目が覚めてから体が思うように動いたのは13日後だった。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 答えは出てこなかった、あれだけ莫大な時間を費やしても答えは出ないものだと知り少しばかり理不尽さを覚えた。

 しかしそうも言っていられない、時間は止まらないし止められない。

 例えば俺が死んだとしても、明日はきっと来るし明後日も鬼殺隊は通常運転しているだろう。

 

 鬼舞辻無惨を追い詰めた立役者である爺さんが死んでも鬼殺隊は滅びなかったんだ、生命力でいえばゴキブリ並だ。

 

 少しあの後の話を聞いた。

 柱が花柱の増援に駆けつけ、大人数で上弦の鬼を倒した。ということにされているらしい。

 隠が倒した、などということは眉唾として相手にされない。それならばと虚偽でも鬼殺隊の士気が上がるならとお館様のご意向らしい。

 

 花柱である胡蝶カナエから直々に聞いた。

 胡蝶カナエも瀕死の重症だったらしいが、妹の胡蝶しのぶの見事な手腕により俺たち二人は一命を取り留めることが出来て生きていられる。

 

 胡蝶カナエは血鬼術による肺の壊死で呼吸を使うことが出来なくなる、更に上弦の鬼の狩りにより足の血液を一時的に固められたことによって、両足が腫れ上がって切断寸前までいったらしい。

 これも何とか胡蝶しのぶが切らなくてもよい所まで持っていったが、歩くことは出来なくなり車椅子が欠かせなくなった。

 

 柱として実質の引退である。

 花柱の後釜としては妹の胡蝶しのぶが柱となるそうだ。条件も満たしているので、問題はなかったが『鬼の頸を斬れない』ということで、少し面倒事が起こっているらしい。

 

 これがあの後に起こった大体のこと。

 そしてこれから胡蝶カナエ、胡蝶しのぶ、そして俺がお館様より召集がかかった。

 

 内容は、考えずとも分かる。

 あの夜のことだろう。

 

 胡蝶カナエも胡蝶しのぶも、絶対安静だった俺に無理に聞こうとはしてこなかった。だが、この招集で俺だけに見える爺さんのことを説明しなければならないと考えた時。俺は憂鬱になる。

 今まで霊が見えると言っても戯言としてしか対応されなかったからだ。今更それを言うことで信じてくれるなど思ってもないし期待してもいない。

 それでも、何故か心は焦っていた。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 産屋敷邸に到着すると、そこには召集がかかっていない隊士が数名居た。

 胡蝶カナエの元の立ち位置、胡蝶しのぶの現立ち位置。

 その鬼殺隊最高位にいる柱が彼女ら以外に二人来ていた。

 

「……風柱様、音柱様」

 

 お館様の前なのでお二人は庭に膝をついている。

 だが、長年の勘からか風柱から異様なまでの危険を感じる。

 

「よく来てくれたね、私の可愛い子供達」

 

 俺も胡蝶しのぶも地に伏せる。

 胡蝶カナエもいつもの癖で同じようにしようとしたが、お館様にそのままでいいと止められていた。

 

「今日集まってもらったのは他でもない、上弦の弐討伐の真相だ。上弦の鬼を倒したのは数百年振りだ、鬼殺隊の士気を上げるためとはいえ嘘の為に名前を借りて済まなかったね天元、実弥」

 

 滅相もない、と風柱はいうが不満が感じられる。

 以前に風柱は就任前に仲の良かった隊士の命を失って十二鬼月の討伐に成功していた。状況は異なるが、風柱は自分で手に入れた手柄以外を手柄として見られるのを嫌う。

 あの時の任務で共に行動した俺からしても、あの時の彼らは兄弟分と言えるだけの存在だったに違いない。

 

 ここまで考えると馬鹿でも分かる。

 

 風柱は「なぜ力があって剣を握らない」と俺を責め立てているのだろう。

 

「烏からある程度の報告は貰ったよ、できれば無駄な時間は費やしたくない。君は何者だい?」

 

