勇者じゃないのにハイラルを救えって、無茶振りじゃないですか? 作:一〇〇式ちゃん
丘を下る途中で、木こりの斧が切り株に刺さっていたので拝借した。
攻撃力はそこそこだが、耐久力に優れた武器だ。
勿論、ポーチに入るはずもない。そのまま両手に持っておくことにした。
先程から腰に挿している木の枝は斧が壊れた場合の予備として、引き続き確保しておくことにした。
「両手武器の溜め攻撃モーション……やってみるか」
しっかりと斧の柄を握りしめ、片足を軸にして斧をぐるぐると振り回してみる。
やはり身体能力が良いのか、一発でリンク同様の溜め攻撃のモーションを行うことができた。
しかし主観視点でやると余りにも視界がメチャクチャになる。
これは多数の敵や強敵と戦うときにやるのは悪手だ。
せいぜいイワロックや雑魚単体に対してハメ殺す時の攻撃手段だろう。
「というか、基本盾と片手武器安定だしな……」
早めにボコ盾でも良いから入手しておきたい。
槍もリーチが魅力的だが、ステップ回避だけでは避けられない攻撃もある。ベストは盾と片手剣の組み合わせだ。
そう考えながら丘を下っていると、時の神殿跡の入り口に差し掛かった。
奥には機能を停止した壊れたガーディアンが何体も転がっている。
「あっ」
神殿の入り口に青ボコブリンがいた。
一般的に想像されるゴブリンに豚鼻を付け、よりがっしりとした体つきにして、青色にしたようなやつだ。
近くに棍棒が転がっている。青ボコブリンの武器だろう。
戦うにしろ、逃げるにしろ気付かれたくはない。壁に張り付き息を潜め、ボコブリンに見つからないように隠れた。
「フゴッ、フゴッ……」
豚のような鳴き声が壁の向こう側から聞こえてくる。
こちらには気付いてなさそうだ、もし気付いていたらボコブリンはこちらに向かってくるだろう。
設定どおりの知能であれば、警戒するという知恵が浮かぶほどの賢さは無いはずだ。
……ここは、倒してみよう。
斧の耐久値ならば確実に倒せるだろうし、ここで引き下がって古代素材を見逃すのは勿体無い。
まとまった数の古代矢を作るにはここと、ハテノ砦の大量の壊れたガーディアンから古代素材を拾っておく必要があるだろう。
ゲームでは手に持ったりドロップする都合上デカいネジや歯車だったが、実際はもっと小さい部品のはずだ。それならポーチに入れておける。
さて、倒すにも正面から向かっていくのは良くない。
それはマスターモードを始めてすぐの時に死因になりがちな行動だ。
手頃な石を拾うと、壁のすぐ横、丁度ボコブリンと出会い頭になる位置に投げ込んだ。
マスターモードでは基本の戦術になる、音でエネミーを釣る戦術だ。
これなら「ふいうち」を狙うこともできるし、先手を打って行動できる。
ゲームならリモコンバクダンを投げたり口笛で釣るが、現実ならばもっと手段が増える。
全ては自身の知恵と機転次第だ。
「プギッ?」
狙い通り、投げ込んだ石の音に反応してボコブリンがこちらに向かってくる足音が聞こえた。
ぺた、ぺた、ぺた、ぺた。
そして、壁の端からボコブリンの頭が出てきた瞬間。
「オラァ!」
ボコブリンに斧を袈裟斬りのように叩きつけた。
血は出ないし、斧が体の途中に刺さって抜けなくなったりもしない。ゲーム同様、短いヒットストップを挟んで斧がボコブリンの体を通り抜けた。
「プギャッ」
「もう一発!」
叩きつけた刃の勢いをそのままに、くるりと一回転して斧をふたたび叩きつける。ボコブリンが転び、神殿の石畳にしたたかに頭をぶつける。
ボコブリンが転んでいる内にボコブリンに背を向け、斧を構える。
どうせなら試してみたいし、ついでにやってしまうのがいいだろう。先程の感覚を思い出しつつ、溜め攻撃を始めぐるぐる回りながらボコブリンへと突進する。
「うおおおおおおおおおお!!」
ぶん回した斧は、立ち上がったばかりのボコブリンに当たった。引っ掛かるようなヒットストップが、2回。
どうやら、溜め攻撃が多段ヒットする仕様は存在するようだ。
そのままボコブリンが行動する余裕を与えずに、斧で斬りつけ続ける。
何度目かの攻撃で、ボコブリンが棍棒を手から落とした。
雑魚が装備を落とすのは瀕死の合図だ。
強く息を吸い、溜め攻撃の回転する勢いを維持しままま、斧を高く振り上げる。
そして、斧の遠心力と溜め攻撃の勢いが無くなった瞬間……!
