チキンなヘタレキャラに転生したのでラクーンシティから脱出する   作:赤備え

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ブラッドの扱い酷すぎね?オリジナルよりも間抜けな死に方じゃん。もっと良い結末あるでしょ……。


ヘタレ脱却への第一歩

 気付いたら俺はバイオハザードの世界に転生していた。

 

 前世では平凡なサラリーマンだったが、信号無視をしたトラックに轢かれた所までは覚えている。

 

 次に目を覚ました時は机に突っ伏していてただの夢かと思い顔を上げると全く見慣れないオフィスが目の前に広がっていた。

 

 『勤務中に寝るとはいい度胸だ。小心者のお前が私がいる前で堂々と眠るなど随分とメンタルが成長したな?』

 

 『……へ?』

 

 サングラスをかけ、ブロンドの髪をオールバッグにしている白人は身も凍るような鋭い視線を俺に向けていた。

 

 『急に気絶したみたいに眠りこけていたけど大丈夫なの?』

 『珍しいな。ブラッドらしくないぞ』

 

 『……ほえ?』

 

  全身鍛え上げられた筋肉が目を引くゴリラみたいな男と浮世離れした黒髪の美女が心配そうに顔を覗いている。

 

 この時我ながら鏡を見たらさぞ間抜けな顔をしていただろう。まぁ、それは無理もない事だった。

 

 だって俺の目の前にいる人物達は、俺がよく遊んでいたサバイバルホラーの金字塔『バイオハザード』シリーズに出てくるキャラクター達だったのだから。

 

 

 

 

 理由は全く分からないが、気付いたら『バイオハザード』の世界へ転生してしまった俺はとにかくこの世界、というかラクーンシティでの生活に慣れるのにかなり苦労した。

 

 だって俺日本人だし!アメリカの主食って米じゃなくてハンバーガーとかポテトみたいな炭水化物の塊みたいなやつばっかりなんだけど全然美味しくねぇ……。アメリカと日本では味覚全然違うんだな。お袋がよく作ってくれた味噌汁食いてぇ……。

 

 いや、そんな些細な事よりも一番俺の頭を悩ませたのは俺が転生したキャラクターの『ブラッド・ウィッカーズ』が作中で追跡者に殺される展開を知っている事だ。

 

 もし原作通りに進むなら俺ことブラッドは悲惨な死を迎える事になる。

 いやいや!今死んだら次の世界に転生する保証はないし多分本当に死ぬのは目に見えてる。ただ死を待つのはごめんだ。俺は運命を変える!

 

 

 

 

 うん、無理でしたね。案の定洋館事件でゾンビ犬にビビってにげちゃいました。

 

 いやリアルで見るとゾンビ犬めっちゃ怖いよ!?内臓とか骨見えちゃってるし!グロすぎるって!

 ……とまぁ、こんな具合で俺は原作のストーリー通りチキンハートを体現してS.T.A.R.S.の隊員全員を置き去りにしてしまったとさ。あ、勿論最後はクリス達にロケットランチャー落としましたよ?

 

 

 洋館事件の後、アンブレラからの報復にビビって生き残ったS.T.A.R.S.のメンバーと距離を取った俺は毎日自宅に引きこもって酒を飲んだり漫画を読んでダラダラと過ごした。

 

 いや、ラクーンシティから逃げるのが最優先なんだけど何故か自家用車が乗る度に故障するし、カプコン製のヘリや飛行機に乗る勇気はないし……結局狭い自宅の部屋にいるわけ。

 

 ただこのまま運命を受け入れるつもりはない。勇気を振り絞りアウトブレイクが起きるまで俺は筋トレなどで体力を上げ、毎日銃の射撃訓練をして銃火器を扱うスキルを高めたりして備えた。

 

 

 

 

 そして1998年9月24日、とうとうラクーンシティ内でアウトブレイクが起こり、俺はこの地獄と化した街から絶対に生きて脱出する為に奔走する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁっ……!はぁっ……!」

 

 街中に響くパトカーや救急車のサイレン、そして逃げ惑う市民の悲鳴を聞きながらジルの住むアパートへ向けて全力で走っている最中だ。

 

 「ああくそっ!肺が痛いっ!」

 

