最近同じ夢を見る。
そこには現柱達が殺された後、刀を持つ鬼に時透無一郎が殺されるところ、不死川実弥が殺されるところ、悲鳴嶼行冥が殺されるところ、伊黒小芭内が殺されるところ、甘露寺蜜璃が殺されるところ、冨岡義勇が殺されるところ、胡蝶しのぶが殺されるところ、宇髄天元が殺されるところ、煉獄杏寿郎が殺されるところ。
何度も胴を切り裂かれ、兜割りにされ、心臓を貫かれ。
そんな終わらない悪夢を見ていた。
目が覚めると何時ものように朝が来る。
家には爺さんと時透無一郎がいて、誰かが死んだということは無い。
鬼舞辻無惨を滅する為に腹は括ってある。
その為に他の全てを切り捨てる覚悟も俺の中にはできている。
残虐にならなければいけない時が、俺には何度も訪れる。
力のない隠は剣士の戦闘を見届けなければならない、無論そこで死に絶える剣士も腐るほど見てきた。
だが同時に思ってしまうことがある。
俺ならば救えた命では無いのか。
俺は数多の屍の上に立っている。
足元をみれば、そこには見捨てた命がある。救えたはずの命がある。
そして、そこに大切な人を含むという覚悟もできている。
本当に……俺に力があればどれだけ楽だっただろう。
ーーーーー
状況が変わった。
いや、違うな時代が動いた。
その一言で全てが片付く。
鬼舞辻無惨の望む鬼が現れた。
その名は竈門禰豆子。
日の光を浴び肉体が滅びなかった唯一無二の鬼。
そしてそれは鬼舞辻無惨が千年かけて探し続けた存在。
里から帰ってきた彼らを訪ねる。
蝶屋敷に丁度刀の里から負傷者達が帰ってきた。
竈門禰豆子、竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助。
この四人が帰ってくる。若い世代で柱には遠く及ばない剣士たち、だが何故か彼らは上弦の鬼と関わりがある。
上弦の参のみ取り逃したが、それだとしても彼らに……いや竈門兄妹に鬼が集まり過ぎている。
長らく疑問だったが、ようやく謎が解けた気になる。
蝶屋敷に入り、寝静まる彼等を見て止まる。
「来てたんだ……」
時透無一郎に声をかけられる。
比較的軽傷だからか、とこに伏せる彼ら程疲れてはなかったのだろう。
「上弦の鬼を単独で討伐……凄いじゃないか」
「そんなことないよ……でも悪くない気分なんだ」
そこには何時までも無機質だった時透無一郎ではなく、何か意志を持った瞳をしている彼がそこにいた。
直感的に悟る。
彼は記憶を取り戻したのだと。
そして自分はもう彼には必要ないのだと。
「戻ったんだな」
「…………うん。今までありがとう、僕は一人で立って歩ける」
「そうか……なら屋敷を持て」
「……………………うん」
短い間だった。
だけど、悪くはない時間だった。
でもそれは捨てなければいけないものだと知っている。
鬼殺隊に長く身を置くとよくある事だ。残される者の悲しみを。
いい例が煉獄杏寿郎だ。
彼は誰よりも気高い最期を迎えただろう。未来に意志を繋ぎ、それはあの場にいた剣士たちの胸にある。
彼らの炎の意志が消えない限り、煉獄杏寿郎という存在も消えない。
なんと美しい姿だろうか、まるで炎のようだ。
明るく周りを照らす……しかし近づき過ぎれば火傷を負う。
あの在り方を俺には真似することなんてできない。
俺は所詮太陽の代用品だ、日が照らせない間、影から見守る月。
そんな矮小な存在だ。
「僕の兄にならないでくれてありがとう。僕はそれだけで救われた」
「ああ、達者でな。時透無一郎」
「はい。────」
ーーーーー
「竈門炭治郎、起きたか?」
「……あなたは隠の」
「ああ、上弦の鬼2体討伐おめでとう。あの時とは見違えるほどだ」
あの時。
それは柱会議で竈門炭治郎の裁判をした時の事だ。あの時確かに竈門炭治郎は口だけの阿呆だと誰もが思った。
しかし宇髄天元に同行し上弦の鬼を討ち取り、今回甘露寺蜜璃や多くの剣士と協力することでまたしても討ち取ってみせた。
上弦の鬼を倒せなかった昔とは違う。
