転生したら液体生物だった件 作:とある神話の液体生物
俺の死因は一言で言うと自殺だった。
借金1500万円、ブラック企業勤めで頼れる身内も誰も居ない29歳童貞独身だ。
ここまで言えば分かるだろう?
生活保護を申し込んで却下された瞬間、人生が詰んだと思って堂々とその場で首を切って死んだ。
ああ、よくある話だ。
ま、市役所で自殺なんてする奴はなかなかいないとは思うが。
「それにしても死後の世界なんてものが本当にあるとはなぁ……」
俺の目の前に広がっているのは灼熱の大地と雨あられのように降り注ぐ隕石。
俺のようにプルプルと蠢く小さいスライムのような生き物。
そのスライムを生み出しては吸収し、生み出しては吸収しを繰り返す超巨大なスライムってやべぇ、喰われる!?
幸いな事にスライムの動きはそこまで速いわけではなく、俺でもあっさりと逃げ出す事ができた。
できた……。
できた、んだがあれなんだよ!?
というかここって本当に死後の世界なのか?
最初は地獄だと思っていたのだがどうやら違いそうで、なんて言うか滅んだ惑星みたいな感じがする。
「おいおい、まさかこれ転生って奴か?」
今の俺は黒色のドロドロとしたスライムのような液体状の生き物で、まさに転生したらスライムだった件って所だろうか?
仮にここが異世界だとしたら既に滅んでるし、ファンタジー世界を冒険するような暇すらないだろう。
「幸い熱に対する耐性だけは完璧なんだよなぁ」
こんなご時世に生まれたスライムだけあって俺の耐熱性能は完璧で、マグマに触れてもなんか熱いなぁで済む。
だが、食事というのは必要なようでそろそろお腹が空いてきた。
……お腹無いけども。
というか食べ物なんて無いぞ?
いや、あると言えばあるのだがそれはあの巨大なスライムが生み出しては吸収しを繰り返している俺の同族のような奴らである。
正直気は進まないがせっかく手に入れた誰からも縛られる事の無い第二の人生だ、どうせ直ぐに滅ぶような世界だろうし最後までは生きてやっても損はないだろう。
……人じゃないけども。
「うん、ゼリー食ってるみたいで意外と美味いな。
って危ねぇ!?」
スライムを食べる為にはあの巨大なスライムの元に向かう必要があるのだが、そうすれば確実に俺も吸収しようとされる。
ヒットアンドアウェイを繰り返しつつ、もぐもぐと食べていくしか無いわけだ。
「はぁ……それにしても一体いつまでこんな事を繰り返せば良いのだろうか?」
しばらく食事を続けていた俺だがやっぱりいつまでもこうしてスライムを食べ続けているのはどうかと思う。
時間の感覚なんてほぼ無いんだが、体感的にはもう一万年位は同じ事を繰り返しているような気がする。
……寂しい。
辺り一面の滅んだ世界。
人類の文明の痕跡なんてものは巨大なスライムが大事そうに守っている石版のようなものくらいで、他には何ひとつとしてそういったものは存在しない。
謎の超技術でマグマに落としても、隕石が降ってきてもかすり傷ひとつつかないという不思議な石版だ。
大量にあるので100枚くらい奪ってから、それを組み合わせて家を作ったりしているのだがその防御性能は驚くばかりだ。
「それにしても何が書いてあるんだろうな? これ」
頑張って読み解こうとはしているのだが、さっぱりわからん。
そもそも俺は研究者とかそういうのじゃないので仕方がないと言えば仕方がないのだが、何とかして読みたいものだ。
きっと未来の人へ向けたメッセージとかが入っているんだと思う。
「異世界らしく翻訳魔術とかあれば良いんだが……」
この世界の魔術みたいな不思議な現象はこの石版とスライムくらいしかないのでそんな高等な魔術があるのかどうかは不明である。
……時間はたっぷりあるし適当に試すのもありだろう。
どうせこのまま過ごしていてもスライムを食べるくらいしかやる事が無いので頑張って魔術を極めるのもありだと思う。
「魔術を極めたらこの星の再生とかもできるかもしれないしな」
適当にスライムをつまみ食いしながら、俺はひたすらに魔術について検証し始めた。
良く厨二病患者がやるようにオーラを貯めようとしてみたり、ビームを放とうとしてみたりと色々と試した結果かなり時間がかかったものの、大抵の魔術を習得する事に成功した。
翻訳の魔術ももちろん編み出したんだが、その結果石版に刻まれているのは魔術に関する知識だと言うことが明らかになった。
その中でも特に気に入っているのは結界を展開する魔術と魂を奪う系の魔術だろうか?