 この日の為に筋トレや運動をして体力の底上げをしたけど、それでも元々身体を動かすのが大嫌いな社畜デブだったからぶっちゃけ焼け石に水だ。まぁ、腐ってもブラッドはS.T.A.R.S.のメンバーだからゴリスやバリーまでとはいかなくても一般人よりは遥かにスタミナはある。

 

 「こんなとこで死んでたまるかっ!俺は生き残るっ!」

 

 バリバリの死亡フラグな台詞が自然と口から出てくる。ゲームの世界なんだから追跡者にキルされる予兆なのかもしれないけど叫ばずにはいられない。

 

 「こ、ここかっ……!!」

 

 息を切らしながらようやくジルの住むアパートへと到着した。煉瓦造りのレトロな建物は普段ならノスタルジーな気分に浸れるお洒落な建物なのかもしれないが、今は車や建物の燃え盛る炎に照らされて不気味な存在感を放っている。

 

 「まだジルは……外に出てきていないか」

 

 リメイク版の3ではいきなり追跡者が自宅の壁を突き破ってジルが逃走していたからもうすぐ来るはずなんだけど……。

 

 「!!」

 

 裏路地側にあるアパートの勝手口から爆風に飛ばされて転がってきたのは見慣れたバイオハザードシリーズの中心人物であるジル・バレンタインだ。

 

 「ブラッド!?何故ここに!?一体街はどうなってるの!?」

 

 「説明は後だ!ついてこい!」

 

 ジルの手を掴み強引に走り出した。俺達の目前でカフェにパトカーが突っ込み大きな黒煙を上げている。

 

 「ブラッド……何で私の所に来たの」  

 「助けに来るのが当たり前だろ!!お前が主人公なのに死んだら続きが始まらないからな!!」

 「し、主人公?」

 

 困惑するジルを無視してリメイク版3での道筋を必死に思い出しながら走り続けた。

 

 「な……!?これは現実なの!?」

 

 大通りにある道路を塞いでいるフェンスに無数の生ける屍がしがみついている。今にも倒されそうだ。いや原作では倒されるんだけど。

 

 「ブラッド!!危ない!!」 

 

 フェンスを薙ぎ倒して亡者達が新鮮な肉を求めて俺達に向かっている。

 

 「ジル!!これを使え!!」

 

 ホルダーから取り出して渡したのはS.T.A.R.S.の為にカスタムされたベレッタ……『サムライエッジ』を渡した。

 

 「あそこに逃げるぞ!!」

 

 すぐ近くにあったバーのような建物まで走り立て看板を持ち上げゾンビ達に投げつけた後ジルが中へ入ったのを確認し急いで扉を閉めた。

 

 「先に行け!後から俺も追いかける!!」

 

 「でも……!」

 

 「いいから行けって!!」

 

 扉を抑えているジルを引き剥がした。普段のブラッドらしくない行動に驚きの表情で俺の顔を見ている。

 

 「……ごめんなさい、ブラッド」

 悔しそうに唇を噛み締めて裏口から出て行くのを見届けてほっと安心の溜息を吐いた。

 よし、裏口へ逃げたな。さぁて……後はどうするかだが……。

 

 「よっと!!」

 

 正規のルートならばここでゾンビに噛まれて警察署でカルロスに殺されるが、そんなダサい死に方は御免だ。肩に下げてあるバッグを開けて用意していた鉄パイプを扉の取手に差し込んだ。

 

 「よしっ!!これでっ……!!」

 

 ドアを打ち破ろうと何度も叩く音が聞こえるが鉄パイプのおかげで何とか侵入を防いでいる。

 

 「よっしゃあっ!!!」

 

 思わずガッツポーズをしてしまった。いや、今は喜びに浸らせても罰は当たらないだろう。何せ原作の筋書きを俺が塗り替えたんだからな!

 

 「いけるぞっ!絶対に生き延びてやるっ!」

 

 今までブラッドはヘタレで雑魚キャラクターという不名誉なイメージがプレイヤー達の中に根付いているが、そんな印象を今夜この地獄と化した街から脱出して汚名返上してやる!

 

 「うおおおおっ!!」

 

 夜明けまで後数時間、タイムリミットは徐々に近付いている。


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