この時代の太陽は間違いなく竈門炭治郎だから。
形は違うだろう、爺さんのように背中で誰かを鼓舞したり、現れる全てを切り伏せることもこの少年には不可能だ。
だが、それでも爺さんと同じような状況になっている。
鬼は減り、鬼舞辻無惨は追い詰められ。穴熊を決め込んでいたが、竈門禰豆子によって奴は動かざるをえない。
「褒めないでください。俺はまだ禰豆子を人間に戻してません。上弦の鬼も皆の力があったからです。だから……褒めないでください」
「強い意志だ、竈門炭治郎。だが褒めさせてくれ、鬼殺隊だなんていつ死ぬか分からない職業についている。ここで君を褒めなければ次はもう無いかもしれない」
「だから褒めさせてくれ竈門炭治郎。おめでとう、君は凄い子だ。胸を張って生きろ」
奇しくも最後に出た言葉は炎の言葉だった。
残せるものなんてないと思ってた、残していいなんて思いもしなかった。
誰かに覚えていて欲しいなんて思ってもみなかった。
振り切れたと思っていた……。
でも……。
ーーーーー
「胸を張って生きろ……ですか、よくそんなこと言えますね」
いたたまれなくなった病室をでると、すぐ側には胡蝶しのぶが立っていた。目に見えてわかる、彼女の薄ら笑いが消えて顔には怒気しか孕んでいなかったからだ。
「ああ、我ながらおかしな事を言ったよ」
「違います! 私が言いたいのは──」
「
「私が治してみせます! 姉さんだってそれを望んでる!」
「姉さん……か……。胡蝶しのぶ、ならば敢えて言おう。俺はそれを望んでいない。もう賽は投げられた、ふんどしも締めた。だからこれ以上惑わさないでくれ」
「巫山戯るな! それは貴方が生きたいと思ってるからだ! 命を粗末にするな! 置いていかれる身にもなれ!! 私たちを……私を置いていかないで」
医師としてなのか……薬師としてなのか……それとも……。
その問いに対する答えは知っている。でも解いてしまったら、もう後には戻れないということも知っている。
もう俺たちは友達では無い。
立場という壁が自由を阻害する。
彼女には彼女の意思があるように、俺には俺の貫かなければならないものがある。
「すまない…………すまない」
「謝るくらいなら!」
「本当に……すまない」
認めよう、俺は彼女の事が───。
だから彼女の姉を守ったのだろう。
彼女の泣く姿を見たくなかったから。
そんな随分と前の凝りが、ようやく溶けた。
「胡蝶しのぶ、図々しいが俺の最期の願いを聞いてくれ」
「図々しいにも程がある!!」
思いっきりぶん殴られた。
ーーーーー
お館様が鬼舞辻無惨を罠に嵌めて、自害なさった。
俺は下に落ちる感覚を感じ取って、そのまま落ちていく。
目の前に現れたのは六つ目の鬼。
何処かの誰かの面影がある。
『これは──』
爺さんが若かったなら、こんな感じなのだろうか。
鬼となって人間とは異なる姿をしているが、姿形が知っている何かと酷似している。
「爺さんの血縁だよね?」
『ああ』
「他に隊士は居ない。嵌められたな、こうならないために幾つもお館様が策を考えてくれてたのに。まさか地面が抜けるとは思ってもみなかった」
六つ目はゆっくりと刀を構えた。
歪とも呼べる目の浮き出た刀。
「居るのだろう縁壱。早く出てこい。そして確かめさせろ、私はお前を越えられたのか」
やむを得ない。
残り1回は鬼舞辻無惨を確実に倒すために残しておきたかったものだが、それは彼らに託した。
元々爺さんのワガママから始まった様なものだ。
それが俺のワガママを叶わせることになって。
今回も爺さんは鬼舞辻無惨を討てなかった。
でもなんでだろう。
爺さんからは鬼舞辻無惨を倒すと聞いた時よりも、覚悟が伝わる。
もしかしたら爺さんも鬼舞辻無惨を倒すのではなく、この六つ目と戦うために存在するのかもしれない。
全ては建前で……もしかしたら爺さんも。
「ホント似てるよな」
『なにがだ?』
「なにがだ?」
2人から聞かれる。
そういう所だよ、俺もアンタらも……同じ穴の狢だよ。