スライムから魂を奪っては食べて奪っては食べてと繰り返すだけで魔力がぐんぐんと伸びていくので片っ端から食べてたんだが巨大なスライムの魂はどう足掻いても吸うことができなかった。
うん、というかモロにカウンターをくらって多分軽く数百年くらいは寝込んだ。
「ん? 雨か……って雨だと!?」
雨、念願の雨である。
俺があのスライムから奪った石版の中には雨を降らすような魔術は一切載っていなかったのでもう長い事雨は見ていない。
水無しでも生きていけるし、最近は何も食べなくても1000年くらいは何とかなる。
もう完全に人間を辞めてるな俺。
あと最近気が付いたんだが俺が人間だった頃の記憶は何万年経とうが衰える事は無いらしく、全てを昨日の事のように思い出す事ができるようだ。
1万年前にあった事を思い出せないのにもう遠い昔、何億年か前の地球にいた頃に食べた最後の朝ご飯が分かるのとか笑うしかない。
ちなみに最後の晩飯はカップラーメンだ。
「ってやばいやばい!? なんだコレ!?」
雨は雨なんだがその水量が尋常じゃない。
まるでバケツの水を頭の上からかけられ続けているような雨だ。
……頭無いけど。
日本でも何回か豪雨は経験したがこの雨はそんなレベルでは無い。
規模も降水量も全然違う。
「って俺の家がァァァ!?」
そうこうしているうちに雨で石版が流されそうになった為、まとめて体内に作り出した亜空間に放り込んだ。
空間系魔術をコンプしといて良かったぜ。
後は非常食(スライム)を大量に確保した後で月までジャンプだ。
こんな大雨の中やってられるか!
俺は別な星に逃げるぜ。
「ん? 雨?」
億年規模で雨が降らなかったから終わった世界だと勝手に思ってたんだがまさかこれって始まったばかりなのか?
……可能性は十分に有り得る。
というかここってもしかしなくても地球か!?
そう思って超広域探査術式をばら撒いて見るとだいたい40億年前くらいの地球で間違いはなさそうだ。
……ま、じ、で?
ここが地球なら色々とやれる事があるし、将来的に人類が生まれてくるのであれば可愛い娘とかと色々とできるかもしれない。
今回は底辺サラリーマンだった頃の俺とは違い、この星で2番目に強い太陽の中に入っても超熱いってだけで済むようなチート級の液体生物だ。
ちょっと気合いを入れて結界を張っていればたとえ燦々と輝く恒星の中でも無傷で終わるくらいなので人類全員を相手にしても余裕で勝てる。
これは、これはやるしかないんじゃないか?
「俺は……いや俺がこの地球に夢と希望をもたらしてやるぞ!」
そうと決まればまずは色々と建設に入らなければならない。
月の裏側にある破壊不能な古代遺跡、ロマンがあると思わんかね?
いずれ人類は間違いなく月に到達するはずで、その時に地球の裏側にそんな遺跡が見つかったらどう思うだろうか?
心が削られてしまったブラック企業の社畜だって少しはワクワクするだろう。
他にも空にぷかぷかと浮かぶラピュタみたいな城があったらどうだろうか?
間違いなくワクワクできる。
そして、俺はそれらを間違いなく建設できるのだ。
ちょこちょことスライムから石版を奪い続け魔術を極め、魂を鍛えて鍛えて鍛えまくった俺ならば数億十年くらいは持つような強固なバリアを展開する事もできる。
それに神話の再現みたいな真似もできるし、神の如く振舞ってやる事もできるし、邪神として振る舞うのも十分にありだ。
「くくく、クハハ、クーッハハハハハハ」
やれる。
間違いなくできる。
そのためにもまずは月の遺跡を建設してやるとするかな?