 優しい声音で問い掛けられた。

 ここに着いた時から俺はずっと正直に話すと……。

 

 

「お館様、貴方は幽霊を信じますか?」

 

 途端に周りから疑いの目を掛けられた。

 

 

 

「テメェ! お館様のお言葉を忘れたか! 貴様の戯言に付き合う時間など刹那たりとも存在しな──」

「──実弥」

 

 風柱の言葉を指一つで止めるお館様、貫禄が桁違いだ。

 

「幽霊……とはどういうことだい?」

「ハッ、俺には物心ついた頃より一人の幽霊が傍らにいました。その幽霊は名を『継国縁壱』といい数百年前の鬼殺隊で柱として活動していたと聞きます」

 

「おいおい随分と派手なウソをつくじゃねぇか、亡霊が? 数百年前の同業が? ぶっ飛びすぎて意味わかんねぇぞ、もっとマシな嘘つけや」

 

 外野から野次が飛ぶが気にせず話を進める。

 

「この男は鬼舞辻無惨を滅する寸前まで追い込み逃がしたことを悔いて俺の前に現れたと言っています。何故俺の前に、という問いには俺自身にも分からないのでお答え出来ません」

 

「なるほど幽霊か……実は私の妻は代々神職の一族でね……あまね、どうだい?」

「はい、一般家庭からこれ程に霊を引き寄せるのは珍しい。恐らくですが修行を重ねれば霊能力者になれるかも知れません」

 

「因みにあまねには、その継国縁壱は見えているのかい?」

「いえ、私に霊視の才能はなくハッキリとは見えませんが、何かそこにいるのは感覚的に分かります」

「なるほど、これで嘘でないと証明できたね。いいかな天元?」

 

「勿論です、口を挟み申し訳ありません」

 

 あまね様が神職の一族だったから話は一々止まらずに進む。

 こうなることも見越してお館様はあまね様を呼んだのか? 

 流石にそれは考えすぎだろうか……。

 

「ですが霊体の継国縁壱に現世で何かすることはできません。俺から離れることもできないようですし、物に触れたりすることもできません。あの時の上弦の鬼を倒した時に使ったのは本来なら奥の手。継国縁壱が鬼舞辻無惨と対峙した時にのみ使う予定だったそうです」

 

「なるほど口寄せの類か……私も妻が神職の家系だから調べたことがある。確か恐山の付近でよく見られるイタコの持つ力だね」

「はい、俺はこの奥の手を鬼舞辻無惨以外に使ってしまい恐らく鬼舞辻無惨もその事に気付いたでしょう」

 

「じゃあこの質問をしたら次の話題に移ろう。君はあと何回口寄せが使えるんだい?」

 

「あと1度です。そして使い切った後、恐らく俺は死にます」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 起きた時から、痣が浮かび上がってからやけに体が熱い。

 風邪をひいた時のように体温が熱く、それが一向に治る気配がない。

 13日の間、俺は訳の分からぬまま過ごした。

 何故か額に浮かび上がる痣、それを中心にしてか熱くなる体。

 

 同じ痣をもつ爺さんに尋ねた。

 

「この痣はなんなのだ」と。

 すると爺さんは答える。

 

『飛躍的に身体機能を上昇させるもの』だと、そして続けるように『それは齢25を超えるとほぼ確実に死ぬ』と。

 

 爺さんは悲しそうな顔をする。

 だが、その条件にそこまで気落ちはしていない自分がいた。

 

 元々死ぬ命に時間制限がついただけだ。

 

「そんなこと気にするなよ、元々俺の命は捨てたのと同じだ。何より爺さんに俺が言ったんじゃないか、『何でも出す』って」

『私は元より今の時代を生きる命を摘み取りたくなかった』

 

 そうやって爺さんは懺悔する。

 一度ならば死なずに済んだ、確証はないが爺さんは感覚的に一度ならイけると踏んでいたのだろう。それを俺のワガママで使ってしまい命が尽きるまで使えるのは一度、運が良ければ二度。