「いーや。なんにも」
「──それじゃあ始めようか」
意識は消え失せた。
ーーーーー
勝負は一瞬だった。
互いに剣を持つ。
予め用意していた日輪刀を継国縁壱は抜刀の構えを見せる。
それを応戦するように六つ目の鬼、黒死牟は抜刀の構えをした。
両者ともに世界が透ける。
筋肉、骨格、全てを見通し先読みなどなせない。意表も付かせない。
ただそこにあるのはどちらが武を極めたかということのみ。
より早く、より強く、より鋭く。
敵の首に刃を入れた方が生き残る。
黒死牟は数百年前の事を今のように思い出す。
寿命で死んだ弟の姿を、最期に屈辱を与えていった鬼狩りを。
我が身を焼き切った赫刀を。
何が合図だったのかは分からない。
透ける世界で先にどちらかが動いたのか、どちらかに隙をみせたのか。
もしくは…………体に限界がきたのか。
「──月の呼吸 壱ノ型」
「『──日の呼吸 捨参ノ型』」
「──
「『──滅』」
斬られたのは黒死牟。
「がッ!!」
抜刀の構えから体を細切りにされた。
首だけでなく心臓や脳みそまでも、関係の無い場所まで斬られた。
そして黒死牟の攻撃で当たったのは刀の持っていない
継国縁壱は片手を斬られたことに少しばかり驚愕するが、兄なら──……日本一の侍ならば、それくらいやってのけるだろうと考えるのを止める。
隻腕となった継国縁壱。
傷口を赫刀で薄皮1枚焼き切り、止血する。
本来なら呼吸でやっただろうが、腕一本とはいえ肩からバッサリと斬られたので呼吸による止血は不可能。なにより体がもう持たない。
「縁壱、私はお前に届いたのか?」
「何をいいますか兄上」
「──私は元より日本で2番目に強い侍です」
「…………そうか……」
この現状を見ても、そう言えるのが継国縁壱という男だったと黒死牟は思い出す。
「これだけ積んで尚、届いたのは片腕だけか」
赫刀により焼き切られた首が崩壊を始める。
「清々しい気分だ……いっそ怒りも湧かん。無駄に思えるこの生涯もお前の片腕を討ち取ったと思えば、少しは意味があったのかもしれんな」
「いいえ兄上、人間ならこれは致命傷です。引き分けですよ」
止血は出来たが、それでも止血するまでに血を流しすぎた。
少し遅かったのだと継国縁壱は悟る。
「そうか、相打ちか」
「はい」
「なんとも……まぁ──」
黒死牟は清々しい顔をして消えていった。
塵となって消えた時に継国縁壱から俺へと人格が戻る。
「はぁ! はぁ! 頭がッ! 腕がッ!!」
人として埒外の力を使った代償。
それは死をもって清算される。
「よく! ひと太刀デ終わらせた! 爺さん! ……フゥッ! はぁ……」
『ああ、ワガママをした身だ。人として死なせてやれずに済まない』
「いイッ! ろクな死に方なんデ! ギダいしてな……い」
見計らっていたのか、頼みの綱はやってきた。
茶々。
それは珠世の飼い猫。
それは鬼。
血液を運ぶことしかできない哀れな猫。
いつもは血を渡す側だったが、まさか受け渡される側になるとは。
「茶ぢゃ! 早グッ」
注射器を茶々から取り出す。
それは珠世の血が入ったもの。
愈史郎も──
茶々も──
全てはこの血によって生き長らえた。
『それを捨てさせた責任はとる。ありがとう、そして誓おう──』
「きがはェよ! この血が俺に適合するか!」
注射器を首に刺し、血を押し入れる。
確率は随分と低いはずだ。
なぜなら俺は太陽に憑かれた存在だから。
その体は日に焼かれる。
この日俺は人間を捨てた。
タイトル間違いじゃありません。これでいいです。
鬼滅本誌で13の型がでるまで待ってましたが、どうやら出てこなさそうなので作者が1番濃厚だと思った考察を元に『滅』にしました。
要因は『柱』が9画で9人。
という所です。
そして度々出てくる『滅』という文字。
実はこれの画数が13画なんです。
それに刀に彫られた『滅』という文字。ダメ押しで『鬼(滅)の刃』
これだけ揃えば寧ろ滅以外何がある!?って感じです。
長らくお待たせしました。
次回最終話!