思いっきり斧を振り下ろして叩きつける!
「プギョオォォ!」
ボコブリンの断末魔が響き、その体躯から紫と黒を混ぜたような瘴気が吹き出てくる。
ブレスオブザワイルドのモンスターは厄災ガノンの怨念により生まれている。
純粋な生き物と違い、ただ生きて人を襲うだけのモンスターだ。
瘴気が晴れると同時にボコブリンの死体は消え、地面にボコブリンの牙や角が転がった。
「こういう所もゲームと一緒なのか……」
ボコブリンの素材は必要ない。
売れないこともないが、ポーチの中身を圧迫する。
ポーチの中身は古代素材や、鉱石などの価値あるものを詰めておきたい。
薬の素材にするにしても、こんな序盤から薬は必要ない。
「今後は武器持ちじゃないコブリンはスルーでいいな」
地面に転がる棍棒を持っていくか悩んだが、木の棒と違い腰に刺さるほどコンパクトでもないし、斧と比べると斧の方が何かと便利だ。
パラセールを作るのには木の枝を切り落としたり、縄や布を裁断する必要がある。
斧でやるのは難しいかもしれないが、不可能でないだろう。
ここは鈍器よりも、刃物の方がベストだ。
「さて、古代素材集めるか」
近くのガーディアンに歩み寄り、素材が取れないか観察してみる。
ゲーム同様に100年の時間が経ったことで朽ち果ててはいるが、ゲームと違い装甲には傷や凹みができ、場所によっては装甲が剥がれている。
内部の機構が見えている所からは、ネジやバネ、歯車といった古代素材を確認することができた。
ネジはプラスやマイナスといったドライバーが必要なものではなく、ネジの頭に取っ手が付いていて手で捻って回せるタイプのものだ。
力を入れて回してみると、100年の間風雨に晒されていたとは思えないほど、簡単に外すことができた。
「……他にも取れるな」
ゲームでは1つのガーディアンから1つの素材しか取れなかったが、現実では複数取ることができるようだ。
取れる限りのネジ、バネ、シャフトを素手で、場合によっては斧を使って機構を壊して、取れるだけ取った。
歯車もできれば取りたいが、古代矢の製造に歯車は必要ない。
今後、ガーディアンを狩るようになれば集まるはずなので、ここは我慢して諦めることにした。
ポーチの中に、取れた古代素材を詰め込んでみると、ポーチの中身の1/3ほどが埋まってしまった。
「……ポーチ以外の収納が必要だな」
どう考えても腰のポーチだけではとても足りない。
ゲームで色んなモブが使っていた、バッグのようなものが必要だ。
とてもじゃないが手作りは無理だ。カカリコ村やハテノ村で購入できるだろうか?
「ずた袋みたいなのなら、手作りできるか……?」
大きめの丈夫な布と、縄があれば剣などで布に穴を開けて、そこに縄を通せば袋ぐらいなら作れるだろう。
「まあ、まずはガーディアンの素材を集めるか」
時の神殿の周囲のガーディアンから素材を集めていく。
個体によっては傷の入り方が悪く、素材を取れない個体もあったが、だいたいの個体からは素材を取得することができた。
「ポーチがいっぱいになったか……」
現状の素材で、だいたい古代矢が3,4本は作れるはずだ。
ハイラル城付近のガーディアンの数と比べると心許ないが、ハテノ砦でも素材を集めれば、十分な数の素材が集まるだろう。
「よし、始まりの大地の端に行くか」
時の神殿跡から始まりの大地の北方面へと向かっていく。
途中、ボコブリンの群れがいたが、そちらについては迂回してやり過ごすことにした。まともな装備が揃うまではとてもじゃないが挑むことはできない。勇気と蛮勇は別だ。
「よし、これで縄と布が……」
ようやく始まりの大地の端へと辿り着く。
目的の旗も、確かにあった。……始まりの大地の下に。
「あー……やっちまった。こういう細かい所まで覚えてないのか……」
いきなり、振り出しまで戻ってしまった。
……こんなんで、本当にハイラルを救うことができるのか?
前途多難であることに俺は頭を抱えることになってしまうのだった。