 

 

「本当に大丈夫だよ、俺は刀を握った時から命を捨てている。もう落ちた命だ、爺さん……だからどうか迷わないでくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 それから話は進み、鬼を斬った時のことを事細かに説明した。

 体が熱くなったこと、鬼の筋繊維や骨が見えたこと、刀が紅く色変わりしたこと、そして痣のこと。

 どれもこれも『ありえない』の一言で片付けられないだけに、報告会は難航していった。

 

 

 

 一通り話した後にお館様と二人だけで話すことになった。

 体の透視や紅い刀の話ではなく、もっと身近な『痣』のことについてだ。

 

 まず痣がでてから体温がずっと高いままだということ。

 

 これはお館様も調べてくださったようで、継国縁壱の時代から痣のでる剣士がでたことがあるということ。その痣は発現させれば常人を上回る力を手に入れられ、身体機能は何倍もの力を発揮することが出来る。

 

 だが、痣を発現させたものは一つの例外を除き25歳を迎える前に死ぬということ。

 恐らく唯一の存在は爺さんのことだろう。

 どう見ても25歳は超えている、大昔には珍しい長寿だ。

 

「君の痣は今代のものでは無いと私は思うのだが、そこはどうなのかな?」

「恐らくですが俺も同意見です。痣は連鎖のように次々と痣者を増やすと言われていますが、俺の痣は継国縁壱のものかそれに反応したもの。時期でいえば数百年前のものでしょう。だから恐らく今代の鬼殺隊とは関係はないようです」

 

「寿命……か。私の家も代々短命でね、30歳までは生きることができないんだ。少しでも延命するために代々神職の一族から嫁を貰っていてね、あまねもそうなんだよ」

 

「お館様、俺は死ぬことは怖いことだと思っておりません。継国縁壱が鬼舞辻無惨を倒すため特別強く生まれてきたように、俺にも継国縁壱を憑依させる特異な体質だと知りました。

 お館様、俺は痣では死にませぬ。隠とは言え、俺も鬼殺隊ですので」

 

「……杞憂だったみたいだね。どうやら既に覚悟は決まっていたようだ」

 

「はい」

 

「ありがとう。そして、済まない」

 

 

 

 隠という特殊な立ち位置故に、今回の上弦の鬼討伐で表立った報酬は貰うことが出来なくなった。

 屋敷など貰うことができたそうだが、どうにか拒否させて貰い渋々ながら小さな家を頂いた。

 山奥にある小さな小屋。

 

 長くても数年しか生きられない俺にとって、そのような形の残るものは拒否したかったのだが無理やり押し付けられた。

 爺さんも山奥の小さな小屋に、なにか懐かしさを感じた顔をしている。

 

 当然ながら鬼を討伐したからといって柱になれる訳ではなく、花柱のあとは胡蝶しのぶが蟲柱として継承した。

 此度の上弦の鬼の討伐、真相を知っているのは花柱、蟲柱、音柱、風柱、そして一番の古株であり鬼殺隊最強の岩柱のみとなった。

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「待て、()の」

「しな………風柱様」

 

「何故だ? 本当に鬼舞辻を滅する為ならば胡蝶は捨ておくのが最も正しい判断だ。テメェのその失態で鬼舞辻へと届く刃が使い物にならなくなるとは思わなかったかッ!?」

 

「……」

 

「なぜ胡蝶だ、今までもテメェの目の前で惨たらしい最期を迎えた隊士がいただろう! なぜ胡蝶だけはその力を見せた! 答えろ!!」

 

「……」

 

 

「俺はお前など認めねェ、鬼舞辻の頸を斬るのは過去の亡霊でもお前でもない──この俺だ」

 

 

 

「二度と俺の前に(ツラ)見せんなァ」

 

 

 

 




継国縁壱の回想で、兄の事とか他人との価値観の相違を感じたのは作者だけじゃないはず。だから主人公の心と胡蝶しのぶの心が食い違うのは必然(暴論)
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